• 検索結果がありません。

九州大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "九州大学学術情報リポジトリ"

Copied!
29
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

九州大学病院における口腔顔面痛疾患の特性と重篤 な合併症に配慮した星状神経節ブロックに関する検 討

大島, 優

https://doi.org/10.15017/4060085

出版情報:九州大学, 2019, 博士(歯学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

九州大学病院における口腔顔面痛疾患の特性と

重篤な合併症に配慮した星状神経節ブロックに関する検討

大島 優

九州大学大学院歯学研究院 口腔顔面病態学講座 歯科麻酔学分野

指導:横山 武志

九州大学大学院歯学府研究院 口腔顔面病態学講座 歯科麻酔学分野

(3)

目次

対象論文 ・・・・・・・・・・・1

要旨 ・・・・・・・・・・・2

第 1 部 口腔顔面痛疾患と治療法についての検討 ・・・・・・・・・・・3

1. 緒言 ・・・・・・・・・・・3

2. 対象と方法 ・・・・・・・・・・・4

3. 結果 ・・・・・・・・・・・5

4. 考察 ・・・・・・・・・・・9

第 2 部 超音波装置を用いた星状神経節ブロックの奏効と合併症に関する検討 ・・・・・・・・・・・12

1.緒言 ・・・・・・・・・・・12

2.対象と方法 ・・・・・・・・・・・13

3.結果 ・・・・・・・・・・・16

4.考察 ・・・・・・・・・・・18

総括 ・・・・・・・・・・・21

謝辞 ・・・・・・・・・・・22

参考文献 ・・・・・・・・・・・23

(4)

対象論文

本研究の対象論文を以下に記す。

論文題目:口腔顔面痛患者に対する超音波エコーガイド下星状神経節 ブロックの効果・合併症の検討

著者氏名:大島優, 坂本英治, 横山武志

掲載雑誌:日本歯科麻酔学会雑誌第 46 巻第 2 号 57-61

令和元年中久喜学術賞受賞

(5)

要旨

九州大学病院歯科麻酔科外来には, 口腔領域の慢性疼痛患者が院内外から受診する. 患 者には薬物療法, 光線療法, 神経ブロック療法など非歯原性疼痛を対象とした治療を提供 している. 今回, 九州大学病院歯科麻酔科外来における口腔顔面痛疾患の現状の把握と 個々の症例毎の経緯と実際の治療法について検討した. さらに, 侵襲的治療である星状神 経節ブロックを安全に施行するために, エコーガイドの有用性を検討した.

口腔顔面痛疾患と治療法について検討するために, 2013 年 9 月から 2015 年 9 月の期間に 九州大学病院歯科麻酔科外来を受診した口腔顔面痛疾患患者を対象とし, 電子カルテ記録 から情報を抽出した. 対象患者は 195 人 (男性/女性 60/135) で, 平均年齢は 47.1±18.2 歳であった. 口腔顔面痛疾患患者は女性と中高年に多い傾向を認めた. 診断名は神経障害 性疼痛が 141 人で最も多かった. その原因としては外科手術が 81 人(この内 46 人が外科 矯正手術後)で多かった. このような患者を中心に重篤な合併症の報告のある星状神経節ブ ロックが 43 人に施行されていた.

合併症を回避するために安全な手技の確立が必要だと考えられたため, 超音波装置を用 いたエコーガイド下での星状神経節ブロックの有用性を検討した. 対象は 2013 年 9 月から 2017 年 12 月の期間に星状神経節ブロックを施行した患者で, 電子カルテより情報を抽出 し評価した. 抽出した内容は患者の年齢, 性別, 手技実施の左右、エコーガイドの有無とし た. 評価項目は星状神経節ブロックの効果判定, 随伴症状, 合併症, 注射針の位置と局所麻 酔薬の拡散範囲とした.

エコーガイドなしのBlind-SGB群が79人, エコーガイドを行ったUS-SGB群が69人であっ た. 各群の患者背景に有意差は認めなかった. US-SGB群の内, 頸長筋下に局所麻酔薬が注入 できたULC群が48人, 頸長筋下に局所麻酔薬が注入できなかったnon-ULC群が21人であっ た. SGBの効果発現はどちらのSGB群でも80%以上の患者で得られ、有意差は認めなかった (Blind-SGB群83.5%, US-SGB群82.6%, p=0.87). 本検討で最も多かった合併症は嗄声であ った. 他の合併症は数が少なく, 有意差を認めなかったが, 嗄声を認めた患者は有意にUS- SGB群で少なかった(Blind-SGB群27.8%, US-SGB群11.6%, p=0.014). さらにUS-SGB群の 中で, ULC群で有意に少なかった(ULC群2.1%, non-ULC群33.3%, p<0.001). これにより合 併症の減少には、エコーガイド下でSGBを施行し、頸長筋下に局所麻酔薬を注入することが 重要であることが示唆された.

(6)

第 1 章

口腔顔面痛疾患と治療法についての検討

1. 緒言

痛みとは実質的または潜在的な組織損傷によって引き起こされる, あるいはそのような 損傷を表現する言葉によって患者が訴える不快な感覚的および情動的体験であるとされて いる 1) . 歯科では, 歯や歯肉の痛みを主訴として患者が来院する. う蝕除去, 根管治療, 抜 歯といった歯科治療により多くは改善するが, 治療後も改善しない痛みが存在する. 原因 が特定できず多数歯の根管治療を繰り返す場合や何件もの歯科医院を受診する場合もある.

歯痛様疼痛の 88%が歯科医院を訪れ, その内 3%が非歯原性で 9%が歯原性と非歯原性が混 合しているという報告もある 2). 非歯原性疼痛は一般の歯科治療では対応が困難であるた め大学病院等の専門機関へ紹介されることになる.

九州大学病院歯科麻酔科外来には, 口腔領域の慢性疼痛に苦しむ患者が院内外から受診 する. 抜髄, 抜歯を含む外科処置後の神経障害による神経障害性疼痛や不良補綴物, 歯列不 正, 生活環境からのストレスに伴う筋, 筋膜性疼痛といった様々な病的な痛みが絡み合い その診断, 治療を困難にしている.

九州大学病院歯科麻酔科外来では薬物療法, 光線療法, 神経ブロック療法など非歯原性 疼痛を対象とした治療が中心となる. 各疾患の病態を把握し, 適切な治療を行うことが重 要だと考える. 今回は九州大学病院歯科麻酔科外来における口腔顔面痛疾患の現状の把握 と個々の症例毎の経緯と実際の治療法について検討を行った.

