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海員の権利とオーストラリア法
志 津 田 氏 治
船員法の独自性の問題
(1)船員の労働関係を規律する船員法は,船員の労働基準法ともいわれるものである。
しかし船員法は海上航行の安全保持のために,陸上の労働基準法とは異った独自性を有し ている。すなわち共同危険団体を構成している船舶は,海上の危険に対して全く孤立の状 態に置かれているが,かかる事態での海上労働は,直ちに海上航行の安全ことに人命船舶そ の他の財産の安全に重大な影響をあたえるのであり,ここに船舶共同体の安全確保という 公共的要請が正面にあらわれてくる。それが,やがて陸上労働と異なり,海上労働保護に 対する一一つの大きな制約となる。この意味において船員法は,雇入契約から生ずる船員の 私法上の権利義務関係を規律するだけではなく・船員に対する公法的義務づけを必要とす
る。そこで船長に対する職務権限 (船舶権力),船内規律等に関する秩序化を意図してい る。オーストラリア法でも,第12節99条以下には船内の規律に関する規定をおいているが,
わが国の船員法21条,カナダ法250条,デンマーク法60条, ドイツ法114条,イギリス法 220条あたりには,やはり大同小異の条項を設けている。こうした観点から海上での労働
法則は, D舶安全法則による制約をうけているという西島博士の見解(海商法69頁)は注目 に値いしょう。この点でたとい海員側に有利に変更する特約が,船員法上有効であるとし ても,そこには船舶および航海の安全を害することがない限りという制約条項がおかれて いることを注意しなければならない。船員による争議行為の制限という問題も,(尤も船内 規律の章に規定している点に若干の立法上の批判がある。野村一彦「船員法概説」50頁) こうして始 めて理解が可能となる。
註 (1)ここに船員法上海員の義務の二元性を指摘できよう。すなわち海員は,一面船舶所有者に対 する関係で,労働契約にもとづいて船舶に乗船し,連続的に労務を提供すべき義務を有するが,
他面には船舶共同体の一員として堪航性確保(船内秩序維持)の義務を履行することを要求さ れている。前老は一般労働法上の義務づけであり,後者は一般航行法上の義務づけとも称すべ きであろう。
(2)わが国で始めて近代的な色彩をもつ海員保護の立法が出現したのは,明治12年の太 政官布告第9号の「西洋形商船海員雇入雇止規則」である。この規則は,全文13条から成
るもので, 内容としても当時可成り進歩的なものであったといえる。 たとえば本規則は
(1)蒸気船10トン(風帆船は20トン)以上の海員の雇入契約に適用があること。 (2)海員の雇入 には浦役人の公認がいること。(3)雇入期間は原則として6ヵ月とすること,その他海員の 規律(10条,11条),雇止についてめを惹くものがある。
をの後海運界の発展とともに船員と船舶所有者との私法関係を規整する必要が生じ,明 治23年の旧商法(法32号)を経て,明治32年に商法第5編海商のなかに,一般海員に関す
る規定がおかれたのである。また,これと併行して明治32年に船舶法と同時に船員法(法4二 号)が制定され,船員に対する公法的取締を定めたのである。ところが昭和12年に商法典 中に体系的地位を占めていた海員に関する規定を分離して別個独立の船員法を制定し,海 上労働保護法としての形式的分離独立をみたのである。(フランスでも1926年に海上労働法を制 (1)
申して,海員の労使契約条項を商法典より移行している)尤も海商国にありては,依然商法典の なかに位置づけをしている国もあれば(オランダ・中華民国),あるいは船員法という独立の 単行法を制定している国もある(デンマーク,ドィッ,日本)。しかし一方オーストラリア法,
カナダ法,イタリー法のように航行法,海運法のなかに規定をしている国もあることは注 目すべきであろう。
註 (1)この傾向は学説の上では既に指摘されていた:。馬場正利「商法体系」(海商編)153頁。WUst・
end6rfer, Das SeeschiffahrtsrechtるS.650.
