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麻疹予防のための父血注射に依り惹起されたマラリア三日熱感染例

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一 154 一 (東京女医大誌 第22巻 第4号頁154−156 日当禾「127年10月) 緒

〔臨 床 実 瞼〕

(特 別 掲 載)

庶疹予防の7こめの父血注射に依り

惹起されアこマラゾア三日熱感染例

日本大学医学部比企内科教室 (主任比企能達教授) 言 阿伎魚病號 (院長 榊原聰彦助教授)

サカ静 岡 オカ

サワ

バラ

ムラ 剛 ツヨ ヨ

tデ (受付 昭和27年8月25日) 小児の急性伝染病中野も多発し,其の伝染力も強く, 而も時として生命に危険を及ぼす如ぎ合併症を有する もの麻疹の右に出るものはなかろう。之がため本症の予 防セこは古来幾多の努力が払われ,その中でも恢復期血清 を用いたのは1896年Weisbeckerを以って稽矢とし, その効果に就てはDegmitzの詳細なる報告以来一般に 認められるところであるが,実際的応用に当っては,恢 復期血清は得られ難く,此の欠点を克服する為に,De・ gm{tzは更に研究を続け,遂には単に麻疹を経過した威 入の血液を注射することに依っても,同様に予防上相当 効果のあることが分つた。此の方法ほ其の簡便さの故に 最:近は広く世に用いられるに至ったが,最近某医により 麻疹予防の目的を以って,父血を注射された小児にマラ リア三日熱感染を惹き起した一例に遭遇したので,次に 其の概略につき報告したい。 症 例 患者 3年9カ月の男児(初診昭和26年5月18日) 主訴 発熱 現症歴 同年4月28日麻疹予防の目的を以って,某医 に依り父血20ccを右大腿筋肉内に注射された。其の後 異常症状も無く元気に過していたが,同年5月12日, 鄭ち注射後第14日目の夕刻原因と思われる事項を認め ず突然38。Cに発熱しk。但し此の際両親は,悪感三傑 等の存在には気がつかなかったと云って居る。此の日は

ブミ シ 男 オ 3・v4時間の熱発作の後3軽度の発汗を伴って解熱,翌 日は元気になった。ところがその翌5月149,再び発熱 したので,某医師を訪れて,対症治療を受け,矢張り数 時間で,同様な経過を以って解熱したが,発熱以外の特 記すべき所見は見られなかったと云う。次で16日にも同 上発作あり,18日には初めて悪感戦標を伴って40.3。C に発熱したので我が外来を訪れた。 既往症 9カ月出産の双生児の一で,脚下時体重1800 gで,初め母乳後混合栄養に変えられた。満1力年の 時肺炎,2年時にヂブテリーに罹患したが,何れも普通 の経過を三って治癒した。その他に特記すべき疾患を経 過していないが,常に病弱な方である。 家族歴 母は肺結核で静養中である。給血者たる父は 昭和19年応召,フィリッピソに至り,20年7月から21 年3月帰還する迄マラリア三冒熱に罹患,屡々熱発作を ‘繰返したが,復員後内地に於いては1回も発病せず全く 健康で日常労作に従事している。 現症 体格小,栄養三々衰う。顔貌発赤浮腫感 ありて少しく露台,舌は湿潤被薄白苔,可視粘膜 殆ど正當,頸部淋巴腺腫脹せす,心,肺共に異常 なく,腹部は平坦柔軟,肝,脾触れず,膝蓋腱其

他の反射も正堂,糞,尿,血液諸検査成績何れ

も正常であっナこ。病歴よリマラリアを疑ひ,血液 濃塗標本を作り検査したところ,簡単に相当数の マラリア三日熟原虫を認め得ナこので,病名をマラ リア三日熟と決定,直ちに,アテブリン及びキニ

一22一

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一155一 ・”一 lをi没与し7こところ,i其の後はi発熟無く順調1こ 経過し,数日後にぱ全く元気を恢復し,其の後の じ血液検査に於いて原虫を証明することは出来なく なつ7こQ二二の際三者の父についても・種々調査 したが,脾腫,貧血もなく,勿論末梢血液中にはマ

ラリア原虫を認める事が出来なかつ二叉労働

飲酒,アドレナリン注射等の誘発法を試みすこが, 何れもマラリア原虫の証明には成功しなかった。 但し末梢血液塗抹標本に於いて,白.血球百分率中

単球は10%を示し,マラリア三日熟の夫に一致

する成績を得たが,その他には潜伏マラリアを思 はせる所見は何等得られなかつずこ。

考 按

ユ)診断に点て 以上我々ぱ其の家族歴,病歴,現症,諸種:検査 成績の結果と,患者在住地附近は未だかつてマラ リア発生を見たことがなく,しかも,発病時期ぱ 当該地に於いては殆んど蚊の飛翔を見ない五月目 あっt:点等からして,本例のマラリア感染は其の 原因を父よりの輸血にありと断定した。 2)輸血感染に隔て 輸血感染の内でマラリアは梅毒と共に最も多く 経験されて居る処で,文献を調査して見るに,

