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中央学術研究所紀要 第47号 004深田 伊佐夫「「宗教太陽光発電所」のネットワーク ―宗教者・教団の環境問題への取り組みについての考察―」

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1.はじめに

 本論文の目的は、宗教者・教団が連携して取り組む環境配慮活動を事例に、ネット ワーク活用による宗教間協力の新たな形を構築する可能性について考究することであ る。  地球温暖化が象徴する環境問題は、我々が想像する以上の速度で進行し、気候変動 による大気温と海水温の上昇・干ばつ・大量降雨等の形で顕在化してきた。これらの問 題は早い時期から認識され、1972年の人間環境宣言をはじめ多くの国際条約が発効・締 結されてきた。2015年の第21回気候変動枠組条約国際会議(パリ協定で)は、法的拘 束力を持つ条約として温室効果ガス排出量削減目標が掲げられた。また、世界各国でも 環境保全や具体的な地球温暖化防止のための法整備が進められている(深田:2017 1)。  これにより、先進国を中心に産業場面での煤煙規制・水質保全に始まり、省資源型 の産業機器や生活機器の開発による消費エネルギー量が削減された。また生活場面で は、各種生活機器の省エネルギー化が実現し、経済的側面と環境的側面への負荷軽減 が図られてきた。また学校教育場面でも環境教育が取り入れられ、青少年期から環境 問題への関心を高める動機づけとなっている。このようにして、環境問題に対する一 般社会の法制・技術・教育などの各分野から取り組みも活発化してきた(深田:2017)。

―宗教者・教団の環境問題への取り組みについての考察―

深 田 伊佐夫

目次 1.はじめに 2.宗教者・教団と環境問題 3.取り組み事例の類型 4.RSE による取り組みのネットワーク 5.考察 6.おわりに 7.謝辞 8.文献目録

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 いっぽう、宗教者・教団からも環境問題に対する取り組みが行われ、その活動は教 化面における環境啓発・教団施設や地域社会を対象とした自然エネルギー転換など多 岐にわたる。近年は、これらの取り組みをWeb上でネットワーク化し、教団を超えた 諸宗教の対話や協力を行い、相乗効果を高めようとする動きも出てきた。

 本論文では、宗教者・教団が取り組む環境配慮活動の中で特徴的な性格を持つ「宗 教・研究者エコイニシアティブ(Religious and Scholarly Eco-initiative=以下、RSE)に よる「宗教太陽光発電所」(詳細は4 2.以降で後述)の活動にとくに着目し、その事例 研究を通して、冒頭の研究目的に沿いつつ考究する。しかし、本論文は、これ以外の 活動にも言及する。  なお、本論文の一部は2017年9月開催の日本宗教学会第76回学術大会において、口 頭発表したものであることを付記する。

2.宗教者・教団と環境問題

2-1.洞爺湖主要国サミットと宗教者  本章では、本題に入る前に宗教者・教団による環境問題への取り組むキッカケにな ったと考えられる、洞爺湖主要国サミットと東日本太平洋沖地震という2つの事を取 り上げる。  最初に、洞爺湖主要国サミットと宗教者について述べる。2008年7月、北海道洞爺 湖で主要国首脳会議(G8北海道・洞爺湖サッミット=以下、G8)が開催された。宗 教界もG8に呼応し、例えば宗教者としての提言をすべく世界宗教者平和会議(World Conference of Religious for Peace =以下、WCRP)日本委員会が「平和のために提言す る世界宗教者会議∼G8北海道・洞爺湖サミットに向けて∼」を開催した。  同会議では、宗教者の精神的・倫理的責務・安全保障について「環境・気候変動」 「ミレニアム開発目標」「核非武装」「暴力的紛争とテロリズム」をテーマに討議され た。討議の結果、「軍事費削減分を環境保護に充当する」などの具体的提言をした(深 田:2012)。この提言により WCRP 加盟教団を中心に、宗教者・教団による環境問題 に取組りくむ契機がつくられた。後に触れる、立正佼成会の環境管理・環境配慮活動 は、WCRP の提言の流れを受けるとともに、意欲的に環境問題へ取り組んできた生長 の家からのはたらきかけが関与している。  なお WCRP は1970年の発足当時から、「非武装」・「人権」・「開発・環境」を宗教者・ 教団が取り組む現実的課題として位置付けてきた。2008年の洞爺湖 G8への宗教者か らの提言も、この脈絡の中から生まれてきたものであると考える。