(7)

2. 対象と方法

2013 年 9 月から 2015 年 9 月の期間に九州大学病院歯科麻酔科外来を受診した口腔顔面 痛疾患患者を電子カルテ記録から後方視的に抽出した. 対象は研究期間内に九州大学病院 歯科麻酔科外来を受診した初診あるいは再初診の患者で主治医が坂本である患者とした.

九州大学病院歯科麻酔科外来には麻酔管理の為に受診する患者がおり, 術前診察, 麻酔管 理のために受診した患者は除外した. また, 患者毎の電子カルテを閲覧し, 診察を行ったが 処置を行わなかった患者は除外した.

A. 患者背景

患者情報として, 年齢, 性別を抽出した.

年齢に関しては. 未成年者に配慮し 20 歳以上の患者の情報のみ抽出した.

患者の身長, 体重に関しては全ての患者の記録が得られず, 抽出しなかった.

B. 診断と原因

電子カルテに登録した診断名と, 個々の症例毎の経緯を抽出した.

C. 治療法

症例毎に治療経過を追い, 電子カルテに登録あるいは記載された治療法を抽出した.

九州大学病院歯科麻酔科外来に受診した患者 2013年9月~2015年9月

(n=309)

口腔顔面痛疾患患者 (n=242)

研究対象患者 (n=195)

術前診察, 麻酔管理患者を除外 (n=67)

処置を行わなかった患者を除外 未成年者を除外 (n=47)

(8)

3. 結果

A. 患者背景

対象期間の電子カルテから抽出できた症例は 195 人 (男性/女性 60/135) で, 症例全体 の 69.2%が女性であった. 平均年齢は 47.1±18.2(Mean±SD) 歳であった. 年齢層の内訳 としては 20-29 歳が 46 人, 30-39 歳が 32 人, 40-49 歳が 30 人, 50-59 歳が 29 人, 60-69 歳が 33 人, 70-79 歳が 19 人, 80-89 歳が 6 人であった. 割合としては 20-29 歳が 21.3%と最も高 く, 男女別で見ても 20-29 歳が最も高かった (Fig 1).

Fig 1. 患者背景 0

5 10 15 20 25

20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80-89 21

10

5

8

10

4

2 25

22

25

21

23

15

4

[

]

[年齢]

M F

(9)

B. 診断と原因

a)診断

診断名としては神経障害性疼痛 (Painful post-Traumatic Trigeminal Neuropathy, 以下 PTTN)が 141 人, 典型三叉神経痛 (Trigeminal Neuralgia, 以下 TN)が 18 人, 有痛性三叉 神経ニューロパチー (Painful Trigeminal Neuropathy, 以下 PTN)が 1 人, 筋筋膜性疼痛症 候群(Myofacial Pain Syndrome, 以下 MPS)が 64 人, バーニングマウス症候群(以下 Burning Mouth Syndrome, 以下 BMS)が 8 人で PTTN が最も多かった.

尚, 1 人の患者に対し複数の診断をしている場合があり重複した数値となった. PTTN と TN が 3 人, PTTN と MPS が 29 人, PTTN と BMS が 3 人, MPS と BMS が 2 人それぞれ 重複していた (Fig. 2).

Total patients PTTN TN PTN MPS BMS

N 195(60/135) 141(44/97) 18(10/8) 1(1/0) 64(12/52) 8(0/8) age (SD) 47.1(18.2) 43.0(17.5) 66.1(15.8) 39(-) 54.0(14.0) 68.4(10.5)

Fig 2. 診断名

PTTN: 神経障害性疼痛, TN: 典型三叉神経痛, PTN: 三叉神経ニューロパチー, MPS: 筋筋膜痛症候群, BMS: バーニングマウス症候群

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

PTTN TN PTN MPS BMS

44

10

1

12

0 97

8

0

52

8

[

]

[診断名]

M F

(10)

b) 原因

今回の症例の内最も多かった PTTN について原因を検討した. 原因としてはカルテ記載 から患者が原因として訴えるもの, 担当医が原因と考えるものでカルテ記載があったもの を抽出した. 今回抽出した原因としては Trauma(外傷)が 4 人, Root Canal Treatment (根 管治療, 以下 RCT )が 20 人, Operation(外科手術)が 81 人で, 内訳としては Extraction(抜 歯, 以下 Ext)が 28 人, Osteotomy(外科矯正手術)が 46 人, Others(その他の外科手術)が 7 人であった. また原因が特定できなかったものが 37 人だった.

尚, 1 人の患者に対し複数の原因が考えられた場合があり重複した数値となった. 本検討 では RCT と Ext が 1 名重複していた (Fig. 3).

PTTN

patients Trauma RCT Operation

Others Ext Osteotomy Others

N 141

(44/97) 4 20 28 46 7 37

Fig 3.PTTN の原因

Trauma: 外傷, RCT: 根管治療, Ext: 抜歯, Operation: 外科手術 Ext: 抜歯, Osteotomy: 外科矯正手術, Others: その他 0

5 10 15 20 25 30

Ext Osteotomy Others

Trauma RCT Operation Others

3

5

7

18

1

10

1

15

21

28

6

27

[

]

[原因]

M F

(11)

C. 治療法

治療法としては薬物療法 (Recipe, 以下 RP)が 140 人, 光線療法 (Phototherapy, 以下 PT)が 49 人, トリガーポイントブロック (Trigger Point Injection, 以下 TPI)が 37 人, 星 状神経節ブロック (Stellate Ganglion Block, 以下 SGB)が 43 人, 三叉神経ブロック (Trigeminal Nerve Block, 以下 TNB)が 2 人であった.

尚, 1 人の患者に対して複数の診断, 治療を行っていた場合があり重複した数値となった.

今回診断された症例の内 RP が 37 例, PT が 1 例, TPI が 22 例, SGB が 1 例, TNB が 1 例 でそれぞれ重複していた (Fig. 4).

Total

pateients RP PT TPI SGB TNB

N (M/F)

195 (60/135)

140 (39/101)

49 (20/29)

37 (7/30)

43 (12/31)

2 (0/2)

Fig 5. 治療法

RP: 投薬治療, PT: 光線療法, TPI: トリガーポイントブロック SGB: 星状神経節ブロック, TNB: 三叉神経ブロック

RP PT

TPI SGB

TNB

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

PTTN TN PTN MPS BMS

RP 96 16 0 57 8

PT 47 2 0 1 0

TPI 20 0 0 37 2

SGB 39 2 1 2 0

TNB 1 1 0 1 0

96

16

0

57

8 47

2 0 1 0

20

0 0

37

2 39

2 1 2 0

1 1 0 1 0

RP PT TPI SGB TNB

(12)

4. 考察

九州大学病院歯科麻酔科外来では患者の多くが頭頚部の遷延する痛みを主訴に受診する.

