第 9 章 共鳴現象 87
9.1.2 中間状態がオンシェル条件を満たす s- チャネル散乱振幅
オンシェル中間状態のプロパゲーターを持つs-チャネル散乱振幅を評価する. そして, も し 8.2節で示された全ての条件に従うなならば, ユニタリー性の条件は満たされる事を見る. 自己エネルギーの運動量依存性は, 以下のように評価される. 1 粒子既約の自己エネルギー
−iΣ(E, P)に寄与するリーディングオーダーは, 1ループ図(図 9.3を見ると明らか)によっ て与えられる. この1粒子既約な図は
−iΣ1−loop(E, P) =i
$
dωddp|V(P,p1,p2)|2G1G2, (9.8) の形をとる. ここで, p1 :=P/2 +p, p2 :=P/2−p であり,
G1 = 1
(E/2 +ω)2−f(p21) +iϵ, G2 = 1
(E/2 +ω)2−f(p22) +iϵ. (9.9) となる. ここで, V(P,p1,p2)は3点バーテックスである. このバーテックスに対して,一般の
形(8.43)を限定するΣの虚部を評価するため, 以下の関係式を使う.
1
x+iϵ =P1
x −iπδ(x), (9.10)
図9.4 Cutting rule
ここで, P1x は1/x. の主値を表す. その時, Σの虚部は Im Σ(E, P)
∼π2
$
dωddp|V(P,p1,p2)|2δ"
(E/2 +ω)2−f(p21)# δ"
(E/2 +ω)2−f(p22)#
=π2
$ ddp1 2E1
ddp2
2E2 |V(P,p1,p2)|2δ(E1+E2−E)δd(p1+p2−P), (9.11) として書き換えられる. ここで, 主値の積は虚部へ寄与しない事を使った. これは, Cutting ruleである. これは, 1ループでの自己エネルギーの図の虚部とツリーレベルでの崩壊図を関 係付ける(図 9.4を見ると明らかである). 相互作用項 (8.43) は, 3次相互作用の間でのリー ディングオーダーの寄与を与えるとする. その時, Im Σ(E, P) は
Im Σ(E, P) ∼ π2
$
dΠ2(p)FFFpa11pa22|p1+p2|a3 + (ai に対する置換)FFF2. (9.12) として書き換えられる. 二つの積分領域が存在する. そのどちらかの積分領域は, Im Σに対 するリーディングオーダーを与える. すなわち,
1. p1とp2 のどちらもO(P)のオーダーとなる領域, 2. p1 (もしくは p2)だけがO(P)のオーダーとなる領域
となる. 領域1と2からの寄与は, それぞれPγ1 と Pγ2 として評価される. この寄与は, γ1 :=d−3z + 2(a1+a2+a3), γ2 :=−2z+ 1 + 2(a2+a3), (9.13) を持つ.
ここで, 後者の場合に対するデルタ関数の評価は, 下記の式, (8.24)でなされた議論で得ら れた評価と同じである (8.24). 従って, Im Σの漸近的な振舞いは
Im Σ≈Pmax(γ1,γ2). (9.14)
9.1 オンシェル条件を満たす中間状態と共鳴現象 91 で与えられる. オンシェル条件を満たす中間状態を持つ, s-チャネル図 8.2を調べよう. 相互
作用項 (8.43)は, 仮定によりリーディングの寄与を与えるので, 他の3点バーテックスで構成
された図はサブリーディングである. すなわち, 式 (8.43)に対応するバーテックスから構成さ れたs-チャネル振幅に対する, ユニタリー性を調べるには十分である.
|α⟩ →|α⟩
γ1 ≥γ2 に対して, M(p1,p2 →k1,k2) の漸近的振舞いが
M(p1,p2 →k1,k2) ≈ P3z−d. (9.15) によって与えられる. これは, ユニタリー性の条件(8.27)を満たしている.
γ1 ≤γ2 に対して, M(p1,p2 →k1,k2)の振幅は
M(p1,p2 →k1,k2) ≈ P2a1−1+2z. (9.16) として見積もられる. γ1 ≤ γ2 が, 2a1−1 + 2z ≤3z −dの振舞いをすると仮定すると, ユニ タリー性の条件(8.27) が満たされる.
|β⟩ →|β⟩
γ1 ≥γ2 に対して, M(p1,p2 →k1,k2)のリーディングな項は
M(p1,p2 →k1,k2) ≈ P−d+3z−2a1. (9.17) によって与えられる. γ1 ≥γ2 に対して, −d+ 3z−2a1 ≤2z−1として振る舞うので,ユニタ リー性の条件 (8.29) は満たされる.