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2-2.東日本太平洋沖地震と宗教者・教団  2011年3月11日に発生した東日本太平洋沖地震は、869年の貞観地震以来の規模であ った。東日本の太平洋沿岸地域を中心に、約2万2千名の死者と津波による家屋流出、 福島第1原子力発電所の崩壊による放射能漏えい事故が発生した。特に原子力発電所 の事故は、従来の原子力技術と経験則を最大限に駆使しても、崩壊した原子炉の制御 が困難なことが明白になった。このため現地では、放射能漏えいによる土壌や大気の 汚染という新たな環境問題が付加されることになった。  福島県 HP(2018)によると、この事故で、2018年8月現在、全国で3万3千517名 の被災者が避難生活を送っている。これらの被災地には、地震直後から現在に至るま で、多くの宗教者・教団による支援活動が展開されてきた。支援活動は、現地状況の 変化に合わせて教派・教団を超えて取り組まれてきた。  主な支援内容は、宗教施設の開放による避難所や遺体安置場所の提供、瓦礫の撤去、 支援物資の供給、犠牲者慰霊、メンタルケアなどである。大阪大学准教授稲葉圭信氏 の調査によると、全国208自治体が地域の宗教施設と協定を結び、災害時の避難者の一 時受け入れや遺体安置場所として活用することが決定しているという。協定している 宗教施設は、神社・寺院・キリスト教会・新宗教の教会など2002施設である(共同通 信社:2015)。  また、地震を契機に、全国規模で避難所として活用可能な宗教施設のネットワーク を構築する活動も行われるようになった。これにより、現在、居住地域にある避難所 として利用可能な宗教施設の総覧化と受け入れ態勢が整備されつつある。  この大規模地震と原子力発電所の崩壊事故は、宗教者・教団が広義の環境問題に取 り組むキッカケになったと考えられる。では次に、このことについて述べてみよう。 2-3.宗教者・教団と環境問題  上述の WCRP による提言と、東日本太平洋沖地震被災地での支援活動は、宗教者・ 教団がより具体的な環境問題への取り組みを行う動機づけになったと考えられる。従 来、宗教者・教団は「共益性」を中心価値に活動してきた。すなわち、一定の信仰的 価値観を共有する信仰共同体または、地域社会の氏子・檀家組織などの地域共同体を、 構成員の手により相互扶助的に運営してきたのである。  しかし G8への提言や、東日本太平洋沖地震という社会的な出来事を契機に、宗教 者・教団も自らの中心価値の視野拡大と役割の変化がみられるようになってきた。こ の変化は、宗教者・教団が、従来の「共益性」に加えて、より社会的な「公益性・公 共性」をあらためて意識するようになってきたことを意味する。このような変化は、 企業でいう社会貢献・社会的責任(CSR)に相当する、宗教界の CSR という性格も持 ち合わせている(木股:2011、伊吹:2005)。

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 この中で、地震による原子力発電所の事故を受けて、複数の宗教団体が脱原発を基 調とする広義の環境問題に取り組む動きも出てきた。これらの取り組みの主な内容は、 自宗教・自教団の価値観に基づく環境倫理の構築、原子力発電に頼らない社会の提唱、 自然エネルギーの開発・運用などである。また環境倫理の構築については、自宗教・ 自教団の教義を背景としながらも、より普遍的な環境理念として表現し、社会への啓 発と実践を促す特徴を持つ。

