博 士 ( 工 学 ) 亀 川 尚 登
学 1tL 論文題名
Efficient Synthesis of a , タ ‑Unsaturated Carboxylic Acids and [3 ‑Keto Acids by Electrochemical Carboxylation:Application to a Synthesis of Anti‑inflammatory Agents
(電解カルボキシル化によるa ,p ―不飽和カルボン酸および グ ー ケ ト 酸 の 効 率 的 合 成 :抗 炎 症 剤 合 成 へ の 応 用 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
二酸化炭素の固定化は、地球温暖化問題と関連して極めて重要な課題である。これまで 様々なニ酸化炭素の固定化の研究がなされてきたが、その多くは二酸化炭素を直接的に還元 して別の物質へ変換することを目的としたものである。一方、二酸化炭素を有機基質へ固定 化して付加価値の高い有用な物質へ変換することも重要な研究である。本論文は、後者の固 定化研究を目的として、電解還元反応を利用して常圧の二酸化炭素を効率的に固定化し有用 な 有 機 カ ル ボ ン 酸 を 合 成 す る こ と に 焦 点 を し ぱ っ て 研 究 を行 っ たも の で ある 。
二酸化炭素の存在下有機基質を電解還元し有機カルボン酸を合成する電解カルボキシル化 反応は以前から知られていたが、収率、選択性において多くの問題があった。しかレ最近に なり、陽極にマグネシウムやアルミニウムなどの反応性金属を用いる方法が開発され、二酸 化炭素の固定化が高収率、高選択的に進行することが明らかとなった。反応性電極を用いる 二酸化炭素の固定化法は、電解装置が極めて簡単でスケールアップが容易であり、常圧の二 酸化炭素でも高収率に進行し、またクリーンな電子を試薬として用いているため省工ネルギ ー あ る い は 環 境 対 策 に 有 効 で あ る な ど の 特 長 と 有 用 性 を 有 し て い る 。
本論文は、反応性電極を用いる電解カルボキシル化反応を利用し、Q,p‐不飽和カルボン酸 やB・ケト酸の高効率的合成法の開発、ならびに非ステロイド系抗炎症剤の前駆体の新規で効 率的な合成法の開発についての研究成果についてまとめたものであり、
5
章から構成されて いる。第1章は序論であり、本研究の背景および目的について述べた。
第2章では、反応性電極としてマグネシウム金属を陽極に用いたフェニル置換臭化ビニル の電解カルボキシル化によって
a
,p‑不飽和カルボン酸が高収率で合成されたことについて述 べた。常圧の二酸化炭素存在下陰極に白金、陽極にマグネシウム、溶媒にDMF、支持塩にBu4NBF4
を用いてさまざまなフェニル置換臭化ビニルを電解還元したところ、二酸化炭素の固 定化が 容易に進 行し、相 当する各種フェニル置換Q,B‐不飽和カルボン酸が63‑92%の高収 率 で得ら れること を見出し た。ま た、本電 解カル ボキシル化反応の立体化学について興味あ る 結果を 見出すこ とができ た。すなわち、D‐ブロモスチレンの電解カルボキシル化反応にお い て、E‑及びZ.体のいずれの基質を用いても熱力学的に不安定なZ‐体のケイ皮酸が選択的に 得られることを見出し、反応過程についても考察を行った。
第3章 では、ニ ッケル錯 体を触 媒とする 脂肪族 置換臭化 ビニル の電解カ ルボキシ ル化反応 に よってQ,p‐不飽和カルボン酸が効率的に合成されたことについて述べた。ニッケル触媒を 添 加 し ない 場 合 にはQ,B‐不 飽 和 カル ボ ン 酸の 収率は14―43%と低 かった が、20 moI%の NiBr2.bpy錯体 を添加す ること によって相当するQ,p‐不飽和カルボン酸の収率を58‑82%へと 飛 躍的に 向上させ ることが できた。また、ニッケル触媒を添加したp‐ブ口モスチレンの電解 カ ルボキ シル化反 応におい て、E‑及びZ‐体の基質からそれぞれ立体化学が保持されたケイ皮 酸 が 選 択的 に 得 られ ること も見出し た。反 応過程に ついて サイクリ ックボル タンメ トリー
(CV)な どを用い て検討を 行った 結果、Ni(ll)の2電 子還元で 生成す るNi(0)が 臭化ビニルに 酸 化的付 加してビ ニルニッ ケル中 間体を形 成し、 その2電子還元 で生成 するビニ ルアニオン が二酸化炭素へ付加して進行する反応過程を提唱した。
第4章 で は 、第2章に おけるフ ェニル 置換臭化 ビニルの 電解カ ルボキシ ル化反 応の合成 へ の 応用と して、非 ステ口イ ド系抗 炎症剤前 駆体の 新規で効率的な合成法の開発に成功した結 果 につい て述べた 。近年、 エナン チオ選択 的な抗 炎症剤の合成研究が盛んに行われており、
最 も良好 な方法の ーっとし てQ,B‐ 不飽和カ ルボン 酸のRu/BINAP触媒による水素化反応を経 る ルートがあるが、これまで相当するQ,B一不飽和カルボン酸の簡便かつ効率的な合成法はほ と んど開 発されて いなかっ た。し かしなが ら、本 電解カルボキシル化反応を用いることによ ってIbuprofen,Naproxen,Cicloprofen,Flurbiprofen,Ketoprofen等の抗炎症剤前駆体であるa,p‐ 不 飽和カ ルボン酸 を簡便か つ効率 的に合成 するこ とに成功した。一例をあげると、p‑ブロモ スチレンから81%の収率で得られる1‑bromo‑1‑(p ‑isobutylphenyl)etheneを出発原料として、
