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小児感染免疫第29巻第1号

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は じ め に

 細菌性髄膜炎の報告件数は,インフルエンザ菌 b 型(Haemophilus influenzae type b:Hib)ワク チンおよび結合型肺炎球菌ワクチン(pneumococ-cal conjugate vaccine:PCV)の普及を契機に世

界的に激減している1,2).ワクチンの導入が諸外国 より遅れた日本でも,両ワクチンが定期接種と なって以降,細菌性髄膜炎は大幅に減少し,ワク チンの効果は明らかである3)  しかし,ワクチンによる細菌性髄膜炎の発症予 防効果が世界的に報告されているにもかかわら ず,ワクチン接種後に細菌性髄膜炎を発症する症 例も依然として報告されている.ワクチンによる 強い予防効果を考慮すると,免疫不全症や解剖学 的異常などの基礎疾患が原因で細菌性髄膜炎を発 症した可能性が示唆され,致死的疾患である細菌 性髄膜炎を繰り返さないためにも,初発時に基礎 疾患の有無を同定することが重要となる.今回わ れわれは,頭蓋底骨折の 1 年半後に肺炎球菌性髄 膜炎を発症した 4 歳男児例を経験した.基礎疾患 の有無を精査し,頭蓋底に髄膜腔から鼻腔へ開通 する瘻孔が確認された.本症例を通じて,基礎疾 患の有無を入念に精査する必要があると考えられ

頭蓋底骨折の 1 年半後に細菌性髄膜炎を

発症した一男児例

杉 浦 英 恵

1)

 伊 川 泰 広

1)

 井 上 なつみ

1)

加 藤 明 子

1)

 黒 田 文 人

1)

 谷内江 昭 宏

1) 要旨 近年,ワクチンの普及に伴い,細菌性髄膜炎に遭遇する機会が日常診療のなか で激減した.しかし,ワクチン接種後にもかかわらず細菌性髄膜炎を発症する症例が あり,解剖学的異常や免疫不全症などの基礎疾患の存在が示唆される.基礎疾患を有 することで細菌性髄膜炎を発症した症例は再発する危険性があり,細菌性髄膜炎が致 死的疾患であることを考慮すると,初発時における基礎疾患の同定が重要となる.今 回,頭部外傷時に髄液鼻漏を認め,その 1 年半後に肺炎球菌性髄膜炎を発症した 4 歳 男児例を経験した.肺炎球菌ワクチン接種後の発症であることから基礎疾患の有無を 精査し,頭蓋底に髄膜腔から鼻腔へ開通する瘻孔を同定し,頭蓋底修復術を施行し, 閉鎖し得た.頭蓋底骨折の既往があり瘻孔が残存している症例では,受傷急性期のみ ならず遠隔期でも細菌性髄膜炎を発症した報告が散見される.受傷から長期間経過す ると,頭部外傷の既往が明らかにされず精査されないため,再発を繰り返し重篤な神 経学的後遺症を残し得る.ワクチン接種後にもかかわらず細菌性髄膜炎を発症した症 例に遭遇した際は,基礎疾患の有無を入念に精査する重要性が示唆されたため報告する. Key words:頭蓋底骨折,髄液鼻漏,細菌性髄膜炎,脳槽シンチグラフィ,肺炎球菌ワクチン 1)金沢大学医薬保健研究域医学系小児科 〔〒 920‒8640 金沢市宝町 13‒1〕

