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S 3 耳鼻と臨床 55 巻補 号 表 Wallenberg の初診時所見のまとめ ) 左顔面の疼痛 感覚過敏 ( 経過中に温痛覚脱失に移行 ) ) 右顔面感覚鈍麻 3) 軟口蓋運動障害 ( 初め両側性で 後に左のみ ) ) 左声帯麻痺 5 ) 右体幹 右上下肢の温痛覚脱失 6) 左上下肢の運動失調

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〔教育講演〕 総 説

Wallenberg 症候群における嚥下障害と付随する症候

藤 島 一 郎

1 .はじめに Wallenberg 症候群は嚥下障害を扱う医療者に とっては避けて通れない症候群である。主症状と しての嚥下障害に対するリハビリテーションや手 術は適切に行えば極めて有効である。ここでは Wallenberg 症候群の歴史や一般的な知識を整理 し、嚥下障害とそれ以外の興味ある付随症状につ いても最近の知見に触れつつ概説する。 2 .歴史1) Adolf Wallenberg(1862 − 1949)は森鴎外と同 じ年に生まれている。当時のプロシャ領 Danzig 近郊 Stargard(現ポーランド)生まれのユダヤ人 で、Heidelberg と Leipzig で医学を学び、1907 年 Danzig 市立病院の院長、1938 年ナチスの迫害を 受け、イギリスに逃れ、1943 年アメリカに移住し ている。

Wallenberg の初めの論文は「Wallenberg A: Acute Bulbaraffection(Embolie der Atr. Post. Inf. Sinistr.?)Arch Psychiat Nervenkr 27:504-540,

1895.」2)であり、これは球症状を呈した 38 歳男性 の発症から 8 日間にわたる詳細な臨床記録と 5 カ 月間の経過観察の報告である。簡単にその経過を 述べる。患者は飲酒(大量)、喫煙歴のある縄作り 職人で、1893 年 9 月 9 日夕方、葬儀の帰路に気分 不快、帰宅後激しいめまいで倒れたというエピ ソードで発症した。左眼から左顔面に広がる疼痛 があり、意識は清明だが、嚥下困難と嗄声があっ た。翌日 Wallenberg の診察を受けた。初診時所 見は表 1 にまとめた。左眼が虹彩癒着であったた めに Horner 症候群関連の症状記載はない。 これらの所見から Wallenberg による病巣部位 の推論は延髄左側:背側方、錐体交叉上限と舌咽 神経根のレベルで、出血よりも梗塞:後下小脳動 脈しかも椎骨動脈と後下小脳動脈の分岐部であり 小脳障害の可能性もあるとしたのである。表 2 に 症状と病巣部位の推論をまとめた。これは今日知 られている教科書的な Wallenberg 症候群とほぼ 一致する。その後 Wallenberg は第 2 論文を発表 した3)。それは初めの症例が 6 年後に激しいめま いの後に死亡し、剖検所見で直接死因は橋出血で あるが、左延髄外側に脳軟化巣かつ後下小脳動脈 内の繊維化した血栓を同定し、見事初めの論文の 正しさを証明したものである。さらに、第 3 の論 文を発表4)するのであるがこれは 15 例以上の症 例を集め、最終的に延髄外側領域の脳軟化巣は常 に後下小脳動脈、ないしその分枝の病変と関連が あると結論しているのである。これらの功績によ り延髄外側梗塞は Wallenberg 症候群と呼ばれる ようになったのである。 しかしながら、豊倉5)によれば Wallenberg よ りも約 90 年あまり前に同様の報告がなされてい るとのことである。これはスイス・ジュネーブの 医師で流行性脳脊髄膜炎を最初に記載(1805)し た医師として知られている Gaspard Vieusseux (1746 − 1814)が書いた内容を、1810 年のロンド ン医学・外科学会で Marcet が代読して発表、 Vieusseux の死後 1817 年に同学会の会報に掲 載6)したというものである。剖検はされていな い。以 下 に そ の 経 過 を 述 べ る。Vieusseux は 1808 年 1 月 4 日夕食時、左下顎に突発性の痛みを 自覚したが、自ら医師であるため夜 6 時に患者を 往診した。その際、左の目頭に強い痛みを感じる 浜松市リハビリテーション病院 別刷請求:〒 433-8511 浜松市中区和合町 1327-1 浜松市リハビリテーション病院 藤島一郎

