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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 松 本 明 郎

     学位論文題名

    A High Expression of Heme Oxygenase‑l in the   Liver of LEC Rats at the Stage of Hepatoma : The Possible Implication of Induction in Uninvolved Tissue      (担癌LEC ラット肝臓におけるへムオキシゲナーゼ―1 の発現)

学位論文内容の要旨

I. 目 的

  生 体 は 活 性 酸 素 を は じ め と し た 種 々 の 外 的 ス ト レ ス に 曝 さ れ て お り 、 自 己 防 御 系 と し て 抗 酸 化 酵 素 や 抗 酸 化 物 質 が 機 能 し て い る 。 活 性 酸 素 は 多 く の 病 態 、 す な わ ち 、 虚 血 再 還 流 障 害 、 動 脈 硬 化 、 各 種 の 炎 症 性 疾 患 、 糖 尿 病 、 が ん 、 神 経 疾 患 と の 関 係 で 論 議 さ れ て お り 、 こ れ ら の 病 態 と 活 性 酸 素 お よ び そ の 消 去 系 と して の 抗 酸 化 酵 素の 関 連 性 に つい て 多 く の 研究 が な さ れ てき て い る 。

  ヘ ム オ キ シ ゲ ナ ー ゼ(Heme Oxygenase:HO)はHemeを 分 解 しBiliverdinと 鉄 、 一 酸 化 炭 素(CO)を 生 成 す る 反 応 を触 媒 す る 。 生 成さ れ たBiliverdinはBiliveridin Reductaseによ りBilirubinへ変 換され 、アル ブミ ンと 結 合 し たBilirubinは 活性 酸 素 種(Reactive Oxygen Species)を 消去 し 抗 酸 化 物質と して作 用する 。ま た、同 時 に 産 生 さ れ るCOは 一 酸 化 窒 素(NO)と 同 様 に 細 胞 内cGMP濃 度 を 上 昇 さ せ る こ と に よ り 血 管 拡 張 性 や 細 胞 増 殖 制 御 な ど に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。HOはHemeか らBilirubinを 産 生 す る 経 路 の 律 速 酵素 で あ り 、 誘 導 型HO‑1と 構 成 型H0‑2、H0‑3の3種 類 の ア イ ソ ザ イ ム か ら な る 。HO‑1は 、 重 金 属 ・ サ イ ト カ イ ン ・ ヒ ー ト シ ョ ッ ク ・ 過 酸 化 水 素 な ど 様 々 な 刺 激 に よ り 32kDaの HO蛋 白 が 誘 導 さ れ る 。   LECラ ッ ト(Long Evans Cinamon Rats)はLong―Evans系 ラ ッ ト の 閉 鎖 系 よ り 北 海 道 大 学 に お い て 確 立 さ れ た 肝 炎 ・ 肝 癌 自 然 発 症 ラ ッ ト で あ る 。 生 後4―5カ 月 で そ の 約80%に 急 性 肝 炎 を 自 然 発 症 し 、1年 以 上 の 長 期 生 存 ラ ッ ト で は ほ ぽ 全 例 に 肝 細 胞 癌 が 発 生 す る 。 ま た 、LECラ ッ ト はWilson病 の 原 因 遺 伝 子 で あ るATP7Bと 相 同 の 遺 伝 子 に 変 異 を 有 し て お り 、 銅 輸 送 系 に 機 能 障 害 を 有 す る 。LECラ ッ ト の 肝 機 能 障 害 は 肝 臓 に お け る 銅 の 蓄 積 と 密 接 に 関 係 し て お り 、 Wilson病 の モ デ ル 動 物 で も あ る 。   近 年HOは 抗 酸 化 酵 素 の ー っ と し て 捉 え ら れ て き た が 、 病 態 に 伴 う 生 体 内 発 現 変 化 は 検 討 さ れ た こ と が な い 。LECラ ッ ト は 炎 症 や 発 癌 に 伴 う ス ト レ ス 刺 激 下 に お か れ て い る が 、 一 方HOも ス ト レ ス 刺 激 に よ る 誘 導 が 顕 著 に 認 め ら れ る 。 以 上 よ り 病 態 とHOの 発 現 変 化 を 検 討 す る 上 でLECラ ッ ト は 適 当 な モ デ ル 動 物 と 考 え ら れ 、HOの 抗 酸 化 酵 素 と し て の 役 割 を よ り 一 層 明 ら か に す る こ とを 目 的 と し て 、本 研 究 を お こな っ た 。

