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中華民国の海事法

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中華民国の海事法

志 津 田 氏 治

 海上の活動は船舶を媒介として展開される。船舶ならびに運航に関する事項を「海事」

と称するが、この海事は法規制の立場から、海上危険の特殊性、国際的統一性、慣習的起 源性、高度の技術性などの傾向をもつものである。この海事に関する法の体係を海事法と いうが、なかでも、その一部門を占ある海商法は、海上における企業取引活動つまり海上 運送営業を中心課題とするものである。ところで、このような海商法は、一方において営 利の目的をもって船舶を航海の用に供する企業、つまり海上企業に関する法として民法と 異なった特色を有すると同時に、他方では海上運送契約に関する法として、商法の他の部 門の法に対しても、独自の地位を有するものである。

 ところで本稿で考察の対象とする中華民国海商法は、通則、船舶、海員、運送契約、船 舶衝突、救助、共同海損および海上保険の八章に分たれている。全体的にみてわが国商法 第五編「海商」の体系に類似する。しかしその規定の内容を分析検討するとき、そこには 非常に広範囲にわたって、わが国商法との相違点をみいだすのである。すなわち中華民国 海商法の船主責任制限、船舶先取特権および海難i救助に関する規定は、統一条約の国際的 な成果を参酌したものであって、最もめを惹くところである。そのほかに総則・海員・海 難救助等の規定のなかにも、公法的規定を多分に含めていることも、わが国の海商法と異 り著しい特異性をもつものといえよう。以下わが国海商法との比較で、中華民国海商法の 全貌を捉えてみよう。

 (1) 船舶法 航海企業は船舶という用具を手段として行われる。従って、船舶は航海 企業における絶対的不可欠の重要性をもつものであり、かつ技術的に諸々の特異性を有す るものである。されば船舶の意義および地位は、海商法の中心点であって、航海企業の法 的基礎をなすものということができる。

 では中華民国海商法では、船舶をどのように定義づけをしているだろうか。まず第一条

で「本法において船舶と称する.は海上及び海と相通じて海船の行験に供し得べき水上を航

行する船舶をいう」ものと概念規定する(本法称船舶者謂海上航行及温海相通三好海船行

駿之水上航行之船舶)。いまこれを分説すると、第一に海商法上の船舶は、海上を航行す

る船舶のほかに、海船が航行できる海と相通ずる水上を航行できる船舶を包含している点

に著しい特色がみうけられる。かくて海船の範囲は頗る拡大されているが、しかしそうか

といって海船と内水船との区別が全然否認されたわけではない。すなわち海と相通じない

水上もしくは海と相通ずるも海船の航行に供することのできない水上を航行する船舶は、

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海商法上の船舶ではなく、やはり内水船にとどまるのである。つぎに中華民国の海商法上 の船舶は、右のような水上を航行する船舶である限り、その航行目的の如何を問わない点 に注目すべきである。従って運送船、漁猟船のような営利のための船舶だけではなく、

探険船,快遊船のような非営利船舶をも含めることになるのである。この見地よりみると 中華民国の海商法は、むしろ海商法として表現されるべきではなく、「海法」もしくは「

海上航行法」としての名称を適切とするものではなかろうか。第三に中華民国海商法上の 船舶た関する規定は、商法の適用をうけるべき範囲を示したまでのことであって、船舶が 何であるかは一州の社会観念にもとづき解親されるべきものとしている。従って通常の観 念において船舶とは、層物の浮乏性を利用して水上を航行するの用に供するものということ ができよう(但し製造中の船舶は、未だ船舶ではないが、海商法の適用をみることがあ

る。中華民国海商法35条参照)。

 いま、すこしく日本商法との関連で比較法的にこれを考察してみよう。一まずわが国の商 法によれば、湖川港湾を航行する船舶を内水船とし、湖川港湾における運送を陸上運送と なしている(569条)。これはフランス商法(内水航行法は陸上運送の一部とされ、海商 法より区別されている。IO7条・190条参照)あるいはドイツ商法の立場を踏襲したもので

あろう。とりわけドイヅ商法では海船のみを規整対象とし、内水船に関しては別個に内水 航行法(Binnenschiffahrtsqezetz)が存在する。ところで海と内水との区別に関しては 平水航路の区域によらて定まるとなすのが通説であるが、この通説に対して「平水区域と

して法律の定める範囲内において海難救助もしくは共同海損が疑もなく成立しうるごと く、商法上の海は平水区域の線内深く存しうるのであって」要するに海と内水との限界は 社会見解によって決定すべきであるとの有力な考え方もある。要するに、それはともあれ 中華民国海商法が、海商法の適用をうけるべき船舶の範囲を拡張し、内水船と航行船との 法律関係の紛糾の解決に努力していることは特筆に値いしよう。参考までにオランダ(商 748条以下)、イギリス(商船法742条)にありては、原則として法的に内水船を航行船と 同列に置いており、また船舶衝突統一条約および救援救助統一条約は、航海船間のみなら ず航海船・内水船間にも適用がある旨を明示している(各条約一条参照)。近時わが国の 海商法学説としても、この場合海商法を適用すべきであるとする立場もあることは注目し

だい。『

 づぎにわが国の商法によると、上述のように海商法上の船舶は、商行為をなす目的をも って航行する船舶つまり商船でなければならない。従って漁船・スポーツ船・練習船・学 術研究または探険用船舶などはここにいう船舶に該当しない。そこで、わが国の場合は、