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とともにめまい、嘔吐があり、構音障害、嗄声、 液体の嚥下障害を発症した。意識正常、頸部以下 の右半身に痛覚脱失あり、四肢麻痺なし。第 3 病 日から第 7 病日まで頑固なしゃっくりあり。発汗 異常:右半身の発汗が多く特に右耳は左耳の 2 − 3 倍(→ Horner 症候群と推測される)、運動失調 の記載なし。「右手で脈を診ることは完全にでき るが患者の額に右手を当てて熱の有無を知ること は不可能」という記載がある。これは触覚:後索、 延髄レベルの内側毛帯は intact であるが、温痛覚 障害、つまり脊髄視床路が損傷されていることを 示唆している。1813 年 4 月(5 年後)再発:嚥下 障害、構音障害となり、1814 年 9 月死亡(高熱と 全身衰弱:肺炎?)。1817 年 Vieusseux の体験記 は疑いもなく完璧な Wallenberg 症候群で世界最 初の報告である。さらに、事実を述べるだけで、 一体どの神経が左右それぞれどこで障害されてい るかの説明はあきらめて、熟練の解剖学者の手に 委ねたいとしている点が評価される。豊倉によれ ば「正確な症例報告の大切さを教えてくれる」と いうことになる。この優れた報告を評価して Wallenberg 症候群は本来 Vieusseux-Wallenberg syndrome とでも呼ぶべきではないかと豊倉は述 べている。ちなみに 1817 年は Parkinson がパー キンソン病の本「An essay on the Shaking palsy」 を出版した年でもある。なお、本邦での報告は 1933 年の浅野らの論文7) が最初であるが、Wal-lenberg 症候群という名称は出てこない。 3 .症状と病変部位 表 3 に延髄の病変とそれに伴う症候群(型)、主 表 1 Wallenberg の初診時所見のまとめ 1 )左顔面の疼痛、感覚過敏(経過中に温痛覚脱失に移行) 2 )右顔面感覚鈍麻 3 )軟口蓋運動障害(初め両側性で、後に左のみ) 4 )左声帯麻痺 5 )右体幹、右上下肢の温痛覚脱失 6 )左上下肢の運動失調(麻痺なし)と左への転倒傾向 7 )水平性および垂直性眼娠 8 )gag 反射欠如、嚥下困難 表 2 Wallenberg の記載した症状と推定病巣部位 三叉神経視床路 脊髄視床路 1)右顔面感覚鈍麻 2)右体幹/上下肢の温痛覚脱失 反対側症状 三叉神経脊髄路、脊髄路核 疑核(−迷走神経) 疑核(−迷走神経) 脊髄小脳路、後索、小脳 前庭神経核 CPG、疑核(−迷走神経) 1)左顔面の疼痛、感覚過敏 2)軟口蓋運動障害(左) 3)左声帯麻痺 4)左上下肢の運動失調 5)水平性および垂直性眼娠 6)gag 反射欠如、嚥下困難 病巣側症状 前庭神経核 三叉神経脊髄路、脊髄路核 疑核(−迷走神経) めまい 顔面痛 嚥下障害 発病時 病巣部位 症 状

