SmO
1−xF
xFeAs
超伝導体の 超伝導特性中山 紘喜 平成21年 2月24日
電子情報工学科
目次
第1章 序論 1
1.1 はじめに . . . . 1
1.2 FeAs系超伝導体 . . . . 2
1.3 粒間、粒内の臨界電流密度 . . . . 2
1.4 研究の目的 . . . . 3
第2章 実験 5 2.1 試料 . . . . 5
2.2 測定項目 . . . . 5
2.2.1 臨界温度 . . . . 5
2.2.2 ヒステリシス曲線 . . . . 6
2.2.3 残留磁化 . . . . 7
第3章 結果と考察 13 3.1 臨界温度の測定結果とその考察 . . . . 13
3.2 ヒステリシス曲線の測定結果とその考察 . . . . 14
3.3 残留磁化の測定結果とその考察 . . . . 17
第4章 結論 23 4.1 結論 . . . . 23
4.2 今後の課題 . . . . 23
参考文献 26
表目次
2.1 : 各試料の諸元 . . . . 5 3.1 : 試料3、試料4のTc . . . . 14 3.2 : 各温度域におけるピークの位置 . . . . 21
図目次
1.1 : SEMで撮影したSmO0.7F0.3FeAsの表面の様子 . . . . 4
2.1 : 四方向から磁束線が進入した場合の電流が流れる微小幅dxに囲まれた 領域 . . . . 6
2.2 : 超伝導体内の磁束分布 . . . . 8
2.3 : 減磁過程での超伝導体内の磁束分布 . . . . 9
2.4 : He = 0まで下げた時の超伝導体内の磁束分布 . . . . 10
2.5 : 残留磁化の分布 . . . . 11
2.6 : MR-Hm曲線 . . . . 11
2.7 : MR のHmに対する変化率 . . . . 12
3.1 : 試料3の磁気モーメントの温度変化. . . . 13
3.2 : 試料4の磁気モーメントの温度変化. . . . 13
3.3 : 5 Kでの試料2のヒステリシス曲線. . . . 14
3.4 : 40 Kでの試料2のヒステリシス曲線 . . . . 14
3.5 : 5 Kでの試料3のヒステリシス曲線. . . . 15
3.6 : 40 Kでの試料3のヒステリシス曲線 . . . . 15
3.7 : 5 Kでの試料4のヒステリシス曲線. . . . 15
3.8 : 40 Kでの試料4のヒステリシス曲線 . . . . 15
3.9 : 試料2のJc-B曲線 . . . . 16
3.10 : 試料3のJc-B曲線 . . . . 16
3.11 : 試料4のJc-B曲線 . . . . 16
3.12 : 試料2のMR-B曲線 . . . . 17
3.13 : 試料3のMR-B曲線 . . . . 17
3.14 : 試料4のMR-B曲線 . . . . 18
3.15 : 試料2のMR 変化率. . . . 18
3.16 : 試料3のMR 変化率. . . . 18
3.17 : 試料4のMR 変化率. . . . 19
3.18 : 試料3の5 Kでの残留磁化の変化率 . . . . 20
3.19 : 試料4の5 Kでの残留磁化の変化率 . . . . 20
3.20 : 各試料の粒間Jc の温度依存性. . . . 21
3.21 : 各試料の粒内Jc の温度依存性. . . . 22
第
1
章序論
1.1
はじめに1911年にオランダの物理学者カメリン・オンネス(Kamerlingh Onnes)は液体ヘリウ ムによる極低温での水銀の電気抵抗を調べていた際、4.2 K付近で突然電気抵抗が限りな く0に近くなるという超伝導現象を発見した。以来多くの元素、合金、化合物から超伝導 現象は確認され、その特徴である完全反磁性やエネルギーギャップを説明する、BCS理 論等様々な理論が登場し、その一方で限りなく0に近い電気抵抗という工学的な魅力か ら、超伝導の実用化に向けた研究もなされてきた。超伝導への転移温度を臨界温度(Tc) といい、水銀のTc は4.2 Kと非常に低く、冷媒としてコストの高い液体ヘリウムを使 うことから、Tc の高い超伝導物質を発見することが、実用化に向けた当面の目標となっ た。1930年には初めて元素以外の超伝導体が発見され、以降元素系超伝導体よりも高い Tc を持つ化合物や合金が発見され、1960年頃には超伝導マグネットとしてついに実用化 された。さらに1986年にはベドノルツ(Johannes G.Bednorz)とミュラー(Karl Alex
