博士論文
Lifshitz 型理論における量子論的側面の探求
Investigation for Quantum Aspects of Lifshitz-Type Theory
2016 年 2 月 北村 比孝
Tomotaka KITAMURA
博士論文
Lifshitz 型理論における量子論的側面の探求
Investigation for Quantum Aspects of Lifshitz-Type Theory
2016 年 2 月
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 宇宙物理学研究
北村 比孝
Tomotaka KITAMURA
概要
本学位論文では, Lifshitz 型理論における量子論的側面を探求する. 場の理論に とって必要な量子論的性質として, 繰り込み可能性とユニタリー性がある. 相対論 的な枠組みの中で, 様々な場の理論における量子論的側面が調べられ, 繰り込み可 能性とツリーレベルにおけるユニタリー性が等価である事が示唆がされている. 一 方で, 相対論的な枠組みを超えた範囲において, 量子論的側面はよく理解されてい ない. そこで, 本学位論文では, Lorentz対称性の破れたLifshitz型理論において, その量子論的側面を探求した. 特にLifshitz型理論における繰り込み可能性とユ ニタリー性を調べた. 本学位論文では, 4つの研究が記述される. 第1の研究は, Hoˇrava-Lifshitz(HL)重力の繰り込み可能性の探求である. Lifshitz型理論でも繰 り込み可能性とユニタリー性が等価であるとの仮定の下で, ツリーレベルにおける ユニタリー性を探る事により, HL 重力の繰り込み可能性の証明に取り組んだ. 一 方この証明に取り組む中で, Lorentz対称性が破れた理論におけるツリーレベルで のユニタリー性の条件に対する疑問が生じた. この疑問を解決するために, 残り3 つの研究の中で, Lifshitzスカラー理論における量子論的側面の研究を遂行した.
Lifshitzスカラー理論には様々なタイプが考えられるが, 本学位論文では, HL重力
にかなり近い性質を持つ模型を扱った. この3つの研究によって, Lifshitz型理論 における量子論的側面が明らかにされ, 興味深い結果が得られた. ここで得られた 結果は, HL 重力の繰り込み可能性の証明に迫る有力な手がかりを与える. 以下順 に, 残り3つの研究の概要を述べる. 第2の研究では, Lifshitzスカラー理論におけ る繰り込み可能性をシフト対称性が課された場合と課されていない場合で1ループ 計算を実行した. この計算結果により, パワーカウンティングで繰り込み可能な相 互作用を用いてループ積分を実行したとしても, 無限個の相殺項が必要とされ繰り 込み不可能になる事が分かった. 第3の研究では, 場の質量次元が負になる場合ま
で含めたLifshitzスカラー理論を用いて, パワーカウンティングの議論で繰り込み
可能性を調べた. 場の次元が負になる場合, 通常のパワーカウンティングの議論で は, 繰り込み可能性の判定には不十分である事を示し,拡張されたPCRの条件が必
式化し, 通常のパワーカウンティングの条件よりも厳しい条件を与える事を示した. 第4の研究としてさらに, Lifshitzスカラー理論におけるユニタリー性を調べた. 具体的には散乱振幅のユニタリー性の制限をツリーレベルで議論した. Lorentz対 称性の破れのため, 重心系以外の散乱過程を考慮する必要があり, 各過程における ユニタリー性の制限を求めた. これらの条件は, 重心系で得られるユニタリー性の 条件よりも厳しい条件を与える事が分かった. さらに, 第3と第4の研究で得られ た条件が一致する事を明らかにした. つまり, Lifshitz 型理論における繰り込み可 能性とツリーレベルにおけるユニタリー性が等価である事が分かった.
7
目次
第1章 導入 11
1.1 Einstein重力における紫外発散の問題 . . . 11
1.2 量子重力理論を巡る議論 . . . 12
1.3 量子重力理論の候補 . . . 13
1.4 超弦理論 . . . 13
1.5 超重力理論 . . . 14
1.6 高階微分を含む重力理論 . . . 15
1.7 Hoˇrava-Lifshitz重力 . . . 17
1.8 Hoˇrava-Lifshitz重力における繰り込み可能性を巡る議論 . . . 18
1.9 本稿の構成 . . . 18
1.10 研究の詳細 . . . 19
第2章 Einstein重力の繰り込み可能性 23 2.1 Einstein重力 . . . 23
2.2 Einstein重力+物質場 . . . 24
第3章 Hoˇrava-Lifshitz重力 27 3.1 Lifshitz型理論 . . . 27
3.1.1 Lifshitz pointにおける理論 . . . 28
3.1.2 Landau理論. . . 28
3.1.3 Lifshitz pointの理論における時間と空間の非等方性 . . . 30
3.2 Projectable Hoˇrava-Lifshitz重力 . . . 31
第4章 繰り込み可能性とユニタリー性 33 4.1 繰り込み可能性とユニタリー性の等価性. . . 33
4.2 Llewelyn Smithの概要 . . . 34
4.3 繰り込み可能性とユニタリー性の例 . . . 34
第5章 Hoˇrava-Lifshitz重力の繰り込み可能性への取り組み 39
5.1 Hoˇrava-Lifshitz重力の重要な問題 . . . 39
5.1.1 Hoˇrava-Lifshitz重力の赤外領域の問題 . . . 39
5.1.2 Hoˇrava-Lifshitz重力の紫外領域の問題 . . . 40
5.2 Hoˇrava-Lifshitz重力の作用 . . . 41
5.3 Hoˇrava-Lifshitz重力における摂動論 . . . 42
5.3.1 ツリーレベルにおけるユニタリー性を議論するまでの手順. . . 42
5.3.2 Step1の計算 . . . 42
5.3.3 Step2の計算 . . . 43
5.3.4 Step3の計算 . . . 43
5.4 作用の摂動展開 . . . 44
5.4.1 運動項の摂動展開 . . . 44
5.4.2 ポテンシャル項の摂動展開 . . . 45
第6章 Lifshitzスカラー理論における1ループレベルでの繰り込み可能性 49 6.1 パワーカウンティング . . . 49
6.1.1 Lifshitz scaling . . . 49
6.1.2 パワーカウンティング繰り込み可能な相互作用. . . 50
6.2 繰り込みと対称性の重要性 . . . 51
6.3 z = 3 (1 + 3)次元のLifshitzスカラー理論 . . . 52
6.4 1ループ図における紫外発散 . . . 54
6.4.1 3点関数の1ループ図 . . . 54
6.4.2 7点関数における1ループ図 . . . 56
6.4.3 シフト対称性がない場合 . . . 56
6.4.4 シフト対称性がある場合 . . . 56
6.4.5 n点の1ループ図を使った計算 . . . 57
6.4.6 シフト対称性を持つ有限個の相殺項 . . . 59
