海草コアマモ群落の季節消長および コアマモ場造成技術の開発に関する研究
平成 23 年度
三重大学大学院生物資源学研究科 博士前期課程 生物圏生命科学専攻
海洋生物科学講座
宮松亜美
目次
序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.
天然群落季節消長・・・・・・・・・ 8
2.
陸上水槽における生殖株形成実験・・10 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
1.
天然群落季節消長・・・・・・・・・15
2.
陸上水槽における生殖株形成実験・・20
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
1
序論
コアマモZostera japonica Ascher.&Graebn.は アマモ科アマモ属の海産種子植物であり海草
と呼ばれている(図1)。世界および日本にお
けるコアマモの分布を図2に示した。本種は北
太平洋沿岸の温帯域から亜熱帯域にかけて分 布している(Shoer et al. 2001, Phillips and
Meñez 1988)。日本では北海道から本州を経て、
亜熱帯域の奄美大島・沖縄本島までほぼ全国的
に分布している(野沢1981)。これに対しアマ
モZostera marina Linnaeusは北半球の亜寒帯か ら温帯に広く分布し、日本では北海道から九州
まで分布している(野沢 1981、大森 2000)。
コアマモはアマモに比べ南方にまで生息して いる海草である。
コアマモの生活史を図3に示した。コアマモには種子による有性繁殖と、分岐による
栄養繁殖がある。有性繁殖では夏に生殖株の形成が始まり、秋に種子を放出する。放出 された種子は休眠した後、晩冬から初春にかけて発芽・伸長する。栄養繁殖は地下茎か 図 1 コアマモの栄養株および生殖株
図 2 世界および日本におけるコアマ モの分布域
35°N
135°E
日本海
太平洋
2
らの分岐によって繁殖する方法で、春から夏にかけて盛んに分岐する(新崎 1950)。
コアマモは内湾の干潟、河口および塩沢地など
の低潮線付近から漸深帯の海底の砂上に図 4 のよ
うに密な群落を作り、アマモ、タチアマモ(Zostera caulescens Miki)等Zostera属の海草と共にアマモ 場を形成する。アマモ場は沿岸域の主要な一次生 産の場であるとともに、窒素やリンなどの栄養塩の
吸収による水質浄化作用もあり、魚介類の餌場・産卵場、幼稚仔魚の生育場など、内湾
の生態系にとって重要な役割を果たしている(幡手 1981,田中 1998)。
コアマモは草体長3-30cm、葉幅1-2mm、葉脈数は3本とされている。これに対しア
マモは草体長 30-140cm、葉幅 5-12mm、葉脈数は5-11本であり、アマモに比べコアマ
有性繁殖 栄養繁殖
発芽 種子
生長期
生長期 栄養株 衰退期
生殖株
夏 秋
冬 冬~初春
春~夏 成熟期
図 3 コアマモの生活史
図 4 干出するコアマモ群落(三 重県鳥羽市)
コアマモ群落 干潟 海
3 モは小型である。(新崎
1950, 大森 2000)。また、
生育水深も異なり、コア マモは干出する低潮線付
近から水深 1m 以浅に生育するのに対しアマモは水深 1-5m の低潮線以深に生育する
(Nakaoka and Aioi 2001)。更に、天然群落におけるコアマモの株密度は1216-4112 shoots
m-2とアマモに比べて極めて高く(横田 2005、阿部ら 2004、上出 2007)、草体に占
める地下部の割合も高い(横田 2005)。このような特性から、コアマモは底質を安定
させるはたらきがあり、図5のように干潟の維持や干潟から浅場にかけての生物の保全
など、干潟、浅場における連続的な生態系に重要な役割を果たしている。
近年、アマモ場は世界的に減少していることが報告されている(相生 2000)。日本
においても、環境庁の調査によると1978年から1991年までの13年で2077haのアマモ
場が消失し(相生 1999)、1999年には更なる減少が示唆されている(環境省 2004)。
特に伊勢湾では,1955年から1994年までの40年間で94%のアマモ場が消失した。三
重県側では1994年から1999年の5年間でさらに70%のアマモ場が失われた(三重県
2001)。アマモ場の減少に伴い日本各地で人工的にアマモ場を再生する試みが行われる
ようになった。特に1960年以降、山口県・大分県・広島県・岡山県などの瀬戸内海沿
岸で、アマモ場再生に向けた取り組みが活発になされてきた(田中 1998)。しかし、
図5 連続した生態系の維持
4
再生の対象となっているのは主にアマモについてであり、干潟、浅場における連続的な
生態系を維持するコアマモについての再生例は極めて少ない(矢野 2003)。また、コ
アマモに関する生態、生理的知見は少なく、2007年に環境省が新たなレッドリストを 発表するまでは情報不足の種(DD)とされてきた。したがって、コアマモの保全、再 生を行うためにも早急に基礎的知見を得ることが必要である。
一般的にアマモ場の造成には大きく分けて二つの方法がある。一つは天然群落から株 を採集し、造成先に移植する方法である。もう一つは造成地への播種や、種子から発芽 させ種苗生産の後移植するといった種子を用いる方法である。アマモ種子を用いた方法 は数多く行われている。種子を播種シート(東洋建設株式会社、モリエコロジー株式会 社)やゾステラマット(芙蓉海洋開発株式会社)など生分解性のマットに挟んで設置す るマット法や、泥に種子を混合してガーゼで包み埋土するガーゼ法といった造成技術が 開発され全国的に行われている。これに対し主にコアマモのみで形成されるコアマモ場
については、中海での移植マットを使用したコアマモ場造成(宮本ら 2008)や人工干
潟へのコアマモ移植実験(国分ら 2004)等があるが、いずれも移植法で行われている。