II. 方法

‑ 390

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  LECラットおよび対照として同じLong‑Evans系のLEAラットを用い、肝臓をはじめとする各臓器にお けるHO mRNAおよ び蛋白の 発現を 特異的cDNAprobeを用いたNormemBtottingおよび抗体を用いた WestemBlottingに て 検 討 し た 。 黄 疸 形 成 の 有 無 は 、 肉 眼 所 見 に よ り 判 断 し た 。

III.結果

1.HOの組織分布(正常若年期)

  肝炎発症前の正常若年として用いた16週齢ではLEC/LEAともにHOー1の発現は脾臓で最も高く、肝臓に おける発現は他の臓器とほとんど変わらなかった。一方H0‑2の発現量に臓器特異的変化は認められなかっ た。

2. HOの組織分布(黄疸期・肝癌期)

  黄疸期のLECラット(20週齢)については、脾臓におけるHO・l発現量に健常時との差はなかったが、

肝臓およぴ腎臓では著明な誘導が認められ、肺においても発現量が増加していた。また、肝癌期(97週 齢)では、肝臓および肺におけるHO‑I mRNA発現が依然として高値を示しており、肝炎期を境として HOー1の発現には大きな差が認められた。

3.肝臓でのHO発現の週齢変化

  ここで用いたLECラットのうち、16、20週齢が肝炎期(黄疸なし)に、97週齢は肝癌期に相当する。

HO‑1 mRNAは肝炎期以降、いったんは発現が低下するものの肝癌期には再び高値を示していた。一方 LEAラットでは、HO‑1,2の発現の週齢による変化は認められなかった。

4.癌部および非癌部におけるHO‑1発現

  担癌肝組織における発現量を94週齢LECラット2個体について検討した。組織を肉眼的に癌部および非 癌部に分けて検討したところ、癌部においてはHO‑1発現はmRNA、蛋白ともに低下しているのに対して、

非癌部においてはいずれも亢進しており、この非癌部における発現の亢進が肝癌期で高値を示す原因と 考えられた。

IV.考察

  HOは生体内におけるヘム分解の律速酵素である。ヘム分解産物として、Biliverdine、Fe、COが等モル 産生される。BiliverdineはさらにBiliruvinとなり、抗酸化剤として作用する。生体内におけるCOはHOに よる系からその大部分が産生される。COはHeme鉄に強カに結合する結果、グアニル酸シクラーゼを活 性化しcGMPを介した作用を示す。一っは血管拡張作用であり、肝類洞における血流はおもにCOにより 制御されている。HO‑1は各種のストレス刺激により誘導され、生体内において血流制御から抗酸化能に いた る 幅 広 い生 理 活 性を 有 す るが 、 発 癌に伴う 発現変 化はこれ まで検 討された ことが ない。

  肝炎期におけるHO‑1の大量発現には肝炎に伴い産生されている炎症性サイトカインの関与が予想され、

癌化に伴うHO‑1発現の上昇にも癌組織から産生されたサイトカインが関与していると考えられる。HO が誘導される結果としてBilirubinの産生量も増加し、結果として抗酸化能が増大していると考えられる。

また肝炎期を過ぎてもHO‑1の発現が低下せず高値を維持していることから、Bilirubinを介したHOの抗酸 化作用が代償的に高まっている可能性がある。

  HO‑1発現の亢進により増加したCOによる血管拡張作用により組織血流の増大が生じる。非癌部にお     ―391−

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けるHO‑1発現の亢進は肝類洞等の微小血管を拡張し炎症巣に対する血流を増大させ、貪食細胞系を介し た抗炎症作用が発揮されやすくなることが考えられる。また腫瘍組織は血流要求性が高く正常組織との 血流分布不均衡を生じ、正常組織の潅流血液量が相対的に減少することが知られている。しかし、非癌 部におけるHO‑1発現の亢進によりCO産生が増加し、COによる血管拡張作用の結果、正常組織における 血管抵抗が減少し相対的な血流分布不均衡を補正することにもなっていると考えられる。血流の維持は、

炎症性に障害を受けた肝細胞を保護することにもなり、肝機能保持にも関与していると考えられる。

  このように、肝炎゜肝癌自然発症モデルであるLECラットにおけるへムオキシゲナーゼ発現の変化か ら、CO、Bilirubinを介したHOの生体防御機構の存在が予想された。

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学位 論文審査の要旨

     学位論文題名

  A High Expression of Heme Oxygenase‑l in the   Liver of LEC Rats at the Stage of Hepatoma : The Possible Implication of Induction in Uninvolved Tissue

