九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
金属中の水素透過と拡散挙動
田原, 晃
https://doi.org/10.11501/3054282
出版情報:Kyushu University, 1990, 工学博士, 論文博士 バージョン:
権利関係:
金属中の水素透過と拡散挙動
田 原 晃
目次
頁
第1章 序言 1
1. 1. 金属中の水素およびその同位体に関する従来の研究 1
1. 2. 本研究の目的と構成 8
第2章 周期的圧力変動法によるニ ッケル中の水素透過の測定 1 0
2. 1. 目的 1 0
2. 2. 試料および実験方法 1 2
2. 2. 1. 試料 1 2
2. 2. 2. 実験方法 1 2
2. 3. 周期的圧力変動法の解析 1 5
2. 4. 実験結果 1 9
2. 4. 1 . パラメータα2の振動数依存性 1 9
2. 4. 2. 厚さ依存性 20
2. 5 . 考察 2 2
2. 5 . 1. 表面過程による位相差の振動数依存性 2 2
2. 5 . 2. 表面反応の速度式 2 3
2. 6. 結論 2 9
第 3章 周期的圧力変動法によるニ ッケル中の水素同位体
透過の測定 30
3. 1. 目的 30
3. 2. 試料及び実験方法 3 1
3. 2. 1. 試料 3 1
3. 2. 2. 実験方法 3 1
3. 3. 解析法 3 2
3. 4. 実験結果 3 3
3. 4. 1. パラメータα2の振動数依存性
および温度依存性 3 3
厚さ依存性 34
3 . 4 2
3 . 5 考察
3 5 1 3 5 2
3 . 5 3
3 6 不令百+ナ壬面ム開
3 6
透過過程に対する試料厚さの効果 3 6 拡散係数の温度依存性および同位元素効果 3 6
表面効果 42
44
第4章 周期的圧力変動法によるα鉄中の水素同位体透過の測定 45
4. 1. 目的 45
4. 2. 試料および実験方法 46
4. 2 . 1. 試料 46
4. 2. 2. 実験方法 4 6
4. 3. 解析法 48
4. 4. 実験結果 48
ー・l(
4 4 α鉄中の水素 ・ 重水素の透過係数 48
4 4 2 水素の拡散パラメータα 2の振動数依存性
および厚さ依存性 50
4 4 3 . 水素の拡散パラメータα 2の圧力依存性 50
4 4 4 重水素の拡散パラメータα2の温度依存性 50
4 5 考察 54
4 5 . 拡散係数の温度依存性 5 4
4 5 2 同位元素効果 5 6
4 6. 結論 5 9
第5章 イオン照射法による鉄中の水素透過 60
5 1 目的 6 0
5 2 試料 60
5 3 . 実験方法 6 1
5 4 イオン照射による水素透過の解析 6 3
5 . 5 実験結果 6 8
5 4 イオン銃によ って生成されるイオン種
および照射量 6 8
5 4 2 水素イオン照射による透過速度の時間変化 7 1
5 6 考察 7 2
5 6 . イオン誘起透過によるスパイク現象 7 2
5 6 2 イオン誘起透過で得られた透過過渡曲線
の解析 7 7
5 7 結論 8 1
第6章 パラジウム被覆をした鉄試料の層界面における 水素透過挙動
6 - 1 . 目的 6 - 2. 試料
6 - 3. 実験方法
6 - 4. 実験結果および考察 6 - 5 • 結論
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第7章 総括 1 00
謝辞 参考文献
1 03 104
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第1章 : 序言
1. 1. 金属中の水素およびその同位体に関する従来の研究
金属と水素との関わ りは多面的な要素をもち, 多くの分野で精力的な 研究がなされてきた. 特lこ鉄鋼材料は実用上最も重要な構造材料である ため, 水素に関するもろもろ の問題の研究が古くからなされている. 水 素は鉄鋼材料の白点や毛割れ等の欠陥の原因となり, 特に高張力鋼, ニ ッケル鋼の遅れ破壊, また水素脆性等の環境脆化を引き起こ すことが知 られてきた. この水素による 脆化現象は材料の種類によ ってその起こり
易さ が大きく異なり, 腐食条件の下で 生じ易く, 特に高強度材料ほど起 こり易 いことが知られている. 従って, 材料の信頼性に関する重要性の 観点、から水素脆化現象の研究は古くからなされており, 脆化によ って生 じたクラ ック先端部分での水素の挙動が脆化現象の 重要な因子とな って いる(1 )ー( 6 )
また近年, 核融合炉開発に関連した種々の実験が行なわれている. 最 近問題になっているトリチウムの取扱に関連して金属中の水素およびそ の同位体の透過は多くの注目を集めている. 核融合炉第一壁は内部 プラ ズマに直接接しているためプラズマを構成し ているエネルギー粒子 の重 水素やトリチウムイオンの照射を直接受ける. そのため, 第一壁候補材 料であるオー ステナイ ト系ステンレ ス鋼やその構成成分であるニ ッケル に重水素イオンを照射し , 重水素の透過, 蓄積および再放出の測定も行 なわれている(7 )ー(11 )
金属や合金中の水素の拡散はこれまでかなり広い範囲で研究されてき た. それ によると, 金属中の水素の拡 散は非常に速いことが知られてい る. 例えば, 室温での鉄やニオブ, パナジウム等の体心立方晶の 金属中
のHの拡散係数は約lO-8m2/sで, 他の 原子拡散と比べて数桁大きい. こ の非常に速い拡散は格子間水素の量子論的性格によるもので, 金属一水 素系の拡散は量子拡散機構で説明されている. 金属中に固溶している水 素原子は格子間位置に存在する. 格子間水素は周りの金属格子を歪ませ てポテ ン シ ャルエネルギーの低い状態, すなわちセルフ ・ トラ ッ プ状態 にいる. この状態の水素は自ら掘った穴の中である広がりを持っており,
不連続なエネルギー準位を占めている. しかし, 金属格子の熱振動のた
め, 水素原子は絶えず種々のエネルギ一場を揺れ動いている. そのため,
水素のエネルギ-準位も状態密度分布も絶えず変化し, ある瞬間には水 素原子は隣の格子間位置へ移動し得るエネルギーをもち, 水素原子は隣 の格 子間位置ヘジャ ンプ し得る. 従って, 格子間水素の周りを構成して いる原子種, また固溶している水素の同位体種によって水素原子のもち 得るエネルギ-準位, 状態密度分布も変化し, 拡散挙動にも影響を与え る.
