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媒体が消費者に及ぼす影響

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要 旨

 同じコミュニケーション内容であっても、媒体によって消費者は異なる反応を示す。媒体 の影響、とりわけ紙媒体と電子媒体の比較に関する研究は学際的な形で行われている。心理 学や教育学においては記憶の再生率や理解度、文章を読む速度に焦点が当てられ、マーケ ティング研究においては広告の評価やダイレクト・メールの開封率などに関心が寄せられて いる。本稿においては、これらの研究を情報処理過程の相違、媒体の使用経験、媒体がもつ 構造的特性、媒体の物理的特性の 4 つの軸で整理を試みた。また、媒体の組合せの効果につ いての研究も概観した。その結果、紙媒体は電子媒体に比べ、記憶の再生率や理解度を高め る傾向が見られた。しかし、これらの結果は必ずしも一貫しているとは限らず、矛盾するよ うな研究結果が多数見られている。また、既存研究の多くが理論に基づかず現象のみを捉え ているため、研究成果を体系的に整理することへの困難性が今後の課題として示された。

1.はじめに

 電子媒体の台頭に伴い、1980 年代から紙媒体と電子媒体の比較に関する研究が行われて いる(Askwall 1985; Mills and Weldon 1987; Muter, Latremouille, and Treurniet 1982)。当 初の研究は学習場面における媒体の影響、とりわけ理解度や文章を読む速度などに注目して いる。しかし、初期の電子媒体は紙媒体に比べて表示媒体としての性能が劣っており、鮮明 度や見易さから媒体の影響が生じていると指摘されていた。その後、技術の発展により、電 子媒体の表示媒体としての性能は紙媒体と同じ水準まで改善されているが、依然として多く の先行研究において紙媒体と電子媒体それぞれがもたらす影響が報告されている。また、媒 体がもたらす影響について、何等かの影響を受けていることは経験的に確認できるが、なぜ そのような影響が出るのかについてのメカニズムはそれほど研究が進んでない。

 また、マーケティングにおける媒体の影響(紙媒体・電子媒体)に関する研究は主に媒体 の比較を通して 1 つの媒体が持つ優位性に焦点が当てられてきているため(Bezjian-Avery,  Calder,  and  Iacobucci  1998;  Gallagher,  Parsons,  and  Dale  2001;  Parsons,  Gallagher,  and 

媒体が消費者に及ぼす影響

權 純鎬

─ 紙媒体と電子媒体の比較を中心に ─

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Foster 2000; Sundar et al. 1998; Yoon and Joo-Ho 2001)、それらの媒体の組合せ方や組合 せによって生じる効果についてはあまり注目されてこなかった。

 しかし、クロス・メディアと呼ばれる複数の媒体を用いるマーケティングは、近年その重 要性を増している。特に、企業と消費者とのタッチポイントが増えるにつれて IMC と呼ば れる統合型マーケティング・コミュニケーション(integrated  marketing  communications)

はマーケティングの重要な課題であると指摘されている(Schwaiger,  Cannon,  and  Num- berger  2010;  Sheehan  and  Doherty  2001)。このような指摘を踏まえると、紙媒体と電子媒 体のそれぞれから消費者がどのような影響を受け、その影響の背後にあるプロセスを明らか にし、さらには 2 つの媒体を組合わせることで得られる効果について示すことは研究のみな らず企業にとっても解明されるべき重要な課題であると考えられる。

2.研究の整理の枠組み

 紙媒体と電子媒体の比較研究は 1980 年代から始まっている。初期の研究の多くは、媒体 の影響に関する主な原因として媒体の物質的特徴を挙げている(Belmore  1985;  Bevan  1981; Gould and Grischkowsky 1986 Noyes and Garland 2003; Stanton et al. 2000)。これら の先行研究においては、スクリーンの彩度、光学的歪み、画面のちらつき、ディスプレイの 鮮明度などを紙媒体と電子媒体で記憶の再生率や理解度などに差が出る主な原因としてい る。しかし、これらの初期段階の研究において指摘されてきた要素は、電子媒体における技 術発展によって近年では紙媒体とさほど変わらないところまで進化している(Margolin,  Driscoll,  and  Toland  2013)。つまり、2000 年代以降、電子媒体と紙媒体において、表示媒 体としての性能差は徐々に少なくなってきている。

 しかし、依然として媒体(紙媒体・電子媒体)による影響は確認されているおり(Hou,  Rashid, and Min 2017; Li, Chen, and Yang 2013)、マーケティング研究においても媒体に対 する消費者の反応の相違について指摘がなされてきている(Ieva  and  Ziliani  2017;  Krishen  et al. 2016; Magee 2013)。

 媒体(紙媒体・電子媒体)の影響に関する研究は媒体の使用場面によって着眼点が相違す る。そのため、学際的性格が強く、マーケティングの研究領域のみならず心理学や教育学な ど多様な分野において研究がなされている。そして、媒体の影響に関する研究が本格的にな されてきてから 20 年が経つが、これまでの研究蓄積は一つの理論的背景に収束する形で研 究が行われることなく、散発的な形で研究が行われており、多様な分野の研究者がそれぞれ の問題意識に基づいて研究を進めている。そのため、本稿では散発的に行われてきた媒体の 影響に関する研究を整理することで、現段階における研究の発展を展望し、そこから研究の 課題について考察することを目的とする。マーケティング研究においても、ダイレクト・メー

