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昭和学士会誌 第77巻 第3
号〔261‑264
頁,2017〕特 集 最近の耳鼻咽喉科治療
昭和大学病院耳鼻咽喉科におけるアレルギー性鼻炎の治療
国立国際医療研究センター国府台病院耳鼻いんこう科 昭和大学医学部耳鼻咽喉科学講座
渡 邊 荘
は じ め に
アレルギー性鼻炎の有病率は近年増加傾向にあ る.その中でもスギ花粉症は,戦後全国で行われた スギ植林がそのまま手入れされず疎かとなり,花粉 を多く生産するスギ林面積が広がったために患者数 が急増し,しばしば社会問題として取り上げられる ようになった.気管支喘息など他のアレルギー性疾 患と比較して,アレルギー性鼻炎の自然治癒の可能 性が低いことも花粉症を含めたアレルギー性鼻炎の 患者数が増えている一因となっている.くしゃみ・
水様性鼻漏・鼻閉を三大主徴とする本疾患により,
集中力や記憶力の低下・疲労や倦怠感の出現・睡眠 障害やイライラ感が増すなど,患者の QOL をどれ だけ損ねるか計り知れない.そのようなアレルギー 性鼻炎対する治療について,本稿では昭和大学病院 耳鼻咽喉科(以下,「当科」という)で特によく行 われる内容を中心に解説する.
アレルギー性鼻炎に対する治療法
当科を初めて受診するアレルギー性鼻炎患者(副 鼻腔炎やその他アレルギー性疾患を合併した患者は 除く)の多くは中等症〜重症で,薬物療法に反応し ないなど一般の医療機関での治療が難しい患者であ る.初診時に必要な問診・検査(鼻鏡検査・鼻汁好 酸球検査・鼻腔通気度検査・血液検査・画像検査な ど)を行い,再診の予約を取る.薬物療法あるいは 手術療法が主体となる場合は一般の再診へ,アレル ゲン免疫療法もしくは手術療法が必要な場合はアレ ルギー外来(水曜日午後)に振り分けられる.アレ ルゲン免疫療法の場合を除き,薬物療法で用いられ る薬物が定まり病状が安定してきた場合や,手術後
の鼻内の状態に問題がなくなった場合は,紹介元も しくは最寄りの医療機関への逆紹介を可能な限り 行っている.
アレルギー性鼻炎の治療法はアレルゲン回避の指 導・薬物療法・アレルゲン免疫療法・手術療法など がある.アレルゲン除去・回避については初診・再 診時に説明し,患者に実践するよう促している.こ こでは薬物療法・手術療法・アレルゲン免疫療法に ついて,当科での治療法をまじえて説明する.
1.薬物療法
アレルギー性鼻炎の発症機序として,くしゃみ・
鼻漏・鼻閉といった症状を引き起こす即時相反応 と,鼻閉を生じる遅発相反応の 2 つの反応がある1). 治療を行ううえで,患者の訴える症状が即時相反 応・遅発相反応のどちらが主体なのかを見極めるこ とも非常に大切である.図 1 は通年性アレルギー性 鼻炎の重症度による治療法の選択を表で示してい る.基本的には第 2 世代抗ヒスタミン薬が中心に用 いられ,中等症以上では鼻噴霧型ステロイド薬を併 用する.鼻閉型ではロイコトリエン受容体拮抗薬や その他の抗アレルギー薬がまず用いられる.花粉症 の場合もほぼ同様であるが,眼の掻痒感がみられる ことが多いため,抗ヒスタミン点眼薬もしくはステ ロイド点眼薬をその場合処方する.既に抗ヒスタミ ン薬を服用してもコントロール不良のため当科を受 診するケースが多く,そのような患者に対しまずは 別の抗ヒスタミン薬に替えてみる,またはもともと 内服していた薬剤を倍量投与する,さらには第一世 代の抗ヒスタミン薬や経口ステロイド薬を追加する ことでコントロールできることも少なくない.また 鼻閉が強い症例には,最近ではフェキソフェナジン 塩酸塩 / 塩酸プソイドエフェドリン配合錠(ディレ
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グラⓇ)を投与することで点鼻血管収縮薬の乱用を 防ぎ,かつ症状が改善される例が多い.2.手術療法
1 で述べた薬物療法が有効でない患者に対し手術 療法を勧めている.症状や患者のニーズに応じ,次 に述べる a 〜 c の 3 つのタイプの手術療法を選択,
あるいは組み合わせて行っている.a,b は主に鼻 閉に対して,c は鼻漏を改善させる目的で行われる.