遷延する痛みは神経障害性疼痛のような組織の損傷が原因となるものや, 筋, 筋膜性疼痛 のような咀嚼機構への過負荷が原因となるもの, その他種々の原因が複雑に絡み合い引き 起こされるものがある. 症状が軽微で短期間に治癒するものもあるが, 多くが難治性の慢 性経過を辿る 1). 本検討では, 対象期間の口腔顔面痛患者の記録から患者背景, 原因を調査 し, 実際にどのような治療が行われているかを検討した.

A. 患者背景について

今回の検討では, 九州大学病院歯科麻酔科外来での口腔顔面痛疾患患者は女性が多く, 平均年齢は 47.1±18.2(Mean±SD)であった. 慢性疼痛の実態を調査したいくつかの報告に よれば, 日本の慢性痛患者は女性が多く, 年齢層は中高年が多い傾向がある 3-5). 今回の結 果は過去の報告同様に中高年が多かった. しかし, 患者の年齢層に関しては 20 代の患者が 最も多く過去の報告とは一部異なる結果となった. 電子カルテから抽出した患者の内 46 人 が顎変形症に対する外科矯正手術後の患者で, 患者総数の 23.6%を占めた. これらの患者は 院内外の口腔外科からの紹介で受診しておりその多くが若年層で平均年齢は 28.1±

9.0(Mean±SD)だった. 上記 46 名の患者を除いた 149 名の患者の平均年齢は 53.0±

16.2(Mean±SD)だったため患者全体の平均年齢を押し下げる要因となっていると考える.

また, 今回は除外対象となっているが研究期間中の術後患者の中には 10 代の患者も一定数 おり, 九州大学病院歯科麻酔科の口腔顔面痛疾患患者の特徴として若年層の外科矯正手術 後の患者が多い傾向が認められた.

B. 診断と原因について

今回診断で最も多かったのは PTTN であった. PTTN は歯科では主に顎顔面部を支配す る三叉神経の第 2 枝または第 3 枝に傷害を加えることで生じる. そのほとんどは下歯槽神 経と舌咽神経に生じるといわれており, その原因は局所麻酔, 根管治療, 抜歯を含む外科治 療などの医原性神経損傷が多いとされている 6). さらに下歯槽神経損傷の発生においては 根管治療, インプラントの症例で増加傾向にあることが報告されている. 本検討の PTTN 症例で医原性神経損傷が原因と思われるものは 141 例であった. その内, 外科矯正手術後の 患者は 46 名と最も多かった. 本検討で PTTN 症例が最も多かったのは外科矯正術後患者 が多かったためと考えられた. また, 原因が特定できなかった症例は 37 人で, 臨床症状, 検 査結果から PTTN と診断した. これらの症例では患側に複数の処置歯があったり患者が痛 みを訴える部位と測定結果が乖離していたことから原因が特定できなかった. 本検討で認 められた受傷や医原性神経損傷といった原因が明確なものを除くと PTTN の原因を特定す ることは非常に困難であると考えられた.

(13)

PTTN に次いで多かったのは MPS であった. MPS は咬合の高い補綴物による口腔内環 境の変化や歯列不正, 硬固物の過剰摂取, 長時間咀嚼による咀嚼機構への過負荷が原因で 引き起こされる1). 補綴物に関しては医原性要因だが, 咀嚼機構への過負荷は就業環境や家 庭環境からくる情動ストレスが要因の 1 つに挙げられる. 今回の MPS 症例でも就業環境や 家庭環境に関してカルテ記載があったものが散見していた.

今回診断が重複している患者が 37 人おり, その内最も多かったのは PTTN と MPS の 29 人だった. TN や BMS においても重複している症例が認められた.

PTTN と MPS で重複していた 29 人の内, 14 人が根管治療, 抜歯を含む外科治療を受け ていた. 原因として治療側での咀嚼を避けて咬合する, いわゆる片噛みの状態となるため に健常側に過負荷がかかり結果として筋, 筋膜性疼痛が生じ PTTN と MPS が併存してい ることが考えられた. その他の重複している患者に関しては PTTN の慢性化によるものが 考えられた. 診断重複の背景として, 慢性疼痛では疼痛機構の主体が末梢神経系から中枢 神経系に移行するとされている7, 8). PTTN では前述した様に歯科では主に三叉神経に傷害 を加えることで生じる. 三叉神経の障害を起因とし三叉神経脊髄路核尾側亜核での興奮性 の上昇を引き起こし, 疼痛の発生, 持続に関与しているという報告がある. また, 持続する 疼痛への悲観的な思考や情動ストレスはうつや不安につながり, 脳の可塑性変化やノルア ドレナリン, セロトニン等の神経伝達物質の減少と神経活動の変調が起こる 9). 一方で, MPS はその様な情動ストレスから筋の異常緊張が継続し局所の筋組織の構造変化により筋 痛が生じる. 筋痛が持続すると筋組織の構造変化が進行し慢性の筋, 筋膜性疼痛を生じる だけでなく中枢神経系へも影響を及ぼす. 二次ニューロンの反応の長期増強が関与する NMDA 受容体の感作に変調をきたし, 中枢介在性筋痛を生じる1,9). PTTN, MPS はこの様 に併存し中枢神経系へ影響を及ぼし下行性疼痛抑制系の破綻を引き起こす可能性があると 考えられた.

C. 治療法について

本検討で抽出した治療法では RP が最も多く 140 人で, 患者総数の 71.8%がであった. 歯 原性疾患における RP は, 細菌感染に対する抗生剤, 炎症性疼痛に対する鎮痛剤が主となる.

一方, 本検討で挙げた非歯原性疾患における RP は主に炎症所見に乏しい慢性疼痛に対する 投薬が主となる. 慢性疼痛は RP による根治が難しく対症療法が目的となり, 治療期間も長 期になりやすい10). また, いずれの内服薬も効果, 副作用に個人差があり定期観察を要する.

これは本検討における患者に限らず口腔顔面痛疾患患者の診療における特徴であると考え られた. そのため肝, 腎機能障害に配慮し血液検査も定期的に行うが重要である.

