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アサーションに及ぼす場の認知の影響に関する研究

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アサーションに及ぼす場の認知の影響に関する研究

著者 玉瀬 耕治, 馬場 弘美

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 12

ページ 43‑50

発行年 2003‑03‑31

その他のタイトル A Study of the Influence of Field Cognition on Students' Assertion

URL http://hdl.handle.net/10105/75

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1.問題と目的

近年、学校教育の中で、子どもたちの社会的スキル の問題が取り上げられることが多くなってきている。

社会的スキルの概念は、協調性、主張性(アサーショ ン)、自己統制などに関連するかなり広い範囲の行動 を意味している(相川・津村,  1996)。とりわけアサ ーション(Deluty,  1979;  平木,1993;  2000)について は、子どもたちに限らず教師においても(園田・中 釜・沢崎,2002)、またカウンセラーにおいてさえも

(平木・沢崎・土沼,2002)、意識的に訓練に取り組む 必要があると考えられるようになってきている。それ だけアサーションは現代社会において希薄化している 対人関係のスキルであるといえよう。平木(1993)を 参考にして、玉瀬・越智・才能・石川(2002)は、ア サーションとは、「自分の感情や考えを主張すべきと きに、相手の立場を尊重しつつ、その場にふさわしい 方法で率直にそれを表現することである」と定義して いる。

このようなアサーションの概念は欧米文化の中で培

*現在、奈良県公共嘱託登記土地家屋調査士協会勤務

われたものであり、これを日本という文化的風土の中 に定着させようとするとき、人間関係における場の要 因への配慮がきわめて重要なものとなるに違いない。

しかし、このことについては、従来のわが国における アサーション研究をみるかぎり(柴橋,1998)、まだ あまり正面から取り組まれているとはいえない。平木

(1993)は、アサーティブな表現を「自分の気持ち、

考え、信念などを正直に、率直にその場にふさわしい 方法で表現し、相手にも同じように発言することを奨 励しようとする」ものであると述べている。園田ら

(2002)はアサーションを「自分の考え、欲求、気持 ちなどを率直に、正直に、その場の状況にあった適切 な方法で述べること」と定義している。ここで「その 場にふさわしい方法で」とか「その場の状況にあった 適切な」と表現されている部分は、文化に関わる視点 からきわめて重要な意味を含むものと理解される。現 実のわれわれの日常生活における身近な経験では、ご く当然のこととしてわれわれがあまり意識していない のがこの部分であるといえる。しかし、アサーション の訓練を行う場合には、かなり難しい課題を含むもの となるに違いない。なぜならば、人間関係において、

その場にふさわしい振舞い方を習得することは、日本 玉瀬 耕治・馬場 弘美

(奈良教育大学心理学教室)

A Study of the Influence of Field Cognition on Students' Assertion

Koji TAMASE  and  Hiromi Baba

(Department of Psychology, Nara University of Education)

要旨:カウンセリング研究において社会的スキル訓練の要素を含むアサーションの研究が盛んになりつつあるが、

それらの研究では文化の要因がまだあまり取り上げられていない。本研究の目的は、アサーションを行う際に、文 化関連性の強い場の認知が働くことを示すことであった。大学生を被験者として、アサーションを必要とする日常 的な10の仮想的葛藤場面を設定し、それらの場面におけるアサーションの程度を測定した。その際、同一の場面に おいて、アサーションを行う相手が被験者にとってタテ関係の人である場合と、ヨコ関係の人である場合を設定し た。その結果、ほとんどすべての場面において、相手がタテ関係である場合の方が、ヨコ関係である場合よりもア サーション行動を抑制する傾向があることが示された。また、青年用アサーション尺度において、個人差要因とし ての青年用アサーション尺度得点の高い人は、それの低い人よりも、タテ関係、ヨコ関係のいずれの相手に対して も、相対的によりアサーティブに振舞う傾向があることが示された。

キーワード:場の認知 Field Cognition, アサーション Assertion, タテとヨコの人間関係 Tate-Yoko Relationship

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人にとって容易ではなく、それゆえにこそ多くの対人 関係における悩みや障害が発生しているからである。