ただしいずれの場合にも症状は改善されるが治癒す るものではないため,手術後も必要に応じて薬物療
法あるいはアレルゲン免疫療法が必要となることが ある.
1)鼻粘膜の縮小と変調を目的とした手術
CO2レーザーによる下鼻甲介粘膜蒸散(図 2a)や トリクロル酢酸(当科では 30%)塗布を行っている.
鼻粘膜を変調させることでアレルゲンとの反応を弱 め,また粘膜容積を縮めて鼻腔通気の改善を図る.
どちらの場合も日帰りで実施可能であり(手術日は 限られる),所要時間はレーザー手術の場合手術時 間・術後の観察時間含め 2 時間程度と比較的短い.
図 1 通年性アレルギー性鼻炎に対する治療法の選択(文献 7 より引用)
図 2 手術療法の写真 a:CO2レーザーによる下鼻甲介粘膜蒸散 b:粘膜下下鼻甲介骨切除術
c:後鼻神経切断術(矢印が後鼻神経)
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当科のみならず多くの医療機関で行われるが,標準 的な方法は確立していない2).また花粉症の場合は 飛散時期には行わないことが望ましい.2)鼻閉の改善を目的とした手術
薬物療法にて鼻閉を主体とした症状が改善されな い場合に手術療法を勧めている.鼻中隔矯正術や下 鼻甲介手術を当科では多く行っており,2014 年度は 両者とも年間で約 150 件行われた.7 日間程度の入 院が必要で,かつては局所麻酔下で行っていたが,
現在ではほぼ全例全身麻酔下で「内視鏡下に」行っ ている.下鼻甲介手術については何種類か方法があ り,当科では 2009 年頃から粘膜下下鼻甲介骨切除術
(図 2b)をほとんどの症例で行っている.鼻の防御 機能を司る下鼻甲介粘膜表面を保ちながら,骨のみ を切除することで下鼻甲介を外側に偏移させて鼻腔 通気を改善させることができる.鼻中隔矯正術によ る鞍鼻などの外鼻変形や,下鼻甲介手術後の萎縮性 鼻炎により鼻閉が悪化するといった合併症があると 言われている3).当科では粘膜下下鼻甲介骨切除術 を積極的に行うようになった 2009 年まで遡って調 べる限り,術後の外鼻変形や萎縮性鼻炎は認められ なかった.
3)鼻漏の改善を目的とした手術
内服薬や外用薬で鼻漏をコントロールできない場 合,かつては歯肉を切開して上顎洞後壁に達し,
Vidian 神経を切断する方法が行われていた.しか しドライアイや口蓋の知覚麻痺といった合併症がみ られ,治療無効例もあった4).現在では鼻内にあ る,より末梢の後鼻神経を内視鏡下に切断する方法
(図 2c)が当科をはじめ多くの医療機関で行われて いる.その効果は術後数年経過しても変わることが ないと報告されている4).当科では年間 10 例ほど,
前述の鼻中隔矯正術・下鼻甲介手術と同時に行い,
鼻閉・鼻漏両者の改善を図っている.そのためこの 手術に関しても 7 日間程度の入院が必要となる.合 併症は少なく比較的安全な手術であるといわれてい るが,術後に鼻出血が生じることがあり,手術時の 止血操作,特に神経周囲の血管の処理を十分に行っ ている.