6.4.7 変形した対称な理論 . . . 62
第7章 拡張された繰り込み可能性の条件 65 7.1 繰り込み可能性の条件 . . . 65
7.1.1 拡張されたパワーカウンティング繰り込み可能性の条件 . . . 66
7.1.2 拡張されたパワーカウンティング繰り込み可能性の条件が必要となる例 70 7.2 相殺項に対する拡張された繰り込み可能性の議論 . . . 71
7.2.1 相殺項に対する拡張された繰り込み可能性の条件 . . . 71
7.2.2 相殺項の数 . . . 72
第8章 ユニタリー性 75 8.1 ユニタリー性による制限 . . . 75
8.2 ユニタリー性によるLifshitzスカラー理論の制限 . . . 77
8.3 ユニタリー性による相互作用項の制限 . . . 80
8.3.1 4点相互作用. . . 80
8.3.2 3点相互作用. . . 82
第9章 共鳴現象 87 9.1 オンシェル条件を満たす中間状態と共鳴現象 . . . 87
9.1.1 同一粒子により引き起こされる共鳴 . . . 87
9.1.2 中間状態がオンシェル条件を満たすs-チャネル散乱振幅 . . . 89
第10章 結論 93
付録A 相対論的な場の理論における見かけ上の発散の議論 101
付録B 相空間上における積分の厳密な評価 103
参考文献 105
11
第 1 章
導入
1.1 Einstein 重力における紫外発散の問題
Einsteinの一般相対性理論 (Einstein重力)は, その誕生以来, 太陽系近傍の観測に耐え, 宇 宙を記述する重力理論としての地位を確立してきた. また, Einstein重力は, 現代宇宙の標準 理論であるビッグバン宇宙論が抱える問題点を解決するインフレーション宇宙論の基礎理論と しても位置付けられる. さらに, Einstein重力の解であるBlack Hole (BH)の存在は, これか ら幕開けとなる重力波観測によって揺るぎないものになるであろう. これらの宇宙初期の姿及
びBHの存在は, Einstein重力を始めとする古典重力から予言された産物である. 一方で, イ
ンフレーション以前の宇宙やBHの特異点近傍に対応する高エネルギー領域では, 古典重力に よる記述が破綻すると考えられている. 従って, 古典重力が予言能力を失うこれらの高エネル ギー現象の記述には量子論と整合するような重力理論, 即ち, 量子重力理論が必要とされてい る. 量子重力理論の立場は下記で挙げるように様々であるが, 本学位論文では場の量子論の立 場に立つ. 場の量子論の枠組みで満たされるべき量子論的性質は二つである. 一つは繰り込み 可能性であり, もう一つはユニタリー性である.
(1 + 3)次元のEisnstein重力は繰り込み不可能である[1, 5, 6]. 重力における繰り込み可能 性の問題は量子重力理論を構成する上で長年の懸案である. 理論の繰り込み可能性を簡便に判 定するPower-counting renormalizable (PCR)の条件がある. PCRの条件は, 繰り込み可能 な理論に対して,次の条件を要請する. これは,「繰り込み可能な理論に含まれる結合定数λの 質量次元は[λ]≥ 0である」という条件である[4]. Eisnstein重力の結合定数の質量次元は負
である. そのため, Eisnstein重力はパワーカウンティングで繰り込み不可能である. 後に詳し
く述べるが, 見かけ上の発散DはD= (d−1)L+ 2の関係で書き下せる. ここで, dは空間次 元, Lはループの数である. (1 + 3)次元で1ループを考える時, d = 3, L = 1であり, D = 4
となる. そのため, Eintein重力のラグランジアンには存在しない項が相殺項として要求される
事が分かる. 以下の文献では, Einstein重力が繰り込み不可能であることが具体的なループ計
算によって証明されている. Pure Einstein重力では, 1ループの次数では偶然有限になってい る. しかし, 重力が物質と結合すると1ループ次数でも破綻する[1]. Pure Einstein重力にお いて, 2ループでも繰り込み可能性が調べられた結果, 繰り込み不可能である事が知られてい
る[5, 6]. 一方でEinstein重力のユニタリー性に関しては, ツリーレベルにおいて破綻してい
る[7]. 従って, Einstein重力は場の量子論の量子論的性質をどちらも満たす事ができず, 少な
くとも摂動的に量子論的な記述が不可能とされている. この詳細な議論を次節で述べる.
1.2 量子重力理論を巡る議論
繰り込み可能な重力理論を目指して, これまで様々な議論がなされてきた. 量子重力理論に 対し以下の5つの立場が考えられてきた[2].
(a). 重力は古典論しか存在せず, 量子重力理論を考える事自体が無意味であるという立場. (b). 量子重力は存在するが, 問題は摂動論にあるという立場.
(c). 繰り込み可能性を指導原理として扱う事が誤りである立場.
(d). 量子重力の作用はEinstein重力の作用に, 曲率の2次を加えた作用で構成されるべきで ある立場.
(e). 繰り込み不可能に至る問題はEinstein重力自身ではなく, 適切な物質場を選ぶ事で解決 するという立場.
(a)については, 重力を古典論として扱ったままで, 物質場のみを全て量子化すべきという立場
である[8]. (b)については, 発散する全てのFeynman図を足し合わせる事で,有限な作用が与
えられるという立場である[9]. (c)は, Asymptotic Safetyの立場に立つ. Asymptotic Safety
は, Weinbergによって提唱された考えである. この仕事は, 汎関数繰り込み群(厳密繰り込み
群)のスキームの中で, 結合定数のエネルギーのフローを追う事により紫外固定点が存在する というものである [3, 10, 11]. (d)は, Einstein-Hillbert作用を修正する立場である. 初期の 試みとしては, 作用に曲率の2次, すなわち計量に対する4階微分を加える作用が考えられた
[13, 12]. この修正を受けた重力理論は高階微分を含むため, プロパゲーターとバーテックス
の振舞いが修正を受ける. つまり, バーテックスに対する支配的な振舞いはp4 であり, プロパ ゲーターに対する支配的な振舞いは 1
p4 である. 従って, (1 + 3) 次元の見かけ上の発散D は D = 4L+ 4V −4P = 4となる. それ故, 元の作用に存在する項を相殺項として採用できる. 従って, この修正された重力の作用を考える事によって, Einstein重力で問題であった発散を 処理する事ができる. つまり, この修正された重力理論は繰り込み可能である. しかし, この 立場では繰り込み可能性を得る代償として, プロパゲーターにゴーストが現れるため, エネル
1.3 量子重力理論の候補 13 ギーの不安定性の意味でのユニタリー性を破ってしまう. ユニタリー性の問題を解決する議論 がなされてきたが, 未解決である[14, 15]. (e)は, 重力に由来する発散と物質場に由来する発 散が摂動の次数毎に相殺し合う事で, オンシェル条件を満たすS行列要素が有限になる適切な 物質場を選ぶという立場である.