Van  Horn,  Tamase,  &  Hagiwara(2001)は、高校 生の社会的スキルについて、高校教師がどのような認 識をもっているかを調べた。その際、米国では広く活 用されている社会的スキルの測定尺度(Gresham  &

Elliott,  1990)を用い、米国での標準化のデータと比 較した。その結果興味深いことに、米国では社会的ス キルに関わる自己統制、アサーション、および協調性 のすべてが学業成績と関連するスキルであると評定さ れているのに対して、日本ではアサーションに関する 項目はすべて学業成績とは関係しないとみなされてい たことである。ここで学業成績そのものの意味が問題 となることはいうまでもないが、日本の高校教師は学 校生活において、アサーションを学校教育の課題の一 つとして重要なものと認識していない可能性があると いえよう。さらにいえば、アサーションは進学に関わ る受験勉強とは関係がないと捉えているとも推測しう る。

ところで、日本人の心理における文化的特徴につい ては、これまでにさまざまな議論が展開されてきた。

中山(1988)は、臨床心理学的な視点から、日本人の

「ぼかしのコミュニケーション」について取り上げ、ぼ かしの背景には過剰配慮があると述べている。彼は、

相手のことを察する過剰配慮現象には強い状況依拠性 があるとし、ある状況下では強い過剰配慮が生じるが、

別の状況下になると全く生じないか極めて弱くなるこ とを指摘している。日本人は相手との心理的距離に応 じて行動を変える傾向があるといえる。この問題は木 村(1972)に始まり、浜口(1988)に引き継がれてい る「人と人との間」、「間人主義」の問題と関連してお り、また、北山ら(北山,  1997;  北山・宮本,  2000;

Markus & Kitayama, 1991)の相互協調的自己観とも 関連している。さらに、状況を規定する要因との関係 でいえば、中根(1967)におけるタテ社会の人間関係 の問題とも絡んでくることになる。

中根(1967)は、相手との心理的距離の違いを指標 にして、日本人の対人関係を三つの世界に分けている。

まず、第一は夫婦、親子、兄弟、家族などの非常に親 密な間柄の「ウチ」である。第二は自分とは全く無関係 な赤の他人の「ヨソ」である。そして第三は学校や職場、

近隣の人々などのウチとヨソとの中間的、両義的な性 格を持つ人々から成る「ソト」である。

同様に、土居(1971)は日本人の対人関係について、

遠慮のいらない世界としてのウチ、遠慮のいる世界と してのソトに分けている。また、リブラはウチ・ウラ を「親和的な状態」、ソト・オモテを「儀礼的な状態」

とし、ソト・ウラを「無秩序の状態」と規定している

(佐藤,2001による)。

これらの先行研究における定義をまとめて、本研究

では日本人の対人関係を三つに分類して定義する。ま ず、非常に親密で遠慮のいらない人との関係を「ウチ」、 次に、学校や職場などの知人で、遠慮が必要な人との 関係を「ソト」、最後に、自分とは全く関係がなく遠 慮を必要としない人との関係を「ムエン」とする。こ れらの中でも日本人の場合、特にソトの人々との間で よりよい関係を保っておくことが必要であるため、も っとも過剰配慮が強く生じやすい。これらの人々とは 遠慮しながら接することになると考えられる。つまり、

日本人は対人関係において、特にソトの相手に対して は相手が誰であるかで自分の行動を規定しているとい える。言い換えれば、ソト関係では自分と相手との心 理的距離によって行動を変えていると考えられる。

本研究では、対人関係において同じ状況におかれて も、それに関わる対象が異なることで行動を抑制した り(発揚したり)する場合に「場」を認知していると 表現する。例えば、自分が相手から不当な扱いを受け た場合に、その不快な感情を相手に伝えるかどうかと いう状況があるとする。そこでその対象と自分との心 理的距離がどうであるかによって、自己を主張したり 抑制したりする場合、場の認知が働いていると表現す るのである。