3.取り組み事例の類型

3-1.教化場面での環境配慮活動  本章では、宗教者・教団が取り組む環境問題への取り組み概要について、深田 (2017 1、2011)の考察過程に基づき5つの環境側面を想定して述べる。5つの環境側 面とは、①教化場面での環境配慮活動、②森林造営、③環境マネジメントシステム、 ④原子力発電への対応、それに⑤太陽光発電システムの運用、である。  まず、教化場面での環境配慮活動について述べる。多くの宗教者・教団は、自宗教・ 自教団の価値観や教義に基づく生活規範を提示している。さらに、複数の新宗教では 生活規範を具体的な生活指導として表現し、信者の教化育成レベルで具現化する事例 がみられる。  たとえば、生長の家では、「天地の万物に感謝せよ」との宗教理念のもとに、環境配 慮活動に取り組んでいる。同教団への聞き取りを行ったところ、「環境家計簿」を用い た信徒家庭での環境配慮活動を可視化する生活実践が行われていることがわかった。  具体的には、信徒家庭の電気・ガス・水道などの使用量、自然エネルギーによる売 電量、環境負荷の高い肉食の削減記録、環境配慮に結びつく諸項目の可視化と実践で ある。この取り組みは、上述の宗教理念のもとに生長の家の環境配慮活動を「自然と 共に生きるための宗教上の実践であり、地球温暖化を抑制し、飢餓の人々を救う力に なる」と位置づけている。  立正佼成会では、教化面での主要な環境問題への取り組みの1つとして、「一いち食じきを捧 げる運動(以下、一食運動)」を展開している。同会の一食運動推進委員会によると、 一食運動とは、「毎月1日と15日に、同会会員がその日の食事を一食抜いて空腹感を味 わいつつ、抜いた食事に相当する金額を献金し、その献金は世界の紛争・災害被災地・ 飢餓地域・自立を前提とした開発途上国支援等の、広義の環境問題への対応に用いら れる」というものである。人によっては、酒・コーヒー・タバコ等の嗜好品を減らす ケースもあるという。教団本部と全国の教会で展開されており、献金とともに「『世界 が平和になりますように。人のことを思いやる人が増えますように。まず私からやさ しくなります』という祈りのことばを唱和する」という。

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 立正佼成会の一食運動は1975年、松緑神道大和山教団青年会・田澤豊弘幹事長(当 時・故人)との縁により開始された。松緑神道大和山教団では、当時から毎月18日を「世 界平和祈願の日」とし、その日は断食した一食分のお金を世界平和のために献金と祈 りを捧げる運動を展開していた(庭野:2003)。一食運動、立正佼成会の環境マネジメント システム(Environmental Management System =以下 EMS と称す。詳細は3 3. で述べる) の導入と環境方針制定に伴い、教団の環境問題への取り組みの一環として位置付けら れ、「一食平和基金」として運用されている。また、運動の趣旨に賛同する非会員一般 市民も運動に参加しており、こちらはユニセフ(国連児童基金)と立正佼成会のパー トナーシップ事業として、「一食ユニセフ基金」を運用している。なお一食運動は、新 日本宗教団体連合会や WCRP 加盟教団でも、教団ごとに、独自の基金を運用している。  なお、「一食を捧げる」という発想は、1833年から1839年の大飢饉に接した、 禊みそぎ教 教主・井上正まさ鐵かね(1790∼1849)が「我一飯をのこして、人の飢えを救うの心」の大切 さを提唱し、民衆の救済活動を展開したことに淵源する、とされている(深田:2011)。 3-2.森林造営  近年、社寺林の持つ環境側面にも関心がもたれている。社寺林は、神社・寺院が所 有する宗教目的で区画または造営された森林のことを示し、その総面積は8万 ha で、 全国森林面積0.32%を占める。  社寺林には、社寺の荘厳さと風致維持を目的とした境内林と、社寺建築の用材確保 も視野に入れた広義の宗教目的に供する境外林がある。比較的大規模で知名度の高い 社寺林には、神道系では伊勢神宮・熱田神宮・明治神宮が、仏教系では比叡山・高野 山などがある。神道では森林を「神の依り代」として位置づけ、森林の基盤となる山 自体を「ご神体」とみなし信仰の対象として崇敬する信仰観も存在する。  いっぽう、仏教でも、森林と山を僧侶の重要な修行環境としてとらえ、森林を区画・ 造営し、その育林を継続する寺院が多く存在する。同時に森林の造営をもって、仏菩 薩等を荘厳するという価値観も有する(深田:2012)。  また、人間の居住空間に近接する小規模な社寺林(鎮守の森)も、地域社会におけ る保存性の高い森林として存在する。さらに、近年、マスコミ等の影響もあって、多 くの人々から、社寺林を含む社寺空間の一部が「パワースポット」として認識されて、 上記の生態系的価値と並ぶ新たな付加価値を生み出している。  新宗教教団でも、森林を有し、自宗教の教義と連動した森林保全を行う例がある。 たとえば、生長の家は、2013年に国際本部の機能を、東京都渋谷区から山梨県北杜市 に移転し、「森の中のオフィス」として開設し、付帯する森林とともに、環境配慮型の 最新機器を備えた国際本部を運営している。  真如苑は系列の多摩農林と組み、東京都青梅市内に有す300haの森林を、「青梅の杜」