金属中の水素の拡散 を測定するにはいくつかの方法が提案されている.
代表的な 測定法としては, 例えば(1 )透過, 吸収, 放出法, (2)Gorsky効 果(12), (3)核磁気共鳴〈NM R)(13)(141 さらに(4 )中性子擬弾性散 乱(QNS)(15)等がある. 上述したように格子間水素は周囲の金属格 子に格子膨張を与えている. そのため試料に一様でない応力を加えると 圧縮側から膨張側へ水素の流れが生じる. この現象をGorsky効果と呼び,
応答時間と緩和強度から拡散係数が求められる. Q N Sでは, 試料中に 送り込まれた中性子が拡散している水素原子と相互作用をしてエネルギ ー, 運動量のやり取りをするため中性子のエネルギー 運動量変化を測 定することによって水素原子のジャ ンプ頻度とジャ ンプ経路などを知る ことができる . また水素原子核(lH, 2D, 3T)はいずれも核磁気モ ー メ ントを持っている. そのため, N M Rでは周囲の原子核から受ける
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局所磁場の時間変動が もたらす核スピ ン系のエネルギ-緩和過程を調べ,
水素原子核の平均ジャ ンプ時間を求めることが できる. これら三つの方 法はいずれも試料中にあ らかじめ固溶した水素原子の比較的短距離の移 動現象を利用 したものである. そ れゆえこれらの方法は試料内部の拡散 過程のみを取り扱うことができる.
これに対して, 透過法は板状試料を通過する水素のマクロな流れを測 定する方法である. ガス透過法は試料両面の圧力差によ って, 電気化学 的透過法では両表面の電極電位差によ って生じた水素の流れを測定する.
測定法としてはステ ッ プ入力印加後の流れの時間応答をはかる方法と駆 動力を繰り返し変動させて生じ た流れの位相差 を測定する方法がある.
この方法では試料の表面反応過程と試料内部の拡散過程の両方の 過程が 取り込まれる. 試料の表面が流れの障壁となることが多い ため, 通常は 試料の厚さを変化させて表面の影響を取り除く.
これらの方法によ って測定された金属中の水素の拡散係数をV0 1 k 1や Alefeld(16)あるいはKi u c h iやMclellanll7lらが整理している. 例えば,
Fig.l-lに鉄中のHの拡散係数の温度依存性( 1 6 )を示 した. 見かけの水 素の拡散係数は数桁にわた って分散しており, 特に500K以下の温度では その分散が顕著である. 一方, ニ ッケルやパラジウム中の水素の拡散係 数の温度依存性( 1 6 )はFig.1-2, 1-3に示す ように鉄 の場合に比べ て種々 の測定値はかなりよい一致を示す.
鉄中の水素の拡散係数の温度依存性の特異性を説明する ために鉄中に 水素原子を捕捉する種々のトラ ッ プサイトが存在すると考え, 水素原子 ー トラ ッ プ聞の相互作用が考慮されてきた . 固体一団体聞の内部界面
(介在物, ミク ロ クラ ック等)(18), 置換型あるい は侵入型不純物( I 9 .'
(2U , 線欠陥'. ..? I )等のような格子欠陥がトラ ッ プとして考えられてい る. トラ ソ プサイトでは水素原子のポテ ン シ ャ ルエネルギーが周りの正
円《叫
常なサイトより低いため, トラ ッ プサイトに存在している水素の滞在時 間が長くなったりそれ以上動かなくなったりするため, トラ y プを内包 している試料の水素の拡散係数は見かけ上遅くなる. トラ ッ プサイトの 相互作用エネルギーは欠陥の種類によって異なるが通常数十kJ/mole程 度であるはい - l 2 3 ) これらのトラ ッ プの効果は低温ほど顕著であるた
め拡散係数が低温でより小さくなり, 上述した鉄中のHの拡散係数の温 度依存性のばらつきが説明される. ま た, 透過法のように表面過程が含 まれる場合には表面効果によって実験結果の特異性を説明し ようとする
研究者( 1 7 )もある. ところが, ニ ッケルやパラジウムのようなf c c金属
の場合には鉄に比べて比較的高純度の試料が得られ易く, トラ ッ プとし て作用する格子欠陥が含まれにくい . また, f c c金属 中の水素の拡散の 活性化エネルギーは鉄中の拡散の活性化エネルギーと比べて約3 ....__ 1 0倍 程度大きいため低温で トラ ソ フの効果が顕著に現われにくい.
表面反応が含まれる透過の測定により水素の拡散を論じる場合には表 面反応過程を十分考慮する必要があると述べてきた . それ故, V Ö 1 k 1や Alefeld(16)はニオブやタンタル, パナジウム中の水素の拡散係数に関 して表面の関与しない方法 , 例えば , Gorsky効果( 2 4 ) ー (27) , QNS
{28}(29), 抵 抗の 緩 和 現 象 ( 3 ø )のような方法の結果のみを採用している.
これらの方法は確かに金属中の水素原子の運動についてよい結果を与え る. しかし, 水素貯蔵用材料, 核融合炉の容器の設計のような実用的な 問題について検討する場合iこはあまり助けとならないことになる. なぜ なら, これらの問題は表面を通るマク ロな水素の流れが存在するからで ある. 従って, 水素同位体の透過挙動から表面反応過程と拡散過程を分
離し, それぞれ個別に速度論的な検討を行なう必要がある.
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Fig.1-3 Diffusion coefficients in palladium(16)
of hydrogen
1. 2. 本研究の目的 と構成
1. 1項で述べてきたように, 金属中の水素の拡散係数を求めるため
に あるいは真空排気の特性を調べるために透過実験は利用 されている.