中根(1967)は、日本社会では互いの地位の違いに 最大限の注意を払い、その認知に基づいて行動を決定 する、いわゆる「タテ社会」の特徴があると述べてい る。地位というのは、日本では重要な「場」の指標で あって、地位の違いを維持するために多くの社会的な 制約が設けられている。このような日本文化の特徴に 対して、欧米では互いの地位の違いをできるかぎり少 なくする「ヨコ社会」が基本となっており、実際には 大きな地位の違いがあっても、可能なかぎり互いに対 等に接しようとする傾向があるとみなされている。こ のような欧米と日本の文化の違いは、北山らの主張す る相互協調的自己観(日本)と相互独立的自己観(欧 米)となって文化の基盤をなしていると考えられる。

これらのことから、日本人は欧米人とは異なり、ソ トの世界において、対象人物が自分を基準にしてタテ の人物であるか、ヨコの人物であるかなどの「場」を 認知し、その場にふさわしく振舞うことが円滑な人間 関係を築く上で重要であると考えられる。

前述したように、平木(1993)が定義したアサーシ ョンについて考えるとき、場の認知によって行動を規 定する傾向が強い日本人にとって、葛藤や意見の対立 がある状況において、常に自己を主張するアサーティ ブな態度が望ましいとは考えにくい。意見の対立や葛 藤状況におかれたとき、とりわけソトの世界において そういった状況におかれたとき、その相手がヨコ(例 えば友達や同輩)の時には、お互いに理解を深めるた めに互いの意見を主張することが望まれる。しかし、

その相手がタテ(例えば目上の人)の関係であれば、

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自己を主張することよりも時にはそれを抑制して相手 の意見に従うなどの集団維持的な行動をとることが必 要だと判断されることになるであろう。

本研究では、ソトの世界で起こりうる状況の中で、

特に、アサ−ティブな反応が求められる状況において、

大学生が場の認知を行っているのかどうかについて検 討することを第一の目的とする。

また同時に、既存の青年用アサーション尺度を用い てアサーティブな人とそうでない人で場の認知に違い があるのかどうかについてもあわせて検討する。

2.方 法

2.1.調査計画

質問紙による集団調査を行った。実施日は平成13年 7月であった。

2.2.被験者(評定者)

教員養成系大学生132名(男子43名、女子89名)が 評定者として参加した。平均年齢は19.69歳(19歳〜

29歳 SD=1.13)であった。

2.3.材料

2.3.1.場の認知に関わる評定用紙

同じ葛藤状況におかれた時に、対人的な「場」の認 知をしているのかどうかを測る評定用紙を作成した。

1)まず、Gambrill  & Richey(1975) のAssertion Inventory  (AI)、Galassi,  Delo,  Galassi,  &  Bastien

(1974)のCollege  Self-Expression  Scale(CSES)、濱 口(1994)の児童用主張性尺度(ASC)の3つの評 定尺度から類似した項目を予備抽出してまとめた。

2)次に、これらの項目から玉瀬ら(2001)の青年用 アサーション尺度の説得交渉因子の状況と似ている状 況として、①葛藤的な状況であること、②表現があま り特定の場面に限定されず一般化できること、③攻撃 的ではなく、よりアサ−ティブな表現にできることな どに留意して10項目を選出した。これらの10項目のう ち、ASCから抽出した項目については、大学生にあ った表現に変え、AI、CSESについては日本語に訳し た時により理解しやすいような日本語に変更した。な お、上述の玉瀬らの青年用アサーション尺度は、関係 形成因子と説得交渉因子の2因子から構成されている ものであるが、ここで説得交渉因子に近い項目を用い ようとした理由は、それらの項目の方が、より葛藤的 な状況を含むものであり、アサーションを行うことが 困難で、場の認知が働きやすいと考えたからである。

