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船舶先取特権の一考察

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船舶先取特権の一考察 75

船舶先取特権の一考察

志 津  田 氏 治

はじめに

 海上企業によって生じた債権を確保するために,債権者に対して,船舶その他の海産の 上に,他の債権者に優先して弁済を受ける手段を賦与してきたことは,古くから行なわれ ている。たとえば「冒険貸借」(無事に航海を終えれば,高利をつけて返還し,船舶が沈 没すれば返還しないでよい金銭貸借)の利用などが,これであろう(フランス商法第311 条,ドイツ商法679条など)。ところが,この制度は,著しく合理性を欠いていたために,

これに代って登場したのが,船舶先取特権と船舶抵当権の制度である。今日では,ほとん どの海商国が,この制度を確認している。わが国の商法も第4二二7章「船舶債権者」と 題して,船舶先取特権および船舶抵当権に関する規定を設けている。中華民国海商法でも,

第2節「優先権および抵当権」と題して,24条より35条にかけて(旧法では27条より38 条),船舶先取特権および船舶抵当権につき,かなり統一条約(1926年旧条約)の線にそ いながら異色ある規定を置いている。一般的に船舶先取特権と船舶抵当権を包括して,船 舶担保権と称するが,本稿は船舶先取特権に関する中華民国海商法の規定を,比較検討

してみたい。

※ 本稿執筆の上で参照した著書として,鈴木竹雄・石井照久「中華民国海商法」(上)のほかに,甘  其綬「海商法論」,「海商論集」がある。参考までに末尾に,中華民国新海商法の英訳文を掲げること  にした。なお,そのほかに,これに関するわが国の文献としては,大橋光雄「船荷証券法及船舶担保  法の研究」,小町谷操三「海商法要義」上巻,石井照久「海商法」,竹井廉i「海商法」,森清「海商法原  論」,田中誠二「海商法詳論」などの著書があり,参照されたい。

1 船舶先取特権の目的物

 中華民国海商法25条(旧法28条)では,船舶先取特権の目的物について規定する。そこ では,列挙主義を採用し,船舶先取特権の目的となりうべきものを1号より5号にかけて 列挙している。このような立法態度は,いずれも諸外国が,明文をもって,あるいは解釈 で認められたものを念のために掲げたものにすぎない(鈴木竹雄・石井照久「中華民国海 商法」(上)153頁)。その点では,旧条約に近いともいえよう(2条・4条)。これに対し て,わが国の商法では,以上のような列挙主義をとっていない。すなわち,商法842条に よれば,船舶先取特権の目的となるものは,船舶・その属具および未だ受取らない運送賃 の三者を明示しているだけである。旧商法でも,「船舶ハ第三者ノ占有二在ルトキト難モ

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其附属物及ヒ未収ノ運送賃ト共ニ…責任ヲ負フ」(849条,ロエスレル商法草案913条)こ とを定めている。では何故に,商法は船舶先取特権の目的物を限定したのであろうか。け

だし,これらの物が,船舶債権によって,通常利益を受ける財産の範囲だからである。

 (1)船舶およびその属具 ここでいわゆる船舶および属具とは,その船舶の利用につい て債権が発生した当該船舶およびその属具をいう。属具とは,船舶の常用の目的に供され るものであり1(端舟・帆・里下・海図・羅針盤・救命袋など),従物.たる性質を有している

(民87条)。しかも船舶先取特権は,他の債権に対する優先権であるから,その目的とな る船舶も,権利行使の当時の船舶であり,債権発生当時の船舶ではない(小町谷前掲263 頁,石井前掲134頁)。また船舶および属具またはその一部が,難破物となったような場合 にも,船舶先取特権がその難破物と上に及ぶことはもちろんである。ここで最も問題とな るのは,船舶またはその属具が,滅失・殿損したときは,その滅失・殿損を原因として,第 三者に対して有する損害賠償請求権または補償請求権(たとえば共同海損分担請求権,保 険金請求権など)の上にも,船舶先取特権を行使できるかという点であろう。保険金請求 権については,積極説(通説)と消極説(竹井前掲369頁)の意見が対立しているが,一 般的には,その代位物性が明確であるところがら,船舶先取特権の効力は当然及ぶものと 解されている。

 ※ 中華民国海商法25条の3号では,船舶所有者が当該の航海中船舶の受けた損害または運送賃の喪失   によりうべき損害賠償請求権を掲げる(条約4条1号,ドイツ商法775条2項)。また同条4号では,