水素の透過は金属表面 での水素の侵入や放出の特性および金属内部での 拡散過程に支配されるの で, 全ての過程を総括的に評価することも必要 ではあるが, 表面と内部の過程を分離してそれぞれ単独の過程を明らか にすることが望まれる. 定常的透過速度と水素導入のステ ッ プ変化に対 する透過速度の時間変動の測定は古くから行なわれており, 実験方法,
解析方法とも確立されているは1 ) ( 32) しかし, この方法では満足な結 果が得られない場合も多い. 例えば, 使用する試料が十分厚い場合には 透過過程はほぼ試料内部の拡散支配となるが, 実際には透過過程が内部 での拡散に律速されない場合や表面反応が重要な場合が多々ある. こう いう場合にはさらに有効な実験方法を考案する必要 がある.
振動条件下での水素の透過測定 において透過速度の振動数依存性を解 析することはこれまでは拡散係数を決定するために議論されてきた( 16)
・ (33ト( 4 Ø) しかし, この方法は拡散過程と表面過程を分離する一つの
有力な方法となり得る. そこで高温水素ガス透過法の侵入側ガス の圧力 を周期的に変動させて透過応答を測定する, 周期的圧力変動法を利用し て金属中の水素の透過特性を測定した.
まず, 1. 1項で示したように比較的拡散係数のデータがー致してい たニ ッケルに この方法を適用して, この方法で表面反応の影響を受けな い水素の拡散係数の値が求められ るか を検討する. さらに水素同位体に ついても同様の検討を行なう. そ の後, 純鉄を試料にして水素同位体の 拡散過程を検討する. 重水素の拡散係数は鉄試料中での高温 側のデータ が乏しく十分検討の余地があるからである. また侵入側表面過程を変化 させることは表面反応の影響を考慮する上で有力な方法となり得るため,
-8-
水素導入に水素イオン照射(イオン誘起透過(8){41}{42J, プラズマ誘 起透過(43) (44))を採用し水素同位体の透過応答を検討した.
さらに試料 中に層界面が存在する場合に水素の透過挙動を研究するこ とは実用上の観点から重要であり, 界面での水素拡散に関する境界条件 をどの様に取り扱うかは非常に興味深い. そこで, 電気化学的透過法に おいて放出側の溶解を防ぐために被覆されてきたパラジウムを水素侵入 側にも被覆して3層構造にした場合の透過挙動からパラジウムー鉄界面 の水素の挙動について検討した.
本研究は以下7章で構成されている. 第2章および第3章は高温ガ.ス 透過法によるニ ッケル中の水素, 重水素の透過測定から表面効果および 同位元素効果を述べる. 第4章では高温ガス透過法による純鉄中の水素,
重水素透過から同位元素効果について述べる. また第5章ではイオン誘 起透過法による純鉄中の水素透過について言及する. さらに第6章では 多層膜試料の電気化学的交流法による水素透過の測定から層界面の効果 について界面での 境界条件を考察する. 第7章は総括と して本研究の結
論をまとめた
第2章 : 周期的圧力変動法によるニ ッ ケル中の水素透過の測定
2. 1. 目的
第1章で述べたように, 金属中の水素透過は, 金属内部の水素の拡散
と水素の導入側 ・ 放出側の表面反応とによ って支配される. 厚い試料の 場合には, 透過は拡散支配となりやすく, 拡散実験に広く利用されてき た. ところが 薄い試料の場合には透過の過程が 拡散支配からずれて,
表面反応過程の寄与が無視できなくなる. 従って, 水素透過実験は水素 ガスの金属表面上の反応の研究に利用できる. 水素透過における拡散応 答と 表面応答とを分離するため , 周期的圧力変動に対する水素透過速度 の応 答( 45) ( 46)を解析した. 例えば, 試料の水素侵入側で水素ガスの圧 力を周期変動させると表面直下の固溶水素濃度が周期変動し水素の拡散 流も周期変動する. その結果, 水素透過速度も周期変動する. もし交流 振動の振幅が小さければ 透過過程は線形過程として取り扱える. 試料 の導入側と放出側での水素の圧力変動の位相差は, 表面反応と拡散の速 度式から 導くことができる. つまり, 透過応答の位相差。は, 拡散過程 による位相の遅れφd と表面反応による遅れゆs とからなり , ゆ=ゆd
+ ø 5という関係が成立する.
拡散による位相の遅れの振動数依存性φd ( ω) は , 振動条件に対する 拡散方程式から計算される. 一方, 表面反応による位相 遅れの振動数依 存性。5(ω)は, 実験で測定される水素透過の遅れゆ(ω)からゆd (ω)を 差し引くことで得られる. ところで 表面上に酸化物層等の汚れが存在 する 場合にも位相差が生じ, ゆsに含まれると想像される . ニオブやタ
ンタル等では表面上の酸化物が透過に対して極めて大きな影響を及ぼす
( 45) (46)ことが知られている. 一方, ニ ッ ケルでは表面状態に敏感な方
-10-
法で得られた拡散係数Dの結果が表面過程の影響を受けない方法による 結果とよく一致している(47 )ことから, 酸化物の影響は極めて小さいこ とが分かる. そこで本章ではニ ッケル表面は清浄であると仮定して, 周
期的圧力変動法を透過測定に使用してニ ッケル中の水素の拡散係数を求 めると同時に, 水素ガスと金属表面との反応について考察する.
透過実験は650--1000Kの温度範囲で市販の純ニ ッケルを試料に用いて 行った. 表面過程の検討は第一近似として解離吸着 ・ 脱着 ・ 溶解 ・ 放出 の各過程を考慮にいれた水素侵入側での表面反応に関する速度式lこもと
ずいて, 表面応答ø s (ω)を解析した.
'Ei 'Eよ
2. 2. 試料および実験方法
2. 2. 1. 試料
市販のニ ッ ケルを真空溶解し, 直径28mm, 厚さ0.1-"O. 3mmの円板に打 ち抜き, エメリ-紙による研磨 ・ 化学研磨の後, 973Kx28.8k s の真空焼 鈍後, 試料に供した. 使用した純ニ ッ ケル試料の組成をT a b 1 e 2 - 1に 示す.
Table 2-1 Chemical compos ition of nickel.
