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高アミノ酸食による膵酵素活性調節機構の解析 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 橋 本 直 人

学 位 論 文 題 名

高アミノ酸食による膵酵素活性調節機構の解析 学位論文内容の要旨

  小腸内での消化を担う膵酵素は栄養素により膵臓内での活性の調節を受ける。すなわち、ラッ卜では高 アミノ酸食によルキモトリプシン等の膵プロテアーゼが誘導され、膵臓中のアミラーゼ活性は抑制される。

  膵 プロテアーゼ誘導因子としては消化管ホルモンであるコレシス卜キニン(cholecystokinin、CCK)が 知 られてい るが、高 アミノ 酸食による膵プロテアーゼ誘導はCCKに依存せず、その機構は不明である。

一方、膵アミラーゼの誘導因子としてはインスリンが知られている。膵アミラーゼ活性が低下する糖尿病 ラットにインスリンを投与することで正常ラッ卜と同程度までアミラーゼ活性が回復し、また、高アミノ 酸食、すなわち低炭水化物食によるアミラーゼ活性の抑制は、食餌によるインスリン分泌刺激が小さいた めに引き起こされると推察されてきた。一方、食餌中のアミノ酸組成もアミラーゼ活性に影響を与えるこ とが報告されているが、その機構は不明であり、中心的に作用するアミノ酸の種類も不明である。本研究 では、膵プロテアーゼとアミラーゼの活性調節に関して、これら不明な点を明らかにする目的で実験を行 った。

1.膵酵素活性調節因子の検索

  筋肉等 の組織に おいて 、分岐差 アミノ 酸(BCAA)はタ ンパク質合成における翻訳の開始段階を活性化 させることにより体タンパク質合成を促進する事が知られている。そこで、高アミノ酸食による膵プロテ ア ー ゼ 誘 導 に お け るBCAAの 役 割を 調 べ た。 ラ ッ ト に20% アミ ノ 酸(AA)食、20%AA食 にBCAAまた はBCAA以外 のAAを 添 加 した 食 餌 及び60%AA食を自由 摂取させ 、7日間飼育 した。 その結果 、20%AA 食群と 比較し、BCAA添加食 群で部分 的には キモトリ プシン は誘導されたものの、血中BCAA濃度とキモ トリプ シン活性 との相 関は見ら れず、血中スレオニン(Thr)濃度とキモ卜リプシン活性との間に有意な 負の相 関が見ら れた。 一方、20%AA食に対 しBCAA添加 食は膵アミラ,ーゼ活性を60%AA食と同程度ま で低下させた。そこで、次に、血中Thr濃度とキモ卜リプシン誘導の関連を調べた。ラットに20%AA食、

60%AA食及 び20%AA食にThrを 添加した 食餌を7日間 自由摂取 させた 。その結 果、20%AA食群と比 較 し、60%AA食群で 有意にプ ロテアー ゼ活性 が高値と なり、 血中Thr濃度は低値となったのに対し、Thr 添加食群ではキモトリプシン活性は低値となり、血中Thr濃度は高値となった。以上の結果より、血中Thr 濃度の 低下は高アミノ酸食によるキモトリプシンの誘導因子となることが示唆され、食餌中のBCAAは膵 アミラーゼ活性の抑制因子となることが示唆された。