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たため報告する. Ⅰ.症  例  症例:4 歳,男児.  主訴:発熱,頭痛,嘔気.  出生歴:特記事項なし.  既往歴:頭蓋底骨折と左髄液鼻漏(3 歳).  アレルギー歴:アセトアミノフェンで全身に発 赤疹が出現.  予防接種歴:7 価 PCV,ジフテリア・百日咳・ 破傷風(DPT)および不活化ポリオワクチン(IPV) 4 回接種済み,Hib ワクチン 3 回接種済み,BCG および麻疹・風疹混合(MR)ワクチンおよびム ンプスワクチン 1 回接種済み.  現病歴:3 歳時に自宅 3 階から転落し,前頭部 脳挫傷,頭蓋底骨折,左髄液鼻漏を認めた.A 病 院で保存的に加療され,左髄液鼻漏は 1 週間程度 で自然停止した.以後,同院脳神経外科で経過観 察されたが,髄液鼻漏を含め後遺症を認めず,受 傷後 1 カ月で経過観察終了となった.  頭部外傷から 1 年半後(4 歳),深夜より発熱, 頭痛,嘔気を認めたため A 病院の救急外来を受診 した.感冒と診断され,対症療法のみでいったん 帰宅となった.しかし,その後も強い頭痛,嘔気 が続くため B 病院を受診したところ,血液検査 で,白血球数≧30,000/μl,CRP 値 1.5 mg/dl と炎 症反応の高値を認めた.細菌性髄膜炎が疑われ髄 液検査を施行したところ,髄液細胞数の増加およ び髄液スメアでグラム陽性双球菌を認めたため, 細菌性髄膜炎の加療目的に同日当院に紹介となっ た.  入院時現症:身長 105.0 cm,体重 16.6 kg,体温 39.6℃,脈拍 113 拍/分,血圧 131/86 mmHg,呼 吸数 42 回/分,GCS E3V4M6,項部硬直あり,瞳 孔径は 3 mm/3 mm で,対光反射は両側で認めら れ迅速であった.四肢は小刻みに震え,右上肢は 衣類をまさぐるような自動症様の運動を認めた. 前額部正中に 5 mm×5 mm 大のコの字型の陳旧 性瘢痕を認めた.  入院時検査所見(表 1):血液検査では白血球数 32,840/μl(好中球 95%),CRP 値 4.3 mg/dl,プ ロカルシトニン値(PCT)26.66 ng/dl と炎症反応 の上昇を認めた.また,持続する四肢の震えに伴 う CK の軽度上昇を認めた.補体や免疫グロブリ ンの低下を疑う所見は認めなかった.髄液細胞数 は 4,811/μl(単核球 96.6%,顆粒球 3.3%)と上昇 していた.また,培養検査では髄液,血液,鼻腔 いずれからも 13 価 PCV に含まれていない血清型 15A の多剤耐性肺炎球菌を検出した.  頭部画像所見(図 1):頭部 MRI では,造影後 FLAIR(図 1 a)で右側頭部から大脳鎌を中心に 脳表および脳溝に沿う高信号域が散在し,髄膜炎 に矛盾しない所見であった.また,T2 強調画像 (図 1 b)では両側副鼻腔炎が指摘された.  入院後経過(図 2):当院受診直後に数秒間の強 直間代発作を認めたため,midazolam 持続投与下 で加療を開始した.その後,明らかなけいれん発 作を認めなかった.入院当初,肺炎球菌とインフ ルエンザ菌を念頭に ceftriaxone(CTRX)120 mg/ kg/day,meropenem(MEPM)120 mg/kg/day, dexamethasone 0.6 mg/kg/day,mannitol 8 mg/ kg/day で治療を開始した.前医の培養検査から ペ ニ シ リ ン 耐 性 肺 炎 球 菌(penicillin‒resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)が検出された ため(表 1),薬剤感受性が低い CTRX を中止し vancomycin(VCM)40 mg/kg/day を追加した. また,MEPM に対する感受性が低いことから, PRSP への感受性が優れている panipenem/bet-amipron(PAPM/BP)への変更も考慮したが, 熱型が改善傾向であったこと,当院の検査システ ムでは PAPM/BP の薬剤感受性を測定できない ことから,この時点での変更は行わなかった.し かし,治療開始48時間後の髄液培養検査から依然 として PRSP が検出され,薬剤の効果は不十分と 考えられた.入院5日目に再度発熱を認めたため, MEPM を PAPM/BP に変更し,VCM の投与量は 血中濃度を指標に 60 mg/kg/day まで増量した. その結果,熱型や炎症反応は徐々に改善し,入院 9 日目の髄液培養検査から細菌は検出されなかっ た.静注抗菌薬を 3 週間継続し,退院となった. 退院時,神経学的後遺症評価のため施行した聴力 検査と脳波検査では,明らかな異常所見は指摘さ れなかった.  本症例が髄膜炎を発症した原因として頭部外傷