船舶法36条により、海商法を一般私船(官庁または公署の所有に属しない船舶で、商行為

をなす目的を有しない船舶)に準用する旨を定めている。このためわが国の海商法は、一

般私海法にその適用範囲を拡張するに至った訳であって竃ここに伝統的な商行為中心主義

が大きな破徒を示し、実質上商行為の概念は無用となっているのである。これに対して中

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華民国の海商法では、最初から船舶の航行目的の如何を問わず、営利船・非営利船の区別 を撤廃しているのは大いに趣きを異にする。しかし実質的には両国の法典は同じ結論に到 達するが、立法主義としては中華民国海商法の方が一層すぐれているものといえよう。こ のことに関連して、ソ聯海法(1条)をはじめ、船舶衝突統一条約(11条)、救援救助統 一条約(14条)、船主責任制限条約(13条)、船舶先取特権条約(15条)も、軍艦および 公用船以外の一切の船舶を、その規整対象としている。またわが国の商法改正要綱219条

においても、航海の用に供する船舶は、公用にかかるものを除き、商行為をなす目的を有 しないものといえども海商法上の船舶とみなすべき趨勢にあることを認識すべきであろ

う。

 中華民国海商法2条によると、左の船舶には船舶衝突を除くほかに本法の規定を適用し ないものとしている。すなわち1号で総屯数20屯未満または積量200担未満の船舶(総:屯 数不及20笹野容量不及200担之船舶)、2号で専ら公務に使用する船舶(専用於公務之船 舶)、3号で櫓濯をもって主たる運転方法となす船舶(以醗酵為主要運転方法之船舶)を あげている。この規定はわが国商法の684条2項に相当するものである。まず1号の規定 を置いたのは、けだしこれらの船舶は、きわめて小規模で、航海の目的に適せず、積載量 も吟歩であって、海商法の複雑な規定を適用することはかえって不便であり、船舶所有者 にとっても苛酷だからである。

 つぎに2号の規定を置いたのは、公用船を私法の適用外に置くことが、その公の目的を 達成するのに必要と認めたためである。ところでこの2号で注意を要するのは、公務に使 用する船舶とあるために、あくまでも用途の点に重要性があり、所有の点は別段重要視さ れていないことである。従って御用船のように所有は私人に属していても、国家が賃借し てこれを公用に供する船舶は、本条により本法の適用外に置かれるのに対して、たとい所 有は官庁または公署に属するものであっても、たとえば営利の用に供する船舶のように公 務に使用しないものは、完全に海商法の適用をうけることとなる。この点で指摘しなけれ ばならないことは、船舶法35条で官庁または公署の所有に属する船舶としてわが国では表 現されておるも、法解釈論的には、中華民国海商法の場合と同じく用途に重点が置かれ

「所有が官署公署に属するや否やではなく、それが公用に供せられるや否やを標準として 海商法の準用の有無を決すべきものとしている」ことであろう。

 中華民国海商法4条によると船舶に具備すべき書類について規定している。すなわち

「国籍証書」、「通行証書」、「海員名簿」、「旅客名簿」、「属具目録」、「航海記事

簿」の六書類のものを要求している。ところがさらにおなじく海商法の45条では、船長に

対する公法上の義務として、船舶書類と積荷に関する書類とを掲げている。これに対して

わが国では、海商法709条にて船長は属具目録および運送契約に関する書類を船中に備え

置くことを要求しており、また船員法の18条では、船長に対して5項目の書類つまり(1)船

舶国籍証書または命令の定める証書、(2)海員名簿、(3)航海日誌、(4)旅客名簿、(5)積荷に関

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する書類を船内に保持することを命じている。いま両国法を考察する限り結論的には大差 はないが、とかく立法形式の面では海商法より特別法としての船員法へ移行するのが望ま しいのではなかろうか。しかして中華民国海商法でめをひくのは、その第S条で船舶の登 記と国籍証書の領有とを航行の条件として明示していることであろう(船舶非経登記領有 国籍証書不得航行但法令別丁規定者不在此限)。この規定は、まさしくわが国船舶法の 第6条と軌を一つにするものである。たゴ異るのは登記の文字を挿入していないこと.にあ る。この登記制度については、わが国のいわゆる登記登録の二元主義を採用しないで、航 政官署における登記だけをもって、私法上ならびに公法上の機能を営ましめ、登録手続を 省略し、手続上の煩雑を予防していることに注意すべきである。なお、この中華民国海商 法第5条の規定も、元来公法的な性質のものであるから特別法である海事行政法に移すこ

とを適当としよう。

 つぎに船舶の性質に関連して問題となるのは、中華民国海商法8条の規定つまり「船舶 には本法に特別の規定あるものを除くの外民法の動産に関する規定を適用する」と明示し ていることである(船舶除本法有特別規定外適用民法関於動産規産之規定)。ここに船舶の 動産性がうちだされている。もちろん中華民国の民法でも、土地およびその定著物を不動 産となし、それ以外のものを動産となしているために(中野66条i項67条)船舶がもとも

と動産である性質を具有するものであることは他言を要しないところである。しかし船舶 は、その価格が比較的に高価である点において、またそれを個別化できる点で不動産と同 じ位置づけをなすことを要する場合がすくなくない。したがって中華民国海商法も船舶の 譲渡には書面の作成を要求し(中墨10条、甲唄760条)、その移転には登記をもって対抗 要件となし(卸商ll条、中民758条)、またそのうえに抵当権の設定を認めている(中商 34条、町民860条)。しかしこの8条は、船舶の本質が動産であることを、これによって 否定しないで、本法に特別の規定がない場合には、民法の動産に関する規定が適用される