M¨uller)により、30 Kという記録的なTcを持つ銅を含む酸化物が発見され、世界中で銅
酸化物超伝導体の研究が始った。僅か1年後の1987年にはTc が液体窒素沸点(77 K)を 超える銅酸化物超伝導体が発見され、同年Tc は100 Kを超えるまで上昇した。しかし、
高いTc を持つ銅酸化物超伝導体は、従来の金属超伝導体と比べ、電気抵抗0で流せる電 流密度の最大値である臨界電流密度Jc が低い傾向にあり、実用化に向けてJc向上の研究 がなされている。
近年の新しい超伝導体の発見として、2001 年に青山学院大学の秋光らのグループに より、金属系超伝導体として最も高いTc(39 K)を持つMgB2 が発見され、2006年には 東京工業大学の細野らのグループにより、鉄を主成分とするオキシプニクタイド化合物
LaOFePが4 Kで超伝導性を示すということが発見された。本研究では、この新しく発 見された鉄系統超伝導体の中でも高いTc を持つSmO1−xFxFeAsの多結晶焼結体バルク 試料について臨界温度や臨界電流密度の評価を行う。
1.2 FeAs
系超伝導体先に述べたように、2006年に東京工業大学の細野らのグループによって鉄を主成分と するオキシプニクタイド化合物LaOFePが超伝導性を示すということが発見され、2007 年にはFeをNiに置き換えたLaONiPが超伝導性を示すことも発見された。これらのTc は4 K 程度と非常に低いものではあるが、LaOFePにおいて、プニコゲン元素であるP をAsに置き換えたLaOFeAsにFをドーピングした物質が、26 Kの高いTcを持つ超伝 導体であることが2008年に同グループによって発見された。組成の一部を変更しただけ でTc が一挙に上昇したことから鉄のオキシプニクタイド化合物は注目を集め、この発見 以降様々な類型化合物が超伝導性を示すことが報告された。中でもLaをSmに置き換え たSmO1−xFxFeAsのTc が50 Kを超え、銅酸化物系超伝導体を除いて最高値を持つこ とが発見された。また、これまでの研究で、この鉄を主成分としたオキシプニクタイド化 合物は主にREOFeAsの1-1-1-1系と AFe2As2 の1-2-2系の二種類の組成を持つことが 発見されている。ここでREは希土類金属元素を、Aはアルカリ金属元素を表し、その結 晶構造は、超伝導層であるFeAs層とブロック層であるRO層またはA層が交互に積層 した構造となっている。これらFeAs系の超伝導体は母物質そのものでは超伝導性を示さ ず、F置換やO欠陥によるキャリアドープを行うことではじめて超伝導性を示すという 特徴を持ち、さらにRO層をCaFで置き換えたCaFeAsFにおいて、超伝導層である主 成分のFeの一部をCoで置換した物質でも超伝導性を示すという、今までの超伝導体に はないユニークな特徴も発見されている。これらの特徴から、FeAs系超伝導体は今まで に発見された金属系超伝導体や銅酸化物超伝導体とは異なる、第三の超伝導物質系に分類 されており、今後、Tc のさらなる向上やJc などのポテンシャルの解明、新物質の探索な どの分野で、その発展に大きな注目が集まっている。
1.3
粒間、粒内の臨界電流密度FeAs系超伝導体の多結晶バルク試料においては、結晶粒間の弱結合のため、超伝導電 流については粒間を流れるものと粒内で閉じて流れるものの二種類の存在が確認されてい る。ここではそれぞれを粒間電流、粒内電流と呼ぶこととする。このことからFeAs系超
伝導体の多結晶バルク試料に外部磁場を印加していった場合、試料の中心まで磁束が進 入する磁場すなわち中心到達磁場(Hp)は粒間電流によるものと粒内電流によるものの二 種類が存在し、試料の残留磁化(MR とする)の最大経験磁場(Hm)に対する変化率を見 ると二つのピークが確認できる。Hp とこのピークとの関係については後ほど詳細を述べ る。これまでの研究から低磁場で現れるピークは粒間電流によるものであり、高磁場で現 れるピークは粒内電流によるものであることが分かっている。よって本研究ではMR の 測定を行い、Hmに対する変化率からHpを見積もり、粒間と粒内の臨界電流密度(それぞ