しかし、この造成法は様々な問題を抱えている。例えば母藻採集先の天然群落の破壊に 繋がることや、コアマモは環境省レッドリストからは外されたものの、三重県や佐賀県 等のレッドリストでは絶滅危惧種に指定されている(三重県 2005,佐賀2003)こと
5
が挙げられる。更に、限られた区域から採集するため、遺伝的多様性が低くなるといっ た問題も考えられる。
一方で種子用いて造成を行う方法は、コアマモではこれまで行われてこなかった。そ
の理由としては、種子が小さく扱いが難しいこと、発芽率が著しく低いこと(志賀 2004,
越川ら 2007,Abe et al. 2009)、種子生産が低くいこと(上出 2007)、があげられる。
しかし、宮松(2010)とMoritaら(2011)により、種子への冷温処理と温度変化によ
って発芽率を最大70%まで向上させることが可能となった。この知見を用いることで種
苗を大量生産し造成を行えると考えられる。
種子を用いたコアマモ場造成には多量の種子確保が不可欠であり、実験レベル以上の 種子数の安定供給が求められる。アマモ場造成に用いるアマモ種子は天然群落から未成 熟な花穂をつけた生殖株を採取し、陸上水槽で追熟を行うことで多量の種子を得ること
ができる。アマモの生殖株形成率は東京湾で最高23.5%(輪島 2004)、三重県松阪市
松名瀬で15-34%(阿部 2005)と高く、さらにアマモ生殖株の草体長は栄養株よりは
るかに長くなるため干潮時に水面に漂い、容易に採取することができる。さらにアマモ の生殖株は種子をつけたまま流失するために、少し引くだけで地上部全体が採取できる ことも種子収集を容易にしている要因であると考えられる。
これに対し、コアマモの生殖株は採取が非常に難しい。要因としては、コアマモの生 殖株形成率はアマモに比べ低く、和歌山県田沼湾で最高でも0.1-11.1%(上出 2007)程
6
度であること、アマモ群落が帯状分布なのに対してコアマモ群落はパッチ状に分布して いること、コアマモの生殖株の草体長は栄養株とあまり変わらないため見分けが難しい
こと(横田 2005)、種子を多く採取するためにはスキューバやスノーケルを用いて潜
水作業を行なわなければならないこと等が考えられる。そのため造成に使用するコアマ モ種子を多量に準備するには労力がかかり技術も必要となる。さらに、天然群落からの 多量の種子採取は貴重なコアマモ群落の破壊へ繋がり問題とされている。種子を用いた コアマモ場造成を確立させるためには、造成に用いる種子の供給を簡単かつ多量に、天 然群落に負担をかけない採取方法を模索する必要がある。
これまでコアマモの造成が進展しなかったのは以上に述べたような、コアマモの生態 学的、生物学的知見が少ないのが原因と考えられる。天然群落で種子を採取するにはそ の群落の繁殖戦略を知る必要がある。そこで本研究ではまずコアマモの繁殖戦略に着目 し、三重県内の天然群落について株密度、成熟率、現存量等の季節消長を明らかにしよ うと考えた。
コアマモの種子はこれまで天然群落において多人数で採取するにも関わらず、1度に
少量しか得られなかった。そのため造成に用いる多量の種子を安定供給する方法の開発 が求められている。そこで陸上水槽等でコアマモを生殖株まで培養することで、効率よ く容易に種子を採取できるのではないかと考えた。陸上水槽では波や雨等の天候に影響 されず、作業し易い水位に調節することが可能である。さらにパッチ状分布である天然
7
群落より労力を軽減できると考えられる。そのため本研究では種子の大量生産を目的と し、陸上大型水槽を用いてコアマモの種子形成に最適な底質、水深条件の解明を試みた。
さらにコアマモの生殖期間は5-10月と長期であることから(上出 2007, 横田 2005)、
種子を最も効率よく大量に得ることができる時期を明らかにすることを目的とし、花穂 の成熟段階と種子形成率を調査した。本研究を行うことでコアマモ種子の安定供給が可 能となり、種苗の大量生産と、造成手法の確立に繋げることができるものと考えられる。
8
材料と方法
1.天然群落季節消長
本研究における調査地点を図6に示した。三重県
鳥羽市浦村町にある小白浜は波静かな内湾に位置 し、近くでカキ養殖が行われている砂泥質の浜であ
る(図7)。D.L.-60cmより浅場にパッチ状のコアマ
モ群落が形成され、これより深場に帯状のアマモ群
落が広がっている。アマモは多年生で1年を通して
群落が見られる。D.L.-220cm以深になると急激に深
くなりアマモは見られなくなる。
材料はパッチ状の密なコアマモ群落の生育 水深の深い場所(群落深区)と浅い場所(群 落浅区)、この群落より浅場でコアマモが疎に
生育する場所(疎生区)の 3 条件の水深から
採取した。各水深の平均的な株密度、草体長である場所に 25×25cm のステンレス製の
方形枠を設置し、枠内にあるコアマモの地上部と地下部を採取した。採取は 1 つの水深
につき3か所で行った。採取したコアマモはネットに入れてクーラーボックスで持ち帰
り、実験室で測定を行った。測定項目は株数、草体長および現存量とし、2009年12月 津市 松名瀬
浜島町
小白浜
図6 季節消長調査地および生
殖株採集場所と三重県水産研 究所所在地
図7 パッチ状に分布するコアマモ
群落(三重県鳥羽市浦村町小白浜)
9
24日から2010年12月22日まで2か月に1回、そのうち8-10月は1か月に1回行った。
測定項目は株密度と草体長および花穂数と現存量とした。株密度は株の本数を計測し
1m2あたりに換算した値とした。草体長は shootごとに最も長い葉の先端から地下茎ま
でを測定した。生殖株は花穂が形成された株とし、1株に形成された花穂数を計測した。
株数および草体長の測定後、砂や貝等を取り除いて葉に付着した珪藻を軽く拭き取った。
地上部(葉身、葉鞘)と地下部(地下茎、不定根)に分けて紙の封筒に入れ、72 時間
60℃で乾燥し重量を測定した。
コアマモの生育地と非生育地の環境条件の違 いを明らかにするため、底泥中の温度を測定し