2.高 アミノ 酸食によ るキモ トリプシ ン誘導機 構の解 析

次 に高ア ミノ酸食 によるキ モトリ プシン誘 導の細胞内の機構解析を行った。ラットに20%AA食及び

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60%AA食を 自由 摂取 させ 、7日 目飼 育した。キモ トリプシンについて、20%AA食群と比較して60%AA 食群での酵素活 性、[35S]メチオニンの取り 込み量を指標とした合成速度が亢進したのに対し、mRNAレ ベルは群間での差が見られなかったことから、高アミノ酸食によるキモ卜リプシンの誘導は翻訳段階での 調節であることが示唆された。ある種のアミノ酸は翻訳開始段階を活性化するが、その活性は摂食開始か らの数十分で高値となり、その後低下するという報告があることから、次にキモトリプシン活性と翻訳開 始 活性 を摂 食開 始か ら経 時的 に 測定 した。ラッ卜に20%AA食及び60%AA食を 暗期にのみ与え、7日目 の再給餌後、0、1、3時間目にサンプリング を行った。キモトリプシン活性は20%AA食群では経時的な 変 化が 見ら れなかったのに対し、60%AA食群では 経時的に増加した。キモ卜リプシンmRNAレベルに関 し ては 、群 間差および経時的な変化は見られなか った。翻訳開始活性の指標のーっであるeukaryotic initiation factor 4E ‑binding proteinl(4E‑BPl)のりン酸化(y‑form)の程度に関しては、20%AA食 群では、0時間目と比較し、1時間目には増加したが、3時間目で減少し、O時間日との有意差が無くなっ たのに対し、60%AA食群では0時間目と比較 し、1、3時間目で有意な上昇が見られた。この翻訳開始活 性の動向は他の 指標においても同様な傾向が見られた。また、4E‑BP1のy‑ fo rmの割合と膵臓中の遊離 BCAA濃度、キモ トリプシン活性との問にそれぞれ有意な正の相関が見られた。以上のことから、高アミ ノ酸食摂取によ り、主に食餌中のBCAAが翻訳開始段階を活性化させ、摂 食開始後3時間目までのキモト リプシン活性の 亢進に寄与したことが示唆された。

3.高アミノ酸食による膵 アミラーゼ活性抑制機構の解析

  先の 実験 で食 餌中 のBCAAが アミ ラー ゼ活 性を 抑 制す ることが示唆 されたため、食餌中のBCAAによ るアミラーゼ活性抑制機構を解析し、既知の膵アミラーゼ誘導因子であるインスリンとの関連を調べた。

ラ ッ ト に20%AA食 、20%AA食 にBCAAま た はBCAA以 外 のAAを 添 加 し た 食 餌及 び60%AA食を 与え 、 7日間 飼育 した 。そ の 結果 、20%AA食と比較し、BCAA添加食は60%AA食と同程度までアミラーゼの酵 素 活 性 及 びmRNAレベ ルを 低下 させ たの に対 し、BCAA以外 のAAを 添加 した 食餌 は、 炭水 化物 含量 が 20%AA食の約半分であるにも関わらず、これらの指標を低下させなかった。さらに、血中インスリン濃度 に群問の差は見られず、インスリン濃度とアミラーゼ活性との間に相関は見られなかった。しかし、イン スリン濃度は摂食開始直後に大きく変動し、それがアミラーゼ発現に影響を与えた可能性があるため、こ れら4種類の食餌の摂取開始後1時間目と3時間目のイ ンスリン濃度も測定したが、それぞれアミラーゼ 活性とは相関しなかった 。以上のことから、高アミノ酸食による膵アミラーゼ活性抑制は主に食餌中の BCAA含 量に 依存 したmRNAレベ ルで の調 節で 、食 餌 中の 炭水化物含量 及びインスリンの寄与は小さい ことが示唆された。

  以上の結果をまとめると、高アミノ酸食による膵プロテアーゼ誘導には血中Thr濃度の低下が関与し、

また、高アミノ酸食摂取開始後、数時間の プロテアーゼ誘導はBCAA等のアミノ酸による翻訳開始段階の 活性化が寄与していることが示唆された。

  また、高アミノ酸食による膵アミラーゼ 活性の抑制に関しては、食餌中のBCAA含量に依存した、mRNA レベルでの調節であることが示唆された。

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学位論 文審査 の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 講師