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な症状をまとめた。Wallenberg 症候群は延髄外 側の病変で起こり、教科書的な症状としてはめま いや嚥下障害、ホルネル症候群などとともに失調 症状があり、舌(舌下神経)と四肢の運動麻痺が ないこと、また、顔面交代性の温痛覚障害を呈す るが深部感覚・触覚(後索)が保たれるいわゆる 感覚解離が特徴である。舌や四肢の運動麻痺、深 部感覚・触覚障害を伴う場合はより広範囲な延髄 半側病変である。一方、延髄内側病変では舌や運 動麻痺が出て深部感覚・触覚が障害されるという 特徴がある。延髄病変にはいろいろな症候群が知 られているが、表 3 のように病変部位を外側、半 側、内側、末梢のように整理して理解すると混乱 しない。図 1 に延髄を含む脳幹の血管支配を示し た8)。血管支配は椎骨脳底動脈から正中に入る枝 と周囲を回りながら出ていく細かい枝に分かれて いるために、外側(Wallenberg)と内側の病変に 大きく分かれることを理解しておく必要がある。 しかし、血管の走行には変異が多く、血管支配領 域には個人差がある。また損傷されやすい部位が あって一定の症候群を呈する傾向はあるが、病変 の種類(梗塞か、出血か、腫瘍かなど)により損 傷される延髄の病変部位や広がりが異なるため に、当然の事ながら同じ症候群と診断されても 個々の症例で症状が微妙に異なる。宮元ら9) Kameda ら10)は画像診断で病変部位を分類し症 状との関連を詳しく述べている。 4 .臨床症状と臨床統計 図 2 に典型的な Wallenberg 症候群の病巣と症 状を示した11)。秦ら12)の論文と自験例の発症年 齢と性比、年齢分布を図 3 、表 4 に示した。自験 例は秦らよりもやや高齢にピークがシフトしてい る。この違いには自験例は全例、嚥下障害を伴う Wallenberg 症候群であることが関与している可 能性がある。いずれにしても脳卒中としては比較 的若い年齢の 40 歳代から 60 歳代に発症が多い。 表 5 に Wallenberg 症候群の症状と徴候を文献的 に調べたものを載せた13)-15)。Caplan の文献は海 外の 7 論文のまとめであるため症例数は載せてい ない。これらの報告を見ると失調、感覚障害、め まい、嚥下障害が Wallenberg 症候群で特に多い 症状であるといえそうである。また頭痛や Horner 症候群、しゃっくりもかなりの頻度で出現してい る。病因は脳梗塞が多く、秦らは 83%(当院 79%) と報告し、血栓が 91%、塞栓 9 %で PICA が 43%、 VA が 51%、その他 6 %とのことである。一方、 表 3 延髄 病変の症候群(型)と主な症状 温痛覚障害 失調、Horner 5、7、(8)、9、10 Wallenberg(延髄外側) 外側 その他 脳神経障害 Avellis 症候群:同側声帯麻痺、軟口蓋麻痺 ①中枢型:Wallenberg 症候群の病巣範囲が狭いもの ②末梢型:迷走神経障害 対側症状 病巣側症状 症候群 病変 傍正中 深部感覚障害、運動麻痺 7、12 Dejerine(延髄内側) 正中 全感覚障害、運動麻痺 全感覚障害、運動麻痺 同上 同上 5、7、9、10、12 5、7、9、10 Babinski- Nageotte Cestan-Chenais 半側 上肢麻痺 下肢麻痺 交叉性片麻痺

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図 1 脳幹部の血管支配(文献 8)より引用改変) 㪙㫃㫆㫆㪻㩷㪪㫌㫇㫇㫃㫐㩷㫆㪽㩷㪙㫉㪸㫀㫅㩷㪪㫋㪼㫄 㪣㫋㪅㩷㪪㪚㪘 㪙㪸㫊㫀㫃㪸㫉 㪸㫉㫋㪼㫉㫐 㩿㪙㪘㪀 㪣㫋㪅㩷㪘㪠㪚㪘 㪣㫋㪅㩷㪧㪠㪚㪘 㪣㫋㪅㩷㪭㪘 㪘㫌㫋㪼㫉㫀㫆㫉 㫊㫇㫀㫅㪸㫃㩷㪸㫉㫋㪼㫉㫐 㩿㪘㪪㪘㪀 㪣㪸㫋㪼㫉㪸㫃㩷㫃㪼㫊㫀㫆㫅 㪤㪼㪻㫌㫃㫃㪸 㸏㸐 㸏㸐 㸒 㪣㪅㩷㪭㪘 㪘㪪㪘 㪩䌴㪅㩷㪭㪘 㸒 図 2 典型的な Wallenberg 症候群の病巣

