中国人日本語専攻留学生のコミュニケーション問題
―問題に対する意識と調整に着目して―
秦爽(QIN SHUANG)(博士前期課程 2019 年 3 月修了) 本研究の目的は、中国において日本語を体系的に学ぶ中国人日本語専攻留学生 ( 以下 : 専 攻生 ) を対象者として、日本留学時に遭遇したコミュニケーション問題に対する意識と調整 を明らかにすることである。本研究の調整は、専攻生がコミュニケーション問題に遭遇した 時、コミュニケーション問題について行う対応とした。その上で、専攻生が日本人と円滑に コミュニケーションができるように中国における日本語教育への応用を考察したものであ る。以上を踏まえ、本研究は以下の 2 点を研究課題とした。 研究課題 1 学校場面とアルバイト場面において、中国人日本語専攻留学生はどのような コミュニケーション問題に遭遇するのか。 研究課題 2 両場面における問題に対して、中国人日本語専攻留学生はどのように意識し て、どのように調整しようとするのか。 調査は、留学生として必ず参加する学校場面とアルバイト場面に着目し、質問紙調査、ディ スカッション、フォローアップ・インタビュー(以下 :FUI)によりデータを収集した。まず、 質問紙調査(選択式・記述式で全 25 問)を専攻生 15 名に対して行い、学校場面とアルバ イト場面におけるコミュニケーション問題を特定した。次に、問題に対する意識と調整を探 るため、学校場面とアルバイト場面の問題についてのディスカッションを、母語場面 ( 専攻 生 3 人、中国語 ) と接触場面 ( 専攻生 2 人、日本人 1 人、日本語 ) で、各 3 グループで行なっ た(録音)。ディスカッション終了後、FUI で接触場面と母語場面における話し方の違いに ついて専攻生の意識を確認した(録音)。ディスカッションの分析は、ディスカッションで 話し合われた話題を集計し、その話題の話し方を会話データから質的に検討した。 分析の結果、研究課題 1 については、質問紙調査より、学校場面は「日本人とのコミュニ ケーションが少ない」という問題、アルバイト場面は「日本人の話が聞き取れない」という 問題が指摘された。ディスカッションと FUI より、これらは日本語の文法や発音などの問題 ではなく、日本語で日本人とのやりとりが期待されるように行えないということであると考 えられた。つまり、専攻生のコミュニケーション問題は、学校場面もアルバイト場面も社会 言語能力(ネウストプニー 1995a、1995b)の問題であることが明らかとなった。 次に、研究課題 2 については、ディスカッションと FUI の分析の結果より、学校場面もア ルバイト場面も「問題」について話す傾向があるという点では共通していた。学校場面に関 しては、専攻生は「問題」の指摘のみであるのに対して、アルバイト場面に関しては、専攻 生は「問題」の指摘のみではなく、「解決」まで話す傾向が観察された。また、問題の調整 について話し合うように指示したディスカッションにおいて、話題を急に転換するなど専攻 生の話し方に新たな社会言語能力(ネウストプニー 1995a、1995b)の問題が発生してい日本語連体修飾構造の習得における母語の影響
―内モンゴルのバイリンガル学習者とモノリンガル学習者を比較して―
レイレイ(LI LI)(博士前期課程 2019 年 3 月修了) 第二言語の学習者にとっては日本語の連体修飾構造は習得しにくい項目の一つである。動 詞、形容詞に見られる「の」の過剰使用、名詞に見られる「の」の過少使用については、中 国語を母語とする日本語学習者に典型的に見られる誤用であり、母語の影響を受けていると いう説と、学習者の母語に依らず見られる習得途上の普遍的な段階であるという説が提唱さ れている。 本調査では、モンゴル語 ・ 中国語バイリンガル日本語学習者の日本語連体修飾構造の習得 に注目した。中国語と異なり、モンゴル語の連体修飾の構造は日本語と極めて似ているため、 中国語モノリンガル日本語学習者と比べることで、日本語連体修飾構造の習得における母語 の影響について理解を深めることができると考え、2 つの調査を行った。 調査 1 では中国内モンゴルにあるフフホト民族学院日本語専攻の中級学習者全 50 名を対 象に、奥野(2004)を参考にして、即時的文法性判断テストを行った。その結果、モンゴ ル語 ・ 中国語バイリンガル日本語学習者と中国語モノリンガル日本語学習者の間で正誤判断 テストの正答率にも、「の」の過剰使用にも、母語による差は見られなかった。 調査 2 では日本在住の上級モンゴル語 ・ 中国語バイリンガル日本語学習者と中国語モノリ ンガル日本語学習者全 21 名を対象に、調査 1 と同じ即時的文法性判断テストを行った。