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嫌悪情動が知覚・認知処理に及ぼす影響

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Academic year: 2022

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嫌悪情動が知覚・認知処理に及ぼす影響

著者 白井 理沙子

URL http://hdl.handle.net/10236/00029110

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2019 年度   

博士学位論文     

     

嫌悪情動が知覚・認知処理に及ぼす影響 

               

白井  理沙子   

 

 

 

 

 

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  要旨

嫌悪は病原菌や毒を検出するためのアラームのような感情であり,生体の生存にと って重要な役割を担う。これまで嫌悪情動については,主に精神病理学的・神経生理 学的アプローチから研究が進められてきた。精神病理学的研究では,嫌悪が動物恐怖 や汚染恐怖といった恐怖障害や,不適応行動の生起に及ぼす影響が検証され,神経生 理学的研究では,嫌悪に関わる神経基盤の解明に焦点が当てられてきた。また近年で は,無意識的に生じる嫌悪情動が道徳的な判断に影響を及ぼす可能性も指摘されてお り,社会心理学の分野でも嫌悪情動が注目され始めている。嫌悪情動が行動や意思決 定判断に影響を及ぼすプロセスを解明するためには,行動・判断の前段階にあたる無 意識的かつ自動的な知覚・認知処理に着目する必要があると考えられるが,嫌悪と関 連した刺激が知覚・認知処理に及ぼす影響については研究が不足している。そこで本 論文では,嫌悪情動が知覚・認知処理に及ぼす影響を検証することで,嫌悪情動が行 動・判断に影響を及ぼす背景にある処理様式を解明することを目的とした。また,嫌 悪情動は中核嫌悪と社会道徳性嫌悪に大別できることから,それぞれの嫌悪の誘発子 が知覚・認知処理に及ぼす影響を検証した。

本稿は 4 章からなる。第1章では,これまでの嫌悪の研究を概説し,嫌悪情動が知 覚・認知処理に及ぼす影響を検証することの重要性について説明した。第 2 章 研究 1-1では,中核嫌悪と関連した刺激として集合体画像を使用し,集合体恐怖を引き起こ す蓮の実や蜂の巣といった集合体の画像が視覚的気づきに及ぼす影響を検証した。そ の結果,集合体画像は意識的知覚が抑制されている状況下でも気づかれやすいことが わかり,この気づきの早さには集合体画像の位相スペクトルが関わっている可能性が 示された。さらに知覚後のプロセスには,集合体画像が持つ振幅スペクトルが影響を 与えている可能性が示された。研究 1-2 では,集合体画像が注意的過程に及ぼす影響

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をサッカードの軌道を測定することによって検証した。その結果,集合体画像は強力 に注意を捕捉し,サッカードの軌道は集合体画像に対して引きつけられる形で逸脱し た。また,研究 1-3 では,集合体画像の振幅スペクトルのみでも注意を捕捉し,眼球 運動系に影響を及ぼすことが示された。研究 1-4 では,皮膚関連傷病語に対する曝露 が集合体恐怖に影響を及ぼすことを示し,集合体恐怖の生起に皮膚病の想起が関わっ ていることを示した。

第 3章 研究2では,社会道徳性嫌悪と関連した刺激として人物の道徳違反的行為 と関連した情報を使用し,実験を実施した。研究 2-1 では高速逐次視覚呈示法を利用 し,道徳違反的行為と関連した情報を付与した顔画像が気づきに及ぼす影響を検証し た。その結果,道徳違反的行為と関連した顔は気づかれやすく,道徳遵守的行為と関 連した顔は気づかれにくいことがわかった。研究 2-2 ではクラウディング課題を利用 して,顔に付与した道徳違反的行為と関連した情報が気づきに及ぼす影響を検証した。

その結果,顔に対する意識的な知覚が失われている場合であっても顔画像の持つ道徳 性が検出されることが示された。研究 2-3 では,視覚探索課題を用いて道徳違反と関 連した顔画像が注意的過程に及ぼす影響を検証した。その結果,道徳違反と関連した 顔画像が画面上に呈示されていると,その位置から注意を背けるような反応が見られ ることを示した。研究 2-4 では,情動フランカー課題を利用して道徳違反と関連した 顔画像が注意の焦点範囲に及ぼす影響を検証した。その結果,道徳違反と関連した顔 画像は注意の焦点範囲を狭めることを示した。これらの結果から,顔に付与した道徳 違反的行為と関連した情報は,前注意的および注意的過程の両方に影響を与えること がわかった。

本論文の一連の研究から,中核嫌悪および社会道徳性嫌悪と関連した刺激は共に無 意識的かつ自動的に知覚・認知処理のシステムに影響を及ぼすことが示された。第 4 章では,本論文で得られた結果をまとめ,今後の展望について論じた。今後の展望で は,嫌悪関連刺激に対する知覚・認知処理特性の変化が行動や判断の変化を引き起こ

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すか否かを確かめることで,嫌悪情動を惹起する刺激に対する知覚・認知処理と行動・

判断の相互影響過程を明らかにしていくことが課題であることについて述べた。

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