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図 3 年齢分布 ⒌䉌 ⡛㓮ਃᣇේ∛㒮 ⒌䉌 ⡛㓮ਃᣇ ේ∛㒮 㪉㪇ᱦએਅ 㪊㪇 㪋㪇 㪌㪇 㪍㪇 㪎㪇 㪏㪇 㪈 㪈 㪈 㪈㪌 㪊㪊 㪈㪐 㪎 㪐 㪉㪉 㪊㪇 㪋㪉 㪊㪏 㪍 㪈 表 4 Wallenberg 症候群における臨床統計 1:1.24 / 1:1.17 82 / 34 66 / 29 2:1 / 4:1 45 / 13 103 / 53 秦ら/聖隷三方原病院 右:左 左延髄 右延髄 男:女 女 男 性比、病巣側(人) 表 5 Wallenberg 症候群の症状・徴候 84% 76% 97% 72% 失調 34 例 38 例 151 例 Caplan15)(1996) 金子ら14)(1991) 高松ら13)(1995) 秦ら12)(1969) 症例数 頭痛 68% 94% 51% 82% 嚥下障害 70% 76% 82% 65% めまい 78% 94% 97% 96% 感覚障害 11% 顔面神経麻痺 97% 74% 66% Horner 症候群 26% 68% 11% 24% しゃっくり 44% 68% 34% 60% 39% 嗄声 60% 44% 嘔気・嘔吐 58% 46% 構音障害 21% 28% 9 % 顔面痛 36% 13% 複視 38%

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解離性動脈瘤は 3 − 33%(韓国:15%、スイス: 14%、米国:33%、日本:3.8%− 6.8%)とされ て い る が、 Hosoya ら16)は 16 例 の Wallenberg 症候群中、解離性動脈瘤が確実例で 43.8%あり、疑い例も含めると 81.3%であるとし ている。これは驚くべき高率であり、このことを 念頭に置いて Wallenberg 症候群の原因を検索 し、急性期管理や再発予防に努める必要があると 考える。ちなみに自験例では 15%(2004 − 2008 年)が解離性動脈瘤であった。 5 .感覚障害のタイプによる分類 Wallenberg 症候群では顔面と四肢の温痛覚障 害部位が左右異なる、いわゆる顔面交代性の感覚 解離が教科書的に記載されているが、臨床場面で は必ずしも典型的な例ばかりではない。早川 ら17)や Currier ら18)は温痛覚が障害される部位 に着目して分類を試みている。両者はかなり近似 した分類であるが、完全に一致しているわけでは ない。これらを表 6 にまとめた。また、Matsu-moto ら19)も外側脊髄視床路と三叉神経脊髄路・ 脊髄路核および三叉神経視床路の topography に よる温痛覚障害の分布がかわるとして早川らや Currie らとは異なる感覚障害の分布を呈して症 例を発表している。延髄では顔面の温痛覚を司る 三叉神経脊髄路・脊髄路核とその上行路である三 叉神経視床路(延髄で交差して反対側を上行)、ま た四肢体幹の温痛覚を伝える脊髄視床路(脊髄レ ベルで交差したあとに上行)が存在し、病巣がど の部位で神経核や神経路を損傷するかによって症 状の出方が異なる。感覚障害は発症から経時的に もかなり変化するので、さらに臨床家の頭は混乱 する。診察した時点で所見を正確に記載し、経時 的変化があることを念頭に置いて整理するとよ い。 6 .延髄における病巣の広がりと症状 Kim20)は延髄の病巣を 198 症例について分析 して報告している。彼によれば上下方向と水平方 向で分類すると割合は表 7 のようになり、上部病 変(頭側)の典型か腹側寄り、ないし中間病変の 典型か大きい病変で嚥下障害が出現しやすく、下 部病変では外側が損傷されやすく嚥下障害は出現 しにくいとのことである。Kim の論文から 130 例について上部病変と下部病変での症状の出方を 表 8 にまとめた。この結果でも嚥下障害は下部病 変より上部病変で出現しやすい。なお、各症状間 ではめまいと失調が有意に関連して出現、嚥下障 害は構音障害、嗄声、しゃっくりと有意に相関し て出現するとされている(表 9 )。 7 . Wallenberg 症候群による咽頭喉頭の要素的 障害21) 臨床で患者を診ていると軟口蓋の動き、鼻咽腔 閉鎖、咽頭壁の動き、カーテン現象、喉頭挙上、 咽頭収縮、披裂部/声門部の動き、食道入口部開 大に左右差がみられることはもちろんのこととし て、今挙げた要素の動きが必ずしも同程度に障害 されていないことに気づく。これは延髄の孤束 核、central pattern generator(CPC)、疑核のど こが障害されるかに関係していると考えられる。 また、疑核や孤束核などにも topography があり、 損傷により嚥下反射の要素が個別に障害されるの ではないかと考えている。自験例(2007 − 2008 年度)について、便宜的に障害の程度を 0:全く動 かない、完全に障害されている、 1 :不十分ない し不完全に障害されている、 2 :良好、障害なし として評価したものを表 10 に示した。摂食・嚥 下能力のグレードについて評価時と最終も示して ある。このように評価すると Wallenberg 症候群 の詳細な病態が把握できるとともに経時的変化も 捉えやすい。現在症例を増やし嚥下障害の予後を 予測できるか否かについて検討中である。 8 . 中 田 瑞 穂 の 論 文22)と 食 塊 の 咽 頭 通 過 側23),24) 中田は先の豊倉の論文でも引用されているが、 本邦で Wallenberg 症候群を体験した脳神経外科 医の記録として大変示唆に富む内容を記述してい る。筆者は脳神経外科1年目の研修先で、中田先 生からご指導を受けたことのある医師に巡り会 い、この論文を読むことを薦められた。この論文

