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リグノセルロースの成分分離と水素化による物質変換

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

リグノセルロースの成分分離と水素化による物質変 換

髙田, 依里

https://doi.org/10.15017/1470628

出版情報:Kyushu University, 2014, 博士(農学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

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リグノセルロースの成分分離と 水素化による物質変換

髙 田 依 里

2014

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目 次

第1章 緒言 ... 1 参考文献 ... 9

第2章 希酸水熱処理を用いたネピアグラスからの選択的な単糖生成 ... 12

第1節 序 ... 12 第2節 希酸水熱処理を用いたネピアグラスからの単糖生成 ... 15 2.1.実験 ... 15 2.1.1. ネピアグラス試料の作製と化学組成分析 ... 15 2.1.1.1. 粉砕・分級 ... 15 2.1.1.2. 抽出成分 ... 15 2.1.1.3. 硫酸法によるリグニンと構成糖の定量 ... 15 2.1.1.3.1. 硫酸加水分解 ... 15 2.1.1.3.2. 酸可溶性リグニン ... 16 2.1.1.3.3. 構成糖 ... 17 2.1.1.4. 灰分 ... 18 2.1.2. 水熱処理による単糖生成 ... 18 2.1.2.1. 水熱処理 ... 18 2.1.2.2. 水相中の糖由来生成物の分析 ... 18 2.1.2.2.1. 単糖分析 ... 18 2.1.2.2.2. オリゴ糖分析 ... 18 2.1.2.2.3. 糖分解物分析 ... 19 2.2.結果と考察 ... 20 2.2.1. ネピアグラスの水熱処理による糖生成 ... 20 2.2.2. ネピアグラスの希酸水熱処理による単糖生成 ... 22

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第3節 濃リン酸および希リン酸の2段階処理によるネピアグラスからの

単糖生成 ... 28 3.1.実験 ... 28 3.1.1. 濃リン酸前処理と希リン酸水熱処理 ... 28 3.1.2. 濃リン酸処理残渣の化学組成分析 ... 29 3.1.3. XRDによる結晶構造解析... 29 3.2.結果と考察 ... 30 第4節 水熱または希リン酸水熱処理の酵素糖化に対する前処理効果.. ... 36 4.1.実験 ... 37 4.1.1. 酵素糖化 ... 37 4.1.2. 水熱処理による酵素糖化前処理 ... 37 4.2.結果と考察 ... 38 第5節 小括 ... 44 参考文献 ... 46

第3章 酸およびアルカリを用いた多段水熱処理によるネピアグラスの成分分離

... 47 第1節 序 ... 47 第2節 希リンオキソ酸水熱処理によるネピアグラスからの

キシラン分離とキシロースおよびフルフラール生成 ... 51 2.1.実験 ... 51 2.1.1. ネピアグラスの希リンオキソ酸水熱処理 ... 51 2.1.2. 希酸水熱処理残渣の熱分解GC/MS(Py-GC/MS)分析 ... 51 2.2.結果と考察 ... 52

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第3節 希水酸化ナトリウム水熱処理による亜リン酸水熱処理残渣からの リグニン分離 ... 63

3.1.実験 ... 63 3.1.1. 希酸水熱処理残渣の希アルカリ水熱処理 ... 63 3.1.2. 希アルカリ水熱処理残渣のXRD分析 ... 64 3.1.3. 希アルカリ水熱処理溶液中のリグニンのGPC分析 ... 64 3.2.結果と考察 ... 65 第4節 小括 ... 72 参考文献 ... 74

第4章 ネピアグラスキシラン加水分解物の水素化処理による

化成品原料への変換 ... 77 第1節 序 ... 77 第2節 亜リン酸水溶液中での市販キシロースの水素化による

キシリトール生成 ... 80 2.1.実験 ... 80 2.1.1. 水素化処理 ... 80 2.1.2. 水相における反応生成物の定量 ... 81 2.1.3. GC/MS分析 ... 81 2.2.結果と考察 ... 82 第3節 リン酸水溶液中での市販フルフラールの水素化による

テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)生成 ... 85 3.1.実験 ... 85 3.2.結果と考察 ... 85

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第4節 ネピアグラス加水分解物の水素化処理によるキシリトール

およびTHFAの生成 ... 89 4.1.実験 ... 89 4.2.結果と考察 ... 89 第5節 小括 ... 93 参考文献 ... 95

第5章 総括 ... 98 参考文献 ... 102

謝辞 ... 104

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第1章 緒言

20世紀以降、石油化学工業の発展に伴い我々の生活は豊かになる一方で消費社会 が定着し、石油や石炭などの化石資源を大量に消費してきた。20世紀後半からは化 石資源の枯渇への懸念や環境負荷が問題視されるようになり、21世紀は枯渇性資源 である化石資源を用いた消費型社会から、再生可能な資源を用いた循環型社会への 転換が求められている。1990年以降、生物由来資源であるバイオマスは再生可能な 有機性資源として急速に脚光を浴び、日本でも2002年に「バイオマス・ニッポン総 合戦略」が閣議決定され、バイオマス資源を燃料や化成品原料などへと変換するバ イオリファイナリーの技術開発が盛んに研究されてきた(Kamm et al., 2004; Werpy et

al., 2004; 日本化学会編, 2010; バイオ燃料技術革新計画, 2008)。当初はバイオマス資

源として、カーボンニュートラルであり利用が容易なトウモロコシやサトウキビを 中心として研究が進められたが、食料や飼料としての利用と競合して価格の高騰を 招き、市場を混乱させることとなった。そこで近年は、バイオマス資源のなかでも 食料競合のないリグノセルロース系バイオマスが、持続可能な有機性資源のひとつ として有望視されている。

植物の細胞壁を構成するリグノセルロースは、セルロース(25-50%)、ヘミセル ロース(15-40%)、リグニン(10-30%)から構成されている(Ruiz et al., 2013)。セ ルロースは、D-グルコースがβ-1,4グリコシド結合した鎖状ホモポリマー(重合度:

1000〜10000 程度)であり、ミクロフィブリルと呼ばれる微小結晶繊維を形成し結

晶領域と非晶領域を有している。またヘミセルロースは、キシロースやアラビノー ス、マンノースなど種々の糖残基が多様な結合をしたヘテロポリマー(重合度:50

〜200 程度)であり、リグニンはフェニルプロパノイドが3次元的に不規則に重合 した網目状ポリマーである。リグノセルロースは、セルロースミクロフィブリルの 間隙にヘミセルロースとリグニンが充填された複雑な高次構造からなっており、そ

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れぞれが水素結合や共有結合で強固に結びつくことによって形成されている。リグ ノセルロースのバイオリファイナリーにおいては、これらセルロース、ヘミセルロ ース、リグニンの構造を生かし標的化合物へと変換する様々な要素技術の開発が希 求されている(Gallezot et al., 2012; Huber et al., 2006; Werpy et al., 2004)。

