博 士 ( 薬 学 ) 中 川 宏 治
学 位 論 文 題 名
ユビキチン化および SUl¥/IO ・1 化修飾による 転写因子 IRF‑1 の機能制御に関する研究
学位論文内容の要旨
ユ ピキチ ンは76アミノ 酸から なる 低分子 量夕ン バク質 で、酵 母か らヒト に至るまで全ての真核生物 に 普遍的 に存在 する。 ユビ キチン は、El(ユビキチン活性化酵素)、E2(ユビキチン結合酵素)および E3( ユピキ チン リガー ゼ)の3種 類の酵 素から なるユ ピキチン化酵素系の作用により、標的タンバク質 の ルジン 残基に イソペ プチ ド結合 を介し て付加 され 、26Sプロテアソームによる分解のシグナルとして 機 能 す る 。一 方 、SUMO‑1やNEDD8など の 、 ユピ キチン と構造 的に 類似し たユピ キチン 様夕 ンバク 質 (ubiquitin‑Jike protein、以 下Ubl)も 、El 、E2 お よびE3 の3種類の酵素からなるUbl化酵素系の 作 用によ り、標 的夕ン バク 質に付 加され、標的夕ンバク質の機能変換(細胞内局在性や酵素活性などの 変 化)を 引き起 こす。 ユピ キチン 化によ る分解 とUbl化による機能変換は、細胞増殖・分化、シグナル 伝 達、転 写調節 、スト レス 応答な どの多様な細胞機能の制御に重要な役割をはたしており、その破綻が 癌 や神経 変性疾 患など の疾 患の原 因とな ると考 えら れてい る。
本 研究で は、 転写因 子であ り、細 胞増殖 や細 胞死を 制御する癌抑制因子でもあるIRF*1 (interferon regulatory factor‑l)に 焦点 をあて、IRF‑1のユビキチン化修飾と26Sプロテアソームによる分解機構、
お よび、SUMO‑1によ るIRF‑1の修 飾とそ の機能 制御 にっい て解析 した。
は じ めに 、26Sプ ロ テ ア ソ ーム に よ るIRF‑1の分 解機 構につ いて解 析した 。IRF‑1が半 減期30分の 短 寿命夕 ンバク 質であ るこ とから 、ユピ キチン ・プ ロテアソームシステムがIRF‑1の分解に関与してい る と考え た。そ れを証 明す るため に、IRF‑1の 安定性 に対するプ口テアソーム阻害剤の効果を調べた。
HeLa細 胞 をMG115とMG132( プ口 テ ア ソ ー ム阻 害 剤 ) あ るい はE64d( カ ル バ イ ン阻 害 剤 ) で 処理 し 、 抗IRF‑1抗 体を 用 いたウ ェスタ ンプ ロッテ ィング により 、IRF‑1のタ ンバク 質量を 調べ た結果 、 MG115とMG132で 処 理し た 場 合 に 、IRF‑1の蓄 積 が 観 察 され た 。 プ 口 テア ソ ー ム がIRF‑1分解 に 関 与 するこ とをさらに確かめるために、IRF‑1の分解速度に対するプ口テアソーム阻害剤の効果を調べた。
IRF‑1 cDNA発 現 ペ クタ ー を 用 い てNIH3T3細 胞 へ の ト ラン ス フ ェ ク ショ ン を 行 い 、MG132で2時 間 処 理後、 シク口 ヘキシ ミド (夕ン バク合 成阻害 剤) を添加し、時間経過に伴うIRF‑1の変動を解析した 結 果、MG132処理 によ るIRF‑1分解速 度の 遅延が 観察さ れた。
IRF‑1が プロテ アソー ムによ って分 解さ れるこ とを明 らかにできたので、次に、プロテアソームによ る 分解に 先立ち 、IRF‑1がュ ビキチン化修飾を受けるかを解析した。IRF‑1およびュビキチンの発現ベク タ ーを用 いてCOS7細胞へ のトラ ンス フェク ション を行い 、免疫 沈降 後、ウ ェスタンブロッティングを
−713ー
行った結果、IRF‑1とユピ キチンを同時に発 現させた場合にのみ 、マルチユピキチ ン化IRF‑1が検出され た。以上の結果 から、IRF‑1は、ユビキチン 化修飾を受け、26Sプ口テア ソームにより分解されると結諭 した。
IRF‑1が 短寿命夕ンバ ク質であるので、 その不安定性を規 定しているドメイン を決定した。IRF‑1のC 末端 側か ら順 次約40アミノ酸を 欠失させた3種類の変異体を 作成し:それらの安 定性を解析した結 果、
イン タク トなIRF‑1に比 較して、C末端側から39アミ ノ酸を欠失させたIRF‑1 (1‑290)の安定化が観 察さ れた 。そ こ で、 欠失 さ せた 領域 を 、安 定な タ ンバ ク質 であるGFPに融合させて 安定性を調べた結 果、
