─ 111 ─ 1.はじめに
1961 年度(昭和 36 年度)の学習指導要領 改訂で,初めて高校数学にベクトルが導入さ れ, 1973 年度(昭和 48 年度)改訂の学習指導 要領では,「ベクトル」 は数学Ⅰと数学Ⅱ B で 扱う内容となっていた。空間における直線,平 面及び球の方程式は数学Ⅱ B で扱われていた。
1982 年度(昭和 57 年度)改訂の学習指導要領 では,科目の構成は変わったが,高等学校での
「ベクトル」 の扱いに大きな変化はなかった。
しかし,1994 年度(平成 6 年度)改訂以降 の学習指導要領では,空間における直線,平面 及び球の方程式の扱いが軽くなっている。「高 等学校学習指導要領解説 数学編」 では 「空間 におけるベクトルを用いた方程式については,
平面における直線についての考察が,そのまま,
空間における直線の考察に適用できることを知 らせる程度にとどめる。」 とされた。
2003 年度(平成 15 年度)改訂の 「高等学校 学習指導要領解説 数学編」 では,空間座標と ベクトルの内容の取扱について 「空間における ベクトルが,平面上のベクトルと同様に扱える ことの理解に重点を置き,空間におけるベクト ルを用いた方程式は扱わないものとする。また,
空間図形の方程式については, などを扱う程度 とする。」 とある。さらに解説で,「空間座標の 概念を導入し,その意味や表し方について理解 させるとともに,内積や成分などの平面上のベ クトルの考えを空間に拡張して空間ベクトルを
理解させ,空間図形の考察にそれらを活用でき るようにする。」 とある。
生徒にとって 「ベクトル」 は決して理解しや すい単元ではない。現状で生徒がベクトルを学 習した後,空間ベクトルは平面ベクトルの考え を拡張したものだと実感し,さらに,空間にお ける平面や直線に関する問題の解決ができるよ うになるのか疑問である。
そこで,「ベクトル」 を一通り学習した生徒 に対して,もう一度見直す機会(時間)をもう け,平面上のベクトルと空間ベクトルが同様に 扱えることを対比することによって理解させた い。一つ一つは,基本的な事柄だが,対比する ことによって平面から空間へ拡張されているこ とを確認させ,空間に関する問題解決にも十分 役立つ力が培われると考えた。また,数学Ⅱで 学習した 「図形と方程式」 の内容の確認にもな り,生徒にとって新しい発見にもつながると考 えた。
なお,2012 年度改訂の新学習指導要領では,
空間ベクトルの内容がやや抽象的に書かれてい るため,空間図形の方程式の扱い方や扱う分量 は未定であるが現行課程よりかなり増えると予 想させているので空間における直線の方程式や 平面の方程式が復活する可能性もあるのではな いか期待したい。
2.授業展開
最初に,もっとも基本的な図形である直線に
ベクトルの指導法
中野 修一
神奈川大学心理・教育研究論集 第33号(2013年3月20日)
ついて確認する。
座標平面上における直線の方程式は,
(1)傾きが , 切片が のとき,
= +
(2)点( 1,1)を通り,傾きが のとき,
− 1= ( − 1)
(3)異なる2点( 1,1),( 2,2)を通る とき,
1㱠 2のとき, …① 1= 2のとき, = 1
ここまでは,既に学習済みである。
直線の方程式 = +
の形を直線の標準形という。
①式の分母を払うと,
( 2− 1)( − 1)=( 2− 1)( − 1) 整理すると,
( 2− 1) +( 1− 2) + 2 1− 1 2= 0 ここで,2− 1= ,1− 2= ,2 1− 1 2= とおくと
①式は + + = 0 と表せる。
2 点( 1,1),( 2,2)は異なるから
= = 0 となることはない。
よって,方程式 + + = 0 は直線を表す 方程式である。
これを直線の一般形という。標準形では, 軸 に垂直な直線 = 1を表すことができないが,
一般形では, 平面上のすべての直線を表す ことができる。これは数学Ⅱの 「図形と方程式」
で学習する内容である。
(1),(2),(3)は, 平 面 上 の 点P( , ) が直線上にあるための条件を点Pの座標 , を 用いて書き表したものである。ここでは,点 P( )が直線上にあるための条件を で書き表 し,直線のベクトル方程式を求める。そして,
それを成分表示することによって,既習済みの 直線の方程式を確認させる。また,同じ考え方 で 座標空間に拡張したとき,直線が直線に,
また,直線が平面になることを示す。平面の方 程式は高校数学の教科書の範囲外であるが,大 学以後の解析幾何の学習の好適な準備になると 考える。また,平面の方程式を扱う上で,ベク トルの “ 外積 ” について解説して,数学の道具 として使えるようにした。
点
O
がある。(点O
に関する位置ベクトルを用いて表す。)[Ⅰ]点
A
( )を通り,ベクトル (㱠 )に平行な直線 の方程式について考える。─ 113 ─
[Ⅱ]次に異なる2点
A
( ),B
( )を通る直線 の方程式について考える。神奈川大学心理・教育研究論集 第33号(2013年3月20日)
[Ⅲ]点
A
( )を通り,ベクトル に垂直な直線及び平面の方程式について考える。─ 115 ─ 直線の方程式の一般形 + + = 0 は, ,