続いて多かったのは PT で 49 名, 患者総数の 25.1%であった. 光線療法は低出力レーザ ー, キセノン光, 直線偏光近赤外線を照射する治療法である. 九州大学病院歯科麻酔科外来 では直線偏光近赤外線照射装置 (スーパーライザー HA-550s, 東京医研株式会社, 東京)を 使用している. 光線療法の特徴は後述するブロック治療が困難な高齢者や, 出血傾向, 心疾

(14)

PTTN で主に用いられていたが, その治療効果は組織の血流増加と血行改善による神経再 生の促進 11)と鎮痛作用である. 鎮痛作用に関してはレーザー照射により末梢神経の興奮伝 導を抑えたとの報告 12)と, 動物研究ではあるが神経伝達物質の放出を抑制している可能性 を示唆した報告がある13). MPS においては長期化した症例では筋組織の構造変化に伴い血 流障害が起こることがある. このことからも非歯原性疼痛に対して光線療法は有効な治療 法であると考えられた.

その他, 治療法としては TPI が 37 人, SGB が 43 人で, TNB が 2 人であった. それぞれ 総患者数の 19.0%, 22.1%, 1.0%であった. これらの治療法は注射針と薬液を使用するため 前述の治療法に比べて侵襲性の高い治療法である.

TPI の適応疾患は MPS である. MPS で認められる特徴的な所見に索状硬結と呼ばれる筋 線維の拘縮が認められる 14). 索状硬結内に圧迫すると圧痛を認め, 関連痛を誘発するトリ ガーポイントと呼ばれる部位がある. そこへ生理食塩水, 局所麻酔薬, ステロイド薬を注入 する治療法である 1,14). 九州大学病院歯科麻酔科外来では主に僧帽筋部, 咀嚼筋部のトリガ ーポイントへ局所麻酔薬 (1%メピバカイン注シリンジ, 丸石製薬, 大阪) の注入を行う.

筋の拘縮を注射針の穿刺による刺激で解除すること, 局所麻酔薬による感覚神経, 交感神 経興奮抑制による局所の疼痛緩和と筋拘縮による虚血の改善などの治療効果があるという 報告がある14, 15). 血行改善の目的で PT も併用し施行することもある. ただ, 一時的に症状 は改善するものの片噛みやクレチング等の口腔内悪習癖から時間経過で再度筋の拘縮に至 る症例が多々ある. また, 複数回の穿刺に伴う筋組織の変性が起こる恐れがある. 開口訓練 を含む運動療法やスプリント療法など非侵襲的治療を取り入れ, 他科と連携し治療計画を 立てることが必要であると考えられた.

SGB と TNB は TP と異なり神経ブロックを主眼に置く治療法である. SGB の適応症は全 身疾患を含め多岐にわたる. 頭頚部では三叉神経損傷後の異常感覚や PTTN, 末梢性顔面 神経麻痺,MPS などの組織の血流増加によって症状の改善が期待できる病態, 帯状疱疹ウイ ルス感染に伴う PTN が適応症である10). 本検討においても MPS, 抜歯後, 顎変形症術後の PTTN 症例に対して施行されていた. 手技としては第 6 あるいは第 7 頸椎横突起基底部に 局所麻酔薬を注入し交感神経幹周囲のコンパートメントブロックを行う治療法である. そ の治療効果は組織の血流増加と血行改善による神経再生の促進と神経ブロックによる交感 神経依存性疼痛の軽減である. 血流が増加した状態を維持するために複数回の治療を要す ることが多いが, 抜歯後の下歯槽損傷神経知覚障害に関して高い効果が得られた報告 16) が あり神経損傷に対して有効な治療法と考えられた. ただし, 局所麻酔薬の刺入目標点の周 囲は神経, 血管が集中しており, 感染症, 頸部縦隔血腫などの重篤な合併症の報告がある17).

TNB は TN が適応症で癌性疼痛にも施行される. 神経幹や神経節に局所麻酔薬, アルコ ール (99.5% エタノール)を注入し神経ブロックを行う治療法である. 時間経過で知覚低下 の回復と共に疼痛が再発するため再度処置が必要となる. 合併症としては神経ブロックに よる神経支配領域の知覚低下と穿刺部近傍の浮腫や壊死が起こる可能性があり, 三叉神経 第 2 枝のブロックでは失明のリスクがある1).

(15)

上記の様に SGB と TNB は手技に伴い重篤な合併症を起こし得る. 特に SGB は九州大学 病院歯科麻酔科外来において研究期間中 43 名, 総患者数の 22.1%と多くの患者が処置を受 けていた. 重篤な合併症を避ける為, 処置を慎重に行うだけでなく, より安全に配慮し確実 な治療効果を得られる手技を検討する必要があると考えられた.

(16)

第 2 章

超音波装置を用いた星状神経節ブロックの奏効と合併症についての検討

1. 緒言

星状神経節ブロック (Stellate Ganglion Block, 以下 SGB) の適応疾患は, 全身にわ たり頭頚部領域では筋筋膜性疼痛症候群や神経障害性疼痛症例である. 九州大学病院 歯科麻酔科外来では主に抜歯手術や顎矯正手術後に神経障害に至った患者に対して施 行されている.

SGB の刺入目標点の周囲は神経, 血管が集中しており, 感染症, 頸部縦隔血腫などの 重篤な合併症の報告がある1,17-19). SGB は傍気管アプローチ法と呼ばれる盲目的に注射 針を刺入する手法が一般的であるが, その効果, 安全面を考慮し超音波装置を用いて, 頸部の神経, 血管, 骨をリアルタイムで確認しながら行う手法も普及している20-23). 今回, 盲目的手法で行う SGB (以下 Blind-SGB) と超音波装置を用いてエコーガイド 下で行う SGB (Ultrasound-guided SGB, 以下 US-SGB) における効果発現と合併症の 有無を後方視線的に比較, 検討した. さらに, 超音波画像上の注射針の位置, 局所麻酔 薬の広がりの違いで SGB の臨床効果と合併症の有無を比較, 検討した.

(17)

2.対象と方法

本検討は九州大学倫理審査委員会の承認を得て行った (承認番号 27-360). 対象は 2013 年 9 月から 2017 年 12 月の期間に九州大学病院歯科麻酔科外来を受診し, SGB を施行され た口腔顔面痛疾患患者とした. 電子カルテより情報を抽出し後方視的に比較, 検討した.