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の中で中田は食べるときに患側を下にした側臥位 がよいと論文に記載しているが、これは筆者が食 塊の咽頭通過側に興味を持つきっかけとなった。 この論文に影響を受けて、当時多くの臨床家が Wallenberg 症候群患者に「患側下の側臥位で摂 食するように」薦めていた。しかし、このために うまく嚥下できず、「健側下の側臥位」にすると嚥 下がうまく行くという症例が多かった。その後、 筆者らが詳細に検討してみると食塊の咽頭通過に は 二 つ の 要 素 が 関 与 し て い る こ と が 判 明 し た25),26)。一つの要素は食塊が口から咽頭に送り 込まれる際に、健側の咽頭が収縮するために食塊 が麻痺側に押しやられ、麻痺して弛緩している患 側の咽頭(下咽頭、梨状窩)に入りやすいことで ある。二つ目の要素は、食塊は麻痺側の食道入口 部を通過することがあるという事実である。この 事実を中田は全く想定していなかった。実際には 食塊が麻痺側の咽頭に送り込まれるとそのまま麻 痺側を通過する可能性が高くなる(表 11)。中田 の体験はまさに麻痺側に送り込まれた食塊が麻痺 側を通過するということであったと思われる。こ の現象は比較的少ないが臨床で遭遇し得る。中田 論文で面白いのは、中田が「食塊は患側食道入口 部を通過せず、必ず健側を通過する」と信じてい たために「麻痺側の下咽頭を食塊が満たし、さら にその上を食塊が通過する」と考察している点で ある。 表 6 温痛覚障害のタイプによる分類 典型的な病巣よりやや腹側 三叉神経脊髄路・脊髄路核(一部)脊髄視床路 非病巣側 病巣側上部 ventral 三叉神経脊髄路・脊髄路核、脊髄視床路 非病巣側 病巣側 typical Ⅰ型 病巣 四肢・体幹 顔面 Currier 早川 三叉神経視床路(交叉後の上向伝導路) 典型的な病巣よりかなり腹側 非病巣側 非病巣側 more ventral than ventral type Ⅱ型 三叉神経視床路(交叉後の上向伝導路) 典型的な病巣よりかなり腹側、外側 非病巣側 両側顔面 dorsal-ventral Ⅲ型 三叉神経脊髄路・脊髄路核が intact 病巣側下部 dorsal 三叉神経脊髄路・脊髄路核、三叉神経視床路が intact 典型的な病巣よりかなり外側、脊髄視床路 非病巣側 intact supeficial Ⅳ型 三叉神経脊髄路・脊髄路核、脊髄視床路 三叉神経脊髄路・脊髄路核の中で上顎神経・下顎 神経関連部分の障害 intact 表 7 病巣 上下方向と水平方向の割合 198 症例 上部 46 計 198※ 背側 12 巨大 42 外側 51 典型 60 腹側 29 22% 7% 下部 69 42% 5 % 33% 7 % 37% 13% 中間 83 23% 11% 22% 7 % 30% 28% 6 % 21% 26% 30% 15% 計 198 35% 4 % 7 % 59% ※分類不能 4 を含む