3)抽出した10項目について、それぞれの項目で状況 が同じ葛藤状況で、自己主張する相手のみを、(a)ヨ コの相手、(b)タテの相手に変えた2文を作成した。

例えば「図書館で勉強している時に、隣で騒いでい る人がいたら、やめてくれるように言う」という項目 について、

(a)「図書館で勉強している時に、隣で友達が騒いで いたら、やめてくれるように言う」

(b)「図書館で勉強している時に、隣で先輩が騒いで いたら、やめてくれるように言う」

という2文を作成した。このようにして10項目につい てそれぞれ作成し(表1)、それらの項目について

「ほとんどそうしない」(1点)、「余りそうしない」

(2点)、「大体そうする」(3点)、「必ずそうする」

(4点)の4段階で評定させるものとした。

2.3.2.望ましさに関する評定

1で作成した「場」の認知評定の20項目を評定した 後に、それぞれの項目について自分が評定した行動が どれだけ望ましいと感じるかを「あまり望ましくない」

(1点)、「望ましい」(2点)、「とても望ましい」(3 点)の3段階で評定させた。これらの評定欄は、場の 認知に関わる評定欄の隣に設けられている。

表1 本研究で用いた評定項目

1①図書館で勉強している時に、隣で友達が騒いでい たら、やめてくれるように言う。

②図書館で勉強している時に、隣で先輩が騒いでい たら、やめてくれるように言う。

2①親しい友達の行動に腹が立ったら、その事につい てその友達と話す。

②先生の行動に腹が立ったら、その事について先生 と話す。

3①割り当てられた仕事を友達がやってくれない時 は、仕事をしてくれるように抗議する。

②割り当てられた仕事を先輩がやってくれない時 は、仕事をしてくれるように抗議する。

4①前に貸していたものを、友達が忘れてしまってい る時には、催促する。

②前に貸していたものを、先輩が忘れてしまってい る時には、催促する。

5①課題をやっている所へ、友達から他の頼みごとを された時には、後にして欲しいと伝える。

②課題をやっている所へ、日頃世話になっている人 から他の頼みごとをされた時には、後にしてほし いと伝える。

6①少人数の授業で、友達が誤りと思われる発言をし た時は、それについて言う。

②少人数の授業で、先生が誤りと思われる発言をし た時は、それについて言う。

7①友達が自分と全く異なる意見を言った時、思い切 って自分の考えを述べる。

②尊敬している人が自分と全く異なる意見を言った 時、思い切って自分の考えを述べる。

9①不当にからかわれたら、友達に対して怒りや苛立

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ちの感情を表す。

②不当にからかわれたら、先輩に対してでも怒りや 苛立ちの感情を表す。

9①信頼していた友達に裏切られた時、その友達に対 して感情を表す。

②信頼していた先輩に裏切られた時、その先輩に対 して感情を表す。

0①長い間並んでいた列の前に、友達が割り込もうと したら後ろに回ってくれるよう言う。

②長い間並んでいた列の前に、先輩が割り込もうと したら後ろに回ってくれるよう言う。

(注)①はヨコ関係、②はタテ関係を示している。

2.3.3.玉瀬・越智・才能・石川(2001)の青 年用アサーション尺度

この尺度は、次の2つの因子から構成されている。

① 関係形成因子:人とよりよい関係を形成すること に関わり、人間関係形成への主体性・積極性を測 定する。

② 説得交渉因子:何らかの葛藤的な場面においてど の程度相手に対して説得や交渉ができるかを測定 する。

質問項目は2因子とも8項目であり、5(必ずそうす る)から1(全くそうしない)までの5段階評定。こ の尺度は、各因子のα係数が.7に達しており、また SSRS(Gresham  &  Elliott,  1990)のアサーション尺 度とr=.69の相関があり、内的一貫性信頼性および併 存的妥当性は確認されている。

2.4.手続き

講義時間の一部を用いて、集団による一斉調査を実 施した。あらかじめ、この調査は個人について調べよ うとするものではなく、データは統計的にのみ処理し、

個人のデータを問題にすることはないことを伝え、了 解を得て調査への協力を求めた。調査者(筆者ら)が 評定者に評定用紙を配布した後に、用紙の枚数を確認 し、性別、年齢等を記入するように求めた。記入が終 わった者から、記入の例にならって各自のペースで青 年用アサーション尺度評定、「場」の認知評定とその

「場」の行動の望ましさ評定の順で回答するよう教示し た。回答し終わった者から記入もれがないか確認して 提出させた。回収した評定用紙の回答について得点化 し、統計的分析を行った。