以上の5つの立場から, 量子重力へのアプローチが考えられてきた. 上記で挙げた立場では, 量子重力の問題は未解決のままである. この状況の中, 繰り込み可能な重力理論の構成に向け て, 繰り込み可能性とユニタリー性の二つの量子論的性質を満たす重力理論が探求されてきた [2].
超弦理論, 超重力理論や高階微分を含む重力理論 (Stelle重力やConformal重力)を始めと した重力理論の繰り込み可能性が研究されてきた. また, これらとはまた別の枠組みで, 量子 重力を含んだ全ての統一理論としての超弦理論がある. 以下では, 量子重力理論の候補として, 上記の3つの重力理論とHoˇrava-Lifshitz (HL) 重力を簡単に紹介する.
1.3 量子重力理論の候補
量子重力理論の候補として次の4つの理論が挙げられる. (1) 超弦理論
(2) 超重力理論
(3) 高階微分を含む重力理論 (4) Hoˇrava-Lifshitz (HL) 重力
ここで,他にも量子重力理論の候補としてCausal Dynamical Triangulation (CDT)やループ 量子重力も挙げられるが, 今回は場の理論における量子論的な性質として, 繰り込み可能性と ユニタリー性に着目するため, 時空を離散的な幾何学として扱うこれらの理論については述べ ない事にする.
さて, (2)の超重力理論や(3)の共変的な高階微分を含む重力理論(Conformal重力とStelle 重力)を始めとした重力理論の繰り込み可能性が研究されてきた. また, これらとは別の枠組み で, 量子重力を含んだ全ての統一理論として(1)の超弦理論がある. 以下ではこれら3つの理 論を(1), (2), (3)の順で簡単に紹介する. ここで, (3)に関してConformal重力とStelle重力 を一括りにした理由は, 共通した利点と欠点があるからである.
1.4 超弦理論
4つの基礎的な力を記述する究極の理論としても有力であり, 現在最も広く研究されている 量子重力理論として超弦理論がある[18, 19]. この理論では基本構成要素が点粒子ではなく, 1
次元の拡がりを持つ弦として扱われる. この理論では, 開弦と閉弦の2種類の弦が考えられる. この理論では, スピン0, スピン1, スピン 12 を持つ各粒子の描像が開弦の振動モードとして 記述され, スピン2の粒子描像は閉弦の振動モードとして記述される. 従って, 基本的な4つ の力を担う粒子を弦という1つの構成要素から導出できる可能性がある. さらに, 超弦理論で は, 弦が1次元の拡がりを持つ故, その運動を世界面で考える事ができる. そのため, 高エネル ギーでの発散が回避される事が知られている. Einstein重力ではループ計算で生じる発散を処 理する事ができず繰り込みが不可能となる一方で, 超弦理論ではループ計算をしても発散がそ もそも生じない. つまり超弦理論はループ計算をしても有限なのである. 閉弦は重力を含むた め, 超弦理論は量子重力理論を含む理論として解釈できる. これが超弦理論が量子重力理論の 有力な候補として考えられている所以である. また, 超弦理論を用いる事で, BH熱力学の統計 的に解釈できる事が知られている[20]. この解釈はトポロジカルな弦理論を用いても導出でき る事が知られている[21]. これらの仕事から, 超弦理論を用いる事で重力のミクロな振舞いを 議論できる事が示唆される. さらに, 超弦理論を考えると, 重力理論とゲージ理論が対応すると いう予想がある[22, 23, 24]. このゲージ/重力対応では, 重力自身をゲージ場の量子論の言葉 に書き換える事が可能である. この対応関係は, さらに重力理論と超弦理論の対応関係にまで 発展している[25]. この仕事では, 発散のない超弦理論と重力理論が対応しているため, 量子重 力理論が超弦理論であるという事を示唆している. このように, Einstein重力のみでは立ち入 る事のできなかったBHのミクロな描像や場の量子論との対応関係が発見され, 超弦理論は量 子重力理論を含む,全ての力を記述する究極の理論として扱われている. 但し,現代の科学技術 では超弦理論のエネルギースケールに到達できる実験を行う事ができないため, 超弦理論から 得られる予想を検証する事が不可能である. それ故, 超弦理論は今なお候補のままでいる. ま た, 仮に超弦理論が確立した理論にまで昇華したとしても, 重力の量子論的な描像のみを用い て, BHの特異点や宇宙の初期特異点の近傍の自然現象を詳細に記述する事ができない可能性 もある. そのため, 重力の量子論が支配する自然現象を記述できる有効的な量子重力理論が必 要ではないかという考察もある[16]. つまり, 超弦理論が仮に正しいとしても,量子論の枠組み で無矛盾な重力理論を探求する努力も必要だと考えら, 以下では超弦理論を除く量子重力理論 の候補について述べる.
1.5 超重力理論
この節では, 主にM. J. Duff によるレビューに基づいて超重力理論を巡る議論を紹介する. 超重力理論は当初, 2つのグループによって開発された[26, 27]. 超重力理論とはEinstein重力 に超対称性(ボゾンとフェルミオンの入れ替えに対して理論が不変な対称性)を課した重力理 論であり, ここでフェルミ場を物質場ともいうことに注意しておく. 超重力理論ではgraviton のループから生じる発散とgravitinoのループから生じる発散が互いに相殺し合う事で理論全
1.6 高階微分を含む重力理論 15 体の発散が出ないと考えられている. その為, 超重力理論も量子重力理論の候補とされている. 超重力理論の誕生当初N = 1の超重力理論は 1ループで有限である事が確かめられた[28].
さらに, 2ループでも有限である事が示されている[29]. しかし, 3ループの計算では繰り込み 不可能である事が示されている[30]. ここまでは, N = 1の超重力理論を巡る議論であったが, その後の様々な発展を経て, 現在はN = 8の超重力理論における繰り込み可能性が期待され ている. この研究は2つのグループによって遂行されている. 1つは MITのFreedmanらの グループであり[31], もう一方はUCLAのZvi Bernらのグループである[32].
前者のグループでは例外群E(7,7)の対称性を課したN = 8の超重力理論を扱っている. こ の超重力理論では, 6点の散乱振幅が7ループまでは有限となる事が示されている. しかし, 7 ループ以上で有限かどうかは, 膨大な数の相殺項の候補を調べる必要がある事も指摘されてい る. 一方, 後者のグループでは近年開発されたユニタリー性の手法を用いてN = 8の超重力理 論の発散の振舞いをN = 4の超対称Yang-Mills理論の発散の振舞いと等価にし, N = 8の超 重力理論の繰り込み可能性を調べている. このユニタリー性を用いるとgravitonのループ図が
gluonのツリー図の2乗の計算に帰着できるため, ループの議論よりも評価すべきFeynman
図の数が大幅に抑えられる. この議論を用いてN = 8 の超重力理論が4ループで有限である 事が示されている. しかし, Freedman らの仕事では7ループ以上で有限かどうかは未知であ るため, N = 8の超重力理論が有限かどうかは決着が着いていない.