A. 患者背景

患者の年齢, 性別および SGB 施行の左右を抽出した.

B. SGB の手技

処置を開始する前に患者の体調確認を行い, 血圧, 脈拍, SpO2 の測定を行った. 以降, 5 分間隔で帰宅許可を出すまで測定を継続した. 患者の体位は仰臥位とし頸部を後屈させ, 刺入部位周囲を感染予防のため消毒した. 全ての症例に局所麻酔薬は 1%メピバカイン注シ リンジ (丸石製薬, 大阪) を使用した. また, 注射針は Blind-SGB では 25G 25mm 針 (ニ プロ社, 大阪), US-SGB では 25G 40mm 針 (ニプロ社, 大阪) を 60cm の延長チューブを介 してシリンジに装着し使用した. また効果判定だけでなく患者の気分不良, 合併症の有無 の確認を行った. SGB 実施後 30 分間経過観察を行い, 異常所見がなければ帰宅を許可した.

a) Blind-SGB の手技

この手技では術者は患者の患側に立ち, 患側の胸鎖乳突筋, 頸動脈を左側第 2, 3 指で外側 に圧排した. 第 6 頸椎横突起を触知し, 注射針を皮膚面に対して垂直に刺入した. 右手でシ リンジを保持し注射針を緩徐に進め術者に針先が骨に当たった感覚が得られたところで, あるいは患者に頸部, 肩部に響く感覚が得られたところで固定した. 局所麻酔薬を 1mL ず つ血液の逆流を確認しながら計 5mL 注入した. 19)

b) US-SGB の手技

この手技では局所麻酔薬を注入する介助者を要する. そのため本検討では介助者がいた 場合のみ実施した. 超音波装置 (Noblus, 日立製作所, 東京, および LOGIQ e, GE ケアヘ ルスジャパン, 東京) にマイクロコンベックスプローブ (周波数は 6-10MHz) を装着し使 用した. 術者は患者の患側に立ち注射針を穿刺する前にプローブを左手で保持し患者の体 軸に対してプローブを垂直に当て, 頸動脈, 頸長筋, 第 6 頸椎横突起の位置を確認した. プ ローブを左手に保持したまま右手で注射針をプローブに対して平行に刺入し操作する平行 法で行った 21-23). 術者は超音波横断画面上で注射針を緩徐に進め針先が頸長筋直下に到達 したか, 術者に針先が骨に当たった感覚が得られたところで, あるいは患者に頸部, 肩部に 響く感覚が得られたところで固定した. このとき介助者が局所麻酔薬のシリンジを保持し て, 術者の指示に従い局所麻酔薬を 1mL ずつ血液の逆流を確認しながら計 5mL 注入した.

(18)

C. 評価項目

a) 効果判定

局所麻酔薬を注入し 10 分経過して時点で, 患側に明らかな Horner 症候群 (縮瞳, 眼瞼 下垂) あるいは眼球結膜の充血の有無を術者以外の 2 名の歯科医師が判定を行った. 2 名と もが上記症状のいずれかがあると判断した場合に効果ありとした.

b) 随伴症状

術者が注射針を刺入し, 針先が骨に当たった感覚が得られたか, もしくは患者が頸部, 肩部に響く感覚が得られたかの確認を行った.

c) 合併症

局所麻酔注入時より, 血管穿刺, 疼痛, 嗄声 (反回神経ブロック), 上肢運動麻痺 (腕神 経叢ブロック) の有無を確認した.

d) 注射針先端の位置と局所麻酔薬の拡散範囲

US-SGB 群では, 注射針の針先の位置と局所麻酔薬の拡散範囲を観察した. 超音波横断 面画像で描出される注射針, および注射針の侵入による軟組織の動きを観察した. 局所麻 酔薬の注入により, 画像上で針先からの薬液拡散に合わせて液性成分を示す低エコー帯が 広がる. この低エコー帯が広がる範囲を局所麻酔薬の拡散範囲とした. 拡散範囲を① 頸長 筋直下, ② 椎骨の内側, ③ 椎骨の外側, ④ 頸長筋上部もしくは不明瞭, の 4 つのパターン に分類した. そのうち①を under-longus colli 群 (以下 ULC 群), ②から④を non-under- longus colli 群 (以下 non-ULC 群)とした (Fig. 1).

(19)

Fig. 1 超音波横断画面における解剖学的構造

解剖学的構造を視覚化するために輪状軟骨レベルで頸部にマイクロコンベックスプロー ブ当てた. 超音波横断画面に頸動脈(CA)、甲状腺(TG)、頸長筋(LC)、および第 6 頸椎 横突起(C6TP)を描出した.

局所麻酔薬の拡散範囲は, US-SGB の際に超音波横断画面上で確認した. 観察されたパタ ーンを以下に示す:

① 頸長筋直下, ② 椎骨の内側, ③ 椎骨の外側, ④ 頸長筋上部もしくは不明瞭

本検討では、そのうち①を under-longus colli 群 (ULC 群)とし, ②から④は non-under- longus colli 群 (以下 non-ULC 群)とした.

D. 統計処理

統計処理は SPSS ver 21 (IBM, 東京) を用いた. 数量データは Kraskal-Wallis 検定で, カテゴリーデータは Pearson のカイ二乗検定に必要に応じて Yates の補正を行った. p 値 5%

以下を有意差ありとした.

(20)

3.結果

研究期間の電子カルテから抽出できたデータとしては, Blind-SGB 群が 79 人, US-SGB 群 が 69 人だった. US-SGB 群の内, ULC 群が 48 人, non-ULC 群が 21 人であった. 各群の患 者背景に有意差は認めなかった (Table 1).

Table 1. 患者背景 Blind-SGB

(79 patients)

US-SGB (69 patients)

p value ULC

(48 patiens)

non-ULC (21 patients)

N (M/F) 79 (18/61) 48 (7/41) 21 (3/18) 0.35 age (SD) 40.3 (13.37) 41.4 (14.5) 41.6 (12.44) 0.73 Rt/Lt 34/45 23/25 10/11 0.83

(21)

A. Blind-SGB 群と US-SGB 群の効果, 合併症

Blind-SGB 群と US-SGB 群共に SGB の効果発現は 80%以上の患者で得られ有意差は 認なかった (Blind-SGB 群 83.5%, US-SGB 群 82.6%, p=0.87). 術者が得た椎骨骨面に注 射針が当たる感覚(Blind-SGB 群 87.3%, US-SGB 群 40.6%, p<0.001), 患者が得た頸部へ の響く感覚 (Blind-SGB 群 86.1%, US-SGB 群 42.0%, p<0.001), 嗄声を認めた患者(Blind- SGB 群 27.8%, US-SGB 群 11.6%, p=0.014)は US-SGB 群で有意に少なかった(Table 2).