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ルや雑誌、新聞といった広告を伴う媒体は既存の紙媒体に加え電子媒体も積極的に使われて いる現状を考えると、媒体の影響に関するメカニズムについての考察は適切な媒体の選択や 効果的なマーケティング・コミュニケーションに示唆を与えることができる。

 まず、第 3 章においては紙媒体と電子媒体に関する基礎研究を整理する。媒体の影響に関 する基礎研究は、主に媒体が記憶の再生率、理解度、文章を読む速度に及ぼす影響に注目し ている。本稿はこれらの従属変数を「情報処理過程」、「媒体の使用経験」、「媒体の構造的特 性」、「媒体の物理的特性」の 4 つの視点から分類する。「情報処理過程」に着目した研究は、

さらに「認知地図」と「認知負荷」の 2 つに分けられる。これらの 4 つの視点については 第 3 章において詳しく説明する。その上で、第 4 章においてはマーケティング研究領域に おける媒体の影響についての研究を概観する。マーケティング研究領域においては、主に広 告内容における記憶再生率(Sundar  et  al.  1998)や広告評価(Gallagher,  Parsons,  and  Dale  2001;  Parsons,  Gallagher,  and  Foster  2000)、媒体の選好(Krishen  et  al.  2016a; 

Magee  2013)、媒体の組合せによるシナジー効果(Ieva  and  Ziliani  2017;  Naik  and  Peters  2009)に関心が寄せられている。これらの研究については第 4 章で整理する。

3.紙媒体と電子媒体の比較研究

3 − 1.認知地図の影響

 紙媒体と電子媒体間において記憶や理解度、あるいは文章を読む速度に差が見られる原因 の一つとして、認知地図形成のための手がかりの強弱が指摘されている(DeStefano  and  LeFevre 2007; Hou et al. 2017; Li, Chen, and Yang 2013; Payne and Reader 2006; Stanton,  Correia, and Dias 2000)。認知地図(cognitive map)とは、対象と環境の間の空間的配置を 表す地図であり、認知地図の形成とは空間における対象と環境の相対的位置に関する情報の 獲得、記号化、貯蔵、想起という心理的変換からなるひとつの過程である(Downs  and  David 1973)。

 Mangen,  Walgermo,  and  Brønnick(2013)は媒体を通して文章を探索(navigation)する 際に、電子媒体は必然的にスクロール動作や画面をタッチするなどの動作が必要であること に注目し、その追加的な動作が認知地図形成に及ぼす影響についての研究を行った。彼らは、

電子媒体のスクロール動作は空間的不安定性を生み出す原因となり、認知地図形成のための 手がかりを弱めると指摘し、実験を行った。その結果、紙媒体のグループが電子媒体のグルー プよりも高い理解度を示した。つまり、電子媒体のスクロール動作によるレイアウトの変更 が認知地図の形成に影響を及ぼし、その結果媒体間において理解度に差が表れるという。

 また、Hou,  Rashid,  and  Min(2017)は媒体間において理解度に差が表れる原因として、

媒体のレイアウトが認知地図の形成に影響を及ぼすと指摘している。彼らは、実験を行い、

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実験の素材として漫画を用いている。その理由として、漫画は読み手が没頭しやすい素材で あること、またベストセラーや漫画、雑誌の多くが紙版と電子版を同時に展開していること を理由として挙げている。実験は紙の漫画と、iPad のデジタル修正版(紙の漫画と同じレ イアウト)、iPad のデジタル原本版(電子媒体用のレイアウト)の 3 つを用いて行われ、紙 媒体、デジタル修正版、デジタル原本版の順で理解度が高いことが明らかになった。これら の結果に対して、デジタル原本版ではページをめくる度にレイアウトが変わるため、漫画全 体のストーリを理解するための 俯瞰図 (認知地図)を形成するために紙媒体のよりも余 分な認知資源が使われることを指摘している。さらに、Hou らは認知地図を形成しやすくす るために、見慣れた構造でありかつ固定されている(スクロールなどで画面が動かない)こ とが条件であると述べている。また、これらの条件が満たされると認知地図形成のための空 間的手がかりが安易に得られ、認知地図形成の安易さは認知資源の使用量を減らし、電子媒 体でも紙媒体と同水準の理解度が得られるという。

 文章を読む速度が異なることについても、認知地図形成の安易さに影響を受けるという研 究がある(Dillon, Richardson, and McKnight 1990)。特に、媒体そのものが持っている構造 的特性に加え、文章を読む際に電子媒体はスクロール行為が必要であることが認知地図に影 響 を 及 ぼ し、 そ の 結 果 文 章 を 読 む 速 度 に 差 が 表 れ る 主 な 原 因 で あ る と い う(Eklundh  1992)。このスクロール行為は、マウスのホイールを回す力によって移動する幅が変わって くるため、スクロールのたびに同じ行数を移動するのではなく、電子媒体のレイアウトは読 むたびに少しずつ変化する。そのため、スクロール行為は常に異なる文字の配置を生み出す ことになり、読者はその都度認知地図を形成しなければならなくなる。その結果、スクロー ル行為が必要な電子媒体は読み手の認知地図形成を妨げ、その結果文章を読む速度に影響す る。