炭化水素が主要成分であるナフサを原料とした石油リファイナリーでは、ナフサ から比較的少ないプロセスで生成できるエチレンやプロピレン、ベンゼンを基幹化 合物とし、これらを出発原料に様々な誘導体化合物へと変換する化学品生産体系が 構築されている(Fig. 1(A), Werpy et al., 2004)。多糖やリグニンを主要成分とする リグノセルロースのバイオリファイナリーにおいても、総合的な生産体系を構築し ていくためには上流に位置する基幹化合物の選定と生産プロセスの開発が重要とな る(Fig. 1(B), Werpy et al., 2004)。米国エネルギー省(DOE)は2004年、糖から 変換可能な300以上の化合物から市場性、生産コスト、基幹化合物からの誘導体の 用途と市場、既存石油化学品からの代替性などをもとに、特に有望な12種を含めた 30種の基幹化合物の選定を行った(Table 1, Werpy et al., 2004; 渡辺, 2012)。現在は このDOEの報告を基に、リグノセルロースからのこれら基幹化合物の生産および誘 導体への変換法について盛んに研究が行われている(Gallezot et al., 2012; Huber et al., 2006)。

単糖はリグノセルロースからの基幹化合物生成における重要な中間体である。リ グノセルロースからの単糖生成については古くから検討がなされており、特に1940

〜1950年代の石油資源が枯渇した第二次世界大戦前後や、1970〜1980年代の原油価 格が高騰したオイルショックの頃に盛んに研究が行われてきた。この時の一般的な 糖化法としては、酸糖化法と酵素糖化法がある(飯塚, 2007; 大内, 2002; 鮫島, 2007)。 酸糖化法は、硫酸や塩酸などの酸を用いた加水分解によってセルロースやヘミセル ロースのグリコシド結合を開裂し単糖化する方法であるが、セルロースの結晶化度 が高いため、酸の濃度によってこれらの反応メカニズムが大きく異なることがわか

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Fig. 1. An example of (A) oilrefinery using petroleum-based feedstocks and

(B) biorefinery using lignocellulose feedstocks (a partial revision by Werpy et al., 2004).

(A)

(B)

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Table 1.

TOP 12 of bulding blocks proposed by DOE (Werpy et al., 2004).

っている(飯塚、2007)。希酸水熱処理においては、セルロースの加水分解反応は均 質ではなく、酸との接触が容易な非晶領域において先行し、結晶領域は遅れて結晶 表面から徐々に反応が進行する。一方、濃硫酸や濃塩酸などの濃酸を用いて常温〜

80℃で処理すると、セルロースは膨潤・非晶化する。濃酸状態下では高温で処理し ても水が希薄で糖化は進行しないため、引き続いて水を添加し希酸水熱処理を行う ことによって、酸加水分解が均一に進行し糖化が促進される。また、希酸加水分解 の反応性は非晶領域でも一様ではなく、多糖の種類によって異なり、一般にキシラ ンなどのペントサン系多糖がセルロースなどのヘキソサン系多糖よりも速やかに加 水分解されることがわかっている(Mäki-Arvela et al., 2011; 飯塚, 2007)。今までに、

これらの反応性を利用して北海道法など濃硫酸などを用いた酸処理によるリグノセ ルロース糖化法が検討されてきたが(木材糖化研究室, 1961)、一般に酸糖化法は高 温高圧処理であり耐圧および耐腐食性材料が必要であること、また硫酸を用いた場 合はその腐食性の高さや、処理後に残存するリグニンや溶液中和後の硫酸塩の用途 がなく多量の廃棄物になるなど問題点も多い。しかしながら酸糖化法は、原料の違 いによる処理条件の変動があまり大きくなく、処理時間が短いために、魅力的な処 理法として注目されている技術である。現在は課題解決に向けて硫酸以外のより腐 食性の低い酸による糖化や、水のみを用いた亜臨界水や超臨界処理による糖化など

Building blocks

3 carbon Glycerol 3-Hydroxy propionic acid

4 carbon 1,4-Dicaids 3-Hydroxy butyrolactone Aspartic acid

5 carbon Levulinic acid Xylitol / Arabitol Itaconic acid Glutamic acid 6 carbon Sorbitol 2,5-Furan dicarboxylic acid Glucaric acid

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が研究されている(Brunner, 2009; Gámez et al., 2006; Garrote et al., 1999)。

一方、セルロースやヘミセルロースを酵素によって加水分解し単糖化する酵素糖 化法は、常温常圧の反応であり、危険な薬品を使用せず廃棄物による環境負荷が小 さいため、環境に優しいプロセスとして注目されてきた。しかしながら酵素は基質 特異性があるため多糖の種類に応じて異なる酵素が必要であり、処理時間も長い。

またセルロースやヘミセルロースはリグニンと高次構造を形成しているため、酵素 のアクセシビリティは制限されており、直接酵素糖化を行ってもその変換率は低い。

そこで酵素のセルロースへのアクセシビリティを高めるために、リグニンやヘミセ ルロースなど被覆成分の除去や、セルロース結晶構造の非晶化を行う前処理が不可 欠となっている。近年はこれらの問題を克服するために高効率な前処理法や比活性 の高い酵素の開発が試みられており、またリグノセルロースを前処理した後に糖化 と発酵による基幹化合物への変換を遺伝子改変した微生物で同時に行い省プロセス 化するなど、様々な視点からの研究が盛んに行われている。以上のように酸糖化法 と酵素糖化法には一長一短あり、現在も盛んに研究が行われているが、これまでに 効率的な糖化法の確立には至っていない。

また、リグニンは豊富に存在する再生可能な芳香族化合物であり、より多様な化 合物生産や高い炭素循環率のためには、リグニンを含むリグノセルロースすべてを 有効に利用していくことが望ましい(渡辺, 2012)。リグノセルロースを統合的に利 用するためには、各構成成分を選択的に分解・分離して単糖や芳香族化合物などの 中間体を生成し、標的化合物へと変換していく必要がある(Fig. 1(B))。上述した 酸糖化法や酵素糖化法は単糖を得るための技術であり、リグニンの利用は燃料など 限定的で、その構造を破壊するものであった。リグノセルロースからセルロースと リグニンを分離する技術として、クラフトパルプ化法や蒸煮・爆砕法、ソルベント 法など数多くが提案されてきた(Buranov et al., 2008; 飯塚, 2007)。しかしながらこ れら技術のほとんどがパルプ化やバイオエタノール生産を目的として植物体からセ

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ルロースを分離するためのものであり、ヘミセルロースやリグニンは副産物として 捉えられており、統合利用を志向した成分分離技術はまだ確立されていない(飯塚, 2007)。

リグノセルロースから構成成分を選択的に分解・分離するためには、各成分の 化学的反応性に関する理解が不可欠である。これらはパルプ化を目的として古くか ら研究されており、構造の違いからそれぞれの成分によって化学的処理に対する反 応性は異なることが明らかとなっている(飯塚, 2007; 渡辺, 2010)。特に酸とアルカ リに対する感受性は成分によって大きく異なり、リグノセルロースを希硫酸などで 処理すると、ヘミセルロースは優先的に分解されて単糖やその脱水化合物が生成す る(Aguilar et al., 2002; Taherzadeh et al., 2007; Takata et al., 2013; 渡辺; 2010)。一方、

水酸化ナトリウムなどのアルカリ処理ではリグニン内のエーテル結合の開裂による 低分子化やヘミセルロースの溶出が起こり、セルロースは残存しやすいことがわか っている(Alvira et al., 2010; Buranov et al., 2008)。バイオリファイナリーにおいては これら反応性の違いを利用して選択的な分解を行い、同時に後段の標的化合物への 変換が容易な化学構造へと分解する成分分離の確立が希求されている。