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として区画・整備している。ここでは、理想的な生態系の保全・構築、生物多様性を 具現化する森林保育が行われている。  立正佼成会も、真如苑と同じ青梅市内に300ha の所有する森林を利用して、「人・自 然・調和」の理念のもとに環境保全・森林保全と、それを活用した人材育成をおこな っている。ここでは、EMSの導入以前の1980年から、マツクイムシ被害によるアカマ ツ枯死を機会に、会員や地域住民の手により環境教育を兼ねた46haの森林再生を行っ てきたが、現在も育林を継続している。  社寺林は、宗教目的で区画・造営されてきたため、世俗社会の開発行為から免れて 森林空間を保持してきた。このため、社寺林では生態的価値の高い空間が保全されて いて、近年の宗教者・教団の取り組む環境配慮活動とも結びつきやすい環境側面を持 っている。 3-3.環境マネジメントシステム  近年、宗教界でも、新宗教を中心に環境マネジメントシステム(EMS)や、その認 証の一つであるISO14001を取得する教団がある。取得した主な教団と関連団体(五十 音順)は、生長の家、創価学会(聖教新聞担当部署)、天理時報社、立正佼成会、霊友 会などである。以下、Web 情報の総括と関係者への聞き取り調査により概要を記す。  生長の家は、「天地一切のものに感謝せよ」との教えに基づき、「植物も、動物も、 鉱物も、全てを神の生命・仏の生命の現れとして拝む」という生長の家の生活信条を 基に教団の環境方針を制定し、宗教界では初の ISO14001認証を取得した。  地球環境問題が地球規模の広がりと、次世代以降への影響拡大を危惧し、教団を挙 げて環境問題に取り組む方針を打ち出した。前述したように、2013年、国際本部を東 京都渋谷区から山梨県北杜市に移転し、環境配慮型施設をゼロ・エネルギーの木造ビ ルとして構築した。特に、国際本部でのバイオマス発電システム、本部を含む全国拠 点での太陽光発電システムの導入、教化育成場面での啓発と実践に特徴を持つ。  創価学会の新聞発行・出版部門である聖教新聞社は、2004年、「言論と事業運営で、 環境に貢献する」という趣旨の環境方針を制定し、新聞業界初のISO14001認証を取得 し、新聞・出版物発行業務を行ってきた(朝日新聞 asahi.com)。2012年までは環境方 針等を聖教新聞の Web 上に公開していたが、2018年現在では公開していない。  天理教の新聞発行・出版部門である天理時報社は、2007年、「事業活動における用紙 及び資材、資源の削減に努め、環境保全、省エネルギーを推進」する趣旨の環境方針 を制定した(天理時報社 HP)。そして、本社と印刷部門で ISO14001を取得し、新聞・ 出版の生産現場で環境配慮型業務を推進している。  立正佼成会は、2009年に2 1. で述べた WCRP による宗教者の提言を受け、環境方針 を制定した。その環境方針の基本理念は、「いのちの尊重」・「共生の実現」・「簡素なラ

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イフスタイル」であり、立正佼成会は、2010年にISO14001認証を取得した。ISO14001 の認証取得に際しては、環境問題へ先進的に取り組んできた生長の家からの勧めが契 機となっている。同会では、EMSによる法人運営、教化場面での啓発、本部施設と全 国の布教拠点での太陽光発電システムの導入、所有林の保全と活用等の、環境配慮活 動を実施している。なお2016年4月からは、従来のEMSとISO14001認証に準拠した、 教団独自の環境管理システムREMS(Rissho Kousei-kai EMS)に移行した。なお3 1.で 述べた「一食運動」は REMS の重要な活動として位置付け、教団を挙げて取り組んで いる。  霊友会は、2009年に環境方針を制定、ISO14001を取得して教団運営を行っている。 環境方針の基本理念は、「人の『いのち』と『未来』が大切にされる社会環境づくり」 である。この理念は、霊友会創立者・久保角太郎(1892 1944)と、初代会長・小谷喜 美(1901 1971)の「自然の恵みに対する感謝」にかかわる指導を根拠にしている。こ のほかにも、霊友会は、教団施設の環境管理、教化育成場面での啓発など、幅広い環 境配慮活動を行っている。また、環境方針制定以前から「動物や植物にいたるまです べての生命があって自然が成り立ち、その恩恵で人間も生かされている」という指導 理念を持っていた。この理念に基づき、1949年の皇居日比谷濠へのコイ1万尾放流、 外濠へのサクラ2千本の植樹、1990年の国際花と緑の博覧会出展などの活動を展開し てきた(霊友会 HP)。 3-4.原子力発電への対応  宗教界は、東日本太平洋沖地震による福島第1原子力発電所の崩壊事故を機に、原 発稼働に対する声明を相次いで発表した。以下、宗教情報センターHPに掲載された公 開資料、原子力発電に対する宗教界の対応を基に概要をまとめる。  まず、脱原発に関する声明は、事故直後、伝統仏教界・キリスト教界・新宗教界等 の複数教団が相次いで発表した。まず伝統仏教界は、全日本仏教会・浄土真宗大谷派・ 臨済宗妙心寺派・日蓮宗が脱原発の声明を発表し、併せて生活の質を改めて持続可能 な社会構築を目指す理念も提唱している。  キリスト教界では、原発事故を機に日本キリスト教議会・日本カトリック司教団が 脱原発の声明を出した。なお、事故以前の1987年から日本基督教団が、2008年から日 本バプティスト連盟が、原子力発電の開発は核兵器開発につながる可能性があるいう 視点から脱原発声明を出していた。  2011年、福島第1原子力発電所の崩壊事故を受け、ローマ・カトリック教会のバチ カン教皇・ベネティクト16世が、「環境配慮型の生活様式の選択と、人類に危機を及ぼ さないエネルギーの研究開発」について言及した。それまでのバチカンは、原子力の 平和利用促進の立場をとっていたが、事故を機会に事実上の脱原子力発電の立場に転