3.結 果

3.1.調査項目ごとの評定

3.1.1.各項目における実行度の評定

20場面(10状況×2対象人物)それぞれに対しての 実行度の平均と標準偏差を算出した。全体的に対象人

物がヨコの場面の方が、対象人物がタテの場面よりも 実行度が高い傾向が見られる。実行度の最高得点は、

項目4①「前に貸していたものを、友達が忘れてしま っている時には催促する」(M=2.95,SD=0.76)、項 目9①「信頼していた友達に裏切られた時、その友達 に対して感情を表す」(M=2.95,SD=0.88)、最低得 点は項目0②「長い間並んでいた列の前に、先輩が割 り込もうとしたら後ろに回ってくれるように言う」

(M=1.81,SD=0.81)であった。

3.1.2.行動の望ましさ評定

評定項目20場面に対して、自分が評定した結果につ いての望ましさ評定の平均と標準偏差を算出した。望 ましさ最高得点は、項目4①「前に貸したものを友達 が忘れてしまっている時には、催促する」(M=2.13,

SD=0.67)で、最低得点は項目1②「図書館で勉強し ている時に、隣で先輩が騒いでいたら、やめてくれる ように言う」(M=1.48,SD=0.69)であった。

3.2.各項目におけるヨコとタテの間の差の検定 実行度得点、望ましさ得点それぞれについて項目ご とにt検定を行った。実行度得点については10項目の 全てでヨコとタテの間で有意な差が見られた(t

=3.70〜12.65, df =130)。望ましさ得点については項目 5(t<1),6(t<1),7(t=1.66)では有意差はなく、

他の7項目については有意な差が見られた(t=3.87〜

7.20, df =130)。

3.3.掛け合わせ得点の平均とSD

20場面それぞれの実行度得点と望ましさ得点とを掛 け合わせた得点の平均と標準偏差を算出した。ここで 掛け合わせ得点を用いたのは、アサーションをどの程 度実行するかというだけではなくて、そうすることが どの程度望ましいと思うかを相乗することで、評定者 のより現実に近い場の認知を測定できると考えたから である。掛け合わせ得点においても実行度得点と同様 の結果が得られ、全体的に①のヨコ場面が②のタテ場 面に比べて得点が高い傾向にあった。掛け合わせ得点 の最高得点は項目4①場面「前に貸していたものを、

友 達 が 忘 れ て し ま っ て い る 時 に は 、 催 促 す る 」

(M=6.57,SD=3.20)で、最低得点は項目1②場面

「図書館で勉強している時に、隣で先輩が騒いでいた ら、やめてくれるように言う」(M=2.92,SD=2.23)

であった。

3.4.掛け合わせ得点のヨコとタテの差の検定 掛け合わせ得点において、10項目全てで対象人物が ヨコ場面の方がタテ場面よりも得点が高い傾向が見ら れた(図1)。項目ごとにt検定を行ったところ、項 目6では5%水準(t=2.10)、それ以外ではすべて 1%水準でヨコとタテの間に有意差が見られた(t

=3.90〜10.80, df =130)。

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3.5.青年用アサーション尺度における評定 青年用アサーション尺度における各項目の平均と標 準偏差を算出した。関係形成因子の合計得点について はM=27.58,SD=4.25、説得交渉因子ではM=26.00,

SD=2.95、尺度全体ではM=53.58,  SD=5.81であった。

尺度の項目10「友達のいいところを見つけたら率直に 誉める」(M=3.85,SD=0.87)で最も高く、項目9

「図々しく不正な人がいたら、その人に注意する」

(M=2.72,SD=0.94)で最も低かった。玉瀬ら(2001)

では、青年用アサーション尺度の平均値において項目 10でM=4.00と最も高く、項目9でM=2.71と最も低い ことが示されており、本研究でもこれと一致した。各 尺度および全体の平均値のみならず、各項目の値につ いても、全体的に玉瀬ら(2001)ときわめて類似した 結果になったといえる。

