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(1)

ドミウムの毒‘性とその防護に 関 す る 研 究

1 9 9 6

野 浩

Protective Effects ofChelatingAgents inducedToxicity

Cadmium-induced

HiroshigeOno

a g a i n s t

(2)

PrOtectiveEffectsOfCheIatingAgentSagainst

Cadmium-inducedT◎xicity

HiroshigeOno Cadmium(Cd)hasalongbiologicalhalf-lifeinhumansandhasbeen

recognizedasoneofthemosttoxicindustrialandenvironmental

elements,AsingleinjectionofCdintoanimalsresultsinanumberof lesionsinvariousorgans,suchastheliver,kidneyandtestes・Chelation therapyfOrCdhasbeeneffectiveinpreventingCd-inducedacuteor

chronictoxicity・Variousdithiocarbamatecompoundshavealsobeen

usedasantidotesfOrCdintoxicationinanimals・

Theaimofthepresentstudywastoinvestigatetheprotectiveeffectof thenewdithiocarbamatederivatives,N-benzyl-D-glucamine dithiocarbamate(BGD)fOrtherenaldamageresultingfromexposureto

CdCl2orCd-MTinrats・FurtheImore,thecomparativeeffectsofBGD,N‐

p-isopropylbenzyl-D-glucaminedithiocarbamate(PBGD),diethyldithio‐

carbamate(DDTC)anddisulfiram(DSF)againsttesticulartoxicityin

ratscausedbyacuteexposuretoCdwereinvestigated.

1.EffectofBGDonrenaItoxicityinducedbyCdinrats

l)TostudytheeffectofBGDontherenaltoxicityproducedby subacuteexposuretoCd,ratswereinjectedsubcutaneously(s、c、)with

CdCl2(1.5mgCd/kg)dailyfOr26daysandthereaftertheyreceived l3injectionsofBGD(400川Cl/kg)everyotherday・BGDtreatment significantlydecreasedtheurinaryexcretionofprotein,ASTand

aminoacid,suggestingthetherapeuticeffectofBGDontheCd‐

inducedrenaldamage・TheCdconcentrationsinliverandkidney

weresignificantlydecreasedbyBGDtreatment・Theresultsofthis studyindicatedthatBGDtreatmentwaseffectiveindecreasingthe

Cdconcentrationsinkidney,resultinginthetherapeuticeffecton theCd-inducedrenaldamage.

2)TheeffectofBGDontherenaltoxicityinducedbyacuteexposureto Cd-MTinratswasstudied・Ratswereinjectedintraperitoneally(i、p、)

withBGD(400仏mCl/kg)6,l2or24hafteri.p、injectionofCd-MT

(200ugCd/kg)andthereaftertheyreceivedthreeinjectionsofBGD

(400Umol/kg)dailyfOr3days・Theresultsindicatedthatashorter

timeintervalbetweentheadministrationofCd-MTandBGDcaused

morerapidexcretionofCdions,whichwereliberatedfromCd-MTin thekidneyandmightcausedirecttoxicityintherenaltubules,

resultinginaredutionofrenalCdconcentrationandanincreased protectiveeffectofBGDagainstCd-MT-inducedrenaldamage.

(3)

2.EffectsofdithiocarbamatesagainstCd-inducedtesticuIar t

o x i c i t y

l)TheprotectiveeffectsofcombinedtreatmentwithDDTCplusBGD orDDTCplusPBGDagainstthetesticulartoxicitycausedbyacute

exposuretoCdinratswerestudied・Ratswereinjecteds.c・withCdCl2

(3mgCd/kg)and30minlater,theywereinjectedi.p・withthe chelatingagents(1.0,mol/kgeach).Theresultsindicatedthatthe

coadministrationofBGDorPBGDwithDDTCpreventedthe accumulationofCdinthetestesonthebasisofgreaterblood distributionofCd,whichresultedfromtheuptakeofCdbythered

bloodcells,withouttheredistributionofCdtothebrain,resultingin animprovementoftheprotectiveeffectofDDTCagainsttheCd- inducedtesticulartoxicity.