  船舶所有者が,共同海損によって受くべき補償請求権iを掲げている(条約4条2号,ドイツ商法775   条)。また同条の5号でも,船舶所有者が,航海完成前になした救助によりうべき報酬請求権を掲げて   いる(条約4条3号)。問題は,保険金請求権について,明文を設けてい謡いために,解釈の余地が残   されている。旧条約によれば,国家による補助金,奨励金と同じように,明文でこれを否定する(条   約4条3項)。保険金は,実質的には保険の目的物の変形であり,その代位物性に着眼する限り,肯定   すべきであろう。

 (2)未収運送賃 未収運送賃つまり,まだ受け取らない運送賃とは,運送賃の請求権の ことである。領収の運送賃は,船舶所有者の陸産中に混合されて,区別することができな

くなるので,これに対しては船舶先取特権を認めないで,あくまでもその対象を,運送賃 に対する請求権に限定したのである。それはあたかも物上代位について,代位物の払渡ま たは引渡前に差押をなすことを要するのと同じ考え方である。この未収の運送賃に対する 船舶の先取特権は,債権を目的とするから,物権ではなく,準物権であるといわれている

(田中(誠)前掲575頁)。また,ここでいう運送費は,「総運送賃」であり,しかもその 船舶債権を生じた当該航海における運送賃であると解釈されている(商843条)。ところが

これに対して旧条約では,船貝の債権について,「同一の雇傭契約継続中になされる一切 の航海」(4条4項)と明示されているも,わが国の商法の解釈としては,若干疑義を残

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船舶先取特権の一考察      77 している。小町谷博士によれば,この条約の態度は,妥当な立法であると評されているこ

とも注目すべきであろう。

※ 中華民国海商法25条の2号では,「優先債権の発生した航海期間中の運送賃」であることを明示し  ている。ドイツ商法でも「船舶債権者の請求権の発生したる航海の総運送賃(Bruttofracht)」とす  る(756条)。この点は諸外国の立法例と変わるところがないが,ただその規定の形式からみて運送賃  の「未収」たることを要件としていない点に異色がある。鈴木竹雄・石井照久「中華民国海商法」

 (上)158頁。

2 船舶先取特権の被担保債権の範囲

 船舶先取特権によって,担保される被担保債権の種類は,国によって異なる。中華民国 海商法24条(旧法27条)では,つぎの6種類の債権について限定的に列挙している。わが 国の商法でも,842条に,8種類の債権を掲げているが(旧商法では849条に13種類の債権 を列挙する。ロエスレル商法草案も913条参照),以下条約を参酌しながら両者を比較検討 してみよう。

 (1) 「訴訟費用および債権者の共同の利益のためにする船舶の保存または競売ならびに その売買金の分配のために支出した費用,トン税,灯台税,港税およびその他同類の課税,

水先料,曳船料,船舶が最後の港に入りたる後の看守費,保存費および検査費」(24条1 号) これらの債権に船舶先取特権を認めたのは,それらが船舶所有者の債権者の共同利益 のために生じたこと,いわゆる担保の原因をなすこと(Causam pignoris facere)にもとつ

くものである。この項目は,統一条約の2条1号と大体一致するものであるが,ただ条約 によれば,曳船料には,船舶先取特権を認めていないが,中華民国海商法では,これを明 示している点で異なる。なお,ここで「訴訟費用」という文言が使用されているが,それ は船舶の保存または売却のための裁判費用と解釈されるべきであろう(鈴木竹雄・石井照 久「中華民国海商法」(上)145頁)。わが国の商法では,これに該当する項目としては,

842条の1号,2号,3号,4号がある。逐次これを分析してみよう。まずその1号では,

「船舶ならびにその属具の競売に関する費用および競売手続開始後の保存費」が掲げられ ているが,ここでいう競売に関する費用とは,執行官に支;払う手数料,公告費用などをい い,また競売手数開始以後の保存費とは,その監守ならびに修繕に要する費用などを指す ものである(小町谷前掲256頁)。 この1号の保存費は,あくまでも競売に関連して発生 したものであるから,商法842条2号の保存費と区別していることを注目すべきであろう。

要するに競売代金は,総債権者の共同の利益となるために,これを得るために生じた種類 の債権に,第1順位の先取特権をあたえたものにほかならない。旧商法849条1号でも,

「船舶ノ強制売却及ヒ其売却金ノ分配二係ル裁判上其他ノ費用,強制売却ノ開始以来船舶 及ヒ附属物ノ監守並二保全ノ費用」(ロエスレル商法草案913条1号参照)を明示している。