常 圧の二 酸化炭素 の存在下 電解カ ルボキシ ル化を 行ったと ころ、Ibuprofenの前 駆体である 2‑(p‑isobutylpheny)propenoic acidを93% の 高 収 率 で 得 る こ と に 成 功 し た 。 第5章 では、ビ ニルトリ フラー トの電解 カルボ キシル化反応によるp‐ケトカルボン酸の新 規 合成に ついて述 べた。ビ ニルト リフラー トを常 圧の二酸化炭素存在下陰極に白金、陽極に マ グ ネ シウ ム 、 溶媒 にDMF、支持塩 にBu4NBF4を用いて 電解還 元を行っ たとこ ろ、ビニ ルト リフラートの酸素‐硫黄結合が開裂してB‐ケト酸が良好な収率で得られるという、新規な電解 カ ルボキ シル化反 応を見出 した。CVを用いて 本電解 カルボキシル化について検討を行い、二 酸 化炭素 の電解還 元で生成 するラ ジカルア ニオン がメディエーターとなって進行する反応過 程を提唱した。
以 上のよ うに著者 は、反 応性電極 を用いる 電解カ ルボキシル化反応を利用することによっ てa,p‐不 飽和カル ボン酸 やpケト酸の高効率的な合成法を確立し、さらにそれらを利用した 非 ス テ ロ イ ド 系 抗 炎 症 剤 の 前 駆 体 の 新 規 で か つ 効 率 的 な 合 成 法 を 開 発 し た 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
徳 田 昌 生 宮 浦 憲 夫 米 田 徳 彦 折 登 一 彦
Efficient Synthesis of a, [3‑Unsaturated Carboxylic Acids and B‑Keto Acids by Electrochemical Carboxylation:Application to a Synthesis of Anti‑inflammatory Agents
( 電 解 カ ル ボ キ シ ル 化 に よ るQ,p― 不 飽 和 カ ル ボ ン 酸 お よ ぴ タ ― ケ ト 酸 の 効 率 的 合 成 : 抗 炎 症 剤 合 成 へ の 応 用 )
二 酸 化 炭 素 の 固 定 化 は 、 地 球 温 暖 化 の 問 題 と 関 連 し て 今 日 の 極 め て 重 要 な課 題の ひ と っ と な っ て い る 。 こ れ ま で 様 々 な 二 酸 化 炭 素 の 固 定 化 の 研 究 が な さ れ て きた が、 そ の 多 く は 二 酸 化 炭 素 を 直 接 還 元 し て 別 の 物 質 へ 変 換 す る こ と を 目 的 と し た も の で あ る 。 本 論 文 は 、 常 圧 の 二 酸 化 炭 素 を 有 機 基 質 へ 効 率 的 に 固 定 化 し て 付 加 価 値の 高い 有 用 な 物 質 へ 変 換 す る こ と を 目 的 と し て 行 わ れ た も の で あ る 。 す な わ ち 、 反 応性 電極 を 用 い る 電 解 カ ル ポ キ シ ル 化 反 応 を 利 用 しQ,p― 不飽 和カ ルポ ン酸 やp― ケト 酸の 高効 率 的 な 合 成 法 を 開 発 し 、 さ ら に 非 ス テ 口 イ ド 系 抗 炎 症 剤 の 前 駆 体 の 新 規 で 効 率的 な合 成 法 の 開 発 に 成 功 し た 成 果 に つ い て ま と め た も の で あ る 。
第 1章 は 序 論 で あ り 、 本 研 究 の 背 景 お よ び 目 的 に つ い て 述 べ て い る 。 第2章 で は 、 反 応 性 電 極 と し て マ グ ネ シ ウ ム 金 属 を 陽 極 に 用 い て 常 圧 の 二 酸 化 炭 素 の 存 在 下 で フ ェ ニ ル 置 換 臭 化 ピ こ ル を 電 解 還 元 す る こ と に よ っ て 、 相 当 す るa,p一 不 飽 和 カ ル ポ ン 酸 が 高 収 率 で 合 成 さ れ る こ と に つ い て 述 べ て い る 。 す な わ ち 、常 圧の 二 酸 化 炭 素 の 存 在 下 陰 極 に 白 金 、 陽 極 に マ グ ネ シ ウ ム 、 溶 媒 にDMF、 支 持 塩 にBu4NBF4 を 用 い て さ ま ざ ま な フ ェ ニ ル 置 換 臭 化 ピ ニ ル を 電 解 還 元 し た と こ ろ 、 二 酸 化炭 素の 固 定 化 が 容 易 に 進 行 し て 、 相 当 す る 各 種 フ ェ ニ ル 置 換Q,p一 不 飽 和 カ ル ポ ン 酸 が63− 92% の 高 収 率 で 得 ら れ る こ と を 見 出 し て い る 。 ま た 、 本 電 解 カ ル ポ キ シ ル 化反 応に お い て 熱 力 学 的 に 不 安 定 なZ‑体 のQ,p一 不 飽 和 カ ル ポ ン 酸 が 優 先 的 に 得 ら れ ると いう 興
味ある立体化学を見出している。反応過程についても考察を行っている。