( 担 癌 LEC ラ ッ ト 肝 臓 に お け る ヘ ム オ キ シ ゲ ナ ー ゼ ― 1 の 発 現 )

   ヘ ムオ キシ ゲナ ーゼ (以下 HO) は、 ラジ カル 産生 能を有 する へム を消 去す るの みな ら ず、 産物 であ るピ リル ビンが 抗酸 化能 を有 する こと が明らかとなり、近年、抗酸化 酵 素 と し て の 役 割 に 注 目 が 集 ま って きて いる 。ま た、HO は同 時に 細胞 内cGMP 濃 度の 上 昇を 介し て血 管拡 張作 用をし めす 一酸 化炭 素(CO) を 産生する。これまで、HO の病態 変 化に 応じ た発 現に 関す る検討 は少 なく 、特 に癌 に関 連したものはなかった。本研究 は 、 肝炎 肝癌 自然 発症 モデル 動物 であ るLEC ラ ット の病態 の推 移に 関連 した HO の 発現 変 化 を 検 討 す る こ と に よ り 、 そ の生 理的 特徴 を明 らかに した 。HO 発現 を特 異的 cDNA probe を 用い たノ ーザ ンブ 口ット法と合成ペプチド抗原から作成したポリクローナル抗 体 を用 いた ウェ スタ ンブ 口ット 法お よび 免疫 組織 染色 により検討した。また、対照群 と し て は LEA ラッ ト を 用 い た 。 LEC ラ ット の週 齢変 化に応 じた 肝臓 での HO 発 現を 検討 し た結 果、 肝炎 期を 境と した肝 癌期 まで 持続 する 誘導 型HO‑1 の発現亢進を認めた。つ づ ぃて 肝炎 期、 肝癌 期に おけるHO 発現を各種臓器で検討した。通常、HO −1 の高発現臓 器は脾臓のみであるのに対して、黄疸を伴った肝炎期においては、肝臓をはじめ腎臓、

肺においてもHO −1 の発現は上昇していたが、HO −2 発現に差は認められなかった。一方、

黄 疸 を伴 わな い同 週齢 LEC で は、 脾臓 以外 にお ける HO‑1 誘 導は 認め られ なか った 。肝 癌 期に は、 肝臓 にお ける HO‑1 発 現の 再上 昇が 認め られ た。これは、非癌部における発

顕 美

   

   

畠 田

北 藤

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

現が亢進しているためであったが、一方癌部においては、むしろ低下していた。免疫 組織学的検討から、癌周囲組織の肝実質細胞においてHO‑1 の発現が亢進しており、肝 癌組織においてはいずれの細胞においても発現は認められなかった。癌組織における HO 発現を検討したのは、本研究がはじめてである。

   上記の実験結果から、HO ―1 誘導により産生されたビリルビンが脂質過酸化等を抑制 し抗酸化能を示している可能性示唆され、また同時に産生されたCO が肝類洞を中心と した肝微小循環を改善し、炎症巣および癌周辺部組織における血流分布不均衡を是正 している可能性を示した。活性酸素種を消去することにより抗酸化能を示すのみなら ず、CO による血流の増加による生理的な環境改善をも含めた抗酸化能をHO は示してい る可能性を示唆する事象が本研究より示された。学位論文の公開発表に際して副査の 藤田教授から、ヘム分解系としてのHO の発現亢進がへム合成分解系全体に果たす役割 について、CO とNO の生理的条件下での作用の違いについて、副査の守内教授からは、

癌組織における発現低下の原因として考えられる機序と病態との関連性について、LEC ラットにおける抗酸化酵素の一般的な役割と病態の関連性について、循環器外科の安 田教授から劇症肝炎期における腎組織における高発現と炎症との直接的な関連性につ いての質問がされ、主査の北畠教授からは、このHO による抗酸化機構が循環器領域に おいて今後の発展として期待されることについての質問があったが、申請者は実験結 果に 基づ ぃて、 また文献的知識を駆使して誠実にかつ、概ね適切に解答し得た。

   ヘムオキシゲナーゼを介した活性酸素消去系は、酵素学的反応にくわえ血流の改善 による生理的環境改善を伴うことから、特に循環器領域における役割に関して発展が 期待されるものと評価される。

   審査員一同は、申請者の豊富な学識にあわせて、この研究が関連領域研究の進展に

与える成果を評価し、申請者が博士(医学)を受けるに十分な資格を有するものと判

定した。

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