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a b 図 1 入院時画像所見 a :頭部造影 MRI FLAIR.右側頭部~大脳鎌を中心に脳表,脳溝に沿う高信号が散見される. b :頭部 MRI T2WI.副鼻腔に液体貯留を認める. 表 1 入院時検査所見 【血液検査】 〈血球算定〉 WBC 32.84×103/μl  Neu 95.0%  Lym 2.0%  Eo 0.0%  Ba 0.0%  Mo 3.0% RBC 4.55×106/μl Hb 12.6 g/dl Ht 37% Plt 282×103/μl 〈凝固〉 PT‒INR 1.28 APTT 33.9 秒 Fbg 380 mg/dl FDP‒DD 4.5μg/ml 〈生化学〉 AST 26 U/l ALT 14 U/l LDH 280 U/l ALP 732 U/l γ‒GTP 10 U/l T‒Bil 0.6 mg/dl CK 119 U/l CKMB 活性比 6.7% TP 6.2 g/dl Alb 3.8 g/dl NH3 29μg/dl BUN 10 mg/dl Cr 0.24 mg/dl Na 137 mEq/l K 3.4 mEq/l Cl 102 mEq/l 血糖 131 mg/dl 〈免疫・血清〉 CRP 4.3 mg/dl PCT 26.66 ng/ml IgG 910 mg/dl IgA 65 mg/dl IgM 64 mg/dl C3c 104 mg/dl C4 25 mg/dl CH50 35 U/ml IgG1 579.0 mg/dl(74.25%) IgG2 126.0 mg/dl(16.16%) IgG3 43.3 mg/dl(5.55%) IgG4 31.5 mg/dl(4.04%) NBT 還元試験 陽性 末梢血リンパ球サブセット 異常なし 【髄液検査】 細胞数 4,811/μl  単核球 96.6%  顆粒球 3.3% 蛋白 130 mg/dl 糖 68 mg/dl 【細菌学的検査】 髄液培養 S. pneumoniae※2+ 血液培養 S. pneumoniae※陽性 鼻腔培養 S. pneumoniae※1+ 莢膜血清型 15 A 薬剤感受性〔※( )内は MIC 値,濃度単位:μg/ml〕 penicillin G:R(4),cefotaxime:R(>4),cefozopran:R(>4),CTRX:R(>4),MEPM: I(0.5),azithromycin:R(>4),chloramphenicol:S(<=4),minocycline:R(>4), VCM:S(0.5),sulfamethoxazole‒trimethoprim:S(<=0.5)

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時の髄液鼻漏の既往に着目し,微小な頭蓋底‒鼻 腔交通路の存在を疑った.111In‒DTPA を用いた 脳槽シンチグラフィを施行したところ,シンチカ メラで描出されるような明らかな髄液漏は認めら れなかった(図 3).しかし,あらかじめ鼻腔内に 留置した綿球の RI count を核種注入から 24,32, 48 時間後に評価したところ(表 2),開始 24 時間 の時点で左優位の漏出が認められ,間欠的な左髄 液鼻漏の存在を同定した.脳槽シンチグラフィの 結果を踏まえて頭部 CT を詳細に検討したが,外 傷時に認めた頭蓋底の骨折線を同定することはで きなかった(図 4 a,b).しかし,頭部 MRI(図 4 c,d)では左鼻腔内に突出する高信号域が認め られ,鼻腔内へのクモ膜の陥頓が疑われた.当院 脳神経外科および耳鼻咽喉科で内視鏡的髄液鼻漏 閉鎖術が施行された.頭部 MRI と同部位に硬膜・ 骨欠損部を認め,欠損部にクモ膜が陥頓し拍動性 の髄液漏出が確認され,粘膜皮弁を用いることで 頭蓋底は修復し得た.術後,綿球を用いた脳槽シ ンチグラフィを再検したが髄液鼻漏は認められな かった.現在,発症より半年が経過するが,髄液 鼻漏や細菌性髄膜炎の再燃は認めていない. Ⅱ.考  察  中枢神経系は免疫学的・解剖学的に保護された 領域であるため,細菌性髄膜炎を発症させるため に,細菌は宿主のあらゆる免疫機構を回避し, blood‒brain barrier に代表される障壁を越えて侵 入する必要がある.また,過去の報告にもあるよ うに,Hib ワクチンや PCV に代表される細菌性髄 膜炎の発症を予防するワクチンの効果は絶大であ る1,2).そのため,免疫機構が強化されたワクチン 接種後の患児が細菌性髄膜炎を発症した場合,無 論,非ワクチン血清型による細菌性髄膜炎の可能 性は否定できないが,免疫不全症や解剖学的異 常,慢性感染症による基礎疾患の存在を常に念頭 に置いて診察する必要がある.例えば,頭部外傷 や先天性骨欠損,類皮囊胞/類表皮囊胞をはじめ とする解剖学的異常が主要因である場合,頭蓋内 と体外との直接交通路を経由して,菌血症を介さ 40.3 37.5℃ 32.8 4.3 けいれん 髄液 細胞数(/μl) 髄液培養 肺炎球菌 4,811 2,461 dexamethasone0.6mg/kg/day mannitol midazolam CTRX120mg/kg/day MEPM120mg/kg/day PAPM/BP160mg/kg/day VCM60mg/kg/day clarithromycin+carbocysteine VCM40mg/kg/day 127 2+ 2+ 四肢のけいれん 右上肢の異常運動 項部硬直 CRP (mg/dl) WBC (×103/μl) 35.4 22.2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 hospital days 9.2 1.6 0.6 0.9 1.0 0.2 0.1 13.0 fever 39.2 39.0 38.8 図 2 入院後経過

