論 文
銀蒸着薄膜電気抵抗の蒸着直後における経時変化 岸本俊祐* 富田信昭** 藤田志郎***国辱 浩***
(昭和46年9月27日受理)
Irreversible Change of Electric Resistance in Evaporated Thin Ag Filmes
Shunsuke KisHiMoTo. Nobuaki ToMiTA
) 一 T T 一一一 一 v−T−i一一一)
Shiro FuJiTA and Hiroshi KuNisuE
(Received September 27,1971)
The decay of electric resistance in Ag films deposited at room temperature is measured as a function of time t. The resistance decreases with time t after the deposition and several hours later it approaches a constant value.
The value of the resistance as t approaches infinity Rco is estimated from the relations between the decay rate dR/dt and time t.
The estimated value Rco agrees with the constant value obtained from the measurement.
1 緒 言
真空蒸着法によって作られた金属薄膜の電気抵抗が,経
時変化を示すことは古くから知られている。1・2・3)蒸着膜は基板が必要である点でバルクとは本質的に異なっており,
蒸着原子の基板面上での移動とか,膜内部の格子不整の崩 壊等を電気抵抗の経時変化として観測していると考えられ ている。経時変化の中でも蒸着直後のそれは特に著しく,
全変化量の数10%にも及ぶ。その変化の割合はn次の化学 反応式で良く近似されることが報告されている。4・5)この反 応次数について,変化が安定した時の膜の残留抵抗(R。。)
を膜と同じサイズのバルクの抵抗値としたKinbaraは反応
次数n =・ 6を報告している。4)又藤田等は,数時間後抵抗変化が安定した時の実測値をR。。として,反応の初期でn
=3,20〜30秒以後でn=2を得ている。5)しかし藤田 等のデータにおいても,R。。としてバルクの抵抗値を用い た場合はn≒7となることが報告されており,Kinbaraの 結果とほぼ一致している。
一方格子不整の崩壊に関するVandのDiffusion Theory
ではn=1に,2)SuhrmannのRecombination Theoryで はn=2に,相当する。1)又Overhauserは不整のまわり の歪の存在を考慮した式を報告しているが,6)その式を化 学反応式と同じ形に書きなおせば,反応次数が格子不整を 含む関数となる。7)しかし,これらの理論で実験結果を評 価するためには,まずデータ整理上重要なパラメータであ る膜の残留抵抗R。。,換言すれば,抵抗変化が測定されて いる時,その変化に関与している抵抗量(Rd=R−R。。)が いくらであるかを,実験的に明らかにすることが重要であ ると思われる。この観点からR。。について若干の考察を行
なったので報告する。* 本校機械工学科(応用物理)
淋 本校電気工学科 鰐*川崎医科大学
2 実 験
試料,測定装置,測定方法等は藤田等によって既に報告 されているので,8)ここでは簡単にふれておく。
試料金属は銀(純度99・999%)を使用した。基板には 顕微鏡用スライドグラスを用い,L陰イオン系洗剤による 布磨き,2.純水,アルコール菅超音波洗浄,3.アルコール 蒸気中からの引上げの順序で洗浄した。
蒸着膜のサイズは10x20 mm2とし,1枚の基板に2回
蒸着できるよう工夫した(Fig・1)。*イソプロピール・アルコール
Table 1 Data summary
123456789012345 1111凸11凸
Film thickness A 055000500050055867788777777888111111111111111
Deposition Rate
A/s 928582830344373121233342112421
つegree of Vacuum
×10−s
Torr
391282882808023111111111111111
R.
Calculated
Ohm
673511815450221534353434544436
R. Ovserved
Ohm
Order of
Reaction
807929019989109232232332222332
to
sec
0005000500050 047423324784241 1凸
−凸dc
A
555555000505505103344444444423111111111111111
d己
・A 005000500000005665677666666756111111111111111
しeod
Ag evaporqted etectrode
9
しeコ
幽 一 國 一 口 冒 一即
曹 躰 一 . ,鴨一幽9冒,t幽f■,
@ 9r
Glαss sub5曾rq拍
Cu electrod
しeqd
Fig.1 Schematic diagram of electrodes on a glass substrate.