2)DSFandDDTCwerecomparedfOrtheirprotectiveeffectsagainstthe testiculartoxicityinducedbyacuteexposuretoCdinrats・Ratswere

injecteds.c・withCdCl2(3mgCd/kg)and30minlater,theywere injectedi.p・withDSF(0.05-0.5,mol/kg)orDDTC(0.1-1.0

,mol/kg).ThetreatmemwithDSFatdoselevelsof0.1-0.5,mol/kg preventedtheincreasesintesticularlipidperoxidationandcalcium

(Ca)concentrationsandthedecreasesintesticularweight,which

wereobservedat7daysafterCdinjection・DDTCatdoselevelsofO、2‐

1.0,mol/kglikewisereducedCd-inducedtesticulartoxicity・The

resultsindicatedthatDSF,whichismetabolizedtoDDTC,hada protectiveeffectagainstCd-inducedtesticulartoxicitynearly

equivalenttoDDTCatapproximatelyone-halfthedose.

3)TheearlytesticulardamageafteracuteCdexposureandthe

preventionofCd-inducedtesticulartoxicitybyoraladministration ofDSFatvarioustimesafterCdexposureinratswerestudied・Inthe

microscopic・examinationoftestestissueat6hafterCdexposure,the damageofinterstitialtissuesandseminiferoustubuleswasobserve。、

ThetreatmentwithDSFatdoselevelsof0.5,mol/k9(0.5orlh),

1.0,mol/k9(3h)or2.0,mol/k9(3h)preventedtheincreasein

testicularlipidperoxidationandCaandCdconcentrationsandthe decreaseintesticularweight,whichwereobservedat7daysafterCd

injection(3mgCd/kg),aswellasbyinjectionofDSFat0.5,mol/kg

(0.5h).TheresultsindicatedthatCd-inducedtesticulartoxicity

damageoccurredduring3-6hafterCdinjectionandthatmore effectivechelationtherapywithDSFfOrtesticulartoxicitybyCdwas

consideredtoarisefromtheoraladministrationofDSFatdoselevels ofmorethan1.0,mol/kgwithin3hafteracuteCdexposureinrats.

Thisstudyindicates effectiveinpreventing byCdexposureinrats.

thatthechelationtherapyforCdhasbeen therenaldamageandtesticulartoxicityinduced

(4)

目 次

第 1 章 緒 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1

第2章塩化カドミウムの長期投与による腎障害に対するN一ベンジルーD-

グルカミンジチオカルバメートの防護効果・・・・・・・・・・・・・・5

第 1 節 概 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 第 2 節 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5

第1項カドミウムによる腎機能障害に対するN一ベンジルーD-グルカミン

ジチオカルバメートの影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1)尿中の蛋白質量,糖量,アミノ酸量及びアスパラギン酸アミノトランス

フェラーゼ活性の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 2)尿量,尿中カドミウム量及び体重の変化・・・・・・・・・・・・6 3)腎皮質へのパラアミノ馬尿酸取り込みの変化・・・・・・・・・・・6 4)組織病理学的変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 第2項カドミウムによる肝障害に対するN-ベンジルーD-グルカミン

ジチオカルバメートの影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第3項カドミウムの組織分布及び細胞内分布に対するN-ベンジルーD-グル

カミンジチオカルバメートの影響と細胞質カドミウムの存在形態・・12 第4項生体内必須金属に対するN-ベンジルーD-グルカミンジチオ

カルバメートの影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第3節考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 第4節要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。・・・17

(5)

第3章カドミウムーメタロチオネインによる腎障害に対するN一ベンジルーD-

グルカミンジチオカルバメートの防護効果・・・・・・・・・・・・・・19

第 1 節 概 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 9 第2節結果・・・・・・・・・・・・・・.・・・・・・・・・・・・・・・19

第1項カドミウムーメタロチオネインによる腎機能障害に対する

N-ベンジルーD-グルカミンジチオカルバメートの影響。.・・・・’9 1)尿中蛋白質量,糖量,アミノ酸量及びアスパラギン酸アミノトランス

フェラーゼ活性の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2)尿量,腎重量及び体重の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 3)組織病理学的変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 第2項カドミウムーメタロチオネインの肝臓に対する影響・・・・・・・27 第3項カドミウムの組織分布に対するN-ベンジルーD-グルカミンジチオ