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ずに中枢神経系に細菌が侵入する.そのため,廔 孔の閉鎖がなされなければ髄膜炎の再燃を繰り返 す可能性が示唆される.Tebruegge らは,1998~ 2007 年に報告された 144 報 363 例の再発性細菌性 髄膜炎を対象に,基礎疾患について報告してい る4).基礎疾患の内訳は 59%が解剖学的異常であ り,そのうち頭部外傷が 28%と最多であった.わ が国での基礎疾患の内訳を示すまとまった報告は まだ存在しないが,頭部外傷を背景とする細菌性 髄膜炎の小児例がわが国でも散見されることを考 慮すると5~9),発熱,嘔吐,頭痛などの髄膜刺激 症状を認めた場合,頭部外傷の既往に関して問診 することは臨床的に非常に重要である.  わが国における頭部外傷後細菌性髄膜炎の小児 報告例を表 3 に提示する5~9).5 症例すべてで 2~ 4 回の再発を繰り返した後に介入に至っており, 基礎疾患への早期アプローチがなされていないこ とがわかる.また,5 例のうち 3 例で顕性髄液漏 を認めず,顕性髄液漏を認めた 2 例のうち 1 例は, 頭部外傷から 7 年間経過した後に 4 日間のみ髄液 漏を認めている.これらの症例報告から,後に細 菌性髄膜炎を発症したにもかかわらず,受傷時に 顕性髄液漏を認めない,もしくは短期間のみ持続 した例が大半であることがわかった.また,受傷 から初回髄膜炎発症および再発を繰り返す一連の 経過も,数カ月~数年と長期にわたることも示さ れた.実際に,頭部外傷後の髄液漏合併例で受傷 後早期に髄膜炎を発症するのは数パーセントにす ぎず,髄液漏のほとんどは 2 週間程度で自然軽快 するが,一部の症例では年単位の経過で再燃する といわれている10~12).その要因として,急性期に は硬膜亀裂部の凝血塊の形成,骨欠損部へのクモ 膜,脳実質の陥頓,鼻粘膜の腫脹などによりいっ たん髄液漏が消失するが,後に凝血塊やクモ膜, 脳実質の吸収,頭蓋内圧の変化,鼻粘膜腫脹の改 善などにより廔孔が解除される.その後,髄液拍 動による骨融解などの修飾因子が加わることで, 再燃と軽快を繰り返す機序が想定される9,11,13).本 例も,頭部外傷後1週間程度で髄液鼻漏が消失し, その後の経過は良好であった.しかし,受傷 1 年 後に初回髄膜炎を発症しており,過去の報告と合 致する.このように頭部外傷後細菌性髄膜炎の発 症は,受傷時から発症までの経過が長い特徴があ るため,再発のたびに別の医療機関を受診し,過 去の髄膜炎発症歴や外傷歴が聴取できていない理 由から,多くの症例で診断および根治療法が遅れ た可能性が考えられる.細菌性髄膜炎の死亡率お よび神経学的後遺症合併率が高いことを考慮すれ ば,顕性髄液漏の有無を問わず頭部外傷歴がある 場合には,初回の髄膜炎発症時であっても外傷後 髄液漏の可能性を念頭に,頭蓋底の瘻孔検索およ 左側面 右側面 a b c 図 3 脳槽シンチグラフィ(111In‒DTPA) a:3 時間後像 b:6 時間後像 c:48 時間後像 表 2  脳槽シンチグラフィ(111In‒DTPA).鼻腔内 に留置した綿球の RI count. 核種注入 からの経過 時間 留置時間 右鼻腔 左鼻腔 バック グラウンド 24 時間 1 時間 1,704 17,970 1,102 32 時間 1 時間 1,213 1,482 1,102 48 時間 1 時間 1,175 3,151 1,102 ※単位:count