3 − 2.認知負荷に注目した研究

 認知負荷(cognitive  load)とは、一度に複数のタスクを遂行するための追加的な努力と 集中である(Conklin  1987)。また、Noyes,  Garland,  and  Robbins(2004)は認知負荷を個 人が経験する課題からの要求と要求に対処する能力との相互作用であると定義している。す なわち、課題から要求される認知需要と、個人が利用可能な認知資源量の組合せである。そ して、Noyes らは媒体によって認知資源の使用量が変化することを指摘している。他にも、

媒体の影響の原因として認知負荷に注目している多くの先行研究において、電子媒体を通し て読書をする、あるいはタスクを遂行する際に、マウスやキーボードの操作によるレイアウ トの変動性が認知負荷を高める原因であると指摘されている。

 電子媒体(コンピュータやタブレットの画面)で文章を読む際には、スクロール行為や ズーム、スワイプといった動作が必要とされる。そして、これらの動作は認知負荷を増加さ

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せ、その結果自分が読んでいた箇所を見失う 知覚される混乱(perceived disorientation)

を呼び起こす原因となる(Ahuja and Webster 2001)。そして、知覚される混乱状態に陥ると、

読んでいた元の文章の位置に戻るために追加的な認知資源が必要とされ、さらに認知負荷が 高まり、その結果記憶力に影響を及ぼすという。

 Mayes,  Sims,  and  Koonce(2001)は、大学生の実験参加者に紙媒体あるいは電子媒体を 選択させ、課題を与えた。その結果、紙媒体が電子媒体より課題のスコアが高く、認知負荷 と理解度は負の関係にあることが示された。つまり、電子媒体は認知負荷を高める原因とな り、その結果理解度(課題のスコア)が低くなることが確認された。

 また、DeStefano  and  LeFevre(2007)は作業記憶と認知負荷の関係に注目し、媒体の構 造的特性による作業記憶量の増加が認知負荷に与える影響についての研究を行っている。彼 らは読書場面において電子媒体は紙媒体に比べて追加的な認知資源を必要とし、より多くの 作業記憶が要求されるようになると述べている。例えば、紙媒体の本の場合、前のページに 戻るか次のページに進むかの 2 択となる。しかし、ハイパーリンクが埋め込まれている電子 媒体の場合、これらの 2 択に加えて リンクをクリックする という選択肢があり、増えた 選択肢によってより多くの認知資源が必要となる。また、埋め込まれたハイパーリンクの数 が増えれば増えるほど、それに伴って認知負荷も高まることが予想される。また、ハイパー リンクのような紙媒体においては存在しない追加的な干渉は、読解プロセスにおける混乱の 原因になると指摘されている(Miall and Teresa 2001; Nielsen 1990)。

3 − 3.媒体の使用経験に注目した研究

 上記の情報処理過程の「認知地図理論」と「認知負荷理論」の観点以外に、媒体の使用経 験によって使用者が影響を受けることに着目した研究も存在する。特に、近年の電子媒体の 普及とともに、電子媒体の使用経験が豊富な消費者が増えている。そして、電子媒体を紙媒 体と同じように感じる世代にとっても比較的電子媒体の使用に慣れてない世代と同様に紙媒 体と電子媒体の間で差が見られるのかに焦点が当てられてきている。

 Sundar et al.(1998)は広告内容における記憶と媒体の関係について注目し、媒体は発信 者と受信者のコミュニケーションにおける性質を変えることが出来る変数であり、媒体がコ ミュニケーションに影響を及ぼすと述べている。彼らは新聞記事とその中にある広告を実験 の素材として用いており、実験の結果広告の内容においては紙媒体が電子媒体よりも記憶に 残りやすいことが示された。しかし、広告の周辺にある新聞記事の内容における記憶の再生 率には有意差が見られなかった。この結果に対して、Sundar et al.(1998)は電子媒体が比 較的新しく実験参加者の使用経験が少ないため、媒体の新規性が広告以外の周辺的な情報に 気づきにくくしていると述べている。

 Noyes, Garland, and Robbins(2004)も媒体使用者の使用経験に着目し、一連の実験を通

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して 10 ヶ月間媒体と理解度に関する測定を行った。その結果、媒体の種類(紙媒体・電子 媒体)が理解度には影響を及ぼさないことが確認された。有意差がなかったことに対して、

彼らは 慣れ を原因として挙げている。すなわち、10 ヶ月間ずっと電子媒体を使ってき たグループは、電子媒体での学習に慣れてきており、紙媒体のような感覚で使うことが出来 るようになったため、理解度に媒体の影響が表れなかったと推測している。

 その後、Hernandez-Julian  and  Peters(2012)は Noyes らの研究を踏まえ、大学生に紙 媒体と電子媒体のどちらかを使用させて、経済学の授業の課題を提出させた。その結果、紙 媒体グループと電子媒体グループの課題の点数における有意差は見られなかった。結果に対 し、彼らは大学生の世代特徴としてデジタル・ネイティブであることを挙げ、使用経験が豊 富な場合、電子媒体も紙媒体と同水準の認知資源が使われている可能性があることを指摘し ている。

 Kim and Kim(2013)は、多くの先行研究で理解度が媒体によって影響を受けることを指 摘しているものの(Kerr and Symons 2006; Leventhal et al. 1993; Martin and Platt 2001)、