その他合併症としては一過性の上肢の運動麻痺を認めた. 症状は SGB 施行後 30 分以内に 消失した.

Blind-SGB (79 patients)

US-SGB

(69 patients) p value efficacy (+/-)(%) 66/13 (83.5) 57/12 (82.6) 0.87 sense of touch on the transeverse

process (+/-)(%)

69/10 (87.3) 28/41 (40.6) <0.001

paresthesia (+/-)(%) 68/11 (86.1) 29/40 (42.0) <0.001 hoarseness (+/-)(%) 22/57 (27.8) 8/61 (11.6) 0.014 vessel puncture (+/-)(%) 9/70 (11.4) 7/62 (10.1) 0.81

others (+/-)(%) 1/78 (1.3) 0/69 (0) 0.34

Table 2. Blind-SGB 群と US-SGB 群の効果, 合併症

(22)

B. ULC 群と non-ULC 群の効果, 合併症

ULC 群が non-ULC 群と比較して SGB の効果発現が得られた患者が有意に多かった (ULC 群 97.9%, non-ULC 群 47.6%, p<0.001). 嗄声を認めた患者は ULC 群で有意に少な かった(ULC 群 2.1%, no-ULC 群 33.3%, p<0.001). ULC 群で効果発現を認めなかったの は 1 例のみで, 嗄声を認めなかったのも 1 例のみでこれらは別の症例であった(Table 3).

ULC (48 patients)

non-ULC

(21 patients) p value efficacy (+/-)(%) 47/1 (97.9) 10/11 (47.6) <0.001 sense of touch on the transeverse

process (+/-)(%)

22/26 (84.6) 6/15 (84.6) 0.18

paresthesia (+/-)(%) 22/26 (45.8) 7/14 (33.3) 0.48 hoarseness (+/-)(%) 1/47 (2.1) 7/14 (33.3) <0.001 vessel puncture (+/-)(%) 4/44 (8.3) 3/18 (14.3) 0.77

others (+/-)(%) 0/48 (0) 0/21 (0) -

Table 3. ULC 群と non-ULC 群の効果, 合併症

(23)

4.考察

九州大学病院には多くの口腔顔面痛疾患患者が受診する. 第 1 章では処置を要した患者 の内, 22.1%の患者が SGB を施行されていたことが分かった. SGB の施行に関する解剖学的 背景として, 第 6, 7 頸椎横突起に頸長筋の上斜部, 下斜部が付着しており, 頭-尾側に向か い交感神経幹は頸長筋のさらに前外側近傍に位置している. また, 反回神経, 横隔神経叢, 内頸静脈, 総頸動脈, 椎骨動脈などの重要な組織が集中している24). それゆえ SGB は嗄声, 腕神経叢ブロックなどの一過性の合併症だけでなく, 血管穿刺に伴う感染症, 頸部縦隔血 腫などの生命予後にかかわる重篤な合併症に注意しなくてはならない.

A. SGB の手技について

Smith が 1951 年に傍気管アプローチ法を報告し, Moore が 1954 年に発表した著書によ り現在でも一般的に用いられる手技として普及した 25,26). しかし, 傍気管アプローチ法は 解剖学的ランドマークを目安とし術者の手指感覚を頼りに行われる盲目的手技であり, SGB の治療効果, 合併症の発生は術者の熟練度に左右されると考えられる. 近年科学技術 の発展に伴い超音波装置を用いて超音波画像上で血管, 神経, 注射針の位置を確認しなが ら SGB を行った症例が報告されている20-23). 本検討では盲目的手技で行う Blind-SGB と超 音波装置を用いてエコーガイド下に行う US-SGB における効果発現, 合併症の有無につい て後方視的に比較, 検討した. US-SGB では手技に伴い術者の他に介助および評価を行う歯 科医師を要するため, 人でが確保できた場合に限り患者の同意を得て実施した. 患者背景 に考慮してどちらの手法で行うかは決めていなかった.

穿刺に際しては, Blind-SGB には 25mm, US-SGB には 40mm の注射針を使用していた.

Blind-SGB では胸鎖乳突筋, 頸動脈を圧排し皮膚面に対し注射針を垂直に刺入する. US- SGB ではマイクロコンベックスプローブに対して平行に皮膚面に刺入する. Blind-SGB と US-SGB では刺入する角度が異なり, 目標である頸長筋付近に到達するために US-SGB で は 40mm の注射針を使用した. 注射針の先が到達する目標は両群共に頸長筋直下であるこ とから注射針の長さは効果発現には影響しないと考えた.

Blind-SGB では術者が注射針を進め, 頸椎横突起に到達して椎骨骨面に当たった手指感 覚と患者が頸部, 肩部へ響いた感覚を重視する. それは, 刺入目標である頸椎横突起が頸長 筋直下に位置し, 交感神経幹が近傍に位置しているからである. また, 頸椎横突起に注射針 が到達した際あるいは局所麻酔薬を注入した際に頸部, 肩部への放散痛を患者が自覚する ことが多い 1,18,19). しかし, 超音波画像上で局所麻酔薬の拡散範囲を確認したところ, 注射 針が椎骨骨面に当たった術者の手指感覚や患者の頸部, 肩部へ響いた感覚は必ずしも頸長 筋下での局所麻酔薬の拡散を示すものではないことが明らかになった. また, 頸長筋直下 での局所麻酔薬の拡散を認めたものは 97.9%と非常に高い確率で効果発現が得られたこと が分かった. 注射針を椎骨骨面に当てることは注射針が折れ曲がるような変形を招く恐れ

(24)

があり, 注射針を引き抜く際に周囲血管の損傷につながり頸部縦隔血腫などの重篤な合併 症を引き起こす可能性がある 1,18,19). したがって, 超音波画像上で神経, 血管を確認しなが ら頸長筋直下へ注射針を進め椎骨骨面に当てることなく局所麻酔薬を注入することでより 安全に確実な効果発現を得られることが示唆された.