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び閉鎖術を施行すべきである.  髄液漏の診断に,脳槽シンチグラフィがしばし ば用いられる.脳槽シンチグラフィは核種を髄注 し,頭蓋外への核種の漏出を確認する検査だが, 髄液漏がわずかな場合は画像のみでは検出するこ とが困難である.また,間欠的に髄液漏を認める ような症例では,撮像のタイミングによっては検 出できない可能性がある.本例では,普段の生活 で鼻腔からの髄液漏が確認されていなかったた め,脳槽シンチグラフィの画像だけでは髄液漏を 検出することは難しいことが予想された.そこ で,綿球を鼻腔内に留置しガイガーカウンターを 用いて RI カウントをすることで髄液漏の存在を 確認することができた.本例のように,脳槽シン チグラフィにおける画像評価のみでは検出困難な 症例があることを念頭に,潜在的な感染ルートが 疑われる症例においては,鼻腔内綿球の RI カウ ントも同時に評価することが有用であると考えら れた.  頭部外傷後の細菌性髄膜炎の特徴として,起炎 菌に占める肺炎球菌の割合が 80~90%と多いこ とが複数の報告で述べられているが,その理由は 明らかとされていない4,14).しかしこのことより, 頭部外傷歴のある細菌性髄膜炎では起炎菌が同定 a b c d 図 4 髄液漏精査のための画像検査 a : 頭部 CT.頭部外傷直後(3 歳).蝶形骨正中から鼻腔に達する微小な骨折線を認める. b :頭部 CT.頭部外傷から 1 年半後.骨折線は不明瞭化している. c,d:頭部 MRI T2WI.鼻腔側への髄液高信号の落ち込みを認める.

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される前から肺炎球菌を想定した治療戦略を練る ことができる.わが国のガイドラインによると, 成人では第 3 世代セフェム耐性の肺炎球菌に対し カ ル バ ペ ネ ム 系 抗 菌 薬 の 使 用 が 可 能 だ が, PAPM/BP の有効性はいまだ確立されていな い15).Infectious Diseases Society of America (IDSA)のガイドラインでも,頭部外傷後髄膜炎 の起炎菌として肺炎球菌を筆頭とする鼻腔内保有 菌があげられ,わが国の成人の肺炎球菌性髄膜炎 と同様に VCM と第 3 世代セフェムとの併用が推 奨されている16).しかし,小児の肺炎球菌性髄膜 炎に対する第一選択薬は MEPM より感受性が優 れている PAPM/BP とされており,効果不十分な 場合に VCM との併用が推奨されている15).本症 例においても MEPM の効果は不十分であり, PAPM/BP に変更後より炎症の沈静化を図ること ができた.以上より,頭部外傷後髄膜炎の起炎菌 として肺炎球菌であることを早期から想定し,適 切な抗菌薬治療を行うことが患児の神経学的予後 を改善できると考えられた.  冒頭でも触れたが,肺炎球菌感染症に対するワ クチンの効果は絶大であり,粘膜免疫を誘導し個 体レベルの鼻腔内保菌率を低下させるとともに, 集団免疫効果によりワクチン未接種者の肺炎球菌 感染症を減らす効果もある17).以上より,頭部外 傷後髄液漏を認めた症例に対し髄膜炎予防のため のワクチン接種は意義があり,より多くの血清型 をカバーできる 13 価 PCV の追加接種は有用だと 考えられる.一方で,血清型置換により血清型 15Aを含む非13価PCV血清型が増加しており17) 非ワクチン血清型肺炎球菌に対する予防措置が今 後の課題と言える.  ワクチンの普及により細菌性髄膜炎は減少の一 途をたどっているが,頭部外傷歴のある小児で は,受傷から長期間経過していても細菌性髄膜炎 の発症リスクがあることを認識し,基礎疾患の検 索も含めた治療戦略を立てる必要がある. 結  語  細菌性髄膜炎の発症数はワクチンの普及ととも に激減している.そのため,ワクチン接種後にも かかわらず細菌性髄膜炎を発症した症例では,基 礎疾患を有する可能性がある.特に頭部外傷歴の ある小児では,たとえ受傷から長期間経過しても 細菌性髄膜炎の発症リスクがあることを認識し, 基礎疾患の検索も含めた総合的な治療戦略を立て ることが重要である.  日本小児感染症学会の定める利益相反に関する 開示事項はありません. 表 3 わが国の頭部外傷後細菌性髄膜炎症例 性 外傷時年齢 顕性髄液漏 発症回数 発症時期 起炎菌 診断 治療 予後 1 男 7 歳 なし 3 2 カ月後 2 年後 4 年後 肺炎球菌 不明 肺炎球菌 脳槽シンチ 綿球 骨シンチ ST 合剤 予防内服 再発なし 2 男 4 歳 なし 4 5 カ月後 3 年後 7 年後 8 年後 肺炎球菌 髄膜炎菌 肺炎球菌 不明 脳槽シンチ 綿球 ST 合剤 予防内服 再発なし 3 女 2 歳 受傷後 2 年間 4 1 年後 2 年後 3 年後 3 年後 不明 不明 肺炎球菌 肺炎球菌 CT(3DCT) 手術 後遺症なし 4 男 8 歳 なし 2 1 年後 インフルエンザ菌 CT 手術 記載なし 3 年後 インフルエンザ菌 MRI 5 男 5 歳 受傷 7 年後 4 日間 2 6 年後 7 年後 肺炎球菌 記載なし CT MRI 手術 再発なし