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じた。また、2015年、バチカン教皇・フランシスコ2世が、「回勅 ラウダート・シ」 を発表した。回勅には、原子力発電に対する直接的な言及は見られないが、地球を1 つの家族共同体としてとらえ、「神の被造物としての環境」という視点から広範な環境 問題への提言が述べられている(教皇フランシスコ2世:2016)。  日本の新宗教界では、生長の家・立正佼成会・創価学会等が原発に依存しない社会 構築を提唱している。これらの教団でも、自宗教の教義を普遍化したうえで、社会に 向けて生活の質を改めることにより原子力発電に依存しなくとも可能な社会の構築を 訴えている。  いっぽう、日本の宗教界のなかには、原子力発電所の稼働容認・推進の立場をとる 事例もある。神社本庁は、2004年に、原子力発電の危険性は認識しながらも、現実的 な電力事情を考慮して基幹電力確保のための稼働容認の見解を持つ。幸福の科学は、 現実的なエネルギー事情への疑問から、原子力発電推進の立場をとっている。これら のうち、脱原発の見解を持つ複数の教団では、次項に述べる太陽光発電を運用してい る。 3-5.太陽光発電システムの運用  福島第1原子力発電所の事故を受け、宗教界からも原子力発電に頼らない社会構築 に向けた、自然エネルギーの導入例がみられる。導入されている主な自然エネルギー には、太陽光発電・バイオマス発電・地熱発電がある。そして、①自教団施設でのみ 利用 ②自教団施設と施設所在地域の共用 ③自教団施設での利用と既存電力会社へ の売電供給等の、いくつかの供給形態がある。  教団単位での自然エネルギー導入例に、生長の家と立正佼成会の施設での太陽光発 システムの導入がある。生長の家では、2013年の山梨県北杜市への国際本部移転を機 に、本部施設の電力エネルギー源に太陽光発電とバイオマス発電を導入した。これら のシステム導入に際しては、3 3. のところで触れた生長の家の環境問題に対する教団 理念を根拠とする。生長の家では、同時に、全国の既築・新築の布教拠点にも太陽光 発電システムを導入している。  立正佼成会は、東京都杉並区の本部諸施設をはじめ、全国の布教拠点のうち新築建 物を対象に太陽光発電システムを導入している。同会での聞き取り調査によると、シ ステム導入は、EMSの教団環境方針を、本部主管部署である管財施設グループが部署 目標として具現化したという。  このほかに、金光教の一部教会、神社・寺院等が、それぞれの理念と意図に基づき、 太陽光発電システムを導入している。また教団ではないが、浄土真宗本願寺派が設立 母体の龍谷大学では、大規模なソーラーシステムを運営している。このシステムは、 大学・自治体・企業の連携による「龍谷ソーラーパーク」として運営し、大学のみな

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らず地域貢献型の太陽光発電を行い、年間発電量は625万kWに及ぶという(生長の家: 2017)。