さらに、成分分離によって得られた糖やリグニン由来化合物はより高付加価値な 化合物へと変換する必要があるが、その手法は酵素や微生物を用いる生物学的変換 法と、金属触媒を用いる化学的変換法とに大別できる。生物学的変換法は上述のよ うにその温和な反応性と副反応が起こらないことが魅力であるが、長時間の処理が 必要であり、またフルフラールや芳香族化合物など一部の化合物は微生物の生育や 代謝に阻害物質として働くため使用に適さないことがある。一方、化学的変換法は 短時間処理での変換が可能であり様々な化合物を基質としうるが、一般に副反応も 進行し高温高圧の装置が必要とされることが多い。不均一系金属触媒を用いた水素 化処理法は、石油リファイナリーにおける基幹化合物の変換にも用いられ、産業化 に期待がもてる技術として注目されている。水素化触媒としてはニッケル(Ni)や

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白金属元素であるパラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)

がよく用いられ、多くの場合水素と基質が触媒の表面上に吸着し反応が進行する

(Lee et al., 2013; Nakagawa et al., 2013)。従って表面積が大きいほど触媒の活性も高 くなることから、活性炭やアルミナなどの担体に微細な金属を担持させたパラジウ ム担持活性炭素(Pd/C)などの担持金属触媒や、金属をスポンジ状にしたラネーNi などの触媒が合成されている。触媒によって反応の触媒活性と選択性は大きく異な り、反応によっては副反応が進行しやすく収率の低下を招くため、標的化合物の生 成に適した触媒の選定と処理条件の確立が必要となる。バイオリファイナリーにお いてより強固な生産体系を築くためにも、リグノセルロース由来化合物を基質とし て様々な標的化合物へと変換する効率的な水素化プロセスの構築が求められている。

ここまででリグノセルロースのバイオリファイナリー変換技術に関して概観した が、持続可能なバイオリファイナリーの構築のためには、原料が恒常的に一定量供 給できることも重要である。小木ら(2009)はその候補として、恒常的に相当量が 発生するバガスや木くずなどの有機性廃棄物と、成長の速い植物であるエネルギー 作物をあげており、特にエネルギー作物は将来的に大きな役割を果たすと考えられ ている。エネルギー作物にはユーカリやポプラなどの木質系や、スイッチグラスや ミスカンサスなどの草本系があるが、なかでも特に高い乾物生産性を持っているの はネピアグラス(Pennisetum purpureum Schumach)である。ネピアグラスは熱帯か ら温帯南部にかけて広く栽培されている暖地型のイネ科牧草で、越冬性を持った多 年生作物である。根茎を有するためタケのように茂みを形成し、最大で年間 80

t-dry/ha もの乾物生産性が報告されていることからバイオリファイナリーの資源と

して有望視されており(Lewandowski et al., 2003; Samson et al., 2005; Somerville et al., 2010)、メタン生産やエタノール生産の原料として検討が行われてきた(Mielenz,

1997; 伊藤ら, 1990)。しかしながらまだその検討例は少なく、ネピアグラスを原料

としたバイオリファイナリー変換に関する基礎的知見の蓄積と変換技術の開発が希

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求されている。

本論文は以上の背景に基づき、ネピアグラスを原料としたバイオリファイナリー 技術の確立に資する知見の集積を目的として、まずリン酸処理によるネピアグラス からの単糖生成法を開発し、さらにネピアグラスの希酸・希アルカリ水熱処理によ る成分分離法および得られたキシラン加水分解物の水素化反応による高付加価値化 合物への変換について検討し、その結果をとりまとめたものである。

まず第2章では、ネピアグラスを原料とし、従来使用されてきた硫酸や塩酸より も腐食性が低く、環境負荷の少ないリン酸を用いた酸処理による単糖生成を検討し たところ、濃リン酸処理と希リン酸処理の2段階処理によってキシロースとグルコ ースを選択的かつ高効率に生成可能であることを明らかにした。希リン酸のみでネ ピアグラスを処理した場合、キシロースの獲得は可能であるがグルコースの生成は 困難であり、希リン酸処理は酵素糖化に対する前処理として効果的であった。

次いで第3章では、希リンオキソ酸処理と希アルカリ処理によるネピアグラス構 成成分の分離を試みた。希亜リン酸水熱処理によって選択的なキシロース生成が、

また希リン酸水熱処理によって選択的なフルフラール生成が可能であり、続く希酸 水熱処理残渣の希水酸化ナトリウム処理によってリグニンとセルロースを高効率に 分離でき、効率的な成分分離法を開発することができた。

さらに第4章では、第3章で希酸水熱処理後に得られたキシロースまたはフルフ ラールを含む加水分解物に担持貴金属触媒であるPd/Cを添加し、直接水素化するこ とによって、より高付加価値な基幹化合物であるキシリトールとテトラヒドロフル フリルアルコール(THFA)を高収率に生成可能なプロセスを開発した。特にTHFA はこれまでにリグノセルロース加水分解物を直接処理して高収率で生成した報告は なく、今回がはじめての知見である。

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第2章 希酸水熱処理を用いたネピアグラスからの選択的な単糖生成

第1節 序

リグノセルロースからのグルコースおよびキシロース生成は、バイオリファイナ リーにおける重要なプロセスのひとつである。硫酸や塩酸を用いる酸糖化法は古く から研究がなされており、これまでに北海道法などの濃硫酸法や、新ライナウ法な どの濃塩酸法、マジソン法の希硫酸法などが提案されてきた(大内, 2002)。濃硫酸 法は一般に異なる硫酸濃度で実施する3段階の処理で行われており、希硫酸や蒸煮 によってヘミセルロース類を糖化する前加水分解(0〜5 wt%硫酸、100〜185℃)と 濃硫酸でセルロースを膨潤・非晶化する主加水分解(80〜85 wt%硫酸、20〜43℃)、 水を加え希硫酸でセルロースを糖化する後加水分解(8〜30 wt%硫酸、20〜140℃)

からなる。濃硫酸法では主加水分解における濃硫酸の濃度によってセルロースの結 晶化度が大きく異なるため、試料の含水率の制御が不可欠となる。また硫酸の使用 量が多く、酸の回収をしなければ多量の中和塩が廃棄物となりランニングコストも 大きくなるが、まだ回収法は確立されていない。さらに硫酸処理後に残渣として排 出されるリグニンの用途もなく、燃料として焼却すると残存する硫酸によって設備 が腐食するなどの問題がある。北海道法は1963年に実用化が検討されたが、上述の 問題で1964年に事業廃止となっており、現在も解決されていない(大内, 2002; 木 材糖化研究室, 1961)。また、濃塩酸法も濃硫酸法と同様に濃度の異なる3段階の加 水分解工程を経るが、塩酸は減圧蒸留による回収が可能であるため、酸の回収・リ サイクルの点では硫酸より有利である。しかし腐食性が硫酸よりも高く、耐腐食性 金属材料が不可欠となる。一方、希硫酸法は希硫酸のみを用いて2段階の処理で行 われ、ヘミセルロースを糖化する一次加水分解(0.5〜1.5 wt%硫酸、130〜145℃)

