博 士 ( 医 学 ) 松 本 明 郎
学位論文題名
A High Expression of Heme Oxygenase‑l in the Liver of LEC Rats at the Stage of Hepatoma : The Possible Implication of Induction in Uninvolved Tissue (担癌LEC ラット肝臓におけるへムオキシゲナーゼ―1 の発現)
学位論文内容の要旨
I. 目 的
生 体 は 活 性 酸 素 を は じ め と し た 種 々 の 外 的 ス ト レ ス に 曝 さ れ て お り 、 自 己 防 御 系 と し て 抗 酸 化 酵 素 や 抗 酸 化 物 質 が 機 能 し て い る 。 活 性 酸 素 は 多 く の 病 態 、 す な わ ち 、 虚 血 再 還 流 障 害 、 動 脈 硬 化 、 各 種 の 炎 症 性 疾 患 、 糖 尿 病 、 が ん 、 神 経 疾 患 と の 関 係 で 論 議 さ れ て お り 、 こ れ ら の 病 態 と 活 性 酸 素 お よ び そ の 消 去 系 と して の 抗 酸 化 酵 素の 関 連 性 に つい て 多 く の 研究 が な さ れ てき て い る 。
ヘ ム オ キ シ ゲ ナ ー ゼ(Heme Oxygenase:HO)はHemeを 分 解 しBiliverdinと 鉄 、 一 酸 化 炭 素(CO)を 生 成 す る 反 応 を触 媒 す る 。 生 成さ れ たBiliverdinはBiliveridin Reductaseによ りBilirubinへ変 換され 、アル ブミ ンと 結 合 し たBilirubinは 活性 酸 素 種(Reactive Oxygen Species)を 消去 し 抗 酸 化 物質と して作 用する 。ま た、同 時 に 産 生 さ れ るCOは 一 酸 化 窒 素(NO)と 同 様 に 細 胞 内cGMP濃 度 を 上 昇 さ せ る こ と に よ り 血 管 拡 張 性 や 細 胞 増 殖 制 御 な ど に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。HOはHemeか らBilirubinを 産 生 す る 経 路 の 律 速 酵素 で あ り 、 誘 導 型HO‑1と 構 成 型H0‑2、H0‑3の3種 類 の ア イ ソ ザ イ ム か ら な る 。HO‑1は 、 重 金 属 ・ サ イ ト カ イ ン ・ ヒ ー ト シ ョ ッ ク ・ 過 酸 化 水 素 な ど 様 々 な 刺 激 に よ り 32kDaの HO蛋 白 が 誘 導 さ れ る 。 LECラ ッ ト(Long Evans Cinamon Rats)はLong―Evans系 ラ ッ ト の 閉 鎖 系 よ り 北 海 道 大 学 に お い て 確 立 さ れ た 肝 炎 ・ 肝 癌 自 然 発 症 ラ ッ ト で あ る 。 生 後4―5カ 月 で そ の 約80%に 急 性 肝 炎 を 自 然 発 症 し 、1年 以 上 の 長 期 生 存 ラ ッ ト で は ほ ぽ 全 例 に 肝 細 胞 癌 が 発 生 す る 。 ま た 、LECラ ッ ト はWilson病 の 原 因 遺 伝 子 で あ るATP7Bと 相 同 の 遺 伝 子 に 変 異 を 有 し て お り 、 銅 輸 送 系 に 機 能 障 害 を 有 す る 。LECラ ッ ト の 肝 機 能 障 害 は 肝 臓 に お け る 銅 の 蓄 積 と 密 接 に 関 係 し て お り 、 Wilson病 の モ デ ル 動 物 で も あ る 。 近 年HOは 抗 酸 化 酵 素 の ー っ と し て 捉 え ら れ て き た が 、 病 態 に 伴 う 生 体 内 発 現 変 化 は 検 討 さ れ た こ と が な い 。LECラ ッ ト は 炎 症 や 発 癌 に 伴 う ス ト レ ス 刺 激 下 に お か れ て い る が 、 一 方HOも ス ト レ ス 刺 激 に よ る 誘 導 が 顕 著 に 認 め ら れ る 。 以 上 よ り 病 態 とHOの 発 現 変 化 を 検 討 す る 上 でLECラ ッ ト は 適 当 な モ デ ル 動 物 と 考 え ら れ 、HOの 抗 酸 化 酵 素 と し て の 役 割 を よ り 一 層 明 ら か に す る こ とを 目 的 と し て 、本 研 究 を お こな っ た 。