海員の言語的制限条項の意図
現今,海商国はきわめて多様な海運政策の手段を講じて,自国海運の発展を指導してい く傾向にある。そこで具体的に諸種の施策がとられている。海員法の立場からも自国海員 維持の思想がみられることは特記すべきであろう。たとえばオーストラリア法の47条では
「(1)海員はその職務の遂行にあたって,なされだ命令を理解するに充分な英語の知識を有 していることを監督官が認めない限り,契約書に署名することは許されないものとする。
(2)船長または船舶所有者は,前項の英語の知識を有しない海員を雇入れてはならない。」
本項に違反すれば20ポンドの罰金に処している。従ってオーストラリア法では,たとい外 国人海員の雇入れが認められていても(47条A)海員としての英語の知識を有することが前 提条件となる。そこでこの条件には二つの意義をみいだすことができよう。一つは海員の 言語的制約を通しての船舶堪航性の保障ということであり,二つは自国海員の可及的維持
ということである。
このことはアメリカの海員法(1915)でも,乗組員の資格制限として,下級船員の七割 五分が上級船員の発する命令を理解できることを要求したことと関連して,実に興味のあ る問題である。この規定により上級船員はアメリカ人である関係上,英語を充分に理解す る者ということになり,そこには東洋海員を排斥することを目的としたものに粗ならない。
この条項は,海上航行の安全という見地よりすれば至極当然の規定であるが,しかしアメ リカ船主の側からは,日本船主との競争を不可能にするという点で,強い反対があったこ とも附記さるべきであろう。
註 (1)詳細はボウル・マックスウェル・ジエース著(佐波宣平訳)「アメリカ海運政策」81頁,
田中誠二博士「船舶の国籍に就て」 (海商法上の諸問題所収)21頁参照
食料請求権海員の食料(provision)は,給料以外に船舶所有者がこれを負担することが,
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慣習として夙に認められてきた。既に申疑点の海法あたりでも,船主がその雇用する乗組 員に対して食料を支給する義務制が確認されている。オーストラリアの海員法でも,海員 に食料請求権があることを肯定している(82条・M.S。 A.§155)。その発生時期を,給料 (1)
とおなじように海員が作業を開始した時,または雇入契約書において定められた作業, も しくは乗船の開始期の,いずれか早い時とする6
註 (1)ドイツ船員法では,海員は給料支払請求権が発生した時(32条参照)から,雇入契約の終了 まで適当な賄を請求する権利を(Das Recht auf Bek6stigung)有する (39条)。またフ ランスの海上労働法72条でも,海員は乗組員名簿に記載されている期間は,食料またはこれに 相当する手当を受ける権利があることを確認している。
わが国の現行船員法80条で「船舶所有者は船員の乗船中命令の定めるところにより,こ れに食料を支給しなければならない。」と定めている(その違反には6ケ月以下の懲役または む む り5,000円以下の罰金的制裁がある)。既に旧商法においても,海員の服役中の食料は船舶所有者
の負担とする(724条)としていたが,この服役中の意味が明確でなかったので,昭和12年
タ む
の船員法では,船舶所有者は海員の乗船中勅令の定むる所に依り之に食料を支給すること を要す(21条)と改めたのである。ところで,ここで問題となる乗船中(during the peri−
od of his sea service)というのは,もとより航海中とは同一ではなく,雇入契約が成 立して船員が特定の船舶の労務に従事した時から,その契約が終了して労務が現実に終結 した時を指すものと解されている (山戸教暖「船員法」148頁参照)。 つまり乗船中というの は,船員法施行規則の50条にもあるように,船員が乗船し,航海,荷役,船舶保全その他 の船務に従事する期間」中と解すべきであろう。従って,たとい雇入期間中であっても,
船務に従事中と称することができないときは,食料供給の義務がないが,逆に航海中雇入 契約が終了するも・その契約が延長され・船務に従事する場合は勿論食料を支給しなけれ ばならない。なお,これとの関連で施行規則の50条によれば「負傷または疾病のため職務 に従事しない期間」についても食料供給の義務があることを定めている。
つぎに食料の意味であるが,飲料をも含むと解されている(塩田環「船員論」168頁)。
但し酒類は除外されている。また如何なる程度の食料を支給すべきであるかという点であ るが,これは必ずしも一様のものであることを要しない。しかし海員そのものの保健を維 持できる必要程度のものを支給すべきであるが,実際には海員の地位,船舶の種類,航海 の遠近等によって異ってくる。フランス法によれば,海員にあたえられる食料は,新鮮,
良質かつ豊富で予定された航海に適したものでなければならない(78条)としている。現 行船員法では,遠洋航行船,近海航行船で総トン数700トン以上の船舶には,主務大臣の定 める船員標準食料表によることを要求している (80条)。オーストラリア法の117条でもこ れと同一の趣旨つまり,食料の法定基準を定めている。すなわち「オーストラリアにおい て登録された船舶または沿岸貿易に従事する船舶であって,この法律により乗組員と雇入 契約を締結することが要求されている船舶の船長は各乗組員(食料を自給しない者に限る)
に,当該船舶に適用される別表第3に掲げる基準または別に定める基準に従って食料を支 給しなければならない」(1906年M.S. A.§25)としている・しかし,この食料表は海員にあ たえられべき食物,飲料の最少限を要求するものであるから,これ以上のものを支給する ことは当然許される(ドイツ船員法39条2項参照)。なお,船員に直接金銭を支給することは 許されないが,船舶所有者が直接現品を支給すると,船舶所有者から船長または事務長に 金銭をふよし,船長または事務長はこれをもって現品を購入し,海員に支給することは問 わないのである。