Elements Contents (完)
Cobalt くO.03
Iron くO.005
Copper くO.005
Lead くO.001
Manganese くO.002
Sulfur くO.001
Silicon < 0.005
Carbon くO.02
Nickel+Cobalt > 9 9.95
2. 2. 2. 実験方法
実験装置の概略図をFig.2-1に示す. 装置は試料に仕切られた二つの 真空槽(水素導入側, 水素放出側真空槽) , それぞれの真空槽を排気す
るための排気装置(油拡散ポンプ, ロ ータリーポンプ) , 真空計(ピラ ニ真空計, ペニング真空計) , 及び水素導入系から成る. 使用した水素
ガ スはP d合金膜を透過させ純化した. また , 使用 した水素の露点は
円J'u-aEA
-700C以下である.
試料を実験装置に装着し, 試料で二つの真空槽(導入但IJと放出側)を 仕切り, それぞれ1. 3 3 x 1 0 - 4 P aのオーダーに排気した . 排気後、 装着時 にはいる 試料の歪を除去するため約1 0 0 0 Kで試料部分を加熱 ・ 焼鈍した.
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試料の温度制御は試料ホルダ一部に挿入した熱電対で行った. 次に, 電 歪を利用したリークバルブと発振器で導入側真空槽の水素ガスの圧力を 周期変動させる. このときの導入側真空槽の平均圧力は1.33kPa, 振幅 は約13 3 P aである. 水素の透過速度は連続的に排気されている放出側真 空槽の圧力変動から測定される. この圧力は水素の放出速度と排気系の
円‘u-EEム
排気速度の差に比例する. 排気速度が一定であれば, この圧力変動は水 素透過速度の変動となる. 650--- 1000Kの温度範囲において, 水素導入側 真空槽と放出側真空槽の圧力変動を比べて, 種々の振動数で位相差が測
定された.
anuz --
2. 3. 周期的 圧力変動法の解析
振動条件下での水素透過の過程はF i g . 2 - 2で示すように模式的に表さ れる. 導入側真空槽の水素分子は試料の侵入側表面に衝突して, 解離吸
着する. そのうちの大部分は再結合して表面から脱離していくが, 一部
は試料内部に溶解, 放出側表面へ拡散する. さらに, 拡散した水素原子 は放出側表面上で再結合し水素ガス分子として 放出側真空槽に放出され る.
H2(gαs)ー�HIH
Pj
I
cH I � H2(gas)
P。
一I
Pj "" sin(ωt)止
c� sin(ωtーや51)
J
PO^' sin(ωt -<PSJーやd-<Þsz-ε)UI aご
輔._a 輔U
Fig.2-2 Principle of hydrogen permeation under oscillating condition.
さて, 導入側真空槽において 水素ガスの圧力が周期変動すると水素 侵 入側表面直下の回溶水素濃度, バルク中の拡散流, さらに試料からの水 素の放出速度の周期変動が惹起され, 最終的lこは, 放出側真空槽の圧力 が周期変動する. このとき, 周期変動の振幅が小さければ‘, すべての過 程を線形応答として取り扱える. 周期変動の位相の基準を導入側真空槽
EU 1i
の水素ガスの圧力Pjとすると , 侵入側表面での表面反応によって表面 直下の固溶水素濃度Cの位相はゆ5 1だけPjより遅れる. さら に , 放出 側真空糟の圧力P 。の位相はPjよりゅs!+qSlj+qSs2+εだけ遅れる.
ここで, ゆd は拡散によって生じる位相の遅れ , ゆs 2は放出側表面での 表面反応による遅れ, ε は放出側真空槽の排気特性による遅れである.
本実験では水素透過速度と放出側真空槽の排気特性からε は十分小さい ものと考えられる ので無視した. 従って, 水素導入側真空槽と放出側真
空槽の聞の位相差は, qS=qSd'+ゆs(ゆs=qSs!+qSs2)と 表される.
ゆsは試料の厚さ によ っては変化しないが, ゆdは厚さと とも に増加する.
従って、 十分に厚 い試料では , ゅはゆdで近似できる . こ の場合の透過 過程は拡散支配であると考えられる.
金属中の水素の拡散は水素侵入側の境界条件と放出側の境界条件 をそ
れぞれ 状態ベクトル(C in, J in), ( Cout, J out)で表すと
1111111/
u u o o
pし Iザ
ffflit--、 \1111111/ e c' T fIfl-lit\ 、Ili--/
n n
C J
fIlli--\
(
2 - 1 )
という行列式で一般的lこ表せる. ここでCは水素の濃度, Jは水素の流 れ を表し, 添え字i nは水素侵入側, 0 u tは放出側をそれぞれ 表す . また (
T
F e)は金属内部の拡散を表す行列である. ここで状態ベクトルの各 項に所定 の境界条件を代入して式(2 - 1
)より放出側の水素の流れJ0 u tを 求めると その時設定した境界条件に対する拡散の流れ の理論式が得られ る.振動条件のもと での拡散過程についてはF i c kの第2法則を式(
2 - 1
)に適用して以下の初期条件, 境界条件より求められる.
b C(x. t)
a
tD 82C(x,t) a
x)(2 -2 )
Fhu --EA
境界条件
侵入側 放出側 初期条件
11J ay-、Iむ,,‘、戸し
Cø s i nωt+C. ( 2 -3 )
C (O. t) 。 (2 - 4)
C (x.t) = 0 (2 -5)
ここでt X = 0は水素放出側の表面t X = Lは水素侵入側の表面を表す. 水 素の放出速度は大きく, 放出側真空槽の圧力は大変小さいので, 放出側 表面での水素濃度は零であると近似した. 水素の放出速度は 次式で表さ れる.
同U一X 1.,J
ハIU一VA
RAU一円パU
,,I、hu
--11J &EL ,,t、VEEM
( 2 -6 )
式 (2-2)-- (2 -5)から放出側表面から放出される水素の流れの変動部分を 求めると次式が得られる.
〉2 C" D α
J (t) = v - - u
L ゾs i n 2α +sinh2α s i n (ωt - ø d ) (2 -7)
ここで, φdは金属中の水素の拡散による位相の遅れで, パラメータα と次のような関係にある.
。d = tan-1 ( t anα-tanhα
tanα+tanhα ( 2 -8 )
また, パラメーター αは以下の式で表せる.