GFP融 合夕 ンパ ク 質が 不安 定 化さ れることを発見し た。以上の結果か ら、IRF‑1の不安定性を規定 する ドメインがC末端領域に存 在すると結論した 。
次に、IRF‑1のユピキチ ン化を制御する因 子を同定することを 目的として、Yeast two.hybrid system によ るIRF‑1結 合 夕ン バク 質 の探 索を 行 った 。IRF‑1 (1‑190)をLexA DNA結合 ドメインに融合さ せて 丶
baitとし て 用い 、マ ウ ス胎 児線 維 芽細 胞cDNAライ ブラ リ ーの スク ル ーニ ング を行い、20個の陽 性ク 口ー ンを 得 た。 得ら れ たク ロー ン のDNA配列 を決 定 し、SUMO 1に対 する 結 合酵素(E2 )であるUBC9 と 、 転 写 因 子STAT3の 阻 害 タ ン バ ク 質 で あ るPIAS3を 同 定 し た 。 ま た 、PIAS3が 全 長のIRF‑1と細 胞内でも結合す ることを明らかにし た。
最 近、PIASファミリータンバ ク質がSUMO‑1化修飾 におけるルガーゼ(E3 )と して機能すること が報 告さ れた の で、PIAS3がIRF‑1のSUMO‑1化修 飾 を促 進す る 可能 性を 考 えた 。そ れを証明するため に、
SUMO‑1とPIAS3を 用 い て 、IRF‑1と と も に293T細 胞 へ の ト ラ ン ス フ ェ クシ ョ ンを 行い 、 免疫 沈降 後 、 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィン グ によ り解 析 した 。そ の 結果 、PIAS3依 存 的にIRF‑1のSUMO‑1化 修飾 が 観 察 さ れ た 。 す な わ ち 、PIAS3はSUMO‑1ル ガ ー ゼ で あ り 、IRF‑1のSUMO‑1化修 飾を 促 進す ると 結論した。
IRF‑1がSUMO‑1化 修 飾 さ れ る こ と を 見 い だ し た の で 、 次 に 、SUMO‑1化修 飾のIRF‑1の 転写 活性 に 対 す る 影 響 を 解 析 し た 。IRF‑1、SUMO‑1お よ びPIAS3の 発 現 ベ ク タ ー を 用 い て 、ISRE (interferon‑stimulated response element)をルシフェラーゼ遺伝子の上流にもつ1亅ポータープラスミド とと もに 、293細 胞ヘ トラ ン スフ ェクションし、ル シフェラーゼアッ セイによりIRF‑1の転写活性 を調 べた 。そ の 結果 、SUMO1とPIAS3を共 発 現さ せた 場 合に、IRF‑1の転 写活性が抑制され た。このIRF‑1 の 転 写 活 性 の 抑 制 がSUMO‑1化 修 飾 に よ る か を 解 析す るた め に、PIAS3のSUMO‑1ル ガー ゼ 活性 の発 I
現 に 必 須 なRING fingerド メ イ ン のCys残 基 をSerに 置 換し たC334S変 異 体を 作成 し 、IRF‑1に 対す るSUMO‑1リ ガ ー ゼ 活 性 とIRF‑1の転 写 活性 に対 す る影 響を 調 べた 。そ の 結果 、C334S変 異 体で は、
野 生 型PIAS3と 比 較 し て 、IRF‑1のSUMO‑1化 修 飾 が減 少し 、IRF‑1の転 写活 性 に対 する 抑 制効 果が 失 わ れ て い た 。 す な わ ち 、PIAS3は 、IRF‑1のSUMO‑1化修 飾 を促 進す る こと で、IRF‑1の 転写 活性 を負に制御して いると結論した。
以 上の 本 研究 から 、 (1) 転写 因子IRF‑1が ュビ キチ ン化修飾を受 け、26Sプ 口テアソームによ り分 解 さ れ る こ と 、 (2)PIAS3お よ びUBC9の 作 用 に よ り 、IRF‑1がSUMO‑1化 修 飾 を 受 け 、 転 写 活性 が抑制されるこ とを明らかにした。
714 ‑
学位論文審査の要旨 主査 教授 横澤英良 副査 教授 有賀寛芳 副査 助教授 澤田 均 副査 助教授 平 敬宏
学 位 論 文 題 名
ユビキチン化およびSUIVIO ・1 化修飾による
転写 因子 IRF ・ 1 の機能制 御に関す る研究
ユピキチンは、酵母からヒトに至るまで全ての真核生物に普遍的に存在する低分子 量夕ンバク質である。ユピキチンは、El(ユピキチン活性化酵素)、E2(ユピキチン 結合酵素)およびE3(ユピキチンリガーゼ)からなるユピキチン化酵素群により、