γ1 ≤γ2 に対して, M(p1,p2 →k1,k2)は
M(p1,p2 →k1,k2) ≈ P2z−1. (9.18) として振る舞うと見積もる事ができる. この振幅はユニタリー性の条件(8.29)を満たす.
|α⟩ →|β⟩
γ1 ≥γ2 に対して, 振幅のリーディングの振舞いは
M(p1,p2 →k1,k2) ≈ P−d+3z−a1. (9.19) として見積もる事ができる. 不等式 γ1 ≥ γ2 は−d+ 3z−a1 ≤ 5z−2d−1 を与えるので, これ は,ユニタリー性の条件(8.31). を満たす.
γ1 ≤γ2 に対して, M(p1,p2 →k1,k2)のリーディングな項は
M(p1,p2 →k1,k2) ≈ Pa1+2z−1. (9.20) として読み取る事ができる. 不等式 γ1 ≤γ2 は
a1−1 + 2z ≤ 5z−2d−1, 条件 (8.31)として書き換えられるので, 条件 (8.31)は満たされる.
93
第 10 章
結論
本学位論文では, Lifshitz型理論における量子論的側面を探求した. まず,序章ではEinstein 重力における紫外発散の問題を述べた. ここでは, Einstein 重力が宇宙初期特異点及びBH の特異点近傍では破綻し, Einstein重力を超えた重力理論の必要性を指摘し, その解決に向け た量子重力理論の候補として, 超弦理論, 超重力理論, 高階微分を含む重力理論及びHL重力 とその問題の概要を述べた. 次の第2 章では, Einstein重力の繰り込み可能性の問題を傍観 した. 第3 章では, 量子重力理論の候補の中でも本学位論文の中心的な問題として扱われる HL重力の概要を述べた. 第4章では, 相対論的な場の理論で示唆された繰り込み可能性と ユニタリー性の等価性について述べた. ここでは, 実際に繰り込み可能性が証明されている Weinberg-Salam模型を例に, 散乱振幅が保たれる事を見た.
第5章では, HL重力における繰り込み可能性への取り組みを述べ,そこで浮き彫りになる問 題を述べた. HL重力はLorentz対称性を破る事でUVでの振舞いをよくした理論であり, も し繰り込み可能性とツリーレベルでのユニタリー性がLifshitz型理論でも成り立てば, 散乱振 幅の高エネルギー極限での振舞いがよく, ツリーレベルでのユニタリー性も保たれるはずであ る. しかし, 実際にHL重力のFeynman 則を導出し, 散乱振幅の振舞いを見るとEinstein重 力よりも悪い振舞いをする事を見た.
そして, 第6章と7章では, Lifshitzスカラー場の理論の繰り込み可能性を議論した. 第6章 では, 動的臨界指数z が空間次元d と同じ場合(z = d)のLifshitzスカラー理論を用いて1 ループレベルでの繰り込み可能性を調べた. まずLifshitz型のスカラー場の理論を傍観した. z =dならば, スカラー場の質量次元が無次元となる. この時, 相互作用項の次元は場の数に依 存しない為, 2z以下の空間微分を持つあらゆる相互作用項は, PCRの条件を満たす. この特別 な場合において, シフト対称性がある場合とない場合で1ループ計算を行った. 実際に1ルー プの計算を行うと, シフト対称性がある場合は繰り込み可能であり, シフト対称性がない場合 は繰り込み不可能である事が分かった. Lifshitz型の理論はLorentz対称性を破る事で相互作 用に高階の空間微分を許し, 繰り込みの性質をよくした理論であった. しかし, Lifshitz型の理
論において, 素朴なPCR の条件を満たすのみでは不十分であり, 発散を除去する相殺項が有 限個に抑えることができるような何かしらの対称性が必要である事がこの1ループの議論から 理解できる. 例え, 無限個の相殺項を持つ理論が最初に設定して議論を始めたとしても, 結果と して無限個の相互作用まで全て取り扱う必要が生じる. もし有限個の相殺項のみで作用が構成 されているのであれば, 必然的にそのような問題は避けられる. シフト対称性が課される場合, 潜在的に危険な相互作用項を禁止される事を見た. 理論がシフト対称性を持つ場合は, 1ルー プで必要とされる相殺項の数が有限である事を示した. 対称性ではなく, PCRの条件を満た す相互作用項だけを人為的に手で用意する事も可能であるが, そのような場合は対称性理論に ないような理論も当然含まれる可能性がある. しかし, もしその対称性がないような理論を用 いた場合は, 重力のような他のセクターと全て結合するような場合を考慮すると手で取り除い た無限個の相殺項を許すような相互作用項まで生成される可能性がある. 従って, このような 対称性を要請する事で, 物質場と結合するHL重力のような, Lifshitz scalingを持つ紫外領域 で完全な理論を構成するのに対して重要な示唆を秘めている. パワーカウンティングの議論で は, 場と重力場の間で結合を考えると無限個の相互作用項が許される事が知られている[107].