と、セルロースを糖化する二次加水分解(0.5〜2 wt%、150〜240℃)で実施される。

硫酸の使用量が少ないのでランニングコストは低いものの、回収できる糖濃度が低

12

(19)

いこと、腐食性の高い硫酸を高温で使用するため耐腐食性金属材料が不可欠である こと、処理後の中和塩廃棄物の生成などの問題は同様である。このように、硫酸や 塩酸を用いる酸糖化によってリグノセルロースからグルコースやキシロースを生成 することは可能であり、処理条件に関する完成度は高いものの、酸の回収やリサイ クル技術、腐食性の問題が山積しており、より環境負荷が少なく持続可能な新規糖 化法の開発が希求されている。

近年、新たなリグノセルロース糖化法のひとつとして高温高圧水を用いた水熱処 理法が着目されている。100℃以上、臨界点(374℃、22.1 MPa)以下の温度で飽和 水蒸気圧以上の圧力を保持した水熱反応場においては、反応温度が高くなるにつれ て水のイオン積が増大し常温の 100〜1000 倍にも増大するため(25℃のとき pKw 14.0, 250℃のときpKw 11.2, Toor et al., 2011)、強い加水分解力を発揮する(Brunner, 2009; Kruse et al., 2007a,b)。また水の比誘電率が25℃のときは78.2であったが250℃

では27.1(メタノールやエタノールとほぼ同じ)と小さくなることから、疎水性物

質を可溶化しやすくなるなど、通常の水とは異なる物性を示し、有機物の溶解・低 分子化が可能となる(Toor et al., 2011)。また、水熱反応のみでは望まない副反応も 進行するため、水熱反応場に触媒を添加することによる反応性の制御も試みられて いる(Brunner, 2009; Kruse et al., 2007a)。加水分解を促進させるために水熱反応場に 酸を添加する希酸水熱処理法は、上述の硫酸などを用いた希酸糖化法と同様の反応 が予想される。

以上の背景から本研究では、環境負荷が少なくかつ効率的な単糖生成法の開発を 目的とし、まず水熱処理によるネピアグラスからの単糖生成を試み、糖化を促進さ せるための酸触媒として酢酸またはリン酸を適用した。有機酸の一種である酢酸は、

リグノセルロースの水熱処理中に生成し、ヘミセルロースの加水分解反応を促進す ることが知られている(Garrote et al., 1999)。また、無機酸の一種であるリン酸は硫 酸や塩酸よりも腐食性が低く、Niを主成分とする合金において硫酸や塩酸、硝酸よ

13

(20)

りも耐性が高いことが報告されている(Toor et al., 2011)。また処理後の中和塩はリ ン肥料など他の用途へ利用可能であるため廃棄物にならず,人と環境に優しい酸で ある(Gámez et al., 2006; Lenihan et al., 2010; Orozco et al., 2011)。これら希酸水熱処 理によって得られた結果を元に、ネピアグラスの濃リン酸処理と希酸水熱処理によ る選択的な単糖生成を実施し、さらに希酸水熱処理の酵素糖化に対する前処理効果 についても検証を行った。

14

(21)

第2節 希酸水熱処理を用いたネピアグラスからの単糖生成

2.1 実験

2.1.1. ネピアグラス試料の作製と化学組成分析 2.1.1.1. 粉砕・分級

ネピアグラスは、宮崎大学農学部石井教授より提供いただいた。宮崎大学農学部 付属木花フィールド内圃場において栽培された矮性晩生品種を用いた。採取したネ ピアグラスを 3 cm 幅に切断し風乾した後、ウィレー型粉砕機で粉砕した。続いて

150 µmと300 µmのふるいを用いて分級し、150~300 µmの画分を乾燥庫内で乾燥

させ、試料とした。

2.1.1.2. 抽出成分

乾燥試料2.0 gを円筒ろ紙に測り取り、ソックスレー抽出器に入れ、エタノールと

ベンゼン(1:2, v/v)の混合溶剤約150 mLを加えて90℃の高温槽で6時間沸騰還流 させた。フラスコ内の溶媒を留去し残存する成分の重量を測定し、抽出成分量とし た。抽出残渣はドラフト内でしばらく溶媒をとばした後、105℃で乾燥させて脱脂試 料とし、以降の実験に使用した。

2.1.1.3. 硫酸法によるリグニンと構成糖の定量(NREL-LAP法)

リグニンと構成糖の分析は米国NREL(The National Renewable Energy Laboratory)

が発表しているLAP(Laboratory Analytical Procedure)法(Sluiter et al., 2008)に基 づき、一部を改訂して以下の方法で実施した。

2.1.1.3.1. 硫酸加水分解

前出の抽出済み試料300 mgを10 mLビーカーに測り取り、72.0 wt%硫酸3.0 mL

15

(22)

を加えて30℃の水浴恒温槽に入れ、10分ごとにガラス棒で攪拌しながら1時間イン キュベートした。84.0 mLの純水を加えながら全量を耐圧ガラス容器に移し、121℃、

1 時間オートクレイブ処理した。得られた加水分解物を少量の純水で洗浄しながら G2ガラスフィルターに移し、吸引ろ過によって得られたろ液を100 mLに定容した。

フィルター上の残渣はさらに 50 mL 以上の煮沸水にて洗浄して吸引ろ過した後、

105℃で乾燥させて酸不溶物の重量を測定し、酸不溶性リグニン量とした。

また 121℃のオートクレイブ処理において加水分解され生成したグルコースやキ

シロースの一部はさらに分解反応が進行し5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)

やフルフラールが生成するため、補正が必要となる。そこであらかじめ加水分解溶 液中に生成する濃度と同程度となるように濃度を調整したグルコースとキシロース 溶液(sugar recovery standards: SRS)を作製し、4.0 wt%硫酸になるように硫酸を加 えた後、同様に121℃で1時間処理を行い、以降の分析に供した。

2.1.1.3.2. 酸可溶性リグニン

2.1.1.3.1で得られたろ液の 205 nm における吸光度を紫外可視分光光度計

(UV-1800, 株式会社島津製作所)で測定し、下記式(1)から酸可溶性リグニン量 を求めた。吸光度は0.6~0.9の範囲内に入るように4.0 wt%硫酸を用いて適宜希釈し た。ネピアグラスの酸可溶性リグニンの吸光係数は不明であるため、本実験では多 くの植物体からの平均値である110の吸光係数を使用した(Sluiter et al., 2008)。

・・・(1)

ASL: 酸可溶性リグニン

Volumefiltrate: ろ液量, 0.10 L Dilution: 測定時の希釈率

16

(23)

2.1.1.3.3. 構成糖

2.1.1.3.1で得られたネピアグラス由来のろ液と酸処理後のSRSに炭酸カルシ ウムを加えてpH 5〜6になるまで中和した後、2150×gで10分間遠心分離した。得 られた上清をろ過して沈殿物を除去し、後述のHPLC分析用移動相(H2O/CH3CN

/85 wt%H3PO4 = 15/85/0.3 (v/v/v) )で4倍に希釈してよく混合した後、冷蔵庫内 で十分に冷却した。再度遠心分離して得られた上清を0.2 µmのPTFEフィルターで ろ過し、下記に示す条件でポストカラム誘導体化法によるHPLC分析を行い、セル ロースの構成糖であるグルコースおよびヘミセルロースの主要構成糖であるキシロ ースの定量を行った。