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9 .咽頭喉頭の感覚 筆者らは咽頭喉頭の感覚テストを探触子で行う 方法27),28)を開発している。このテストで調べる と Wallenberg 症候群では患側の咽頭喉頭感覚が 低下していることがあるが、もう一つ見逃せない 点があった。それは感覚の局在が同定できないこ とである。つまり、患側を刺激して感覚低下があ る患者に、健側を刺激すると刺激されたことは分 かるが、どこを刺激したか、さらに左右のいずれ を刺激したかさえ認知できない。咽頭喉頭の感覚 は局在のない内臓感覚であると考えられる。前項 で述べた中田の論文も咽頭感覚の局在(左右)が 自覚できない事が大いに関与していると考えられ る。 10.治療法:リハビリテーション訓練と代償法 Wallenberg 症候群の嚥下障害に対しては基礎 訓練として空嚥下、頭部挙上訓練、バルーン法29) 構音訓練、呼吸リハビリテーションなどが行われ 表 8 病変部位と症状 6(17%) 34(26%) 顔面同側 8(14%) 11(31%) 32(25%) 顔面交代 129(99%) 感覚障害 下部病変(57) 上部病変(30) 31(89%) 120(92%) 失調 19(33%) 3( 8 %) 27(21%) 四肢のみ 4( 7 %) 3( 8 %) 13(10%) 同側顔面のみ 4( 7 %) 9(26%) 18(14%) 両側顔面 20(35%) 10(28%) 28(22%) 構音障害 7(12%) 26(74%) 52(40%) 重症 27(47%) 29(83%) 84(65%) 嚥下障害 40(70%) 17(49%) 79(61%) 重症 56(98%) 4( 7 %) 14(37%) 27(21%) 顔面麻痺 34(60%) 13(36%) 67(52%) 頭痛 7(12%) 表 9 各症状間の相関 失調 − − − − ++ めまい しゃっくり 嗄声 構音障害 嚥下障害 失調 めまい − − 構音障害 ++ ++ ++ − − 嚥下障害 − − − − ++ ++ ++ − − しゃっくり + ++ − − 嗄声 + ++

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表 10 Wallenberg 症候群­ 要素別に見た障害の程度と嚥下グレード 73 4 1 2 1 2 2 1 有 2 0 2 1 2 1 2 披裂・声門 の動き カーテン 現象 咽頭 収縮 声門閉鎖 鼻咽 腔閉 鎖 喉頭 挙上 喉頭 蓋反 転 嚥下 Gr 男 85 37 51 89 年齢 1 2 2 1 有 2 2 2 1 2 1 2 2 ○ 男 0 1 0 1 1 評価時 最終 性別 病巣側 1 軟口蓋の 動き 咽頭の動き UES 開大 ○ 有 2 0 1 1 2 1 ○ 男 69 9 1 1 1 0 1 4 0 右 左 右 左 右 左 右 左 右 左 有 0 2 1 ○ 男 64 7 1 1 1 2 2 1 9 男 ○ 0 0 0 2 0 1 1 2 有 1 2 0 ○ 男 61 4 4 1 1 2 1 1 有 2 0 1 2 2 0 2 0 2 1 2 有 1 2 2 1 1 1 60 2 1 1 1 2 2 1 有 2 1 1 0 2 1 2 0 1 0 2 1 有 0 2 1 0 0 1 5 女 ○ 1 2 0 1 無 0 0 2 1 0 0 ○ 男 2 ○ 男 79 4 4 0 0 1 1 女 ○ 2 1 有 2 2 1 0 2 1 2 1 ○ 男 60 4 1 1 78 8 2 0 0 2 2 0 有 1 2 0 1 1 2 2 1 2 1 2 1 ○ 男 59 8 1 0 0 1 2 0 1 2 2 1 無 1 2 0 1 1 1 1 2 ○ 女 8 2 1 1 2 2 1 有 2 1 2 有 1 2 0 1 0 1 ○ 男 78 4 1 1 1 1 2 1 2 ○ 男 74 4 1 0 0 1 2 0 2 ○ 男 61 5 1 1 1 1 1 1 有 2 2 1 52 5 1 0 0 1 1 0 有 0 2 0 0 0 2 1 1 2 2 1 有 2 2 1 2 1 2 2 2 ○ 男 有 0 2 0 1 1 2 1 2 ○ 男 50 8 1 2 1 0 2 1 2 ○ 男 46 5 1 1 1 1 2 1 2 ○ 男 77 5 1 1 1 1 0 1 有 0 2 1 表 11 食塊の下咽頭送り込み側と食道入口部通過側 0 左右差なし 患側優位 健側優位 送り込み側 通 過 側 x 2 検定 p < 0.05 不通過 5 10 1 健側優位 3 6 7 患側優位 1 8 0 左右差なし 6 0 0 なし・不良、 1 不十分または不確実、 2 あり・良好