従って, Lifshitz型理論においてもし対称性が本質的な存在ならばスカラー場の自己相互作用
の形だけでなく, 重力との相互作用項に対しても強い制限を与える事ができる.
第7章では, 繰り込み可能性の条件が, 相対論的な場の理論における条件から拡張されなけ ればいけない事を示した. 非等方的なスケーリングのため, z とdが任意の組み合わせの場合 を扱う事ができ, 場の質量次元が負になる場合がある.
場の質量次元が負になる場合, 相互作用項が相対論的な場の理論における繰り込み可能性の 条件をたとえ満たしていたとしても, 相互作用項の次元の一部が相互作用項全体の次元よりも 大きくなる事ができる.
もしこの相互作用項の一部のみがループ積分の発散の寄与するならば, 通常のPCRの意味 で繰り込み不可能な項のように振る舞う. つまりループ積分の発散の次数が増加し, この種類 の相互作用項は繰り込み不可能となる. 我々は, この種類の相互作用を除外する条件を導出し た. この条件を拡張されたPCRと呼ぶ. 拡張されたPCRのこの具体的な式は, 不等式(7.13) と(7.14) (もしくは (7.15)と(7.16))で与えられる.
第8章と第9章では, 自己相互作用する単一のLifshitzスカラー場の理論における繰り込み 可能性とユニタリー性を研究した. 時間と空間の非等方性のため, 繰り込み可能性の条件とユ ニタリー性の条件が相対論的な場の理論の場合と異なっている. 正確には, 3点と4点の相互 作用項に対する条件を導出し, 繰り込みとユニタリー性の条件が等価であることを示した. こ の結果は, 非相対論的な場合を含む一般的な場の理論において, 繰り込み可能性とユニタリー 性が等価である事の証拠の一つである. 2体-2体散乱のツリーレベルでのユニタリー性を満た す3次と4次の相互作用項の条件を導出した. 相対論的な場合と異なり, S行列要素は基準座 標の依存性を持つので, ユニタリー性に対して様々な条件が要求される.
95 ユニタリー性の条件が拡張されたPCR条件と等価である事を見た. s-チャネルの中間状態 のプロパゲーターがオンシェル条件を満たす場合を調べた. オンシェル条件を満たす, s-チャ ネル中間状態のプロパゲーターに対するユニタリー性の制限制限は, より強い制限を与える. しかし, その制限は実際に摂動的な結果の適用外である.
9.1において, 非線形効果, つまり, 共鳴を考慮すると拡張された PCR条件を満たす相互 作用項はユニタリー性の制限を破らない事を示した. これらの結果より, 上記で挙げた拡張 されたPCRとツリーレベルにおけるユニタリー性が Lifshitzスカラー理論において等価で あり, 最もユニタリー性を破りうるオンシェル条件の場合でさえ, この等価性が満たされる事 が示された. この結果から, HL重力の繰り込み可能性の証明過程で生じた疑問に対する回答 が得られ, 矛盾がない事が理解される. 従って, ツリーレベルにおけるユニタリー性の手法は,
Lorentz対称性が破れたHL重力の繰り込み可能性を探る上でも有効である事が示唆される.
HL重力はシフト対称性よりも厳しいFDiff の対称性が課されている事を確認した. つまり, 対称性が課されているため, 相殺項を有限できる可能性がある. 実際,このLifshitzスカラー理 論ではシフト対称性が課されている場合は繰り込み可能であり, この相互作用項はユニタリー 性を満たしている事をみた. 逆に言えば, シフト対称性が課されていない場合の相互作用項は, ユニタリー性の条件を満たしていない. 従って, ツリーレベルのユニタリー性の議論を用いて HL重力の繰り込み可能性を調べる事ができる, つまり, 本学位論文で述べた一連の研究結果か
らLorentz対称性の破れたLifshitz型理論においても, 繰り込み可能性とツリーレベルでのユ
ニタリー性が等価である事が示された. 以上で述べたように, 本学位論文では,繰り込み可能性 とユニタリー性という量子論的側面がLifshitz型理論において探求された.