カルバメートの影響・・・・・・・・・・・・・・・・.。・・・27 第3節考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 第4節要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

第 4 章 塩 化 カ ド ミ ウ ム の 精 巣 障 害 に 対 す る N - ベ ン ジ ル ー D - グ ル カ ミ ン ジ チ オ カルバメート,N-p-イソプロピルベンジルーD-グルカミンジチオカル バメート及びジエチルジチオカルバメートの防護効果・・・・。。・・・31

第1節概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 第 2 節 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 1

(6)

第1項カドミウム投与後の各組織中の脂質過酸化,精巣重量,精巣中のへモグ ロビン及び非蛋白質性SFI濃度の変化に対する各種キレート剤の影響31 第2項カドミウム投与後の組織中のカドミウム及び必須金属に対する

各種キレート剤の影響・・・・・・・・・・・・・・・・。.・・・32 第3項カドミウムの血液中分布に対する各種キレート剤の影響・・・・・・35 第4項カドミウムによる生殖障害に対する各種キレート剤の防護効果・・・35 第3節考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第4節要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

第5章塩化カドミウムの精巣障害に対するジエチルジチオカルバメート及び

ジスルフイラムの防護効果・・・・・・・・・・・・・・・・..・・・39

第1節概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 第2節カドミウムの精巣障害に対するジエチルジチオカルバメート及び

ジスルフィラム腹腔内投与時の防護効果・・・・・・・・・・・・・・39 第1項結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・..・・・39

1)カドミウムによる精巣の脂質過酸化及び精巣重量の変化に対する

ジエチルジチオカルバメート及びジスルフィラムの影響・・・・・39 2)カドミウム投与後の組織中のカドミウム及び必須金属に対する

ジエチルジチオカルバメート及びジスルフイラムの影響.。・・・40 3)カドミウムによる生殖障害に対するジエチルジチオカルバメート

及びジスルフィラムの防護効果・・・・・・・・・・・・・・・・40 第2項考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。・・・44 第3節カドミウムの精巣障害に対するジスルフイラム経口投与時の防護効果・45

(7)

第1項結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・..・・・45 1)カドミウム投与後の精巣の組織病理学的変化・・・・・・・・・・・45 2)カドミウム投与後の精巣の脂質過酸化及び精巣重量の変化に対する

ジスルフイラムの影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45

3)精巣中のカドミウム,カルシウム及び鉄に対する

ジ ス ル フ イ ラ ム の 影 響 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 8 4)カドミウムによる生殖障害に対するジスルフイラムの防護効果・・50 第2項考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・..・・・50 第4節要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

第6章結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

実験の部・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 第2,3章の実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 第4,5章の実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65

謝 辞 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 0

参考文献・・・・・・・・・・・・.・・・・・・・・・・・..・・・・・・・71

(8)

本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。

1)EffectofN-benzyl-D-glucaminedithiocarbamateontherenaltoxicity

producedbysubacuteexposuretocadmiuminrats S,KQjima,HOno,M,Kiyozumi,T、HondaandATakadate

Toxicol、Appl・Pharmaco1.,98,39-48(1989)

2)EffectofN-benzyl-D-glucaminedithiocarbamateonrenaltoxicity

inducedbycadmium-metallothioneininrats

SKQjima,H、Ono,AFurukawaandM、Kiyozumi ArchToxico1.,64,91-96(1990)

3)N-Benzyl-D-glucaminedithiocarbamateandN-p-isopropylbenzyl‐

D-glucaminedithiocarbamateimprovetheprotectiveeffectof diethyldithiocarbamateagainstcadmium-inducedtesticulartoxicity

mrats

S、KQjima,Y、Sugimura,H、Ono,H、ShimadaandT、Funakoshi BioLPharm・Bull.,16,244-247(1993)

4)Comparativeeffectsofdisulfiramanddiethyldithiocarbamateagainst

testiculartoxicityinratscausedbyacuteexposuretocadmium HOno,T、Funakoshi,H、ShimadaandS、KQjima J・ToxicoLEnviron・Health,50,101‐111(1997)