これらの研究においては実験参加者の年齢と媒体の使用経験には焦点が当てられてこなかっ たことを指摘している。彼らは Z 世代と呼ばれている電子媒体の使用経験が豊富である 1990 年から 2010 年の間に生まれた学生を対象にテストを行い、比較的に電子媒体の使用 経験が長い世代においても紙媒体のグループが電子媒体グループよりも理解度の得点が有意 に高いことが示された。Kim らの結果は、Sundar  et  al.(1998)や Noyes,  Garland,  and  Robbins(2004)の結果と矛盾するものである。

 さらに、Rockinson-Szapkiw  et  al.(2013)は大学生を対象に媒体と記憶の再生率に関す る実験を行っている。実験参加者には一学期の授業の教材として紙の教材か電子版の教材か を選択させた。また、電子版の教材については、最も要望多かったモバイル端末(電子書籍 端末、ラップトップ、タブレットなど)を用い、紙媒体のグループには既存のテキストブッ クを用いた。結果、媒体と学生たちの記憶の再生率には有意差が見られなかった。この結果 に対して、学生たちの電子媒体の使用経験が豊富であることが原因であるとし、今後は使用 経験、年齢クラストを変数として考慮する必要があると指摘している。

 Neijens  and  Voorveld(2016)は多くの先行研究が紙媒体の比較対象としてコンピュータ を用いたことに対して、近年普及が進んでいるタブレットのような電子端末については研究 されてないことを指摘し、紙とタブレットを用いて記憶への影響を検証した。その結果、紙 媒体が電子媒体より自由再生率を高めることが確認された。その理由として、事前に測定し た新しいデジタル製品に抵抗がなく、積極的に採用する傾向を指すデジタル・イノベーター 指標であるデジタリ・イノベーティブネスが影響していると述べている。つまり、デジタル・

イノベーティブネスが低いほど、紙媒体の方が電子媒体よりも自由再生率が高く、媒体の特 性よりも使用経験の方が影響を及ぼすことが明らかになり、媒体の影響には媒体の使用経験

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にが影響することが示唆された。

3 − 4.媒体の構造的相違点に注目した研究

 媒体間の構造的特性の相違が記憶に影響を及ぼすことを指摘している研究もある(Eve- land  and  Dunwoody  2002;  Liu  2005)。媒体の構造的特性とは、文章を読む際に紙媒体は次 のページへと 1 ページずつ動く線形構造になっている反面、電子媒体はハイパーリンクに よってページの順序に関係なく情報を取り入れることが出来る非線形構造であることを意味 する。そして、非線形構造においては選択的情報探索(selective  scanning)が行われる傾向 があり、選択的情報探索のような断片的な読み方は学習過程において悪影響を及ぼし、記憶 力を低下させるという。

 媒体の構造的特性(線形構造・非線形構造)は記憶の再生率に影響を及ぼす。(Eveland  and Dunwoody 2002; Liu 2005)。Parsons et al.(2000)は媒体の構造(線形構造・非線構造)

と媒体(紙媒体・電子媒体)が広告評価に与える影響に注目した。彼らは、電子媒体を 2 種 類(線形型、非線形型)用意し、線形型は紙媒体と同様にページをめくる以外の動作は出来 ないようになっており、非線形型の電子媒体広告は右側に各ページが小さいフレームで表示 されており、次のページに移動する以外の動作も出来るようになっている。広告の評価を測 定した結果、広告を含む記事の内容への興味は紙媒体が電子媒体よりも高く、記事の完成度 も紙媒体が電子媒体よりも高いと感じていることが明らかになった。しかし、媒体の構造と 広告評価の間に有意差が見られず、広告の評価には媒体または媒体の構造が影響しないこと が示された。

 Gallagher  et  al.(2001b)は Parsons  et  al.(2000)の研究結果に対し、構造的特性に加 えて、使用経験にも注目すべきであると指摘している。彼らは、広告評価と媒体の比較にお ける実験参加者を大学生から成人に変えて追試を行った。実験参加者の条件としては、成人 であること、また過去のコンピュータの使用経歴を考慮し、大学の実験室または実験参加者 の自宅の 2 つの場所から 1 つを選んでもらった。実験参加者の自宅の場合には、熟練した 2 名のリサーチ・アシスタントが同行し、周辺環境からの影響がないように統制をした。彼ら は前回の Gallagher  et  al.(2001a)の結果と比較し、記事内の写真が魅力的に見えるという 項目のみ同じ結果が得られており、記事に対する興味や説明の質、描写されている旅行が魅 力的に見えるといった評価項目では有意差が見られなかった。有意差が見られなかった原因 として、電子媒体の使用経験を挙げ、実験開始前に実験参加者のコンピュータ使用経歴は考 慮されているものの、前回の実験参加者の大学生ほどコンピュータに慣れてないことが原因 であると述べている。また、自宅は大学の実験室よりもリラックスしやすく、周りの目を気 にすることがないため、場所による影響も考えられるという。

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3 − 5.媒体の物理的特性に注目した研究

 紙媒体と電子媒体の物理的特性に注目した研究も存在する。物理的な特性としては、ディ スプレイの光学的歪みや鮮明度、文章を読むための操作法の相違などがある。Leventhal  et  al.(1993)は紙媒体の百科事典と電子媒体(コンピュータ・モニター)の百科事典の 2 種 類を用いて文章を読む速度に対する比較を行った。比較の結果、電子媒体のグループが紙媒 体のグループよりも 15%速度が遅かったことが明らかになった。