た。図8に示したポータブル型メモリー式水温
計(Onest UBI-001)をペグ(50cm)のリング部 分にインシュロックでくくり付け、その上から
ビニルテープで巻いて固定した。コアマモ採取場所と浅区より浅くコアマモが生育して
いない場所(非生育区)の合計4か所に、水温計の上端が底質表面から出ない程度まで
埋没させて設置した。測定は 4-5か月連続して 2回行った。1 回目は2009年12月24
日から2010年5月19日、2回目は2010年8月3日から12月22日で、15分毎に温度
の測定を行った。
図8 ポータブル型メモリー
式水温計
10
2.陸上水槽における生殖株形成実験
本研究で使用した材料のコアマモの種子は、三重県松阪市松名瀬(図6)のコアマモ
群落で採取したコアマモの生殖株の花穂から得た。現場海域は伊勢湾に面した遠浅で波
静かな海岸で、底質は砂泥である。松名瀬には水深1.3-3.0mに、岸に沿って長さ4km、
幅50-200mにわたって県内最大級のアマモ場が広がっている。ここに生育するアマモは
多年生であり年間を通して群落が見られる。コアマモはアマモの生育地より岸側にパッ チ状に分布し、干出する水深においても生育が見られる。
コアマモの生殖株は2008年9月16日と9月25日にシュノーケルおよびスキューバ
で採取し、ネットに入れ、クー ラーボックスで志摩市浜島町
にある三重県水産研究所(図6)
へ輸送した。生殖株から種子を 得るため、水産研究所の大型陸 上水槽(角形、コンクリート製、
容量30m3 図9)で1か月間花穂の追熟を行っ
た。花穂の追熟は図10のように塩化ビニルのパ
イプと4個のフロートを組み合わせ、針金で固
定された目合い 0.25mm のネットの中に採収し
図9 三重県水産研究所の大型陸上水槽
(三重県志摩市浜島町)
図10 浮遊ネットでの花穂の追熟
11 た生殖株を入れて水槽に浮かべて行った。ネットの 目合いが珪藻によって詰まりネット内が貧酸素状 態になるのを防ぐため、毎週ネットの側面を掃除し
た。2008年10月15日に約5 万個の成熟種子(図
11)を回収して研究室に持ち帰り、20℃培養庫で保
存した。コアマモの発芽率を向上させる条件に低温処理がある(Morita et al. 2011)。そこで
2008年11月14日に保存していた種子を7℃培養庫に移し、2か月間低温処理を行うこ
とで発芽率の向上を図った。
底質別および水深別の生殖株形成実験は種子の追熟を行った三重県水産研究所の大
型陸上水槽で行った。陸上水槽の模式図を図12に示した。天然環境に近い条件で培養
を行うため、サイフォンの原理を用いて1日に2回水槽の水位を変化させた。低水位時
に水面が底泥表面上になるように設定した条件をD.L.0cmとし、干出する条件D.L.40、
20cm、干出しない条件 D.L.-20、-40cmの計5水深区を設定した。コアマモの培養は縦
図12 大型陸上水槽の模式図とサイフォンを用いた水位変動による高水位と低水位
D.L.40cm D.L.20cm
D.L.0cm D.L.-20cm
D.L.-40cm 低水位
高水位 サイフォン
図11 成熟したコアマモの種子
5mm
12
横50×30cm、深さ20cmのプラスチック製バ
ットで行った(図13)。バットの側面下部に
は間隙水の移動を生じさせるため直径 1cm
の穴を5か所開け、1mm目合のプランクトン
ネットを敷き、その上に直径約 1.5cmの玉砂利を 5cm の深さに敷き詰めた。更に最上
部に実験条件となる3種類の底質を15cmの深さに敷き詰めた。底質の条件は砂100%
の砂区(含泥率 約4%)、泥100%の泥区(含泥率 約80%)、泥30%砂70%の砂泥混合
区(含泥率 約24%)とした。使用した砂は天然でコアマモが生育している場所から、
泥は英虞湾海底から採取した。泥 30%砂 70%は人工干潟の造成実験において最適混合
割合とされた値である(国分 2004)。この割合は人工干潟上にコアマモが定着生長可
能であることが実証されている(国分 2005)。
2009年1月に陸上水槽の各条件のバットに冷温処理を施したコアマモ種子を90粒播
き、発芽させて前歴のそろった草体を用意した。株の分岐が著しくなったときにランダ
ムに5個体選び、その他を取り除いて培養
した。生殖株を形成した時点で図14 に示
したようなタグを株の根本に取り付ける ことにより個体識別を行った。タグはシリ
コンチューブ(内径×外径:6×10mm)を幅
図14 生殖株の個体識別用タグ
図13 大型陸上水槽に設置したバット
穴
13 8mm に切ったものと、耐水紙に番号を印刷し
パンチで穴を開けたものをステンレス製針金
(0.9mm)で連結して作成した。このタグをコ
アマモ草体の地上部の下部に付け、U字に曲げ
た針金で固定した。
測定項目は栄養株で草体長と株密度、生殖株で草体長、株密度、成熟期間および花穂
と種子の形成数とした。栄養株の株密度についてはバットを 15区画に区切りランダム
に5区画選出して計測し、1m2あたりの密度に換算した。生殖株の株密度については図
15 のように新しく形成された株にタグを付け、枯死した場合はタグを取り除くことに
よって計測した。草体長は底質から最長の葉の先端までとした。生殖株期間はタグを付 けた日を成熟期開始日とし、株の枯死または流失を確認した日を成熟期終了日として計
測した。花穂数は生殖株1個体に形成された数とし、各花穂で作られた種子数について
も測定を行った。また花穂は成熟過程を追った。花穂の成熟段階は図16に示したよう
に6段階で評価した。コアマモの花穂は以下のような経過で成熟した。まず花穂が形成
され雌しべと雄しべができる(0 段階)。次に雌しべの柱頭が立ち上がり、花穂から出 て開花となる(1 段階)。その時受粉が起こり、柱頭が切り離される(2段階)。その後 雄しべの花粉嚢が立ち上がり糸状の花粉を放出する(3 段階)。花粉放出後花粉嚢は脱 落し、果実が目視で確認できるようになる(4段階)。そして図11のような褐色から黒