5)Preventionofcadmium-inducedtesticulartoxicitybyoral

administrationofdisulfiraminrats

HOno,1.Tanii,KToshimoriandS、KQjima Jpn.』、ToxicoLEnviron、Health,42(6),492-499(1996)

(9)

第1 章 緒論

近年、産業の急速な発展に伴い、我々をとりまく環境にはヒトの健康を損うおそれの ある化学物質が増加しつつあり、その種類も多種多様である。このような化学物質によ る環境汚染は、深刻な社会問題となっている。

カドミウム(Cd)は工業的には合金,メッキ,顔料,アルカリ電池,塩化ビニル安定剤 などとして広く用いられ、その生産量も年々増加している。1948年、スウェーデンの Fnbergによってアルカリ蓄電池工場労働者にCd慢‘性中毒患者が確認されて以来')、

世界各国においてCdによる中毒事例が報告されている。わが国では、従来Cdによる 健康障害は職業病として知られていたが、富山県神通川流域に集中的に発生したイタイ イタイ病2)の発症原因物質としてCdが認定されて以来、Cdは環境汚染物質の一つと

して社会的に関心が持たれるようになった。Cdを含有する産業廃棄物による環境汚染 は、農作物,畜産物,水産物,飲料水などを汚染し、それによるヒト生体への影響が懸念

されている。

Cdは一旦生体に侵入すると非常に排池され難く、ヒトの生物学的半減期は一般に長 く、全身で16年、腎皮質では18~33年と推定されている3)。Cdのヒトに対する影響は、

摂取経路,期間,濃度等により異なる。経口摂取による急性中毒症状としては、悪心,堰 吐,腹痛,下痢などの消化器症状を示すことが知られており、Cd量としては15-100mg の摂取(成人)で急性中毒症状が見られる4)。また、職業病に多く見られる急性中毒は、

Cdヒュームやダストの経気道的吸入により発生し、吸入数時間後から生じる咽頭痛,息 切れ,咳噺,呼吸困難,問質性肺水腫や問質性肺炎などの呼吸器症状を呈する5)。一方、

低濃度のCd慢性中毒としては肺気腫,腎障害,貧血などが報告されている6'7)。また、実 験動物においてCd毒性として認められているものに、肝.腎障害3,8-13),肺障害14-16),

精巣障害17),催奇形作用18》などがある。

Cdの腎障害は慢性Cd中毒の主症状で、近位尿細管機能異常に伴う多尿,蛋白尿'酵 素尿が見られ、さらに進行すると糖尿,アミノ酸尿が見られる19,20)。Cdの腎障害では腎 糸球体や遠位尿細管への影響も報告されているが6,21)、組織病理学的には近位尿細管の 萎縮,変性が主である。生体に取り込まれたCdは主に肝臓に蓄積し22)その後時間の経 過とともに肝臓から腎臓へ移行し、特に腎臓の皮質に高濃度に蓄積し、腎障害を発生す ることが知られている23)。このようにCdの慢性中毒として腎障害が発生するのは、

- 1 -

(10)

Cdが最終的に腎臓に蓄積するためである。また、Cd暴露後比較的速やかに肝臓など の組織にメタロチオネイン(MT)が誘導合成される24)。MTは低分子量(6000~7000)

蛋白質であり、システイン含有量が多く(約30%)、そのSH基によりCdイオンを捕 捉してその毒性を軽減する25)が、その一方で、細胞内Cd-MTは細胞外へ流出し、血液

を介して腎臓へ再吸収される26)。したがって、Cd-MTを投与すると腎臓に速やかに取 り込まれ、Cdによる急性腎障害が発現することが知られている2728)。

また、Cdは急性毒性として極めて強い精巣障害を引き起こすことが、チェコの parizekら29)によって報告されている。ラットにCdを投与すると、精巣中のCd濃度は

肝臓や腎臓に比べて著しく低いにもかかわらず、精巣に出血性炎症が生じ30)、その後障 害が進行するにつれて精巣は萎縮し、やがて生殖能力を失う。佐二木ら31)は、Cdによ