原 川端 園山 石塚

学 位 論 文 題 名

博 潤 慶 敏

高ア ミノ酸 食による 膵酵素活 性調節機構の解析

  本 論 文 は110頁 か ら な る 和 論 文 で あ り 、 図29、 表31を 含 む 。

  タ ン パ ク 質 構 成 要 素 以 外 の ア ミ ノ 酸 の 生 理 作 用 は 多 数 知 ら れ て お り 、 近 年 、 脚 光 を 浴 び て い る 栄 養 素 で あ る 。 高 ア ミ ノ 酸 食 は 、 膵 プ ロ テ ア ー ゼ 誘 導 因 子 で あ る コ レ シ ス ト キ ニ ン に 非 依 存 的 に キ モ ト リ プ シ ン 等 の 膵 プ ロ テ ア ー ゼ を 誘 導 す る 。 ま た 、 膵 ア ミ ラ ー ゼ 活 性 は 高 ア ミ ノ 酸 食 摂 取 に よ り 低 下 す る が 、 イ ン ス リ ン 等 の ホ ル モ ン や 食 餌 中 の ア ミ ノ 酸 組 成 に よ っ て も 調 節 を 受 け る と い う 報 告 が あ る 。 し か し 、 高 ア ミ ノ 酸 食 に よ る 膵 酵 素 活 性 調 節 に 中 心 的 に 作 用 す る ア ミ ノ 酸 及 び そ の 機 構 は 不 明 で あ る こ と か ら 、 本 研 究 は こ れ ら の 点 を 解 明 す る 目 的 で 行 わ れ た 。 ま ず 、 夕 ン パ ク 質 合 成 の 翻 訳 開 始 段 階 を 活 性 化 さ せ る こ と で タ ン パ ク 質 合 成 を 促 進 す る 分 岐 鎖 ア ミ ノ 酸(BCAA)に 注 目 し て 、BCAA添 加 食 を ラ ッ ト に 与 え る こ と で 膵 酵 素 活 性 の 調 節 に お け るBCAAの 役 割 を 評 価 し 、 さ ら に 、 ア ミ ノ 酸 に よ る タ ン パ ク 質 合 成 促 進 効 果 は 摂 食 開 始 直 後 で 最 も 強 い こ と か ら 、 摂 取 開 始 直 後 か ら の 高 ア ミ ノ 酸 食 摂 取 の 経 時 的 な 影 響 も 調 べ た 。 ま た 、 ア ミ ノ 酸 に よ る ア ミ ラ ー ゼ 活 性 調 節 へ の イ ン ス リ ン の 関 与 に つ い て も 調 べ 、 以 下 の 知 見 を 得 た 。

1. 膵 酵 素 活 性 調 節 因 子 の 検 索

  20% ア ミ ノ 酸(AA)食 と 比 較 し 、BCAA添 加 食 は 、 キ モ ト リ プ シ ン 活 性 を 部 分 的 に 亢 進 さ せ 、 ア ミ ラ ー ゼ 活 性 を60%AA食 と 同 程 度 ま で 低 下 さ せ た 。 こ の 時 、 血 中BCAA濃 度 と キ モ ト リ プ シ ン 活 性 と の 相 関 は 見 ら れ ず 、 血 中 ス レ オ ニ ン(Thr)濃 度 と キ モ ト リ プ シ ン 活 性 と の 間 に 有 意 な 負 の 相 関 が 見 ら れ た 。 そ こ で 、 血 中Thr濃 度 と キ モ ト リ プ シ ン 誘 導 の 関 連 を 調 べ た 。20%AA食 群 と 比 較 し 、60%AA食 群 で 有 意 に プ ロ テ ア ー ゼ 活 性 が 高 値 と な り 、 血 中Thr 濃 度 は 低 値 と な っ た の に 対 し 、Thr添 加 食 群 で は キ モ ト リ プ シ ン 活 性 は 低 値 と な り 、 血 中Thr 濃 度 は 高 値 と な っ た 。 以 上 の 結 果 よ り 、 血 中Thr濃 度 の 低 下 が 高 ア ミ ノ 酸 食 に よ る キ モ ト リ プ シ ン の 誘 導 に 関 与 す る こ と を 示 し た 。