り む
つぎに船員の食料請求権は拠棄することができるかどうかという問題がある。この請求 権は私法上の請求権であるとして理解されているが,その勧棄が可能であろうか。ζの点 に関して山戸教授は以下のように指摘される。すなわち「船員の食料は船員の服務に関連 して当然生ずる必要な給付であって,公益上これが拗棄を許すべきものではないから,特 約を以てこの食料負担の義務を免れ,海員にその負担を転稼することは許されない」 (前 掲「船員法」149頁,加藤博士「海商法講義」146頁参照)と。食料の支給方法についてはともか
くも,食料請求権そのものに関しては,海員の不利益になるような取極めを一切なすこと ができない。蓋し船員法の社会法的性格よりくる当然の結論であろう。
わが国の船員法では,食料に関する海員の異議申立を明確にしないが,イギリス商船法
(Merchant ShipPing Act,1894・)の199条では・食料ρ不足・品質不良のときは海員 に補償の請求が認められている。すなわち
α〉航海中雇入契約によって定められている食料の割当量が減量された場合(if during avoyage the allowance of any of the provisions for七vhich a seamen has by his agreement stipulated is reduced)
回 航海中において食料が品質不良であっ}く使用不適であることが明らかになった場合 (if it is shown伽at any of those provisions are or have during the vorage been bad in quality and unfit for use;)
海員は,減量または品質不良に対する補償として,その継続期間に応じ,つぎの金額すな (註)
わちω契約で定められた量の三分の一以内の減量であるときは,一日につき4ペンスをこ えない金額回その量の三分の一以上の減量であるときは,一日につき8ペンス㈲品質不良 のときは,一日につき1シリングをこえない金額を,その賃銀の一部として,本来の賃銀 のほかに支払われるものとする(オーストラリア法118条参照)。
註 (1)海員の補償(ComPensation)請求を明示する立法例は多い。フラン海上労法74条,オラン ダ海商法408条, ドイツ船員法40条,デンマFク船員法57条等。デンr7 Fク法では「船長は相 当かつ十分な食料を海員に供給されているか否かを検査しなければならない。乗組員は船長が 航海中において,食料を減給することが必要であると認めたときは相当の補償を請求できる」
ものとしている。またアメリカの連法法典4568条(46usc665)でも,イギリス法と類似の規 1走をおいている9
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法定基準の食料を支給できなかったことに関して,船長に故意過失があると判断したとき は,補償金の支払のほかに,略式裁判により100ポンドをこえない額の罰金的制裁がある ことを定めている(1906。MSA§25皿)。なおイギリスの船舶では,乗組員の食料および 飲料水が(乗組員自身の用意したものを除く),品質不良であるかどうかを,船内においてま たは船積前に検査する任務を検査官(inspecting offier)にあたえている。 もしも晶質不 良であると検査官が認定したときは,その高曇が補正されるまで,当該船舶の出港を停止 できることを明示している(1906MSA§26)。
オーストラリア法の116条では,明確に不服申立の制度を定めている。すなわち船舶乗 組員3名以上の者は,食料または飲料水が品質不良もしくは数量不足であるとき,監督官 に不服の申立をおこなうことができる。申立を受けた監督官は,食料または飲料水を調査 し,あるいは調査をさせなければならない(ここでい5監督官は,商船事務所の監督官,船舶所 在港の監督官,収税官)。 もしも調査を行った監督官または他の官吏の報告により,食料飲 料水の品質不良,数量不足を認めたるときは海運局長(少1晦運局の長を称ずる。海運局長官も 含む)は船長に対して,書面によって良質のものの供給を要求すると同時に,品質不良の ものにはその供給の停止を要求しなければならない (罰則20ポンドの罰金)。また監督官は 調査の結果を公用航海日誌に記入することを要求されているq16条皿)。なお海員による (1)
不服申立権の濫用を予防するために,もしも申立に正当な理由がないと認めたるときは,各 申立人は賃銀から一週聞分をこえない金額を没収されることになっている。
註 公用航海日誌(official logs)の備置義務および証拠力については170条,171条参照(M.S.A.§
239。240.)現行商法では航海日誌に関する規定を欠くが(明治23年の旧商法では865条に定める)・
ドイツ商法ではこれを明示している。
カナダ法,(228条),イギリス法にもこれと同様の規定をおいているが,たゴ不服申立の 受理所轄当局をイギリス軍艦の艦長,イギリス領事官,監督官または税関吏となしている
