卒業研究論文
地方都市における歩行者避難モデル
学籍番号
13D8104028G 鴫原遼人
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2017
年3
月あらまし
本研究では、地方都市において大規模な災害が起きた際に、できるだけ早く すべての人が避難完了できるような歩行者の避難モデルを考察する。
移動時間を考慮した動的フロー問題を、時間拡大ネットワークを利用すること によって解く。
キーワード:時間拡大ネットワーク、最大フロー問題、最速避難
目次
第1章 序論
第
2
章 最大フロー問題2.1
ダイクストラ法2.2
最大フロー問題2.3
フォードファルカーソン法第
3
章 時間拡大ネットワーク3.1
動的ネットワーク3.2
時間拡大ネットワーク3.3
時間拡大ネットワーク上のフロー3.4
最速避難の種類第
4
章 計算結果4.1
グラフのデータ4.2
計算結果第
5
章 おわりに 謝辞参考文献
第1章 序論
災害発生時において迅速に避難することは災害の犠牲者を減らすうえで最も 重要な手段の一つである。
本研究では大槌町を対象としてネットワークモデルを考察した。避難者をそ のネットワーク上に流し、すべての人が避難できるような避難経路と避難時間 を求める問題をネットワークフロー問題として扱った。
第
2
章 最大フロー2.1 ダイクストラ法
各枝の長さが非負でありかつどの点からも全ての点への経路が存在する ネットワーク上において、1点からネットワークの全ての点への最短 距離を求める際に使用されるアルゴリズム。
◎定義
入力:有向グラフ
G=(V,E)
各枝(i,j)∈Eに移動距離
tau(i,j)
(1)
始点の距離lbl[s]=0、それ以外を未定義(今回は 0),VP=∅
(2)
すべての点を探索する(VP=V)まで以下のループを繰り返す1.確定されていない点(V-VP)のうち lbl
が最小の点w
を求める。2.点 w
を確定(VP=VP∪{w})し、wを始点とする枝e=(w,v)において lbl[v]>lbl[w]+tau(e)ならば
lbl[v]=lbl[w]+tau(e)に更新する。
ダイクストラ法の使用例
図1
(1)点 0
を出発点とする。点0の距離を0、他の点の0までの距離を∞にする。(2)点 0
への最短経路が確定したので赤くする。確定した点0とつながる点との 最短距離を解の候補として青くする。(3)青の点から点0までの距離が最短の点を選ぶ。この場合は点 1
となる。点1を最短距離が確定した点として赤くする。
(4)今度は点 1
を始点とし、点1
までの経路と点1からつながっている点への枝の距離を点0からの最短距離の候補として青くする。
ここで、点0から点
4
への最短距離は4
だったが、点1
を経由することで より短く行けるので点4の値を3に書き換える。(5)青の枝の中で最短の枝は 03
となり、点3への経路が確定。点
4
までの距離を計算するが、0→1→4の経路の方が短いので更新しない。(6)次の候補の枝のうち点 0
からの距離が短い14
を選び、点4への経路が確定。点2への距離は点4経由の方が短いので更新されて4になる。
(7)最小の枝 42
を通って点2への経路が確定し、全点への最短経路が確定する。2.2
最大フロー問題入力 有向グラフ
G=(V,E)
出発点s∈V,到達点 t∈V
各枝e∈E
の容量cap(e)≥0
目的:出発点から到達点に以下の
2
つの制約を満たし、一度に「もの」 送る ことができる量の最大値を求める問題。
ネットワーク問題においては、送る「もの」をフローf(i,j)、
「もの」が流れる量を流量という。
(1)
容量条件0≤ f(e) ≤ cap(e)
各枝を流れるフローは最大でも枝の容量だけ流すことができる。
(2)
流量保存則∑
𝑒=(𝑖,𝑗)∈𝛿+(𝑗)𝑓(𝑒) =∑
𝑒=(𝑗,𝑘)∈𝛿−(𝑘)𝑓(𝑒)
ある点
x
において
(点 x
から流れ出す量)=(点x
に流れ込む量)→f(a,x)=f(x,b)+f(x,c)
が成り立つことを表している。
a x
c
b
2.3
フォードファルカーソン法静的ネットワーク
N
における最大フローを求めるアルゴリズムである。◎残余ネットワーク
元のネットワークの枝と同じ向き(正の向き)の各枝に「あとどれだけの 量を流すことができるか」を表した残余容量(枝の容量から枝に流れてい るフローの流量を引いた差)を与え、元のネットワークの枝と反対向き
(負の向き)の枝に現在流れているフローの流量を与えてできるネットワ
ーク。定義:有向グラフ
G’=(V,E’)
E’={e∈E|f(e)<cap(e)}∪{e
R∈ER|f(e)>0}
E
R:逆向きな仮想的な辺集合 cap
f(e)=cap(e)-f(e) (残余容量)
cap
f(e)=f(e) (現在流れているフロー)
◎アルゴリズム
1.
