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企業のライフサイクルがリスクテイクに及ぼす影響

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企業のライフサイクルがリスクテイクに及ぼす影響

Empirical analysis on the influence of the firm's life cycle stage on corporate risk-taking behavior

太 田 裕 貴

YuukiOHTA (令和元年9月25H受理)

要旨

本稿の日的は、 Habiband Hasan (2017)の分析フレームワークに基づいて日本企業の ライフサイクルとリスクテイクの関連性を明らかにするとともに、それが将来業績に対し てどのような影響を与えるかを解明することである。実証分析の結果、導入期(成熟期)の 企業がリスクテイクに積極的(消極的)であることを示唆する証拠が得られた。この結果 はHabiband Hasan (2017)の分析結果と整合的である。一方、 Habiband Hasan (2017)

とは異なり、成長期、再編期および衰退期の企業とリスクテイクの間に統計的に有意な関 連性は析出されなかった。加えて、企業のリスクテイクが将来業績に及ぼす影響を検証し たところ、導入期、再編期および衰退期(成長期および成熟期)を表す変数が、リスクテイ クと将来業績の関連性に対して追加的に負(正)の影響を与えることが明らかとなった。 【キーワード】ライフサイクル・リスクテイク・キャッシュフロー計算蓄・将来業績 1. はじめに リスクを認識したうえでリスクをとる選択をすることはリスクテイク (risk-taking)と 呼ばれる。リスクテイクは企業成長、業績、および生存 (survival)に対して重要なインプ リケーションを与える (Bromiley,1991)心 経営者と株主の間のエージェンシー関係に注目すると、株主は、たとえ裔リスクであっ ても正味現在価値 (NPV:Net Present Value)が正を示す投資計画であれば、経営者がそ れを実行することを選好する (Faccioet al., 2011)。なぜなら、株主は自身が有するリスク を分散させることが可能だからである。一方、経営者はそれが容易ではないことから、リ スク回避的 (risk・a version)になると考えられる先したがって、経営者がリスクテイクを 実施するには何らかの誘因が必要となる。その一つとして挙げられるのが経営者報酬契約 である。数多くの研究は、凸型のペイオフ (convexpayoffs)が経営者によるリスクテイク の誘因となることを示している(例えばJensenand Meckling, 1976; Myers, 1977; Haugen and Senbet, 1981; Smith and Stulz, 1985; Smith and Watts, 1992; Core and Guay, 1999; Guay, 1999)。Rajgopaland Shevlin (2002)は、経営者がリスクテイクを実施するうえで ストックオプションが重要なインセンティブになり得ることを指摘している凡

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太 田 裕 貴

しかしながら、 Habiband Hasan (2017)は、経営者のリスクテイクに関する既存研究 は企業のライフサイクル (LC: Life Cycle)の影響を無視していると指摘している。ライ フサイクル理論は投資および財務の意思決定が組織の能力 (organizationalcapabilities)

の変化によって影響されることを指摘している (Penrose,1959; Wernerfelt, 1984)。

Habib and Hasan (2017)は企業のLCを5段階(導入期・成長期・成熟期・再編期・衰退 期)に識別したうえで、導入期および衰退期の企業が積桓的なリスクテイクを実施してい る一方で、成長期および成熟期の企業はリスクテイクの実施に消極的であることを明らか にしている。加えて、企業のリスクテイクが将来業績に及ぼす影警を検証したところ、導 入期および衰退期(成長期および衰退期)を表す変数が両者の関連性に対して追加的に負 (正)の影響を与えることが明らかとなった。本稿の目的は、 Habiband Hasan (2017)の 分析フレームワークに基づいて日本企業の LCとリスクテイクの関連性を明らかにすると ともに、それが将来業績に対してどのような影響を与えるかを解明することである。日本 企業を対象にして LCとリスクテイクの関連性を明らかにした先行研究は筆者の知る限り 存在しないことから、本稿の実証結果は貴重な証拠となり得る。 2009 2017年度の所定の要件を満たす 30,014企業・年度のサンプルを用いて企業の LCとリスクテイクの閲連性を検証したところ、導入期(成熟期)の企業がリスクテイクに 積極的(消極的)であることを示唆する証拠を得た。この結果はHabiband Hasan (2017) の分析結果と整合的である。一方、 Habiband Hasan (2017)とは異なり、日本企業を対 象とした場合には、成長期、再編期および衰退期の企業とリスクテイクの間に統計的に有 意な関連性は析出されなかった。 さらに、 2009 2016年度の所定の要件を満たす26,092企業・年度のサンプルを用いて 企業のリスクテイクが将来業績(当期から次期にかけての総資本事業利益率の変化分)に 及ぼす影響を検証したところ、導入期、再編期および衰退期(成長期および成熟期)を表 す変数が、リスクテイクと将来業績の関連性に対して追加的に負(正)の影警を与えるこ とが明らかとなった。 本稿の構成は以下のとおりである。 2節では先行研究のレビューを行った後に、検証す べき仮説を定立する。 3節では企業のLCの識別方法を紹介する。 4節ではリサーチ・デザ インを設定するとともに、分析に用いるサンプルの抽出要件について述べる。 5節では実 証結呆を提示する。 6節では実証分析で得られた発見事項を要約した後に、今後の研究課 題について言及する。

2

.

先 行 研 究 の レ ビ ュ ー と 仮 説 の 定 立 本節では、企業の投資活動が LCでどのように変化するかを示した先行研究のレビュー を行った後に、検証すべき仮説を定立する。なお、以下ではHabiband Hasan (2017)と 同様にGortand Klepper (1982)が提示した5段階のLC(導入期、成長期、成熟期、再編 期、および衰退期)に注目する。 導入期の企菓については、複数の先行研究が競争相手の参入を阻止することを目的とし て早期の投資を実行する可能性が高いことを示している(例えば Spence,1977; 1979; 1981; Porter,1980; Jovanvic, 1982)。しかしながら、導入期の企業は自社の製品・サービ 2

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-スに対する顧客を充分に確立できておらず、投資の成果が期待どおりに得られるかは極め て不確実であると考えられる。これを踏まえると、導人期の企業の投資行動は相対的にリ スクが高いことが予想される。そこで、以下の仮説 1を定立する。 仮説

1

導入期の企業は積極的なリスクテイクを行う。 成長期の企業がリスクテイクを積極的に行うか否かについては議論が分かれるところで ある。 Kazanjianand Drazin (1989)およびLiao(2006)は、成長期の企業が製品のイノ ベーションおよび事業の多角化を通じて投資を増加させることを報告している。これらの 研究の知見に基づくと、成長期の企業は積極的にリスクテイクを行うことが期待される。 一方、 Millerand Friesen (1984)は、成長期における複雑な製品戦略が社内で慎重に取 り図られることを指摘している。戦略の最終的な意思決定主体である経営者は、その複雑 性に起因してリスクテイクに消極的になる可能性がある。このように、成長期の企業とリ スクテイクの関連性に関しては対立する二つの見解が存在し、いずれが妥当性を有するか については実証的課題である。本節では以下の仮説2-1と仮説2-2を定立する。 仮説2-1 成長期の企業は積極的なリスクテイクを行う。 仮説2-2 成長期の企業はリスクテイクに消極的である。 先行研究では成長期から成熟期に移行した企業の投資額が減少することが指摘されてい る (Jovanovic,1982; Wernerfelt, 1985)。Richardson(2006)は成熟期の企業が設備の維 持に力を入れることを報告している。これらの研究の知見を踏まえると、成熟期の企業は それほどリスクテイクに積極的ではないことが予想される。そこで、以下の仮説 3を定立 する。 仮説3 成熟期の企業はリスクテイクに消極的である。 再編期の企業は経営の立て直しをはかる一環で不要設備や収益性の低い事業の売却を行 う可能性がある。岩井 (2003)は企業が不得意な分野を切り捨てたうえで自社の規模を縮 小させることでコア・コンピタンス4を獲得することができると指摘している。これらの点 を踏まえると、当該企業が積極的なリスクテイクを行うとは考えにくい。しかしながら、 その一方で、不要設備や収益性の低い事業の売却で得た資金を将来的な成長を目指した投 資活動に充てる可能性も考えられる。このように再編期の企業とリスクテイクの関連性に ついては明確な予想が困難であることから、以下の二つの仮説(仮説4-1と仮説4-2)を定 立する。 仮説

4

-

1

再編期の企業は積極的なリスクテイクを行う。 仮説4-2 再編期の企業はリスクテイクに消極的である。 衰退期の企業は企業存続の危機に晒されている。当該企業が企業存続をはかるためには、

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太 田 裕 貴 従来とは異なる大胆な行動が必要になるであろう。複数の研究がこの見解を支持している。 例えば、 Dickinson(2011)は衰退期の企業が研究開発投資の規模を拡大する傾向にあるこ とを指摘している。 Benmelechet al. (2010)は衰退期の企業が相対的にリスクの高い行動 を選択することを理論的に示している。これらの研究の知見を踏まえると、衰退期の企業 は、より積極的にリスクテイクを行うことが予想される。そこで、以下の仮説 5を定立す る。 仮説

5

衰退期の企業は積極的なリスクテイクを行う。

3

.

