日 鼻 誌 60(1):66 ∼ 68,2021
シンポジウム3
― 66 ― 小児鼻科手術の適応 小児の鼻副鼻腔は発育段階にあるため,鼻科手術の適 応は慎重に判断する必要がある。小児鼻副鼻腔の発育は 個人差が大きいが,10歳を過ぎると成人域に近づくと考 えられている1)(表1)。鼻中隔弯曲の頻度は,新生児38%, 学童期70%,成人90%などと報告される2)。顎顔面の骨 切除は,発育への悪影響を考慮すると,患児の鼻副鼻腔 の成長が完了するまで鼻外手術を待機することが一案と される。一方,鼻呼吸を促進させる鼻内手術は,口呼吸 を回避させて,睡眠障害,成長抑制,顔面変形の回避に つながり大きな利点がある3)(図1)。 手術にあたり,保護者への術前の十分な説明と同意, また患児自身が手術と術後処置の協力が得られるかどう か見極めることが重要なポイントである。症候は鼻閉と 痛(頭痛・顔面痛)の程度が重視される。疾患は,先 天性後鼻孔閉鎖,鼻閉型アレルギー性鼻炎,上顎洞性後 鼻孔ポリープ,閉塞型睡眠時無呼吸症候群,上気道感染 に伴い急性増悪を反復する鼻副鼻腔炎,副鼻腔嚢胞,眼 窩内合併症,頭蓋内合併症,整復を要する骨折,腫瘍な どが挙げられる。 小児副鼻腔炎の特徴と対策を表2に示す4∼7)。10歳未満 ではアデノイド増殖症との関連が深く5),鼻漏・上咽頭 からの検出菌に感受性のある抗菌薬をペニシリン系,セ フェム系,経口カルバペネム系の順に選択した薬物治 療を行う。副鼻腔炎の軽快・増悪を反復して成長してい き,10歳以降になっても治癒しなければ手術を考慮する6)。 喘息・アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を高率に 合併するため7),術後も薬物治療が必要となる。成人と 同様に,感染型の副鼻腔炎では中鼻道狭窄・閉塞に伴う 上顎洞・前部篩骨洞・前頭洞への炎症波及が多く8),ア レルギー性真菌性副鼻腔炎や好酸球性炎症では後部篩骨小児鼻科手術の適応とアレルギー性鼻炎の手術治療
都築 建三
兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 表 1 鼻副鼻腔の発育年齢 成人域に達する年齢 鼻中隔 15歳 篩骨蜂巣 6∼12歳 上顎洞 10歳 前頭洞 15∼20歳 蝶形骨洞 10歳 表 2 小児副鼻腔炎の特徴と対策 特徴 対策 抗菌薬に反応しやすく,軽症例が増加してきた まず薬物治療 病態が不安定で軽快・増悪を反復する 10歳以降は自然治癒例が増加する 手術は10歳以上 鼻漏と上咽頭の検出菌は類似し,アデノイド増殖症は関連が深い アデノイド切除 アレルギー(喘息・アレルギー性鼻炎)の合併が多い 術後治療も重要 炎症は上顎洞・前部篩骨洞・前頭洞に多く,後部篩骨洞・蝶形骨洞に少ない 上顎洞洗浄 鼻呼吸を促進 口呼吸を回避 顔面変形・睡眠障害・成長の抑制 Demerit 影響するMerit
影響しない
顎顔面骨成長を待つ 思春期以降外鼻手術
鼻内手術
図 1 小児鼻科手術の利点日 鼻 誌 60(1),2021 ― 67 ― 洞・蝶形骨洞にも及ぶことが多い。急性副鼻腔炎につい ては,日本,米国,欧州のガイドラインが存在し,治療 法に大きな差異はない9)。慢性副鼻腔炎については,ガ イドラインは欧州のみ存在する9)。 手術は最小限の侵襲で最大の効果が求められる。鼻茸 があれば切除し,眼窩あるいは頭蓋内合併症には年齢を 問わずESSにより副鼻腔を開放して病変の除去と洗浄 を要する6, 7, 9, 10)。手術方法は,主に内視鏡下副鼻腔手術 (ESS, endoscopic sinus surgery),鼻中隔矯正術,下鼻 甲介手術が行われ,アデノイド切除術も選択肢の一つで ある点が成人と異なる9, 10)(表2,3)。ESSを行っても支障 がない年齢は,6歳以上11),副鼻腔の発達が成人域に近づ く10歳以降1)などの報告がある。 小児の鼻内は狭く,内視鏡と手術器具が干渉して操作 性が悪くなるため,細径で先端が小型の鉗子器具を用い る7)。鼻内の手術操作は最小限にとどめ,術後の癒着防 止に心がける。