ものとなしたのである。従って、この場合には船舶にも動産に関する善意取得の規定(中 民801条)を適用することになるが、しかし公示方法として登記の認められる船舶につい て、通常の動産のように占有のみを標準として善意取得を許すことは適当であろうか。参 考までにわが国の学説ならびに判例(明36・12・1大判民・大4・10・8大阪地帯民)に よると、登記すべき船舶に対しては、動産における取引安全の保護を必要としないから、

民法192条の動産の善意取得の規定は適用がないと解されている。ところで、このように 船舶を動産視する思想は、ローマ法に由来するものであるが(ゲルマン法では船舶を不動 産視する傾向にある)、中華民国海商法以外の外国法つまりフランス商法190条などでも

これを明示している。馳しかしながら今日では、沿革上の注意的な意味を有するにすぎない ものとされている。

 いまわが国商法との関連で考察してみよう。わが国では船舶を動産と明示する規定を置

いていない。しかし船舶が本来動産であって、不動産でないことは明瞭である。それにも

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かかわらず船舶は不動産と同一の規定に従う場合がある。すなわち強制執行および競売に 関しては大体不動産と同一規定によって同様に取扱われる(民訴法717条・競売法39条)。

つぎに不動産と同一の制度が認められる場合がある。つまり総トン数20トン未満の船舶を 登記船とし、それ以上を登記船とする、いわゆる登記制度を認め(686条・687条)あるい『

は抵当権の設定を採用し(848条)、かつ賃借権を登記して、これを第三者に対抗できる 途を開いている(703条)。このようにわが国の商法では、登記船を法的に不動産取扱い としているが、やはりその本質は動産であるという見解にたっている点では、中国海商法 と異るものではない。

 船舶はまた、単なる物の集合ではなく、船体・汽罐・馬橋・甲板・客室・船槍などの各 部分が有機的に結合されてなりたつ、それ自体一個の独立した物すなわち合成物である。

そこで中華民国海商法9条によれば「給養品を除く外設備上および営業上必要なる一切の 成文および属具はすべて船舶の一部と看卜す」 (除給養品外凡於設備上馬営業上菅要之一 切成文甲唄坦々視為船舶之一部)としている。ここでいう設備上の成文とは、船体・帆橋

・汽罐・甲板のようなものを意味し、また営業上の成文とは、客室・船槍・その他内部の 諸設備を意味するものであろう。これらのものが船舶の一部であることは当然であって、

別段規定をなしても殆ど実益のないところである。これに対し属具の場合には多少異る意 味を有している。すなわち属具は、船舶の部分と違って、それ自体独立の物であり、特定 の目的をもって、航海をなすにつき船舶の常用に供されるものである(端舟・帆・碇錨・

海図・羅針盤i・救命袋)。ゆえに一時的消耗品である食料・燃料・石炭などは属具たるも

      り       り       り       り      

のではない。中華民国海商法9条の実益は、属具はすべて船舶の一部と看示すことにあろ う。しかし属具については中華民国国民法68条で、いわゆる従物と認めているのであるか ら、その限りでは中華民国海商法の第9条の規定は可成り疑問をもつものといえよう。い ま、これをわが国の商法と比較することにしてみよう。わが国ではこれに該当する規定を かいているが、しかしこれに関連する条項としては、「船舶の属具目録に記載したる物は 其従物と推定す」 (685条)る旨の規定がある。わが国でも元来、従物は主物の処分に従

うものであるから(民87条2項)、その範囲は明確であることを要する。しかし実際には 明確をかき争を生じ易いのでこの規定を設けたのである。立法論としては、わが国でも多 少の疑義はあるも、中華民国海商法9条の規定よりは一段と優るものといえよう。

 船舶所有権の譲渡は、わが国では特別の方式を要せず、当事者の合意のみによって成立

しうる。この点民法の意思主義(民176条)を採り、ゆえに売渡証書を作成する一般取引

慣行は法律上の要件ではない。けれども立法例としては、一定の書面による形式主義を採

用する国もある(フランス商法195条・イギリス商船法24条・ソ連海法42集)。中華民国海

商法10条の規定がこれであろう。すなわち「船舶の全部又は一部の譲渡は書面を作成し且

左の規定によるにあらざれば効力を生じない」 (船舶全部或一部之譲与非作成書面拉依列

之規定不生禽力)とし、1号で「中国にありては譲渡地又は船舶所在地の主管官署に申請し

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てその捺印証明を得ることを要する」 (在中国買置経譲与地下船舶所在地主管官署導管証 明)こと、2号で「外国にありては中国領事館に申請してその捺印証明を得ることを要す る」 (在外手応呈経中国領事館蓋印証明)と定めている。このように本条は、船舶の譲渡 行為を書面による要式行為となし、かつ官の証明をうくることを有効要件に加えている。

このように船舶譲渡行為に書面の作成を要求する立法趣旨は、当事者の船舶譲渡の意思を 確定し、かつ確実な証拠により譲渡に関する将来の紛争を防止しようとするところにあ

る。また書面の作成とかつ官の証明をうくることは船舶譲渡の効力要件であるから、この 手続を履行しない限り、その譲渡は当事三間において効力を生ずることがない。もちろ ん、船舶譲渡が有効に成立するためには、不動産のように登記をする必要はなく、後述の ように登記は、第三者に対する対抗要件にすぎないのである(ll条)6なお、この10条で 多少の疑問をもつのは、船舶の一部の譲渡の意味である。それは船舶の設備上の一部や個