企 業 の ラ イ フ サ イ ク ル の 識 別 方 法 企業の LCを識別する方法が複数の先行研究で議論されてきた。例えば Anthonyand Ramesh (1992)は売上高成長率、社齢および配当性向の三つの尺度を用いて、企業のLC

を「growth」、「growth/mature」、「mature」、「mature/stagnant」、および「stagnant」 の5段階に識別した。具体的には、売上高成長率が高く、社齢が低く、かつ配当性向が低 い企業ほど成長段階にあると捉えたうえで、三つの尺度ごとに分析対象企業を3段階に分 類して点数を割り当てた。そして、低(高)得点ほど成長段階(成熟段階)にあると設定し た。 Hribarand Yehunda (2007)およびLiu(2008)はAnthonyand Ramesh (1992)の 手法に依拠して企業のLCを5段階叶こ識別している見

しかしながら、 Anthonyand Ramesh (1992)が提示した

つの尺度は企業のLCを捉 える際の絶対的な尺度ではなく、研究によっては異なる尺度で企業の LCが捉えられてい る。例えばBenset al. (2002)は、 Anthonyand Ramesh (1992)が提示した三つの尺度の 他に研究閲発費、資本的支出、および株価純資産倍率を用いている。DeAngeloet al. (2006)

では留保利益を総資産額で除した尺度が使用されている。

以上の先行研究で共通していることは単一の変数に基づいたポートフォリオを作成して 企業の LCを捉える点である。しかしながら、当該手法はLCの各段階に関する明確な定 義が存在しないという問題点を抱えている (Yanand Yan, 2010)。Dickinson(2011)は、

この問題点を解決するためにキャッシュフロー計算書の情報を用いて企業の LCを識別す る手法を提示した。 Dickinson (2011)は、キャッシュフロー計算書で報告される営業キャッシュフロー、投 資キャッシュフロー、および財務キャッシュフローの三つの符号のパターンで企業の LC を捉えた。この背兼には、それぞれのキャッシュフローが株式リターンに与える影響が異 なるという Livnatand Zarowin (1990)の証拠が存在する。すなわち、キャッシュフロー は企業の収益性およびリスクの違いを捉えると考えられるのである。 また、 Dickinson(2011)の手法は単一の変数に基づいたポートフォリオを作成して企業 のLCを捉える研究と比較して、「キャッシュフローのパターンに基づく識別は企業経営の 系統的な (organic)結呆であり、経済理論とのより良い統合を図ることができる」 (p. 1974)というベネフィットを有している。この点を踏まえて、本稿では、Habiband Hasan (2017)と同様に Dickinson(2011)の手法を用いて企業の LCを識別する。以下では、 Dickinson (2011)で提示された企業のLCの識別手法を記述する。 4

(5)

-現行のキャッシュフロー計算書では企業のキャッシュフローを営業活動、投資活動、お よび財務活動の三つに区別して表示する。キャッシュフロー計算書を理解する際には、キ ャッシュの規模も然ることながら、その符号も重要である。 Dickinson(2011)の手法は、 まさにこの三つのキャッシュフローの符号のパターンに注目するものである。 Dickinson (2011)の手法による企業のLCの識別方法を表1に示す。 表

1

キャッシュフロー計算書を用いた企業の

L

C

の識別方法 1 2 3 4 5 6 7 8 新興 成長 成熟 再編期 再編期 再編期 衰退 衰退 営業 CFの

応イ寸で口T 投資 CFの

埒イ寸だ口r 財務 CFの

応イ寸で口T (出所)Dickinson(2011, p. 1974) を基に筆者作成 表 1には、三つのキャッシュフローの符号の違いで識別した 8パターンを、 Gortand Klepper (1982)が定義した 5段階のLC(導入期、成長期、成熟期、再編期、および衰退 期)に当てはめた結呆が整理されている。まず、導入期では営業キャッシュフローと投資 キャッシュフローが負、財務キャッシュフローが正を示している。導入期の企業は自社の 製品およびサービスに対する確立した顧客が少なく、充分なキャッシュインフローを獲得 できない可能性が裔い (Jovanovic,1982)。一方、競争相手の参人を阻止することを意図し て早期の投資を実行する可能性が高い (Spence,1977; 1979; 1981; Porter,1980; Jovanvic, 1982)ことから、投資活動に関するキャッシュの活用には積極的になることが予想される。 また、投資に必要な資金を積極的に調達する可能性が高いため、導人期の財務キャッシュ フローは正を示すことが期待される。 成長期は投資キャッシュフローおよび財務キャッシュフローの符号が導入期と同じであ るが、営業キャッシュフローの符号は異なる。これは、企業が導入期から成長期に移行す るにつれて自社の製品・サービスに対する顧客が徐々に増加し、キャッシュインフローを 充分に獲得することができるという予想に基づく。 成熟期は営業キャッシュフローおよび投資キャッシュフローの符号が成長期と同じであ るが、財務キャッシュフローの符号は異なる。成熟期の企業は投資機会の減少に伴い、資 金調達の必要性が低減すると考えられる (Barclayand Smith, 2005)。成熟期では、企業 はむしろ負債を返済し、ペイアウトを増加させるであろう。ペイアウトの増加は投資家に 対する負の

NPV

への投資の可能性を減少させる経営者のシグナルになるからである

(6)

太 田 裕 貴

(Jensen, 1986; Barclay and Smith, 2005; Oler and Picconi, 2009)。これらの見解を踏ま えると、成熟期の企業の財務キャッシュフローは負を示すことが期待される。 衰退期では営業キャッシュフローが負、投資キャッシュフローが正を示している。衰退 期の企業は自社の製品およびサービスの販売によるキャッシュインフローが充分に獲得で きない状況にあると考えられる。販売不振による価格低下もキャッシュインフローの減少 に拍車をかける要因となり得る(Wernerfelt,1985)。また、返済に必要な資金を営業活動 で確保できないことから、資産売却等で賄う可能性がある。これを踏まえると、衰退期の 投資キャッシュフローは正を示すと予想される。 再編期は導入期、成長期、成熟期および衰退期のいずれのキャッシュフローの符号のパ ターンにも当てはまらない場合が該当する。

4

.

リ サ ー チ ・ デ ザ イ ン の 設 定 と サ ン プ ル の 抽 出 要 件 4.1 リサーチ・デザインの提示 2節で提示した仮説を検証するために、パネルデータを用いて以下の重回帰式を設定す る(i=企業、

t

=決算年度)。 RISKi,t

=

a

+a1LCi,t + a2 SGi,t十a3AGEi,t+ a4D0Ei,t + a5REi,t + a6MBi,t + a7SIZEi,t + a8LEVi,t + a9PMi,t + a10INVi,t + a11MASHAR

恥+

U12BLOCKi,t+ Ej,t (1) (1)式の被説明変数はRISKi,tであり、リスクテイクの代理変数である。本稿ではRISKi,tの 代理変数として次の三つを使用する。第 1にROASDi,tであり、当期から過去 3年間の ROA の標準偏差で表す。 ROAは事業利益7を期首総資産で除して算定される。複数の先行研究 は企業のリスクテイクの代理変数として ROAのバラッキを挙げている(例えば Johnet al., 2008; Li et al., 2013)。すなわち、リスクテイクに積極的な企業ほど ROAのバラッキ が大きくなると捉えるのである。第 2にRETURNSDi,tであり、決算月を最終月とする過去 1 年間 (12ヶ月間)の月次リターンの標準偏差で表す。 Bargeronet al. (2010) は企業がリ スクテイクを積極的に実施するほどRETURNSDi,tが大きくなることを示している。第 3 に RDi,tであり、研究閲発費を期首総資産で除して算定される凡研究開発投資は長期的投資の 性格を有しており(例えば Stein,1989; Bebchuk and Stole, 1993; Noe and Rebello, 1997; Lundstrum, 2002)、その成果が得られるかどうかの不確実性が高い。したがって、相対的 にリスクが高い投資と捉えられる。複数の先行研究が研究開発費の規模をリスクテイクの 代理変数として利用している(例えば Bhagatand Welch, 1995; Li et al., 2013)。 (1)式の説明変数はLCi,tであり、企業の LCの代理変数である。 LCi,tは前節で示した 5段 階の LCに関するダミー変数であり、以下のとおりに設定する。 DINTROi,tは企業が導入期 であれば 1、それ以外であればゼロのダミー変数、 DGROWTHi,tは企業が成長期であれば 1、 それ以外であればゼロのダミー変数、 DMATUREi,tは企業が成熟期であれば 1、それ以外で あればゼロのダミー変数、 DSTRIKEi,tは企業が再編期であれば 1、それ以外であればゼロの ダミー変数、 DDECLINEi,tは企業が衰退期であれば 1、それ以外であればゼロのダミー変数 である。 LCの識別方法は前節で検討した Dickinson(2011) の手法を用いる。仮説 1が支 6

(7)