れJcglobal、Jclocal とする)を導出した。磁場印加方向に平行な厚さdの非常に広い超伝導
平板を考えた場合、座標を設け、超伝導体の厚さ方向をx軸とし、超伝導体が0≤x≤d を占めるとする。対称性から0≤x < d/2の範囲を考え、Bean-Londonモデルを仮定す ると、Hp とJc の間には
Hp = Jcd
2 (1.1)
の関係がある。ここでJcglobal とJclocal をそれぞれ求める。Jcglobal については、直方体の バルク試料に流れる電流を考え、磁場印加方向に平行な厚さdの平板を仮定する。一方、
Jclocal については、Jc の分布やボイド率などから正確な評価は難しい。図1.1は走査電子
顕微鏡(SEM)を用いて撮影された SmO1−xFxFeAsの表面の様子を表している。図1.1 によると、結晶粒の大きさは数µmから数十 µmに分布しており、このことから単純に 粒子を幅10 µmの平板と仮定し、Jcglobal と同様に磁場印加方向に平行な厚さdg の平板 を仮定する。さらに、Bean-Londonモデルを仮定し、反磁場係数とJc の異方性を無視 して、試料全体と粒子の中心到達磁場をそれぞれHp1、Hp2 とする。これらの条件から Jcglobal、Jclocal は式(1.1)よりそれぞれ以下の式で与えられる[1]。
Jcglobal = 2Hp1
d (1.2)
Jclocal = 2Hp2
dg
(1.3) 本研究ではdは試料の幅、dg は10 µmとしている。
1.4
研究の目的FeAs系超伝導体は、発見されて間もないということもあり、そのポテンシャルの解明 や新物質探索などによるTc の向上など今後の発展に多くの期待が集まっている。これま
図1.1 : SEMで撮影したSmO0.7F0.3FeAsの表面の様子
で新物質探索の研究は盛んに行われてきているが、一方でそのピンニング構造の解明や キャリアドープの最適化についての研究も精力的に行われてきている。本研究では、FeAs 系超伝導体の中でも高いTc を持つSmO1−xFxFeAsについて、作製法やF置換率の違う 多結晶焼結体バルク試料を用意しTc やJc の磁場依存性(Jc-B特性)、Jcglobal、Jclocal の 評価を行い、作製法やF置換率違いが与える影響を考察することを目的とする。
第
2
章実験
2.1
試料試料は中国科学院電工研究所で作製された SmO1−xFxFeAs多結晶バルク試料を3つ 用意した。各試料の諸元を、表2.1に示す。このうち、試料2についてはTaシースを用
いたPIT(Powder In Tube)法、試料3、4については従来の焼結法を二段階で行う二段
焼結法を用いて作製されている。実験はSQUID磁力計を用いて、各試料の厚さ方向に対 して平行に直流磁場をかけた直流磁化測定によって行った。
表2.1 : 各試料の諸元
幅w[mm] 長さl[mm] 厚さt[mm] F置換率x
2 1.50 1.93 1.30 0.30
3 1.75 1.92 1.16 0.30
4 2.11 2.30 1.43 0.40
2.2
測定項目2.2.1 臨界温度
実験方法について述べる。まずは Tc 以上の温度から磁場を印加せずにTc 以下まで下
げる。0.005 T の磁場を印加し、温度を0.4 K/minの速度で上昇させると共に同じペー
スで磁気モーメントを測定する。予めTc の予測を立てておき、その温度に近づくと速度
を0.2 K/min、0.1 K/minと落としていき速度に合わせたペースで磁気モーメントを測 定する。予測していた温度を超えると再び温度を0.4 K/minの速度で10 K 程上昇させ る。上昇したならば、今度は測定を開始した温度まで同じ要領で低下させ、同じ要領で磁 気モーメントを測定する。温度を上昇させて得られた曲線と温度を低下させて得られた曲 線が重なった温度をTc とする。
2.2.2 ヒステリシス曲線
実験方法について述べる。Tc 以下の定温状態において、試料の広い面に対して垂直に 外部磁場を−x T印加する。その後0 Tからx Tまで増磁し、x Tから0 Tまで減磁し て磁気モーメントを測定することによりヒステリシス曲線を得る。ある磁場下で得られた 磁気モーメントのヒステリシスの幅∆mがJc に比例することから、測定温度下における 臨界電流密度の外部磁場依存性(Jc −B)が求まる。