II. 方法
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LECラットおよび対照として同じLong‑Evans系のLEAラットを用い、肝臓をはじめとする各臓器にお けるHO mRNAおよ び蛋白の 発現を 特異的cDNAprobeを用いたNormemBtottingおよび抗体を用いた WestemBlottingに て 検 討 し た 。 黄 疸 形 成 の 有 無 は 、 肉 眼 所 見 に よ り 判 断 し た 。
III.結果
1.HOの組織分布(正常若年期)
肝炎発症前の正常若年として用いた16週齢ではLEC/LEAともにHOー1の発現は脾臓で最も高く、肝臓に おける発現は他の臓器とほとんど変わらなかった。一方H0‑2の発現量に臓器特異的変化は認められなかっ た。
2. HOの組織分布(黄疸期・肝癌期)
黄疸期のLECラット(20週齢)については、脾臓におけるHO・l発現量に健常時との差はなかったが、
肝臓およぴ腎臓では著明な誘導が認められ、肺においても発現量が増加していた。また、肝癌期(97週 齢)では、肝臓および肺におけるHO‑I mRNA発現が依然として高値を示しており、肝炎期を境として HOー1の発現には大きな差が認められた。
3.肝臓でのHO発現の週齢変化
ここで用いたLECラットのうち、16、20週齢が肝炎期(黄疸なし)に、97週齢は肝癌期に相当する。
HO‑1 mRNAは肝炎期以降、いったんは発現が低下するものの肝癌期には再び高値を示していた。一方 LEAラットでは、HO‑1,2の発現の週齢による変化は認められなかった。
4.癌部および非癌部におけるHO‑1発現
担癌肝組織における発現量を94週齢LECラット2個体について検討した。組織を肉眼的に癌部および非 癌部に分けて検討したところ、癌部においてはHO‑1発現はmRNA、蛋白ともに低下しているのに対して、
非癌部においてはいずれも亢進しており、この非癌部における発現の亢進が肝癌期で高値を示す原因と 考えられた。
IV.考察
HOは生体内におけるヘム分解の律速酵素である。ヘム分解産物として、Biliverdine、Fe、COが等モル 産生される。BiliverdineはさらにBiliruvinとなり、抗酸化剤として作用する。生体内におけるCOはHOに よる系からその大部分が産生される。COはHeme鉄に強カに結合する結果、グアニル酸シクラーゼを活 性化しcGMPを介した作用を示す。一っは血管拡張作用であり、肝類洞における血流はおもにCOにより 制御されている。HO‑1は各種のストレス刺激により誘導され、生体内において血流制御から抗酸化能に いた る 幅 広 い生 理 活 性を 有 す るが 、 発 癌に伴う 発現変 化はこれ まで検 討された ことが ない。
肝炎期におけるHO‑1の大量発現には肝炎に伴い産生されている炎症性サイトカインの関与が予想され、
癌化に伴うHO‑1発現の上昇にも癌組織から産生されたサイトカインが関与していると考えられる。HO が誘導される結果としてBilirubinの産生量も増加し、結果として抗酸化能が増大していると考えられる。
また肝炎期を過ぎてもHO‑1の発現が低下せず高値を維持していることから、Bilirubinを介したHOの抗酸 化作用が代償的に高まっている可能性がある。
HO‑1発現の亢進により増加したCOによる血管拡張作用により組織血流の増大が生じる。非癌部にお ―391−
けるHO‑1発現の亢進は肝類洞等の微小血管を拡張し炎症巣に対する血流を増大させ、貪食細胞系を介し た抗炎症作用が発揮されやすくなることが考えられる。また腫瘍組織は血流要求性が高く正常組織との 血流分布不均衡を生じ、正常組織の潅流血液量が相対的に減少することが知られている。しかし、非癌 部におけるHO‑1発現の亢進によりCO産生が増加し、COによる血管拡張作用の結果、正常組織における 血管抵抗が減少し相対的な血流分布不均衡を補正することにもなっていると考えられる。血流の維持は、
炎症性に障害を受けた肝細胞を保護することにもなり、肝機能保持にも関与していると考えられる。
このように、肝炎゜肝癌自然発症モデルであるLECラットにおけるへムオキシゲナーゼ発現の変化か ら、CO、Bilirubinを介したHOの生体防御機構の存在が予想された。
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