-持される場合はDINTROi,tの係数が有意に正に、仮説 2-1(仮説 2-2)が支持される場合は DGROWTHi,tの係数が有意に正(負)に、仮説3が支持される場合はDMATUREi,tの係数が有 意に負に、仮説 4-1(仮説 4-2)が支持される場合はDSTRIKEi,tの係数が有意に正(負)に、 仮説5が支持される場合はDDECLINEi,tの係数が有意に正に、それぞれ推定されることが期 待される。 企業の LCとリスクテイクの関連性を検証するために、(1)式に以下のコントロール変 数を加える。第 1に、企業の LCに関する変数であり、 SGi,t、AGEi,t、DOEi,t、およびREi,t を用いる。これらは Dickinson(2011)以外の複数の先行研究 (Anthonyand Ramesh, 1992;Bens et al. 2002; DeAngelo et al. 2006)で企業のLCを反映すると指摘されてきた 要囚をコントロールするために設定する。 SGi,tは前期から当期にかけての売上高成長率で ある。積極的なリスクテイクを実施するのは成長性が高い企業であると考えると、 SGi,tの 係数の期待符号は正である。ただし、成長性が低い企菓が自身の成長率の低さを認めずに 大規模な投資を行う可能性もある (Benmelechet al. 2010)。その場合、 SGi,tの係数は有意 に負に推定されるであろう。 AGEi,tは社齢を表す変数であり、企業の設立年数の自然対数を 用いる。社齢が低い企業ほど LCの初期の段階(導入期や成長期)であることが予想され る。 Adamset al. (2005)は社齢の低い企業が積極的なリスクテイクを実施することを明 らかにしている。この見解を踏まえると、 AGEuの係数の期待符号は負である。 DOEi,tは企 業のペイアウトの水準を表す変数であり、当期のペイアウト総額9を期首自己資本で除して 算定される。積極的にリスクテイクを実施する企業は、その原資を必要とするであろうか ら、ペイアウトには消極的であると予想される。したがって、 DOEi,tの係数の期待符号は負 である。 REi,tは留保利益率であり、当期の利益剰余金を期首の自己資本で除して算定され る。仮に内部資金である利益剰余金を豊富に有する企業が積極的なリスクテイクを実施す る場合、 REi,tの係数は有意に正に推定されることが期待される。一方、積極的なリスクテ イクの実施によって内部資金が不足することも考えられる。この場合はREi,tの係数は有意 に負に推定されるであろう。 第2に、リスクテイクの程度に影響を与えると考えられる変数であり、 MBi,t、SIZEi,tヽ LEVi,t、PMi,t、INVi,t、MASHAREi,t、およびBLOCKi,tを用いる10。MBi,tは成長機会の多寡の代 理変数であり、期末時点の時価総額11を期末自己資本で除して算定される(時価簿価比率)。 成長機会を豊富に有する(すなわち、時価簿価比率が高い)企業ほど積極的なリスクテイ クを実施すると考えると、 MBi,tの係数は有意に正に推定されることが期待される。 SIZEi,t は企業規模を表す変数であり、期末の総資産の自然対数で算定される。複数の先行研究は 小 規 模 企 業 が リ ス ク テ イ ク に 積 極 的 に な る こ と を 指 摘 し て い る (Perez-Quirosand Timmermann, 2000; Bargeron et al., 2010)。この見解が妥当性を有する場合、 SIZEi,tの係 数は有意に負に推定されるであろう12。LEVi,tはレバレッジであり、期末の負債総額を同時 点の自己資本で除して算定される。 Liet al. (2013)はレバレッジが企業による高リスクの 投資を抑制する機能を持つことを指摘している。したがって、 LEVi,tの係数の期待符号は負 である。 PMi,tは企業業績を表す変数であり、売上高事業利益率を用いる。収益性が高い企業では 投資機会が豊富に存在すると捉えると、当該企業は積極的にリスクテイクを実施すると考 えられる。これを踏まえると、 PMi,tの係数は有意に正に推定されることが期待される。一

(8)

太 田 裕 貴 方、収益性が低い企業が積極的なリスクテイクを実施して将来的な業績向上を目指す可能 性もある。この場合、 PMi,tの係数は有意に負に推定されるであろう。 INVi,tは設備投資の多 寡を表す変数であり、当期の設備投資額を期首の総資産で除して算定される。リスクテイ クの一環として設備投資が実施される場合、両者は正の関連性を有すると考えられる。し たがって、 INVi,tの係数の期待符号は正である。 MASHAR恥は経営者の持株比率を表す変数である。自社の株式を多く有する経営者は将 来的な企業価値の上昇につながる意思決定を行うと考えられる。仮にリスクテイクの実施 がそれに貢献するのであれば、当該経営者は積極的にリスクテイクを実施することが予想 される。この見解が妥当性を有する場合、 MASHAREi,tの係数は有意に正に推定されるであ ろう。一方、経営者が自身の富を保持するために高リスクの投資計画の実行を敬遠する可 能性もある。この見解が支持される場合、 MASHAREi,tの係数は有意に負に推定されること が期待される。 BLOCKi,tは大株主持株比率である。株主の富が高度に集中している場合、リ スクの上昇は期待効用を減少させる要因となる (Faccioet al., 2011)。したがって、大株主 持株比率が高いほど、彼らは経営者にリスク回避的な意思決定を選択することを期待する であろう。これを踏まえると、BLOCKi,tの係数は有意に負に推定されることが期待される。 (1)式 の 推 定 は 企 業 効 果 と 年 度 効 果13を 固 定 し た 固 定 効 呆 モ デ ル (fixedeffects regression model)を用いて行う14。その際に、サンプル内における誤差項 (Ei,t)のクロス セクションあるいは時系列の相関を踏まえて、年度クラスターおよび企業クラスターによ る二段階の補正を施した標準偏差に基づ<

t

検定量を用いる。

4

.

2

サンプルの抽出要件 (1)式の推定に用いるサンプルは、①2009 2017年度の上場企業(一般事業会社)であ る15、②当期の会計期間が 1年 (12ヶ月間)である、③自己資本の簿価が正である、④分 析に必要なデータがデータベースにすべて収録されている、の四つの抽出要件をすべて満 たす30,014企業・年度である (pooledsample)。なお、決算年度ごとに、 RDi,t、DOEi,tヽ REi,t、INVi,t、およびMASHAR恥以外のすべての変数(ただし、ダミー変数を除く)の上下 1%をウィンソライズ (winsorize)した16。 ①の要件は筆者が後述のデータベースから取得可能なデータの決算年度が 2006 2017 年度であったことに起因する。本稿ではRISKi,tの代理変数の一つであるROASDi,tの算定の 際に当期から過去 3年間のデータを用いることから、サンプルの開始年度を 2009年度と 設定した。②の要件は変数の正確な算定のために、決算月を変更した企業を削除する目的 で設定した。③は自己資本を分母に用いる変数 (DOEi,t、REi,t、およびMBi,t)を正確に算定 するために設けた要件である。④については経営者持株比率に関するデータは『日経

NEEDS企業基本データ』、それ以外のデータは『日経NEEDS-Financial QUEST』(いず れも日経メディアマーケティング株式会社)から取得した170 4.3基本統計量と相関係数 表2は(1)式の変数の基本統計量の結果である。 PanelAはpooledsampleの基本統計 量の結果である。 LCに関するダミー変数の結果に注目すると、 DMATUREi,t以外は第 3四 分位点 (p75)までゼロを示していることがわかる。この結果はDickinson(2011)の手法 8

(9)

-で企業のLCを識別すると、サンプルの多くが成熟期に該当することを示している。 Panel BはLC別の基本統計量 (meanとmedian)の結果である。サンプルサイズに注目すると、 全体サンプル (30,014企業・年度)のうち成熟期に該当するサンプルは17,221企業・年度 であり、全体の約57%を占めることが明らかである。次に多いのが成長期に該当するサン プル (5,489企業・年度)であり、衰退期に該当するサンプル (1,217企業・年度)が最も 少ないことがわかる。 Panel Bを基に LC別の各変数の結果を検討すると、 RDi,tを除くRISKi,tの代理変数 (ROASDi,tおよびRETURNSDi,t)は成熟期で最小値を示すことがわかる (medianの結果)18。 これは成熟期の企業はリスクテイクに消極的であるという仮説 3 を支持する結果である。 また、 5段階のLCの中で、成熟期の次にROASDi,tとRETURNSDi,tの値が小さくなっている のは成長期である。この結果は成長期の企業はリスクテイクに消極的であることを示唆し ており、仮説2-2を支持するものである。 LCに関する変数の結果を検討する。 SGi,tは成長期で最大値を示しており、複数の先行研 究の結果と整合的である (Anthonyand Ramesh, 1992; Bens et al. 2002; DeAngelo et al. 2006)。一方、 SGi,tのmeanおよび medianは再編期と衰退期でともに負の値を示してい る。再編期と衰退期では企業の成長率が相対的に低いことが伺える。 AGEi,tは導入期(成熟 期)で最小値(最大値)を示している。衰退期のAGEi,tの値が5段階のうちで2番目に小さ いのは興味深い結呆である。この結呆は社齢がそれほど高くない企業が衰退期に該当する 状況に追い込まれていることを示唆している19。DOEi,tは成熟期(衰退期)で最大値(最小 値 ) を 示 し て い る 。 こ の 結 果 は 成 熟 期 で は 企 業 が 投 資 を そ れ ほ ど 積 極 的 に 行 わ ず (Javanovic, 1982; Wernerfelt, 1985)、その原資をむしろペイアウトに向けていることを示 唆している。これは複数の先行研究と盤合的な結果である (Anthonyand Ramesh, 1992; Bens et al. 2002; DeAngelo et al. 2006)。対照的に衰退期では返済に充てる資金の確保を 優先して資金をペイアウトに向ける余裕がないと考えられる。 REi,tはDOEi,tと同様の結果 を示しており、 DeAngeloet al. (2006)の結果と整合的である。成熟期の企業ほど利益剰 余金を相対的に豊富に有している一方で、衰退期の企業ではそれが相対的に少ない傾向に あることが伺える。以上の結果を踏まえると、 LCに関する変数については先行研究と同 様の証拠が基本的には得られており、 Dickinson(2011)の手法で識別されたLCが相当程 度の妥当性を有することが示唆される。