(M.S. A。§198)。ドイツ船員法でも,海員は口頭または文書で船舶が航海に不適格であ ること,その安全設備が規則に従った状態にないこと1あるいは食料貯蔵が不充分もしく は腐敗していることについて,船員局に異議申立ができる旨を定めている。わが国の現行 船員法には,これに相当する条項がないが,しかし,その112条によると「この法律,労 働基準法又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実があるときは,船員は命令の定 めるところにより,行政官庁,船員労務官,又は船員労働委員会にその事実を申告するこ とができる」旨を定めている。この場合に船舶所有者は,上記の申告を理由に船員を解雇 し,その他船員に対して不利益な取扱いをすることを禁止している (112条2項)。なお虚 偽の申告には,132条に罰則的制裁がある。
設備維持請求権(1)船舶安全法によるもの船舶における危険防止,緩和を始め船員の生命 自体の安全保持を目的とする設備保護つまり危険保護ということが考えられねばならない。
従来この問題に関しては,立法上相当の考慮が払われてきたのであるが,旧船員法の態度
は不備であり,各国法とは別に船舶安全関係の法規のなかで害心制度化されてきたに過ぎ ない。すなわち大正10年の船舶満載吃水線法(昭和/0年の船舶安全法で廃止)では,過重な積 荷は船舶の安全と運航の目的を阻害し,海員の行動の自由に制約をくわえ,海上労働を非 常に危険化するので,かかるオーバー。ロードを厳禁したのである。また船舶安全法では,
船舶乗組員20人未満の船舶にあっては,その二分の一以上,その他の船舶にあっては乗組 員10人以上が当該船舶の堪航性または居住設備,衛生設備その他の安全に関する設備につ いて,重大な欠陥があることを認知した場合に,法定の手続によりその旨を申立て,監督 権の発動を促しうることを認めている(同法113条・ド・fツ船員法113条,デンマーク船員法59条,
アメリカUSC 453)。
オーストラリア法では,これに関する直接的な条項をもたないが,雇入契約書の中に満 載吃水線に関する事項を挿入すること (46条A),堪航性に関する船舶所有者の担保義務
を明示(59条MSA§458)していることは,船舶所有者が船員に対して,すくなくとも船舶 の堪航性と生命安全設備完備の義務があることを前提としているものといえよう。
(1)
註 (1)船舶堪航性の保持の観点からする法規整上の沿革は古い。すなわちAshburnerのThe Ro・
hdian Sea・Law,(1909)。 P。 clvi。によれば, Goldschmidtが,中世期海法の特色として,船
舶が堪航性であること,オーバー・戸一ドディングを防止するための監督規整がなされていた ことを指摘している。従ってオレPン海法あたりでは,船主は運送に関して充分の風帆,碇錨,その他属具を準備することを要求されており,またコンソラート・デル・マーレあたりでも,
船舶は充分に樹脂をもって塗られていること,あるいは船舶安全の視野から重量貨物の積付に あたって制限をくわえ.ている。詳細は樋具詮三「海の慣習法」731頁参照。1890年にイギリス で始めて載貨吃水の制限に関する法律が制定されているが(上野喜一郎「船の歴史」2巻224頁)
わが国でも徳川の頃に「船足」を乾舷の意味に使用し,船舶保護のために吃水の制限に関する 規則を発布していたことが指摘されている。ことに船足のところの船腹に「極印」を打って瀾 載吃水線の標示をなしている。詳細は住田正一「目本海法史」237頁以下,市村富久博士「徳 川時代ノ海法ト英国ノ乾舷及要員不足取締法」 (遺稿)3頁
(2)船員法によるもの船員の健康増進を意図すると同時に労働能率の向上のために,船 員法では衛生に関する規定を若千おいている。 たとえば医師の乗組,衛生用品の備置
(82条,83条),健康証明書を受有しない船員の使用禁止(81条)などがそうである。とこ ろでわが国と異り,オーストラリア法では船員法のなかに設備(15:節135条以下)に関する 規定をおき,船舶所有者の安全設備維持の義務をかしている (デンマーク法58条参照)。
すなわち136条において船員にあたえられる設備 (ここでいう設備とは,寝室,食堂,娯楽室,
倉庫,衛生および洗浄設備,病室設備,事務室設備,並びに賄設備を含める。138条B)を定めてい る。オーストラリア法で最も注目に値いするのは,本条項の実施にあたり,主務大臣が乗 組員設備委員会と称する委員会を認めていることであろう。この委員会は船主および船員 を代表する委員長ならびに委員で組織されている。委員会の権限としては,新造船の設備 に関する計画と現存船舶の設備改善を検討し,主務大臣に勧告することにある。またオー
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ストラリア法の138条Aでは,オーストラリアに登録された船舶の所有者は,その船舶に 所定の設備つまり操舵室その他の小室および通風装置を設けない限り,これを発航させて はならないとしている(本条項違反には100ポンドの罰金)。
(1)
このようにオーストラリア法では船員の居住設備に関して注目すべき条項をおいている が,わが国の船員法でも,この方面に一段の考慮を必要としよう。尤も船員の設備それ自 体が,船舶の構造そのものと不可離的関係にあるところがら,船舶構造の規整法規である 船舶安全法の一部として立法化していくか,それとも船員の保健衛生の見地から,船舶安 全法と切り離して立法化するか,困難な問題を残している。
註(1)アメリカでも不堪航性船の出航を禁止している(連邦法典4561条・USC658)。イギリスでも
同様である(1894。M. S。 A.§457)。
給料請求権 (1)給料債権の始期 海員が船舶所有者に対する権利のなかで,最も重要な ものは,その生活の基礎となるべき給料の請求権である。オーストラリア法も海員保護の 立場より詳細な規定をおいている。まず82条に給料および食料に関する始期を定めている。