4.RSE による取り組みのネットワーク

4-1.RSE による環境配慮活動  次に、宗派や教団の枠を超えた環境問題への取り組み事例について触れる。2009年 6月、東京大学・山本良一教授(現・名誉教授)の提唱がキッカケとなって、「宗教・ 研究者エコイニシアティブ(RSE)」が任意団体として発足した。  RSE は、宗教学・環境科学の研究者と宗教者・教団関係者で構成する。教団関係の 主要参加団体は、生長の家・立正佼成会・金光教をはじめ、仏教各宗派の寺院である。 団体設立趣旨は、「人と自然の調和を目指す、新しい文明原理の構築」である。  現在、東洋大学・竹村牧男学長を代表に、①毎年1回のシンポジウム開催、②日常 啓発活動、③図書資料の刊行、④宗教太陽光発電所のネットワーク構築、⑤その他関 連付帯事業、を展開している。RSE を構成する各教団は、教義を背景とした環境配慮 活動を展開しつつ、情報交換・相互啓発・環境事業面での協力関係を構築している。  RSEの活動について、同会運営委員会への聞き取りを行ったところ、「①宗教学者・ 環境学者と、宗教者・教団が連携している、②異なる宗教者・教団が環境問題という 人類的課題の解決に向け対話と協力を深めている、③信仰を持つ者が軸になりながら も広く草の根レベルでの環境問題への意識の拡大や身近な取り組みが可能になりつつ ある」との回答を得た。 4-2.RSE の宗教太陽光発電所のネットワーク  これまでに俯瞰してきた、宗教者・教団が取り組む環境側面のうち太陽光発電につ いては、近年はネットワークを活用して総覧化・合算化が試みられている。これは、 上述の RSE の独自のネットワーク構築による宗教太陽光発電所の運用を意味する。  宗教太陽光発電所は、2013年、RSE が各教団・宗教系大学が行う、太陽光発発電シ ステムの総発電量をWeb上で公開してすすめる環境配慮活動である。RSE運営委員会 への聞き取り調査によれば、「環境に負荷を与える化石燃料や原子力ではなく、自然エ ネルギーの導入を促進し、環境問題の解決をアピールするため、宗教団体や寺社、教 会の施設等で設置する太陽光発電装置の発電容量を合算して表示する宗教太陽光発電 所をウェブ上に開設した。「今後は、宗教太陽光発電所に登録する発電容量には、自然 エネルギー由来の発電装置、風力、地熱、小水力等の装置分も加える考え」との見解 を持つことがわかった。  2017年7月11日現在の宗教太陽光発電所の総発電量は8813.03kW. であり、平均的な

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年間総発電量は821万Kw で、二酸化炭素削減量は4591t になるという。主な参画団体 と概算発電量は、金光教11.2kW、浄土宗 寿光院15.98kW、真言宗豊山派10.08kW、生 長の家6038.67kW、天理教3kW、日蓮宗 朝善寺2kW、立正佼成会282.10kW、龍谷大 学他1850kW、博山正觉寺(中華人民共和国)600kW である。(表1参照) 写真1 龍谷大学のソーラーパネル     (写真提供 龍谷大学) 写真2 立正佼成会のソーラーパネル     (2017年7月 東京都杉並区) 表1 「宗教太陽光発電所」概要 № 教団・団体名 概算発電量(kW) 備考 1 金光教  11.20 一部の教会で自主的に運用 2 浄土宗 壽光院  15.98 一部の寺院で自主的に運用 3 真言宗豊山派  10.08 一部の寺院で自主的に運用 4 生長の家 6038.67 法人単位で積極的に推進・運用 5 天理教   3.00 6 龍谷ソーラーパーク 1850.00 大学キャンパス及びソーラーパーク 7 立正佼成会 282.10 本部施設と各拠点の一部に設置・運用 8 博山正觉寺(中国) 600.00 9 その他   2.00 発電量総合計 8813.03 2017年8月・RSE 資料を基に筆者作成 *「宗教太陽光発電所」には、賛同者が随時加入するため総発電量は変化する。

5.考察

 以上、宗教者・教団が取り組む環境問題の概要と類型、事例について俯瞰してきた。 このうち、宗教太陽光発電所には、ネットワーク化を通して複数の宗教者・教団、宗 教系大学が参加している。これにより、従来、宗教者・教団や大学が環境問題に個々 に対応してきたものが、宗教太陽光発電所という共通語の下、価値観を共有化しつつ