(10)

太 田 裕 貴

2

基本統計量

Panel A

ROASD RETURNSD RD DINTRO DGROWTH DMATURE DSTRIKE DDECLINE mean 0.0292 0.1208 0.0156 0.0632 0.1829 0 5738 0.1396 0 0405 sd 0.0363 0.148了 0.0313 0 2434 0 3866 0 4945 0 3465 0 1972 min 0.0005 0.0137 0.0000 0.0000 0 0000 0 0000 o 0000 0.0000 p25 0.0096 0.0614 0.0000 0.0000 0 0000 0 0000 0 0000 0.0000 p50 0 01了9 0.0894 0 0022 0 0000 0 0000 1 0000 0 0000 0.0000 p了5 0.033T 0.1352 0.01TB 0.0000 o 0000 1 0000 0 0000 0.0000 max 0 2851 2.4949 0 22B9 10000 1 0000 10000 1.0000 1.0000

SG AGE DOE RE MB SIZE LEV PM INV MAS HARE BLOCK mean 0.0239 3.7792 0 023了 0 5428 1 3136 10.3964 1 6503 0.0557 0 0384 0.085了 0.226了 sd 0 1722 0.6481 0.0293 0.2893 15410 1 T126 2.1844 0.0905 0.0391 0 1360 0 1601 m,n -0.6066 1.0986 0.0000 0.0000 0.0155 6 7056 00了68 -0.6170 0.0000 0.0000 0.0385 p25 -0 0513 3.4965 0.0088 0 3438 0 5683 9.2121 0 4883 0 0231 0 0110 0.0030 0.096了 p50 0 0159 3.9890 0.0161 0.6031 0 8620 10 2313 0 9880 0.0490 0.02了2 0 0198 0 1790 p了5 0.0839 4.2047 0 0277 OTT02 1.4181 11.3993 1 9342 0 0874 0.0527 01086 0 3181 max 1.0473 4.9127 0.2514 1.1130 14.63了7 15.4656 20.4284 0.3948 0 2270 07771 0.7203

Panel B ROASD RETURNSD RD 導 入 期 0.0560 0.0312 0.1604 0.1223 0.0213 0 0003 1,898 成 長 期 0 0291 0.0185 0 1263 0.0946 0.0148 0 0026 5.489 成 熟 期 0.0233 0.0160 0.1102 0 0832 0.0154 0 0034 17,221 再 網 期 0.0342 0.0202 0.1294 0.0951 0.0136 0.0002 4,189 衰 還 期 0.0545 0.0340 0.1556 0.1152 0 0200 0.0000 1.217 SG AGE DOE RE MB 導!入期 0.0283 0.0064 3.5435 3.了612 0.0183 00111 0.3616 0 3529 18447 0 9271 成 長 期 0.0575 0.0364 3 7277 3 9703 0.0218 0 0158 0.5249 0.5698 1.4719 0.9251 成 熟 期 0 0231 0.01了5 3 8441 4.0431 0.0255 0.0175 0 5999 0 6533 12077 0.8650 再 編 期 ー0.0038 -0 0072 3.7312 3.8918 0 0232 0.0136 0 4TT2 0.5337 1.2320 0.7了76 衰 退 期 ー0.0265 -0 0356 3 6259 3.8501 0.0160 0 0070 0 3255 0 2484 1 5522 0了.259

SIZE LEV PM INV MASHARE BLOCK 導 入 期 9.7892 9.6432 2.7364 1.7417 -0.0191 0.0169 0.0381 0.0220 0 1109 0.0304 0 2415 0.2000 成 長 期 10 6004 10.3913 1.8753 1.3388 0.0611 0.04了1 0 0622 0.0500 0101了 0.0259 0 2201 0.17了2 成 熟 期 10 597 4 10.4345 13669 0 8389 0.0了21 0 0579 0 0370 0 0289 0.0741 0 0154 0.2230 0.1709 再 編 期 9.8735 9.7320 1.8158 0.9119 0 0424 0.0364 0 0194 0 0116 0.09了3 0 0318 0.2315 0.1939 衰 還 期 9.3787 9.2916 2 3832 1.1591 -0 0377 0 0074 0.0170 0.00TB 0 0991 0.029了 0.2483 0.1982 (注1)サンプルは2009 2017年度にかけて所定の要件を満たす30,014企業・年度である。 PanelA はpooledsampleの 基本統計量である。 PanelBは LC別の基本統計量である。

(注2)meanは平均値、 sdは標準偏差、 minは最小値、 p25は第1四分位点、 p50は中央値、 p75は第3四分位点、 maxは

最大値、 N はサンプルサイズをそれぞれ表す。また、 PanelBの各変数の左側(右側)はmean(median)を表す。

(注3)ROASD=当期から過去 3年間の ROA(当期事業利益を期首総資産で除して算定)の標準偏差、 RETURNSD=決算月

を最終月とする過去1年間の月次リターンの標準偏差、 RD=当期研究開発費+期首総資産、 DINTRO=企業の LCが 導入期であれば1、それ以外はゼロのダミー変数、 DGROWTH=企業の LCが成長期であれば 1、それ以外はゼロの ダミー変数、 DMATURE=企業のLCが成熟期であれば 1、それ以外はゼロのダミー変数、 DSTRIKE=企業のLCが 再編期であれば1、それ以外はゼロのダミー変数、 DDECLINE=企業の LCが衰退期であれば 1、それ以外はゼロの ダミー変数、 SG=前期から当期にかけての売上高成長率、 AGE=企業の設立変数の自然対数、 DOE=当期のペイアウ ト総額+期首自己資本、RE=当期利益剰余金+期首自己資本、 MB=期末時価総額+期末自己資本、 SIZE=期末総資産 の自然対数、 LEV=期末負債総額+期末自己資本、 PM=当期の売上高事業利益率、 INV=当期設備投資額+期首総資 産、 MASHARE=経営者持株比率、 BLOCK=大株主持株比率 最後にリスクテイクに影警を及ぼし得る変数の結果を検討する。 MBi,tは導入期で最大値 を示している。この結果は導入期の企業が成長機会を相対的に豊富に有することを示唆し ている。 SIZEi,tはAGEi,tと基本的には同様の結呆である。 LEVi,tは導入期(成熟期)で最大値 (最小値)を示している。導入期の企業は負債による資金調達に積極的である一方で、成熟

(11)

-10-期の企業は負債をそれほど多く利用していないことが伺える。 PMi,tは成熟期で最大値を示 している。成熟期の企業が相対的に高い利益率を確保している事実が確認できる。 INVi,tは 成長期で最大値を示している。成長期の企業がより積極的な設備投資を実施していること が伺える。 MASHAREi,tは成熟期で最小値を示している。前述したように、成熟期の企業は 企業規模が相対的に大きい。したがって、株主の分散がより高度化している可能性がある。 事実、 BLOCKi,tの結果を見ると、成熟期で最小値を示している (medianの結呆)。これらの 結果を踏まえると、成熟期の企業では経営者や大株主が大規模な株式所有を行っていない ことが示唆される。 表3は変数間の相関係数の結呆である。リスクテイクの代理変数 (ROASDi,t、RETURNSDi,tヽ およびRDi,t)同士の相関係数はいずれも有意に正を示している。この結果は各変数がリス クテイクの代理変数として妥当性を有することを示唆している。 リスクテイクの代理変数と LCの相関係数の結果については次の事実が明らかである。 第1に、 DINTROi,tはリスクテイクの代理変数と基本的に有意に正の相関関係を有する。こ の結呆は仮説1を支持するものである。第2に、 DGROWTHi,tはRETURNSDi,tとの間でのみ 有意に正の相関関係を有するが、基本的に両者の間には有意な相関関係が確認されない。 第3に、 DMATUR恥 はROASDi,tおよびRETURNSDi,tと有意に負の相関関係を有する。この結 果は仮説3を支持するものである。第 4に、 DSTRIKEi,tとリスクテイクの代理変数の相関 関係の結果は混在している。仮説4-1と仮説4-2のいずれが妥当性を有するかは相関係数 の結呆からは判断できない。第5に、 DDECLINEi,tはリスクテイクの代理変数と基本的に有 意に正の相関関係を有する。これは仮説 5を支持する。 次に、リスクテイクの代理変数とコントロール変数の結呆を検討する。 SGi,tはリスクテ イクの代理変数と基本的に有意に正の相関関係を有しており、事前の予想と縣合的である。 AGEi,tはROASDi,tおよびRETURNSDi,tと有意に負の相関関係を有する。この結果はAdamset al. (2005)による社齢の低い企業が積極的なリスクテイクを実施するという見解を支持す るものである。ただし、 AGEi,tとRDi,tはSpearman相関係数に注目した場合は有意に正を 示している。この結呆については蟻川他 (2011)による「R&D集約産業のR&D投資に占 める、 1990年以降に上場した新興企業の割合は3%に満たない」 (341-342頁)という報告 から解釈することができる。すなわち、日本企業を対象にした場合には、社齢が相対的に 低い新典企業ほど研究聞発投資に積極的でないことが示唆されるのである。 DOEi,tとREi,t は、 ROASDi,tおよびRETURNSDi,tと有意に負の相関関係を有する。この結果もまた事前の予 想と整合的である。 SIZEi,tはROASDi,tおよびRETURNSDi,tと有意に負の相関関係を有する。この結呆は小規模 企業がリスクテイクに種極的になることを指摘した複数の先行研究の報告と整合的である