すなわち給料および食料に関する海員の権利は,海員が作業を開始したとき,または雇入 契約書において定められた作業もしくは乗船時の,いずれか早い時点に定まるものとされ ている。 (Aseamen s right to wages and provisions shall be taken to begine it her at the time at which he commences work or at the tirne specified in the agreement for his commencement of work or presence on board, whichever fir・
st hapPens.)。これと同様の条項はイギリス法(1894。 M。 S. A,§155),カナダ法
(200条)にもみられる。わが国の現行船員法には,この点に関する明確な条文をもたない。
しかし有力説によれば給料請求権の発生時期は,原則として公認のときからであるとする
(塩田環「船員論」215頁)。 その理由として小町谷博士はr蓋しこの時から海員は船長の指 図に従って何時でも乗船する準備を整える義務があり,全くその自由を拘束せられるので あって,海員のために此時から給料請求権を認めるのが妥当だからである。これに反して 公認前に既に労務に従事していた場合には,固よりその就役の時から給料の請求がある』
(海商法要義上巻224頁)ものとされている(なお塩田前掲著においても,公認があったときは乗船 服務の強制義務が発生することを理由としている)。これについてドイツ船員法が「給料に対す る請求権は勤務の開始とともに発生する。海員があらかじめ公認のために出頭し,または 船舶所有者の指図のもとにある場合には,給料請求権は既にその時に発生する」としてお
ることは,現行船員法の解釈のうえに実益を提供するものといえよう。
(2)運賃と給料債権との関係,つぎにオーストラリア法で注目すべきことは,海員の給料 が運賃収入の如何によって影響されないことを明文で表現していることであろう。すなわ ち,その84条で「給料に関する権利は運賃収入の如何によって影響されないものとする。
給料を請求し回収する資格を有する海員および見習生は,勤務している船舶が過去に運賃 収入を得ていた場合,現在運賃収入を得ていないときでも,その場合に適用される他の一
切の法律および諸条件に従って,給料を請求し,回収する資格を有するものとする」(Th・
eright to wages shall not depend on the earning of freight;and every seaman and apprentice who would be entitl曾d to demand and recover any wages, if the ship in which he has served had earnd freight, shall, sllblect to all other rule sof law and conditions applicable to the case, be entitled to delnand and recover the same, notwithstanding that freight has not been earned.) と定めている。
カナダ法202条,イギリス法157条,アメリカ法4525条(46usc 592)も,これを明示する。
この条項は,過去に支配していた「運賃は給料の母である」(Freight is the mother of wages)という原則を否認するものとして,海事法史上に重要な意義をみいだすものであ
る。中世の船舶所有者,船員の組合関係の段階では航海の完成と利潤に対して,船員も共 通の利害をもっていたために,もしも,その航海上に何等の収益をあげることができなか った場合には,組合員である船員は利益分配の請求を認められなかったのである。逆に多 少なりとも運賃の収得があれば,船員もその分配にあずかることができたのである。かか
る中世の慣行から,ひろく給料について運送賃,海産がない場合には,船主に給料支払義 務がないものとされたのである。ところが其の後,組合関係が消滅失し,近代的雇傭関係
を生ずるようになると,給料と運賃との因果関係が切断されるようになり,今日では各国 法も,ともに運賃は給料の母であるという過去の遺物を認めない。従って運賃収得の如何
にかかわらず船員は給料を権利として請求できることを承認している。
註 (1)詳細は加藤正治博士「海員雇i入契約の変遷と社会政策」 (海法研究第1巻所収),Wagner,
H:and buch her Seerecht,1. S.80f.おが国でも足利時代,大内氏の渡当船貿易時代より朱印 船貿易時代にかけて,船主,船頭の給料関係には,これに類似するものがあったことを指摘さ れている。そこでは運賃に相当する利益がなかったときには,船員に報酬があたえられなかっ たようである。詳細は住田正一「運賃は給料の母」 (海事大辞書上巻)111頁
(3)海産と給料債権との関係,船員の給料と船舶所有者の海産との関係についてふれて みよう。勿論ここでいう海産(maritime rem)とは,海上財産の意味で,船舶およびこれ
と密接な関係をもつ請求権の総称である。 もしも海産が海難に遭賦して滅失した場合に,
船員は給料を請求できるものだろうか。これについてオーストラリア法は,その84条にお いて「その船舶の難破滅失の場合に,海員がその船舶,人命,積荷,貯蔵品および装備品 の救助のために最大の努力を払わなかったことの証明があれば,当該海員は給料に関する
権利を失う」 (but in all cases of wreck or loss of th e ship, proof that the seam
−an has not exerted himself to the utmost to save the ship, cargo, and stores,