を成分とするベクトル =( , )に垂直な直 線であることが解る。
この考え方を拡張して,空間で考えると + + + = 0 と , , の一次式が得られ る。この式は平面を表している。さらに,この 平面は , , を成分とするベクトル =( ,
, )に垂直である。
このベクトル を直線 及び平面αの法線ベ クトルという。
ここで,ⓐとⓑについて考える。
[Ⅰ]の式ⓐは
− 1= ( − 1)
− 1= ( − 1)
( − 1)− ( − 1)+ 0・ =0 0・ +( − 1)− ( − 1)=0
+(− )+ 0・ +(− 1+ 1)=0 0・ + +(− )+(− 1+ 1)=0
[Ⅱ]の式ⓑは,
− 1= ( − 1)
− 1= ( − 1)
( 2− 1)( − 1)−( 2− 1)( − 1)+0・ =0 0・ +( 2− 1)( − 1)−( 2− 1)( − 1)=0
( 2− 1)+(− 2+ 1)+0・
+( 2− 1)(− 1)+( 2− 1)1=0 0・ +( 2− 1)+(− 2+ 1)
+( 2− 1)(− 1)+( 2− 1)1=0 よって,ⓐとⓑはいずれも,2平面の交線を表 していることが解る。
次に,同一直線上にない3点
A
( 1, 1,1),B
( 2, 2,2),C
( 3, 3,3)を通る平面の方程 式の求め方について考える。求める平面の方程式を + + + = 0(一 般形)とすると,3点
A
,B
,C
を通るから,1+ 1+ 1+ =0
2+ 2+ 2+ =0
3+ 3+ 3+ =0
が成り立つ。
この連立方程式から, : : : を求めれば いい。
もう一つの考えとしては,法線ベクトル を 求める。
は と に垂直なベクトルだから,
・ = 0 かつ ・ = 0 から,
( 2− 1)+ ( 2− 1)+( 2− 1)=0
( 3− 1)+ ( 3− 1)+( 3− 1)=0 が成り立つ。
この連立方程式から : : を求めればいい。
神奈川大学心理・教育研究論集 第33号(2013年3月20日)
この解法では,
ABC
平面上の 2 つのベクトル, に垂直なベクトル (法線ベクトル)
を求めるために,内積を用いて求めたが “ 外積 ” という考えを用いると法線ベクトル をもっと 簡単に求めることができる。
<外積の定義>
・ と の外積は と表す。
・外積 はベクトルである。
・ の大きさ| |は
| |=| || |sinθである。
(ただし,θは と のなす角である。)
よって,| |は と を 2 辺とする平行四 辺形の面積に等しいことが解る。
・ の向きは と に垂直で, と の始点 を重ね, を 180 より小さい角度で に重 ねるために回したとき,右ネジが進む方向で ある。
<外積の基本的性質>
・ =− (交換法則は成り立たない。)
・ ( + )= +
・( + ) = +
・ = ・( ) =( )= ( )
<基本ベクトルにおける外積>
軸方向の基本ベクトルを 1=(1,0,0),
軸方向の基本ベクトルを 2=(0,1,0),
軸方向の基本ベクトルを 3=(0,0,1)
とすると定義から
・ 1 2= 3 ・ 2 1=− 3
・ 2 3= 1 ・ 3 2=− 1
・ 3 1= 2 ・ 1 3=− 2
・ 1 1= 2 2= 3 3= であることが解る。
ここで,
=( 1, 1,1), =( 2, 2,2)とすると,
=( 1 1+ 1 2+1 3)( 2 1+ 2 2+ 2 3) = 1 1( 2 1+ 2 2+ 2 3)
+ 1 2( 2 1+ 2 2+ 2 3) +1 3( 2 1+ 2 2+ 2 3) = 1 2( 1 1)+ 1 2( 1 2)+ 1 2( 1 3) +1 2( 2 1)+1 2( 2 2)+1 2( 2 3) +1 2( 3 1)+1 2( 3 2)+1 2( 3 3) = 1 2 3+ 1 2(− 2)+ 1 2(− 3)
+ 1 2 1+ 1 2 2+ 1 2(− 1)
=(1 2− 1 2)1+(1 2− 1 2)2+(1 2− 1 2)3
=( 1 2−1 2, 1 2− 1 2, 1 2− 1 2) よって,重要な公式
=( 1 2− 1 2, 1 2− 1 2, 1 2− 1 2) が導かれた。
外積を使って,3点
A
( 1,1,1 ),B
( 0,2,3),C
(4,0,2)通る平面の方程式を求めてみる。=(-1,1,2 ), =( 3,-1,1 )より 法線ベクトルは =( 3,7,-2 )である。
求める平面は,点
A
( 1,1,1 )を通るから,3( −1)+7( −1)−2( −1)=0 よって, 3 +7 −2 =8 が得られる。
(外積で簡単に法線ベクトルが求められる。)
─ 117 ─
[Ⅳ]最後に,点と直線の距離及び点と平面の距離について考える。
以上のことから,平面での公式をコピーアン ドペーストして, 成分を追加すれば,空間に おける公式が得られる。このことから,「空間 におけるベクトルは,平面上のベクトルと同様 に扱える」ことが解る。
さらに,数学Ⅱで学んだ図形と方程式の復習 にもなる。
最後に “ 外積 ” を扱ったので三角形の面積を 成分で表すことについても触れてみた。
神奈川大学心理・教育研究論集 第33号(2013年3月20日)
[Ⅴ]三角形の面積について考える。