3.6.掛け合わせ得点と青年用アサーション尺度得 点との相関

本研究の調査項目では、玉瀬ら(2001)の青年用ア サーション尺度の項目を直接的には使用していない。

項目の作成にあたっては、彼らの尺度における説得交 渉因子と関係形成因子のうち、説得交渉に関係すると みなされる新たな項目を意図的に作成した。そこで、

両者の相関関係について検討した。掛け合わせ得点

(ヨコ、タテそれぞれ)と青年用アサーション尺度得 点とのピアソン相関係数を算出した。

まず、「ヨコ」の場面においてアサーション全体と ではr=.18〜.46となり、10項目全てで有意な相関がみ られた。因子ごとに見ると、説得交渉因子ではr=.09

〜.49となり、8項目(項目9、0はn.s)で有意な相関 が見られた。関係形成因子ではr=.17〜.35となり、9 項目(項目6はn.s)で有意な相関がみられた。

次に、「タテ」の場合はアサーション全体ではr

=.10〜.45となり、8項目(項目2、0はn.s)で有意

な相関がみられた。説得交渉因子ではr=.05〜.43とな り、7項目(項目2、6、0はn.s)で有意な相関が みられた。関係形成因子ではr=.11〜.44となり、7項目

(項目2、6、0はn.s)でそれぞれ有意な相関がみら れた。項目2と項目0では青年用アサーション尺度の 全体および因子ごとのいずれにおいても相関はみられ なかった。これら2つの場面では、タテ関係が強く意 識され、アサーションの個人差が表れない可能性が考 えられる。

3.7.青年用アサーション尺度と場の認知との関係 青年用アサーション尺度得点の高い者と低い者の掛 け合わせ得点の違いを検討するため、青年用アサーシ ョン尺度得点(アサーション全体、説得交渉因子、関 係形成因子)の平均値をもとにして上位25%と下位 25%を抜き出し、それぞれ高群32名、低群32名に分け て掛け合わせ得点についての分散分析を行った。

3.7.1.青年用アサーション尺度全体と場の認知 図2は、青年用アサーション尺度得点(高・低)別、

対象人物(ヨコ・タテ)別の掛け合わせ得点について 示したものである。2(アサーション全体得点:高 群・低群)×2(対象人物:ヨコ・タテ)の2要因の分 散分析を行った。アサーション(F=18.42,df=1/62, p<.01)、対象人物(F=156.41,df=1/62,p<.01)そ れぞれにおいて有意な主効果が見られ、交互作用には 有意な傾向が見られた(F=2.98,df=1/62,p<.08)。

このことより、アサーション高群と低群では、高群の 方が掛け合わせ得点が高く、対象人物がヨコとタテで はヨコの方が掛け合わせ得点が高く、その傾向は高群 においてやや顕著であるといえる。

3.7.2.説得交渉因子と場の認知

説得交渉(高・低)別、対象人物(ヨコ・タテ)別 掛け合わせ得点についても同様に2(説得交渉因子:

高群・低群)×2(対象人物:ヨコ・タテ)の分散分 析を行った。説得交渉(F=20.4,df=1/62,p<.01)、

対象人物(F=109.38,df=1/62,p.<.01)それぞれ において有意な主効果が見られた。このことより、説 得交渉高群と低群では、高群の方が掛け合わせ得点は 高く、対象人物においてはヨコの方がタテに比べて得 点が高いといえる。

3.7.3.関係形成因子と場の認知

関係形成(高・低)別、対象人物(ヨコ・タテ)別 掛け合わせ得点についても同様に、2(関係形成因 子:高群・低群)×2(対象人物:ヨコ・タテ)の分 散分析を行った。関係形成(F=12.34,df=1/62, p<.01)、対象人物(F=152.27,df=1/62,p<.01)

のそれぞれにおいて有意な主効果が見られた。このこ とより、関係形成高群の方が低群に比べて、掛け合わ せ得点は高く、対象人物においては、ヨコの方がタテ よりも得点は高いといえる。

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4.議 論

本研究では、人間関係における「ソト」の場面にお いて、相手との関係がタテ関係であるのかヨコ関係で あるのかによって、アサーションを示す程度がどれほ ど違うのかを調べた。先に玉瀬ら(2001)が開発した 青年用アサーション尺度における説得交渉因子との関 連を考慮して10の場面を設定した。これらの場面は友 人、先輩、日頃世話になっている人、先生、尊敬して いる人など、すべてソトの人であり、それらの人との 心理的距離と状況との関係で、アサーション行動をす るかどうかが決定される。本研究で規定した「場」の 認知が働けば、同じ状況であっても、タテ関係の相手 とヨコ関係の相手ではアサーションの程度が異なると 考えられた。