 また、Kurniawan and Zaphiris(2001)は表示媒体(紙媒体・電子媒体)と文章の構造(3 つの異なる主題のコラム)の 2 要因条件で実験を行った。実験の結果、媒体と文章の構造に おける交互作用は見られなかったものの、1 つ目と 2 つ目のコラムでは有意な差が見られ、

紙媒体の方が電子媒体よりも文章を読む速度が 10 ‑ 30%速くなるという結果が得られた。

この結果に対して、彼らは媒体間の文字サイズとフォント、またテキストと背景の高コント ラストの違いが読む速度に影響を及ぼしていると推測している。

 その後、Noyes  and  Garland(2003)は媒体(紙媒体・電子媒体)の物理的特性が記憶に 影響を受けると述べ、実験を行った。その結果、自由再生に関しては紙媒体が電子媒体より も高く、手がかり再生に関しては電子媒体が紙媒体よりも高いことが示された。これらの結 果に対し、彼らは媒体が持つ物理的特性、特に電子媒体として用いたコンピュータ・モニター の点滅率、高いコントラスト、変動する輝度のような物理的要素が作業記憶への負荷を増加 させ、その結果長期記憶(自由再生)に影響を及ぼしていると指摘している。また、これら の特性は脳の活動にも影響を及ぼすことが見出されており、媒体によって脳の神経活動にお ける機能的および解剖学的変化に影響を及ぼす可能性があるという(Henson et al. 1999)。

 小林・池内(2012)は近年の電子書籍端末が紙媒体と比べその表示媒体としての物理的 特性には差が少なくなっていることを指摘しながらも、依然として多くの先行研究が紙媒体 と電子媒体の間に記憶や理解度、文章を読む速度において差が見られていることに注目して いる。彼らは媒体と文章の種類が学習効果に及ぼす影響、特に速度への影響を中心とする研 究を行っている。内容の相違については、文章の種類(説明文または随筆文)を分けて実験 を行っている。測定結果、表示媒体と文章のタイプの交互作用は有意であり、単純主効果の 検定の結果、随筆文では電子媒体(iPad 条件)における文章のタイプが有意であった。説 明文では、表示媒体(電子媒体と紙媒体)と文章のタイプの単純主効果が有意な結果となっ た。

4.マーケティング研究における媒体の研究

 マーケティング研究においては、紙媒体と電子媒体の比較研究に加え、それらの組合せに 着目した研究がなされてきている。紙媒体と電子媒体の組合せに関する研究は、複数の感覚

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刺激による研究(Dijkstra,  Buijtels,  and  van  Raaij  2005)、媒体間における広告メッセージ の統合度合に注目している研究(Sheehan and Doherty 2001)、媒体の組合せによるシナジー 効 果(Naik  and  Peters  2009;  Naik  and  Raman  2003;  Olbrich  and  D.  Schultz  2014; 

Schwaiger, Cannon, and Numberger 2010; Wakolbinger, Denk, and Oberecker 2009; Wie- sel, Pauwels, and Arts 2011)に関する研究がある。以下、これらの研究について概観する。

4 − 1.関与水準に注目した研究

 媒体と製品カテゴリーが広告評価に及ぼす影響に関する研究としては、Yoon  and  Joo-Ho

(2001)の研究がある。彼らは媒体の選択肢の増加と細分化されたターゲッティングによっ て媒体の適切な選択が以前よりも重要になっていると指摘しており、製品特性と媒体が広告 評価に及ぼす影響について調査を行った。媒体として、電子媒体はインターネット、テレビ、

ラジオを対象とし、紙媒体としては雑誌を用いた。製品特性は Katz(1960)の FGB- 製品 グリッド理論に基づいて、スポーツ車(高関与・思考型)、高級時計(高関与・感情型)、シャ ンプー(低関与・思考型)、そしてファースト・フード(低関与・感情型)の 4 つの製品カ テゴリーを選択した。実験参加者の選定においては、インターネットの使用経験があり、現 在も使用していることが条件であり、105 個の質問項目を通してインターネット広告に対す る態度、紙媒体と電子媒体の主な特性の比較、媒体と製品の関連性の評価、デモグラフィッ クの 4 つを測った。実験の結果、電子媒体(インターネット)は高関与・思考型の製品の場 合に最も広告評価が高いことが示唆された。

 また、Dahlén, Murray, and Nordenstam(2004)は紙媒体と電子媒体の比較として、紙媒 体の広告とインターネット広告の効果に製品関与を媒介して研究を行っている。彼らは広告 研究においてブランド・イメージ・コミュニケーションと暗黙的意味の使用に関する研究は 多くみられるものの、そのほとんどは単一媒体、特に紙媒体における効果に焦点が当てられ ていること(McQuarrie  and  Mick  1996)を指摘し、電子媒体を通して表示される広告は紙 媒体より鮮やかでインタラクティブな特性を持っているため、違う特性を持つ 2 つの媒体の 比較が必要であるという。また、高関与型製品の場合、紙媒体の広告よりもインターネット 広告が効果的であり(Dahlén and Bergendahl 2001; Yoon and Joo-Ho 2001)、紙媒体は低関 与の消費者にとって効果的であること(Toncar  and  Munch  2001)を踏まえ、媒体と関与が 広告の暗黙的意味にどのような影響を与えるかを検証している。広告における暗黙的意味と は、視覚や言葉から連想されるイメージを言語化したものであり、消費者は暗黙的意味を もって広告メッセージの内容を推測する(Toncar  and  Munch  2001)。この暗黙的意味と製 品関与の関係に注目し、実験を行った結果、低関与製品における暗黙的意味はインターネッ ト広告の方がより強く認識し、高関与製品における暗黙的意味に対しては媒体間に有意差が 見られなかった。また、ブランドに対する負の態度を持っている消費者は紙媒体の広告より