(Perez-Quiros and Timmermann, 2000; Bargeron et al., 2010)。SIZEi,tとRDi,tが有意に正 の相関関係を有する点についてはAGEi,tと同様に蟻川他 (2011)の指摘から解釈可能であ る。

(12)

表 3 相関係数 i0ASO 即脈[} 冊 〇│『RO 隙0罰 槻Al底 腿罰I〖[ 証Cl│It 縞 既 00[ ![ M[} SIIt lH 哨 蘭 齢枇冊 且oc〖 i0AS[) 0.3950 0,1084 0,1212 0,0129 -0.1550 0,0529 0,1135 -0.0293 -0,3195 -0,1062 -0.2203 0,1813 -0,3672 -0,0882 -0.0792 -0,0319 0.1733 0.1555 附隕随 0.1991 0,0491 0.1209 0.0412 -0,1491 0,0319 0,0113 0,0303 -0,2382 -0,1424 -0.2623 0,1111 -0.1686 0,1096 -0.01認 -0,0315 0.0810 0.0845 舟l 0.1582 0.0431 -0,0309 0.0055 0.0188 -0,0136 -0,0409 -0.0471 0,2611 0.001! 0,0511 0、0118 0.1859 -0,2248 0,1209 0,1008 -0.1826 -0,2158 i │『!O 0.1921 0,0692 0.0412 -0.1229 -0.3014 -0,1046 -0,0534 -0,0119 -0,0822 -0,0935 -0.1416 0,0352 -0.0935 0,1291 -0.1192 -0,0358 0,0299 0.0243 歎0罰 -0,0010 0,0113 -0.0124 -0,1229 -0.5489 ・0,1905 ・0.0913 0.0951 -0.0200 -0,0163 -0,0435 0,0500 0,0466 0.1481 -0,003! 0.2561 0,0302 -0,01!5 槻訂廉 -0,1891 -0.0830 -0,006! -0,3014 -0.5489 -0,4613 -0,2385 0,0222 0,1092 0.1508 0.2149 -0.0031 0.1462 -0,1698 0.2321 0,0582 -0,0855 -0,0343 腿Ti 〖[ 0,0554 0,0233 -0,0261 -0,1046 -0.1905 -0.4673 -0,0828 -0,0853 -0,0486 -0.0645 -0.0111 -0.0581 -0.1250 -0,0278 -0.0914 -0.2522 0.0551 0.0367 慨Cl罷 0.1492 0.0480 0.0290 -0,0534 -0.0973 -0.2385 -0,0828 ・0.0714 -0.0478 ・0.1112 -0,1349 -0,0305 -0,1231 0,0239 -0,1838 -0,1606 0.0215 0,0218 栂 0.0315 0,0412 -0.0220 0.0066 0,0922 -0,0058 -0,0649 -0,0602 -0.1128 0,0493 0,0931 0,2504 -0,0036 -0,0241 0,3151 0,0845 0,1125 0,0444 汁 底 -0.3475 -0.1445 0.0 106 -0,0945 -0.0376 0.1162 -0,0298 -0,0486 -0.1395 -0,0141 0.1246 -0.2362 0.4261 0.0854 -0.0429 0,0266 -0,4452 -0.3842 三 ト ト 襄 -0.0355 -0.0259 0,0003 -0.0418 -0.0305 0.0121 -0.0057 -0.0535 0、0103 -0.1368 0.3798 0.2340 0.1912 -0.1106 0.3229 0.1184 0.0341 -0.0224 苓 阻 -0.3141 -0,1193 -0.0322 -0.1628 -0.0294 0,2281 -0,0914 -0,1545 0,0495 0.1838 0.2496 -0.0579 0,2134 -0,3066 0.3680 0,0850 0.0281 -0,0224 冊 0.3662 0,1641 0,0151 0.0895 0,0486 -0,0198 -0,0213 0,0318 0.2315 -0.3208 0.1684 -0.1521 -0,0154 0,0816 0.2949 雌14 -0.0119 0.0810 S11[ -0.3496 -0.1224 0.0599 -0.0921 0.0564 0.1362 -0.1230 -0.1222 -0.0299 0.3609 0.0612 0.2928 -0.1672 0.1520 0.1667 0.1912 -0.5225 -0.3252 l甘 0.0591 0,0109 -0.1423 0.1292 0,0481 -0.1505 0.0305 0,0690 -0.0735 -0,0299 -0,0236 -0,3151 0.1918 0,0914 -0,3183 0,0311 -0.1026 -0.0439 叫 -0.2883 -0,0621 -0.0115 -0.2148 0.0280 0,2102 -0,0594 -0.2124 0.2189 -0,0036 0.2217 0,3124 0,0633 0.1833 -0,1134 0.1165 0.0193 0.0151 欄 0、0005 -0.0022 -0,0240 -0、0019 0.2876 -0.0420 -0,1954 -0,1125 0,0590 -0,0691 0.0516 0,0544 0,0821 0.0828 -0.0031 0,0593 -0.0641 -0.0328 恥l班 0,1990 0.0992 -0.0622 0,0481 0,0555 -0,0991 0.0343 0.0202 0.1175 -0,4416 0,0632 -0,0234 0,1514 -0,4016 -0,0155 0.0634 0,0424 0.1418 ilOC< 0.1165 0.0323 -0.0924 0.0241 -0.0195 -0.0267 0.0212 0.0218 0.0428 -0.2926 0.0162 -0.0519 0.1130 -0.2632 0.0205 0.0441 0.0258 0.2184 (注1)サンプルは 2009 2017年度にかけて所定の要件を満たす 30,014企業・年度である。 (注2)左下(右上)半分は Pearson(Spearman)相関係数を表す。 (注3)黒太字は少なくとも 10%水準で統計的に有意であることを意味する。 (注4)変数の定義は表 2を参照されたい。

(13)

MBi,tはリスクテイクの代理変数と基本的に有意に正の相関関係を有しており、事前の予 想と整合的である。 LEVi,tとリスクテイクの代理変数の相関関係の結果は混在しているもの の、Spearman相関係数に関しては三つの変数のうち二つ (ROASDi,tおよびRDi,t)において 有意に負の相関関係を有しており、事前の予想と整合的な結果が得られていることがわか る。 PMi,tはリスクテイクの代理変数と基本的に有意に負の相関関係を有する。これは収益 性が低い企業が積極的なリスクテイクを実施して将来的な業績向上を目指す傾向にあるこ とを示唆する結果である。 INVuとリスクテイクの代理変数の相関関係の結果は混在してい る。 MASHAR恥 はROASDi,tおよびRETURNSDi,tと有意に正の相関関係を有する。 BLOCKi,tに 関しては、 RDi,tに注目した場合に限り、事前の予想である有意に負の相関関係を有するこ とがわかる。最後に、変数間の多重共線性を懸念するほど高い相関係数を示すものは存在 しない20。

5

.

実 証 結 果 5. 1 (1)式の推定結果 表 4は(1)式の推定結果である。コントロール変数の結果から検討する。 PanelA Panel Cを見ると、 MBi,t(AGEi.t、DOEi,t、SIZEi,t、およびPMi,t)の係数が基本的には有意に 正(負)に推定されていることがわかる。この結呆は時価簿価比率が高い、社齢が低い、ペ イアウト水準が低い、企業規模が小さい、業績が悪い企業が積極的なリスクテイクを実施 する傾向にあることを示唆している。 これらのコントロール変数の結果を所与としたうえで、以下ではLCi,tの推定結果を検討 する。 DINTROi,tはPanelBを除いて少なくとも5%水準で有意に正に推定されており、仮 説1が支持される。また、この結呆はHabiband Hasan (2017)と整合的である。係数の 大きさに注目すると、導入期の企業はそれ以外の企業と比較してROASD(RD)が0.17% (0.10%)高いことが明らかである21。日本企業においても導入期の企業は積極的なリスク テイクを実施している可能性が高い。一方、 DGROWTHi,tの係数はいずれのPanelでも有意 に推定されていない。これは両者の間に負の関連性が析出されることを報告している

Habib and Hasan (2017)とは異なる結呆であり、仮説2-1および仮説2-2を支持しない。 前述したとおり、成長期の企業が積極的にリスクテイクを実施するか否かに関しては異な る二つの見解が存在することが、当該結果が得られた背景にあるのかもしれない。 DMATUREi,tはPanelBを除いて少なくとも 5%水準で有意に負に推定されており、仮説 3が支持される。さらに、係数の大きさに注目すると、成熟期の企業はそれ以外の企業と 比較してROASD(RD)が0.10%(0.02%)低いことが明らかである22。