また、グルコースおよびキシロースの回収率(%R)は、酸処理後のSRSにおい て残存する単糖量を、未処理のSRSにおける単糖量で割ることによって算出した。

HPLC分析によって得られた各構成糖量を%Rで割ることにより、酸加水分解におけ る過分解の影響を補正した。本実験におけるグルコースの%Rは0.92〜0.98、キシロ ースの%Rは0.82〜0.88であった。

<HPLC分析条件>

システム:SHIMADZU Prominence UFLC

カラム:Shodex Asahipak NH2P-50 4E (4.6 mm I.D.×250 mm L)

ガードカラム : Shodex Asahipak NH2P-50G 4A (4.6 mm I.D.×10 mm L) 移動相:H2O/CH3CN/85 wt%H3PO4 = 15/85/0.3 (v/v/v)

移動相流量:0.8 mL/min カラム温度:45℃

反応液:20 g/Lホウ酸(カリウム)緩衝液(pH 9.3)+5 g/Lアルギニン 反応液流量:0.5 mL/min

反応温度:150℃

検出器:RF-20A蛍光検出器, 検出波長Ex 320 nm, Em 430 nm 17

(24)

2.1.1.4. 灰分

あらかじめ秤量したるつぼに試料500 mgを加え、マッフル炉内で600℃、約2時 間灰化した。残存した無機物の重量測定を行い、灰分量とした。

2.1.2. 水熱処理による単糖生成 2.1.2.1. 水熱処理

水熱処理には回分式塩浴反応装置(株式会社 東洋高圧)を使用した。反応管(容

量20 mL)に脱脂試料0.5〜1.0 gと溶媒10 mLを充填して密封した後、あらかじめ

所定温度に恒温した塩浴槽内に投入し振盪しながら処理を行った。溶媒には水、1.0

または3.0 wt%酢酸水溶液、あるいは1.0または3.0 wt%リン酸水溶液を用いた。所

定の処理時間が経過した後、反応管を速やかに水浴槽に移して冷却し反応を停止し た。処理生成物を G3ガラスフィルターでろ過して固液分離し、固相は水で洗浄し

た後80℃の乾燥庫内で乾燥させて重量を測定し、重量回収率を算出した。水相画分

は3.0、1.0、0.2 μmのメンブレンフィルターで順次ろ過した後、50 mLに定容した。

2.1.2.2. 水相中の糖由来生成物の分析 2.1.2.2.1. 単糖分析

水熱処理によって得た水相画分を移動相で4倍に希釈した後、不溶物をフィルタ ーで除去した。第2章2.1.1.3.3に記述した条件に従いHPLC分析に供し、水相 中に生成したグルコースおよびキシロースを定量した。

2.1.2.2.2. オリゴ糖分析

2.1.1.3.3の糖分析システムでは二糖までしか分析できない。そこで水相中の オリゴ糖を以下に示す方法で単糖へ分解して総糖量を求め、総糖量から2.1.2.2.

1で求めた単糖量を減算することによって水相中のオリゴ糖量を算出した。

18

(25)

あらかじめpHを測定しておいた水相画分7.5 mLを15 mL遠沈管に分取し、4 wt%

硫酸となるように72 wt%硫酸を添加し撹拌後、100℃で1時間処理することによっ て加水分解を行った。なお添加する硫酸量は下式(2)より算出した。またこのと き、2.1.1.3.1で述べたように生成したキシロースやグルコースはさらに分解が 進むことが予想されるため、本実験でもSRSを作製し、同様に4 wt%硫酸の下100℃

で処理することで糖の回収率%R を算出し、生成する単糖の補正を行った。処理後 の試料を冷水中で冷却し、pH 5になるまで炭酸カルシウムを加え、遠心分離によっ て中和塩を含む固形分を除去した。上澄み液をシリンジフィルターで濾過し、移動 相で4倍希釈しよく撹拌した後、しばらく冷蔵庫内で冷却した。析出した固形分を さらに遠心分離と 0.20 μm の PTFE フィルターで除去し、得られた試料を2.1.1.

3.3と同様の条件でHPLC分析に供した。

・・・(2)

V72%:72 wt%硫酸添加量(mL) VS:サンプル量(7.5 mL)

C4%:4 wt%硫酸濃度(41.0 g/L)

C72%:72wt%硫酸濃度(1176.3 g/L)

[H+]:水素イオン濃度(mol/L)

2.1.2.2.3. 糖分解物分析

水相中には、糖の脱水化合物である HMF やフルフラール、多糖から解離あるい は糖が分解して生成した酢酸、ギ酸、レブリン酸が生成することが予想される。こ れらの収率を測定することで各条件における多糖の分解程度を推測することが可能 である。そこで本実験においても以下の方法でこれらの定量を行った。

19

(26)

2.1.2.1で得た水相画分のpHを、過塩素酸を用いてpH 2程度に調整した。よ く攪拌し遠心分離した後、上清を PTFE フィルターでろ過し得られた試料を下記の 条件でHPLC分析分析に供した。

<HPLC分析条件>

システム:SHIMADZU Prominence UFLC

カラム:ULTRON PS-80H (8.0 mm I.D.×300 mm L)

ガードカラム:ULTRON PS-80H.G (8.0 mm I.D.×50 mm L) 移動相:HClO₄aq. (pH 2.1)

移動相流量:1.0 mL/min カラム温度:50℃

検出器:RID-10A, 示差屈折率検出器(酢酸、ギ酸、レブリン酸)

SPD-20A, UV-VIS検出器280 nm(HMF、フルフラール)

2.2 結果と考察

2.2.1. ネピアグラスの水熱処理による糖生成

使用した未脱脂ネピアグラスの抽出成分量は 9.3 wt%であり、本実験では抽出成 分を除去した脱脂ネピアグラスを使用した。脱脂ネピアグラスの化学組成はグルカ

ン29.3 wt%、キシラン12.6 wt%、酸不溶性リグニン13.3 wt%、酸可溶性リグニン6.6

wt%、灰分16.4 wt%であった(Table 2-1)。

Glucan Xylan Acid insoluble lignin

Acid soluble

lignin Ash

29.3 ± 0.2 12.6 ± 0.0 13.3 ± 0.2 6.6 ± 0.0 16.4 ±0.4 Table 2-1. Composition of the extractive-free napier grass.