α = vω/2 D L = V7r f/D L (2 -9)
ハ πf _
α - 一一一一 Lι
D (2 -10)
種々の振動数fに対して, 水素透過の位相の遅れφは実験から求められ る. もし水素透過がほぼ拡散に支配されていると仮定して 求められる 圧力変動の位相差φをゆ=ゆdと近似すると, 種々の振動数fに対して マラメータαの値が式 ( 2 -8 )から得られる. 拡散支配が成り立つ場合lこ
円l-EA
は, α 2とfの聞には原点を通る直線関係が存在し, その直線の傾きか ら拡散係数が求められる. さて, 透過過程が拡散支配からずれてくると,
α 2とfの関係は直線からずれてくる . そこで, もしその試料中の水素 の拡散係数が合理的に決定できるならば, α 2とfの関係を表す図の中 lこ拡散の寄与を表す直線を引くことができる。 このとき、 この直線から のα 2の実測値のずれから表面反応の位相差が算出できる.
no 1i
2. 4. 実験結果
2. 4. 1. パラメータα 2の振動数依存性
厚さO. 13 m mの試料について, 773---975Kでのα 2 の振動数依存性を F i g.2-3に示す. α 2の値はゆ= ø dと近似して各々の振動数に対して式 ( 2 - 8 )から計算した . 図から明らかなように, 振動数の比較的小さな領
域では, α 2は振動数fに対して直線関係を有しているが, 振動数を増 加させるとこの直線関係からのずれが観測される. こうしたずれは低温 ほど顕著である.
1 5
773 K
10
873 K /
J
A ÅÅム
/念J必/ム
〆Å 0
,fA 90イ
ェ五♂
JAo∞も....,
�同J d m/%
r 1 ...
.",‘
J J〆u Ao ddb -
00
土台 L
dd∞ -5
ロ /// ロ d // 3 ロ ロー ENFr 町 ,// ロ
ロ // Ed
975 K ち
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
f I 5-1
Fig.2-3 The realtion between α 2 and f for various temperatures . parameter α i s derived from eQ. (2-8).
nHd 1i
2. 4. 2. 厚さ依存性
次に, 試料の厚さに伴う変化をFig.2-4に示す. 厚さO.13rnrnと0.30rnrn
の試料につい て, 試料 の厚さで規格化した横軸(f ・ L 2)に対してα 2 をプロ ッ トした. 振動数の小さな領域では, 厚さに関わらず同じ傾きを もつ直線である. また, 厚い試料では, 透過過程は拡散支配となり, 薄 い試料では表面反応の寄与が大きくなる. それ故 拡散係数を決定する ためには, 厚い試料を使えば良いと考えられる. Fig.2-4の原点、を通る
直線 の傾きはπ/Dであるから, 傾きを求めるとニ ッケル中の水素の拡 散係数Dを決定できる. こうして求めた水素の拡散係数の値を Fi g. 2
-
5に示す. Völklらがまとめた結果( 4 7 ìも同時に示す . また ステ ッ プ法に よる高温ガス透過法(図中のTirne-Lag 法)および電気化学的透過法に
1 5
T = 923 K 0.30 mrn
0.13 mm
γμ川
10
♂ JJ・
。〈ァf.
σ
でゴ
/ ,o,F
5
5 10
f-L2/1dm2.61
15 20
Fig.2-4 The relation between α 2 and fL2 for various thicknesses of specirnens.
-20-
振動数の小さな領 これらの結果を比較すると,
よる結果(4 <3 )も示した.
トの傾きから拡散係数を決定するという過程が 妥当なものであることが分かる.
f フ ロ ‘7 v s .
域での α 2
't! -�
も
、@守コ
。10-8
A 、、
� 、
会、
,ó,10-10 ω・に」一--N
work Present
•
10-12
~、
。
method(1.8) Time lag
。
1 0-1�
method(1.8) El ect rochemi cal
(1.7) et al.
一一Vり1kl
A
4 3
2
coefficient
T-1 I 10-3.K-1
of diffusion nickel.
1i q,白
Arrhenius plot of hydrogen in Fig.2-5
5. 考察 2 .
表面過程による位相差の振動数依存性 5.
2.
すなわちFig.2-4で示されたような直線 拡散支配からのずれ,
さて,
振動数の小さな領 表面効果に起因している.
からの実験結果のずれは,
この直線からの 域での直線を振動数の比較的大きな領域へ外挿すると,
して得られた表面過程による
v
つ実視'1値のずれよりゅsが計算できる. にM・
算出されたφs を直接 但し
位相差の振動数依存性をFig.2-6に示す .
もし
t a n ø sはfに比例するからである.
これは,
した.
t a n ø sを振動数fに対してプロ ッ ト
表面応答が線形応答であるならば,
トせず,
フ。ロ ‘7
15 し= 0.13 mm
KH ηllA QU
/ kH
j fノ 一
mil--l・j'
マ ロ |ロl /一一 /ノニ /「
μo nu 一一川 A 4/ 一 ム llAlli-- 1111h 二一 f
923 K 773 K
723 K 10
5
vl e
cow
0.4 0.3
for f and Hz
t an ø s The ralation between
various temperatures.
nJb n,L
Fig.2-6
しかし, 図から明らかなように, 表面反応には1次応答よりむしろ2次 応答, あるいはさらに高次の項が寄与していることが分かる.
2. 5. 2. 表面反応の速度式
Fig.2-6に示すように, 表面過程による位相の遅れの振動数依存性ゆs (ω)は, 透過の応答から拡散の寄与を差し引くことで実験的に求めるこ とができる. この際, 表面が酸化物等によ って汚染されている場合の影 響もゆsに含まれる . しかし , ニ ッケルの場合にはニオブやタンタルに
比べて酸化物の影響は極めて小さい. また, 本実験の場合, 実験直後の 試料のX線回折ではニ ッケルの酸化物の存在は確認できなか った. 仮に 酸化物が存在していたとしても, 熱力学的には水素ガスで還元される可
能性もある. そこで本論文ではニ ッケル表面は清浄なものと考え, 位相 差はすべて水素ガスとニ yケル表面との表面反応によるものであると仮 定する. さらに, 以下で述べる表面過程に対する議論では 第一近似と
して侵入側での表面効果(ゆ51 )のみを考えて, 放出表面の寄与(ゆ52)を 無視する. すなわち, ø 5-ゆ5 1と置く.
