博 士 ( 薬 学 ) 武 田 晴 治
学 位 論 文 題 名
ATP のウシ血清アルブミンヘの吸着および 吸着部位に関する研究
学位論文内容の要旨
【序論】
血清には6〜8%のタンバク質が含まれている。その50〜60%がアルブミンである。生体内で アルブミンは、多くの生体内成分を吸着しそれらの体内平衡を維持する機能を持っている。
アルブミンのそれら物質吸着部位は、大きく分類して次のように6箇所報告されている¨。
すなわち、1)ワルファリン吸着部位(サイトI)、II)ベンゾジアゼピン吸着部位(サイトn)、
III)ジギトキシン吸着部位(サイトm)、rv)長鎖脂肪酸吸着部位(C16〜C18)、V)中鎖脂肪 酸吸着部位(C8〜Cl0、卜リプトフんン等)、VD Cu++、Ni十十吸着部位である。ここでジ ギトキシンはサイトIに吸着するという報告もある。1994年、Carterらによルヒト血清アル ブミン(HSA)の立体構造がX線結晶解析により明らかにされた2)。この立体構造をもとに、多 くの薬物吸着部位が立体構造上どの位置にあるのかが推定されている。しかし、詳細な吸着 機構について判明している部位はごく少数である。
近 年ATP依 存系 やATP ase活性がBSAの存 在によ り影響を 受ける ことが報 告され てい ることよ り川)、ATPのBSAへの 吸着の 可能性が 考えら れる。ATPのBSAへの吸着に関し ては、Bauerらにより報告されている5)。しかし、彼らはESRで解析するために大きなプ口―ブ を」aiTPに導入している。そのため、導入したプローブが吸着に影響を与える可能性があり、ま た、詳細検討も行われていない。そこで、ATPのBSAへの吸着について限外濾過法、31PーN MR等を用いて詳細な検討を行い、次に吸着部位と吸着機構について光親和性標識法等を用い て検討を行った。
【結果および考察】
まず、限外濾過法、31P−NMR法によルバI、Pが吸着するかについて検討した。その結果、
吸着にはpH依存性があり、サイトI吸着物質により非競合的阻害され、CI.により競合的に阻 害されることが明らかになった。吸着部位数はpH依存性がなく1であることがわかった。ま た、サイ卜H吸着物質、脂肪酸等は、吸着を阻害しないことより、ATPはサイトIの新たなサ ブサイ卜に吸着する可能性があることが示唆された。サイトI質吸着部位は、多くの薬物を吸 着することより、薬物相互作用が報告され数多くの研究が行われているが、サブサイトを考慮 した吸着の機構およびそのドメインの性質については不明な点が多い。また、X線結晶解析で 得られた¨静的情報¨だけでは、吸着の機構及び薬物間相互作用を論じることはできいない。そ
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こでATPのBSAへ の吸 着部 位及 び その 吸着 機構 を明 ら かに する こと によ り 、サ イトIに 関する 新た な情 報を 得 ることができると考えた。 そこで、吸着の熱力学量を 等温滴定型カ口リメトリ
−(ITC)を用 いて 測定 し 吸着 機構 につ いて 検討を行い、光親和性標識 法を用いてATPのBSAへの 吸着部位について検討を 行った。
ITCを 用 い て8〜37℃ の等 温 条件 下、pH 5.5ま た はpH 7.4で吸 着に よ る微 量熱 の測 定 を行 な っ た 。 こ の 結 果ATPの 吸 着 は ェ ン タ ル ピ ― 駆 動 型で あり 、pH 5.5で は△G°d`△S°d`
△H゜ロJの温度依存性が 見られた。また、△G゜〜の 温度依存性は、△S゜|`△H゜匸I亅の温度 依存 性よ り小 さ いことが判明した。吸着は 、エンタルピーとエント口 ピ―の補償効果によると 考え られ る。20 ‑‑35℃ では △C。が 負で 疎水 結合 等 が吸 着に 関与し ている可能性が示唆され た。 この こと に より 、吸 着機 構 は、20℃ 付近 を境 に 変化 し、 異なっ た相互作用をしている可 能性 があ るこ と が示 唆さ れた 。 一方 、pH 7.4では△H°ca亅の温度依 存性がほとんど見られな かった。
pH 5.5で5、20、35℃ で320nmの波 長の 光に より 光 親和 性標 識を行 ったところ温度によルピ ーク 強度 が変 化 する もの と変 化 しな いも のがあることがわかった。こ のことよりATPの吸着部 位は 、温 度に よ り構 造変 化し な いサ ブト メイ ンIcと 温度 によ り構 造変 化 をす るサ イトIにあ るこ とが 判明 し た。 各温 度で 標 識さ れた 強度を比較すると、ATPは、 温度により標識量が変化 する サイ トIに多 く標 識 され るこ とが わか り 、サ イトIに 対す る親和 性が強いことが示唆され た。 また 、限 外 濾過 法に よるATPの吸 着部 位は1つ、光親和性標識法で は2っとなる理由として 吸着 が逐 次反 応 であ るこ とが 考 えら れる 。サイトIに吸着するワルフ ァリン、及びアザプロバ ゾン とも にATPの 吸着 を 非競 合的 に阻 害す る こと より 、ATPの 吸着 部位 は サイ 卜Iの新 たなサ ブサ イト であ る こと が明 らか と なっ た。 また、光親和性標識法により 酸性(pH 5.5)でサイトI の微 細構 造が 温 度により変化していること が示唆された。一方、中性(pH 7.4)でpH 5.5の時と 同様 に検 討し た ところ、pH 5.5と同じピ― クがみられるが、温度によ るピ―ク強度の変化はな く吸 着部 位の 構 造は 温度 によ り 影響 を受 けないことが判明した。さら に、中性でのサイトIの 構造 は、pH 5.5の35℃と ほぽ 同 じ構 造を していると考えられる。