Average ± actual data variation (n=2) 20

(27)

水熱処理においては、装置、処理温度、時間、基質の粒径、基質濃度などが生成 物の収率に影響することが予想される。反応装置は回分式、半流通式、流通式の3 つに大別でき、それぞれ昇温効率や処理量、使用する水量などの特徴が大きく異な る。溶媒と試料を反応管に封入する回分式装置は、反応温度の精密制御は困難であ り1度に処理できる量も反応器の容量によって制限されるが、処理後の生成物を比 較的高濃度で得ることができる。半流通式は反応器内に試料を入れ一定圧力下で溶 媒を流通させて反応させる装置であり、流通式は試料と水を混合し、共に昇温した 容器内を移動させることで処理を行う装置である。半流通式や流通式は比較的反応 温度の精密制御が可能であり、生成物を高温の処理系内から除去することで副反応 を防ぐことが可能であるが、処理に要する水量が多く、また処理生成物の濃度も希 薄となることが難点となっている。本研究では回分式の反応装置を使用し、まず反 応温度と時間の影響を検証した。ネピアグラス試料を180〜280℃、8〜30分間水熱 処理に供し、水の加水分解作用による単糖生成を試みたところ(Fig. 2-1)、いずれ の反応条件においてもわずかしか単糖を得ることはできず、主要生成物はキシロオ リゴ糖であった。キシロオリゴ糖の収率は200℃、15分で最大となり、処理に供し たネピアグラスに対し約6.0 wt%で得られた。これはネピアグラスキシランの約40%

に相当する。200℃では反応時間を8分から15分間と長くすることによってキシロ オリゴ糖の収率を増加させることができたが、230℃以上の処理では反応時間の経過 とともに収率が低下し、ギ酸や酢酸の収率が増加した。180〜200℃の処理で、セル ロース由来成分としてセロオリゴ糖の生成がわずかにみられたものの、反応条件を 250〜280℃と高温にしてもセルロース由来糖はほとんど得ることができず、またキ シロースやグルコースの脱水化合物であるフルフラールや HMF もほとんど生成し なかった。

高温高圧条件下の水熱処理においては、水は溶媒や反応基質としての役割だけで なく自己解離したプロトンが触媒としても機能し、加水分解反応を促進させること

21

(28)

ができる(Brunner, 2009; Kruse et al., 2007a, b)。また、リグノセルロースを170〜230℃

で水熱処理に供すとヘミセルロースのアセチル基が遊離して酢酸が生成し、グリコ シド結合の近傍で酸触媒として働くことによってヘミセルロースの加水分解が起こ ることが報告されている(Garrote et al., 1999; Lü et al., 2010)。本実験においてもこ れら高温で水が解離したプロトンとアセチル基の解離によって生成したプロトンに よる触媒作用でキシランが一部加水分解されキシロオリゴ糖が得られたと考えられ た。一般に超臨界点以下の水熱反応場では、高温になるほど水のイオン積は増大す ることから加水分解作用の促進も期待されるが、本実験では 250℃以上の高温条件 下では、糖は分解し酢酸やギ酸が増加していた(Fig. 2-1)。Hayashiらの報告による と(2004)、セルロース標品は280℃、1分の水熱処理で約9割が分解するもののグ ルコースの収率は約5割にとどまっており、高温域においてはセルロースの加水分 解とグルコースの過分解は逐次的に進行した。セルロースを分解しグルコースを得 るためには、数秒間の反応など精密に反応温度を制御可能な反応装置を用いるか、

触媒などを用いてより温和な反応温度で加水分解を行う必要がある。したがって次 の実験では、系内に酢酸およびリン酸を添加して希酸水熱処理を行い、ネピアグラ スからの単糖生成を検証した。

2.2.2. ネピアグラスの希酸水熱処理による単糖生成

2.2.1では、酢酸がin situで生成し、酸触媒としてキシランの加水分解を促進さ せていることが示唆された。そこで加水分解をより促進させ単糖を得るために、1.0

または 3.0 wt%の酢酸水溶液を用いて 180〜250℃、4〜15 分間ネピアグラスを水熱

処理した。その結果(Fig. 2-2)、3.0 wt%酢酸水溶液で180℃、15分間処理した場合 にキシロオリゴ糖が最大となり、ネピアグラスから 6.5 wt%の収率で得られ、酢酸 の添加によって水のみの場合より20℃低い温度でオリゴ糖生成が可能であった。し かしながらキシロースはほとんど得ることができず、200℃以上ではキシロースの脱

22

(29)

水化合物であるフルフラールの生成が増加しており、生成したキシロースは速やか にフルフラールへと変換された。またグルコースやセロオリゴ糖の収率は1 wt%以 下と低く、酢酸を用いてもセルロースの加水分解生成物はほとんど得ることができ なかった。以上の結果から、ネピアグラスからの単糖生成においては酢酸の酸触媒 効果は十分ではないことがわかった。

そこで酢酸よりも酸解離定数が高く、かつ硫酸よりも腐食性の低いリン酸に着目 した。1.0または3.0 wt%リン酸水溶液を用いて160〜250℃、4〜15分間でネピアグ ラスのリン酸水熱処理を行った。その結果(Fig. 2-3)、リン酸の添加によって単糖 化が大きく促進でき、3.0 wt%のリン酸で160℃、15分間処理した場合にキシロース 生成が最大となった。このときネピアグラスから10.3 wt%の収率でキシロースを得 ることができ、ネピアグラスキシランの約72%を単糖化することができた。同反応 条件下でのフルフラール収率は約 0.5 wt%であり、脱水反応はわずかであることが 確認された。3.0 wt%のリン酸添加によってキシランの加水分解反応が促進されたこ とにより、より低温での反応が適用可能となったため、フルフラールへの脱水反応 を抑制できたと思われる。また、3.0 wt%のリン酸で水熱処理することによってセル ロースの加水分解も促進されており、180〜200℃ではグルコースを約 2.2 wt%得る ことができた。しかしながら250℃、4分間の処理では約6.4 wt%のセルロース由来 成分が得られたがそのうち5.0 wt%はHMFであり、230℃以上の処理温度ではセル ロースの加水分解とその脱水反応が同時に進行することが明らかとなった。反応時 間をさらに延長すると、HMFの収率が減少する一方で、その分解物であるレブリン 酸やギ酸の収率が増加したことから、過分解が進行したと思われた。従って希リン 酸水熱処理においてセルロースの加水分解反応を生じさせる反応温度では、生成物 であるグルコースの脱水反応も平行して進行することから、グルコースを高収率で 得ることは困難であると判断した。

以上の結果から、リン酸を触媒とした希酸水熱処理によってキシランの選択的な

23

(30)

糖化が可能である一方、セルロースの糖化は困難であることがわかった。これまで に硫酸や塩酸を用いた希酸糖化法では、セルロース非晶領域と結晶領域で、その加 水分解速度が大きく異なっているために(飯塚, 2007)、半流通式装置を用いてヘミ セルロースを130~145℃で糖化する一次加水分解と、セルロースを150〜240℃で糖 化する二次加水分解の2段階で処理が試みられている(大内, 2002)。回分式装置を 用いた本実験でも同様に低温の処理でキシランの糖化が可能であったが、セルロー

スは230℃以上の高温で処理した場合に、その一部を加水分解できただけであった。

セルロースの結晶領域では分子内および分子間で水素結合を形成しており、グリコ シド結合へのプロトンのアクセシビリティーが非常に制限されているため加水分解 反応が進行しないものと考えられる。坂らの報告によると(2008)、セルロースの水 熱処理においては 350℃以上の臨界点近傍の温度ではセルロースの結晶構造に緩み が生じグリコシド結合が結晶の内部から開裂するが、280℃程度の処理では結晶構造 は強固なままであり、結晶ミセル外側からセルロースの加水分解が進行する。本実 験で採用した 230〜250℃の処理においてもセルロースの結晶構造は保持されてお り、非晶領域の加水分解およびそれに伴う重合度の低下によって生成した結晶領域 の末端グリコシド結合の開裂が生じグルコースが生成したと思われる。しかしなが

ら230℃以上の高温水熱処理ではHMFへの脱水反応も同時に促進されるため、希リ

ン酸水熱処理によってグルコースを得るためには、半流通式や流通式装置を用いて 高温処理で得られた生成物を系内から速やかに除去して反応温度を低下させること により副反応を抑制するか、もしくは副反応が起こりにくいより低温条件でセルロ ースの加水分解を促進させる必要がある。セルロースの加水分解に高温が必要な原 因は、セルロースの結晶構造にある。そこで次節ではセルロースの結晶化度の低下 を目的として、濃リン酸による前処理を試みた。

24

(31)

Fig. 2-1. The yields of the products obtained from the extractive-free napier grass in the hydrothermal process without acid catalysts.