々的な属具の譲渡を指すものではなく、船舶共有者の持分の譲渡を意味するものと解す べきであろう。

 つぎに船舶所有権の移転を第三者に対抗するための要件として、中華民国海商法11条は

「船舶所有権の移転は登記を経るにあらざれば第三者に対抗するすることえず」 (船舶所 有権之移転非業登記不得対抗第三人)と定めている。本条で対抗要件として要求される登 記は、船籍港における主管航政官署でなされなければならない(船舶登記法2条)。いま 本条をわが国商法との関連で考察する限り、そこには重大な差異があることを発見でき

る。すなわち中華民国海商法の場合には、船舶所有権移転の対抗要件として、単に登記だ けを要求するにとどまるが、わが国の商法ではまず所有権iの移転登記をなし、かつ船舶国 籍証書にこれを記載(書換という)しなければならない(687条・船舶法ll条)。わが国の 場合に、このような二重手続を要求しているのは、私法的意義をもつ登記のほかに、公法 的意義を有する登録制度を確立しているからに外ならない。

 また船舶の差押・仮差押の禁止条項については、中華民国海商法の6条に規定がある。

すなわち「船舶の差押および仮差押は船長が発航許可書を受取りたるときより航海完了の ときまでこれをなすことを得ず。但し航行を可能ならしめるために生じた債務について は、この限りではない」 (船舶之拍押仮拍押自船長執有発航許可書之時起以迄於航海完成 時止不二二三二三二航海可能所生旧債務不在此限)と定めている。わが国商法の689条も、

船舶の差押および仮差押について中華民国海商法と同様に禁止規定をおいている。すなわ ち発航準備完了の船舶に対しては、差押および仮差押ができない旨を明示している。いず れにせよ大陸法系の諸国つまりドイツ商法(482条)、フランス商法(215条)にならった ものである・が(イギリス・アメリカ法では否認されている)、その立法上の狙いは以下の

2点にあるとされる。第1の点は、今日のように発展した航海企業のもとでは、その船舶

に関する利害関係者は、実に複雑であり、既に発航準備完了の船舶を差押えるということ

は、船主・荷主・一般旅客などの利益に重大な影響をあたえるものであるから、船舶債権

者の権利行使を制限しようとしたものに外ならない。ここに航海企業のもつ国民経済的意

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義を発見することができよう。つぎに第二点としては、債権者の権利行使の解物つまり 発航の準備には多大の時間を要するものであり、その終了前に差押なり仮差押ができる ゆとりがあるにもかかわらず、それを怠った点にある。いますこしく中華民国海商法6条 の意味を分析してみよう。まず本条の適用される船舶の範囲であるが、海上航行船だけで はなく内水航行船にも適用され、また営利船のほかに遊覧船、学術研究船寺でも差支えな い。なお国籍の如何も問題とせず、中国船舶のみならず外国船舶にも適用があるものと解 されている。つぎに本条はどのような時期より差押を禁止するのかといえば、わが国商法 のように単に抽象的に発航の準備を終了したときとなすことなく、具体的に船長が発航許 可書をえたときとなしている。このように本条の規定が具体的な点を明示していること は、まさにフランス法に類似するものといえる。なお本条は、差押禁止の継続期間につい ては、航海完了のときと明冷しているたあに、中間港ないしは避難港にても差押は許され ない。このことは、わが国の場合も、差押禁止の継続期間については、発航準備終了の状 態が備つた限り、始発港発航後その航海の終了のときまで継続すると解釈している。その 点では両国法ともに同一の態度をとるものであるが、たゴその時期を示している点に異る

ものがある。

 海運政策の当面の目標は、自国海運業の維持増強にある。そこで、これを法制度的に基 礎づけたものが「船舶登録制度」に外ならない。およそ船舶が、一国に帰属する状態を

「船籍」または「船舶の国籍」と称しているが、各海商国は、船舶の登録という手続をと る乙とによって、自国船と外国船を識別することにし、自国の船舶に対して諸種の有利な 特権つまり、沿岸航行の独占権、各種の補助金の支給、関税の免除と軽減等をあたえでい る。わが国でも、あたかも国民分限が国籍法に定められているように、船舶についても

「船舶法」 (明32・法46)があって、これを規整している。

 中華民国でも日本の船舶法と同様に「船舶法」 (民国19年12月4日公布20年7月1日施 行)があって船舶に関する行政的規定の総則的規定を収容しており、5章に分れている。

第1章通則は、中華民国船舶の特権・船舶航行の条件・国旗掲揚の条件・船舶の標示・船 舶書類・船名等に関する定めをなし規定の実質は日本法に倣っている。

 しかし中華民国法では、船舶の国籍に関する規定を、海商法中(3条)においている が、日本法では、これを海商法の中にではなく、船舶法の第1条に、これを明示している。

また諸国法も、これを特別法中に規定している場合が甚だ多い(たとえばドイツは商船国 旗下中にこれを定めている)。船舶の国籍の問題は、海上町行法とりわけ海商法のうえでも 重要な意義を有するものであるが、しかしこの問題は、公法上・国際法上の関係において 頗る重要性をもつものであり、自国の国籍を有する船舶を国家の直接の保護と監督とのも とにおくことをこの法の目的とするものである。従って中華民国において、船舶の私法関 係を定める海商法以外に特別法として船舶法を定めている限りにおいては、日本法と同様