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※ 入港税・トン税・灯台税などのように航海に関し船舶に課した諸税(842条3号参照)に船舶先取 特権を認めた理由は,それが担保の原因をなすことのほかに,国庫の歳入を増加するという公益的な 理由があることも指摘されなければならない(田中(誠)前掲570頁)。曳船料について,わが国の商法  では842条4号に明示している。ドイツ商法754条,フランス商法191条では,条約にならい明示してい  ない。その点からは,中華民国海商法は,わが国の商法と類似性があるといえよう。新条約でも曳船 料について明文を置いていない。なお中華民国海商法では,船舶が最後の港に入りたる後の看守費・保 存費・検査費を,第1順位に掲げているが(条約2条1号,ドイツ商法754条1号),わが国では,第  2順位に置いている(フランス商法191条2号)。ここで若干問題になるのは,「最後の港」の意味で  あるが,航海を廃止した時において,船舶の存在する港であると通説は解している(田中(誠)前掲

570頁,小町谷前掲257頁)。けだし,船舶は途中で航海を中止し競売せられ,もしくは譲渡処分され  ることもあるからである。

 (2) 「船長船員およびその他の船舶服務人員の雇傭契約によりて生じたる債権にして,

その期間1年未満のもの(24条2号) この立法理由は,船員およびその家族の生存権iの確 保という,公益上の必要にもとつくものである。もちろん,民法でも雇人の給料について 先取特権を認めていることを注意すべきであろう。判例によれば,ここでいう「雇人」と は,雇傭契約によって労務を提供する者を指すと解している(最判昭和47・9・7民集26 巻1314頁)。またその順位は第2順位となっており,最後の6ケ月間についてのみ,先取特 権を認めている(民306条2号,308条)。ところが,少なくとも船員に関する限りは,商法 847条7号の規定によって排除されているものと解すべきであろう。従って,842条7号に よれば,民法のような最後の6ケ月間という制約がないことを指摘したい。その意味では,

船員が一般の雇人に比べて保護が厚いともいうべきであろうか。ところで,ここで最も問 題となるのは,平貝の給料債権に関する各国の規定の仕方と順位の点であろう。まず,中 華民国海商法が,これを第2順位として認めているのに対して(新旧法ともに同じであ る),わが国の商法では,第7順位に置いていることである(商842条7号)。この点で旧条 約では,「船長,海員,其他ノ乗組員二対スル契約二基ク債権」(2条2号)を第2順位に 位置づけており,またドイツ商法では,「雇傭契約及ヒ海員雇入契約ヨリ生スル船舶乗組 員の請求権」(768条2号)を第2順位に,同じくフランス商法でも「船長,海員及ビ船舶 二雇レタル其ノ他ノ者ノ雇傭契約ヨリ生スル債権」(191条3号)を第3順位として規定を 設けている。これに対して,とくに注目に値するのは,新条約で「船長,職員及びその他 の船舶乗組員に対し,その雇入に関連して支払わるべき賃金及びその他の金額」を第1順 位にまで,格上げしていることであろう(4条1項1号)。このことは,海員の社会政策的 な立場を如何に重視しているかが窺われる。以上の諸点からも明らかなように,この種の 債権を第7位にとどめていることは,立法論的に残念なことといわざるをえない。田中誠 二博士も,「労働者の厚生を重視すべき現代においては,特別にこの種の債権を優待する 必要がある」(前掲571頁引用)ことを強調されている。なお,本条本号で異色とも思われるの

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は,旧条約と違って,雇傭契約による債権が「その期間一年未満のものに」限定されてい ることであろう。これは,船員の債権に高順位の優先権をあたえるとともに,その累積を 防止しようとするものにほかならない。またここでいう「雇傭契約による債権」とは,給 料請求権のほかに,治療請求権・雇入港への送還請求権のようなものであり,船員死亡の ときの埋葬費請求権や遺族手当請求権のような相続人の固有の権利に属するものも含まれ ると解釈している(鈴木竹雄・石井照久「中華民国海商法」(上)146頁)。

※ 中華民国海商法によれば,本条本号の箇所で船長・船員のほかに,「その他の船舶服務人員」を付 加していることであろう。この立法趣旨は,船員に属さないけれども,なお,船舶上にあって,船内 労務に服する者を含ましめようとするものである。旧条約・新条約では,ともに「その他の船舶乗組  員」という文字を挿入している(旧条約2条2号,新条約4条1項1号)。これに対して,わが国商法  では,「船長其他ノ船員」と表現している(842条7号)。旧商法でも「船長及ヒ海員」というように  限定した枠づけを行なっている(849条5号)。ロエスレル商法草案913条5号参照。また旧商法は「最  後の雇入契約」としている点で,現行商法とも異なるものがある。