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インターネット広告においてブランドの暗黙的意味を強く認識し、ブランドに対する正の態 度を持っている消費者は暗黙的意味の認識には媒体間の有意差が見られなず、インターネッ ト使用経験が少ない消費者はインターネット広告においてブランドの暗黙的意味を強く認識 しした。そして、インターネット使用経験が豊富な消費者には媒体間に有意差が見られない という。このような結果は、電子媒体と紙媒体を組合わせるメディア・ミックスにおけるそ れぞれの媒体の役割についての示唆を与えている。

4 − 2.媒体の組合せに注目した研究

(1)複数の感覚刺激に注目した研究

 Dijkstra,  Buijtels,  and  van  Raaij(2005)は単一の感覚を刺激されるより、複数の感覚に よって刺激された方がコミュニケ─ションの効果が高まるため(Kisielius  and  Sternthal  1984)、紙媒体と電子媒体(テレビまたはコンピューター)を組合せた方が単一媒体よりも 効果的であると述べている。例えば、テレビのみの場合、視覚と聴覚が主に刺激となるが、

紙媒体の場合には触覚と視覚、場合によっては嗅覚も刺激されることがあり、2 つの媒体は 異なる感覚を刺激する。そして、彼らは従属変数として「認知的反応」、「感情的反応」、「態 度」の 3 つを設定し、実験を行っている。

 まず、実験参加者を単一媒体のグループ(紙、インターネット、テレビのうち 1 つのみ)

と組合せのグループ(紙・インターネット・テレビの 6 通りの組合せ)を設定し、総 9 グルー プに分けた。どのグループにも本またはワインの広告を 3 回ずつ提示した。テレビの場合に は 8 分のニュースと 2 分間の広告を、紙とインターネットのグループにはニュース記事と 記事の中に含まれている広告 10 分間広告を見せた。従属変数の「認知的反応」はブランド の主張と広告内容それぞれの再生と再認を測定し、「感情的反応」は質が高い/低い、望ま しい/望ましくない、いい/悪い、愉快/不愉快の 4 つの項目を用い、「態度」に関しては 購買意図を測定した。

 結果、単一媒体の比較においては、ブランドの主張と広告内容の記憶の両方においてテレ ビがインターネットよりも高い再生率が見られた。そのほかの「感情的反応」と「態度」に は有意差が見られなかった。媒体の組合せに関して、テレビ単一グループの方が 3 つを組み 合わせた場合よりも再生と再認ともに高く、ほかの項目は有意差が見られなかった。した がって、複数の感覚刺激による影響は見られなかった。

(2)媒体の組合せによるシナジー効果に注目した研究

 広告における媒体の影響に関して、媒体と広告評価に相関がないという報告もあるものの

(Gallagher,  Parsons,  and  Dale  2001)、紙媒体が電子媒体よりも広告内容の記憶再生率を高 める効果があることを示唆している研究もある(Jones et al. 2005; Sundar et al. 1998)。多

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くの場合、紙媒体と電子媒体の両方に掲載されている広告は媒体によって内容に大きな相違 はない。しかし、広告における紙媒体と電子媒体それぞれの媒体が持つ構造的特性の長所を 活かすためのシナジー効果についての研究は少なく、その効果についての検討が必要である と指摘されている(Bezjian-Avery, Calder, and Iacobucci 1998)。

 Schwaiger  et  al.(2010)は紙媒体と電子媒体の組合せによるシナジー効果が広告評価に 及ぼす影響に注目している。そして、電子媒体(バナー広告)と紙媒体の広告効果を比較し、

これらを組合わせた場合の消費者の態度と行動の変化についての調査を行った。彼らは、紙 媒体と電子媒体の組合せによるシナジー効果について、3 つのシナジーを挙げている。一つ 目は、芸術的シナジー(Artistic  synergy)である。芸術的シナジーとは、芸術を鑑賞する 際に、様々な感覚を経験することで満足度が高まることにたとえ、2 つの媒体を組合わせる ことで単体よりも複数の感覚を経験することが出来、満足度が高まるという(Joy  and  Sherry 2003)。また、2 つ目は多様性のシナジー(Variety synergy)であり、人々が多様な 刺激を好むことを考えると(Steenkamp  and  Baumgartner  1992)、同じ広告メッセ─ジを異 なる様式(媒体)で経験することも広告に対する評価の向上につながる。3 つ目は露出シナ ジーである。同じメッセージ内容であってもそれぞれの媒体ごとに記号化が行われることか ら(Chang  and  Thorson  2004)、紙媒体の広告とインターネット・バナー広告という異なる 媒体による露出回数の増加は広告効果を高めるという。

 これらの 3 つのクロスメディア・シナジーを検証するために、まずは媒体単体の効果の比 較調査を行い、その後に紙媒体と電子媒体両方を用いた広告と、インターネットのみで 2 回 広告を見せた場合との比較、最後には紙媒体と電子媒体両方を用いた広告と紙の広告のみを 2 回見せた場合の比較を行った。従属変数としては記憶再生率、ブランド態度、購買意図の 3 つが設定された。実験の結果は、媒体の比較においては紙媒体が電子媒体より再生率が高 く、ブランド態度と購買意図には有意差が見られなかった。媒体の組合せによるシナジー効 果においては、ブランド態度のみ組合せのグループの方が電子媒体のグループよりも有意に 高い結果となった。