にこれを船舶法中に収めることが妥当ではないかと考える。そのほかにも中i華民国の海商

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法を概観してみると、海商法の四条(船舶内に備置の文書)、5条(国籍証書の携行)な ども、もっぱら公法的意義を有するもので船舶法中に移行することを適当としよう。この ように中華民国法は、まだまだ公法、私法の分化がはっきりせず、その意味において理論 的精緻を欠いているものといえよう。

 つぎに日本法と中華民国法との立法例を比較してみよう。中華民国海商法3条自体は、

日本船舶法1条の主義を踏襲している。すなわち、(1)中国官署の所有するもの(中国官署 所有者)・これは日本船舶法の1条1項1号に該当するものである。ただ日本船舶法が

「官庁又は公署の所有に属する船舶」となしているもので、その立法趣旨においては変り がない。従って同国の船舶登記法の7条乃至8条では「官署又は自治団体」という語句を 使用しているので解釈としても官署の中には公署も含むと理解せざるをえない。

 (2)中国人民の所有するもの(申国人民所有者)・これは日本船舶法1条2項の2号に 該当するものである。何人が中国人であるかは、国籍法(民国18年2日公布)の定めると ころによる。この条項は中国に国籍を有しない自然人は、中国船舶を所有することの資格 を有しないことを宣明したものである。而して多数者が、船舶を所有する場合には、船舶 所有者の全部が中国人民であることを要し、共有者の一人でも、中国人民でない者があれ ば中国船舶たることをえないのである(14条2項)

 (3)中国の法律によりて設立せられ、中国内に本店を有する左の会社(公司)の所有す るもの(二丁中国法律所設立在中国有本店之左列各公司所有者)・甲・合名会社は其社員 の全員が中国人なるもの(無限公司其股東全体為中国人者)。乙・合資会社又は株式合資 会社は其無限責任社員の全員が中国人なるもの(両合公司或股扮丁合公司其無限責任股東 全体為中国人者)、丙・株式会社は其取締役の3分の2以上が中国人にして憎憎資本の3 分の2以上が中国人の所有にかかるもの(股扮有限公司其董事3分2以上為中国人累増資 本3分2以上為中国人所有者)

 これは船舶を所有しうる会社の資格を定あているもので、合名会社と合資会社に関する 限りにおいて、わが国法と同一である。ただ株式会社は、わが国と異った態度をとってい る。すなわち、日本法で取締役の全員が、日本国民であることを要するにかかわらず、中 華民国法ではその3分の2以上をもって足りるとしていることである。また日本法では、

資本を分割した株式が日本国民に所有するか否かを問わないが、中華民国法ではその3分 の2以上が中国人の所有に専属することを要する点で異る。

 ところで日本法では、第四号として、会社以外の法人について日本に主たる事務所を有 すること、およびその代表者の全員が日本国民であることを掲げているが、中華民国法で はこのような規定は存在しない。立法上も疑点を残しているといえよう。しかし中華民国 法を通観して一応いえることは、全体において所有者主義を貫徹していて船員の国籍なり 製造地の如何を問題にしていないことであろう。

 (2) 船舶担保法 およそ、一国海運の創設、維持および発展には、船舶金融法制は常に

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不可敏的な重要性をもつものである。従ってその法規整的在り方の如何は、海運の基本的 動向を左右するものだけに、現今の主要海運諸国においては、船舳金融法制の充実強化を めざして積極消極の具体的方策を講じている。すなわち各国は自国の商法典に、冒険貸借 を(卸商311条一331条・独商679条一699条・伊商590条一603条)あるいはそれの、より発 展的形態である船舶先取特権を(型押191条一193条・独商754条)、さらにまた、船舶金 融中最も合理的と考えられる船舶抵当制度を(1874年のフランス船舶抵当法・1894年のイ ギリス商船法・1920年のアメリカ商船法・1940年のドイツ船舶物権i法)明記することによ

って、海上債権の確保による信用の輩固を図っている。しかしこれらの船舶担保法制も、

航海企業独自の危険的特異性にはゴまれて、企業金融は充分その目的を達成しえない。蓋 し船舶金融は、彪大な資本の固定化と、その資本回収の長期妙ならびに抵当物件である船舶 の価格は、海運市況の変動に随伴し、なお船価の評価にも高度の専門的知識を必要とする ほかに、一旦強制執行に際しての船舶の換価処分も容易ではない短所をもっている。さら に船舶は海難の被害が多く、また船舶抵当を阻碍する船舶先取特権の法的存在が、船舶金 融に残された大きな難点でもある。尤も最近では、海上先取特権抵当権統一条約による国 際条約の締結によって、各国ともに船舶担保法制の統一完成に努めているが、それぞれを 法系を異にし、かつ政治経済事情の根本的な差異は、諸種の複雑な問題を提供している。

ここではとりわけ中華民国海商法における船舶抵当制度を考察してみよう。

 まず中華民国海商法の34条によると「船舶抵当権の設定は書面をもってこれをなすこと を要する」 (船舶抵押権挙挙定応以書面為之)旨を明示している。ところで本条の適用対 象となる船舶は、総トン数20トン以上または容量200担以上の船舶(2条)である。わが 国の商法では「登記したる船舶は之を以て抵当権の目的と為すことを得」(848条)とし、