2. 高 ア ミ ノ 酸 食 に よ る キ モ ト リ プ シ ン 誘 導 機 構 の 解 析

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   次 に高 アミ ノ酸 食に よる キモトリプシン誘導の細胞内の機構解析を行った。20 %AA 食群と 比 較 し て 、 60 % AA 食 群 で の キ モ 卜 リ プ シ ン の 酵 素 活 性 と合 成速 度が 亢進 した のに 対し 、 mRNA レベ ルは 差が 見ら れな かっ たこと から 、高 アミ ノ酸 食に よる キモ トリ プシ ンの 誘導は 翻訳 段階 での 調節 であ るこ とを示した。次に、キモ卜リプシン活性と翻訳開始段階の活性を 表わ す指 標を 摂食 開始 から 経時 的に測 定し た結 果、 キモ トリ プシ ン活 性は 20 % AA 食 群では 経 時 的 な 変 化 が 見ら れ な か っ た の に 対 し 、 60 % AA 食 群 では mRNA レベ ルに 非依 存的 で経 時 的な 増加 が見 られ た。 また 、翻訳開始活性に関しては、20 %AA 食群では一時的な活性化しか 見 ら れ な か っ た のに 対 し 、 60 % AA 食 群で は3 時 間目 まで 活性 化が 持続 した 。こ の時 、翻 訳 開始 段階 の活 性化 を表 わす 指標 と膵臓 中の 遊離 BCAA 濃度 、キ モト リプ シン 活性 との 間にそ れぞ れ有 意な 正の 相関 が見 られ たこと から 、高 アミ ノ酸 食中 の、 主に BCAA が翻 訳開 始段階 を活性化させ、摂食開始後におけるキモ卜リプシン活性の亢進に寄与することが示唆された。

3. 高 アミ ノ酸 食に よる 膵ア ミラー ゼ活 性抑 市U 機構 の解 析

   先 の実 験で 食餌 中の BCAA がアミ ラー ゼ活 性を 抑制 する こと が示 唆さ れた ため、食餌中の BCAA に よ る ア ミ ラ ー ゼ 活 性 抑 制 とイ ン ス リ ン と の 関 連 を 調 べ た 。 20 % AA 食 と 比 較 し 、 BCAA 添 加 食 は 60 % AA 食 と 同 程 度 ま で ア ミ ラ ー ゼ の 酵 素 活 性 及 び mRNA レ ベ ル を 低 下 さ せ た の に 対 し 、BCAA 以 外 の AA を 添 加 し た 食 餌 は 、こ れら の指 標を 低下さ せな かっ た。 さ らに 、血 中イ ンス リン濃度とアミラーゼ活性との間に相関が見られなかったことから、高ア ミ ノ 酸 食 に よ る 膵 ア ミ ラ ー ゼ 活 性抑 制 は 主 に 食 餌 中 の BCAA 含 量 に 依 存 し た mRNA レ ベ ル での 調節 で、 この アミ ラー ゼ活性 抑制 への イン スリ ンの 寄与 は小 さい こと が示唆された。

   以上 、本 研究 は、アミノ酸の新たな生理作用として、分岐鎖アミノ酸が翻訳開始段階を活 性 化さ せる こと により摂食開始直後の膵プロテアーゼ合成に関与することを示唆し、膵アミ ラ ーゼ の遺 伝子 発現の調節因子としての作用を有することを明らかにした。また、生理作用 が ほと んど 不明 であった必須アミノ酸であるスレオニンの血中濃度の低下が高アミノ酸食摂 取 によ る膵 プロ テアーゼ誘導の要因であることを示唆した。本研究で見られたアミノ酸の生 理 作用 は新 規の 発見であり、膵臓以外の組織におけるアミノ酸の生理作用を解明する上でも 重 要な 示唆 を与 える もの と考え られ る。

よって、審査員一同は、橋本直人が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと

認めた。

参照

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