さて, 水素侵入側真空槽の水素ガス分子は試料表面に衝突して, 解離 吸着する. 単位面積当たりの吸着原子数n の速度式は次式で与えられる.
立L= k P o (i- J- )2-r g d-r s n+r -s a C(1- 」一 )
a t -- - , ,- n s - ):J " - =>.. - -=> � � \ � n s (2-11)
ここで,
k : 水素の吸着速度に関連した定数,
p l : 水素ガスの圧力,
fg : 脱離反応に関する速度定数,
f s : 吸着水素原子が金属中へ溶解する反応の速度定数,
f -s: f sが関与する反応の逆反応の速度定数,
円《U
つ心
n s . 吸着サイトの総数,
C : 厚さ a の表面層に国溶した水素濃度,
すなわち, x しにおいて, 国溶した水素に対して厚さ a の薄い層を考え ている. この表面層に固溶した水素の濃度Cに対して, 速度 式は次の式 (2-12)で与えられる.
a C
a τ一一 = r s n- r ーョaC (1一 一一一 ) - J d
d t n 5
(2-12)
ここで、 J dは 表面層から試料内部への水素の拡散流を表す . 本論文で 取り扱う よう な振動条件では , P j, n , Cはそれぞれ次のように置く ことができる.
Pi = Pj + LlP.exp(iωt) (2-13)
n = n' + Ll n.exp { i(ωt-40)} (2-14 )
C = C. + Ll C.exp {i(ωt-cþ s)} (2-15)
水素侵入表面での拡散流J dは, F i c kの第2法則式(2 -2 )で境界条件を式 (2-3), (2-13)と 置くと次式のように計算できる.
DC. αD
J d = 一一一+ 一一- Ll C(A + iB) .exp {i (ωt-cþ s)}
L L (2-16)
ここで, A, Bはそれぞれ次のように表される.
A = s in h2α + sin 2α
cosh2α-cos2α (2-17)
B =
α一αn,L-n,L n一szl一nUFO一戸」-一-α一αn,b-n,b 'hu一LUn一S・1一oed一FU
(2-18)
このとき, 吸着率Cn/n s)お よび固溶水素濃度Cが十分小さい と仮定 すると, 式( 2-1 1)--( 2-16)から表面過程による位相差ゆsは次式のよう に計算できる.
-24-
a(f s+f -s+2fgn・)一 αD
L {(f s+2fgn')A+ωB}
tanゆs
、 αD
2afg f -sn ・-aωと一 一一一 { (f s-2fgn ・)B-ωA}
L
(2-19) 脱離による速度定数 fgは, Menzel(49)によ って次の ように与えられて いる.
fg = ーと- exp(
ns
E diff+Ed
RT (2-20)
ここで, E d i f f : 表面拡散の活性化エネルギー
E d : 脱離の活性化エネルギー
ν , n s, Ediff' Edの 数値はニ ッケル表面上の水素の脱離実験( S ø ) -
( 52)から 与えられる. f 5とn ・の値は 定常透過速度から算出される. ま た, a はニ ッケルの格子定数の1 /2と仮定する. これらのパラメータを
用い て, 式(2-19)から計算される曲線が実験結果とフ ィ ッ トするように f -5の値を決定する. 実験結果と式(2-19)の計算結果と のフ ィ ッ テ イ ン グの様子をFig.2-1に示す. 種々の実験温度に対して , f - 5の値が得ら れる . f - 5の 温度依存性は, Fig.2-8に示すよう なアレニウスの関係を 示 す . こ の直線 の傾きから活性化 エネ ルギーを求めると , 約3 8 . 5 kJ/molという値が得られる. この値は実験誤差, カーブフ ィ ッテ イ ング の際の誤差を含んでいるけれども, これらの誤差を考慮しでも, この値 はニ ッケル中の水素の 拡散の活性化エネルギーと同程度かそれより小さ
な値であり, 極端に大きな値では ない. すなはち, 溶解した水素原子lこ 対して 表面から放出する際のポテ ンシ ャルの障壁は, ニ ッケル中では そ れほど大きな値を示さ ないことを示唆している.
rhυ q,b
1 5
5
o 673 K
ロ 773 K
3.1冨1055-1
亡s
=1.5
•105 5-1 ロ
\i
。
ロ
1 0
ul
e c o
伺ト4
0
0 ロ
I /
ぴ /刀 ー/ロ 0 ヒOニQ,g LロJロ-- u
o Ql Q2
Hz
Fig.2-7 Cornparison of the exp erirnental resul ts of ø 5 to the results calculated frorn eQ. (2-19).
phu 内J心
�
�o
、\
106ト 一
ω 5K105 トー 一
句、ー
ω
L! 0"-.
105ト -・・同
1 1.25 1.5
T-1 I 1σ3・K・1
Fig.2-8 Temperature dependence of rate constant r -s・
さ て, 表面過程に対する位相差ゆsは , 吸着過程による位相の遅れと 溶解過程による遅れの和として表される. すなわち, ゆ5 ゆ θ 十件cと
なる. 式(2-10), (2-1 1) から, ゆ , ø cに関して次式が得られる.
θ
tanøc = (aω+ 一一αD L B)/(ar -s+
T-
A) (2-21)tan妙。 =
RU S--AV
ny-- +一ip r一一 一s一 ヨu-【b 一内d ハau一 -一円し -po- ・1-e nH一ハU s -A V ft、 一一 t an ø s-tan併c
1+tanゆs.tanøc (2-22)
前述したr - 5の値を用いて, t an ø cの振動数依存性は式(2-21)で得られ る. 結果をFig.2-9(b)に示す. Fig.2-9(a)に示したφsからφcを差し引
くと , t a n ゆθ の振動数依存性が Fi g.2-9(c)に示すように得られる. 圧
力変化に対する吸着水素原子の位相の遅れゆ は, 吸着原子数の変化に
。
対する溶解した水素原子濃度の変化の位相の遅れφcに比べると若干大 きい. すなわち, ニ y ケルの水素吸収においては吸着水素原子が金属内
円,f円JU
吸収される過程とともに水素ガスが解離吸着する過程が重要となる.
コーーJ 1イ|」似
873 K 773 K
L=O.13mm (0) Ni
10
5
的
令
。9co-
co-
cov
process Hz
surface a nd ø c.