その登記船舶は、総トン数20トン以上となっているので(686条)、結論的には同一とな

るが、たゴわが国の場合は、登記できる船舶も、未だ登記がない以上抵当権の目的となす

ことができないのに対して、中華民国海商法ではこの点を明確にしていない。そこで未登

記の船舶も事情によっては抵当権の目的となりうる解釈上の余地を残している。なお中華

民国海商法の場合には、内水航行船をもその対象となるが(オランダ・ドイツ・ベルギな

ども認める)、わが国では河川港湾の航行が、海洋航行に比較して資金を要することの軽

少という経済的要求と、また一方海商法典が河川港湾のみを航行する内水航行船には適用

がないという法律的要求から、船舶抵当の設定を許していないことを注意すべきであろ

う。つぎに本条によれば、船舶抵当権の設定を要式行為つまり書面によることを命じてい

る。もちろん、ここでいう書面は公正証書であることを必要とせず、私署証書でも差支え

ない。かかる立法例はそのほかの諸国でもみかけるところである。すなわちオランダ商

法では、船舶抵当権は債務者・債権者・船舶・債権額・約定利率等を明瞭にする公的証

書を必要とし(318条11項)、イギリス・アメリカ等でも抵当権i設定証書(certificate

of mortgage)の作成を要求している。このように書面の作成を必要とする立法趣旨は、

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当事者をして抵当権設定の意思の確実性と、その内容の正確性を期せしめようとするもの である。ゆえに中華民国海商法のもとでは、書面を作成しない限り、たとえ船舶に抵当権i 設定の登記があっても、それは法的に無効といわざるをえない。これに対してわが商法の

もとでは、船舶抵当権の設定には、何等の形式を必要とせず、たゴ当事者の意思表示のみ をもって差支えないとするところに、中華民国海商法と著しい差異がある。畠

 また船舶抵当権の設定をなしうるものについて中華民国海商法の36条には明文がある。

すなわち「船舶抵当権の設定は法律に別段の規定がある場合を除くの外船舶所有者または 其の特別の委任をうけたる者のみこれをなすご・とを得」(船舶抵押権之設定除法裾綿有規 定平坪船舶所有人或受其特別委任之始得為之)と定めている。本条はフランスの船舶抵当 法3条の規定を踏襲したものであるといわれているが、わが国の商法では、これに相当す

る規定はみあたらない。もとより本条は当然のことを明文化したまでのことであって、そ の実益は殆どないといえよう。

 なお船舶抵当権の設定と第三者対抗要件に関連して、中華民国海商法37条に「船舶抵当 権の設定は登記をえるにあらざれば第三者に対抗することを得ず」と明示している。この 中華民国海商法では、わが国の商法の態度と軌を一つにするものであり、実に船舶抵当権 設定の登記に第三者対抗要件の効力を付与しているのである(登記に権利設定的効力をあ たえている国もある)。

 最:後に中華民国海商法によれば、製造中の船舶につき抵当権iの設定がある旨を規定す る。すなわち、その35条では「船舶抵当権は製造中の船舶につき設定することを得」 (船 舶抵押脚得就建造中之船舶設定之)と定ある。これが制度化された根拠は、船舶所有者お よび造船者に製造中の船舶を担保とする金融の便宜を考慮したものである。ゆえに各国

(ドイツ・イタリー・ポルトガル・ギリシャ・ベルギー)の立法例で認められているとこ ろであり、わが国でも製造中の船舶抵当を明文化している(815条)。しかしどこまでを製 造中の船舶とみるかに関して、学説では「建造工事未完成にて未だ船舶ならざるもの」と 解しているようである。最近では船舶抵当制度の本来の趣旨からして、ドイツのように一 定の枠を定める立法政策の必要があるのではないか考究の余地が残されているり

 (3) 海員法 中華民国海商法では、第三章海員として、船長および船員について規定す る。ここでいわゆる海員(日本法の船員を意味する)とは、特定の航海企業である船舶所 有者の使用人として、船舶に乗組み継続的に船内労務に服するものを指すのである。ここ では船長と船員との両面から考察することにしよう。

 ω 船長 船長には本来広狭二つの意義がある。すなわち広い意味で船長とは、特定船 舶の航海指揮者をいい、同時船長(自船船長)を包含する。これに対して狭い意味では、

船主の被用者である特定船舶の乗組員であって、その船舶を指揮し、かつ船主の代理入と

して法定の権限を有するものである。通常船長という場合は後者を指すことが多い。しか

して船長は、特定船舶の航海指揮者であること、その地位においていわゆる船舶権力が付

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与せられること、代理権の範囲が航海本位で定まることなどの諸点に大いに支配人く取締 役、または船舶管理入などと異るものがある。

 まず中華民国海商法の39条は「船長は船舶所有者がこれを雇い入れるものとする。船舶 所有者は、いかなる場合といえども船長を免職することができる。たゴし、船長は正当の 理由なくして免職されたときは、そのためにうけた損害の賠償を請求することができる」

 (船長由船舶所有人傭用之。船舶所有人得随時辞退船長但無正当理由而辞退時船長得請求 賠償因此所受之損害)旨を定め、船長は航海企業者である船舶所有者が、これを雇傭する

旨を明かにしている。従来船長と船舶所有者との法律関係については見解が分れ、雇傭と 委任との混合契約と解するもの、雇傭契約のみであるとするもの、もしくは契約に代理 権授与契約がこれに随伴するものという、さまざまの考え方があるが、理論的には雇傭契 約に代理権授与契約の付随した特殊契約であると解するのが妥当とされている。船長であ る資格であるが、船長は人命および財産の安全に重大なる関係を有するものであるから、

