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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

神経障害性疼痛におけるミクログリア特異的転写因 子MafBの役割

増田, 潤哉

九州大学大学院薬学府

https://doi.org/10.15017/22025

出版情報:Kyushu University, 2011, 博士(薬学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

(様式5)

氏 名 :増田 潤哉

論文題名 :神経障害性疼痛におけるミクログリア特異的転写因子MafBの役割 区 分 :甲

論 文 内 容 の 要 旨

【背景】

神経障害性疼痛は帯状疱疹、糖尿病、外科的手術、癌浸潤などに伴う神経系の損傷や機能障害に 起因する難治性の慢性疼痛である。情報伝達の主体となる神経細胞の異常興奮が原因となり、アロ ディニアなどの痛覚伝達異常を引き起こすと考えられているが、近年、その発症メカニズムに脊髄 ミクログリアの活性化が深く関与することが明らかとなっている。ミクログリアは脳や脊髄内に均 一に分布する中枢免疫担当グリア細胞であり、活発な突起の動きを介して周囲環境を監視している。

また、損傷や感染といった異常事態に対して即座に応答し、シナプス伝達をも制御しうるなど、生 理条件下および病態下で重要な役割を担う細胞である。末梢神経損傷時にも脊髄で早期に活性化す るミクログリアは、様々な受容体の発現および活性レベルを亢進させ、細胞増殖や炎症性サイトカ イン・神経伝達物質の発現誘導といった応答を引き起こすことで、神経細胞の異常興奮ならびに疼 痛症状に寄与すると考えられている。しかしながら、神経損傷後にミクログリアがそのような活性 化表現型を獲得する分子メカニズムは依然不明である。

そこで、本研究では神経損傷後のミクログリアの表現型変化に関わる新規因子として、マクロフ ァージの分化との関連が知られている転写因子 MafBに着目し、そのミクログリアにおける機能制 御ならびに神経障害性疼痛への寄与を解明することを目的とした。

【実験方法】

神経障害性疼痛モデルはマウスの第四腰髄神経(L4神経)を切断することにより作製した。アロ ディニア行動はマウスの後肢足底部にvon Freyフィラメントで軽度機械刺激を加えた際の逃避行動 の有無を確認し、50%後肢逃避閾値を算出することで解析した。siRNA の投与はマウス脊髄腔内に 予め留置したカテーテルを通じて行った。損傷神経が投射する L4 脊髄を摘出し、免疫組織染色や mRNA発現解析などの生化学実験を行った。培養細胞には初代培養ミクログリア細胞とミクログリ アの細胞株BV2細胞を用い、免疫細胞染色やmRNA発現解析などの生化学実験を行った。

【実験結果・考察】

1) 神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄内におけるMafB mRNA発現量を解析した結果、神経損傷 後 3 日目から、非損傷側に対して損傷側 L4 脊髄で有意な発現増加が認められた。また、MafB タンパク質発現を免疫組織染色により観察し、陽性細胞数および MafB免疫蛍光強度を解析した 結果、神経損傷後1日目から、非損傷側に対して損傷側L4脊髄後角で有意に増加することが示 された(Figure 1)。細胞マーカーを用いた二重染色により、その陽性細胞種はミクログリアに特 異的であることが明らかとなった。

2) 神経損傷後早期の MafB タンパク質の発現増加は、ミクログリアの細胞増殖や末梢骨髄系細胞 の浸潤とは非依存的であることが示唆されたため、脊髄常在性のミクログリアで生じると考えら

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れる。さらに、MafB陽性細胞は細胞増殖期マーカーや、

活性化表面抗原マーカーを共発現したことから、MafB 陽性化とミクログリアの活性化表現型との関連が示唆 された。

3) MafB が制御するミクログリアの機能を検討するため、

BV2 細胞を用いた MafB ノックダウン実験を行った。

BV2 細胞に MafB 標的 siRNA を処置し、遺伝子発現変 化を解析した結果、疼痛との関連が示唆されている遺伝 子群(ATP受容体、Toll様受容体、炎症性サイトカイン 等)の発現が広範に抑制された(Figure 2)。また、siRNA の導入により、BV2細胞の高い増殖活性が減弱すること が示された。すなわち、MafB がミクログリアにおける 機能分子の発現や細胞増殖を制御する可能性が示 唆された。

4) 神経損傷後に発現増加する MafB のアロディニア 行動への寄与を検討するため、マウスの脊髄腔内に MafB標的 siRNAを投与する実験を行った。siRNA を前投与したマウスでは、神経損傷後のMafBタン パク質の発現増加が有意に抑制され、軽度機械刺激 に対する後肢逃避閾値の低下、すなわちアロディニ ア行動も部分的に抑制された(Figure 3)。この時、

脊髄内における疼痛関連遺伝子発現は、BV2細胞で

の検討と同様に、広範な疼痛関連遺伝子群の発現抑制が認められた。

一方、神経損傷後 7 日目から siRNA を投与したマウスでは、一旦 形成されたアロディニア行動に対する回復効果が見られなかった ことから、MafB は末梢神経損傷後早期のアロディニア形成期およ びミクログリア初期活性化段階に関与する可能性が示唆された。

5) 神経損傷後にミクログリアでのMafB発現を誘導する因子として、

損傷神経由来因子であるケモカイン CCL21 の関与を検討した。初 代培養ミクログリア細胞に CCL21 を処置し、免疫細胞染色を行っ た結果、MafB の有意な発現増加が観察された。また、マウスの脊

髄腔内に CCL21 を単回投与して免疫組織染色を行った結果でも同様に、脊髄ミクログリアでの

MafB の有意な発現増加が観察された。さらに、CCL21 を欠損する plt マウスでは、神経損傷後 のミクログリアでのMafB発現増加が部分的に抑制された。したがって、損傷神経由来の CCL21 が、脊髄ミクログリアに作用して MafBの発現を誘導する役割を有する可能性が示唆された。

【総括】

本研究結果から、神経障害性疼痛モデルマウスにおいて、神経損傷後早期に、CCL21を含む 損傷神経由来シグナルによって脊髄後角ミクログリアが MafB 発現を亢進させ、その MafB が ミクログリアの表現型変化の契機となり、直接的あるいは間接的な疼痛関連遺伝子群の発現制 御を介してアロディニア症状に関与することが示唆された。

Figure 1. 神経損傷後の脊髄内MafB発現変化

Figure 2. BV2細胞でのMafBによる遺伝子発現制御

Figure 3. アロディニア行動への MafBの関与

参照

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