る精巣障害発現の要因として脂質過酸化が深く関与していることを指摘している。

Cdの急性あるいは慢性中毒の防護及び治療には、体内に蓄積したCdを迅速に排池 させるキレート剤の使用が有効である。本研究では、Cdの毒性として慢性中毒の腎障 害及び急性中毒の精巣障害を取り上げ、これらの毒性に対するキレート剤の防護及び治 療効果の検討を企図した。これまでCdによる急性中毒の解毒剤としては、エチレンジ アミン四酢酸(ethylenediaminetetraaceticacid,EDrrA)が使用されてきた⑲o

EDrrAはCdの尿中排池を促進するが、本キレート剤により腎障害がさらに悪化する危 険性が大きいので、使用が制限されている32,33)。Cd暴露後時間が経過すると、EDTA やジエチレントリアミン五酢酸(diethylenetriaminepentaaceticacid)のCd排池促

進作用は極めて弱い34)。2,3-ジメルカプトプロパノール(2,3-dimercaptopropanol,

BAL)も、Cdの急性及び慢性中毒に有効であると報告されているが35)、BALを投与す るとCdの腎濃度が上昇し腎障害を誘発する33-36)。また、2,3-ジメルカプトコハク酸

(2,3-dimercaptosuccinicacid)やDL-ペニシラミン(DL-peniciuamine)もCd暴

露直後では本金属の尿中排池促進作用を示すが、時間が経過するとその効果は著しく減 )33,23

近年、ジエチルジチオカルバメート(diethyldithiocarbamate,DDrrC)はCdの急

性暴露後組織に蓄積したCdの排池促進作用が大きく、Cdの急性毒性に対して優れた 防護効果を有することが明らかになった37)。その後多数のジチオカルバメーート系化合物 が合成され、Cdに対する排池促進作用と毒性防護効果が検討された38割・児島らは、

新規ジチオカルバメート系キレート剤であるN-ベンジルーDグルカミンジチオカルバメー

- 2 -

(11)

卜(N-benzyl-D-glucaminedithiocarbamate,BGD),N-p-イソプロピルベンジルー

Dグルカミンジチオカルバメート(N-p-isopropylbenzyl-D-glucamine

dithiocarbamate,PBGD)などを合成し、これらのキレート剤が体内に蓄積したCdに

対して大きな胆汁中排池促進作用を有することを報告した45)。そこで、Cdの腎障害及 び精巣障害に対するこれらのジチオカルバメート系キレート剤の防護及び治療効果につ いて検討した。

まず、ラットに塩化カドミウム(CdCl2)を26日間連続投与して腎障害を起こした後 BGDを26日間繰り返し投与し、Cdによる腎障害に対するBGDの治療効果を検討し、

同時に、Cdによる肝障害に対するBGDの効果についても検討した(第2章)。

次に、CdCl2の長期暴露による腎障害発現の機序を明らかにするために、Cdを Cd-MTの形で投与して腎障害を発現させ、BGDの防護効果を検討した(第3章)。

また、Cdによる精巣障害に対するジチオカルバメート系キレート剤の防護効果を調 べるために、DDTC,BGD及びPBGDの効果を比較検討した(第4章)。

さらに、DDI℃と類似した構造を有し、抗酒癖剤として使用されているジスルフイラ ム(DSF)を用いて、Cdの精巣障害に対する防護効果をDDrCと比較検討するととも に、Cd暴露後種々の時間にDSFを経口投与したときの防護効果についても検討した (第5章)。

- 3 -

(12)

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(13)

第2章塩化カドミウムの長期投与による腎障害に対するN-ベンジルー D - グ ル カ ミ ン ジ チ オ カ ル バ メ ー ト の 防 護 効 果

第 1 節 概 要

CdCl2を動物に長期間投与した際の慢性Cd中毒としては、、近位尿細管障害を主体と する腎障害が知られている11-13)。これは、投与したCdの大部分はまず肝臓に蓄積する が22)、その後時間の経過とともに肝臓から腎臓へ移行し、最終的には主に腎臓に蓄積す るためと考えられている231。したがって、この障害を防護及び治療するためには、キレー