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あると考える。  ここで、①宗教者・教団が連携して取り組む環境配慮活動拡大の可能性と、②イン ターネット等による宗教間協力の新たな形について、③今後の課題という視点から、 これまでの記述と RSE への聞き取り調査を基に考察したい。 5-1.宗教者・教団が連携して取り組む環境配慮活動拡大の可能性  環境配慮活動拡大の可能性としては、次の2つのことが考えられる。1つは社寺が 防災拠点に活用された場合の電源確保と情報共有化、2つは一定の倫理観に依拠した 環境配慮活動の発信である。具体的にいえば、宗教太陽光発電所という共通語の下に 行われる宗教間対話の促進である。  1は、すでに東日本太平洋沖地震発生を契機に、多数の宗教施設が行政と協定を結 び、災害時の避難場所として機能している。また、直近では、2016年4月の熊本地震、 2017年7月の九州北部と秋田県の豪雨被災地でも、宗教施設が避難場所として活用さ れている。避難場所に求められる条件には、「布教等の教団活動に利用しない」ことを 前提に、次の3つのものがある。  すなわち、①施設の安全性、②水道・電気・ガスなどの生活基盤の完備、③人間と 人間・人間と地域社会を結びつけるコミュニティ・コア機能が、これにあたる。  このうち、②の生活基盤の1つである電気は、外部からの送電機能が停止した場合、 自前の太陽光発電機・蓄電設備が整備されていることで、その機能を補うことが可能 である。現在、多くの生活機器が電気を動力源にしていることから、電力の存在は大 きな部分を占める。ネットワークの活用は、電源状況を含む災害時などの宗教施設の 開放状況の情報共有化と、宗教者・教団の公益性・公共性への寄与度の向上にも影響 を与える(山岡:2016)。  2は、宗教者・教団による環境倫理と環境配慮活動の社会に向けた発信にかかわる 事柄である。社会システムが大量生産・大量消費の法則下で展開し、「制度化された無 駄遣い」が恒常化して久しい。このため、資源枯渇・環境汚染・気候変化・地球温暖 化という環境問題の負の循環を招いている。こうした社会状況に対して、一般社会の 法制・技術・教育など各分野から、「持続可能な社会構築や開発、ということが提唱・ 実践されている。  この「持続可能な社会構築や開発」を実現するためには、社会の法制・技術・教育 などと並び、人間の心のあり方や行動の規範となる宗教・倫理面からの情報発信が不 可欠であると考える。宗教者・教団は、ネットワークを活用し、環境問題に対する考 え方を自宗教の教義を背景としながらも普遍的な環境理念として表現し、社会へ発信 することが求められる。例えば、仏教の代表的な教義である「縁起観」・「共生」・「少 欲知足」などは、普遍的な環境倫理としての側面を持ち合わせている。

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5-2.インターネットなどによる宗教間協力の新たな形  次は、宗教太陽光発電所の運用を契機とした宗教間対話促進の可能性である。すで に、宗教間対話は、個別の教団間や地域の宗教会議体の間、WCRP など、多くの場面 で展開されている。諸宗教間対話は、身近な地域社会のコミュニティー形成や災害復 興支援に始まり、国内外の、社会問題、国際的な場面での紛争解決など多くの場面で 成果を上げている。  今回成立をみた宗教太陽光発電所は、諸宗教が環境問題への取り組みの一環として 見出した具体的な形を伴う宗教や教団の間の一つの「共通語」であると考える。今後、 この「共通語」を活用しつつ、多くの宗教者・教団の横断的な連携による、新たな宗 教間対話の軸が形成される可能性が考えられる。  とりわけ、RSE の宗教太陽光発電所の運用に見られるような、インターネットを媒 介とした宗教間の活動は、宗教間協力の新たな形として位置付けられると考える。 5-3.今後の課題  次に、RSE 運営委員会からの聞き取り調査の結果を基に、今後の課題を2点あげて おく。1つはネットワーク活用による宗教間・非宗教間との環境問題解決に向けた連 携、2つは宗教太陽光発電所を軸にした新たな環境問題解決のための啓発活動の展開 である。  1は、主に HP などのネットワーク上の相互リンクによる情報普及を意味する。4 2. で述べたように、宗教太陽光発電所には9団体が加入しているが、RSE 加入団体が運 営する HP 上でリンクする段階にまでは達していない。今後は、RSE 加入団体はもと より、趣旨に賛同可能な宗教・非宗教分野に対してもリンクを呼びかけ、活動面での 新たな携帯をする必要性があると考える。  2は、RSE が宗教者・教団や研究者が中心に展開している特性を踏まえ、環境問題 解決に向けた人間の心のあり方を宗教者のみならず万人に啓発することを意味する。 上述のように、環境問題解決には社会の法制・技術・教育などの各分野を集結する必 要があると考える。  しかし、こうした各分野からの取り組みや仕組みを整備に加え、それらを運用する 人間の意識の転換や拡大を図るところに成果の質的向上も図れると考える(深田: 2017 2)。宗教者・教団と研究者が宗教太陽光発電所という「共通語」を持ちえた中 で、これを象徴として各種の環境啓発活動を展開することが望まれる。