1.6 高階微分を含む重力理論
Stelle重力やConformal重力も量子重力理論の候補の一つとされ, それらの繰り込み可能性
が探求されてきた. Conformal重力の主な特徴は3つある(Stelle 重力の場合は以下の漸近自 由性を除く 2つ). 第1に結合定数の質量次元がゼロであり, PCR の条件を満たす事であり, 実際に1ループ計算を用いて繰り込み可能である事が示されている[12, 35]. 第2に漸近自由 性の性質を持つ事である[34, 33, 35]. そして第3に, プロパゲーターにゴーストが生じ, ユニ タリー性を破ってしまう事である[13, 35]. 前者 2つの特徴は理論として量子論的によい性質 の特徴である. 1ループで有限であり, 漸近自由性の性質を持つ, つまり紫外固定点を持つ為,
Conformal重力が UV completeな理論である事を意味する. しかし, 3つ目のゴーストが生
じる問題は両者の重力理論にとっても量子重力の立場を失う大きな欠点である. ここから以下 議論では, 簡単の為にStelle重力のみを議論する. 以下で見るように, Stelle重力は, Eisnstein 重力の作用に, 曲率高次項!
−g"
R2+aRµνRµν#を加えた重力理論である. 加えられた高次 曲率により修正されたプロパゲーターが, ループ積分から生じる発散の次数を下げる. そのた め, 高エネルギーでの発散の振舞いが改善されている. この発散の振舞いに対する改善によ り, 紫外発散が有限個の相殺項で処理される. その結果, Stelle重力は繰り込み可能である事 が証明されている[12]. しかし, 高次曲率項に含まれる高階の時間微分に由来するゴーストは,
負のノルム状態を取り, 理論全体のエネルギーを際限なく負にする事ができる. その故, この ゴーストを理論の不安定性を引き起こす. 従って, Stelle 重力及びConformal重力は理論的 に整合性のある量子重力理論として生き残る事はできなかった. Hoˇrava 重力はStelle重力や
Conformal重力と大きく関係するため, 1つ目のPCR の条件を満たす事と3つ目のゴースト
の問題を簡単に述べる. 漸近自由性はUV completeであるための重要な性質であるが, HL重 力の作用を構成する上では必要がない為, ここでは省略する. Stelle重力の作用は以下のよう に与えられる.
SStelle = 1 κ2
$
d4x!
−g"
aR2+bRµνRµν +cR#
(1.1) ここでκは結合定数,!
−g はdet(gµν)の平方根,a, b, cは定数, Rµν はRicciテンソル, Rは スカラー曲率を表す. 作用の次数勘定から結合定数κは質量次元がゼロである事が分かる. こ れが第1の特徴である. またこの作用はEinstein重力よりも高次の微分が含まれていること が容易に分かる. スカラー曲率Rは計量gµν に対する2階微分を含んでいるため, プロパゲー ターは
1
k2 (1.2)
と表される. ここでk は4元運動量kµ
kµ= (ω,k) (1.3)
の大きさであり
k=!
ω2−k2 (1.4)
として与えられる. ここで,ωは運動量空間におけるエネルギー,kは3元運動量である. Stelle 重力のプロパゲーターは概略的には
1 k2 + 1
k2a(k2) 1 k2 +· · ·
= 1 k2
1 1−a(k2)
= 1
k2−a(k2)2 (1.5)
として与えられる. (1.5)に着目すると, 作用にR2 やRµνRµν の高次の微分の入った項が含ま れている故, プロパゲーターが修正されている事が分かる. 式(1.5)はさらに
1 k2−a(k2)2
= 1
k2 − 1
k2− a1 (1.6)
1.7 Hoˇrava-Lifshitz重力 17 と変形される. ここで, 式(1.6)の第1項
1
k2 (1.7)
は質量のないgravitonのプロパゲーターである. また, 第2項
− 1
k2− 1a (1.8)
は,ゴーストのプロパゲーターを表している. 式(1.3)から明らかなように, 式(1.8)は
− 1
ω2−k2− 1a (1.9)
となり,このプロパゲーターは明らかに負のエネルギーを取りうる. 従って, ゴーストが存在す るために, 際限なく負のエネルギーをとる事ができ,理論が不安定になる事が容易に分かる. こ れが第3の特徴である. Stelle重力やConformal重力は繰り込み可能であり,特にConformal 重力は漸近自由性の性質を持つにも関わらず, ゴーストの存在によって量子重力としての地位 が失われてしまった. しかし, 近年, このゴーストの問題を回避したPCRの条件を満たす重力 理論が提唱された. その重力理論こそがHoˇrava-Lifshitz (HL)重力である. 以下でHL重力の 概要を述べる.
1.7 Hoˇrava-Lifshitz 重力
上記の状況の中, 近年 Petr Hoˇrava によって新しい量子重力理論の候補が提唱された [16, 17]. この理論はHoˇrava-Lifshitz (HL)重力と呼ばれ, 次の2つの注目すべき特徴を持つ. 1つ目の特徴は, 理論の不安定性を生むゴーストの問題を回避した事であり, 2つの目の特徴
は, PCRの条件を満たす事である. これらの特徴は, 次のスケールを採用する事で得られる.
t →bzt, xi →bxi (i= 1, . . . d). (1.10) このスケーリングはLifshitz scalingを呼ばれている. zは動的臨界指数と呼ばれ, 整数値を取 る. このz は時間と空間の非等方性の度合いを表し, z ̸= 1の時, 場の量子論の基礎的な対称性 としてみなされてきたLorentz対称性の破れを意味する. このLorentz対称性の破れにより, HL重力の作用は時間微分を2階に保ちつつ, 高階の空間微分 (時間微分を含まない高次曲率) で構成される. そのため, ゴーストの問題を回避した繰り込み可能な量子重力理論の候補とし て位置付けられている.
上記二つの特徴とLorentz対称性の破れにより, HL重力は注目を集めている. 特に宇宙論の 諸問題を解決するために, HL重力を応用した研究が広くなされ, 特徴的な振舞いをする結果が 得られている[36]. 例えば, 暗黒物質が積分定数として創発される研究などがある[37, 38, 39].
また, 宇宙初期特異点を回避する可能性が得られるなど, Einstein重力から得られる初期宇宙 の振舞いとは異なる興味深い結果が得られている[40, 41, 42]. また, ホログラフィーの文脈で もHL重力は研究されている[43, 44, 45, 46]. しかし, HL重力の量子論的な内容はよく理解 されていない. 特にこの理論の要である繰り込み可能性は未だに証明されていない.
1.8 Hoˇrava-Lifshitz 重力における繰り込み可能性を巡る議論
HL重力における繰り込み可能性の証明を巡る研究はこれまでもなされてきた [47, 57, 60].
