博 士 ( 農 学 ) 王 文 杰
学 位 論 文 題 名
PhysiologicaleCOlogyofreSpiratoryCOnSumption OfalarCh ( 工 ロ ダ む 曾 . m ¢ Z 励 Z め foreStinnortheaStChina
(中国東北部のグイマツ林の呼吸消費に関する生理生態学的研究)
学位論文内容の要旨
ユーラシア大陸 北東部は,グイマツ¢arむgmelinii Rupr.)をはじめカラ マツ属が覆い,現 在も 中 国東 北部 を中 心に 本 樹種 は生 態系 修 復資 材と して 広く 植 栽さ れて いる。深刻化する C02増 加 に 伴 う 温 暖 化 の 低 減 に , この カラ マ ツ属 森林 によ る大 気 中C02の 固定 ・貯 留機 能 が 期 待 さ れ て い る 。 樹 木 のC02固 定 機 能 は 精 度 高 く 推 定 で き るよ うに な った が, 森林 の 呼吸 消 費量 の推 定は ,そ の 不均 質性 と森 林 の巨 大な 現存 量か ら 困難 さを 極めている。そこ で, 森 林か らの 呼吸 消費 量 の実 態解 明に 注 目す る必 要が ある 。 本研 究で は永久凍土南限の グ イ マ ツ 林を 中心 に, 生産 と 呼吸 消費 を4年間 のモ 二夕 ー 研究 を基 礎に 解 析し た。 併せ て 北日本に広く造成 されたカラマツ人工林との比 較研究も行った。
対 象 と し た グ イ マ ツ 人 工 林 は , 中 華 人 民 共 和 国 黒 龍 江 省 の 東 北 林 業 大 学 老 山 演 習 林 (N45°20|,E127゜34')に1969年に造成された。この地域は年間の降水量が約650mm. yr‑1で,
年平 均 気温2.8℃, 最高 ,最 低気 温 は35.0℃ ,‑35.0℃である。周辺には 落葉広葉樹のシラ カン パ ,卜 ネリ コ, 常緑 針葉樹のショウジマ ツ,チョウセンゴヨ`ウマツ も林分単位に混植 され て いる 。こ れら の樹 種 の齢 もグ イマ ツ とほ ぼ同 じで あり , 呼吸 特性 をあわせて調査し た(第2章)゜
第3章 で は, 呼 吸解 析に 先立 ちグ イ マツ 林の 光合 成生 産 を調 査し た。 グ イマ ツ林 冠は 他 の常 緑 針葉 樹に 比べ ると 疎 で, 短枝 と長 枝 にそ れぞ れ形 態機 能 の異 なる 針葉を有する異形 葉 形 の 特 徴 を 持 つ 。 こ の 林 冠 の 光 合 成生 産に 影響 する 光 ,C02濃 度, 窒素 分布 を4年間 追 跡 し た 。 この 結果 ,針 葉の 形 態に かか わら ず 気孔 コン ダク タン ス(g;通 導 性) と光 飽和 で の 光 合 成 速 度 と の 間 に は 強 い 正 の 相 関が 認め られ た。 し かし ,陽 樹冠 葉 では ,gsとの 関 係を 見 ると 光合 成速 度に は 頭打 ちが 見ら れ た。 この 原因 を光 の 減衰 と光 合成産物の転流と の関 係 から 調べ たと ころ , 光合 成産 物で あ るデ ンプ ン等 が葉 緑 体中 で過 剰に集積すること によって制限され ていることが明らかになった 。
第4章 では , 幹の 呼吸 特性 は樹 種 によ って どの 程度違いがあるのかを落 葉樹(グイマツ,
カ ン パ 類 , ト ネ リ コ 類 ) と 常 緑 樹 ( マツ 類2種) につ いて 調べ た 。4年 間 の測 定の 結果 か ら,呼吸速度の平 均値には樹種間の差は見られず約2.5lLLITiol.rrl‑2s‑1であった。成長時期の 温 度 係 数Q10は 落 葉樹 の方 が常 緑の マ ツ類 より 高い 傾向 が あっ た。 同じ 樹 種で あれ ば春 か ら夏 期 の生 育期 間の 値が 高 かっ た。 グイ マ ツで は高 さ別 の幹 呼 吸速 度も 足場夕ワーを利用 して 測 定し た。 この 結果 , 樹冠 下部 の成 長 の盛 んな 場所 の呼 吸 速度 が高 いことが明らかに なっ た 。ま たQ10の 高い 時期 には , 形成 層付 近の デンプンと糖の濃度が高 い傾向があった。
幹下 部 に剥 皮処 理を 施し , 光合 成産 物の 転 流を 制限 して 光合 成 産物 の移 動と利用の過程が 呼吸 速 度に 及ぽ す影 響を 調 べた とこ ろ, 転 流阻 害に よっ て集 積 した 炭水 化物による呼吸速 ―283―
度の増加は見られなかった。このことから,高い呼吸速度は炭水化物の集積によるのでは なく,組織の分裂時期に対応することを現地で実証した。さらに,解剖切片を作成して形 成層の活動時期を確認したところ,形成層の分裂の盛んな時期に呼吸速度は高い傾向があ った。 この傾向 はカラ マツでも見られ,形成層活動の盛んな成長前期では温度係数Qio は,成長後半より大きい値を示した。さらに,幹に設置した自記温度計を利用して幹温度 から温度係数により推定した幹表面からの年間呼吸速度は約29 mol.m'2 yr‑lであった。