 (3) 「救援救助によりて負担した報酬および船舶の共同海損の分担額」(24条3号) 中 華民国海商法によれば,救助料債権および共同海損金分担請求権について,船舶先取特権

を認めている。この立法趣旨は,この種の債権が共同担保の原因をなすところにある。も ちろん,救助料の場合には,海難救助を奨励しようとする意味があることも指摘されてい る(田中(誠)前掲570頁)。いずれにしても,この種の債権について,船舶先取特権を認め ることは各国共通の態度であるといいうる。わが国の商法でも,842条の5号にこれを明 示している。比較法的にみてみると,まずドイツ商法では,754条の4号に救助料を,ま た同じく754条の5号に共同海損分担額を掲げている。フランス商法でも,191条の4号の 箇所に,救助料および共同海損分担額を掲示している。またそれは国内法だけではなく,

条約の中にも採用されている。たとえば,旧条約では「海難ノ救援及ビ救助料,共同海損 二対スル船舶ノ分担額」(2条3号)を,新条約でも「救助,難破物除去及び共同海損分 担に関する債権」(4条1項5号)を明示している。なお,ここでいわゆる救助料(sal−

vage)とは,海難救助の効果として,海難救助者に給付する報酬を意味するもので,その 中には救助者の費した費用も当然含まれるものと解される。それはまた,被救助者の不法 行為にもとつく損害賠償でないことはもちろんであり,さらに救助忌中には,契約に・よる 救助の費用も包含されるものである(同旨,大判明治45・2・17民心18輯201頁)。また,

わが国の商法によるときは,救助料の額は,特約のない限り,救助された物の価額をこえ ることを許されず,また優先順位の先取特権があるときは,先取特権額を控除した残額を こえることができないものとしている(商803条,条約2条3項参照)。

 ※ 船舶の救助者とは別個に,積荷の救助者にも,その救助料債権につき,救助した積荷の上に先取特   権を有する(商810条1項)。もとより,この先取特権には船舶債権者の先取特権に関する規定の準用

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がある(商810条2項)。ただし,積荷の上の先取特権は,債務者がその積荷を第三取得者に引渡した 後は,その積荷について,これを行使することができない(商813条)。これは先取特権iの追及効に対 する例外で,第三者保護を立法趣旨としたものにほかならない。なお,救助料債権者は,先取特権の ほかに留置権をも有する。また,この先取特権は,その発生後1年を経過すると消滅する。森前掲 323頁,竹井前掲360頁。

 (4) 「船舶所有者または船員の過失によって船舶の衝突またはその他の航海事実,旅客お よび船員の身体障害,積荷の滅失または殿損・海港・倉庫・航路の工作物に加えたる損害 の賠償」(24条4号) 中華民国海商法は,衝突債権および各種の損害賠償請求権について 船舶先取特権を認めている(旧法27条4号)。このような債権に,船舶先取特権を付与した のは,一方において,このような債権は,船舶所有者の側から責任制度の対抗を受けると 同時に,他方ではその責任の実現のために,船舶先取特権を認めて,その衡平を意図しよ うとしたものにほかならない(鈴木竹雄・石井照久「中華民国海商法」(上)147頁)。

※ 旧条約の2条4号,新条約の4条1項3号,4号参照。衝突債権に船舶先取特権をあたえることは,

 旧条約のさいにも問題視されてきたが,とりわけ,以上のように多数の損害賠償請求権に先取特権を  あたえることは,船舶抵当権を害するおそれがあるので,その当否は疑問であろう。大橋前掲405頁。

 (5) 「船長が船籍港外において,その職権により船舶の保存または航海継続の現実の必 要のためにたした行為または契約により生じたる債権」(24条5号) このような供給者,

修繕者などの債権については,1926年の旧条約2条5号でも認められている。わが国の商 法でも同様である(842条6号,ドイツ商法754条8号,フランス商法191条6号)。このよ うなことを明文化した理由は,これらの債権が担保の原因をなしたことによる。ところで

「航海継続の必要によって生じた債権」とは,715条,719条により,船長が行為をなした ことによって生ずる債権のようなものである(田中(誠)前掲570頁)。具体的には,船長が 航海中,船員の食料費にあてるために,船籍港外で借金することによって生じた債権など がこれである(大判昭和4・2・19新聞3995号15頁)。しかし,今日の段階では,この種 の債権に船舶先取特権をあたえることには批判的な見解があることを指摘しておく必要が あろう。けだし,近時のように通信機関,支店・代理店などの著しい普及につれて,船長 が船籍港外で,このような契約を結ぶことは,ごく稀な現象ともなっているし,またこの 種の契約債権に船舶先取特権を認めるとすれば,当事者間の通謀で,第三者の利益を害す