測定回路には定電流回路を加え,測定電流は50μAとし た。蒸着直前の到達真空度は1〜2×10−5 Torrであった。
膜厚175±10A,蒸着速度1・3〜4・3A/sの測庫例のい くつかをTable 1に示す。
3 解析の方法・結果
測定初期における抵抗の経時変化が,n次の化学反応式
で近似できると仮定する。nは定数とする((1)式)。4・5)dR/dt=一A (R−R..)n (1)
ここでRは膜の抵抗,Aは定数, R。。は反応が終了し,変 化が安定となった時の膜の残留抵抗とする。
今n≒1とするとα,A・, t。をn, A, R。。を含む新し
い定数として,(1)式は
dR/dt=一A (t十to)a . (2)
と書きなおせる。この式にはR。。がexplicitに現われてい ないので,R。。を直接用いることなくデーータを当てはめる
ことができる(Fig.2)。
経時変化が(1)式で近似できるとすれば,この図におい てt+t。とdR/dtとは直線関係になるはずである。実際t・
を適当にとり(この場合は約4秒),tをずらすと直線関 係が得られて,その勾配αから反応次数nが求まる。この
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SampTe no.12
聯、
, 1.8XICfSTorr
e to=Osec oも=4sec
1 IO 100
Time Csec)
Fig.2 The relation between log (t十t.) and log [dR/d I t.
一 158 一
銀蒸着薄膜電気抵抗の蒸着直後における経時変化 岸本・富田・藤田・国末
nとA・及びt・からR。。も決まり,このサンプルでは,
n≒2.9,R。。≒40Ωとなった。
一方実際の抵抗変化は,蒸着後数分で非常にゆるやかに なり,数時間後には一定となった。上で用いられた同じサ ンプルについて,この変化が認められなくなった時の膜の 実測抵抗は約38Ωで,この値をR。。として(1)式からn を求めると2.9となり(Fig.3),両者はよく一致した。
しかしこれらのR。。の値は,膜と同じサイズのバルクの抵 抗値(約2Ω)にくらべて1桁大きい。
id
♂
轍も\¢コ
ltii
SarnpEe no.12
杢職
i,8xlOSTorr
R葡=380hm
1.1 L5 2.0 2,5
Log (R Rco)
Fig.3 The reiation between log (R−R..) and logldR/dtli
他の例についても(2)式から間接的に得られたR。。と,
数時間経過後の実測抵抗とは±25%の範囲内で一致する結 果が得られた(Table 1,5,6列)。
さらにR。。とnとの関係を調べてみた。ある時刻tにお けるRd←R・一R。。)がその1/2になる時刻をt+Ttとす ると,TtとRdの関係は(1)式から
合は直線関係とはいえないが,直線関係としてnを求める と約6となった(Fig.4)。
105
Iog 7t=(1−n)10g(Rt−R。。)十const
5
3 2
20 5
︵83直
5 2
IOt
R麟留380h脇
{ n ti. 2.9)
R,,s2 Qhm (ng6)
(3)
N b︐
戦 N
となる。経時変化が(1)式で近似できるとすると,TtとRd は両対数グラフ上で(1−n)を勾配として直線関係となる はずである。R。。をパラメータにして同じサンプルについ てデータを当てはめてみると,R。。として上記の方法で得 られた値(38Ω)をとった場合は直線関係が得られ,n≒
2・9となった。一方R。。としてバルクの抵抗値を用いた場
1 2 3 5 10 2
Rf−R. (×200hm)
Fig.4 The relation between log (R−R..) and lod Tt.
(2)式に導入されたt。については,この式にデータを当 てはめた場合,Fig2上でdR/dtとt+t・が直線関係とな るよう決められた。各サンプルについて,このt。と膜が固 有膜厚(d・)9)になってから,実験的に設定された最終膜厚
(今回は175±10A)になり蒸着を止めるまでの時間間隔
(t・)の間には比例関係が得られた(Fig.5)。
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20 50tc {secJFig.5 The relation between tc and t..