4.1.「場」の認知について

実行度については、対象がヨコの場面からタテの場 面に変わると10項目全てにおいて評定得点が有意に低 くなることが確認された。これは、同じ「ソト」の世 界においても、自分との距離が遠いタテの相手に対し ては行動が抑制されることを示している。

このことは、実行度に望ましさを掛け合わせても、

結果は同様であった。これらのことより、大学生の行 動では、中根らが述べているように「ソト」の世界に おいて、特に自分よりも目上の「タテ」の人が対象と なると行動が抑制され、集団維持的な機能が働きやす くなるものと考えられる。つまり、大学生は、自分の 行動を「場」の認知をもって規定しているといえる。

また、実行度得点と掛け合わせ得点の結果に違いがな かったことについては、被験者が自分が「場」の認知 をもって行動を規定していることに対して、「望まし い」と肯定的に評価していることを示唆している。

4.2.青年用アサーション尺度得点における全体的 特徴

青年用アサーション尺度については、先の玉瀬ら

(2001)の結果とほとんど同じ結果が示されたといっ てもよいであろう。関係形成因子、説得交渉因子、お よび尺度全体のいずれについても類似した値である。

また、個々の項目の値についても類似している。アサ ーション尺度全体でみたときに平均値が最も低い項目 は、説得交渉因子の「図々しく不正な人がいたら、そ の人に注意する」であり、平均値が最も高い項目は関 係形成因子の「友人のいいところを見つけたら率直に ほめる」であった。この結果は、玉瀬らの結果と共通 であり、総合的にみて青年用アサーション尺度は大学 生を用いるかぎり、一貫した結果を期待できる尺度で あるといえる。

4.3.掛け合わせ得点と青年用アサーション尺度得 点との関係

掛け合わせ得点と青年用アサーション尺度全体との 相関は、ヨコ関係では本研究で作成した10項目全てで 有意であった。また、タテ関係では、項目2、0を除 く8項目については有意であった。ここで項目2と0 で相関が有意でなかったのには、項目として設定した 状況がタテの相手に対して直接アサ−ティブな反応を 示すことが困難な状況であったからだとして考えられ る。中でも興味深いのは、項目2「親しい友達の行動 に腹が立ったら、その事についてその友達と話す」に おいて、対象人物が「ヨコ」①の状況ではアサーショ ン尺度との有意な相関があるのに、「タテ」②の状況

「先生の行動に腹が立ったら、その事について先生と 話す」に変わると、相関がなくなるという結果である。

この場面では、個人差としてのアサーション傾向の強 い弱いに関わらずアサーティブな行動はしないのであ る。これは、大学生が自分と相手との心理的距離をは かりながら行動している典型的な例として取り上げる ことができる。

またここで問題にしたいのが、因子ごとの相関であ る。本研究で使用した評定項目は、すでに述べたよう に葛藤場面ばかりを設定している。したがって、アサ ーション尺度との相関については、関係形成因子より も説得交渉因子に直接的な関わりがあり、説得交渉因 子との間で相関が高くなるだろうと予想した。しかし、

全体的に見て、説得交渉因子も関係形成因子もあまり 変わらない有意な相関関係にあることが確認された。

このことは、人とうまく説得交渉ができる人ほど葛 藤場面でアサーティブになれることを示すとともに、

人とうまく関係形成することができる人ほど葛藤場面 でアサーティブになれることを意味している。おそら く順序としては関係形成の方がより基盤的な要因であ り、その上に説得交渉のスキルが必要となるものと考 えられる。しかし、これは現段階では推測にすぎない。

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このことを確認するためには、関係形成因子に基づく 評定項目を作成し、タテとヨコの状況を含めて、改め てアサーション尺度との関係を検討する必要があると いえる。