すべての枝e∈E
についてフローf(e)←02.
残余ネットワークN(f)を作る。
3.始点 s
から終点t
までの経路P
を見つける。4.経路 P
において容量cap(P)=min{cap(e)|cap(e)∈P}を求める。
e∈P
である各枝に対し(1) f(e)←f(e)+cap(P) (e∈P) (2) f(e)←f(e)-cap(P) (e
R∈P)5.s
からt
へフローが流せなくなるまで1~3
の作業を続ける。・容量が整数の場合、実行時間の上限は
O(Ef)となる。
E
は枝の数、fはグラフの最大フローである。ただし、容量が無理数の 場合無限に実行されてしまう。・本研究では、始点
s
から終点t
までの経路を求める際にダイクストラ法 を用いる。実行例
図2のフローネットワークを利用して最大フローを求める。
図2
ルート
S A B T
に沿って最小の容量の6
だけフローを流す。ルート
SACT
に沿って4のフローを流す。ルート
SCT
に沿って1だけフローを流す。残余ネットワークにおいて
S
からT
へのルートが存在しなくなった。よってこれが最大フローとなる。
第
3
章 時間拡大ネットワーク3.1
動的ネットワークの定義動的ネットワークは点の集合
V
とそれらの点を結ぶ枝の集合E
からなる 有向グラフG=(V,E)と以下の関数によって構成される。
・枝上に容量関数
c,移動時間関数λ
・出発点集合X⊂V,到達点集合 Y⊂V\S
・Xに初期の人数
sup,Y
に到達点の容量cap
この形のままだと移動時間も考慮するため最大フロー問題を解くのが困難 である。したがって、時間拡大ネットワークを用いて静的ネットワークと
して問題を解く。
図
3:部屋を動的ネットワークしたもの
3.2
時間拡大ネットワーク動的ネットワークを離散時間ずつ進めたコピーを積み上げて、枝上の 移動を平面上の移動と時間軸上の移動を合わせて静的ネットワークの 移動として表現できるネットワークである。
動的ネットワーク
N
と期間T
から構成するには以下の操作を行う。1. V
に含まれる点をT
回複製。各時刻での点に相当する。2.
ある時刻t
における点v
を出発する辺e
は時刻t+λ(e)に接続
3.
超出発点ss,超到達点 st
と呼ばれる2つの点を追加し、容量∞,移動時間
0
の辺を追加。・サイズ:点数が|V|×(T+1)+2,枝数が(|E|+|X|+|Y|)×(T+1)となる。
したがって入力するネットワークのサイズまたは期間Tが大きくなる と、時間拡大ネットワークのサイズが非常に大きくなる。
図
4:図 3
の動的ネットワーク(左図)の時間拡大ネットワーク3.3
時間拡大ネットワークにおけるフロー時間拡大ネットワーク
N
が与えられたとき、フローの定義は∀e∈E,θ
∈{0,1,…,T}において以下の条件を満たす関数f(e)
・容量制約
各枝のフローは容量以下の流量でないといけない。
f(e)≤c(e)
・流量保存側時間
θ
である点v
において、時間θ-λ(e)の点からフローの量と
点v
から出ていくフローの量は等しい。(λ(e):枝の移動時間)
∑
𝑒∈𝑣−∑
𝜃−𝜆(𝑒)𝑡=0𝑓(𝑒, 𝑡) -∑
𝑒∈𝑣+∑
𝜃𝑡=0𝑓(𝑒, 𝑡) =0 ∀v∈V\(X∪Y)
・端子点制約
出発点から時間拡大した点に流れたフローの流量は初期の人数と 等しい。また、時間拡大した点から到達点に流れたフローの流量は 到達点の容量以下である。
∑
𝑒∈𝑆∑
𝑇𝑡=0𝑓(𝑒, 𝑡) =sup(s) ∑
𝑒∈𝑇∑
𝑇𝑡=0𝑓(𝑒, 𝑡) ≤cap(t)
図
5
時間拡大ネットワークにフローを流している。3.4
最速避難1.最早完了避難
・最も避難に時間のかかる人が避難所に到達する時間を最小になる避難 ・超出発点から超到達点への最大流が端子点制約を満たす
最小の期間Tが避難完了時刻となる。
・時間拡大ネットワーク上で超出発点から超到達点までの最大フローを 求めてその分だけ避難者を流す。この作業を避難者が避難完了するま で行い、期間Tを求める。