Frequency dependence of the ø 5 is decomposed into ø e
-28- F i g 2-9
2. 6. 結論
ニ ッケル中の水素透過における表面効果を考察するため, 水素透過の 周期的圧力変動に対する応答を振動条件のもとで解析した. この周期的 圧力変動法では, 水素透過の周期的圧力変動に対する応答の振動数依存
性から金属中の水素拡散過程と表面過程が合理的に分離でき, さらに,
金属表面の反応過程の速度論的情報が求められる. 第一近似として, 放 出側表面の寄与を無視して侵入側表面での反応過程について表面効果を 考察した. 表面効果による位相の遅れの振動数依存性は ニ ッケル試料 の侵入側表面での水素の吸収 ・ 溶解についての速度式を考察することよ
り説明することが出来る.
円叫dnJ白
第3章 周期的圧力変動法によるニ ッ ケル中の水素同位体透過の測定
3. 1. 目的
金属中の水素の透過は, これま で述べてきたように試料の一方の表面 での水素の吸収と, 内部での固溶水素の拡散, そして他の表面からの放 出という3つの過程を経て起こる. これらの過程を分離して個々の過程 を考察することは一般には困難である. 透過特性から金属中の水素の拡 散係数を求めるステ y プ法, あるいはTime-lag法と呼ばれる方法では,
厚い試料を用いて, 拡散支配という条件のもとで, 合理的な水素の拡散 係数を求めている. 内部での拡散に比べ表面での過程が無視できるとい う仮定に基づいており, その意味では表面効果に対する情報を積極的に 得ょうとする方法ではない. しかしなが ら第2章で述べたように, 周期 的圧力変動による透過法を用いると, 透過の過程を拡散過程と表面過程 (水素侵入側と放出側の反応過程〉に分離できた. そして 表面過程の
影響を受けない拡散係数が決定できると同時に, 表面過程に対する若干 の速度論的 考察も可能となった.
さて, ニ ッ ケル中の水素同位体の拡散挙動の研究は多くの研究者らに よってなされてきた . 例えば, 比較的高い温度域では , K a t zら(53l,
Eichenauerら{54) , E b i s u z a k iら( 5 5 )によって研究がなされており,
また室温付近以下ではYamakawaはいによる研究結果が報告されている.
それらの報告によると, ニ yケル中の水素同位体の拡散に関し, そ の活 性化エネルギー及び前指数項のどちらの項にも同位元素効果が現れる.
本章では, 前章で 用いた周期的圧力変動を利用する透過法により, ニ ッ ケル中の水素 ・ 重水素の透過特性を測定して ニ ッ ケル中の水素同位体
の拡散挙動を調べるとともに表面効果に対する同位元素効果を検討した .
-30-
3. 2. 試料および実験方法
3. 2. 1. 試料
市販の純ニ ッケルを直径28mm , 厚さO. 1�O. 4m m の薄板門板にして,
9 7 3 K x 28. 8 k sの真空焼鈍をした後, 試料に供した . 試料の組成について
は第2章を参照されたい.
3. 2. 2. 実験方法
試料を高温水素ガス透過装置に装着 ・ 真空排気後 試料取り付け時に 導入された歪を除去するため約1000Kで歪取り焼鈍を行った. Fig.3-1に 本研究で用いた実験装置の概略図を示す. 板状試料で2つの真空槽(水 素導入側真空槽と放出側真空槽)を仕切り 両真空槽とも1.33x 1 0 - 4 P a
Recorder
�
Fig.3-1 Diagram of experimental app aratus.
A:Pre ssure control valve. B:Pirani vacuum gauge.
C:Cold cathode ionization gauge. D:Valve.
E:Diffusion pump. F:Rotary pump.
1i nぺU
以下の真空に排気する. 次に水素導入側では電歪を利用したリークバル ブを発振器で制御して, 水素ガスの圧力を周期的に変動させる. このと きの導入側真空槽の圧力は平均圧力4.0kPa, 振幅約1 3 3 P aである . 水素 の透過速度は連続的に排気されている放出側真空槽の圧力変動から測定 され る. 放出側真空槽の圧力は試料からの水素の放出速度と排気系の排 気速度の差iこ比例しており, 排気速度が一定であれば, この圧力変動は 水素透過速度の変動となる. 導入側真空槽と放出側真空槽の圧力変動の 位相差を種々の振動数に対して測定して水素の透過特性を解析する. 試 料の温度制御 は試料ホルダ一部に挿入した熱電対で行い 測定 の温度範
囲は安定した水素透過の測定できる650"""'" 1000Kとした.
3. 3. 解析法
解析法の詳細については第2章第3節を参照されたい.
nrL n‘υ
3. 4. 実験結果
3. 4. 1. マラメータα2の振動数依存性および温度依存性
厚さO.34mmの試料について水素ガスの透過より求めたα 2の振動数依 存性をFig.3-2(a)に示す. 測定温度範囲は773----973Kである. α 2の値は
15
(0)
Ni - H . L = 0.34 mm5
773 K
ロ/
873 Kロー / /ム / ム/
〆 ム// ndm
y ロ メピ
二 。イ/
rごプ
_D." 】 ----/えご0_0-0 0
0-
10
可三
0 15
(b)
N i - 0 1 し= 0.34 mm5 10
�
。。
f. L2 4 8
10・9.m2.S-1
Fig.3-2 The relation between α 2 and f for (a) H2 gas permeation. and (b) D2 gas permeation.
丹、unぺU
ゆ= ø.jと近似して各々の 振動数 fに対して式(2-8)より算出した. 試料 の厚さLで規格化する ため , 横軸はf ・ Lと で整理した. 図から明ら か なように , α2とf ・ L2 の聞には原点を通る直線関係が存在する. 従っ て, この場合には透過の過程は拡散律速であると考えられる. よって,
ニ y ケル中の水素の拡散係数 D HはFig.3-3(a)の直線の傾き (π/D )か ら求められる.
さらに, 水素ガ‘ スによる透過の測定後, 同じ試料を用いて重水素ガス の透過を測定した . この結果をFi g. 3 -2 (b)に示す. 重水素の場合にも α2とf ・ L2 の聞には水素と同様の傾向がみられる. 従って, 重水素の 透過 過程も拡散支配とな っている. しか し, α2とf ・ L2 の聞に成り立 つ直線の傾きは重水素の方が大きく(π/DH く π/DD ) , 従って拡散係
数はDH> D 0となる.