図15 タグを付けた生殖株
タグ
14 色の種子となり、花穂から種子が放出される
(5 段階)。0 段階のみ開花前であり、4,5 段階は開花後である。花穂からの成熟種子の
放出は判別できなかったため、図16 の5の
ような種子の形成までを観察した。測定は
2009年5月から2010年1月まで月2回、2010
年2月から12月まで月 1回行った。測定は
すべてスキューバ潜水によって行った。
底質および水深による環境条件を明らか にするため、底質の温度を測定した。季節消 長実験と同様のポータブル型メモリー式水
温計を用いて播種した深さと同じ 1cm の深
さに埋土した。泥区ではD.L.40cmとD.L.0cm
で、砂泥混合区と砂区では全水深区で底質の
水温を2009年2月26日から7月20日の間測定した。また各底質区の干出する水深区
において、非干出区と異なる温度変化から干出時間を算出した。
図16 花穂の6つの成熟段階
0. 花穂の形成初期、葯の発達 1. 雌しべが立ち上がり開花
2. 受粉が行われ雌しべの柱頭が脱落 3. 花粉嚢が立ち上がり花粉を放出 4. 花粉嚢の脱落、果実の発達初期 5. 種子の形成
0
1
2
3
4
5
葯
雌しべ
花粉嚢
果実
種子 1cm
15
結果
1.天然群落季節消長 株密度
1m2あたりに換算した栄養株と生殖株の
株密度を図 17 に示した。群落深区の栄養
株密度は3地点で最も多く、2010年10月
26日に最大の7371 shoots m-2を示し、2月
に減少したもののそれ以降は 3000 shoots
m-2 以上の群落を維持し続けた。群落深区
の生殖株は 5 月から10月まで形成がみら
れ、9月に最大の379 shoots m-2となった。群落浅区の栄養株密度は12月に最大密度を
示したのち減少し8月に徐々に回復した。群落浅区の生殖株密度は21 shoots m-2と低く、
9月にのみ確認された。疎生区の栄養株密度は著しく低く、5 月にコアマモが見られな
くなり、測定期間中最大でも240 shoots m-2程度であった。疎生区では生殖株は形成さ
れなかった。全株数に対する生殖株数の割合から算出した生殖株形成率は群落浅区で
1.2%、群落深区で1.2-8.8%となり生殖株密度と同様の変動を示した。
図 17 各水深における栄養株および
生殖株の株密度(平均±SE)
―:群落深区, ―:群落浅区, ―:疎生区 測定月
株密度(shoots m-2 )
16 草体長
栄養株と生殖株の平均草体長を図 18
に示した。各水深で栄養株の草体長が最
大 と なっ た のは 、群 落深 区 で 8 月 に
17.6cm、群落浅区で2月に15.5cm、疎生
区で12月に14.7cmとなり群落深区のみ
夏季であった。群落深区において疎生区 より有意に長かったが(P<0.01)、群落 浅区と差はみられなかった。生殖株の草
体長は群落深区で形成開始時には 8.0cm
と栄養株より短かったが、10月には15.1cmとなり栄養株より長くなった。
花穂数
生殖株1株あたりに形成された各水深の平均花穂数は、群落深区で2.5個、群落浅区
で2.2個であった。平均花穂数と生殖株密度から算出した1 m2あたりの花穂数は、群落
深区では9月に1079個m-2と最大となったが10月に360個m-2と急激に減少した。群
落浅区では 46 個m-2と少なかった。花穂の成熟段階は開花前の0 段階と果実の発達初
期である4段階のものが多く見られた(図16参照)。
図18 各水深における栄養株と生殖
株の草体長(平均±SE)
―:群落深区, ―:群落浅区, ―:疎生区 測定月
草体長(cm)
17 現存量
水深ごとの1m2あたりの地上部と地下
部の現存量を図19に示した。測定期間中
すべての水深で地下部が地上部より大き
かった。群落深区では2月に急激に減少
して地上部と地下部の現存量が同程度と なったが、その後どちらも増加し、9 月
に地下部が、10月に地上部が最大となっ
た。地上部は 18.1-86.0g m-2、地下部は
25.7-126.7g m -2であった。群落浅区では
地上部、地下部共に2月から5月まで著
しく小さかった。地上部は0.8-34.9g m-2、
地下部は1.2-73.8g m-2であった。地上部
と地下部の比は群落深区と群落浅区で差
はなく、8 月に最大 0.98、0.89 となり、
12月に最小0.54、0.47となった。疎生区では他の水深と比べて常に低く、10月に最大
0.67、12月に最小0.30となった。
図 19 各水深における地上部と地下部の
現存量(平均±SE)
―:地上部, ―:地下部 測定月 現存量(g dry weight m-2 )
18 天然群落の底質温度
各水深における底質温度と日較差および 30℃以上となった時間の合計を表 1 に示し
た。測定期間中での最高温度は非生育区で2010年9月、疎生区および群落浅区では2010
年8月に測定され、それぞれ35.6、33.6、34.5℃であった。群落深区では2回目に設置
した温度計を回収できなかった。最低温度は非生育区のみ0℃を下回った。温度の日較
差は1回目の非生育区で2010年1月に最大18.1℃であったが、他の水深では10℃前後
となった。30℃以上になった時間は非生育区で他の水深の3倍以上となる290.0時間と
なり、高温にさらされる時間が長かった。30℃以上を記録した日数は非生育区および疎
生区、群落浅区で39日、23日、21日であった。
底質温度が高くなると思われる8月の大潮時の連続測定結果を図20に示した。日時
は2010年8月10日から13日までである。気温、潮位はともに気象庁による気象統計
測定期間 温度(℃) 日較差(℃) 30℃以上(h) 1回目 最高 最低 最大 最小 平均 合計
2009/12/25 -2010/5/18
非生育区 30.0 -0.5 18.5 0.6 8.1 0.0
疎生区 28.7 5.4 12.1 0.5 3.8 0.0