るおそれもあるからである。

※ 新条約では,旧条約と異なり,この種の債権は船舶先取特権iの被担保債権の範囲より除外されてい  る。小島孝「航海継続のための債権と船舶先取特権」海事判例百選18頁,大橋前掲405頁,船舶先取 特権の範囲を狭くとらえようとするのは,今日の判例の動向である。横浜地判昭和49・5・10判時  752号89頁,高松高決昭和52・12・9判時89号115頁,東京高判昭和53・12・19判時921号119頁。

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船舶先取特権の一考察

 三 船舶先取特権の消滅原因

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 (1)除斥期間の経過 船舶債権者の先取特権は,その債権の発生後1年を経過したとき に消滅する(商847条1項,国際海運19条3項)。この期間は,いわゆる除斥期間(法定期 間)であって,時効ではないから,中断または停止を生ずることはない。このような立法 制度を設けた理由は,船舶には航海ごとに多数の先取特権が発生するから,その累積を避 けて船舶の売買・抵当権の設定に支障がないようにしたわけである。なお,船舶先取特権 者としても,航海ごとにのちの船舶先取特権者の僧位におかれるから(商844条3項),長 く先取特権を存続せしめる実質的意義も少ないわけである(石井前掲137頁,小町谷前掲 278頁,竹井前掲371頁)。また船舶先取特権は,船舶抵当権に優i先ずる効力をもつものであ るから(商849条),船舶先取特権の永続は,船舶の担保力を減少させるおそれもあるから である(田中(誠)前掲578頁)。旧条約でも9条1項で,原則として1年の期間によって消 滅することとしている(ただし2条5号の債権は6ケ月の超過を禁止している)。そのこと は新条約でもほぼ同じである。すなわち,債権発生の時から起算して,1年の除斥期間を 設けるとともに(8条1項本文),その1年の経過前に船舶の差押があり,強制競売が開 始したときは,期間の進行が中止されること(8条1項但書),および被担保債権者が,

右の期間内に法律上差押ができない場合には,期間の中断・停止を生ずることを認めた

(8条2項)。新条約のもとでは,同じ除斥期間を明示しているものの,わが国の現行法の 解釈態度と比べると,いろいろの特異性があることを注目すべきであろう(詳細は,小町 谷「海事条約の研究」海商法研究7巻318頁)。また旧条約とも異なり種々の起算点を設け ていない。すなわち旧条約によれば右の起算点が各場合によって異っている(9条2項)。

(i)救援救助料債権の先取特権については,行為の終了日より,(ii)衝突その他の事故ならび に身体的傷害に対する損害賠償請求権の先取特権については,損害発生の日より,(iii>積 荷または手荷物の滅失・端野に対する賠償請求権の先取特権については,引渡の日また

は引渡あるべかりし日より,(iv)修繕者・供給者等の債権(条約2条5号)の先取特権に ついては,債権発生の日より,(v)その他の場合には,債権を請求しうる日より始まること にしている。なお旧条約の線を最もよく踏襲しているのは,フランス商法であろう。その 194条(1949年2月19日法)では,船舶先取特権iの追及性を明らかにする (船舶が何人の 所有に帰するをとわずこれに追及する)と同時に,その消滅時効をも明示している。すな わち「先取特権は,原則として1年の期間により消滅する。但し船舶の保存費・航海継続 必要費の債権は,6ケ月をもって消滅する」ものとする。この1年または6ケ月の期間は,

「単なる消滅期間ではなく,時効期間と観なければならない」(仏蘭西商法II・現代外国法 典叢書367頁)とする見解もある。また,フランス商法によれば,194条ノ2(1949年2月 19日法)のところで旧条約にならい,消滅期間の起算点について,相当複雑な条項を置い ている(ドイツ商法764条・765条,ベルギー商法37条,オランダ商法318条d4項)。

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 ※ 中華民国海商法典30条(旧法33条)では,船舶先取特権の消滅原因について規定をしている。本条   は,大体旧条約9条の規定する趣旨に合致するものであって,従来その例を見ないほど詳細なもので   ある。その内容を指摘すると,(1)競売費用・航海に関する諸税・水先料に関する先取特権は,船舶が   債権発生地を離れたとき消滅する(本条1号)。(2)船長・船員等の雇傭契約により生じた先取特権は,