shall bar his claim to wages.)ものとされている。カナダ法(202条),イギリス法で もこれを明示している。しかし,この条項は今日海員保護の視点からも,給料請求権の説 明づけに障害をもたらしているのであり,海産との関係を認めない方が妥当であろう。従 って海難にさいし海産がたとい沈没しても・船員は何等の証明をすることなしに,当然に
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給料の請求ができるものと解すべきである。
(4)給料債権の支払確保,つぎにオーストラリア法でめを惹くのは,海員の給料につい て先取特権剥奪の禁止,差押禁止の条項を置いていることであろう。すなわち,その83条 で海員(見習生を含む)は,如何なる雇入契約によっても(a)給料の回収についての救済手段 を剥奪されることがないものとする。(b)給料に関して生じた船舶についての先取特権を喪 失することはないものとする。(c)船舶が滅失した場合に給料に関する権利を拗棄してはな らない。第2項で海員および見習生に関しての先取特権は,他の一切の先取特権に優先す るものとする。第3項では雇入契約の条項であって,この法律の規定に抵触するものはす べて無効とするとなしている(カナダ法201条・/ギリス法156条)。
(1)
註 (1)Temperey s, Merchant ShipPing Acts,1954。 P。100。この条項は船長を含まず海員の みに適用がある。The Wilhelm Te11(/892)。給料に対する海員の畠置権は,船舶,運賃の 上に及ぶものとさ:れる。本条項と類似のものにアメリカ法4535条(46 USC600)があり参考とな る。
わが国の現行船員法には,これに関する明文がなく,民法と商法に若千の規定をおくに過 ぎない。船員のもつ先取特権の順位は非常に劣後的であり,かつその実際的な権利行使の 面にも可成りの疑問がもたれている。またオーストラリア法の90条では,海員の給料につ いて裁判所による差押,仮差押ができないことを明示している。わが国でも民法510条で 給料債権との相殺を制限し,さらに民事訴訟法によっても差押を禁じている(618条6号)。
註 (1)・fタリー航行法369条では,船主に対する船員の給料債権は、その総額の5分の1まで差押を 許している。フランス海上労働法66条参照
(5)給料の前払禁止条項,わが国の船員法によると,給料その他の報酬は,法令または 労働協約に特別の定めがある場合のほか,その全額(全額麦払の原則)を・通貨(通貨支払の 原則)で,かつ直接に船員に(直接支払の原則)支払うことを要する。さらに・それが船内 でな支払われるときは,止むを得ない事由のある場合を除き,直接海員に手渡さなければ
らない。ところでオーストラリア法では,この給料支払の方法に特異な条項を設けている。
すなわち給料の前払禁止条項と,分配手形の発行がこれであろう。69条では「オーストラ リアにて作成される雇入契約書には,当該海員または他の者に対して給料またはその一部 を前払する旨の条項を含めてはならない。給料の前払についての契約は無効」と定めてい る。この点日本の船員法では明確な規定はないが,イギリス法では給料の前払証書(adva・
nce notes)に制限を加え(M. S。 A。§140),フランス法,アメリカ法でも給料前払の違 法性が確認されている。
送還請求権 各国の船員法で海員に送還請求権を認めた理由は,雇入港ことに外国にて雇 止その他の雇入契約の終了があった場合に,資力の乏しい海員を雇入港外に遺棄すること を避けることにある。従って海員の無賃送還(reparation)の請求権は,もっぱら海員の 利益のために法律上認められた雇入契約上の権利であって,恩恵的なものと解すべきでは
ない。この意味で送還という制度は海上労働の特殊性にもとつく船舶所有者の義務という べきであろう。オーストラリア法の127条では,この権利を確認している。しかも船舶所 有者は船員送還の費用を給料から控除できないことを明示する。現在,ドイツ法(72条)フラ
ンス法(87条,88条),デンマーク法(34条),イギリス法(M。S、 A.1906。§32)等では海 員の無料送還を制度化している。ところで海員送還の方法は,海員の地位に応じて相当で
あればよい。船舶所有者は送還中の食料および居所の給付義務を負担することは勿論であ る。最近の進歩的立法はこの点を明らかにしているようである (たとえばフランス法86条で は,送還とは送還される海員の運送並びに宿泊費の便宜および食料の供与を含むものとされている。ド イツ法72条でも無料送還請求権は適当な宿泊および賄並びに所持晶の運送をも含むものとされている)
現行船員法で海員が法的に送還を請求できるのは,海員の責に帰すべからぎる理由によっ て,契約が消滅した場合に限られている。船員法47条には,数個の場合を列挙しているが,
む ゆ
これは限定列挙と解すべきであって,例示的列挙として理解することはできない。海員の送 還地が三千問題となるが,海員の雇入港かまたは海員の希望する港である。従って海員の 申出が正当である限り,船主はそこまで送還の義務がある。正当かどうかの判断は船主側 にある(船員法解釈例総覧153頁)。また送還請求権を主張できる海員は,日本人海員だけで はなく,外国人海員にも認められている條約3条では本国以外の国で雇入れられた外国人海員 が送還請求権を有すべき条件は国内にこれなきときは雇入契約中に定めるところによるとなしている)
註(1)1906.M. S。A§47.・/ギリスでは,如何なる帰還港へ送還するかに関して紛争が生じたと きは当該機関がこれを裁定することにしている。当該機関(Proper authority)にはイギリス 領事官,監督官,税関吏を指している(49条)。