群落浅区 27.3 4.0 11.1 0.3 3.9 0.0 群落深区 25.1 3.1 7.9 0.3 3.0 0.0 2回目 最高 最低 最大 最小 平均 合計
2010/8/4 -2010/12/21
非生育区 35.6 3.7 9.8 0.7 5.1 290.0
疎生区 33.6 5.9 13.4 0.9 5.0 87.0 群落浅区 34.5 9.2 8.0 0.7 3.3 80.3 群落深区 ― ― ― ― ― ―
表1 各水深における底質温度と日較差および30℃以上となった時間
19
情報の中の鳥羽地点での観測値を用いた。8 月 12日は雨天であったため気温と底質温
度はほぼ同時に上昇したが、曇天である10日と13日は気温の上昇から数時間遅れて底
質温度が上昇した。晴天日の 8月11日は 13-15時にかけて底質温度が最も高くなり、
非生育区で32.7℃、疎生区と群落浅区でそれぞれ31.3℃、30.7℃の高い温度を記録した。
気温と底質温度のずれは日中の干潮時間が遅くなるにつれて10 日1-2時間、13日 5-6
時間と広がった。
図20 各水深における底質温度および気温と潮汐の変化(観測基準面-281.8cm)
―:非生育区, ―: 疎生区, ―:群落浅区, ―:気温, ―:潮位
8月10日 11日 12日 13日
0:00 14日
20
2.陸上水槽における生殖株形成実験 株密度
1m2あたりに換算した栄養株と生殖株の株密度を図21に示した。砂区のD.L.40cmと
20cm、砂泥混合区と泥区のD.L.40cmでは発芽した草体を移植したにも関わらず、2009
年7月14日にすべて枯死した。移植後46日間で一度も分岐せず、徐々に草体の長さが
減少し生殖株の形成もみられなかったため、図には示さなかった。砂区の栄養株密度は
最大でも130 shoots m-2と少なく、D.L.-20mで2年目の春に、D.L.10cmと-40cmで2年
目の夏にすべて枯死した。生殖株は形成されなかった。砂泥混合区の栄養株密度は
D.L.20cmを除く条件区でほぼ増加傾向にあった。D.L.-40cmのみで1年目の11月以降
も同じ増加率を示し、2年目の夏期にD.L.0cmおよびD.L.-20cmで急激な増加が見られ
た。D.L.-20cmで最大の6600 shoots m-2に達した。
砂泥混合区の生殖株密度は、1年目は6-14 shoots m-2程度と少なかった。D.L.-20cm で
は生殖株が形成されなかった。2年目は2010年5月6日にD.L.-40cmで最初の生殖株が
形成された。次いでD.L.0cmで形成が始まり、D.L.20cm およびD.L.-20cmは1年目と
同じ8月ごろに始まった。D.L.-40cmで最も多く、2010年8月26日に最大密度700 shoots
m-2を示した。D.L.-40cmでは実験期間中にバット内で149 shootsの生殖株形成が認めら
れ、1つの成熟期間で1m2あたり990 shootsの生殖株が形成された。生殖株形成率の最
大値は2010年8月26日にD.L.0cmと-40cmにおいて3.2%と13.4%であった。2010年9
21
月22日 においてはD.L.-20cmで1.5%、2010年10月19日においてD.L.20cmで1.3%
であった。
泥区の栄養株密度は最大でも2760 shoots m-2であり、砂泥混合区に比べ半分以下であ
った。1年目は緩やかな増加を示したが2年目の株密度は変化しなかった。D.L.20cmで
は生存してはいるもののほとんど株の分岐が見られなかった。泥区の生殖株密度は1年
図21 底質別および水深別に表した栄養株と生殖株の株密度(平均±SE)
―:D.L.20cm, ―:D.L.0cm, ―:D.L.-20cm, ―:D.L.-40cm 株数(shoots m-2 )
測定月
2009 2010 2009 2010
22
目では混合区と同様であったが、2年目は最大でもD.L.-40cm の60 shoots m-2と著しく
密度が小さく、D.L.20cmでは実験期間中生殖株を形成しなかった。2年目の生殖株形成
は砂泥混合区より2か月遅い2010年7月1日にD.L.-40cmで最初に見られた。生殖株
形成率は2010年9月22日にD.L.-40cmにおいて0.04%となったのが最大であり、砂泥
混合区に比べてすべての水深で低かった。
草体長
各底質試験区における栄養株と生殖株の平均草体長を図22に示した。砂区の栄養株
はD.L.-40cmにおいて1年目の夏季に長いものの、測定期間を通じて5cm程度であった。
砂泥混合区の栄養株は1年目、2年目ともに春から夏にかけて増加し、夏以降減少した。
2年目の草体長は1年目と比べて大きく変化しなかった。草体長が最大を示す時期は1
年目で8月下旬から9月上旬と全条件区でほぼ同じとなったが、2年目は7月下旬から
11月中旬までと条件区ごとで異なった。D.L.-40cm で最も長くなり2 年目の2010年8
月に最大長 19.5cm に達した。D.L.20cm では最大でも 9.8cm と最も短く、D.L.0cm と
D.L.-20cm で有意差はみられなかった。砂泥混合区の生殖株は D.L.-40cm で最も長く
2010年8月に最大長が23.6cmに達した。2年目の草体長のピークは8月下旬から9月
中旬であり全条件区でほぼ同時期にあった。D.L.20cm を除くすべての条件区で栄養株 より長くなった。泥区の栄養株はD.L.-20cmとD.L.-40cmで最も長くなり、D.L.-40cm で
23
は10月に最大長が14.0cmに達した。D.L.-40cmで砂泥混合区より有意に短くなったが
(P<0.01)他の条件区では砂泥混合区と同程度の長さとなった。泥区の 生殖株は
D.L.-40cm で最も長く 2010 年 8 月に最大長が 19.7cm に達した。D.L.0cm および
D.L.-20cmにおいて栄養株の草体長に比べ有意に長かった(P<0.01)。生殖株の草体長は
砂泥混合区、泥区ともD.L.-20cm、-40cmにおいて同じような傾向を示した。