3.アレルゲン免疫療法
百年以上前から行われており,その作用機序につ いては本稿では割愛するが,その効果は二重盲検比 較試験でも証明され,抗アレルギー薬では得られな
い長期寛解を得ることができる唯一の方法と考えら れている.当科では水曜日午後のアレルギー外来に て,これまでスギおよびハウスダストエキスを用い た皮下注射を行ってきた.しかし 2014 年 10 月にス ギ花粉エキスによる舌下免疫療法(図 3)が保険適 用となり,続いて 2015 年からはダニアレルゲンに よる舌下免疫療法(図 4)も始まった(昭和大学病 院ではダニアレルゲンによる舌下免疫療法を 2016 年 10 月より開始した).これから免疫療法を始める 患者にとって,この 2 つのアレルゲンに限り舌下免 疫療法が中心となっていくのは間違いない.毎日 1 回服用しスギ花粉エキスで最低 2 年,ダニ舌下錠で 最低 3 年は続ける必要があるが,どちらも未治療群 と比較して症状が有意に抑えられるという報告があ る5,6).副作用は少なく,本邦における臨床試験で はアナフィラキシーの報告はない.
日本ではここ数年で始まった治療法であり,また 頻度は相当低いもののアナフィラキシーが起こる可 能性もあるため,医師が処方を行う場合はアレルゲ ン免疫療法全般ならびに各アレルゲン製剤に関する e ラーニングを受講しなければならない.また,治
図 3 舌下免疫療法に用いられるスギ花粉エキス(シダトレンⓇ)
図 4 舌下免疫療法に用いられるダニ舌下錠(ミティキュアⓇ)
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療を希望する患者が来院して治療開始に至るまで,検査や治療内容説明のために必要とされる時間が長 く,普段の忙しい外来で 1 人の患者にそれだけの時 間を割くことは非現実的である.そこで昭和大学病 院では呼吸器内科・小児科と当科で共通の説明書を 作成し,時間のかかる説明をなるべく短時間で済む ように工夫している.
当科における治療の流れは以下の通りである.
a.初診時に診察して禁忌に該当しなければアレル ゲン検索をはじめとする検査を行い,説明書を 提示しながら簡単に説明を行う(説明自体は数 分ですむ).
b.自宅で説明書をよく読んでもらう.
c.再診時に検査結果を確認し,治療適応外でなけ れば説明書の内容についての質問を受け,最後 に同意書にサインをしてもらう.
d.初回服用分を含めて 14 日分のアレルゲン製剤を 処方し(時間の無駄を省くため,初回分は院内 処方を行っている),薬局から外来に製剤を届け てもらう.
e.医師の前で初回服用を行う.服用後 30 分間は外 来スタッフの目が届く場所で経過観察を行う.
その間に薬剤師から製剤や服用上の注意などに ついての説明がある.
f .服用後 30 分経過したら看護師がバイタルサイン など全身の状態を確認し医師に報告する.問題 がなければ帰宅させる.
g.2 回目以降は診察して問題がなければ処方を行 う(院外処方).その後は 1 〜 2 か月間隔で通院 してもらう(スギ花粉飛散時期の 1 〜 4 月は必 ず毎月受診してもらう).
当科では,スギ花粉およびダニアレルゲンに関し てスギ花粉飛散時期を除いて治療開始が可能であ り,2015 年 12 月までの 1 年間に当科で治療を開始 した患者は 20 名であった.免疫療法に慣れていな
い医師は導入を行うにあたり不安を覚えることがあ るため,当科では近隣の医療機関から紹介を受け,
導入は当科で,治療数か月経過して問題なければあ とは紹介元で継続してもらう,というシステムの構 築を試みている.
お わ り に
アレルギー性鼻炎に対する治療法について,当科 で行っている内容を交えながら解説した.花粉症を はじめアレルギー性鼻炎患者は増加の一途をたどっ ている.本稿を読んで治療を希望される,あるいは 治療に関する質問があれば,耳鼻咽喉科医師まで遠 慮なくお尋ねいただきたい.
文 献