 また、媒体の組合せによるシナジー効果に関する他の研究も存在する(Naik  and  Peters  2009;  Naik  and  Raman  2003)。Naik  and  Peters(2009)は、媒体をオフライン媒体(紙・

ラジオ・テレビ)とオンライン媒体(インターネット)に分け、それぞれの媒体を組合せる ことによるシナジー効果についてのモデルを提示している。素材としては、ドイツの自動車 会社のデータを使用し、自動車ディーラーがいる店舗への誘導率と自動車メーカーのホーム ページでのオーダーメイド・システム(Car  Configurator)への誘導率を従属変数として用 いている。また、オフライン媒体はテレビ、紙、ラジオを、オンライン媒体としてはバナー 広告と検索エンジン広告を用いて、オンライン/オフライン媒体間(within-media)と媒体 相互(cross-media)のシナジーが広告費対効果(訪問率)について調査を行った。

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 調査の結果、オフラインへの誘導率(自動車ディーアーへの訪問率)は媒体 1 つの場合よ り媒体間(within-media)の場合の誘導率が高く、オンラインへの誘導率(企業のホームペー ジの Car Configurator へのアクセス)に関しては媒体間(within-media)と媒体相互(cross- media)両方に誘導率を高める効果があることが見られた。したがって、媒体のシナジー効 果が確認された。

 媒体のシナジー効果が確認されたことについて、Naik  and  Peters(2009)は 3 つの理論

(Tavassoli  1998)が背景にあることを推測している。まず、記号化変動性理論(encoding  variability  theory)によって消費者は同じメッセージを異なるいくつかの媒体から受け取る ことで長期記憶にメッセージを記号化することが安易になるという。また、反復変動理論

(repetition variation theory)によって異なる媒体からの事前認知(pre-cognitive)や美容的 手がかり(cosmetic cues)に複数露出されることで記号化と態度形成につながる。そして、

選択的注意理論(selective  attention  theory)によって複数の媒体と広告の反復は態度の改 善につながるという。

5.今後の課題

 媒体(紙媒体・電子媒体)の影響についての研究は比較的新しい分野であり、解決すべき 課題は多く残されている。まず、媒体の影響に関する研究領域の課題として、研究における 理論的根拠の乏しさを挙げられる。本稿において概観してきた先行研究は、記憶の再生率や 理解度、文章を読む速度、あるいは広告評価などに注目している。一部の研究は第 3 章で取 り上げた認知地図や認知負荷のような特定の理論に基づいて調査が行われているが、結果に 対する理論的裏付けが乏しい研究も多くみられる。例えば、Sundar et al.(1998)は紙媒体 が電子媒体よりも記憶再生率を高めるという実験結果を示しているものの、なぜ紙媒体の方 が記憶再生率を高めるのかを説明できるような理論的裏付けはない。また、Jones  et  al.

(2005)も同様に紙媒体の方が記憶再生率を高めることを確認しているが、なぜそのような 影響が生まれるのかについての説明は乏しい。他にも、媒体への選好に関する Krishen  et  al.(2016)と Magee(2013)の研究結果は若い世代も紙媒体を電子媒体よりも選好し、価 値のあるものであると感じていることを示している。しかし、なぜ若い世代が紙媒体を選好 するのかについては不明なままである。研究結果の妥当性と精緻性を向上させるために、理 論的根拠の検討は今後の重要な課題である。

 また、研究結果の不一致についての検討が数少ないことも課題である。先行研究において 記憶再生率や理解度に媒体の影響が確認されている研究(Hou  et  al.  2017;  Sundar  et  al. 

1998)と確認されなかった研究(Hernandez-Julian  and  Peters  2012;  Porion  et  al.  2016)

の両方が存在し結果の不一致が見られる。具体的には、Hou らは紙媒体と電子媒体を比較し、

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紙媒体の方が最も理解度が高まり、また電子媒体でも紙媒体と同じレイアウトであれば理解 度が高まるという。一方で、Hernandez-Julián らの実験結果は媒体が理解度には影響しない ことを示しており、2 つの研究に結果の矛盾が見られる。上記の先行研究以外にも多数の研 究に結果の矛盾がみられるが、研究結果の不一致に対する考察は少なく、さらなる議論が必 要であるだろう。

 マーケティング研究領域における媒体の影響に関する研究についても課題は多く残されて いる。その一つとして、既存研究の多くが電子媒体の多様化に対応できてないことを指摘で きる。多くの先行研究においては実験室実験を行っているため実験参加者の電子媒体の統制 が可能であったものの、マーケティング・コミュニケーション・ツールとしての媒体選択を 考える上で消費者が使用する電子媒体を特定することは難しい。しかし、このような状況を 想定した紙媒体と複数の電子媒体を同時に比較した研究は非常に少ない。電子媒体の発展と ともに、タブレットや PC、スマートフォンなど様々な電子媒体が使われるようになった。