災害補償請求権オーストラリア法の127条では,海員の災害について船舶所有者の負担 すべき医療費に関して定めている。すなわち(1)船舶に属する船長海員が(a)当該船舶での勤 務に際して負傷しまたは疾病にかかったとき,(b)疾病(自己の故意による行為怠慢または過 失によるものを除く,)にがかったときは,船舶所有者は必要な内科および外科の診療,医薬
の費用を支払わなければならない。また船舶所有者はこれらの費用を給料から控除するこ とを禁じている。(2)疾病にかかった船長海員は,伝染を防止するため,またはその他船舶 の便宜上,一時下船して後に職務に服帰する場合には,船舶所有者は移転の費用,必要な 診察,治療および医薬の費用ならびに下船中の生活費を同様の方式で支払わなければなら
ない。
註 海員が船舶内で勤務中,粗悪な食料の提供によって惹起された海員の疾病も含むとされている。
The Secretary of the Board of Trade v. Sundholm(1879)4ASP。 M。 LC。196;
こうした災害補償制度は,各国法にみられる現象であるが,わが国でも今日,船員法上の 災害補償と船員保険法上の船員保険とが相関連してこれを組織している。船舶所有者の負
り り り む り り り む
うこの災害補償の法的性質は,私法的な賠償請求権ではなく,社会法的性質をもつ公法的
り
補償として理解すべきであろう,ところで船舶所有者の負担する災害補償義務の内容を,
海員の権利とオFストラリア法 101
現行船員法の視野から若千素描してみよう。まず療養補償の面で,第1に職務上の補償義 務の問題を取り上げる。船員法89条1項によれば,船員が職務上の負傷または疾病にかか ったとき,船主はその負傷または疾病がなおるまで,自己の費用で療養を施し,または療 養に必要な費用を負担することを定めている。ここでいう職務とは「使用者の指揮監督の 下に労務を給付する状態一作業状態一」 (山戸嘉一教授,「船員法」234頁)である。従って職 務上の災害とは,雇入契約にもとつく作業過程において結果として生じてきた負傷または 疾病との間に,相当因果関係があることを意味する。判例もこの見解を支持している
(判例では,「職務と事故との聞に,原因結果の関係があるだけではなく,事故の原因を職務に帰せし めて,他に帰ぜしめないことが社会観念上妥当であると判定される場合,すなわち,かかる職務に従事
しなければ,かかる結果を生じたものと判定することが,われわれの社会常識上公平であり,また当然 であると考えられる場合であるかどうか,いわゆる原因と結果との間に相当因果関係があるかどうかに よって判断するほかない。」と指摘する。東京高判・昭32.12。25)。このような理由から,相当因果 関係とはみられない偶発的な第三者の行為,自然現象等の不可抗力は除外されることにな ろう。つぎに職務外の補償義務であるが,船員が雇入契約存続中職務外で負傷し,または 疾病にかかったときは,船主は3ケ月の範囲内で同様の施療を施し,または療養に必要な費 用を負担しなければならないとされている(89条五)。職務上の場合と異り,費用負担の期 間を限定していること,その原因について船員の故意過失を問題としていることを注意す べきである(オーストラリア法127条(B)参照)。災害によって傷病をうけた船員が死亡した
るときは,当然民法の規定による遺産相続人が権利者となる。ところで船員が退職したる ときは,この権利はどうなるか。労働基準法には,補償をうける権利は,労働者が退職す るによって変更されない旨の規定があるが(83条1項),船員法にはこれに相当する条文を みない。しかし一旦発生した災害補償請求権は,たとい雇入契約が終了しても失われるも のではないと解釈すべきであろう。またこの請求権は譲渡,差押を禁じられている(船員法 115条・労働基準法83条2項)。
註 (1)職務上か否かなどの判断は相当具体性を要する。船舶の物的設備の不完全(たとえば暖冷房 設備の不完全)あるいは労務管理方法の欠陥(船内給食による中毒)に基因する災害は職務上 の災害となろう。また船舶の海難救助作業にもとつく災害も同様であろう。
救助料金分配請求権 海員が救助に従事した場合には,救助料(salvage)の分配請求権 を有する。救助料とは,海難救助の効果として救助者に給付する報酬である。この権利は,
雇入契約にもとづいて発生するものではなく,海員が被救助者に対して直接取得した権利 にもとつくものである(同説田中誠二墨壷:「海商法提要」553頁。反対加藤正治博士「研究」2巻544頁)
。ところで,わが国の海商法によれば,被救助者は海難救助に従事した船舶が汽船である ときは救助料の三分の二を,また帆船であるときはその二分の一を船舶所有者に支払い,
その残額は折半して,これを船長および海員に支払うべきものとしている(805条)。現行 商法は,分配率を機械的数字をもって定めているが,国によっては裁判官に各事態を考慮:
して分配率の決定を委ねているところもある (イギリス・ア刈ヵ)。 このように汽船と帆 船によって分配率を異にしているのは,立法論として疑問であり,条約はかかる区別を認 めない。各海員に対する救助料の分配は,船長がこれを決めると同時に船長はこの場合に 裁判所がなす救助料の算定方法と同一の方法によって,これをなすことを要するものとし ている(80條)。船長は航海が終了するまでに分配案を作成し,これを海員に告示するこ
とにしている。海員がもし,この分配案に対して異議の申立をなそうとするときは,.その 告示があった後に最初の管海官庁にこれをなさなければならないとされている(807条)。