H

本では成熟期の 企業が多く存在するが、その多くがリスクテイクに消極的である可能性が高い。 DSTRIKEi,t の係数はいずれのPanelでも有意に推定されていない。成長期の企業と同様に、再編期の 企業が積極的にリスクテイクを実施するか否かに関しては異なる二つの見解が存在する。 それが当該結呆に反映されている可能性がある。 DDECLINEi,tの係数もまた、いずれの Panelでも有意に推定されていない。

H

本企業を対象とした場合には、衰退期の企業が積 極的なリスクテイクを実施する証拠は確認されない230

(14)

4

(1)式の推定結果

PanelA (被説明変数 : ROASO)

PanelB (被説明変徴 : RETURNSD)

PanelC (被説明変数: RD) LC二DINTRO LCニIIGROWTH LCニDMATURE LC二DSTRIKE LCニDOECLINE LC二 ~NTRO LC二 おROWTH LC00MATURE LC二OSTRIKE LCニIIIJECLINE LC二□INTRO LCニOGROWTH LC二DiATl!1E LC二□STRIKE LCニIIIJECLINE 00011** 0.0002 -00010*** 00005 0.0005 -0.0001 0.0006 -0.0001 0.0001 0.0001 0.0010*** -0.0001 -0.0002** -0.0001 0 0002 LC LC LC (2.29) (082) (-384) (131) (0,55) (-002) (-0.24) (-0.41) (0,31) (0.01) (3.21) (-0.04) (-2.18) (-0.66) (0,54) 0.0026• 0 0026• 0.0026• 00027• 0.0026• 0.0185*** 0.0184*** 0.0184*** 0.0185•** 0.0185*** -0.0048*** -0.0048•** -0.0048•** -0.0048•** -0.0048*** SG SG SG (1.15) (176) (1.15) (180) (1.18) (3.52) (349) (3.50) (352) (3.50) (-ll4) (-168) (-770) (-1.10) (-769) -0 0193*** -0 0191*** -0 0192*** -0 0191*** -0 0191*** -0 0681*** -0 0689*** -0 0681*** -0 0681*** -0 0681*** 00011 0 0012 00012 00012 00012 AGE AGE AGE (-626) (-6.19) (-622) (-6.20) (-620) (-3 84) (-3.84) (-3 84) (-3.84) (-3 84) (091) (105) (103) (105) (1.05) -0 0184** -0 0180** -0 0181'* -0.0184** -00183** -0 0844** -0 0840** -0 0843** -0 0846'* -0 0844** -00013 -00012 -00012 -00012 -00013 DOE (-238) (-2 34) (-2.34) (-238) (-2.31) DOE (-221) (-226) (-221) (-228) (-2.21) DOE (-0 51) (-0.41) (-046) (-0.46) (-0.48) -0 0091*** -0.0098'** -0 0095*'* -0 0098*'* -0 0098'** 00061 0 0062 0.0063 0 0062 00061 0.0041*** 0 0040•** 0 0041*** 0 0040*** 0.0040•** RE (-435) (-4 39) (-4.29) (-4 37) (-4 39) RE (0.43) (043) (0.44) (0 43) (0.43) RE (4 05) (3 99) (4 05) (398) (3.99) 0.0018•** 0 0018*** 0 0018*** 0 0018•** 00018•** 00122*** 00122*** 00122*** 0 0122*** 00122•** 00001 0 0001 0.0001 0 0001 0.0001 MB MB iB (6.10) (612) (6.11) (613) (6.13) (892) (891) (892) (892) (892) (021) (025) (023) (0 24) (025) -0 0098*** -0.0098*** -0 0098*** -0 0091*** -0 0091*** -0 0190*** -0 0191*** -0 0191*** -0 0189*** -0.0190*** -0 0016*** -0 0015** -0 0016*** -0 0016*** -0 0015*** SIZE SIZE SIZE (-770) (-1 61) (-ll5) (-T.64) (-166) (-344) (-3.43) (-344) (-3.44) (-344) (-262) (-255) (-260) (-257) (-256) 汗 00003 00003 0 0008 00003 0.0003 -0 0010 -0 0010 -00010 -0 0010 -00010 -0 0003*** -0.0003*** -0 0003*** -0 0003*** -0 0003*** LEV LEV LEV (1.62) (161) (151) (160) (161) (-1.11) l-111) (-1.12) (-112) (-111) (-460) (-461) (-465) (-460) (-4 63) ト -0 0708*** -0 0718*** -0 0709*** -0 0711*** -0.0715*** -0 0033 -00033 -00026 -00032 -00032 -0 0351*** -0 0351*** -0 0355*** -0 0351*** -0 0356*** 中 Pi Pi 苓 │ (-12.49) (-1273) (-1252) (-12.72) (-1266) (-0.18) (-019) (-0.15) (-018) (-018) (-1111) (-11.28) (-1116) (-11.21) (-1121) 0 0040 0 0042 0.0026 00051 0.0052 0.0212 00253 0.0253 00280 0 0212 00018 00025 00019 0 0023 0 0025 INV INV INV (067) (061) (0.44) (0 94) (086) (O.ll) (0.11) (071) (080) (O.ll) (0.14) (093) (0.14) (0 91) (099) 00037 0 0031 0.003了 0 0031 0.0031 0 1641*** 0.1641*** 0 1641*** 0.1641*** 0 1641*** -00009 -00009 -0 0009 -0.0009 -0 0009 MASHARE iASHARE MASHARE (1.06) (105) (1.05) (105) (105) (12.15) (12.15) (1275) (12.14) (12了4) (-0 51) (-051) (-0 51) (-051) (-0 51) 0 0102*** 0 0101*** 0 0100*** 0 0102*** 0 0101*** 0 0004 00004 00003 0 0005 0.0004 -00008 -0000了 -0 0008 -0.000了 -0 0001 BLOC! BLOC! BLOCK (2 64) (265) (262) (267) (266) (003) (002) (002) (0 03) (003) (-0 54) (-050) (-0 53) (-051) (-0 51) 0 2054•** 0 2047*** 0 2064*** 0 2040*** 0 2042*** 0 5962*** 0 5911*** 0 5978*** 0 5957*** 0 5962*** 0.0289*** 0 0283*** 0 0281*** 0 0284*** 0 0282*** 定数項 (11.91) (1186) (1195) (1184) (1186) 定数項 (6.49) (6.41) (6.48) (6.41) (6.48) 定徴項 (4 20) (410) (416) (412) (411) YEAR EFFECT YES YES YES YES YES YEAR EFFECT YES YES YES YES YES YEAR EFFECT YES YES YES YES YES FIRM EFFECT YES YES YES YES YES FIRM EFFECT YES YES YES YES YES FIRM EFFECT YES YES YES YES YES 0.0000 0.0000 0.0000 0 0000 0.0000 F 0.0000 0 0000 0.0000 0 0000 0.0000 F 0.0000 0.0000 0.0000 0 0000 0.0000 adj R2 0.1204 0.7203 0.1204 0.7203 0.1203 adj.R2 0.1119 0.1119 0.1119 0.1119 0.1119 adj.fl' 0.9333 0.9332 0.9332 0.9332 0.9332 (注l)サンプルは2009-2017年度にかけて所定の要件を満たす30,014企業・年度である。 (注2)変数の上段(下段)は係数の推定値(t値)を表す。なお、(1)式の推定は企業効果と年度効果を固定した固定効果モデルで行っている。 t検定量は年度クラスターおよび企業 クラスターによる二段階の補正を施した標準偏差に基づいて算定する。*:10%水準、**:5%水準、***:1%水準でそれぞれ有意であることを意味する。 (注3)変数の定義は表2を参照されたい。

(15)

5.2成長期の企業に関する追加的分析 表 4の結果を踏まえると、 DGROWTHi,tの係数はいずれのPanelにおいても有意に推定 されていない。成長期の企業に閲しては、成長期の中でも特性が異なる企業が存在するこ とが先ほどの分析結果に反映されているのかもしれない。すなわち、導入期から成長期に 移行して間もない企業は製品のイノベーションおよび事業の多角化に積極的である一方で、 成熟期に差し掛かる手前の企業ではそれらにあまり積極的ではない可能性がある。 表5のPanelAはpooledsampleにおいて成長期に属する 5,489企業・年度のうち前期 のLCがキャッシュフロー計算書から把握することが可能な4,407企業・年度を用いて24、 当期に成長期に属する企業が前期で 5段階のうちいずれのLCに属するのかを調査した結 果である。前期と当期の 2期間にかけて成長期に属する企業は全体の約 3割しか存在しな い。むしろ約半数の企業が前期で成熟期に属していたことになる。 表

5

成長期および再編期の企業の詳細について

Panel A 当期に成長期に属する企業の前期のLC

Panel B 再編期に属する企業の識別 企業数 割合(%) 企業数 割合(%) 導入期 318 .了22% 投資CF>O 3,138 74.91% 成長期 1.459 33.11% 投資CF<O 1.051 25.09% 成熟期 2,176 49.38% 全体 4.189 100 再編期 372 8.44% 衰退期 82 1.86% 全体 4.407 100 (注)PanelAは当期に成長期に属する4,407企業・年度における前期のLCを識別した結果である。 PanelBは当期に再編 期に属する4,189企業・年度に関して、投資キャッシュフローの符号で識別した結果である。