ここで、図2.1に示すような長さl、幅wの平板状超伝導体(l > w)の試料の広い面に 垂直に磁場を加えた場合について考える。試料の幅方向をx軸、長さ方向をy軸、広い
図2.1 : 四方向から磁束線が進入した場合の電流が流れる微小幅dxに囲まれた領域
面に垂直な方向をz 軸とし、試料の中心を原点とする。四方向から試料へ磁束が侵入し、
これを遮蔽する電流は臨界電流密度が等方的ならば、Bean-Londonモデルを仮定すると、
試料の端から一定の距離のところを流れるので、中心からx〜x+dxの位置を流れる電流 の電流路は図のようになる。この線素のz 軸方向のサイズをdz とすると、この部分を流 れる微小電流はdIc=Jcdxdzである。さらに幅dxの帯に囲まれた領域の面積Sは
S = 2x2y
= 4x(x+ l−w 2 )
= 4x2+ 2x(l−w) (2.1)
となる。また、この微小電流により発生する磁気モーメントはdm=SdIcとなる。よって 試料全体の磁気モーメントは
m= Z
dm
= Z Z
S(x)Jcdxdz
=Jct Z
S(x)dx (2.2)
となる。ただしtは磁場方向の試料の厚さである。これを計算すると m= (3l−w)w2tJc
12 (2.3)
となる。ヒステリシスの幅∆mは増磁過程と減磁過程の磁気モーメントの差であるから、
∆m= (3l−w)w2t
6 Jc (2.4)
となり、これからJcが評価される。ただし、SQUID磁力計での磁気モーメントmの単
位は[emu]であり、これをSI単位系に換算するとき以下の式を用いた。
m[Am2] =m[emu]×103 (2.5) 本実験では各試料につき5 K、10 K、15 K、20 K、30 K、40 K、45 K、50 K、55 K、 60 Kの10個の温度域で磁気モーメントのヒステリシス曲線を測定した。
2.2.3 残留磁化
超伝導体に磁場を印加していくと、量子化された磁束が超伝導体内に侵入するが、この 状態から印加していた磁場を取り除いていった場合、内部の磁束密度の変化は表面から始
まり、表面の磁束密度(B0)が0、即ち外部磁場(He)が0となっても内部にはまだ磁束が 残った状態になる。これを残留磁化(MR)という。
ここで厚さ2d の非常に広い超伝導平板を考え、これに平行に外部磁場(He)を印加し たときの超伝導平板の内部の磁束分布を考える。座標を設け、超伝導体の厚さ方向をx軸 とし、超伝導体が0≤ x≤2dを占めるとすると、対称性から0≤x < dの範囲の磁束分 布を考えればよい。Bean-Londonモデルを仮定すると、
Fp(B) =αcB (2.6)
よりJc とピン力密度Fp(B)の関係から Jc = Fp(B)
B =αc (2.7)
となる。よってHe を印加した場合の内部の磁束密度は
B =B0−δµ0Jcx (2.8)
で与えられ、図2.2に示すような分布となる。ここで、B0 は表面x = 0における磁束密
図2.2 : 超伝導体内の磁束分布
度の大きさである。外部磁場He に対する磁束密度を µ0He とし、反磁性表面電流や表 面不可逆性の影響を無視すると、B0 = µ0He となる。またδは内部の磁束の進行方向に
よって決まる値で、磁束が内部に侵入しようとする場合は+1、外部へ抜け出そうとする 場合は-1となる。さらに、磁化は
M = 1 µ0d
Z d
0
B(x)dx−He (2.9)
で与えられる。
ここで、印加している外部磁場He を最大経験磁場Hm としてHe を下げていく場合 を考える。内部の磁束密度の変化は表面から起こるので、表面付近の磁束密度は式(2.8) より
B=µ0He+µ0Jcx (2.10)
となり、同様にある地点より内部では
B =µ0Hm−µ0Jcx (2.11)
となる。ある地点とは、式(2.10)と式(2.11)の交点であり、この時の磁束分布は図2.3 のようになる。さらにHeを0まで下げた場合の磁束分布は図2.4のようになり、この時 の磁化、すなわち残留磁化MRは、式(2.9)より
MR = 1 µ0d
Z d
0
B(x)dx (2.12)
となる。 中心到達磁場 (Hp) とHm との関係からMR は図2.5に示すような 3つのパ
図2.3 : 減磁過程での超伝導体内の磁束分布