図22 底質別および水深別に表した栄養株と生殖株の平均草体長(平均±SE)
―:D.L.20cm, ―:D.L.0cm, ―:D.L.-20cm, ―:D.L.-40cm
草体長(cm)
測定月
2009 2010
2009 2010
24 花穂数
成熟期間を通して生殖株 1shoot あたり
に形成された花穂数の平均値を図23に示
した。砂泥混合区では全条件区で6個前後
形成され、差はみられなかった。泥区では
D.L.-40cm で 7.7 個 と 多 く な っ た が 、
D.L.-20cm と有意な差はみられなかった。
D.L.0cmでは2.8個とすべての条件区で最も少なかった。
成熟段階
底質区および水深別に表した成熟段階(図16参照)の推移を図24に示した。全条件
区において果実の発達初期である4段階の花穂が常に多く、開花期である1-3段階の花
穂が少なかった。種子形成の多くは 8 月以降に始まった。0 段階の花穂が常に見られ、
花穂の形成が成熟期間中行われていた。花穂数のピークは8月から10月にかけてであ
り、砂泥混合区のD.L.-40cmにおいては8月下旬に最大花穂密度が約3500個m-2となっ
た。他の条件区の最大花穂密度は砂泥混合区のD.L.0cmで約350個m-2、泥区のD.L.-40cm
で320個m-2と少なかった。
図 23 砂泥混合区および泥区における
生殖株1shootあたりに形成された花穂
数(平均±SE)
25
図24 砂泥混合区および泥区における花穂の成熟段階の推移(図16参照)
■:0段階, ■:1段階, ■:2段階, ■:3段階, ■:4段階, ■:5段階, 花穂数(個m-2 )
0 100 200 300 400
5 6 7 8 9 10 11 12
D.L.-40cm 0
50 100 150
200 D.L.-20cm
0 20 40 60 80
100 D.L.0cm
0 1000 2000 3000 4000
5 6 7 8 9 10 11 12
D.L.-40cm 0
50 100 150
200 D.L.-20cm
0 100 200 300
400 D.L.0cm
0 20 40 60 80
100 D.L.20cm
測定月
砂泥混合区 泥区
26 種子数
生殖株 1shoot あたりに形成された種子
数 を 図 25 に 示 し た 。 砂 泥 混 合 区で は
D.L.0cmおよびD.L.-40cmで4-5個と最も
多く形成された。 1m2あたりの種子数に
換算するとD.L.-40cmで約4700個m-2とな
り最も多かった。泥区ではD.L.-40 cmで6
個と多く、D.L.0cmでは1個以下と非常に少なかった。1m2あたりの種子数はD.L.-40cm
で約500個m-2となり、生殖株密度が小さいため砂泥混合区の同じ水深より少なくなっ
た。成熟が果実の発達初期まで進んだ、開花を経た花穂1個あたりから形成される種子
の数は、砂泥混合区ではD.L.0cmで0.89個、-40cmで0.85個であり、1個以下であった。
泥区ではD.L.-20cmで0.89個、-40cmで0.75個であり、砂泥混合区と同様に少なかっ
た。最も多く種子を形成したのは砂泥混合区、D.L.-40cmのshootで、花穂が13個、種
子が29個であった。しかし花穂数と種子数は比例しておらず、花穂が12個でも種子が
1個しか形成されなかったshootもみられた。
0 3 6 9
D.L.20cm D.L.0cm D.L.-20cm D.L.-40cm D.L.0cm D.L.-20cm D.L.-40cm
砂泥混合区 泥区 種子数 (個 shoot-1)
図 25 砂泥混合区および泥区におけ
る生殖株 1shoot あたりに形成された
種子数(平均±SE)
27 成熟期間
生殖株形成から枯死もしくは流失まで
を成熟期間とし、その平均日数を図 26に
示した。砂泥混合区および泥区の成熟期間
の平均日数は30-60日であり、水深と日数
の間には特に関連はみられなかった。また、
砂泥混合区と泥区で有意な差はみられな
かった。測定された shoot の中で最も成熟期間が長かったのは砂泥混合区、D.L.-40cm
のもので、2010年7月8日から11月16日の131日間を記録した。
大型陸上水槽の底質温度
底質および水深条件ごとの底質温度と日較差および30℃以上となった時間の合計を
表2に示した。底質温度が30℃を越えたのはD.L.40cmとD.L.20cmであり、特に砂区
のD.L.40cmで最も高くなり、5月には40.4℃の最高値を記録した。水深が浅いほど高
温となり、水温変動による日較差も大きくなった。測定期間中に30℃以上となった合
計時間は、D.L.40cmにおいては砂区、砂泥混合区、泥区の順に長く、砂区で190時間
に達した。30℃以上の温度を記録した日数は砂区、砂泥混合区、泥区のD.L.40cmでそ
れぞれ71日、53日、47日であった。
0 30 60 90
D.L.20cm D.L.0cm D.L.-20cm D.L.-40cm D.L.0cm D.L.-20cm D.L.-40cm
砂泥混合区 泥区 期間 (day shoot-1)
図 26 砂泥混合区および泥区におけ
る生殖株1shootあたりの成熟期間(平
均日数±SE)
28
底質温度が最も高温となった5月に観測した、D.L.40cmとD.L.20cm での温度変化を
図27に示した。期間は2009年5月11日から12日で、干出しない水深区であるD.L.0cm
から-40cmでは温度変化の違いが見られなかったため、図27では砂区のD.L.-40cmの
温度を水温として表した。表2で示したようにD.L.40cmの砂区で最も高温になってい
るが、非干出区に対する温度上昇および下降のタイミングは水深区ごとで同じであった。
D.L.20cmでは砂区より砂泥混合区のほうが高温となった。日中の温度変化は日によっ
て少し異なっていたが、夜間の温度変化はほぼ同じであった。干出時間はD.L.40cmで
16時間、D.L.20cmで9時間であった。