pH5.5とpH 7.4でこのような 構造 特性 が異 な る理 由と して サ イトI近傍 にあるヒスチジンが関与し ている可能性が考えられ る。 以上 、pH 5.5及 びpH 7.4で の光 親和 性標識法により得られた結果 は、ITC測定により得ら れ た 熱 力 学 量 の 温 度 依 存性 の 結果 と一 致す る。 ま た、ATPがサ ブト メイ ンIc及 びサ イトIに 吸 着 し た と き 予 想 さ れ る 」eLTPの 配 位 の し か た に つ い て も 検 討 を 行 っ た 。 ATPがBSAに 吸 着 す る こと の 生理 的意 義と して 、 アル ブミ ンが 細胞 外 で一 時的 に上 昇 した ATP遊離 体の 濃度 を減 少 させ 細胞 死を 抑制 し てい る等 が考 え られ るが これ は今 後 の課 題であ る。 吸着 の機 構 及び 吸着 部位 の 構造 特性 について詳細な検討を行った 結果、ATP吸着の機構及 びサ イトI吸 着部 位の構造特性についてX線 結晶解析では得られない¨ 動的情報¨が得られ、今 後サ イトI領 域の 薬物 吸 着及 び相 互作 用を 研究する上で重要な基礎デ ータとなると思われる。
【参考文献】
1) Ulrich Kragh−Hansen (1981) Pharm. Rev.,33,17−53 2) X. M. He,D.C. Carter(1992) Nature,358,209
3) James Driscoll,Alfred.L.Goldberg (1989) Proc. Natl. Acad. Sci.,86,787―791 4) MartaE.Vazquez―memije et all (1988) Arcん,団〇曲em.厨ppカ弸.,260,67−74 5)M.Bauer,J.Baumannm,W.E.1丶rommer(1992)F.EBS己ef亡 . ,313.288 ―625―
学位論文審査の要旨 主査 教授 加茂直樹 副査 教授 栗原堅三 副査 助教授 宮内正二 副査 助教授 柏柳 誠
学 位 論 文 題 名
ATP のウシ 血清アルブミンへの吸着および 吸着 部位に関す る研究
アルブミンは血清に含まれる主要夕ンパク質である.このタンパク質は生体内物質 や外来物質を吸着し血流によって輸送する機能を持つ,同時に,多くの生体成分を吸 着し,それらの体内平衡を維持する機能を持っている.アルブミンの吸着部位に関す る研究は 多くなされ .大きく 分類して 次の 6 力所が報告されている,すなわち, 1 ) ワルファ リン吸着部 位(サイ トI ), 2) ベ ンゾジア ゼピン吸 着部位( サイト II ),
3 )ジギ卜 キシン吸着 部位(サ イトIII ), 4 )長鎖脂肪酸吸着部位, 5 )中鎖脂肪酸 吸着部位 ,6 ) Cu+ 十. Ni++ 吸着部位である.サイ卜 1 吸着部位は大きなドメインから 形成されていると考えられ.近年さらにニつのサブサイトが存在していると考えれる ようになった.
アルブミ ンはATP とは相互作用をしない「不活性」なタンパクと考えられている.
しかし, ATP 依存系や ATPase 活 性が血清 アルブミ ンの存在 によって 影響を受けるこ とが報告 されている,ATP がアルブミンに吸着すると考えられ,実際それを示した報 告もされ ている,し かし, ESR を 用いてい るので, NO ラジカル を持った疎水性のプ 口一ブの部分がアルブミンと相互作用している可能性がある.(実際,申請者の研究 の結果を 考えると,この報告はATP の正しい吸着を観測していないと結論出来る.)
そこで,ATP が血清アルブミンに吸着することを限外ろ過法および NMR により示した,
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pH 依存性,イオン強度依存性について詳細な検討を加えている.NMR のデ一夕から,
ATP の ど の 部 分 が タ ン パ ク と 相 互 作 用 し て い る か を 明 ら か に し て い る , 滴定型カ 口リメトリーを用いて,吸着における△H °,△G °,△S ゜を5 ℃〜35 ℃ で求め.吸着の熱力学的性質について検討している,
photo ―affinity labeling によって,ATP のアルブミンの吸着部位を推定している,
ラベルさ れるぺプ チド断片 を申請者 は3 種類のラ ベル剤を 合成し, 8 ―N3‑ £ATP が 最適であることを見いだしている.このラベル剤を用いて, ATP の結合部位を明らか にした. その結果,サイトI の近傍であることを明らかにしている.サイ卜 1 結合物 質がATP のア ルブミン への結合 を non ―competitive に阻害することは,この結論を 支持する . photo −affinity の実験デ一夕の詳細な検討により, 2 力所の吸着部位が 推定されたが.結合実験からは結合部位数は 1 であり,―見矛盾する結果となるが・
申請者は,2 力所の吸着部位が直列的にっながっていると推定し.報告されているア ルブミンの結晶構造から.この推定は妥当であると推論している,この吸着部位の内 の1 つは.CI の結合部位であることを明らかにした.
ATP のアルブミンへの吸着の生理的意義も議論している.
このように.申請者は,初めてATP がアルブミンに吸着することを明らかにし.吸 着 部 位 を 推 定 し た も の で あ り . 薬 学 博 士 を 授 与 す る に 値 す る と 認 め た .
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