図2.4 : He= 0まで下げた時の超伝導体内の磁束分布
ターンに場合分けされ、式2.12は以下のようになる。
MR =
Hm2
4Hp (Hm≤Hp)
−4HHm2
p +Hm− H2p (Hp < Hm <2Hp)
Hp
2 (2Hp < Hm)
(2.13)
図2.6にMR とHmの関係をグラフにしたものを示す。このグラフのMR のHmに対す る変化率をグラフで表したものを図2.7に示す。これから、HmがHp に達したときピー クが出るということが読み取れる。
実験方法について述べる。Tc 以下の定温状態において、試料の広い面に対して垂直に ある強さの外部磁場を印加する。その後、外部磁場を0 Tに戻して試料内に磁束を残留さ せ、その磁気モーメントを測定する。この測定を0.001 T〜1 Tまで各オーダーで 15箇 所ずつ、計46箇所行う。本実験では各試料につき5 K〜40 Kまで5 K刻みで8つの温 度で残留した磁束の磁気モーメントを測定し、それを各試料の体積で割ることでMR と した。
図2.5 : 残留磁化の分布
図2.6 : MR-Hm曲線
図2.7 : MRのHmに対する変化率
第
3
章結果と考察
3.1
臨界温度の測定結果とその考察外部磁場0.005 Tを印加した状態で測定された、試料3、試料4の磁気モーメントの温
度変化を図3.1、図3.2に示す。今回の実験では試料2の測定がうまく行かず、Tcを求め ることが出来なかった。この結果から求めたTc を表3.1に示す。
20 40 60
0 0.002
T[K]
m[emu]
図3.1 : 試料3の磁気モーメントの温度変化
20 40 60
−0.002 0 0.002 0.004
T[K]
m[emu]
図3.2 : 試料4の磁気モーメントの温度変化
Tc は物質の潜在的なパラメータであるので、作製法の違いによる影響は少ないと考え られる。よって試料2のTc は同じF置換率である試料3とほぼ同じ48 K付近にあると 予測される。試料3と試料4のTc はどちらも50 K付近で、試料4の方が、試料3より
表3.1 : 試料3、試料4のTc
Tc[K]
3 48.5 4 51.1
高い値となった。このことからF素置換率0.4の試料は0.3の試料より高いTc を持つと いうことがいえ、これはWangらのグループ[2]の報告と一致する。
3.2
ヒステリシス曲線の測定結果とその考察各試料の 5 Kと40 Kで測定したヒステリシス曲線の測定結果をそれぞれ図3.3、図 3.4、図3.5、図3.6、図3.7、図3.8、に示す。 5 K、40 K共に、全ての試料で磁場の上昇
10−2 100
0 0.01
μ0He[T]
m[emu]
5K
図3.3 : 5 Kでの試料2のヒステリシス曲線
10−2 100
0 0.01
μ0He[T]
m[emu]
40K
図3.4 : 40 Kでの試料2のヒステリシス曲線
と共に磁気モーメントが正の方へ傾いており、強磁性体の磁化曲線に似た傾向があること から、これは強磁性体である鉄の影響によるものと考えられる。よって全ての試料におい て、反応しきれずに残った鉄が含まれているものと考えられる。
この測定結果から得られたヒステリシス幅より Jc を求めた。各試料の Jc-B 特性を 図3.9、図3.10、図3.11 に示す。 5 K の低磁場領域を見ると試料3のJc が一番高く、
2×107A/m2の値を示し、試料2は一桁オーダーが低くなっている。また二段焼結法に
10−2 100 0
0.05
μ0He[T]
m[emu]
5K
図3.5 : 5 Kでの試料3のヒステリシス曲線
10−2 100
0 0.05
μ0He[T]
m[emu]
40K
図3.6 : 40 Kでの試料3のヒステリシス曲線
10−2 100
0 0.1
μ0He[T]
m[emu]
5K
図3.7 : 5 Kでの試料4のヒステリシス曲線
10−2 100
0 0.1
μ0He[T]
m[emu]
40K
図3.8 : 40 Kでの試料4のヒステリシス曲線
よって作製された試料3、試料4は5 K-35 Kにおける0.1 T-6 Tの範囲で、ピークが確 認できる。図3.9、図3.10、図3.11において赤いプロットはTc 付近の温度域のプロット を表している。通常の超伝導体ではTc 以上でJc が測定されることはありえないことで ある。しかし試料3、試料4において前節で導出したTc を超える温度域でJcが測定され た。しかしその値は温度によってほとんど変化せず、ほぼ同じJc-Bを示している。これ は鉄の残留物によるものだと考えられ、試料3、試料4で確認されたピークはこの鉄が影