25

(32)

Fig. 2-2. The yields of the products obtained from the extractive-free napier grass in the hydrothermal process with dilute acetic acid.

Note: Yields of acetic acid were not depicted in the figure, because the reaction medium contained acetic acid.

26

(33)

Fig. 2-3. The yields of the products obtained from the extractive-free napier grass in the hydrothermal process with dilute phosphoric acid.

27

(34)

第3節 濃リン酸および希リン酸の2段階処理によるネピアグラスからの単糖生成

希酸水熱反応おいて、セルロース結晶構造内部へ酸を浸透・拡散させ、加水分解 を促進させるためには高温が必要である一方、糖の過分解も進行するため、高収率 でグルコースを得ることは困難であった。より低温でセルロースの糖化反応を可能 とするためには、セルロースを構成する 1,4-β-グルコピラノース環の C2、C3、C6 位の OH 基と C5 位の環内酸素が形成する強固な分子内・分子間水素結合を開裂さ せ、セルロースの結晶構造を緩め、引き続きβ-グルコシド結合の加水分解を行う必 要がある。前述のように、濃酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸)はセルロースの溶剤 として知られ膨潤作用を持つが、後段の希酸水熱処理や環境負荷を考慮すると、リ ン酸が望ましい。そこで本節では、ネピアグラスのセルロース糖化効率の向上を目 的として濃リン酸前処理による効果を検証した。

3.1 実験

3.1.1. 濃リン酸前処理と希リン酸水熱処理

脱脂ネピアグラス1.0 gと85 wt%のリン酸8.0 mLを50 mL遠沈管内でよく混合し た後、ロータリーインキュベータ60℃、100 rpmで1時間処理した。30 mLの水を 加えてよく攪拌・混合し反応を停止させた後、2150×gで10分間遠心分離し、上清 を別の容器に移した。固相中に残存する反応生成物とリン酸を洗浄するために、固

相に40 mLの水を加えてよく攪拌し、2150×gで10分間遠心分離した。この洗浄操

作をさらに2回繰り返し、洗浄で得られた上清3回分は先に移した上清と混合した。

なお洗浄3回目の上清のpHは2.5以上であったため、固相に残存するリン酸が後段 の希酸水熱処理に及ぼす影響は小さいと判断した。上清は0.2 μmのPTFEフィルタ ーでろ過した後定容し、単糖は2.1.1.3.3と同様の条件で、糖分解物については

28

(35)

2.1.2.2.3と同様の条件でHPLC分析に供し、濃リン酸処理生成物の定量を行っ た。洗浄後の固相は3.0 wt%のリン酸水溶液10 mLと混合して反応管に入れ、2.1.

2と同様の方法で180〜230℃、4〜15分間水熱処理に供し、得られた反応生成物の 定量を行った。

3.1.2. 濃リン酸処理残渣の化学組成分析

濃リン酸処理後に得られた洗浄済みの固相画分を凍結乾燥し、重量回収率を測定 した。乾燥後の固相における化学組成を2.1.1.3と同様の方法で分析し、濃リン 酸処理後に残存する各成分の保持率を算出した。

3.1.3. XRDによる結晶構造解析

濃リン酸処理残渣のセルロース結晶構造を解析するために、XRD 分析を行った。

濃リン酸処理後、水洗して凍結乾燥した残渣を XRD 測定に供した場合、その結晶 構造はⅡ型となった(data not shown)。一旦非晶化したセルロースが再結晶する際、

Ⅱ型となることがわかっており、本実験でも水洗と乾燥中に水素結合が再形成され たと思われた。そこで、濃リン酸処理後、水の代わりにアセトンを加えて残存する リン酸を洗浄・除去し、室温で風乾して得られた残渣を XRD 測定用試料とした。

試料を XRD 測定用ガラスフィルターの上にのせ、上から別のガラスフィルターで 押さえて表面が平らになるように整えた後、下記条件のもとXRD測定を行った。

また、セルロースには明確に区別できる結晶領域と非晶領域は存在せず、一般の 高分子物質の結晶化度を求める手法でセルロースの結晶化度を求めるのは難しい。

そこでセルロースの場合は結晶化指標として CrI が定義され結晶化度が求められて いるため、本実験においても XRD で得られたピーク強度をもとに、セルロースの 結晶化指標(CrI)を式(3)により算出した。

29

(36)

<XRD測定条件>

装置:試料水平型多目的X線解析装置 RINT2000/PC (理化学電気株式会社製) X線:Cu-Kα線 (λ = 0.15418 nm)

管電流:50 mA(38 kV)

測定角度:6.0〜30.0°

スキャンスピード/計数時間:0.300°/min ステップ幅:0.020°

スキャン幅:20/θ 発散スリット:1/2°

発散縦制限スリッド:1.2 mm 散乱スリット:1/2°

受光スリット:0.15 mm

モノクロ受光スリット:0.8 mm

<結晶化指標(CrI)の算出法>

・・・(3)

I002:(002)面(22°付近)における積分強度 (結晶性ピーク)

Iamorphous:18°付近における積分強度 (非晶ピーク)

3.2 結果と考察

濃酸を用いたセルロースの膨潤および溶解においては、濃酸の濃度と温度が大き く影響することが報告されている(大内, 2002; 齋藤, 2000; 志水, 2000)。セルロース は酸と複合体を形成することによって溶解するため、はじめの酸濃度は十分高くな ければならない。また、酸はプロトンを放出するため温度によっては加水分解や糖 の分解反応も伴う。Dengらの報告によると(2009)、市販のセルロースを43〜85 wt%

30

(37)

のリン酸を用いて0〜100℃で処理したところ、85 wt%リン酸で50℃、40分間処理 した場合にセルロースの結晶化度が大きく低下した。本実験でも85 wt%のリン酸を

用いて60〜80℃、1時間でネピアグラスの前処理を行ったところ、80℃の処理では

ネピアグラスは溶解したものの黒色化しており、水相成分中にも糖類の生成はみら れず、糖の過分解が起こったと考えられた(data not shown)。そこで処理温度を60℃

とし、1時間処理して得られた固相画分に3.0 wt%リン酸水溶液を加えて希酸水熱処 理を行った。その結果(Fig. 2-4)、1段目の85 wt%リン酸前処理でネピアグラス中 キシランの77.2%に相当するキシロースが水溶性画分に獲得でき、2段目の3.0 wt%

リン酸水熱処理(200°C、8分間)によってネピアグラス中グルカンに対し50.0%の 収率でグルコースを得ることができた。濃リン酸処理で得られた固相の組成分析を 行ったところ、試料中のキシランはほぼ水相中に分離されている一方、グルカンの