表 6はDGROWTHi,tに替えてDGROWTHEARLYi,tあるいはDGROWTHLATEi,tを(1)式に用 いた場合の推定結呆である。 DGROWTHEARLYi,tは当期に成長期に属する企業で、かつ前期 に導入期あるいは成長期に属する企業であれば 1、それ以外であればゼロのダミー変数と 定義する。当該企業のように成長期の初期段階に属すると考えられる企業はリスクテイク に積極的であることが期待される。一方、 DGROWTHLATEi,tは当期に成長期に属する企業 で、かつ前期に成熟期に属する企業であれば 1、それ以外であればゼロのダミー変数と定 義する。当該企業は前期には成熟期に属しており、たとえ当期に成長期に移行したとは言 え、製品のイノベーションおよび事業の多角化が一段落している可能性がある。むしろ製 品戦略が複雑化し、戦略の最終的な意思決定主体である経営者が慎重を期すためにリスク テイクに消極的になることが予想される (Millerand Friesen, 1984)。 推定結果(最小二乗法)を見ると、 DGROWTHEARLYi,tの係数は、すべてのPanelで統計 的に非有意である。対照的に、 DGROWTHLATEi,tの係数はPanelAに限るが有意に負に推 定されている。これは仮説2-2を支持しており、前期に成熟期に属していた企業は積極的 なリスクテイクの実施を敬遠する傾向にあることを示唆するものである。

(16)

6

(1)式の推定結果一成長期および再編期の企業に関する詳細分析一

PanelA (被説明変数 : ROASD)

Panel B (被説明変数 : RETURNS

)

Panel C (被説明変数 : RD) LC=DGROWTHEARL Y LC=DGROWTHLATE LC=DSTRIKEPLUS LC=DGROWTHEARL Y LC=DGROWTHLATE LC=OSTRIKEPLUS LC= DG ROWT HEARL Y LC= DG ROWT HLA TE LC= DSTR I KE PLUS 0.0030*** -0.0055*** -0.0021 -0.0028 -0.0021 0.0046 -0.0002 -0.0003 -0.0065*** LC LC LC (3.25) (-6.68) (-1.41) (-0.55) (-0 40) (0 94) (-0 26) (-0 35) (-4 28) 0.0108• 0.0098• -0.0005 0.0249• 0.0233• 0.0195• -0.0107*** -0.0108*** -0.0022 SG SG SG (198) (1.80) (-0 10) (1.19) (1.66) (188) (-3.06) (-3.15) (-0.51) -0.0014*** -0.0072••· -0.0149*** -0.0158*** -0.0156*** -0.01了3*** 0.0029** 0.0029** -0.0040••·

AGE AGE AGE

(-5.60) (-5.53) (-8 48) (-3.56) (-3 49) (-3.84) (2 09) (211) (-2 33)

-0 1132•** -0 1113*** -0 0031 -0 3105*** -0 3692*** -0 1137• -0.0133 -0 0131 0 0071

DOE DOE DOE

(-4.70) (-4.66) (-0.16) (-417) (-4.16) (-1.66) (-0.6了) (-0.67) (0.27) -0 0126*** -0.0122*** -0.0118*** -0 0463*** -0 0456•** -0 0758*** -0 0090*** -0.0089*** -0 0039 RE RE RE (-4.87) (-4 13) (-7 02) (-4.28) (-4 21) (-8.81) (-3 41) (-3 89) (-1.43) 0.0068*** 0.0068*** 0.0068•** 0.0129*** 0 0129*** 0 0128*** 0 0023•** 0.0023*** 0 0017*** MB MB MB (9.89) (9.94) (8.23) (7.85) (7 83) (6 65) (4 82) (4.81) (3 47) -0.0029*** -0.0028*** -0 025*** -0.0047*** -0.0048*** -0.0016 0 0015*** 0.0015*** 0 0028*** SIZE SIZE SIZE (-7.43) (-7.35) (-4 04) (-2.74) (-211) (-0 84) (3 22) (3 22) (3.58) -0.0018*** -0 0018*** -0 0008• 0.0005 0.0004 0.0015• -0 0027*** -0 0027*** -0 0003*** 汗 LEV LEV LEV (-4.14) (-4.27) (-1.79) (0.43) (0.3)了 (1.95) (-9.10) (-9.05) (-4.65) 三 ト -0 0082 -0 0070 -0 1081*** 0 0622• 0.0644• -0 0112 0.0304*** 0.0306*** -0.0068 ( PM PM PM (-0.50) (-0.43) (-8.73) (1.89) (1.96) (-0.46) (2.56) (2.59) (-0.60) -0 0102 -0 0091 0.0104 -0 0966• -0 1013** -0 1512** -0 0353*** -0.0351*** 0 0429• INV INV INV 坤 (-0.80) (-0.71) (0.39) (-1.89) (-2.07) (2.20) (-3.97) (-4.01) (1.74) -0 0088 -0 0089 0.0088 0 0242 0 0233 a 0541*** -0.0135*** -0.0136*** 0 0039

MASHARE MASHARE MASHARE

(-1.44) (-1.4,) (1.38) (1.34) (1.29) (3.45) (-3.19) (-3.21) (0.54)

-0.0023 -0.0023 -0.0014 -0.0280 -0 0211 -0.0210• -0 0051 -0 0051 -0 0130***

BLOCK BLOCK BLOCK

(-0.60〉 (-0.61) (-0.29) (-1.63) (-1.61) (-1.72) (-1.13) 〈-1.13) (-2.19) 0.0803*** 0.0856*** 0 1155*** 0.2962*** 0.2960*** 0.2306*** -0.0047 -0.0047 0 0099

定数項

(11.17) (11.3)了 (13.12) 定敷項 (10.63) (10.78) (10.08) 定数項 (-0.65) (-0.65) (0.89)

YEAR EFFECT YES YES YES YEAR EFFECT YES YES YES YEAR EFFECT YES YES YES

FIRM EFFECT NO NO NO FIRM EFFECT NO NO NO FIRM EFFECT NO NO NO

0 0000 0 0000 0.0000 0.0000 0.0000 0 0000 0.0000 0.0000 0.0000 adj.R' 0.3005 0.3052 0.1064 adj.R2 0.0728 0.0728 0.1064 adj.R2 0.0846 0.0847 0.0580 (注l)LCにDGROWTHEARLYとDGROWTHLATEを用いた分析のサンプルは2009 2017年度にかけて所定の要件を満たし、かつ成長期に属する4,407企業・ 年度である。一方、 LCにDSTRIKEPLUSを用いた分析のサンプルは同期間にかけて所定の要件を満たし、かつ再編期に属する4,189企業・年度である。 (注2)変数の上段(下段)は係数の推定値(t値)を表す。なお、(1)式の推定は最小二乗法で行っている。 t検定量は年度クラスターおよび企業クラスターによるニ 段階の補正を施した標準偏差に基づいて算定する。*:10%水準、**: 5%水準、***:1%水準でそれぞれ有意であることを意味する。 (注3)DGROWTHEARLY=当期に成長期に属し、かつ前期に導入期あるいは成長期に属する企業であればl、それ以外はゼロのダミー変数、 DGROWTHLATE=当期 に成長期に属し、かつ前期に成熟期に属する企業であれば1、それ以外はゼロのダミー変数、 DSTRIKEPLUS=当期に再編期に属し、かつ投資キャッシュフロ ーが正を示す企業であれば1、それ以外はゼロのダミー変数。他の変数の定義は表2を参照されたい。

(17)

5.3再編期の企業に関する追加的分析 DGROWTHi,tと同様に、DSTRIKEi,tの係数もまた統計的に有意に推定されていない(表4)。 本項では再編期の企業の特性に注目した追加的な分析を実施する。 Habiband Hasan (2017)では再編期の企業とリスクテイクの関連性については明らかにされておらず、再編 期の企業のリスクテイクに関する証拠の蓄積を図るためにも当該分析は重要な意義を有す ると考えられる。 本項では投資キャッシュフローの符号に従って再編期の企業を二つに識別する。表 1を 確認すると、再編期の企業は三つのキャッシュフローの符号のパターンが 4 6を示す場 合である。このうち投資キャッシュフローが正(負)を示すのは 5と6(4)である。再編 期では、経営再建の一環で不要設備や収益性の低い事業の売却を行う企業と将来的な成長 を目指して投資活動に積極的な企業とに区別されると考えられる。投資キャッシュフロー が正を示す企業は前者に該当する一方で、それが負を示す企業は後者に該当する。表 5の Panel Bを見ると、 pooledsampleにおいて再編期に属する 4,189企業・年度のうち前者 (後者)に該当する企業が3,138企業・年度 (1,051企業・年度)存在することがわかる。日 本企業の多くは再編期において不要設備や収益性の低い事業の売却を実施していることが 示唆される。 表 6はDSTRIK恥に替えてDSTRIKEPLUSi,tを(1)式に用いた場合の推定結果(最小二乗 法)である。 DSTRIKEPLUSi,tは再編期の企業のうち投資キャッシュフローが正を示す企業 であれば1、それ以外であればゼロのダミー変数である。表6を確認すると、 PanelAを 除いてDSTRIKEPLUSi,tの係数が有意に負に推定されていることがわかる。この結果は、投 資キャッシュフローが正を示す企業はリスクテイクに消極的である一方で、それが負を示 す企業は精極的なリスクテイクを実施していることを示唆している。前者(後者)の企業 に関しては仮説4-1(仮説4-2)が支持される。本項の分析結果は、投資キャッシュフロー の符号に注目することで再編期の企業とリスクテイクの関連性がより明示的になることを 示している。 5.4リスクテイクが将来業績に及ぼす影響ー企業の