10−3 10−2 10−1 100 102
104 106 108
B[T]
Jc[A/m2 ]
5K 10K 15K 20K
30K 40K 45K 50K
55K 60K
図3.9 : 試料2のJc-B曲線
10−3 10−2 10−1 100 102
104 106 108
B[T]
Jc[A/m2 ]
5K 10K 15K 20K
30K 40K 45K 50K
55K 60K
図3.10 : 試料3のJc-B曲線
10−3 10−2 10−1 100 102
104 106 108
B[T]
Jc[A/m2 ]
5K 10K 15K 20K
30K 40K 50K
55K 60K 45K
図3.11 : 試料4のJc-B曲線
響していると考えられ、試料4の方が試料3よりはっきりと現れていることから、PIT法 より二段焼結法の方が、F置換率0.3より0.4の方が鉄の残留が発生しやすいと考えられ る。また、試料2について前節では求められなかったTc であるが、図3.9より45 K 以 上でJc がほぼ変化していない。よって試料2のTcは45 Kから50 K付近にあると考え られる。試料2と試料3を比較した場合、Jc は試料3が高い値を示し、0.1 T以上の領 域で試料2は磁場の影響を強く受け、Jc は約 101 に低下しているが、0.1 T以下の領域で
は30 K以上の高温域で、試料2が受ける磁場の影響は弱く、試料3のJc が低下し始め
る0.02 T になってもJc の低下は見られない。試料3と試料4を比較した場合、低磁場
領域のJc は試料3が高い値を示しているが、高磁場領域は、5 K-10 Kまでは試料3が
高く、15 K-20 Kまでは二つの試料の間で大きな違いはなく、25 K-50 Kでは試料4が
高くなっている。
3.3
残留磁化の測定結果とその考察図3.12、図3.13、図3.14に各試料の残留磁化の測定結果を示し、その変化率をそれぞ れ図3.15、図3.16、図3.17に示す。 まずMR の値について見ると、全ての温度域にお
10−3 10−2 10−1 100 500
1000 1500
μ0Hm[T]
MR[A/m]
5K 10K 15K 20K
30K 40K 25K 35K
図3.12 : 試料2のMR-B曲線
10−3 10−2 10−1 100 0
2000 4000 6000
μ0Hm[T]
MR[A/m]
5K 10K 15K 20K
30K 40K 25K 35K
図3.13 : 試料3のMR-B曲線
いて、試料2の測定値と試料3、試料4の測定値の間には約3-4倍の差が出ている。試料 3と試料4 の間では試料3の方が大きな値が測定されたが、試料2程の違いは見られな かった。また試料2の方が試料3、試料4に比べて緩やかにMR が増加しており、さらに MR の増加が止まる磁場、即ちHm >2Hp となるHmは高温になるにつれて低くなって おり、その温度依存は試料2よりも試料3、試料4の方が大きい。これら試料2と他の二 つ試料との間に見られる違いは作製法の違いによる密度の違いが考えられ、PIT法で作製 された試料2は管内で焼結しているため、二段焼結法で作製された試料3、試料4よりも 密度が高くなり、磁束線が粒子の中心へ到達するのに大きな磁場を必要とし、MRも小さ くなると考えられる。一方で、試料3と試料4の間では、試料3の方が大きなMR を測
10−3 10−2 10−1 100 0
2000 4000 6000
μ0Hm[T]
MR[A/m]
5K 10K 15K 20K
30K 40K 25K 35K
図3.14 : 試料4のMR-B曲線
10−3 10−2 10−1 100 0
500 1000
μ0Hm[T]
dMR/dlogHm
5K 10K 15K 20K
30K 40K 25K 35K
図3.15 : 試料2のMR変化率
10−3 10−2 10−1 100 0
5000 10000
μ0Hm[T]
dMR/dlogHm
5K 10K 15K 20K
30K 40K 25K 35K