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1.0 2.Q 3.0
Depositi◎n Rate(Aノ§)
Fig.6 The dependance of de and dd on the rate of deposit。
4.0
さらに各サンプルについて固有二二及びt。に相当した時 刻(即ち蒸着終了時よりt・秒だけ過去の時刻)における膜 厚が蒸着速度に対して求められた(Fig.6)。 ddは蒸着速 度によらずほぼ一定で約160Aであった。
4 結果の考察
蒸着膜電気抵抗の経時変化をn次の化学反応式で近似し
た場合,同じデ・一一タについて,R。。のとり方で反応次数nの値は大きく変わることが示された(Fig 4,文献5)。
R。。はt→。。における膜の抵抗とされているが,4)この値 を実測することは不可能である。しかしある測定区川内で の変化の割合はわかっているのだから,それを考慮して
R。。を推定することは可能である。(2)式から間接的に R。。を決めた物理的意味を考えてみると,Fig. 2において t。及びA・を読み取ったことは,特定の時刻におけるRd絶 対量を決定したことに相当する。Rd+R。。即ちRの値は記 録計によって電圧に換算した形で記録されている。従って これらの量からR。。が実験値を用いて定まることになる。
こうして決められたR。。の値が,数時間経過後の実測抵抗 値とほぼ一致するという結果からすれば,t→。。の時のR の値の近似値としてこの実測値を用いてよいものと思われ
る。
実際その値を用いて(1)式にデータを当てはめて得られ たFig.3は経時変化の初期(蒸着後数秒から約200秒間)
においてlo9]dR/dt lとlog(R−R。。)が直線関係となる ことを示しており,ここで行なわれた解析の出発点となっ た仮定を十分満足しているといえる。反応次数は膜厚に強 く依存するといわれているが,4)今回得られた各サンプル・
については,膜厚がかなりよくそろっているので,蒸着速 度によらずほぼ一定となっている(Table 1,第7列)。こ のことについてはK:inbaraの結果と一致している。4)しか
し得られたnの値は2・7〜3・2で,3次的反応が抵抗変化 の実測段階において顕著に現われていると思われる。
次にこの解析の過程で導入された定数t。の意味を考察 する。t。は時聞の元を持つ量で(2)式における1つの初期 条件と考えられる。膜の形成過程において,格子不整の崩 壊は測定には関係なく,独立におこっているだろう。が蒸 着終了時,即ち経時変化を測定し始める時刻は人為的に決 定される。蒸着を止めるということは押下の成長を止める ことになり崩壊に大きな影響を与える。このことが(2)式 にt。を導入しなければならない理由であり,t・が固有膜厚 になってから蒸着を止めるまでの時間日脚t・と比例関係に あるという結果(Fig.5)になっていると思われる。
膜の形成過程において,蒸着初期では膜の抵抗は無限大 であろう。蒸着が進むにつれて導通が急に顕著になる固有 膜厚(d・)を経て,実験で設定された膜三又は抵抗値にな
った時蒸着を終了する。その間格子不整の崩壊は膜形成の 各段階でおこっていると考えられるが,蒸着による膜厚増 大の効果が大きくきいている時期がある。そして固有膜厚 を経て,蒸着終了時よりt。秒ほど前の時刻になって始め て崩壊による効果が大となり,観測にかかってくると思わ れる。その時刻における膜厚(d・)が蒸着速度に関係なく ほぼ一定であること(Fig.6)は,反応次数が蒸着速度に 対してほぼ一定であることと共に,膜の物理的性質を考え
る上でかなり重要であると思われる。
5 結 論
銀蒸着膜電気抵抗の蒸着直後から2,3分間の経時変化を n次の化学反応式で近似し,反応時間とその時刻における 抵抗変化の割合を示す式を亡びき,測定データを用いて R。。の値を推定した。膜のサイズ10×20mm2,厚さ175
±10A,蒸着速度1.3〜4・3A/sの各サンプルについて,
得られた値は膜と同じサイズのバルクの抵抗値よりも約1 桁大きく,数時間後変化が安定した時の実測抵抗値にほぼ 一致した。従ってR。。をその実測値で近似して良いことが
わかった。一 160 一
銀蒸着薄膜電気抵抗の蒸着直後における経時変化 岸本・富田・藤田・国末
次にそのR。。を用いて得られた反応次数は2.7〜3.2で,
実測毅階における抵抗変化は,3次的反応が顕著であっ
た。
なお(2)式に導入されたt・についての考察から,実測段 階であらわれていた経時変化が膜成長の過程で急に顕著に なると思われる膜厚が存在することがわかった。上記のサ ンプルについて,その膜厚は蒸着速度:によらずほぼ一定で 160A前後であった。
最後に本実験について有益な御討論を頂いた本校機械工 学科中原寿喜太教授に感謝致します。又蒸着装置の保守に 協力して頂いた徳方孝行氏に感謝する。
文 献
1) R.Suhrmann und H.Schnackenberg; Z. Phys. 119
(1942) 287.
2) V.Vand; Proc. Phys. Soc. 55 (1943) 222.
3) R.B.Belser; J. Appl. Phys.28(1957)109.