例えば, [47]では, 確率過程量子化の手法によって, Detail Balance Condition(DBC)が課さ れたHL重力の繰り込み可能性が, Topological Massive Gravity (TMG)の繰り込み可能性に 依存するという結果が得られている. しかし, DBCが課される事によって, 時間と空間の非等 方性がもたらすgraviton以外の自由度(scalar graviton) が, Lorentz対称性が回復するはず の赤外領域において運動量を持たないような強結合を引き起こす事が知られている[48]. また, gravitonやscalar gravitonの摂動的に不安定な振舞いが示されている[49]. さらに, 宇宙論的 な観点や観測との整合性からDBCを棄却すべきという議論がされている[50, 51, 52, 53]. 一 方で, 近年DBCを課す際に議論されるsuperpotentialに高次曲率を加える事で整合性が担保 されるという議論もされている[55]. このように, HL重力おけるDBCの妥当性自体がまだ明 確にされていない. その上, TMG自体の繰り込み可能性は 1ループで繰り込み可能である一 方で2ループでは繰り込み可能かどうかまだ決着が着いていない[54]. 他に, HL 重力のtoy 模型として, 低次元のHL重力が議論され[56] , その繰り込み可能性が議論されている[57].
しかし,低次元のHL重力では, gravitonが存在しない. その為, scalar gravitonの量子的な振 舞いは議論されても, gravitonの紫外領域における振舞いや, gravitonのループ計算を実行す る際のゲージ固定及びFaddeev-Popov(FP)ゴーストの振舞いに関しては言及できない. これ らの不十分さを補う議論として, ごく最近に4次元のHL重力のおける繰り込み可能性が証明
された[60]. この仕事の中では, HL重力におけるゲージを適切に固定し, それに伴うFPゴー
ストの振舞いまで考慮に入れた繰り込み可能性の議論がされている. これまでのHL重力にお ける繰り込み可能性を巡るどの仕事よりも大きく前進した議論である. しかし, この仕事はパ ワーカウンティングを超えた議論ではなく, 繰り込み可能性に対して完全な証明を与えたもの はない. そこで本学位論文では, HL重力の繰り込み可能性を証明する事を最終目標とする.
1.9 本稿の構成
以上の背景を踏まえ本学位論文では、Lifshitz型理論における量子論的側面の探求をテーマ として扱う. この学位論文はLifshitz型理論に関する4つの研究に基づいて構成される. 第1 の研究は, HL重力の繰り込み可能性の研究である. この研究が本学位論文の柱である. この柱
1.10 研究の詳細 19 となる研究の理解を深め完遂するべく, Lifshitzスカラー理論に関する下記の3つの研究が位 置付けられる. これらの研究の中で, Lifshitz型理論における量子論的側面が探求され興味深 い結果が得られた. ここで得られた結果はHL重力の繰り込み可能性の証明に迫る有力な手が かりを与える. そこで, 本学位論文では次の方針で著者が遂行した研究を紹介する. まずはHL 重力の繰り込み可能性の研究について紹介する. 次にLifshitzスカラー理論に基づく3つの研 究を紹介する. 以下で本学位論文の構成を述べた後,各研究の詳細を述べる.
本学位論文は, 全10章から構成され, その構成は次の通りである. 第1章では量子重力理論 の必要性と量子論的に破綻するEinstein重力の問題点及びその解決を巡る量子重力理論への 取り組みが紹介される. 第2章ではEinstein重力の繰り込み可能性について概観される. 第3 章では量子重力理論の候補の1つであるHL重力の概要が示される. 第4章ではゲージ理論で 示唆された繰り込み可能性とユニタリー性の等価性について記述される. 第5章ではHL重力 の繰り込み可能性の証明への取り組みが議論される. 第6章ではHL重力の性質に最も近い Lifshitzスカラー理論の模型を構成し, その 1ループ計算が実行される. 第7章ではLifshitz スカラー理論の繰り込み可能性が一般的な模型で考察され, その考察の中で新しい PCRの条 件が定式化される. 第8章ではLifshitzスカラー理論のユニタリー性の議論が展開される. そ
して, 第9章ではLifshitzスカラー理論における共鳴現象が示される. 最後に本学位論文の結
論とまとめが記述される.
1.10 研究の詳細
第1の研究では, HL重力の繰り込み可能性をツリーレベルにおけるユニタリー性を用い て議論する. この手法は, 繰り込み可能性とツリーレベルにおけるユニタリー性が等価である という示唆に基づいている. この等価性はゲージ理論の枠組みで示唆された[61, 62, 63]. ここ で,ツリーレベルでのユニタリー性の条件を明示しておく. この条件とは,「理論のツリーレベ ルでのユニタリー性が保たれる時, その理論のツリーレベルにおける散乱振幅の高エネルギー の振舞いが冪で大きくならない」事を意味する. 従って,この示唆が真であれば, 理論の繰り込 み可能性は散乱振幅の冪の振舞いを確認する事で証明される. 繰り込み可能性とツリーレベル でのユニタリー性の間での等価性は, まだ証明されていない一方で, ゲージ理論及びEinstein 重力においてまだ反例は知られていない [7]. 一般に, 繰り込み可能性の証明には1 ループ積 分から生じる発散の評価が必要とされる. しかし, 次に挙げる2つの利点から, この研究では ツリーレベルにおけるユニタリー性の手法を採用した. 1つの利点は, 量子効果を含まないツ リーレベルの計算で議論が完結する点である. その結果, 1ループ計算と比較して, 評価すべき
Feynman図が大幅に減少する. もう一つの利点は, FPゴーストが不要な点である. 通常,重力
の1ループ計算には, ゲージ固定が必要とされる. ゲージ固定において理論の整合性を保つた
めに FPゴーストの導入が必要とされる. しかし, このゴーストは評価すべきFeynman 図の 組み合わせを増やし, 計算量の増加を招く. 従って, Einstein重力よりも複雑な作用で記述さ れるHL重力の繰り込み可能性の探求において, 単純かつ計算量を軽減できるツリーレベルで のユニタリー性の方法を採用する事は有力である.
次に, 上の第1の結果の一部を紹介する. ここでは, HL重力の散乱振幅の見かけ上矛盾した 振舞いを見る. この振舞いとは, 高階の空間微分を含む事でループ積分の発散の次数を下げた のにも関わらず, HL 重力の散乱振幅の高エネルギー極限での振舞いが, Einstein重力の振舞 いよりも悪くなっているという振舞いである. この振舞いから次の疑問が生じた. その疑問と
は,「Lorentz対称性の破れたLifshitz型理論において,繰り込み可能性とツリーレベルでのユ
ニタリー性の等価性が成り立つか」という疑問である. この疑問は, Lifshitzスカラー理論の研 究の引き金となった.
本来Lifshitzスカラー理論は, 三重点の臨界現象を記述するために提案された理論である.