法的には船長たるためには一走の資格つまり海技免状を有するものであることを要するも のとされている(船員検定章程2条以下)。なお中華民国海商法のもとでは、オランダ・

ベルギーの立法例にみられるように、雇入契約書の作成を契約の有効要件とするものでは ない。他方中華民国海商法の39条2項では、船舶所有者は何時でも船長を解任することが できるものとしている。この規定の狙いは、およそ船長の権限が広汎にして、かつその適 任如何は船主にとって重大な利害関係を有するから、このような解任の自由を船舶所有者 に認めることにある。ζの点わが国の商法721条も同様のことを明示している。もちろん 国によっては、解任に原則として合理的な予告を要するものとし、船舶所有者が即時解任 の必要を証明するときに限り、裁判所による即時解任をなしうるものとするところもある

(イギリス商船法472条)。しかしそれによって被るであろう船長の不利益に対しては、

一定の救済策が講じられている。つまり正当の理由なくして船長を解慨したるときは、船 長は船舶所有者に対して解任によって生じた損害の賠償:を請求することができる。わが国 の場合もそうである(721条1項但書)。たゴわが国の場合と若干相違するところがあ る。すなわち「船舶共有者が船長である場合において、解任されたときは共有関係を脱退 しかつ其の持分の資金の返還を請求することができる」 (船舶共有人為船長賢答辞退時得 手出共有関係拉請求返還其応有部扮之資金)旨を中華民国海商法の17条に規定しているこ

とであろう。これに対して、わが国の場合は、商法721条の2項に規定を置く。しかし立 法上の趣旨はまったく同じである。

 つぎに中華民国海商法みもとで異色ある規定としては「船長は航海中にありては雇傭期

間が終了するも、船長はその職務を離れ、または中止してはならない」 (船長謎語海中縦

其身始期限己縮瞳不得自行解除雪中止其職務)ことを40条で明示している。本条はわが国

の商法にはみかけないところである。恐らくオランダ商法(385条)、・ドイツ商法(551

条)を模果したのであろうδ本条は船舶指揮の最高責任者である船長が、航海の途中で雇

傭期間が終了した場合に、直ちにその職務を解除または中止するときは、船舶の安全な航

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行に支障をもたらし、多数の船舶利害関係人の利益が害される停れがある。ゆえにそれを 防止するために設けられたのである。なお本条の違反に対しては56条で一定の罰則(6ケ 月以下の有期徒刑もしくは町役または500元以下の罰金)をかし、いわゆる公法的な取締 をおこなっている。本条はいうまでもなく、船舶所有者の個人的な経済的利益保護だけを

目的とするものではなく、多数の利害関係人の人命財貨の安全と利益維持を意図したもの に外ならない。たゴ本条で多少疑問となるのは、船長の雇傭期間が終了した場合に、船長 は何時まで職務を継続すべきであるか明示されていないことであろう。将来の立法論とし ては、この点を明らかにすべきであろう。

 つぎに船長の職務規定に関する注目すべき条項として「船長は職務執行中の過失に対し

て責任を負うことを要する。過失のないことを主張する場合には証明の責を負うことを要

する」 (船長下野執行職務中之過失応手責任如主張無過失即応負軍明之責)旨を明確にし

ている。本条は、船長が職務執行中の過失に対して損害賠償責任を負うこと、しかもその無

過失の立証責任を船長が負担することを定めておる。本条とやや規定の形式を異にする

が、これに相当するものとして、わが国では705条の規定がある。すなわちそこでは、船

長はその職務を行うにあたり注意を怠らなかったことを証明するのでなければ、船舶所有

者、傭船者、荷送人その他の利害関係人に対して、損害賠償の責を解るることができない

ことを定めている。ところで中華民国海商法、わが国の商法でいう「職務」とは一体何を

意味するものであろうか。条文に別段の制限はなく、一般航行法上の職務(船員法・船舶

安全法など)はもとより、私法上の職務(契約履行・代理行為の処理)を含み、法律行為

なると事実行為なることを問わない。またこれに関連して、わが国商法でいう「注意」と

は通常の船長としてなすべき相当の注意であって、いわゆる善良なる管理者の注意に該当

する。しかして、この「相当な注意」をなしたか否かの立証責任は船長にあるものとされ

ている。中華民国海商法でも、この点を明らかにしており、過失(軽過失も含む)なきこ

との立証責任を船長に負わせている。蓋し航海中における船長の職務執行について、その

過失の有無を立証することは、損害賠償請求権者にとって、非常に困難を伴うものである

からである。しかして中華民国海商法で最も重要な問題を提起している.のは、,いわゆる船

長の責任が船舶所有者に対するだけのものであるか、それともその契約関係の外におかれ

る積荷関係人・旅客・船員など一切の利害関係人に対してまでも認められるものであるか

の点である。こ,れに対しては二つの対照的な立法例がある。一つは、わが国商法のように

船舶所有者域外の第三者に対して責仕を負わしめる型と(独商512条)、他はフランス商

法のように船舶所有者以外の第三者に対して責任をかすることなく、たゴ第三者には民法

上の不法行為責任を解釈論的に肯定する型とがある(フランス商法221条)。ではいずれ

の立法例が適当であろうか。おもうに今日の船長は、船舶所有者の単なる契約上の履行補

助者であり、しかも通信機関の発達に従い船長の権限は著しく縮小化される傾向にあるこ

とから、現在船長に第三者に対する損害賠償責任を認めることは苛酷であり、非難されな

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ければならない。そのことからしても後者のフランス型を妥当と考えるべきではなかろう.