また眼窩および頭蓋底の危険領域への距 離が成人よりも近いため,副損傷を回避するためにナビ ゲーションシステムの使用も勧められる。術後パッキン グは,タンポンフリーか吸収性素材(酸化セルロース貼 付剤など)を用いて術後処置の必要性を減らす9, 10)。再発 も考慮して,術後の治療も非常に重要である。 アレルギー性鼻炎の手術治療 アレルギー性鼻炎の有病率は低年齢化しており,低年 齢の発症例は重症化しやすい(表4)12)。自然寛解率は低 く,合併はアトピー性皮膚炎・気管支喘息が多い。副鼻 腔炎の合併はあっても軽度でESSの適応となることは少 ない。 手術は重度の鼻閉を改善させる目的に行う下鼻甲介手 術が主な方法となる(表5)。レーザー手術,電気凝固装 置を用いた粘膜(下)焼 術,マイクロデブリッダーを 用いた粘膜(下)切除術などがある。下鼻甲介手術は特 に鼻閉に有効で,有効率65∼84%であり,改善期間は約 2年間と考えられる13)。とくに通年性アレルギー性鼻炎症 例では術後再発率も高いため,術前の十分な説明と同意 の上に手術を行う。術後も経過観察を継続し,抗ヒスタ ミン薬や鼻噴霧ステロイドなどを用いた薬物治療,舌下 免疫療法の併用も有用と考えられる。 参考文献
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3) Gary CC: Pediatric nasal surgery: Timing and technique. Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 2017; 25: 286‒290. 表 3 小児鼻科手術の年齢と方法 年齢 方法 10歳未満 アデノイド切除 中鼻道自然口ルートを拡大 I型 鼻茸切除・上顎洞膜様部開窓 II型 上顎洞手術 10歳以上 病変のある副鼻腔の開放・洗浄 III型 上顎洞・篩骨洞手術 13歳以上 汎副鼻腔の開放・洗浄 IV型 汎副鼻腔手術 15歳以上 鼻中隔矯正術 表 5 小児アレルギー性鼻炎に対する手術治療 条件 手術と術後処置に協力できる 適応 重症の鼻閉型 目的 鼻呼吸の改善 説明と同意 術後再発しやすく,術後治療の継続が 必要である 方法 [外来] 下鼻甲介手術(最小6歳) [入院] 鼻中隔矯正術+下鼻甲介手術 (最小15歳) 併用療法 薬物治療・舌下免疫療法 表 4 小児アレルギー性鼻炎の特徴 低年齢化 低年齢発症例は重症化しやすい 性差 幼小児は男児に多く青春期に同等になる 自然寛解率 低率 併存疾患 アトピー性皮膚炎・気管支喘息の合併が多い 副鼻腔炎の合併があってもESSの適応とな ることは少ない 薬物治療 抗ヒスタミン薬・鼻噴霧ステロイド 舌下免疫療法 年齢制限なし(臨床試験は5歳以上) 鼻処置 鼻粘膜脆弱なためキーゼルバッハ部位から の鼻出血に注意
日 鼻 誌 60(1),2021
― 68 ― 4) Wolf G, Anderhuber W, Kuhn F: Development of
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10) 鴻 信義:小児副鼻腔炎に対する手術療法の適応と 問題点.日鼻誌 2007; 46: 73‒74.
11) Ramadan HH: Relation of age to outcome after en-doscopic sinus surgery in children. Arch Otolaryngol Neck Surg 2003; 129: 175‒177. 12) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレ ルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―. ライフサイエンス,東京;2020; 1‒116. 13) 菊池 恒,今吉正一郎,笹村佳美,他:小児のアレ ルギー性鼻炎に対するKTPレーザー治療の有用性 の検討(アンケート調査を中心に).小児耳 2011; 32: 352‒359.