第5章では, 樹冠観 測夕ワー(高さ24m)による観測から,各種サイズの枝からの呼吸 速度は平均すると2.2〃moLm,2s.1程度であった。また,枝を切断し呼吸チェンバーに入れ て測定する実験も試みたが,切断した材料の呼吸速度は高く傷害呼吸の含まれることが示 唆された。そこで,チェンバーを工夫して切断することなくその場での測定を試みた。そ の結果,枝からの年間呼吸消費量の推定値は6〜14mol.ha‥yr.1であった。一方,球果は 非光合成器官とされるが,生育期前半には高い光合成作用を示し,成熟とともにガス交換 機能が失われた。また,カラマツでも確認したが,グイマツ球果表面には気孔様の 穴 が認められ,成熟とともにその存在は不明瞭になった。しかし,この光合成・呼吸速度は 球 果の 量 が 少な い た め, 森 林 の生 産 量 を推 定 す る 際に は 無 視で き る 量で あ った。
第6章では,土壌呼吸速度は森林の炭素循環を解明する際に最も重要であるが,不均質 さから正確な推定値は極めて限られているので,測定時に用いる呼吸チャンパー使用上の 問題点を中心に調査した。すなわち,呼吸箱を支える土壌呼吸測定用カラーは根を切断す ることがあり,特に浅根性の樹種ではその影響は顕著である。そこで傷害呼吸が生じない ように浅く設置する必要性を指摘した。また,土壌呼吸速度の平面的なばらっきをグイマ ツ林床 の400m2で検討し た結果,最低値と最高値の差は約12倍であった。そこでは,土 壌呼吸速度は細根量と高い相関関係を示し,土壌含水率,窒素量,太い根とは相関が無か ったことから,細根量が土壌呼吸速度のばらっきの主要要因と考えた。さらに,土壌呼吸 速度は植生によって異なることを解明した。グイマツ林,グイマツ・シラカンバ混交林,
チョウセンゴョウマツ林,ショウジマツ林,トネリコ林,伐採後再生した草地の土壌呼吸 速度は,諏|noLm‥s,1〜6〃moLm.2s一11の範囲であった。グイマツ林の年間土壌呼吸量は55
〜69moLm‥リ.1と推定され,根(細根十太根),リター層,鉱質土層の各呼吸速度の測定 から,それぞれが土壌呼吸速度の30%,19%,51%を占めていた。なお,北海道苫小牧カラ マツ林の根の呼吸速度は土壌呼吸速度の約48%であった。
グイマツ林は立木密度が低く葉の分布も比較的疎であり,林床に到達する光量が豊富な ことから,侵入した樹種の光合成生産と呼吸消費量もグイマツ生態系の炭素収支を測定す る上で重要な役割を持つ。第7章では林床植物の光合成速度は,頭打ちはあるが気孔コン ダクタンスと正の相関を示した。しかし,葉身の窒素含量と光合成速度との関係から,木 本種の稚樹に比べると草本種は窒素利用効率が1.5倍近く高いことが解明された。しかし,
樹冠構成種の稚樹と灌木の差はなかった。本調査からグイマツ生態系の光合成生産と呼吸 消費量を推定する時には,林床植物の値を考慮しないと過小評価になることを指摘した。
最後に純一次生産カばPP)に関する本研究と比較試験地の北海道苫小牧国有林の調査に 加え,他の地域での文献調査から,グイマツを中心とした中国東北部のカラマツ属森林の 純生態系生産量(NEP)は約9molC.m,2ザ1と推定された。北緯45度付近の森林における渦 相関法 による推 定値と 比較すると,本試験地のC02吸収速度はかなり低かった。この原 因は, 推定値が 総生産 量から呼吸量を引いたのではなく,NPPを積み上げ法で算出した ことと関係する。本研究はカラマツ属森林の生産特性を呼吸特性から解明した。これらに よって ,本研究 はユー ラシア北東部の森林によるC02固定・貯留機能の評価の精度向上 に貢献できる。
‑ 284 ‑
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Physiological ecology of respiratory consumption ofalarch(Larix gyneliniz,) forest in northeast China
(中国東北部のグイマツ林の呼吸消費に関する生理生態学的研究)
本 論 文 は本 文242ベー ジ、 引用 文献282編 から なる 英文 論文 で、 参考 論文18編 が添 えられている。