  その債権の行使をなしうる日から1年を経過するも,これを行使しないときは消滅する(本条2号)。

  (3)救助料請求権についての先取特権は,救助行為の完成の時,共同海損分担請求権については,分担   額確定の日から,それぞれ6ケ月を経過するも,これ:を行使しないとき消滅する(本条3号)。(4>船舶   の衝突その他の航海事変・旅客船貝の身体傷害または積荷の滅失・殿損,海港船渠等に加えた損害   (27条4号),荷送人の受けた損害(27条6号)などによる債権の先取特権は,損害発生の日から6   ケ月を経過するも,これを行使しないとき消滅する(本条4号)(5)船長が航海継続の必要によりなし   た行為などにもとつく先取特権は,債権の請求をなすことを得る日から6ケ月を経過しても,これを   行使しないとき消滅する(本条5号)。以上の諸点からも窺えるように,中華民国海商法典の特色は,

  (i)各船舶先取特権の消滅期間をそれぞれ定めていること,(ii)法定期間の起算月日を定めたこと,

  (iii)消滅期間が短縮されていること(原則として6ケ月)などにある。鈴木竹雄・石井照久「中華民   国海商法」(上)176頁。

 (2)船舶の発航 商法842条8号の債権のためにする船舶先取特権は,船舶の発航によ って消滅する(商842条2項)。けだし,これらの債権は,発航前に弁済されるのが通常で あり,かつ発航前に権利行使されるのが容易であり,かつ便利でもあるからである。さら にまた,これらの債権を発航後に存続させるときは,いたずらに他の先取特権者の利益を 害するからである(竹井前掲371頁)。問題なのは,船主が債権者の意思に反して,債権者 の占有中の船舶を勝手に発航させた場合にも,本条の適用により,先取特権が消滅するか

ということである。これには否定説(田中(誠)前掲579頁,小町谷前掲279頁,森前掲400 頁)と肯定説(石井前掲137頁)とがある。判例は後者に傾いている。すなわち「従テ船 舶ノ製造二野ル債権者四隅船舶ヲ占有スル場合二於テ其船舶ノ所有者力債権者ノ意思二反

シテ壇二丁船舶ノ発航ヲ為シ航海ヲ為サシメタルトキト錐モ其船舶債権者ノ先取特権ハ消 滅スルモノト謂ハサル可カラス」(大判大正8・12・26平骨25輯2411頁,鴻・海事判例百 選20頁)と判示している。この判例の態度に対して,田中誠二博士は「事案のように,船 舶が造船者によって占有されている場合に,その債権者の意思に反して発航した場合は,

衡平の観念から,弱者保護のため消滅を認めるべきではない」(前掲579頁引用)と反論さ れている。しかし本件の場合に造船者をはたして弱者といいうるかは,かなり疑問であ る。むしろ本件のようなときには,船主の側に権利濫用が認められるべきであり,従って 先取特権は消滅しないと解すべきではなかろうか。その点では,小町谷博士が,船舶の発 航は,あくまでも船舶所有者の正当な権利の行使によることを要するとされているのは首 肯できよう(前掲279頁起つぎに疑義を残しているのは,「発航」の意味のとらえ方であろ

う。商法842条8号前段の売買・造船蟻装債権については,新航海を始めるための抜錨就 航であることには異論がない。しかし,本条8号後段の最後の航海のためにする蟻装費債

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 船舶先取特権の一考察      83 権については,学説がかならずしも一致しない。田中誠二博士によれば,「最後の航海後 新に別に航海をなすため抜錨することをいう」(前掲579頁)と解釈されているが,今日の 通説は,最後の航海を始めるために抜錨就航することであると解している(小町谷前掲 279頁,竹井前掲371頁)。

※ 中華民国海商法典によれば,わが国の商法847条2項(旧商849条7号,ロエスレル商法草案913条  7号)のような明文を置いていない。中華民国海商法典では,24条(旧法27条)のところで,わが国  の商法が認める船舶の売買または製造により生じた債権には,船舶先取特権を明示してないからであ  る(847条8号)。船舶抵当権者の利益保護という船舶金融の現代的な要請よりすれば,わが国商法の  在り方よりも,はるかに中華民国海商法典が優るものといえよう。鈴木竹雄・石井照久「中華民国海  商法」(上)150頁。