2009/2/26-2009/7/20 温度 (℃) 日較差 (℃) 30℃以上 (h)
条件区 最高 最低 最大 最小 平均 合計
砂区
D.L.40cm 40.4 1.6 25.8 2.3 14.1 190.3
D.L.20cm 34.2 4.4 17.3 1.2 8.3 26.8
D.L.0cm 28.6 10.6 7.8 0.5 3.7 0.0
D.L.-20cm 28.6 10.6 6.4 0.4 3.5 0.0
D.L.-40cm 28.4 10.7 6.1 0.4 3.3 0.0
砂泥 混合区
D.L.40cm 38.1 1.8 20.7 1.9 12.1 124.8
D.L.20cm 35.2 3.9 17.3 1.1 8.5 40.5
D.L.0cm 28.8 10.6 9.7 0.5 3.9 0.0
D.L.-20cm 28.4 10.6 6.5 0.4 3.5 0.0
D.L.-40cm 28.7 10.6 5.9 0.4 3.3 0.0
泥区 D.L.40cm 37.0 1.5 20.6 2.0 11.8 105.8
D.L.0cm 28.4 10.6 6.0 0.4 3.3 0.0
表2 底質別、水深別に示した底質温度と日較差および30℃以上となった時間
29
図27 底質別に表したD.L.40cmとD.L.20cmにおける底質の温度変化
―:砂区, ―:砂泥混合区, ―:泥区, ―:水温,
5月11日 12日 13日
30
考察
本研究はコアマモ場造成のための、種子の安定、大量供給を目指して行ったものであ り、実験結果から三重県内の天然コアマモ群落の繁殖戦略と、陸上水槽における生殖株 形成に適した条件を明らかにすることができた。
本研究で調査した三重県鳥羽市浦村町の小白浜におけるコアマモの栄養株の草体長
は、群落内で6.3-17.6cmであり8月に最大となった。これまでに報告された各地の最
大草体長は、三重県伊勢市二見町池で7月に39.7cm(川原 2006)、宮城県松島湾で8
月に22cm(長濱ら 2007)、韓国西岸で9月に48cm(Lee et al. 2005)であった。小
白浜のコアマモは、最大を示す時期は各地と同様に水温の上昇する夏季であったが、他 に比べて非常に短かった。本研究の調査地は沖が急激に深くなるためにアマモ群落が水
深1m以浅まで分布している。このことから、コアマモ群落が他の地域より浅場に分布
しているため、気温等の環境の影響を強く受け、生長が抑制されたものと考えられた。
陸上水槽における栄養株の草体長は砂泥混合区の D.L.-40cm において 8 月に最大の
19.5cm となった。各地と比較すると短いが、発芽後 2 年目の草体長であるため今後さ
らに伸長する可能性が考えられた。
小白浜のコアマモ群落の株密度は、最も水深の深い調査地において1765-7371 shoots
m-2となった。これは三重県英虞湾立神浦の1216-4112 shoots m-2(横田 2005)、東
京湾の820-6600 shoots m-2(輪島ら 2004)に比べて高かった。しかし、和歌山県田
31
辺湾では4200-21067 shoots m-2、宮城県松島湾では20-11000 shoots m-2小白浜に比べ
高い値も報告されている(上出 2007、長濱ら 2007)。また英虞湾立神浦の株密度は
8月に最大値を示し(横田 2005)、東京湾の株密度は11月に、和歌山県田辺湾では9
月と10月に最大となったと報告されている(輪島ら 2004、上出 2007)。海外では
北ベトナムで1000-7500 shoots m-2(最大10月)、韓国西岸で2000-8000 shoots m-2(最
大9月)、アメリカのワシントンで100-3200 shoots m-2(最大7月)、3800-8264 shoots
m-2(最大夏季から秋季)、アメリカのオレゴン州で1500-11000 shoots m-2(最大8月)
と報告されており(Huong et al. 2003、Lee et al. 2005、Thom 1990、Kaldy 2006、
Ruesink et al. 2010)、株密度は地域ごとに異なっているが最大値を示すのは夏季から
秋季であった。小白浜における株密度は10-12月に最大となった。小白浜のコアマモ群
落は株密度が最大になる時期が、他の場所に比べ比較的遅い傾向にあった。株密度の変 動は地域や海域の特性によって少しずつ異なっていた。アマモの株密度と比較してみる
と、静岡県鍋田湾では140-380 shoots m-2、京都府舞鶴湾では140-420 shoots m-2 、三
重県松名瀬では164-972 shoots m-2 であり(太齋 1994、道家ら 2000、阿部ら 2004)、
コアマモはアマモに比べ10-15倍程度の高密度に生育していた。
大型陸上水槽で培養したコアマモの最大株密度は、砂泥混合区の D.L.-20cm で11月
に6613 shoots m-2となった。これは各地の天然群落と比べると比較的高密度であり、
水槽内では高密度に培養できる可能性が高い。本研究は種子5個から培養を行ったもの
32
であるため、用いる種子を増やすことでより高密度に培養できる可能性もあるが、過密 によって生長が阻害されることも考えられる。また小白浜においてコアマモ群落より浅 いところでは株密度が非常に少なく、生育してない時期もみられた。この場所は潮下帯
にもかかわらず夏季には最高33.6℃に達し、30℃以上を記録したのは23日または87時
間であった。コアマモの生長と光合成の上限温度は 29℃とされており(横田 2005、
Abe et al. 2009)、高温による生育阻害が生じた可能性が考えられた。陸上水槽におい
ても、最も浅い水深のD.L.40cmで移植の1-4か月後にすべて枯死、流失した。この水
深は最高温度が34度を超えており、30℃以上を記録した日数も47日以上と多く、天然
群落の非生育区と同じような高温環境であったと考えられた。