ト剤投与により生体中のCdを速やかに排池させることが効果的と考えられる。

本章では、CdCl2の長期投与により肝及び腎障害を惹起させたラットに、Cdの胆汁 中排池促進作用の大きいBGD45)を投与してその効果を検討した。まず、Cdによる腎障 害を調べるために、尿中の蛋白質量,糖量,アミノ酸量及びアスパラギン酸アミノトラン スフェラーゼ(aspartateaminotransferase,AST)活性の変動を調べ、さらに腎臓の

組織病理学的観察を行った。

また、CdCl2を急性投与した際にCdが最も高濃度に分布する肝臓は、急性Cd中毒 の標的臓器の一つと考えられている46)。さらに、慢性Cd中毒における腎障害の発現に 対する肝障害の関与を示唆している報告もある47)。したがって、CdCl2投与による肝障

害とそれに対するBGDの効果についても検討した。

次に、Cd中毒の解毒剤として使用したBGDの生体に対する影響を調べるために、

Cd及びBGDの連続投与後の生体内必須金属濃度を測定した。

第 2 節 結 果

第1項カドミウムによる腎障害に対するN一ベンジルーD-グルカミン ジチオカルバメートの影響

1)尿中の蛋白質量,糖量,アミノ酸量及びアスパラギン酸アミノトランス フ ェ ラ ー ゼ 活 性 の 変 化

ラットにCdCl2(1.5mgCd/kg/day)を26日間投与し、さらにBGD(400仏mCl/kgウ

- 5 -

(14)

を1日おきに26日間投与した時の尿中の蛋白質量,糖量,アミノ酸量及びASr活性を Fig.1及びFig.2に示した。尿中蛋白質量は、Cd投与開始後16日頃から増加し、24

日後にはコントロール値の約2.5倍に達した。しかし、Cd投与を中止してBGD投与を 開始すると、6日後から効果が現われて尿中蛋白質量は減少し始め、10日後にはほぼコ ントロール値に戻った。一方、BGD無投与群では、コントロール値まで回復するのに 18日程度を要した。また尿中糖量の有意な変化は認められなかった。

次に、尿中AST活性は、Cd投与開始20日後に有意に増加し、24日後にはコントロー ルの約3倍に上昇したが、その後BGD投与6日後から減少し始め、2週間後にはほぼ コントロール値まで減少した。一方、BGD無投与群におけるAsr活性は、Cd投与を 中止してもほとんど減少しなかった。また、尿中アミノ酸量は、Cd→生理食塩水投与 群のみが36日頃から増加したが、Cd→BGD投与群では有意な増加は認めらオ1なかった。

2)尿量,尿中カドミウム量及び体重の変化

Cdによる腎障害は主に近位尿細管で発生し、多尿になるという報告がある48)。そこ で実験期間中4日に1回尿を採取して尿量を測定したが、Cd投与により腎障害を起こ

したラットに尿量の有意な増加は認められなかった(Fig.3)。

次に、Cd投与後のCdの尿中排世量をFig.4に示した。Cdの尿中排池量は徐々に 増加し、20日後には急激に増加した。これは、尿中の蛋白質量及びAST活性が増加し た時期と一致した。このCdの尿中排池量は、BGD投与により急速に減少したが、

BGD無投与群ではゆるやかな減少を示した。

さらに、Cdによる毒性の発現とBGDの解毒効果を調べるために、動物の体重変化を 調べた(Fig.5)。Cd投与群では、投与期間中体重の増加は全く見られなかったが、

Cd投与を中止すると徐々に体重は増加した。この体重増加は、BGD投与群で大きい傾 向を示した。また、BGDのみの投与群の体重増加はコントロールとほとんど変わらな

かった。

3 ) 腎 皮 質 へ の パ ラ ア ミ ノ 馬 尿 酸 取 り 込 み の 変 化

Cdによる腎障害を尿細管分泌機能の面から検討するために、Cd及びBGDの投与期

- 6 -

(15)

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△;C,0.9%NaCl→BGD▲;D,0.9%NaCI(control)

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(16)

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CO

(17)