か(ソ連海法69条、ベルギー商法58条)。中華民国海商法は、フランス型と同じく第三者 に対する賠償責任を排除したものと解釈するならば、わが国の商法よりも、はるかに勝る ものといえよう。

 つぎに中華民国海商法では、船長の職務権限の当然の表明であるが、その42条で「船舶 の指揮については船長のみがその責に任じるものとする。船長は事変または不可抗力の場 合を除き予定の航路を変更してはならない」 (船舶之指揮僅由船長其責任。船長非因事変 或不可抗力不得変更船舶之卜定航程)ことを定あている。このように船長が船舶の最高指 揮者である旨を商法典に明示するものとしては、オランダ(341条)、パナマ(1021条)

などがある。そのほかにイタリーは航海法(295条)のなかで、またオーストラリアは航 海および海運に関する法律(6条)のところで定めている。これに対して、わが国の場合 には船員法の7条で、このことを具体化している。すなわち「船長は海員を指揮監督し、

且つ、船内にある者に対して自己の職務を行なうのに必要な命令をすることができる」も のとする(ドイツ船員法2条)。ここでいう「命令」とは、船長の職務を行なうに必要な 公法的なものに限られ、私法的経済的な必要からは、ご命令権を行使することができない

ものと解されている。また本条の2項では、航海成就の義務を船長にかしていることを指 摘しなければならない。つまり中華民国海商法のもとでは、上述のように予定の航路の変 更すなわち離路(deviation)は、事変もしくは不可抗力によるのでなければ、これをな

しえないものとしている。ここでいう予定の航路とは、航海にあたって当然予定された航 路であって、特約があればそれに従うが、特約のない場合には、航海技術上一定した最近 かつ最安全な航路を称するのである。ゆえに不当なる下路は1船舶共同体の危険を増加 し、直接に人命財貨の安全に害をあたえるだけではなく、海上保険契約(中商145条)海 上運送にも著しい影響をもたしている。なお船長が濫りに下路をなすときには船舶法上罰 金的な制裁があるとも付記したい(39条2号・日本船員法126条2号)。

 さらに中華民国海商法の43条によると「船長は航海中において船上の治安を維持するた めに緊急の処分をなすことができる」 (船長航海中為維持船上治安得為緊急処分)ことを 明示している。上述のように船長は、航海に関する最高の指揮者として、また最大の責任 者として必然的に船内の統一をはかる統制権限を有する。そこで法的には船長に船内にあ る者を職権行使に服従させ、船内の紀律を維持するに必要な船舶権力が付与されている。

これがいわゆる中華民国海商法でいう船長の緊急処分権である。では治安維持の緊急処分 とは一体どの範囲までを指すものであろうか。恐らく海員ならびに旅客その他船内にある 者の生命・身体・船舶に危害を及ぼすような行為を防止するための必要な処置か、それと

も危険物の保管・放棄その他の処置を意味するものであろう(日本船員法25条・26条・27

条)。しかして本条で最も大きな問題となるものは、この船長の緊急処分権のなかに、船

長の海員に対する懲戒権が含まれているか否かである。条文上必ずしも明瞭ではないが、

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積極的に解釈されるべきであろう(臼本船員法22条、23条)。

 回 船員 船員とは船長を除いた一切の乗組員で、労働の対償として給料その他の報酬 を支払われる者である。船員は船舶所有者と雇傭関係にて結ばれる点は、船長と同じであ るが、しかし船長のごとく広範囲の権限をもつことなく、また船舶所有者の代理人でも ない。ゆえに船舶所有者との関係は、中華民国海商法に別段の規定がない限り、民法の雇 傭契約に関する規定の適用をうけるのである(中民482条以下)。ここでは中華民国海商 法中に位置づけされている船員について若干素描してみよう。

 まず中華民国海商法の57条によると「船員はその職務に関しぐその上級船員および船長 の命令に服従することを要する。船員は許可をえるにあらざわば離船することができな い」(船員関於其職務応服従其上級船員及船長之命令船員非経許可不得離船)旨を定めてい る。本条は、生活共同体としての船舶内の秩序を維持し、安全をはかるための海員の服従 義務について規定する。わが国の船員法21条にも、これとほゴ同趣旨のことを定めている が、いま両者を比較考察してみるにわが国の場合がより具体的であるということができ る。つぎに中華民国海商法では、船員は許可なくして船舶を離れることを禁止する。ここ でいう許可には、船長の許可であることを要するか、それとも上級船員の許可で差支えな いか多少の疑問があるが、前者の意味に解釈されるべきであろう。わが国の船員法21条の 4号は「船長の許可なく船舶を去らないこと」を明瞭に示すと同時に、さらに128条の1 号で「船舶に急迫した危険のある場合において、船長の許可なく舶舶を去ったとき」一年 以下の懲役に処するものとしている。ここで注意を要するのは、かかる不許可離船つまり 脱船に対して、中華民国海商法は何等の罰則的な制裁条項をおいていないことであろう。

立法論として、わが国船員法のような立場を支持するか、それとも中華民国海商法の方向

へ進むかは、今後大いに考究されなければならない点である。

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