この理論は非等方スケーリング(3.19)を採用する事で短距離の振舞いをよくした理論である [65]. HL重力は, Lifshitz scalingを重力に応用した理論である. この重力理論は (1 + 3)次元 でz = 3を取る時, 結合定数の質量次元が正となり, PCRの条件を満たす. Lifshitz スカラー 理論は近年HL重力のtoy模型として研究されている[66, 67, 69, 70]. またLifshitzスカラー 理論の量子論的側面の研究もなされている[71, 72, 73, 74, 75, 76, 77, 78, 78, 79, 80]. これま でに遂行されてきた研究では, z とd(dは空間次元)の値が異なる場合であり, 結合定数の質量 次元が正の超繰り込み可能な場合が研究されてきた. しかし, HL重力では, z =dの値をとり, パワーカウンティングで繰り込み可能であると期待されている. その故, HL重力に最も近い 模型はz =dの場合である.
そこで, 第2の研究では, z = dで結合定数の質量次元がゼロの場合のLifshitzスカラー理 論における繰り込み可能性を1ループで調べた. z = dの場合, スカラー場の質量次元は無次 元となる. その結果,空間微分が2z 階以下となるあらゆる相互作用項は全てパワーカウンティ ングで繰り込み可能とある. この事実は, 相互作用項がPCRの条件を満たしているにも関わ らず, 無限個の相殺項を処理しなければならないという問題を招く. この問題は, 無限個の紫外 領域発散をもたらす相互作用項を禁止することで避けられる. このような相互作用項を取り除 く方法は対称性を課すことである. 本学位論文では, その対称性としてシフト対称性を導入し 解析を行った. この解析結果により, 例えPCRの条件を満たしたとしても, シフト対称性がな い相互作用項は無限個の相殺項が必要とされる事が明らかになった. この事実は, Lifshitz型 理論が真に繰り込み可能である為にはPCRの条件を満たすだけでは不十分であり, 相殺項が 有限個となるような対称性が必要となる事を示唆している.
1.10 研究の詳細 21 第3の研究では, 次の内容を調べた. 時間と空間の非等方性によりLifshitz型理論における 場の次元はz とdに依存する. そのためLifshitz型理論における場の質量次元は負の値を取る 事ができる. この場合, 通常のPCRの議論では不十分であり, ループ積分の発散の振舞いの判 定が不可能となる事が示される. そこで, 場の質量次元が負の場合でも適用可能な拡張された Power counting renomalizability (拡張されたPCR)の条件を定式化した. なお, この条件を 考慮すると, Lifshitzスカラー理論の1ループ次数で考察した繰り込み可能性に対する第 2の 研究の結果をも包含している事が明らかになった.
第4の研究では, Lifshitzスカラー場のユニタリー性を調べた. 具体的には, 自己相互作用す
るLifshitzスカラー場の相互作用項から構成された散乱振幅にユニタリー性の条件を課し, そ
の高エネルギー(運動量)の振舞いをツリーレベルで調べた. Lifshitz型理論ではLorentz対称 性の破れのため, 重心系以外の散乱を考慮しなければならない. この重心系以外の系を考える と, 高エネルギーの重心系の散乱過程から導出される制限よりもさらに強い制限が得られる事 が分かった. さらに, これらのツリーレベルにおけるユニタリー性の条件によって, Lifshitzス カラー場の 3点と4点の相互作用の形を制限する事も可能となった. そして, 驚くべき事に, この制限の値, つまり, ツリーレベルにおけるユニタリー性の条件は, 第3の研究で得られた拡 張されたPCRの条件と一致する事が分かった. さらには, オンシェル条件を満たす中間状態 の粒子を持つs-チャネルにおける散乱振幅も考察した. この場合, 共鳴の効果を考慮する事に より, 拡張されたPCRを満たす相互作用がユニタリー性による制限を破らないことを示した.
23
第 2 章
Einstein 重力の繰り込み可能性
この章では, Einstein重力の繰り込み可能性を傍観する. Einstein重力は繰り込み不可能で
ある. このEinstein重力の紫外領域での問題を, 見かけ上の発散を用いて議論する. ここでの
記述は主に次の3つの文献に基づく[1, 2, 3].
2.1 Einstein 重力
Einstein重力のラグランジアンは次のように書ける.
LEH =− 1 16πG
!−g(R+Λ). (2.1)
ここで, R はスカラー曲率であり, 計量の 2階微分を含んでいる. Λ は宇宙項であり, G は 結合定数である. 重力は等価原理が働くため, 宇宙項とも結合する. この場合, パワーカウン ティングの議論でも複雑になる為, この節では宇宙項Λ = 0の場合を考え, 見かけ上の発散で
Einstein重力の繰り込み可能性の概要を述べる.
スカラー曲率Rが計量の2階微分を含むため, 運動量空間におけるバーテックスは運動量 の2 乗, すなわち p2 で振舞う. また, 対応する gravitonのプロパゲーターは p12 で振舞う. (1 +d)次元時空において, 各ループ積分は発散に対して p1+d で寄与する. その為, ループの 数をL,バーテックスの数をV, そして内線の数をP とすると, Feynman図の見かけ上の発散 の次数Dは,
D= (d+ 1)L+ 2V −2P (2.2)
で与えられる. トポロジカルな関係式
L = 1−V +P (2.3)
と合わせると,
D= (d−1)L+ 2 (2.4)
の関係式が得られる. ここで, D は外線の数に依らない事に注意する. ここで得られた関係式 (2.4)の重要な点は, d >1に対してループの数Lが増えるにつれてDが増大する事である.
この傾向は摂動の次数が増えるに連れて発散の振舞いが悪くなる事を意味する. つまり, あ るループでの発散に対する相殺項を用意しても,さらに大きな発散が生じる. 即ち, 理論が繰り 込み不可能である事を意味する. d = 2に対して, Lは全微分となる. そのため式 (2.1) は, ダ イナミカルな定数を持たなくなる. ある特定の正則化のスキームの中で, d = 4に対して実際 どのようになるのかを見る. ここでは, 次元正則化を使う. つまり4 +ε次元から始め, ε →0 を取る. d = 3の1ループは, 1ループに対する相殺項 L(1) が4階以下の微分に依存する事 が予想される. 次元的な根拠に基づくと, 一般共変な唯一許されるスカラー量はRµνρσRµνρσ, RµνRµν, R2 である. 従って, L(1)は
L(1) = 1 ε
!−g
%
αRµνρσRµνρσ+βRµνRµν +γR2
&
(2.5) の形を取る. 我々はここで, 背景場の方法が採用され, この相殺項が背景場にのみ依存し, 中 間状態のループを飛ぶgravitonやゴーストには依存しない事を仮定する. 定数α は量子化さ れた重力場に対するゲージ固定には依らないが, β とγ は依存する. この定数依存性は, オフ シェルのグリーン関数がゲージに依存する事を意味する. それは, オンシェルのS行列要素が ゲージ不変な物理に対応している事を意味する. 背景場の方法の枠組みで, オンシェルに置い た外線は, 背景に対する古典的な運動方程式を使う事に対応している. 即ち, Rµν =|0である. しかし,そうする前に,RµνρσRµνρσ−4RµνRµν+R2が全微分であり, その全時空上での積分 は, 全時空が自明なトポロジーであるならば, 無視できる事にまず注意しておく. 結果として, ' d4xL(∞)はオンシェルで消える. 即ち, 1ループにおいて, オンシェルのS行列要素は実際 に有限となる. この結果は, [1]で詳しく示されている. つまり, 宇宙項のないPure-Einstein 重力は1ループでは有限なのである.