3. 4. 2. 厚さ依存性
試料の厚さを0.14 , 0.23, O.34mmと変化させると, α2とf ・ L2 の聞 の関係 はFig. 3-3のように変化する. 試料が薄くなるにつれてα 2 と
f ・ L2 の閣の直線の傾きは大きくなる . また , 振動数の大きな領域で は測定値が振動数の小さ な領域の直線部分を外挿した値よりずれてく る.
anuz nぺυ
I I
(0)
Ni - H T = 873 K10←
o 0.34 mm ム 0.23 mm
ロ 0.14 mm
一
守、‘
5ト //0/ -
2.5ト
Jテヌ/
,θPAJ y必〆
(b)
Ni目。FD 一
ち
一
i 2
f. L 2
i
ム 6
10-9.m2.s-1
Fig.3-3 Th e relation between α 2 and fL2 for spe cimens with dif ferent thichnesses ; (a) H2 gas permea
tion. (b) D2 gas permeation.
rhd n‘υ
3. 5. 考察
3. 5. 1. 透過過程に対する試料厚さの効果
F ig.3-3に示したように試料が薄くなるにつれてα2とf ・ L2 の間の 直線の傾きは大きくなる. 薄い試料におけるこれらの現象は次のように 考えることができる. 試料が薄くなると水素の拡散経路は短くなる. そ のために拡散による位相の遅れゆd は 小さくなる . 一方, 表面反応に起 因する遅れゆsは試料の厚さに 依存せず, 一定値である . 測定される全 位相差。は拡散による位相差ゆdと表面反応による位相差ゆsの和である.
それ故, 試料が薄くなるほど , 全位相差ゅの中でゆsはより大きな割合 を占めること になる. また, 一般に振動数が大きなほど位相の遅れは大 きくなる. 表面反応に起因する位相差ø 5も振動数の大きな領域では無 視できなくなる. 従って, 薄い試料あるいは振動数の大きな 領域では α2とf ・ L2 の間の直線関係が成り立たなくなる. 逆に考えると, 十分 厚い試料の場合には , 表面の効果(ゆ5 )が無視できるほど小さいので,
透過過程は拡散支配と なりうる. 本研究におけるFi g. 3 -3の結果からみ ると, 厚さO.34mmあるいはそれ以上の厚さの試料については拡散律速の 過程が成り立っていると考えられる. しかし, F ig. 3-3'こ示すように,
O.14mmの試料については表面効果の影響は無視できないほど大きい.
3. 5. 2. 拡散係数の温度依存性および同位元素効果
各温度での測定結果より試料の厚さと振動数依存性を検討して透過が 厚さO.34mmの試料の場合には拡散律速であるということが確かめられた.
その振動数依存性 から拡散係数を求め, その結果をFig.3-4とFig.3-5に 示した. 著者が得た結果は, vδ1 k 1とAlefeld(4わがまとめたニ ッ ケル中 の水素の拡散係数, Eichenauerらは4 )が測定した重水素の拡散係数とよ
く一致している.
nhu n《U
1σ8.
'\:ci.,. \し
0'."、
、、
。、く\��
uぐ、、
O、や,、\、、ミふ
、、 \
\ \
\ \
\
T Ni- H
I I
一
し=
0.34 円1汀1トー
一
一
ω・に」--N
10・9ト
。
トー
and Alefeld (/7) al.(51.) Vるlkl
Eichenauer et al (53) Katz
Ebisuzaki et
(55) et al
1σ10← 一
1 1.5 10・3・K-1 work
上- 1.25
Present。
of coefficient Arrhenius plot of diffusion
hydrogen in nickel.
円ffn〈叫
T-1 Fig.3-4
。、
\
。
、
、
。
、:
、 、
\ x
\ \
\ \
一
一
一 T
0.34 行1仔1
。
し=
Ni - T
トー
10-9ト
トー
108
ω・Fヒ-aN
.__
. 〆
Ol.(51.)
。 Eichenauer et
ol (53) Kotz et
Ol.(55) et
Ebisuzoki work Present
。
1ぴq_
一1 1_5"
10・3.K-1 L
1.25 i
of coefficient
T-1
plot of diffusion in nickel.
nHU n‘u
Arrhenius d euterium Fig.3-5
この結果よりニ ッケル中の水素 ・ 重水素の拡散の活性化エネルギーお よび前指数項を算出し, 以前の研究者らの結果とともにT a b 1 e 3 - 1にま
とめた. 同位元素効果は拡散の活性化エネルギーと前指数項のどちらに も明瞭に 現れている. さらに, Fig.3-4, 3-5でまとめた水素 ・ 重水素そ れぞれの拡散係数から, 拡散係数の比(DH/Do)を求めその温度依存 性をもとめるとF i g. 3 - 6のようになる. 拡散の活性化エネルギーについ て水素より重水素の方が小さいという" 逆 " 同位元素効果が現れてい る . そのため, 比o H / 0 0は温度依存性を有し測定温度が低いほどその 比は小さくなる.
Table 3-1 Activation energies and pre-exponential f actors of diffusion coefficients of hydrogen and d eut erium in nickel.
H 。 Temp.
Do E Do E range
(10・7.m2.S・1) (kJ .mol・1) (1σてm2.s・1) (kJ.mol・t) (K) Vるlkl ond Alefeld (1.7) 6.87 40.5 T>Tc Eichenouer et 0[.(51.) 6.73 39.7 4.76 38.5 658 -893 Katz et al (53) 7.04 39.5 5.27 38.7 673 -1273 Ebisuzaki et al. (55) 5.22 40.0 (3.97 ) (39.3) 470 --690 Present work 6.60 40.4 5.08 39.6 673 - 973
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Present work Katz et al.(531
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0.15
0.1
0.05
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mo-
(51.) et al.
(55) et al.
Eichenauer
。 Ebisuzaki
1.5 10-3. K-1 1_25
T・1
to H of Ratio of diffusion coefficients that of D in nickel.
Fig.3-6
-40-