ユーラシア大陸東北部はグイマツを はじめとするカラマツ属が広く覆い、現在も中国 東北 部を 中心 にグイマツは広く造林されてい る。このカラマツ属森林の大気中C02固定 能カ が期 待さ れている。このため森林からのC02放出である呼吸消費を推 定する研究に も必要性が高まった。本研究では永久 凍土地帯南限のグイマツ林を中心に、生産と呼吸 消費 能を4年間の モ二夕ー研究を基礎に解明した。併せて北日本に広く造 成されたカラ マツ人工林との比較研究も行った。対 象としたグイマツ人工林は、黒龍江省の東北林業 大学 の老 山演 習林(N45°20′ ,E127゜34´)に1969年に植栽された。こ の地域は最高 気温が約30℃、最低気温は約‑35℃で、降水量は約650mm‑yr―1と北海道の半分程度であ る。試験地周辺には、シラカンバ、ト ネルコ、マツ属樹種も混在しているので合わせて 調査した。
呼吸解析に先立ちグイマツ林の光合 成生産特性を調査した。グイマツ林冠は他の針葉 樹に比べると非常に疎で、短枝と長枝にそれぞれ形態の異なる針葉を有する特徴を持つ。
この 林冠 の光 合成 生 産に 影響 する 光、C02濃 度、窒素量分布を4年間追跡 した。この結 果、針葉の形態にかかわらず気孔コン ダクタンスと光合成速度との間には強い正の相関 が認められたが、光合成速度には頭打 ちが見られた。この原因を光の減衰と光合成産物 の転流との関係から検討したところ、 デンプン等の光合成産物が葉緑体中に過剰集積す ることが主因であった。
樹種による幹呼吸速度の違いを落葉 樹(グイマツ、カンパ類、トネリコ類)と常緑樹 (マツ類2種)について調べた。成長時期の温度係数Qioは落葉樹の方が常緑のマツ類 で高しゝ傾向があった。同じ樹種であれば春から夏期の生育期間の値が成長休止期より高 ―285―
良 郎
樹 司
一
孝 賀
冬 高
池
藤
野
小
笹
佐
平
授 授
授 授
教
教
教
教
助
査
査
査
査
主
副
副
副
か った。 グイマツ ではQioの高い 時期には形成層付近のデンプンと糖の濃度が高い傾向 が あった 。この光合成産物の移動と利用の過程を検討するために、幹下部に剥皮処理を 施 して光 合成産物の転流を制限したところ、集積した炭水化物による呼吸速度の増加は 見 られな かった。このことから、高い呼吸速度は炭水化物の集積によるのではなく、組 織 の分裂 時期に対応することを屋外で実証した。幹に設置した温度計を利用して推定し た幹からの年呼吸速度は約29 moI.m,2 yr‑'であった。
一方、枝からの呼吸速度は約2. 2umol.m,2S‑1であった。1年間の推定値は種間差を考 慮 すると6〜14 mol.ha,lyr‑lであっ た。非光合成器官とされる球果は生育期前半には 正 の光合 成速度を示し、成熟とともにガス交換機能が失われた。しかし、この光合成・
呼 吸速度 は、球果の量が少ないため、森林の呼吸消費量を推定する際には無視できる値 であった。
土 壌呼吸 速度は森林の炭素循環を解明する際に最も重要である。まず、測定時に用い る 呼吸チ ャンパー利用上の問題点を解明した。土壌呼吸速度の平面的なばらっきをグイ マ ツ 林床400mzで検 討した 結果、最 低値と最 高値の ばらっき は約12倍 であった 。この ばらっきの原因は根量と高い相関関係を示し、土壌含水率、窒素量とは相関が無かった。
土壌表面からの呼吸速度は55〜69 mol.m・zyr・1と推定され、根、1」夕ー層、鉱質土層の 各 呼 吸 速度 の 測 定 から 、 そ れぞ れ30%,19%,51%を 占 める こ とが明ら かになっ た。
グ イマツ 林は疎であり、林床に到達する光量が豊富なことから、林床に生育する植物 種 の光合 成生産と呼吸消費も生態系の炭素収支を測定する上で重要な役割を持つ。林床 植 物の光 合成速度は、頭打ちはあるが気孔コンダクタンスと正の相関を示した。一方、
葉 身の窒 素含量と光合成速度との関係から、木本種の稚樹に比べると草本種は窒素利用 効 率が1.5倍近く高かった。しかし、樹冠樹と灌木の差はなかった。従って、グイマツ 生 態系の 光合成生産と呼吸消費を推定する時には、林床植物の値を考慮しないと過小評 価する可能性があることを指摘した。
カ ラマツ 属森林の 純一次 生産力(NPP)に関 する文献 調査か ら、純生態系生産量(NEP) は 約9 moIC.m,2yr・1と推定された。北緯45度付近の森林における渦相関法による推定 値 と比較 すると、 本試験 地のC02吸収速度はかなり低かった。この原因は、推定値が総 生 産量か ら呼吸量 を引い たのでは なく、推 定され た純NPPから推定したことと、NPP推 定値も多く゛の文献値を用いたことが一因と考えられる。
以 上から 本研究は 、グイ マツ林のC02固定機能について呼吸消費を中心に多面的に研 究 した内 容であり、温暖化低減に資するグイマツ林管理方法に貢献する基礎データを提 供 した。 よって審 査委員 一同は、 王文杰が 博士( 農学)の 学位を受けるに充分な資格 を有するものと認めた。
―286―