 (3)船舶先取特権者自身の解怠 船主がその船舶を譲渡した場合に,譲受人がその譲渡

を登記した後,船舶先取特権者に対して,覧Pケ月以上の期間内に,その債権の申立をなす

べき旨を公告したにもかかわらず,船舶先取特権者が,その期間内に,その申立をしなか ったときは,その申立を解了した先取特権者は権利を失う旨を,わが商法は定めている

(商846条)。この立法理由は,船舶先取特権には,登記という公示制度がないので,船舶 の譲受人は著しく不安な地位に置かれる。そこで,このような不安を除去し,船舶取引の 動的安全をはかるために本条が設けられたのである(田中(誠)前掲580頁,石井前掲137 頁,小町谷前掲280頁)。要するに,一方では船舶先取特権の追及性を認めると同時に他方 では除斥方法を定めることにより,船舶譲受人と船舶債権者の利益の調整を意図したもの にほかならない。なお,本条に関連して多少触れなければならないことは,846条2項の 箇所で,「先取特権ハ消滅ス」という文言のとり方であろう。これは先取特権の消滅と理 解すべではなく,船舶およびその従物に対する追及権だけの消滅と解釈すべきである。け だし,運送賃請求権を行使することができるからである。ところで商法846条によれば,

船舶譲受人は,売買による移転登記後に,この手続をとることが認められているために,

立法論として多少の疑問を残していることは否定することができない。旧条約では,一定 期間を定めて公示催告と同時に予告登記をなし,期間経過後に本登記をなすものとしてい る(9条4項)。従って,条約によると,一定の公示催告期間内に,債権の申出がなければ,

船舶先取特権の追及性は消滅することになり,その後で本登記をなすことになっているの で,わが国の商法に比べて,条約が立法論的にすぐれているといえよう。

 ※ 中華民国海商法典29条(旧法32条)によれば,船舶先取特権は,船舶所有権の移転により影響を受   けない旨を規定し,船舶先取特権の追及効を明示している。これは,従来主要な海商諸国の立法を承   継したものにほかならない。たとえば,ドイツ海商法755条2項では,船舶先取特権は,船舶の各第   三占有者に対して,これを実行することができることを明らかにしている(フランス海商法191条,

  イタリー商法674条,ベルギー海商法20条,ソ連海法189条,オランダ商法318条0,条約8条)。わが国の   場合には,明文がないために,船舶先取特権の追及効について,やや明確性を欠いているが, 商法

(10)

84

846条を根拠に,有力説は肯定している(詳細は,大橋前掲412頁)。ところが,中華民国海商法典で最 も疑問とされることは,船舶先取特権が,船舶所有権の移転によって,影響を受けないとすれば,船 舶譲受人の利益が著しく阻害されるおそれがないかという点であろう。わが国商法846条(条約9条 4項,ドイツ海商法765条)のように,船舶譲受人が,公示催告手続などを利用することによって,

船舶先取特権を消滅させる方法を明文化し,その保護をはかるべきではなかったかと思われる。その 意味でも中華民国海商法は,不備な点を有しているといえよう。しかし,反面に条約の態度を採用し て,船舶先取特権の追及効を定めている面では,優れた立法ともいえる。鈴木竹雄・石井照久「中華 民国海商法」(上)169頁,なお,新条約でも,船舶先取特権の追及効についても規定し,この先取特 権の債務者が,船舶所有者である場合のほかに,船舶賃借人,傭船者,船舶管理人,または船舶運航 者である場合にも発生すること (7条1項),強制競売を除き,船舶登記簿上における所有権その他 の登記の変更があっても,船舶に追及すること(7条2項),さらに船舶先取特権による被担保債権 について,譲渡または代位があったときは,先取特権がその被担保債権と同時に移転して,船舶に追 及することを明示している(9条)。小町谷操三「海事条約の研究」(海商法研究7巻)317頁。

おわりに

 以上概略ながら,船舶先取特権に関する中華民国海商法の諸規定を素描してきたが,そ こにはわが商法と同じように,いろいろの問題点があることが判明した。とくに現代にお ける船舶金融を容易化するためには,どうしても船舶先取特権に対する船舶抵当権の地位 の強化,いいかえれば,船舶抵当権に優先する船舶先取特権の種類を,できる限り制限す ることが必要である。そのためにも,1967年の新条約との関連で,この方面に対する一層 の研究が望まれるものといえよう。

(11)

  fiAiifEI Sti ]IS( tlE5ide C7) ‑‑ 2;‑ fi 85

 [ava]

       Preferences and Mortgages

       Article 24

Any of the claims of obligation listed below is entitled to preference of payment:

  1. Costs of Iitigation, expenses incurred in the common interests of the creditors       in order to preserve the ship or to procure its sale by open bidding and dis‑

      tribute the sale proceeds; tonnage dues, harbor reconstruction fee, pilotage       dues, towage charges; or charges incurred for safe watch, preservation or       inspection of the ship after the time of the entry of the ship into the last port.