2.最小移動時間最早完了避難
・避難完了が最小の避難のうち、避難者の移動時間の総和が最小の避難 ・移動時間を費用とした最小費用最大流を求める。
・移動時間の総和は「避難完了時間最小」という条件を考慮しない場合に 比べ、大きくなってしまう可能性がある。
3.前方優先避難
・時刻の昇順にその時刻での避難完了者数を最大化する操作を行うこと で求める避難
・避難の初期段階では避難完了者が最大となる。
この研究では
1
の最速避難を求める。第
4
章 計算結果4.1
使用するデータ ◎大槌町の以下の要素点:点番号、座標
枝:枝番号、始点、終点、距離、容量 避難者の人数
11836
人出発点の数
1118
箇所 避難者の歩行速度1.0m/s
避難所の設定 5つ時間制限:3600秒
本研究の時間拡大ネットワークは元のネットワークの各点を
z
軸方向に 時間拡大することで得ている。また、前章の時間拡大ネットワークでは1秒 おきに点をコピーしているが、本研究では計算量を減らすために時間の間隔 を6
としているため(時間制限)/(時間の間隔)=3600/6=600点をz
軸上に積み 上げている。図
6
は元の大槌町のネットワークであり、図7
は図6
のネットワークの各点 をz
軸方向に600
個の点を積み上げた時間拡大ネットワークである。図
6 大槌町のデータを用いたネットワーク
図
7:大槌町の時間拡大ネットワーク Z
軸方向に時間が進んでいる。4.2
計算結果下の5枚の図は5箇所の避難所付近を表したものである。
大きい円が避難所、小さい円が避難開始点となっており、色が青に近づくほど 避難完了時間が早く、赤に近づくほど避難完了時間が遅いことを表している。
下図から避難所から離れるにつれて避難完了時間が遅れることがわかる。
図8
図9
図
10
図
11
図
12
図
13:各時刻での避難完了者数の推移
避難完了時間:3086秒
避難完了時間は約
51
分となった。東日本大震災において地震発生から津波が 到達する時間は30~50
分である。そのことを参考にすると安全な避難ができる30
分以内に避難者の90%が避難完了できている。その一方で残りの避難者が避
難完了するまで20
分以上かかっている。現状の避難所の配置だと迅速な避難が できているとは言い難い.すべての避難者が30
分以内に避難完了できるように する場合、30 分以降に避難完了した避難者の避難開始地点をカバーできるよう な避難所の設置を考慮すべきである。0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
避難者
時間
第
5
章 おわりに本研究では、地方における災害発生時の歩行者避難モデルを考察した。計算結 果より、今回の最速避難では最も遅い人の避難完了時間を最小にするようにし たが、それぞれの用途においてどの最速避難を求めるか異なるためその結果の 違いも考察したい。
今後の課題として今回の実験では移動時間は一定であったが、実際には避難 者の密度によって移動時間は変化する。より精密な避難モデルを作成するため には移動時間を密度に依存する関数として定義する必要がある。
謝辞
この研究を進めるにあたって、大槌町のデータの提供及びプログラムの修正 等について多くのご指導,ご助言を頂きました田口東教授及山形浩一助教に深 く感謝いたします。また、多くのご協力をいただいた田口研究室の皆さまにも 深く感謝いたします。
参考文献
[1]
著者 瀧澤重志他「No.415:普遍的最速フロー型緊急避難モデルの大規模計算への拡張と 大阪市の津波避難ビルの立地評価への応用」
2013
年度CSIS
共同研究報告書pp.4-13
2014
年5
月[2]
著者H.W. Hamacher,S.A.Tjandra
「Mathmatical Modelling of Evacuation Problems:A State of the Art」