73.4%、リグニンの 76.1%は固相に保持されていた(Table 2-2)。また固相中セルロ

ースの結晶構造解析を行ったところ、結晶領域は残存しているものの(Fig. 2-5)、 その結晶化指標は低下していた(Table 2-3)。すなわち、60℃、1時間の濃リン酸処 理によって、ネピアグラス中のセルロースは膨潤すると共にキシランは選択的に単 糖にまで加水分解されてキシロースが生成した。次いで200℃、8分間の3.0 wt%リ ン酸水熱処理によってセルロースの加水分解は劇的に促進され、固相中に含まれる セルロースの約68%を選択的にグルコースへと糖化することが可能となった。

濃リン酸で60℃、1時間ネピアグラスを処理すると、セルロースは膨潤したもの の加水分解による低分子化の程度は低く約73%が固相として残存する一方、キシラ ンはほぼ定量的に、約77%がキシロースへと加水分解された。既報の 13C NMR 分 析の結果から(Nehls et al., 1995)、濃リン酸下においてセルロースはC6位のアルコ ール性OH 基にリン酸がエステル化し、セルロースリン酸が生成することがわかっ ている。また高濃度のリン酸はポリリン酸を形成しており、セルロース分子内に入 りこむことによってセルロースの結晶面間隔を増加させる。これによって分子内お

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よび分子間の水素結合が一部開裂し、セルロースの結晶面間隔が増加することによ ってネピアグラスのセルロースは膨潤したと考えられた(Klemm et al., 1998; Zhang

et al., 2006)。また濃リン酸から生成するプロトンは非常に少ない(Zhang et al., 2006)

ことから、セルロースの加水分解は起こりにくく膨潤が優位であったと思われた。

一方、キシランは濃リン酸から放出されたプロトンの影響のみを受け、定量的に加 水分解が進行したと考えられる。以上のことから、ネピアグラスを濃リン酸処理と 希リン酸水熱処理の2段階で処理することによってキシロースとグルコースを選択 的に高効率に糖化できるプロセスを開発することができた。

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Fig. 2-4. The yields of the products obtained from the extractive-free napier grass in the combined process with an 85 wt.% phosphoric acid treatment followed by a hydrothermal treatment with 3 wt.% phosphoric acid.

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Table 2-2.

Composition and retention of the napier grass treated with 85 wt% phosphoric acid.

a Values were determined from the sulfuric acid hydrolysate.

Average ± actual data variation (n=2).

Mass Glucana Xylana

Acid insoluble lignin

Acid soluble lignin Non-treated (wt%) − 29.3 ± 0.2 12.6 ± 0.0 13.3 ± 0.2 6.6 ± 0.0 Treated (wt%) − 42.8 ± 0.4 1.3 ± 0.0 24.2 ± 1.2 6.1 ± 0.0

Retention (%) 50.0 73.4 5.1 90.8 46.0

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Fig. 2-5. X-ray diffractograms of the napier grass treated with 85 wt% phosphoric acid.

Table 2-3.

Crystallinity index (CrI) of the napier grass treated with 85 wt% phosphoric acid.

Non-treated Treated

CrI (%) 46.2 29.4

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第4節 水熱または希リン酸水熱処理の酵素糖化に対する前処理効果

バイオリファイナリーにおいて、酵素糖化法によるグルコース生成は、酸糖化法 と比べて硫酸やフルフラールなど微生物の生育阻害物質を除去する必要がなく、微 生物を用いる発酵法との組み合わせに適した処理法である。しかしながらリグノセ ルロース中のセルロースに対する酵素のアクセシビリティは大きく制限されている ために酵素糖化前処理が不可欠であり、被覆成分であるヘミセルロースやリグニン の除去や、セルロースの結晶領域の非晶化を行う必要がある。第2節より、ネピア グラスの水熱処理によってキシランは優先的に分解されて水中に溶出できる一方、

セルロースは残渣に保持された。そこで本実験では、水熱処理をネピアグラスの酵 素糖化の前処理として利用することを目的とした。糖化前処理においては後段の発 酵においてなるべく影響を及ぼさない処理であることが望ましい。酢酸は発酵にお いて微生物の生育阻害として働くため、前処理法として水のみを用いる水熱処理と 酸触媒としてリン酸を用いる希リン酸水熱処理を検討することとした。希リン酸水 熱前処理法の利点として、一般によく使用される硫酸や塩酸に比べ腐食性の低い酸 であること、リン酸は発酵工程における緩衝液としての利用が可能なこと、処理液 を水酸化ナトリウムで中和した後のリン酸ナトリウム塩は微生物の栄養源として利 用されるため分離の必要がないこと、中和で得られた塩は肥料としても利用可能で あり、廃棄物とならないことなどが挙げられる。また第2節において、ネピアグラ スの希リン酸水熱処理を行うことによって上清に多量のキシロースを生成できるこ とを明らかとした。すなわち、希リン酸水熱前処理を行うことによって前処理液中 にキシラナーゼの添加なく多量の糖を生成でき、セルロース糖化効率の上昇だけで なく酵素使用量の低減にも繋がる可能性が示唆される。

以上の観点から本実験では、ネピアグラスのセルラーゼを用いた酵素糖化におけ る水熱または希リン酸水熱前処理の有効性を検証した。

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4.1 実験

4.1.1. 酵素糖化

実験に使用したネピアグラスは、第2、3節で使用した試料とは異なる年度に採 取されたものを使用し、2.1.1.1、2.1.1.2と同様の方法で 150〜300 µm の脱 脂試料を調整した。酵素にはアクレモニウムセルラーゼ(1.6 FPU/mg, 協和化成株 式会社)を使用した。試料400 mgにアクレモニウムセルラーゼ4.0 mgを加え、0.5

wt%のアジ化ナトリウムを含む50 mM酢酸緩衝液(pH 5.0)10 mL中、45℃、180 rpm

で72 時間処理した。糖化後試料を 100℃で10 分間インキュベートして酵素を失活 させて室温まで冷却し、2,150×g で 10 分間遠心分離し、得られた処理液の上清を 0.2 µmのフィルターでろ過した。ろ液とHPLC移動相(H2O/CH3CN/85 wt%H3PO4

= 15/85/0.3 (v/v/v) )を1:3の割合で混合して撹拌した後、冷蔵庫内で1時間程

度冷却した。その後遠心分離して得られた上清をさらに0.2 µmのフィルターでろ過 し、HPLC 分析用のサンプルとした。反応溶液中のグルコースは2.1.1.3.3と同 様のHPLC分析条件で定量し、試料中のグルコース理論収量をもとに各単糖の収率 を算出した。

4.1.2. 水熱処理による酵素糖化前処理

ネピアグラスの水熱または希酸水熱処理は、脱脂試料 1.0 g と溶媒として 0〜3.0

wt%リン酸水溶液10 mLを用いて160〜230℃、15分間で行った。水熱処理と処理後

の水相画分に生成した反応物の定量は、2.1.2と同様の方法で行った。ただし、水 熱処理は残渣の酵素糖化用と化学組成分析用で分けて実施した。

酵素糖化に用いる水熱処理残渣は、乾燥させると酵素糖化前処理効果が失われる 可能性があるため、乾燥させることなく湿潤状態で保存した。別途、湿潤状態の残 渣の含水率を求め、固形分が400 mgとなるように計算し4.1.1と同様の方法で酵

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参照

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