B. 合併症について

今回合併症として嗄声や血管穿刺といった軽微な合併症が認められたが, US-SGB では優 位に少なかった. Blind-SGB では一過性の上肢の運動麻痺を 1 例認めた. 注射針が腕神経叢 近傍まで及んでいたために腕神経叢ブロック様の症状が発現したと考えられた. 特に頸長 筋直下に局所麻酔薬の拡散を認めた場合には嗄声はほとんど認められなかった. 嗄声は浸 潤麻酔の拡散により反回神経が一時的にブロックされることで生じる. 頸長筋直下に局所 麻酔薬を拡散させることができれば, 反回神経までの拡散を少なくできることが示唆され た. また, 超音波装置を用いての SGB では少量の局所麻酔薬であっても十分な効果発現が 得られたという報告がある 27). これらから超音波装置を用いることで局所麻酔薬の量を抑 えつつ高い効果発現が得られ, 不要な神経ブロックを回避できると考えられた. 本検討で は認められなかったが, SGB の重篤な合併症として動脈穿刺に伴う感染症や頸部縦隔血腫 が挙げられる. 頸部郭清術後のような頸部組織の位置が変化している症例では盲目的操作 で行う SGB は組織損傷のリスクが高い. このようなリスクの高い症例に対して超音波装置 を用いて SGB を行った報告がある28). 超音波画像で頸部組織の位置を確認しながら注射針 を進めることで神経, 血管の損傷を避けより安全に治療が可能だと考えられた.

C. 今後の課題について

本検討では局所麻酔薬の拡散範囲を明確に測定できていない. 局所麻酔薬の拡散を測定 する方法として局所麻酔薬に造影剤を混和し投与する方法が考えられる. 局所麻酔薬と造 影剤を混和することで SGB 施術後に X 線透視装置を用いて局所麻酔薬の拡散範囲を明確に することが可能であると思われる. ただし, 患者に造影剤を投与しなければならないとか, 患者が不要な放射線被曝を受けるという問題がある. 局所麻酔薬の拡散の評価方法は今後 の検討課題である.

SGB は交感神経幹周囲のコンパーメントブロックを行うことで交感神経支配領域の血流 が増加する. 組織の血流改善により症状の改善ができる三叉神経損傷, 顔面神経麻痺, 筋筋 膜痛症候群などが適応症となる1,18,19). 神経傷害による症例では神経傷害後 1 か月が経過す ると神経線維の変性が完了し再生過程に入っていると考えられ, 変性に陥った神経線維を 完全に回復させることは困難を極める. それゆえ神経損傷から 1 か月未満の早期の治療で は神経線維の温存を図ることが治療目的となり, 神経変性が完了した後は臨床症状に対す る対症療法が治療目的となる10). 本検討では SGB 実施時の効果発現, 合併症に関して検討 したがその治療効果, 予後に関しては検討できていない. Blind-SGB と US-SGB の治療効

(25)

果, 予後を検討するにあたり望ましいのは神経傷害による疾患で, その症状の根治が期待 できる神経損傷から 1 か月未満の症例と考える. 今回検討した症例には治療開始時点で既 に治療介入をされている症例, 神経損傷から 1 か月が経過している症例が含まれていた. 今 後は神経変性の完了前に積極的に治療を勧め可及的早期に治療を開始し比較検討していき たい.

本検討において, 効果発現の結果として Blind-SGB, US-SGB 両群で有意差を認めなかっ た. SGB の効果発現は術者の習熟度の影響を受ける1). 今回は複数の術者が行っているため, 効果発現への影響に差異が出たと考えられる. ただ, US-SGB では超音波画像で注射針と周 囲組織の位置を把握しながら施術が行えることからその差異を抑えられる可能性が考えら れた. 本検討は後方視的研究であり, ランダム化ができていないため, 今後の前方視的に比 較, 検討を行いたい.

(26)

総括

本検討では, 九州大学病院歯科麻酔科における口腔顔面痛疾患の現状の把握と個々の症 例毎の経緯と実際の治療法について検討した. さらに, 侵襲的治療である星状神経節ブロ ックを安全に施行するために, エコーガイドの有用性を検討した. 結果として, 九州大学病 院歯科麻酔科には歯科治療, 外科手術後の神経障害に伴う疼痛に苦しむ患者が多いことが 明らかになった. 治療法には星状神経節ブロックの様な侵襲的なものがあるが, エコーガ イドを用いることで不要な合併症を避け, 確実な効果発現が得られる可能性が示唆された.

本検討にあたり, 対象患者の電子カルテを改めて拝誦する機会を得た. 疼痛を契機として 就業, 生活がままならないという患者が多く見受けられた. 今後も同様の境涯の患者が同 院を受診することが予想される.本検討が疼痛治療の一助になることを願うとともに, 患者 の QOL 向上を図る心理的背景にも着眼し診療に臨みたいと考える.

(27)

謝辞

本検討を行うにあたり, 九州大学大学院歯学研究院 口腔顔面病態学講座 歯科麻酔学分 野 教授 横山武志先生より懇篤なご指導とご高配を賜りました, 厚く御礼を申し上げます.

また本検討を遂行するにあたり, 九州大学大学院歯学研究院 口腔顔面病態学講座 歯科 麻酔学分野 講師 坂本英治先生にご指導を賜りました. 深く御礼を申し上げます.

最後に九州大学大学院 口腔顔面病態学講座 歯科麻酔学分野の教室員の皆様には日々ご 高配頂き, 多くの示唆を賜りました. 心より感謝致します.

(28)

参考文献

1) 椎葉俊司 (日本口腔顔面痛学会編):口腔顔面痛の治療法 3.神経ブロック 1) 星状神 経節ブロック(口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック), 第 2 版, 医歯薬出版, 東京, 2016, 2-56, 106-107, 114-125, 165-171, 190-212.

2) Sanner F:Acute right-sided facial pain, a case report Int Endod J, 2010, 43, 154-162.

3) 松平浩, 竹下克志, 久野木順一, 山崎隆志, 原慶宏, 山田浩司, 高木安雄, 日本におけ る慢性疼痛の実態 Pain Associated Cross-sectional Epidemiological(PACE)survey 2009, ペインクリニック, JP, 2011, 32(9), 1345-1356.

4) 遠藤友樹, 西須大徳, 村岡渡, 佐藤仁, 臼田頌, 中川種昭, 和嶋浩一, 口腔顔面痛外来 における口腔内疼痛患者の臨床統計, 日口腔顔面痛会誌, 2015, 8(1), 1-6.

5) 山田恵子, 若泉謙太, 深井恭佑, 碇博康, 祖父江友孝, 柴田政彦, 松平浩, 就労環境に おける慢性痛の実態調査~仕事に影響する慢性痛のリスク因子の検討:QWLIC スタ ディ, 産衛誌, 2017, 59(5), 125-134.