また、消費者はこれらの電子媒体を置かれている状況や目的によって使い分けるようになっ てきている。しかも、これらの電子媒体は画面の大きさや操作法、ディスプレイの鮮明度な どデバイスによって大きく異なる。今後の研究においては、紙媒体と電子媒体の比較のみな らず、このような電子媒体間の相違についても研究を行う必要があると考えられる。

 そして、2 つの媒体の組合せについても十分な検討がなされてない。一般法人日本ダイレ クトメール協会によると(DM メディア実態調査,2017)、紙媒体のダイレクト・メールを 読んだあと、何等かの行動をとった行動喚起率の割合は、男女ともに 20 代〜 30 代の若年 層が他の世代に比べて高い比率を占めていることが示されており、若年層には紙媒体のダイ レクト・メールが電子媒体より効果的であることが示唆された。このように、デジタル・ネ イティブと呼ばれている若い世代に紙のダイレクト・メールが E メールでのダイレクト・

メールより効果的であることを考えると、マーケティング活動における紙媒体の活用につい て改めて考える必要があるだろう。しかし、紙媒体のみのコミュニケーションも現実的では ない。第一、コストの面において紙媒体は電子媒体より何倍も高い。したがって、紙媒体は 効果的であるものの、コストの面を考えると、容易に幅広いターゲットにコミュニケーショ ンが取れる電子媒体が優位性を持つ。このように、それぞれの媒体の優位性を活かせる適切 な組合せ方についての考察は今後の重要な課題である。

 また、第 4 章では複数の感覚刺激(Dijkstra et al. 2005)や媒体の組合せによるシナジー 効果(Schwaiger  et  al.  2010)、媒体間のメッセージの統合度合い(Sheehan  and  Doherty  2001)といった媒体の組合せに関する先行研究について整理した。しかし、複数の媒体(紙 媒体・電子媒体)を用いる際の使用順序についてはあまり検討されていない。例えば、企業 が紙媒体と電子媒体の両方でダイレクト・メールの送付することを考えている場合に、どち らかを先に送付するかあるいは両方を同時に送付した方が効果的なのかについての知見はあ

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まり存在しない。また、従来の先行研究においては媒体間の比較を通して媒体の優越に注目 しているものが多いが、2 つの媒体における補完機能の可能性についての研究は少ない。今 後、電子媒体の使用はさらに増えていくことが予想される反面、紙媒体も依然として使われ ると指摘されている(柴田 2017)。2 つの媒体を効果的に使用するためには、媒体の補完関 係についても検討が必要であろう。

 また、本稿で概観した多くの媒体間の比較研究は学際的に研究が行われており、その中で も教育学や心理学が中心分野となっている。そのため、マーケティング研究分野にこれらの 分野の従属変数をそのまま援用することは不適切であろう。今後、マーケティング・コミュ ニケーションにおける媒体選択の最適化問題を考える際に、このような知見をいかに援用す るかは今後の課題として考えられる。

 最後に、当該領域における今後の研究の方向性を考える上で、研究の体系的な整理は不可 欠であると考えられる。約 20 年間にわたり様々な分野において媒体の影響に関する研究が 行われてきているが、これらの研究を体系的に整理した文献は見当たらない。本来、文献研 究は特定の理論や研究の時系列的発展を軸として研究を網羅し整理することが多い。しか し、本稿においては紙媒体と電子媒体の比較に関する研究の発展を時系列として整理するこ とではなく、分野を横断しながら共通して多くみられているトピックを 4 つの軸を設けて整 理を試みた。その理由として、研究が散発的に行われていることを挙げられる。媒体の比較 研究(紙媒体・電子媒体)は一定の方向に向かって包括的に進められておらず、各研究者の 関心の下で議論が進められてきている。Noyes  and  Garland(2003)のように Mayes  et  al.(2001)と同じ問題意識を踏襲しながらも研究成果を蓄積している研究も存在するが、

多くの先行研究は単発の研究で終わっており、その後に議論が重ねられてない。そのため、

研究の発展を追いながら時系列で整理することは困難であった。今後、研究の方向性を見定 めるためには、研究をまとめる整理軸の設定について検討し、研究を体系的に整理すること が必要であろう。

 今後、電子媒体の使用は益々増加していくことが予想される。企業もまた消費者とのコ ミュニケーション・ツールとして電子媒体を積極的に活用すると考えられ、媒体の選択肢の 増加と細分化されたターゲッティングによって媒体の適切な選択は重要になるという(Yoon  and Joo-Ho 2001)。このような状況の中、依然として消費者は紙媒体に対して電子媒体より も高い知覚価値を示し、好意的な態度を示している(Krishen et al. 2016)。また、年代を考 慮しても、ダイレクト・メールを紙媒体と電子媒体の中から選択させた際に、電子媒体に慣 れている 20 代の消費者も紙媒体の方をより多く選択したという研究報告もある(Magee  2013)。さらに、Mangen and Van Der Weel(2017)は電子書籍が広く普及したものの、未 だに多くの場合紙媒体で小説が読まれていることを考えると、今後も紙媒体に対する需要は なくならないと指摘している。また、企業は消費者とコミュニケーションのツールとして媒

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体を用いることが多いが、コミュニケーションの内容ではなく媒体そのものが消費者にどの ような影響を及ぼすのかについてはあまり注目されてこなかった。今後、紙媒体と電子媒体 の比較を通して、最適な媒体の選択への示唆を与え、さらには 2 つの媒体の組合せ方や順序 効果を明らかにする。

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