そ の結果、全体正答率については、上級モンゴル語 ・ 中国語バイリンガル日本語学習者は上級 中国語モノリンガル日本語学習者より高い傾向が見られた。また、修飾部分が名詞と形容動 詞の場合において、上級モンゴル語 ・ 中国語バイリンガル日本語学習者は上級中国語モノリ ンガル日本語学習者より正答率が有意に高かった。名詞については、上級中国語モノリンガ ル日本語学習者に母語の影響と考えられる「の」の過少使用を容認する現象が見られた。し かし、母語の影響を想定した形容詞と動詞における「の」の過剰使用については、両学習者 群とも一定の習得が進んでおり、有意な差は見られなかった。また、調査 1 と調査 2 の結果 を比較すると、モンゴル語 ・ 中国語バイリンガル日本語学習者は中国語モノリンガル日本語 学習者と比べ、正答率の伸びが顕著であることが確認できた。 本調査の結果に基づき、日本語の連体修飾構造の習得において、モンゴル語 ・ 中国語バイ リンガル日本語学習者と中国語モノリンガル学習者の間では、中級レベルでは母語による差 が見られなかったため、「の」の過剰使用は母語によらず起きる普遍的な現象であるという 説が支持される。一方、上級レベルでは、母語の影響と思われる差が見られたことから、母 語が習得の順序ではなく速度に影響を与えるとする小山(2003)の「過程的転移」を示し ていると考えられる。また、同じ母語をもつ学習者の正答率に開きが見られたことから母語 の影響に個人差があることを指摘した。日本人小学生を対象とした有形の完成品を作るタスクを取り入れた英語指導の効果
霜鳥 春香(SHIMOTORI HARUKA)(博士前期課程 2019 年 3 月修了) 2020 年度より、小学校学習指導要領に、5・6 年生では教科として、また 3・4 年生では外 国語活動が加わることになる。それに伴い、これから英語を学習する小学生を対象に「タス クを用いた英語指導」を行い、英語学習により慣れ親しむことができる指導の研究及びタス ク活動を通じて学習者の動機づけの高まりと語彙力の伸びの関連性に関しての研究をしよう と考えたことが本論文を書くきっかけとなった。第 二 言 語 学 習 の「 動 機 づ け 」 研 究 の 第 一 人 者 の Zoltan Dornyei が『Motivational Strategies in Language Classroom』(2001) の動機づけを高める英語の学習ストラテジーの 中から、タスクをより興味深いものにするために有形の完成品を作る英語指導を提案した。 本研究は、初めに動機づけに関する先行研究を概観し、現行の小学校で多く行なわれている 有形の完成品を作る代表例として工作を行う授業を実施し、以下の 2 つの研究課題の答えを 探った。 (1) 有形の完成品を作るタスクを取り入れた英語指導では、動機付けはどの程度高ま るか。 (2) 有形の完成品を作るタスクを取り入れた英語指導では、語彙力は伸びるか。 実験は、①英語のリスニングテストによる単語のプレテストと動機づけに関する事前アン ケートを行う、②授業のテーマを「フィンガーフード」に設定し、フィンガーフードの歴史、 作り方を学習する、③タスクを行う集団(実験群)、タスクを行わない集団(統制群)に参 加者を分けそれぞれの指導を行う、④実験群・統制群合同で英語のリスニングテストによる 単語ポストテスト、動機づけに関する事後アンケートを行う、という手順で行った。本研究 の実験参加者は、都内の小学校に通う 3・4 年生、合計 18 名である。小学校入学時より、英 語指導を受けているため、児童の英語力には差がないと想定した。実験結果は、t 検定を用 いて分析した。 リスニングテストの結果、及び動機づけアンケートを t 検定で分析したところ、実験群・ 統制群共に、プリテスト・トポストテスト間に明らかな差を見ることができなかった。その 理由として考えられることは、①動機づけのアンケート内容が抽象的で、児童にとって理解 が難しかった、②リスニングテストでは問題の難易度が低く、点数の伸びる児童がほとんど いなかった、③実験期間が短く、すぐに成果を発揮することができなかった、④実験中に児 童の集中力が散漫となったこと等が考えられる。研究課題に対する答えとして、本研究で行っ た実験では、動機づけが高まったとは言えない、また、語彙力は伸びたと言えないという結 果になった。しかし、授業後の生徒の感想の中には、有形の完成品を作るタスクを通して英 語を学ぶことが楽しかったという意見もあり、手を使って物を作ることは英語指導において も、コミュニケーションを引き出すために、有効な指導法となる可能性があると考えられる。