図3.16 : 試料3のMR変化率
定しているので、MR に関しては、F置換率0.3の方が0.4より多くのMR を残すといえ る。次にMR のHmに対する変化率を見ると、測定値と同様試料2に比べ試料3と試料 4は大きなピークが出ており、5 Kで約10倍の差があるがこれは試料2のMR が緩やか に増加するのに対して、試料3、試料4は急激にMR が増加しているからである。また試 料2は低温域で、低磁場で出る粒間電流によるピークと高磁場で出る粒内電流によるピー クの二つがはっきりと出ているのに対し、試料3は図 3.18のように粒内電流によるピー
10−3 10−2 10−1 100 0
5000 10000
μ0Hm[T]
dMR/dlogHm
5K 10K 15K 20K
30K 40K 25K 35K
図3.17 : 試料4のMR変化率
クの大きさに対して粒間電流によるピークが非常に小さくなっており、試料4は図3.19 のように低温域で既に一つのピークしか確認できない。さらに試料2と試料 3について も20 Kより高い温度域では一つのピークしか確認できず、これら一つしか確認できない ピークについては、高磁場側で出ているので粒内電流によるピークと考えられる。ピーク が一つしか確認できないことがF置換率の影響によるものなのか、試料の欠陥によるも のなのかは今後詳細に調べる必要がある。
図3.15、図3.16、図3.17より各試料から読み取った各温度域における粒間電流による ピーク磁場と粒内電流によるピーク磁場をそれぞれ試料全体と結晶粒の中心到達磁場(そ れぞれµ0Hp1、µ0Hp2とする)とし、表3.2 に示す。これらの値を用いてJcglobal、Jclocal をそれぞれ求め、その温度依存性を図3.20、図3.21 に示す。一つ目のピークの位置につ いては、試料2と試料3との間に際立った違いはないが、二つ目のピークの位置につい ては、試料2が低温域で温度の上昇に対するピークの位置があまり低磁場側に遷移して いないのに対し、試料3と試料4は大きく低磁場側に遷移している。Jcglobal とJclocal は 5 Kでそれぞれ107A/m2、1010A/m2 オーダーであり、約1000倍の差がでたが、これ はYamamotoらのグループ[1]の報告と同じ傾向である。Jcglobal については、試料2と
試料3の5 K-20 Kの範囲での評価しかできなかったが、この温度域においては試料2と
試料3に目立った違いは無く、作製法の違いがJcglobal に与える影響は少ないものと考え
られる。Jclocal については、ピークの位置の遷移の違いから、試料2は温度の上昇と共に
Jclocal があまり低下しないのに対し、他の二つの試料は5 K-20 Kの間で大きく低下して
10−3 10−2 10−1 100 0
5000 10000
μ0Hm[T]
dMR/dlogHm
5K
図3.18 : 試料3の5 Kでの残留磁化の変化率
10−3 10−2 10−1 100 0
5000 10000
μ0Hm[T]
dMR/dlogHm
5K
図3.19 : 試料4の5 Kでの残留磁化の変化率
いるという温度依存性の違いが生じたが、この要因については具体的に分かっていない。
試料2のJclocal のオーダーが一桁多いのはPIT法によってバルク体の密度が高くなった
ためと考えられる。
表3.2 : 各温度域におけるピークの位置
2 3 4
µ0Hp1[mT] µ0Hp2[mT] µ0Hp1[mT] µ0Hp2[mT] µ0Hp1[mT] µ0Hp2[mT]
5 K 15.9 251 11.7 73.6 117
10 K 6.31 215 7.36 34.1 73.6
15 K 3.98 159 7.36 15.8 34.1
20 K 2.93 159 2.93 11.7 18.5
25 K 117 11.7 15.8
30 K 100 10.0 11.7
35 K 85.8 8.58 10.0
40 K 85.8 6.31 10.0
0 20 40
106 107 108
T[K]
Jcglobal [A/m2 ]
#2
#3
図3.20 : 各試料の粒間Jcの温度依存性
0 20 40 109
1010
T[K]
Jclocal [A/m2 ]
#2
#3
#4
図3.21 : 各試料の粒内Jcの温度依存性