コアマモ群落の生殖株形成率は、三重県英虞湾立神浦では2.0-12.9%、三重県伊勢市
二見町池では4.3-5.9%、和歌山県田辺湾では0.2-11.1%と報告されている(横田 2005、
川原 2006、上出 2007)。小白浜では群落の浅い場所で 1.2%、深い場所で 1.2-8.8%
となり、各地と同様に約 10%となった。これは株密度の 70%が生殖株となるカナダの
ブリティッシュ・コロンビア州に比べて著しく低かった(Bigley et al. 1986)。このこ
とから、小白浜のコアマモ群落は有性繁殖より栄養繁殖によって群落を維持、拡大して
いると考えられた。また英虞湾立神浦では11月に種子から発芽した実生の加入が報告
されているが(横田 2005)、小白浜では実生の加入は認められなかった。パッチ状の
群落から3、4m離れた浅場には1-3 shootのコアマモが疎に生育していため、種子が
33
着底し発芽した実生である可能性があった。しかし数cmの地下茎を持ち、地下部の現
存量が地上部より多いことから、群落から流された草体が着底したものと考えられた。
調査期間中実生が見られなかったことからも、この群落が栄養繁殖に大きく依存してい ることが示唆された。また陸上水槽での最も高い生殖株形成率は、砂泥混合区の
D.L.-40cmにおける0.4-13.4%であった。これは三重県内の天然群落より高く、陸上水
槽での培養によって天然群落より生殖株の形成率を上昇させることができた。他の底質
や水深条件では最大でも 3.2%であり、この砂泥混合区、D.L.-40cmの条件区が最も生
殖株形成に適していた。
生殖株1shootあたりに形成された花穂数については、小白浜では平均2.2-2.5個であ
り、陸上水槽では平均 5.0-7.7 個であった。和歌山県田辺湾では 7、8 月に最大の 3.0
個となり(上出 2007)、韓国西岸では 2-6個で 10 月に最大となったと報告されてい
る(Lee et al. 2005)。陸上水槽の花穂数が著しく多いことから、天然群落より水槽の
方が花穂形成に適していると思われた。その要因としては、水流や大型動物による環境 攪乱がないため安定しており、地下茎を強固にする必要がなく、エネルギーを有性生殖 に用いることができるためと考えられた。
本研究では種子を得ることが目的であることから、花穂が多いだけでなく多くの種子 が形成されなければならない。陸上水槽において形成された生殖株あたりの平均種子数 は、砂泥混合区のD.L.0cmと-40cmで4-5個であり、泥区のD.L.-40cmでは6個であっ
34
た。韓国西岸では3-7個で10月に最大となったと報告されており(Lee et al. 2005)、
混合区のD.L.-40cmでは8月に最大の9.6個となったことから陸上水槽での種子生産は
高いことが示された。種子数は水深で異なっており、深いほど多く形成される傾向が見
られた。このことから、花穂1個あたりに形成される種子数は水深で異なる可能性があ
った。本実験において、混合区の平均花穂数は5-8個と水深によって差がみられなかっ
たのに対し、種子数では水深で大きな違いが見られた。これは実験中にヨコエビ等の食 害によって種子を形成する前に消失することが多かったためと考えられた。
コアマモの成熟期間は長く、小白浜の天然群落においては 5-10 月であり、陸上水槽
では1年目が8-11月、2年目が5-11月であった。各地のコアマモの成熟期間は、愛知
県三河湾では5-10月、三重県英虞湾立神浦では5-8月、三重県伊勢市二見町池では4-5
月、神奈川県江奈湾では10-11月、和歌山県田辺湾では5-8月および10月、北ベトナ
ムでは3-5月、韓国西岸では7-11月と報告されている(新崎 1950、横田 2005、川
原 2006、川越ら 2007、Huong et al. 2003、Lee et al. 2005)。コアマモの成熟
期間は地域によって異なっていたが、おおよそ水温が上昇する夏前から成熟が始まるこ とから、高い水温が成熟のための要因の一つと考えられた。本研究の天然群落において
は4月下旬から底質の平均温度が15℃を越え一時的に20℃を越える日が生じ、陸上水
槽においても 20℃を越す日が続いており、これらの温度変化の影響による可能性が考
えられた。本研究のコアマモの成熟期は水槽での培養も天然群落と同様の季節変動を示
35
し、コアマモは多年生であるが発芽した年に有性繁殖が行われることが示された。
陸上水槽で効率よく大量の種子を得るためには生殖株密度が高いことが必要である。
株密度は砂泥混合区で最も多く、砂区と泥区における株密度はあまり増加せず生殖株も
ほとんど形成されなかった。宮松(2010)とMoritaら(2011)はコアマモ種子の発芽
が砂泥混合区において砂区、泥区より高く、砂泥混合区が最もコアマモの発芽に適して
いると報告している。国分ら(2010)はコアマモの良好な成長には底質間隙水中のDIN
濃度が0.15mg-N/L以上、DIP濃度が0.015mg-P/L以上であり、かつAVS(酸揮発性
硫化物)が高すぎない程度の底質が必要であると報告している。これは本研究で用いた
砂泥混合区に当てはまった。砂区は栄養塩が少なく、泥区はAVS が多すぎたために底
質中が嫌気状態となるため、コアマモの生長や成熟が抑制されたものと考えられた。砂
泥混合区ではD.L.-40cmで生殖株の株密度が990 shoots m-2であり最大となった。他の
水深区ではほとんど生殖株が形成されなかったが、栄養株は常に増加し続けていた。
D.L.-40cmは栄養繁殖に不適であったために有性繁殖を優先したとも考えられたが、成
熟期後半には栄養株は増加し始めた。このことから、砂泥混合区は栄養繁殖、有性繁殖 ともに適していると考えられた。
コアマモの成熟期間は約6か月間と長く、生殖株採取するタイミングを計ることは難
しいと考えられる。そのため本研究では個々の花穂の成熟段階を追うことで生殖株を採 取するのに適した時期を明らかにしようと考えた。成熟の開始時期にかかわらず種子形