実際の問題は, 1ループを超えた議論で生じる. 2 ループの議論において, 例えばd = 5で, 場の方程式を用いて消えると予想した!
gRµναβRαβγδRγδµν の項は消えない. 結果として, 例え オンシェル条件を満たすS行列要素でさえも発散が残る. この発散は, 元のラグランジアンに は存在しない種類の相殺項でしか除去できない. 一般に, 無限個の異なる相殺項と, 各々の相 殺項に対応した無限個の決まらないパラメーターが存在すると予想される. 即ち, 繰り込み不 可能である. この詳しい議論は, [5, 6]で展開される.
2.2 Einstein 重力 + 物質場
前節で議論した結果から, Einstein重力が繰り込み不可能である事が理解できた. 古典的に は整合性のある Einstein重力が紫外領域で破綻するという事実から, 重力の量子化に対しい くつかの視点が考察されてきた. その中でも, 無限個の発散を相殺するようなある特別な物質
2.2 Einstein重力+物質場 25 場を選ぶ事で, オンシェルのS行列要素を摂動的に有限にする事ができるという視点が考察さ れた. この視点に立つと, 重力が物質場と結合する時にどのような状況が引き起こされるかを 確かめるのは自然である. 前節でも議論したように, 最も一般的な1ループ相殺項は, 次元解 析, 一般共変性, 理論に存在するあらゆる対称性から書き下せる. 即ち,!
gRµνRµν と! gR2 に加えて, κ2!
gRµνTµν, κ2!
gRTµµ, もしくはκ4!
gTµνTµν, κ4!
gRµµRνν の項が考えられ る. ここで, Tµν は物質場のエネルギー運動量テンソルである. 一般的には, 他にも, 物質場 を含むより複雑な項が存在する. しかし, Pure-Einstein重力の場合と異なり, 係数を決定す るのに, 明確な計算が必要とされる. それらの計算は, 様々な重力-物質の系で議論されてきた [1, 81, 82, 83, 84, 85, 86, 90, 88]. 一般に, 対称性で許される全ての項は, 消えない項として現 れる. もし物質場が質量を持つ(m̸= 0)ならば, さらに, m4!
g, m2!
gRといった新たな発散 が生じる. (無次元の正則化パラメーターを使った正則化のスキームを用いると,仮定したよう にそのような項は消える.) しかしながら, 時折, 元々許されていた相殺項が現れないような 事が起こる. その例として, Einstein-Maxwell理論における!
gRµνρσFµνFρσ の消去[83]や, 重力と修正されたQEDにおける電子の異常磁気モーメントに対する重力的な修正の有限性が ある[?]. これらは, 双対性のようなある明白でない対称性や超重力理論への埋め込み[89, 90]
を考える事で説明する事ができる. もしろん一番重要な問題は, 1ループ相殺項はオンシェル で消えるかどうかである. オンシェルを取る事で, 消えない Einstein方程式と物質場の運動方 程式を使う事ができる. 全ての組み合わせとスピン 0, 12, 1を持つ場のあらゆる組み合わせと 表現に対して推定されるが, オンシェルで消えない. 即ち, QED, QCD, Weinberg-Salam模 型やGUTのような”立派な”理論は全て繰り込み可能性を要求されることで得られるのであ り,重力が存在する時は意味をなさなくなる.
QEDのような繰り込み可能な理論と重力のような繰り込み不可能な理論との結合は発散が 残る. これは恐らくほとんど自明である. 有限な理論を得るために, 重力と他の繰り込み不可 能な理論を考えて見る. その例として, 4次元の非線形シグマ模型である[?]. しかし, この理 論も同様に有限ではなかった. 1ループ相殺項の相殺に対する動機は, 曲がった時空上の場の 量子論の矛盾を説明することである[91]. しかし, 定数κ′と非線形シグマ模型の結合に対する 1ループ相殺項が, 平坦な時空で既にκ′4TµνTµν やκ′4TµµTνν の形を取るのは興味深い. 即 ち, もしκ′がκに選ばれるならば, 前もって考えられた曲がった時空での相殺項と相殺される 可能性がある. これは繰り込み可能な重力理論への正しいステップアップかもしれない. その ような結合は, 実際に拡張された超重力理論で起こるが, 超重力理論についてはここでは述べ ない.
27
第 3 章
Hoˇrava-Lifshitz 重力
この章では, Hoˇrava-Lifshitz(HL)重力について傍観する. HL 重力は, 時間と空間のスケー ルを非等方的に扱う事で時間微分を2階に止めつつ, 高次の空間微分まで含める事を許した理 論である. この結果, この重力理論は, PCRの条件を満たしつつ, 高階微分を含む重力理論で 問題であったゴーストを回避する事に成功した. まず, このLorentz対称性の破れについて,
Landau理論を用いて紹介する. その後, HL重力について述べる. HL重力には大きく分けて
2種類ある. 後述するが, ラプス関数が時間に依存しないProjectableな場合と時間に依存す るNon-Projectableな場合である. なお, ここでの記述は主に, [16, 17, 58, 59, 60] の文献に 基づく.
3.1 Lifshitz 型理論
この節ではLifshitz型理論について述べる. Lifshitz型理論は時間と空間に対する非等方な スケーリングを持つ. 本来, HoˇravaはM理論の作用の構成を目指してLifshitz型の理論を考 えた. 時間と空間について非等方なスケーリング不変性を持つ超対性のある理論に detailed balance condition を課すと, (1 +n) 次元の理論の分配関数を (n) 次元の理論の波動汎関数 で記述する事ができる. このような時間と空間の非等方性hが現れる点をquantum Lifshitz
pointと呼ぶ. Lifshitz pointは物性理論における三重点と同様に空間方向のみの間での非等方
性を意味し, quantum が付くと時間と空間の間での非等方性を意味する. Hoˇrava重力では時 間と空間のスケーリングが非等方に扱われる. この非等方性が現れる事をまずLifshitz point における理論ついて述べる. その次に, その理論がスケーリングが非等方的である事をみる.