Laveranが1880年マラリア原虫を発見した4年

後の1884年Gerhordtは,初めて患者の血液を

健康人の静脈内に注射することに依り,蚊の媒介 なしに,マラリアが人から人へ直接伝染が可能な ことを示し7こ。、而して所謂輸血感染の如き偶発的

旧染の第一例としては,1911年のWoolseyi)の

悪性貧血恵者治療の為行つた輸血に依る感染例を あげねばならない○ 此の場合は,血管から血管への所謂直接輸血時 ・代のものであるが,其の後輸血法の改良が行はれ, 間接輸血時代に入るや,操作の簡便化や,輸血の 効果に対する世人の認識の向上等ぱ甚だしく之の 普及を来さしめ,従って細心の注意にも拘らす輸 血感染の例も亦漸く多きを加へ来つナこのぱ当然の 事である○しかし元来我国に於いてぱ,マラリア は,愛知,滋賀,福井等諸県に存する土着性の少 数を除いてぽ二二地と称すべき所ぱ無く,従って 過去に於いてマラリア問題が医家の注目を惹いた 事も少い。輸血に依るマラリア感染例の如きも, :昭和十年に至り酒井氏2)に依り初て台湾医院の例 が報告されたに過ぎない。然るに昭和十二年事変 勃発するや多数の同胞は海を渡って大陸に派遺せ られ,そのあるものはマラリアの感i染をうくるの 止むなき1こ至った結果,それらの帰還に依って漸 ≦内地に於いても此の問題は吾人の重要開心:事と なり,従って輸血に依るマラリア感染例も各地に 散見し得るに至っアこ。しかして,その後第二次世 界大戦開始に依る戦斗地域の拡大ぱ,南方痘属の 地に於いて多数の同病患者を生ぜしめ1殊に大戦 後半の戦況の悪化ぱ補給の困難を来し,その結果 として起つた栄養の低下やマラリア治療剤の欠乏 は難治なマラリア常習患者を多発せしめアこ。しか るに幸にも終戦後患の大多数は内地帰還後比較的 短期聞の内に発作終了し,現今ぱ殆んど其の発作 を見なくなったのであるが,其の間の事情につい ては沢田教授3)ぱ昭和廿三年内科学会に於いて, 宿題報告を担当され,終戦後584万人が復員し,其 の内100万入がマラリア既往症を有し,更にその 40万人が内地で再発を来して居ると述べて居る。 しかしてマラリアの完全治癒は此面に困難であり 発作消失し,一見全治した如く見ゆるもの5内幾 分かぱ原虫保有者として存在し,長期間後再発を 起すものもあり,而もか5る宿主の血液を注射し ても樹よく他入に活動性の感染を惹起せしめ得る ものであるQ本真の安親の如き叉此の一例であら う。マラリアの治癒については種々の研究も行ば れ,而もその判定は甚だ困難であるがMithlens4)

は通常5∼6年原虫を証明する発作を見ねば治癒

したと考えて良いと云っては居るが,10∼30年後 の再発例も亦存し,長きはNeviro Jankerson5)の

例の如く37年間の潜伏期の後他人に感染せしめ

た例もある。叉戦地感染についてもBroughton

Alkock等は英国,兵士5万名以上につき検査の結 果5年以上原虫が血中に残留する事はないと確信 すると云ひ,英仏の熟帯医達も同様な事を言明し て居るが,今回の我々の例の如きは復員後5年以 上全く無症状に経過して而も自已の小児にマラリ ア感染をせしめてしまったものである。而して輸 血によるマラリア感染ぱ,多くは静脈内輸血に依 るものであり,血清や,血液の皮下筋肉内注射’に依 る発生例はそれ程多くない。之は静脈内輸血.が最: も多く利用され,輸血量’も他に比して多く,従つ』 viIその中に含有される原虫数も多いだろうし,マ

一23一

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一156一 ラリア原虫が多く赤血球に附着すると考へられて 居る事,とを思ひ合せるならば,.血清や血漿の注 射に比し事故の多い事も当然理解出来ることであ らう。又最近血液銀行より補給せられた血液に依 る感染例も報告されて居る6)○ 其の為しozner,

Newhouser7)は血漿輸血に於けるマラリア感染

力に就き研究を発表し良好な成績を示しtこ。但し マラリア原虫の感染力は相等強大であるらしく, NickumS)は麻薬中毒患者が消毒不完全な注射・器 を共用して其の結果マラリアに罹患した例を報告 して居る。しかして我kの例の如く特に麻疹予防, 治療等の目的に依る血液注射の為の感染例ぱ比較 的少い様であるが,Jankerson5)の報告の中に, 米国マyチu. Ptセッツ州衛生局が成人血液を麻疹 予防の為注射することに就いての注意をしている ことがあげられて居る。我が国に於ける斯かる症 例の報告も極めて稀で,我々が渉猟しes 7:文献の 範囲では,僅かに井上氏9)都留氏10)等の例及び下 谷病院土屋Ekll)の報告例を見るに過ぎない。此の 原因は一つには我が国に於いて既述せる如く未だ 今次大戦前にぱマラリア国国が少なかつずここと5 叉特種な場合を除き一般にぱ,国外に於いてマラ リア感染を受ける危険の少かった母指血液が多く .この目的に供ぜられて居ることが関係すると考え られる。我々の症例では原虫検索の結果,三日