6) Renton T:Prevention of iatrogenic inferior alveolar nerve injuries in relation to dental procedures. Dent Update, 2010, 37, 350-352, 354-356, 358-360.

7) Okubo M, Castro A, Guo W, Zou S, Ren K, Wei F, Keller A, Dubner R:Transition to persistent orofacial pain after nerve injury involves supraspinal serotonin mechanisms, J Neurosci, 2013, 33, 5152-5161.

8) Iwata K, Imai T, Tsuboi Y, et al:Alteration of medullary dorsal horn neuronal activity following inferior alveolar nerve transection in rats, J Neurophysiol, 2001, 86, 2868-2877.

9) Woolf CJ, Salter MW:Neuronal plasticity:increasing the gain in pain, Science, 2000, 288, 1765-1769.

10) 福田謙一, 一戸達也, 金子譲編:歯科治療におけるしびれと痛みの臨床 歯科治療によ る神経損傷後の感覚神経障害 その対応とメカニズム, クインセッテンス出版, 東京, 2011 , 96-128.

11) Maegawa Y, Itoh T, Hosokawa T, Yaegashi K, Nishi M:Effects of near-infrared low- level laser irradiation on microcirculation, Lasers Surg Med, 2000, 27(5), 427-437.

12)福井健之, 原崎守弘, 山口秀晴, 矯正力付与後最大痛み発現時おける低出力レーザーの 痛み緩和効果について-体性館感覚誘発電位による電気生理学的研究, Orthod Waves, 2003, 62(5), 65-74.

13)若林始, 半場道子, 松本光吉, 中山哲夫:半導体レーザーによる鎮痛効果の生理学的研 究, 日本レーザー歯学会誌, 1992, 3, 65-74.

14)Jay P, Shah, MD, Nikki Thaker, BS, Juliana Heimur, BA, Jacqueline V. Aredo, BS, Siddhartha Sikdar, PhD, Lynn Gerber, MD:Myofacial Trigger Points Then and Now: A Historical and Scientific Perspective, PM R, 2015, 7(7), 746-761.

(29)

15)森本昌宏, 白井達:日本臨床麻酔学会第 33 回大会 専門医が伝えるプロの技-ペイン クリニックにおける神経ブロック療法-, 医学書院, 東京, 2000, 35-39.

16)有宗睦晃, 矢部充英:下智歯抜歯後の下歯槽神経知覚麻痺に対する星状神経節ブロック の効果, ペインクリニック, 2005, 26, 1139-1141.

17)Higa K, Hirota K, Nitahara K, Shono S:Retropharygeal hematoma after stellate ganglion block:Analysys of 27 patients reported in the literature, Anestesiology, 2006, 105(6), 1238-1245.

18)若杉文吉(大瀬戸清茂, 塩谷正弘, 長沼芳和, 増田豊, 湯田康正編):4.星状神経節ブ ロック (ペインクリニック 神経ブロック法), 第 2 版, 医学書院, 東京, 2000, 22-31.

19)若杉文吉, 持田奈緒美著:6. 星状神経節ブロック療法の適応疾患(星状神経節ブロック 療法-安全な手技確立と正しい理解のために), 新興交易医書出版部, 東京, 2007, 118- 204.

20)Shibata Y, Fujiwara Y, Komatsu T:A new approach of ultrasound-guided stellate ganglion block, Anesth Analg, 2007, 105(2), 550-551.

21)Narouze S:Ultrasound-guided stellate ganglion block:safty and efficacy, Curr Pain Headache Rep, 2014, 18(6), 424-429.

22)Ghai A, Kaushik T, Wadhera R, Wadhera R, Wadhera S:Stellate ganglion blockade- technologies and modalities, Acta Anaethesiol Belg, 2016, 67(1), 1-5.

23)Wang D:Image guidance technologies for interventional pain procedures:ultrasound, fluoroscopy, and CT, Curr Pain Headache Rep, 2018, 22(1), 6-12.

24)キース L. ムーア, アーサー F. デイリー, アン M. R. アガー:8 章 頸部 (臨床のため の解剖学), 第 2 版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 2016, 959- 1025.

25)Smith DW:Stellate ganglion block;tissue dispalacement method, Am J Surg, 1951, 82(3), 344-348.

26)Moore DC:Stellate Ganglion Block. Springfield, CC Thomas, 1954, 1-263.

27)Lee MH, Kim KY, Song JH, Jung HJ, Lim HK, Lee DI, Cha YD:Minimal volume of local anesthetic required for an ultrasound-guided SGB, Pain Med, 2012, 13(11), 1381-1388.

28)椎葉俊司, 左合徹平, 布巻昌仁, 長畑佐和子, 河端和音, 外山知世, 牧角有華, 原野望, 渡邉誠之:通法では困難が予想されたため, 超音波ガイド下に C6 星状神経節ブロック を行った 2 症例, 日歯麻誌, 2015, 43(1), 12-16.

Fig 3.PTTN の原因
Fig. 1  超音波横断画面における解剖学的構造  解剖学的構造を視覚化するために輪状軟骨レベルで頸部にマイクロコンベックスプロー ブ当てた.  超音波横断画面に頸動脈(CA) 、甲状腺(TG) 、頸長筋(LC) 、および第 6 頸椎 横突起(C6TP)を描出した
Table 2. Blind-SGB 群と US-SGB 群の効果,  合併症
Table 3. ULC 群と non-ULC 群の効果,  合併症

参照

関連したドキュメント

民間の経済的活動によってカバーされるかということに依       

本論文は,血清脳由来神経栄養因子( brain-derived neurotrophic factor: BDNF) と精神的健康度 との関連 性を明 らかに したも のである 。研究 Ⅰ において は,精 神的健 康度の

唱歌教育の開始された明治初期において、新政府は、国民意識の確立―「国民形成」とい

麻生医師より TEMDEC と OVEX の活動についてプレゼン テーションを行った。放射線治療( ナイフ)施設を見学し

口腔内装置(MAD)は閉塞性睡眠時無呼吸

第4節では,就労支援を含めた DC での実践から,精神科疾患を併存する ASD

アロプリノールは尿酸合成酵素であるキサンチンオキシダーゼ(XOD)活性を阻害することで血

シスプラチンは種々のがん治療にて用いられる抗がん剤であるが、副作用として重篤な腎症が引