3.1.1 Lifshitz point における理論
ポテンシャル項が
((∇)zφ)2 (3.1)
を含むように作用を作る事を理論をLifshitz pointにおくという. Lifshitz pointとは臨界現 象における三重点のことを言う. 最も簡単な例としてLifshitzスカラー理論がある. スカラー 場をLifshitz pointにおくと作用は
SLS=−1 2
$
ddxdt (
(∂tφ(x, t))2− )1
2∂∂φ(x, t)
*2+
(3.2) となる. この作用は(1 +d)次元のスカラー場の作用である. ∂t は時間微分を表し, ∂はd次 元の空間微分を表す. ここで, この作用は明らかにLorentz対称性が破れている事が分かる. なぜ((∇)zφ)2 がポテンシャル項に含まれると理論をLifshitz pointにおく事になるのか. そ の理由はLandau理論で Lifsitz pointを考えると明らかになる. そこでLandau理論につい て簡単に述べた後, ((∇)zφ)2 をポテンシャル項に含んだ理論がLifshitz pointに置いた事と 等価であることを述べる.
3.1.2 Landau 理論
Landau理論とは対称性の観点から自由エネルギーをオーダーパラメーターの関数として記
述し, 扱う系の熱平衡状態を実現する条件を使う事で現象を解析する理論である. オーダーパ ラメーターとは系がどのような相にあるかを定量的に特徴づける量である. 例えば磁性体の模 型でいえば, 自発磁化がオーダーパラメーターであり, 系が常磁性体にあるか強磁性体にある かは自発磁化がゼロであるかどうかで完全に区別できる. Landau理論には適用限界があるが, ここで扱うLifshitz pointには影響しないのでこの適用限界については詳しく述べない. Ising 模型を例として考える.
Ising模型のハミルトニアンは
H =−J,
i,j
SiSj−h,
i
Si (3.3)
J は交換相互作用定数, h は外部磁場を表す. Ising模型のオーダーパラメーターは磁化mで ある. ここでは簡単にh= 0とする. この時,スピン変数の符号を変えるSi→−Si 変換に対し てハミルトニアンは不変である. つまりZ2 対称性をもつ. 今, 1スピンあたりの磁化はスピン 変数の平均値〈Si〉だから, 1 自由度, もしくは単位体積当たりの自由エネルギーf はmの関 数である事を踏まえる(ここでは述べないが証明はされている)と自由エネルギーf もZ2 対
3.1 Lifshitz型理論 29 称性を持つ. つまりmの偶関数として自由エネルギーを記述する事ができる. 今, 臨界現象に 興味があるので, 自由エネルギーをm= 0の周りで展開して
f(m) =f0+am2+bm4 (3.4)
とできる. ここでf0, a, bはそれぞれ温度依存性のある定数である. この展開をLandau展開 といい, f(m)の最小値が熱平衡状態を実現する. この自由エネルギーのタイプは現象論的に 決定されるため, Landauの現象論的自由エネルギーとも呼ばれる. (3.4)式における係数a, b の符号の場合分けによって臨界現象を解析する事ができる. ただし, ここでは解析の具体例に は触れない.
さて, 後述のために, この自由エネルギーの一般的な形[93]で記述しておく. F ∼aφ2+bφ4+cφ6+· · ·+α(∇φ)2+β"
∇2φ#4
· · · (3.5)
ここで φ はオーダーパラメーターであり, ∇φはオーダーパラメーターの空間微分である.
(3.4)式での自発磁化mは空間に依存しない量として考えていたが(3.5)式のφは時間と空間
の関数である事に注意しておく. 式(3.4)と同様, 係数はすべて温度に依存しており, 再度自由 エネルギーを以下のように書く.
F ∼aφ2+bφ4 (3.6)
. ここでは φを自発磁化と見なしている. b < 0の時, F が不安定になるためb > 0 とする. (3.6)式はaの場合分けによって関数の形を変える. a =kt, k = (T −Tc)とする. k は定数で ある. aの場合分けは図??のように考えられる. つまりa >0の時はT > Tc であり, a= 0の 時はT =Tc, a <0の時, T < Tc である. a < 0の時は自由エネルギーは二重井戸型であり, 熱平衡状態を実現する自発磁化φはnon-zeroであることがわかる. a > 0, a = 0の時の熱平 衡状態を実現する自発磁化φはゼロである. つまりa = 0の領域が臨界点を表している. 同様
に考えて, Lifshitz pointを考える時の自由エネルギーは以下のように与えられる.
F ∼aφ2+bφ4+α(∇φ)2+β"
∇2φ#4
(3.7) ここでb >0, β > 0とする. この模型で臨界点である三重点, つまりLifshitz pointを考える 時,a =α= 0となる. この時Lifshitz pointでの自由エネルギーは
FLS∼bφ4+β"
∇2φ#4
(3.8) となる. (3.8)式において, 高エネルギー領域でのリーディングな項はβ"
∇2φ#4
である. つま り,ポテンシャル項にβ"
∇2φ#4
を含む作用を構成する場合, 理論をLifshitz pointにおいた事 を意味する. スカラー場の理論をLifshitz pointにおくと, (3.1.1)式と同様,
SLS =−1 2
$
ddxdt (
(∂tφ(x, t))2− )1
2∂∂φ(x, t)*2+
(3.9)
が得られる.
3.1.3 Lifshitz point の理論における時間と空間の非等方性
この小節ではLifshitz point におかれた理論が時間と空間の取り扱いが非等方となる事を 見る. この非等方性は, 理論のポテンシャルがLandau理論の解説で見たLifshitz pointでの リーディングな項を含んでいる事から来ている. この事を簡単な例として上記でみた(1 +d) 次元のLifshitzスカラー場の理論
SLS=−1 2
$
ddxdt (
(∂tφ(x, t))2− )1
2∂∂φ(x, t)
*2+
(3.10) を用いて確認する. この理論の運動項は
Skinetic =−1 2
$
ddxdt(∂tφ(x, t))2 (3.11) である. スケーリングを以下
xi '→bxi
t'→bzt (3.12)
と仮定する. ここでbは任意定数で, z は動的臨界指数と呼ばれる. このスケーリングの下でφ の次元を求めると
0 =d[dx] + [dt] + 2 [∂t] + 2 [φ]
=−d−z+ 2z+ 2 [φ] (3.13)
であるから
[φ] = d−z
2 (3.14)
となる. さらに, (3.1.2)式のポテンシャル項の次元解析を行うと
0 =d[dx] + [dt] + 4 [∂i] + 2 [φ]
=−d−z+ 4 + 2 [φ] (3.15)
(3.14)及び(3.15)式より
z = 2 (3.16)
となる. これは空間次元とは無関係な値であり, 時間と空間の非等方さを表している. つまり Lorentz対称性が破れている. 今の例はz = 2の場合であったが, ((∇)zφ)2 をポテンシャル項 に入れる事で一般的なLifshitz型理論が作られる. もし動的臨界指数が
z = 1 (3.17)