0 4 8 1 2 1 6 2 0 2 4 2 8 3 2 3 6 4 0 4 4 4 8 5 2

D a y B G D

Cd Urine

2

(』二⑮定一戸巨)の匡一』。

Fig.3.EffectofBGDonUrineFlowinRatsafterCadmiumAdministration・

RatswereinjectedsubcutaneouslywithsalineorCdCI2(1.5mgCd/kg)daiIyfor26daysandthen t

h e y w e r e i n j e c t e d i n t r a p e r i t o n e a I I y w i l h s a I i n e o r B G D ( 4 0 0 1 1 m o l / k g ) e v e r y o l h e r d a y f O r 2 6 d a y s

○;A,CdCI2→BGD●;B,CdCI2→0.9%NaCI

△;C,0.9%NaCI→BGD▲;D,0.9%NaCI(controI)

1

1

錨 室 紳 二 # 参 幸 ‘ 詞

Jいつ~‐‐K2

3

(』この一面ユ)で。

F i g . miumrCadfteatsaminRdmiufCaionocretryExinaonUrfBGDctoEffe A d m i n i s t r a t i o n

R a i s w e r e i n j e c t e d s u b c u t a n e o u s I y w i t h s a I i n e o r C d C I 2 ( henndtsadayr26yfoaiI)d/kg

t h e y w e r e i n j e c t e d i n t r a p e r i t o n e a l l y w i t h s a I i n e o r B G D ( 4 0 0 1 L m o l / k g ) e v e r y o t h e r d a y f o r 2 6 d a y s

O;A,CdCI2→BGD●;B,CdCI2→0.9%NaCI

△;C,0.9%NaCl→BGD▲;D,0.9%NaCI(contmI)

ferdiftIycanifiign)S e n t f m m C d C i 2

90.,05.<0.

- 9 -

UrinaryCd

4

0 4 8 1 2 1 6 2 0 2 4 2 8 3 2 3 6 4 0 4 4 4 8 5 2

D a y B G D

Cd 2

(18)

4 ) 組 織 病 理 学 的 変 化

Cdの長期投与による腎障害を組織学的に検討した(Fig.7)。正常ラットの腎組織で は、糸球体とそれを包むボーマン嚢及び近位尿細管がはっきりと観察される。Cd投与 後BGDを投与しないラットでは、一部の近位尿細管上皮細胞に浮腫性膨化並びに変性 と崩壊が明らかに認められた。しかし、Cd投与後BGDを投与したラットでは、近位 尿細管上皮細胞の膨化はほとんど見られず、また、上皮細胞壊死により変性した尿細管 は観察されなかった。

以上の結果より、BGDはCd投与による腎障害に対して防護効果を有することが分かっ た。

Bodyweight

400

釦叩卵332

(つ)一二国①芸毒で◎国

ヘー迩一ES

Ar・・℃

間中ラットを8日毎に殺し、腎皮質スライスへのパラアミノ馬尿酸のinvitrOでの取り 込みを調べた(Fig.6)。Cd連続投与により、腎皮質のパラアミノ馬尿酸取り込み能は 徐々に減少し、Cd投与開始24日後にはコントロールの約50%まで減少した。その後 BGD投与により少しずつ回復し、BGD投与開始後26日には60%まで回復した。

6..四

0 4 8 1 2 1 6 2 0 2 4 2 8 3 2 3 6 4 0 4 4 4 8 5 2

Cd D a y B G D

L d 8

.6.-.

200

150

F i g . dmCathwitedeatrrespatfRtoighWedyBo i u m a n d a f t e r B G D T h e r a p y

R a t s w e r e i n j e c t e d s u b c u t a n e o u s l y w i t h s a I i n e o r C d C I 2 ( 1 . 5 nehtndasyda62rfoyIia)dgk/

t h e y w e r e i n j e c t e d i n t r a p e r i t o n e a l I y w i t h s a l i n e o r B G D ( 4 0 0 u m o I / k g ) e v e

ehtoy r d a y f O r 2 6 d a y s

○;A,CdCl2→BGD●;B,CdCI2→0.9%NaCl

△;C,0.9%NaCl→BGD▲;D,0.9%NaCI(control)

icfinigS) a n i l y d i f f e r e n t f r o m c o n t r o l , 500.<

‐-10-

参照

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