ところでオーストラリア法では,海員の救助料請求権について興味のある規定をおいて いる。それによれば「あらかじめなされた救助料請求権の譲渡または売買は,海員および 見習生を拘束しないものとする。また救助料の受領についての代理権はこれを取消すこと ができる」 (Sublect to the provisions of this act an assingnment or sale of sa−
lvage payable to a seaman Dr apprentice重。 the sεa service made prior to the acc一 動uing t齢erof shall not bind the person making the same;and a power of attor・
ney for the receipt of any such salvage shall hot be irrevocable)ものとする。
イギリス法(M.S.A.§212),カナダ法(237条)も,これとまったく同様の規定をおいてい る。・これは経済的に弱い海員を保護する趣旨で,わが国の船員法なり,商法にはこのよう な条項はみかけない。たゴ商法の805条に関接的表現をみるにすぎない。
海 員 の 規 律
オーストラリアの海員法でも,第12節99条以下に海員に関する規律を定めている。その99 条では,船長,海員,見習生は故意による義務違反, 義務不履行またはめいていにより
(1)船舶または積荷の滅失,損壊もしくは重大な損害をひき起す点れのある行為,(2)船舶に 属する者または船内にある者の,生命身体に直接の危険を及ぼす虞れのある行為,(3)ある いは(1)と(2)の行為を避けるために,必要にして十分な適法行為を怠ったとき,刑事上の罪 があるものとされている(lf a master, seaman, or apPrentice belonging to a brit・
ish ship, by wilful breach of duty or by neglect of duty or by reason of drun・
kenness,(a)does any act tending to the immediate loss, destruction, or serious damage of the ship, br tending immediately to endanger the life or limやof a person belonging to or on board the ship;br(b)refuses or omits to do any la・
wful act proper and reauisite to be done by him for preserving the ship from immediate loss, destruction, or serious damage, or for preserving any person be1・
onging to or on board the ship from immediate danger to life or limb, he shall in respect of each offece be guilty of a misderneanor。1894。 M.S.A.§220)。カナ ダ法250条,イギリス法220条にも同一の条文をおいていることは注目すべきである。わが 現行船員法には,これと直接同じような規定はみかけないが, ドイツ船員法の僧4条には
これと酷似した条項を設けている。それによると,上長の命令に故意に服せず,それによ
海員の権利とオーストラリア法
103
り人命,船舶または積荷に危険を及ぼした海員は禁鋼に処する。過失により危険をひき起 した者は3ケ月以下の禁鋼または罰金に処するとしている。これらの条項は,船員の船舶 所有者に対する義務違反という点を重視して,制裁をかするのではなく,船舶共同体の安 全つまり船舶堪航性の保障による船舶共同体の安全確保をめざすものに外ならない。
(1)
註 (1)Deacon v. Evans(1911)IK B.571.海員の義務違反によって船舶に重大な損害を及ぼ す誉れのある行為の場合に,その行為により惹起された現実の損害を立証する必要はない。
R.v. Gardner(1859)IF.§F.669.
つぎにオーストラリア法では,第1欄に規律違反の行為を掲げ,第2欄に刑罰を定めてい る。以下これを掲げてみよう。
第
1 欄 (罪) 第2
欄 (刑罰)(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
脱 船
正当な理由なくして船舶に乗組み又は航海 に出ることを怠りあるいは拒否すること 正当な理由なくして許可を受けずに行った 職務放棄(脱船に該当するときを除く)
航海中の反抗又は航海中の適法な命令に対 する故意による不服従(前項の場合を除く)
適法な命令に対する故意の継続的不服従:叉 は職:務放棄
適法な理由なくして行った船長又は職員に 対する暴行
他の乗組員と共謀して行っだ航海中の適法 な命令に対する不服従・航海中の職務放棄
,船舶の航行もしくは航海継続の妨害 故意に行った船舶の損壊,船舶の積荷,貯 藏品又は貯藏品(装備品)の盗用あるいは 故意の損壊
密航者または脱船者の隠匿
受くべき賃銀中40ポンドをこえない金額の没 収又は40ポンドの罰金
10ポンドの罰金(M.S。 A§221。46 USC
701)
2日分の賃銀に放棄期間24時間毎に2臼分の 賃銀を加えた金額の没収叉は20ポンドの罰金
1月の禁銅ヌ.は10日分の賃銀の没収(M。S.A
§225)
不服従または放棄の継続24時間毎に2日分の 賃銀の没収(M.S。A.§225)
3月の禁三又は20ポンドの罰金(M.S.A.§22
5)
6月の禁鋼(M.S.A.§225)
12月の禁鋼又は生じた損害に相当する金額の 罰金
2日分の賃銀の没収(M.S.A.§236,§237)