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 発表に際し,家族から論文掲載についての承諾を 得ています.

文  献

1) Morris SK, et al:Haemophilus influenzae type b conjugate vaccine use and effectiveness. Lancet Infect Dis 8:435‒443, 2008

2) Castelblanco RL, et al:Epidemiology of bacterial meningitis in the USA from 1997 to 2010:a population‒based observational study. Lancet Infect Dis 14:813‒819, 2014

3) 岡田賢司,他:小児の細菌性髄膜炎に対するワク チンの効果.日化療会誌 64:652‒655,2016 4) Tebruegge M, et al:Epidemiology, etiology,

pathogenesis, and diagnosis of recurrent bacte-rial meningitis. Clin Microbiol Rev 21:519‒537, 2008 5) 寺田喜平,他:髄液廔に合併した反復性化膿性髄 膜炎の 1 例とこれに対する ST 合剤の予防内服に ついて.小児臨 37:2889‒2893,1984 6) 佐藤忠司,他:化膿性髄膜炎に 4 回罹患した髄液 鼻漏の 1 小児例.小児臨 40:131‒134,1987 7) 池田佐和子,他:外傷性髄液鼻漏による反復性細 菌性髄膜炎の 2 例.脳と発達 31:76‒79,1999 8) 佐藤晶論,他:前頭蓋底骨折後に化膿性髄膜炎を 繰り返した 1 男児例.小児臨 56:2015‒2019,2003 9) 竹内万彦,他:頭部外傷の 7 年後に髄膜炎,髄液 耳漏を発症した側頭骨内髄脳瘤の 1 例.Otol Jpn 23:868‒872,2013

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13) Okada J, et al:Unusually late onset of cerebro-spinal fluid rhinorehea after head trauma. Surg Neurol 35:213‒217, 1991

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15) 日本神経感染症学会:細菌性髄膜炎診療ガイドラ イン 2014.南江堂,東京,2014,1‒123

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17) Hsu HE, et al:Effect of pneumococcal conjugate vaccine on pneumococcal meningitis. N Engl J Med 360:244‒256, 2009

(9)

Bacterial meningitis occurring 18 months after basal skull fracture in a four‒year‒old boy

Hanae SUGIURA1), Yasuhiro IKAWA1), Natsumi INOUE1),

Akiko KATO1), Mondo KURODA1), Akihiro YACHIE1)

1)The Department of Pediatrics, Kanazawa University Hosptital

 Routine vaccination with Haemophilus influenzae type b(Hib)polysaccharide vaccine and pneumococcal conjugate vaccine(PCV)has contributed to a substantial reduction in the occurrence of bacterial meningitis. However, bacterial meningitis that develops after vaccination with these agents predisposes its patients to anatomical abnormalities, immune deficiencies and chronic infections. Early diagnosis of potential primary diseases improves overall outcomes and is of paramount importance in preventing further epi-sodes of life‒threatening bacterial meningitis. This study describes a four‒year‒old boy who developed pneumococcal meningitis 18 months after a persistent basal skull frac-ture. As the patient had already completed a course of vaccinations including Hib vac-cine and PCV, his history of a basal skull fracture with cerebrospinal fluid rhinorrhea was considered. A small defect in the basal skull was detected and repaired in this study. Such defects can lead to bacterial meningitis not only immediately, but also sev-eral months or years after an injury. A history of head trauma can be overlooked, resulting in recurrent infection with severe neurological sequelae. Therefore, it has been suggested that patients with bacterial meningitis who have already completed Hib and PCV vaccination should be monitored carefully in order to avoid recurrence of this dis-ease.

(受付:2016 年 9 月 12 日,受理:2017 年 1 月 31 日)

参照

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