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6.おわりに

 本論文では、宗教者・教団が連携して取り組む環境配慮活動、とりわけ RSE とその 宗教太陽光発電所を事例に、ネットワーク活用による宗教間協力の新たな形を構築す る可能性について考究してきた。考究により得た事柄をまとめれば、以下の3点であ ると考える。  ① 環境問題の解決は法制・技術・教育などの各分野に加え、宗教者・教団も連携す る意味があること。  ②その連携にはネットワーク活用が有効な手段になりえること。  ③ 宗教者・教団が発信する環境情報は、自宗教の教義を背景としながらも普遍的な 環境倫理として市民に受け入れられるものであることが求められること。  筆者は、今後とも、宗教者・教団が環境問題に取り組む環境側面とその関与のあり 方、環境問題や「宗教太陽光発電所」を軸にした宗教間対話拡大の可能性について、 随時、考究していきたい。

7.謝辞

 本論文作成に当たり、東洋大学西山茂名誉教授からは終始ご指導いただきました。 宗教・研究者エコイニシアティブ運営委員会には聞き取り調査にご協力いただきまし た。生長の家国際本部・広報・クロスメディア部・山岡睦治部長からは、同教団の自 然エネルギー活用の理念と実際についてご教示いただきました。立正佼成会総務部・ 管財施設グループからは、同教団の太陽光発電設備の詳細についてご教示いただきま した。記して、厚くお礼申し述べます。

8.文献目録(ABC 順に掲載)

・朝日新聞 asahi.om http://www.asahi.com/ad/clients/seikyo/introduce.html ・ CHRISTIAN TODAY HP http://www.christiantoday.co.jp/articles/16187/20150604/reli gion-contribution-to-society.htm ・ 深田伊佐夫(2018):情報化時代における消費者の選択―電力自由化を考える―:第 8回宗教・研究者エコイニシアティブ報告書:宗教・研究者エコイニシアティブ: pp.12 17 ・深田伊佐夫(2017 2):宗教者による環境問題への取り組み

  Fukada Isao(2017 2):Religious People s Approaches To the Environmental Issues:Series Conferences of Interreligious Dialogue2017:Buddhists and Christians in

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Dialogue(Tai-wan):イタリアソフィア大学・輔仁大学・静宣大学・法鼓文理学院共催 講演集: pp.94 97 ・ 深田伊佐夫(2017 1):地元学視点からの地球温暖化問題への取り組み―「青梅学」 による地域環境の整備と地域活性化―:人間と科学第24号:人間と科学研究学会: pp.27 40 ・ 深田伊佐夫(2011):草の根エコの現状と課題―立正佼成会の環境配慮活動―:中央 学術研究所紀要第40号:中央学術研究所:pp.76 94 ・福島県 HP https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/282028.pdf ・伊吹英子(2005):CSR 経営戦略:東洋経済新報社:pp.46 86 ・木股文昭(2011):『三連動地震 迫る−東海・東南海・南海』:中日新聞社 pp.18 74 ・ 教皇フランシスコ著、瀬本正之・吉川まみ訳(2016):回勅 ラウダート・シ―とも に暮らす家を大切に―:カトリック中央協議会:p.235 ・共同通信社(2015):47NEWS HP  http://www.47news.jp/47topics/shinsai5nen/2015/09/post_20150929123507.html ・霊友会 HP http://reiyukai.jp/environmental-action ・水尾純一・田中宏司(2004):CSR マネジメント:生産性出版:pp.31 57 ・庭野欽次郎(2003):父の背中:佼成出版社:pp.78 79 ・宗教情報センターHP http://www.circam.jp/reports/02/detail/id=2012 ・天理時報社 HP http://www.jihosha.co.jp/jyoho_kankyou.html ・ 山岡睦治(2016):電力自由化、防災拠点化を結ぶ宗教太陽光発電所:宗教・研究者 エコイニシアティブ 小委員会報告会資料

参照

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