4.4.アサーションと場の認知との関係

青年用アサーション尺度のアサーション全体、説得 交渉因子、関係形成因子の各得点について高群と低群 に分け、対象人物のヨコとタテの組み合わせによって、

掛け合わせ評定得点にどのような違いがみられるかを 調べた。その結果、アサーション全体、説得交渉因子、

関係形成因子のいずれにおいても、アサーション高群 の方が低群よりも、また、対象人物がヨコの場面の方 がタテの場面よりも評定得点が高いことが分かった。

すなわち、説得交渉因子、関係形成因子のいずれか、

もしくはその両方の得点が高い人は、それらの得点の 低い人に比べて、説得交渉に関わるさまざまな場面で 常によりアサ−ティブになる傾向があるといえる。ま た、アサーション得点の高低に関わらず、大学生の誰 でもがタテ場面よりもヨコ場面において常によりア サ−ティブになる傾向があるといえる。しかし、アサ ーションと場の認知との交互作用はほとんど見られな かったので、アサーションの個人差が場の認知に影響 しているとはいえない。

ただし、すでにふれたように、本研究で設定した10 項目の場面はいずれも説得交渉を必要とするような場 面であった。関係形成的な場面についてはどうであろ うか。たとえば、「相手に頼みごとをしたい時には率 直に言う」「相手のいいところを見つけたら率直に誉 める」などの行動でもタテの相手とヨコの相手ではア サーションの程度が異なるであろうか。関係形成因子 の方が場面としてはより穏やかな場面である。このよ うな場面においてもアサーション得点の高い人はそれ の低い人に比べてよりアサ−ティブな行動をするであ ろうか。また、関係形成的な状況においてもタテとヨ コの違いはみられるであろうか。

本研究では、少なくともアサーションを必要とする 説得交渉的な状況においては、タテとヨコの区別が明 瞭になされている。このことが、より穏やかな関係形 成的な場面においても示されるのか、逆にタテとヨコ の区別がない状況というものがあるのかなども調べて みる必要があろう。阿部(1999)の論点からも示唆さ れるように、プライバシーが明確に意識され、公私の 区別が厳然となされるような社会と、状況依存的なわ が国の文化(中山,1989;柏木・北山・東,1997)では、

対人関係のとり方が多様に異なることは論をまたな い。たとえば、「図書館で勉強している時に、隣で誰 かが騒いでいたらやめてくれるように言う」という行 為は、その相手が誰であれ、言って当然であり、アサ ーション権(平木,1993)として充分認められるはず である。しかし、本研究で示されているように、相手

が 友 達 で あ れ ば 言 い や す い け れ ど も (M = 5 . 4 3 , SD=3.12)、相手が先輩だと言いにくい(M=3.09, SD=2.26)。このように、問題はどのような場面でど う振舞うのかを実証的に示すことである。

4.5.アサーション訓練への示唆

本研究では、人間関係のとり方をウチ、ソト、ムエ ンの3つに分けて構想している。しかし、実際にはソ トの場面だけを扱っている。近年、ムエンの領域が青 年を中心に広がってきていることが身近に実感される が、このことについては今後さらに探求したいと考え ている。本研究では場の認知を操作するために、タテ とヨコの違いを取り上げた。タテとヨコの違いがどれ だけ意識されるのかによって、場の認知が働いている か否かをみようとしたのである。本研究で得られた知 見 は 、 ア サ ー シ ョ ン 訓 練 ( 平 木 , 1 9 9 3 ; 平 木 ら , 2002;園田ら,2002)に充分生かしうるものと考えら れる。ここでいう訓練とは、臨床の場におけるクライ エントに対するものではなく、あくまでも初心の援助 者に対する訓練を想定したものである。どのような場 面から訓練を始めればよいのか、日本社会におけるウ チとソト、タテとヨコの問題をどのようにアサーショ ン訓練に取り入れればよいのか、アサーションの個人 差が現われやすい状況とほとんど個人差が関係しない 状況があるが、それらは具体的にどのような場面であ るのかなどである。質問紙を用いた評定である程度の 目途を立て、場面を設定して実際に訓練を行い、そこ で新たな違いが生じることはありうることである。訓 練と実証の積み重ねによって、より堅牢なアサーショ ンの理論を作り上げていくことができるであろう。

引用文献

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参照

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