  2. Claim of obligation of the shipmaster, mariner or other person in service of       the ship arising, within a period of time less than one year, out of the contact       of employment.

  3. Remuneration for assistance and salvage, or the allotted contributionof the ship       to genera} average.

  4. Indemnity, arising from the fault of the shipowner, the shipmaster or mariner,       for eollision of ships or other incident of navigation; for the personal injury       inflicted on passenger, shipmaster or mariner; for damage or loss of cargo;

      or for damage infiicted on harbor facilities. '

  5. Claim of obligation arising of act done of contract executed by the shipmas‑

      ter in pursuance of his duties and authority, while away fromthe port of reg‑‑

      istry, for actual necessity of preserving the ship or continuing the voyage.

  6. Indemnity for damage caused to consignor.

  The rank of the preferences listed under sub‑paragraphs 1 to 5 inclusive of the preceding paragraph takes precedence of the right of mortgage over the ship.

       Article 26

  The objects which niay be subject to preferential payment in pursuance of the pro‑

vision of the preceding Article are as follows:

  1. The ship, her equipment and appurtenances, and/or residual materials thereof;

  2. The freight earned in the voyage during which the preferential claim of obli‑‑

      gation was created;

  3. Indemnity due to the shipowner for damage sustained by the ship and/or for       Ioss of freight during that particular voyage;

  4. Indemnity due to the shipowner on account of general average;

  5. Remuneration due to the shipowner for assistance and salvage services ren‑

(12)

  86

      dered prior to the consummation of the voyage.

      Article 26

  The claim of obligation under sub‑paragraph 2 of Article 24 may be paid inpriority order out of the total amount of the freight earned during the validity period of one and the same contract of employment notwithstanding the provision ofsub‑paragraph 2 of the preceding Articie.

      Article 27

  Preferential claims of obligation partaining to the same voyage rank according to the order as the various sub‑paragraphs are set forth in Article 24.

  In the event that there are several claims of ob}igation undar any one sub‑para‑

graph of Article 24, they are indemnified Pro rata wlthout precedence.

  In the event that under either sub‑‑paragraph 3 or sub‑‑paragraph 5 of Article 24, there are two or more claims of obligation pertaining to one and the same kind, the one arising later is to be paid in priority order.

  Claims of obligation arising out of one and the same accident are deemed to be claims of obligation occurring at the same time.

      Article 28 '

  As regards preferential claims of obligation not pertaining to the same voyage, the preferential claims of obligation of a later voyage take precedence over the pref‑

erential claims of obligation of an earlier voyage.

      Article 29

  Preferential claim of obligation is in no way affected by transfer of the ownership of the ship.

      Article 30

  Unless otherwise provided for by law, the preference under each sub‑paragraph of Article 24 is extinguished by reason of the cause stated below:

  1. In the case of sub‑paragraph 1 of that Article, ship has departed from the place where the claim of obligation was created.

  2. In the case of sub‑paragr'aph 2of that Article, the claim of obligation has       not been exercised upon a lapse of one year from the date on which such       claim became exercisable.

  3. In the case of sub‑paragraph 3 of that Article, the claim of obligation has       not been exercised upon a lapse of six months from the date on which the

(13)

  eemaftltsleFIFdedi‑1;as 87

      act of assistance or salvage was completed or the allotment of general aver‑

      age contribution became finaL

  4. In the case of sub‑paragraph 4 or sub‑paragraph 6 of that Article, the claim       of obligation has not been exercised upon a lapse of six months from the       date on which the damage arose.

  5. In the case of sub‑paragraph 5 of that Article, the claim of obligation has not       been exercised upon a lapse of'six months from the date on which the claim       of obligation became exercisable.

       Article 31

  Creation of a ship mortgage shall be in written form.

       Article 32

  Ship mortgage may be created upon a ship under construction.

       Article 33

  Unless otherwise provided for by law, ship mortgage may be created only by the shipowner or by the person who has received his special mandate.

       Article 34

  Creation of a ship mortgage, unless having been duly registered, shall not be set up as a defence against a third party.

       Article 35

  Mortgage created by one or more than one co‑owner of a ship upon his share or their shares entitled thereto shall in no way be affected by partition or sale.

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