L

C

を考慮して一 それでは企業のリスクテイクは将来業績にどのような影響を及ぼすのか。この点に関し て先行研究の証拠は混在している。 Aakerand Jacobson (1987)は企業のシステマティッ クリスクおよびアンシステマティックリスクが企業の将来業績に対して正の影響を及ぼす ことを明らかにしている。一方、 Millerand Bromiley (1990)は企業のリスクテイクと将 来利益の流列の間に有意に負の関連性が析出されることを報告している。 Bromiley(1991) およびCohenet al. (2013)でも同様の証拠が提示されている。しかしながら、これらの研 究では企業のLCが考慮されていない。本稿で既に明らかにしたように、企業のリスクテ イクの程度はLCの影響を受ける。

Habib and Hasan (2017)は企業のLCを考慮したうえでリスクテイクが将来業績に与 える影瞥を検証した。具体的には、①リスクテイクと将来業績が基本的には有意に負の関 連性を有する、②導入期および衰退期(成長期および成熟期)の企業では両者の負の関連 性が追加的に強くなる(弱くなる)、ことが示されている。日本企業を対象とした場合はど

(18)

太 田 裕 貴 本項で推定する重回帰式は以下の (2)式である(i=企業、 t=決算年度)。 △ROAi,t+1

=

a

+81LCi,t+ 82RISKi,t十妬 LCi,t

*

RISKi,t + 84PMi,t + 85△PMi,t + 86ATOi,t +ふ△ATOi,t+ 88SGi,t + 89AGEi,t + 810D0Ei,t + 811REi,t + 812MBi,t + 妬 SIZ恥 + % LEVi,t + 815INVi,t + 816MASHAREi,t + 817BLOCKi,t

+

Ei,t (2) (2)式の被説明変数は△ROAi,t+1であり、将来業績の代理変数である。 ROAi,t+1は当期から 次期にかけての総資本事業利益率の変化分である究注目するのはLCi,tとRISKi,tの交差項 (LCi,t* RISKi,t)の係数63である。リスクテイクと将来業績の関連性に対して LCが追加的 な影聾を及ぼすのならば、係数63は有意に推定されるであろう。 売上高事業利益率 (PMi,t)、総資産回転率 (ATOi,t)、およびこれらの対前年度変化 (tJ.PMi,t と△ATOi,t)は、先行研究において将来業績に影響を及ぼすことが明らかにされている変数 である(例えばFairfieldand Yohn, 2001; Soliman, 2008; Patatoukas, 2012)。PMi,tは当 期事業利益を期首総資産で除して算定する。 ATOi,tは当期売上高に対する期首総資産の割 合である。他の変数は (1)式と同様である。分析に用いるサンプルは、前述した要件のう ち①の分析期間を2009 2016年度に変更して得られた26,092企業・年度である究 表 7 は (2)式の推定結呆である(企業効果と年度効果を固定した固定効呆モデルを使 用)。RISKi,tの係数に注目すると、PanelAではすべてにおいて有意に正に推定されている。 この結果はHabiband Hasan (201 7)とは異なり、積極的なリスクテイクが将来業績の向 上に貢献することを示すものである。ただし、 PanelBでは一部ではあるものの、 RISKi,t の係数が有意に負に推定されており、分析結呆の頑健性はそれほど高くはないと言える。 LCi,tとRISKi,tの交差項 (LCi,t* RISKi,t)の係数妬の推定結果を検討する。 DINTROi,tと RISKi,tの交差項の係数は、 PanelCに限るものの有意に負に推定されている。この結果は、 導入期を表す変数が企業のリスクテイクと将来業績の関連性に対して追加的に負の影響を 与えることを示唆している。研究開発投資は、その成果が享受できるかどうかの不確実性 が裔い長期的投資である(例えばStein,1989;Bebchuk and Stole, 1993;Noe and Rebello, 1997;Lundstrum, 2002)。導入期の企業は研究開発投資の実施を始めてからそれほど長い 時間が経過しておらず、その成呆がまだ得られていないことが示唆される。

DGROWTHi,tとRISKi,tの交差項およびDMATUREi,tとRISKi,tの交差項の係数は PanelCに 限るが有意に正に推定されている。この結呆は、成長期および成熟期を表す変数が企業の リスクテイクと将来業績の関連性に対して追加的に正の影響を与えることを示唆している。

H

本企業では成長期や成熟期にかけて研究開発投資の成果を享受できている可能性がある。 DSTRIKEi,tとRISKi,tの交差項の係数は PanelAに限り有意に負に推定されていることが わかる。これはRISKi,t自体は将来業績に有意に正の影瞥を与えているものの、再編期の企 業に注目した場合には両者の正の関連性が追加的に弱まることを示す結果である。前項で は一部の再編期の企業で積極的なリスクテイクが実施されていることを示す証拠が得られ たが、それは将来業績に対して負の影響を及ぼしている可能性がある。 DDECLINEi,tと RISKi,tの交差項の係数もまたPanelBにおいて有意に負に推定されている。この結果は、 衰退期を表す変数が企業のリスクテイクと将来業績の関連性に対して追加的に負の影響を

(19)

-18-与えることを示唆している。再編期や衰退期の企業は成長期の企業と比較して NPVが正 を示す投資計画をそれほど多く有さないと考えられる。仮に NPVが負を示すにもかかわ らず大規模な投資計両が実施される場合は将来業績が悪化する (Titmanet al., 2004;太 田, 2017)。(1)式の推定結果からは再編期や衰退期の企業が積極的なリスクテイクを実施 している事実は確認されなかったものの、一部の企業において将来業績の悪化を誘発する 大胆なリスクテイクが実施されている可能性があることが伺える。 表 8は (2)式のLCi,tに替えてLCTWOYEARSi,tを用いた場合の推定結果である(企業効果 と年度効果を固定した固定効果モデルを使用)。次期の将来業績に注目する際に、当期のLC が次期においても持続するとは限らない。次期の LCが当期と異なる場合、それが将来業 績 に 及 ぼ す 影 響 が 懸 念 さ れ る 。 こ の 影 響 を 緩 和 さ せ る た め にLCTWOYEARSi,tを用いる。 LCTWOYEARSi,tは当期のLCと次期のLCが同じであれば1、それ以外はゼロのダミー変数 である270 表 8を見ると、 DINTROi,tとRISKi,tの交差項の係数はPanelCに限るが有意に負に推定さ れている。この結果は表7と救合的である。成長期に関する推定結果は腺味深い。表8を 見ると、 DGROWTHi,tとRISKi,tの交差項の係数はすべてのPanelで有意に正に推定されてい ることが明らかである。当期だけでなく次期においても成長期に属する企業は正の NPV を有する投資計画を相対的に多く有すると考えられる。分析結果は、それを積極的に実施 することで将来業績の向上を達成していることを示唆するものである。しかしながら、表 3の結果を所与とする限り、成長期において積極的なリスクテイクを実施している企業は 多くないと考えられる。当該企業は将来業績の向上の機会を逃している可能性が高い。ま た、成熟期でも成長期と同様の結呆が得られている。 DSTRIKEi,tとRISKi,tの交差項の係数はいずれのPanelにおいても有意に推定されてない。 表 7では一部で再編期の企業によるリスクテイクが将来業績に負の追加的な影響を及ぼす ことが示されたが、当該企業は次期において LCが変化している可能性がある。この点に ついて調査したところ、当期に成熟期に属する 3,646企業・年度のうち半数近く(1,765企 業・年度)が次期に成熟期に属することが判明した。前述したように、成熟期の企業によ るリスクテイクは将来業績に追加的な正の影轡を及ぼす可能性が高い。表 8の結呆は、こ れらの影響が相殺されて生じたのかもしれない。最後に、 DDECLINEi,tとRISKi,tの交差項の 係数はPanelAを除いて有意に負に推定されている。この結果は表7と幣合的である。

6

.

発見事項の要約と今後の研究課題

本稿は

H

本企業を対象として企業のLCとリスクテイクの関連性を検証するとともに、 それらが将来業績に対して及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。企業の LCごと の分析結果について以下に要約する。

表 3 相関係数 i 0 A S O  即脈[} 冊 〇 │『 R O 隙 0 罰 槻 A l 底 腿罰I〖[ 証 C l │ I t 縞 既 0 0 [  ! [  M [ }  S I I t  l H  哨 蘭 齢枇冊 且oc〖 i 0 A S [ )  0
表 6 は DGROWTHi,t に替えて DGROWTHEARLYi,t あるいは DGROWTHLATEi,t を( 1 ) 式に用 いた場合の推定結呆である。 DGROWTHEARLYi,t は当期に成長期に属する企業で、かつ前期 に導入期あるいは成長期に属する企業であれば 1 、それ以外であればゼロのダミー変数と 定義する。当該企業のように成長期の初期段階に属すると考えられる企業はリスクテイク に積極的であることが期待される。一方、 DGROWTHLATEi,t は当期に成長期に属する企業 で、かつ
表 6 ( 1 ) 式の推定結果一成長期および再編期の企業に関する詳細分析一
表 7 ( 2 ) 式の推定結果
+2

参照

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