熟感染と決定したが,此の場合潜伏期ぱ14日聞

であって,正しく一般に云はれる三日熟のそれと 一致するが,輸血悪染に於ける潜伏期は其の注射 時期,方法,輸血量,受血者の状況等に依り必ず しも成書のそれと一致するものでなくW oolseyi) の例では輸血当夜に発病して居るし,又他の例で

は50日の経過を有して居る。又土屋氏の例ぱ約

1ケ月の潜伏期の篠発病して居る。此の点に就き Wright12)はマラリア三日熟に於いては潜伏期ぱ 1∼56.日であると報じ,Craigは三日熟は皮下注

射で6∼20臼,静脈注射で4∼S日と述べた0

3)輸血感染の治療1こ就て 輸血感染マラリアの治療に比較的簡単であると されて居るが,我々の例でもアテブリン,キニー ネ投与で発作は消失してしまった0 4)給」血者のマラリア発見に就て 之は必ずしも容易ではなく,その為種々な誘発 :方法も:施行される。又脾腫,貧血.,単球増多症等 は慢性症の特徴として挙げられて居るが,之も必 ずしも常に存するものではない。此の様な例とし てtz* Schnitzler13)の報告がある。即ち最初ある胆. 嚢手術憲者1こ輸血して発熟せしめ,其の際の原虫 検査成績は陰性に終ったものが,再び他の産院に 於ける輸血に際して熱発作を惹起せしめ,初めて 混一血マラリアたることを確認されたものである。 叉潜伏マラリアの再発の原因として,急激な血圧 の変化や,循環器の変化,例えば冷却,過熟,湿 潤,出血,運動,飲酒,卒直等が挙げられて居り 之等のあるものは所謂誘発法として使用されて居 る00ehlecker14)の例の如きぱ,母1こ輸血を行っ た後マラリア感染を惹起せしめたが,当人は25年 も無症状にあったにも拘らす,亡血が刺戟となつ †このか初めて脾臓部に疹痛を感じマラリア発作を 起したものであるが,この報告中にぱ,同様M・・ Uhlensの下肢切断例, Siegfriedの榴散弾除去患 ノ者に於いてか∼る例を見たと記戴して居る。W− rightは流1血中の原虫を増加せしめる方法としr Adrenalin注射が行はれるが,之は脾を収縮せし めるものでありOehleckerの例に見るが如く, 輸血の充奮や,疹痛の為脾が収縮する時ぱ,此の 瞬間に於ける患者の血液が,同様の理由に依り他 人への感染力を増加するものであら,うとし江。

結 論

我々}ま麻疹予防の為3才の男児に父血.20ccを 1回筋肉内に注射しマラリア三日熟に感染せしめ た一例につき報告しナこ。此の例に於ける:父親は嘗 ってマラリアに罹患し7こことばあったが,最:近5 ケ年以上熟発作は全く無く健康状態にあるかに見 え7こ6従って,此の経験から,マラリア既往症を 有する入,更に範囲を拡げて一般に過去に於いて マラリア浸意地に在住し江経験のある人からの血 液補給は,諸学者の論に拘らすナことへ5年以上を 安全に経過すると錐も,余程慎重にあるべきであ り,能うべくんば,之をさけるにしくわないと考 えられる。 欄筆にあたり,種々御指導を賜りし恩師日本大学比企 教授,並に有賀教授に潔謝す。 参 考 文 獣 (1)Woolsey:Ann. of Swry 53,131,1911 (2)酒井潔:児科診療・ 1,620,昭10 (3)沢田麓一郎:臨床内科小児科 3,217,昭23 (4) MUhlens;E・ Nauck;H・Vogel:H・Ruge= Kht u Hygiene der Warmen I’査nder (5)Jankerson:J. A. M. A 97,177,1931

(6)E.F. Gordon:J. A. M. A 116,1200,1941

(7) E.L. Lozner;L, R, Newhouser

141, 1943 A.jM. Sc. 206, (8)0.Nickeum;J. A・M・A 100,1401,1933 (9) 井上良子:管内小 3, 77,昭23’ 38, 399, 日召25 (10)都留等:診断と治療 (11) 土屋等:第43回日本小児科学会東京地方会 327, 1937 (12)H。Wright:J. ped. 12, (T3) H.Schnitzler:Zeit f Chir.56,1438,ユ929 37, 1025, 1920(14)Oehlecker:D. M. W. 一 24 p一’

参照

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