標的夕ンパク質に共有結合を介して付加され、
26S
プロテアソームによる分解のシグ ナル として機 能する 。一方、SUMO‑1
などの 、ユビキチンと構造的に類似したユピ キチ ン様夕ン バク質(UbD
も、El 、E2
およびE3
からなるUbl
化酵素群により、標的夕ンパク質に共有結合を介して付加され、標的夕ンバク質の機能変換を引き起こ す。ユピキチン化による分解と
Ubl
化による機能変換は、細胞増殖、シグナル伝達、転写調節などの多様な細胞機能の制御に重要な役割をはたしており、その破綻が癌や 神経変性疾患などの疾患の原因となると考えられている。
本論文提出者は、転写因子であり、細胞増殖や細胞死を制御する癌抑制因子でもあ る
IRF‑1 (interferon regulatory factor‑l)
を取り上げ、IRF‑1のユピキチン化修飾とSUMO‑1
化修 飾によ る機能制 御に関す る一連 の研究を展開し、以下の成果をおさめ た。(
1
)IRF‑1
夕ンパク質の代謝回転がプ口テアソーム阻害剤によって阻害されること を見いだし、IRF‑1の分解にプ口テアソームが関与することを明らかにした。さらに、IRF‑1
とユピキチンの発現系を用しゝて、IRF‑1
がマルチユピキチン化されることを見 いだし、IRF‑1
が、ユピキチン化修飾を受け、26S
プロテアソームにより分解される ことを明らかにした。(2)IRF‑1の
C
末端側から順次約40アミノ酸を欠失させた変異体の安定性を解析し、―715―
不安 定なイ ンタクトIRF‑1と比較して、C末端側から39アミノ酸を欠失させたIRF‑1
(1‑290)
が安定化されることを見いだした。さらに、欠失させた領域を融合させたGFP 融合夕ンバク質が不安定化されることを見いだし、IRF‑1の不安定性を規定するドメ インがC末端領域に存在することを明らかにした。(3)
Yeast two‑hybrid system
を用 いてIRF‑1
結合夕 ンバク 質を探索 し、SUMO‑1 に対する結合酵素(E2 )であるUBC9と、転写因子STAI
`3
の阻害夕ンバク質であるPIAS3
を 、IRF‑1
結 合 夕 ンバ ク 質 とし て 同 定し た。さら に、PIAS3がSUMO‑1
化 修 飾に おける りガーゼ くE3,) として機 能する可能性を証明するために、SUMO‑1とPIAS3
を用い て、IRF‑1とともに293T
細胞へのトランスフェクションを行い、PIAS3 依 存 的にIRF‑1
がSUMO‑1化される ことを 見いだし た。す なわち、PIAS3
はSUMO‑1
リ ガ ー ゼ で あ り 、IRF‑1
のSUMO‑1
化 修 飾 を 促 進 す る こ と を 明 ら か に し た 。(
4
)SUMO‑1化 修飾 がIRF‑1
の 転写 活 性 に対 する 影響を 調べるた めに、IRF‑1、SUMO‑1
お よ びPIAS3
の 発 現 ベ ク タ ー を 用 い た り ポ ー タ ー ア ッ セ イ を 行 い 、SUMO‑1
とPIAS3
を 共発現 させた場 合に、IRF‑1
の転 写活性 が抑制さ れるこ とを見 いだ した。IRF‑1
の転 写活性 の抑制がSUMO
.1化修飾によるかを解析するために、,
PIAS3
のSUMO‑1
リ ガ ー ゼ 活 性の 発 現 に必 須 なRING finger
ド メ イン のCys
残 基 をSer
に 置 換し たC334S
変 異体 を 作 成し 、IRF‑1
に対す るSUMO‑1
リガ ーゼ活 性とIRF‑1
の転写 活性に対する影響を調べた。そして、C334S変異体では、野生型PIAS3
と 比 較し て 、IRF‑1
のSUMO‑1
化修 飾が減 少し、IRF‑1の転 写活性に 対する 抑制効 果 が 失わ れ る こと を見い だした。 以上の 結果から 、PIAS3は、IRF‑1のSUMO‑1
化 修飾を促進することで、IRF‑1の転写活性を負に制御していることを明らかにした。以上の新知見およびそれらを得るために用いた新研究方法は、転写因子IRF‑1にお ける ユピキ チン化修 飾および
SUMO‑1
化修飾 の生理的意義の理解にとどまらず、ユ ピキ チン化 とUbl化という翻訳後修飾による細胞機能の制御機構を理解する上で重 要な寄与をなすものである。審査委員一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号を受ける にふさわしいものと一致して判断した。
‑ 716