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る。バルーン法に関しては本学会でもしばしば議 論になるが、筆者らのデータでは自然回復期を過 ぎた発症 6 カ月以降でも効果があり、即時効果を 認める症例では特に有効というデータを得てい る30)。多数の施設で行われ、有効であったとされ る症例報告も多い。Wallenberg 症候群で食道入 口部が開かないのは必ずしも輪状咽頭筋弛緩不全 ではないと考えられる31)が、バルーンが食道入 口部のコンプライアンスを改善し、咽頭収縮と食 道入口部開大のタイミングを調整する、喉頭挙上 を促す、感覚刺激になるなどの機序が考えられる。 リハビリテーションを実施しても誤嚥がコント ロールできない、または食道入口部通過が不良で 経口摂取が十分でないなどの場合は輪状咽頭筋切 断術や喉頭挙上術ないし両者の併用などの手術を 行うが、筆者らは輪状咽頭筋切断術後の瘢痕狭窄 予防としてもバルーン法を積極的に使用してい る32),33) 摂食訓練は実際に食物を用いて食べる訓練を行 うものであるが、この際に代償法としての体位調 整が極めて有効である。前項でも述べた口腔から 咽頭への送り込み側と食道入口部の通過側を考慮 して、筆者らは「健側下の側臥位と患側への頸部 回旋」という方法をとることが多い。健側下の側 臥位では重力で食塊が健側の梨状窩に送り込まれ やすくなり、頸部を患側に回旋することで健側の 食道入口部静止圧が低下するために、より健側を 通過しやすくなるためである。側臥位をとらなく ても単独に「患側方向へ頸部を回旋」することで、 食塊が健側に誘導されてそのまま健側を通過する 場合もある。実際に食塊が患側梨状窩に送り込ま れたために食道通過しなかった 15 症例に「健側 下、患側方向への頸部回旋」を 10 症例、「頸部回 旋」のみを 5 症例に実施したところ全体で 12 例 (80%)に有効であった。訓練に際しては適宜、 VF、VE 検査を行い効果判定しながら誤嚥しない よ う に 安 全 に 配 慮 す る。繰 り 返 し に な る が Wallenberg 症候群は解離性動脈瘤が原因のこと もあるので急性期の頸部回旋やバルーン訓練など は病態を良く把握した上で実施しなければならな い。 11.Wallenberg 症候群に付随する興味ある症 候:疼痛、顔面神経麻痺、複視、開口障害 ①疼痛 嚥下障害に気をとられていると見逃しがちであ るが、Wallenberg 症候群は視床病変(視床痛とし て有名)とともに中枢性の疼痛34)を来す疾患と して知られている。患者の中には嚥下障害よりも 疼痛の方がつらいと訴えることさえある。中里 ら35)は Wallenberg 症候群の疼痛について 32 例 中 14 例(44%)にびりびりした灼熱痛ないし熱感 があり、時間とともに軽減するが、完全には消失 しないと報告している。彼らの報告によれば Currier らの typical type(顔面交代性の温痛覚障 害)では 9 例(/14 例)64%に出現し、急性期( 1 週以内)に出現し、5 例は病巣側顔面のみ、4 例は 病巣側顔面と反対側上下肢であったが、より腹側 に病巣がある ventral type (Currier)における疼 痛は 5 例(/14 例)36%であり、急性期に疼痛はみ られず 5 例とも発症 10 − 35 日目に出現し、4 例 では病巣側顔面と反対側上下肢、1 例では反対側 顔面であったとのことである。最終的に残る Wallenberg 症候群の疼痛は顔面の特に眼瞼周囲 に多いとされ、中里らは 9 例/32 例の 28%、Currier らでは 18 例/39 例の 46%で眼瞼周囲の疼痛がみ られている。疼痛が起こる機序としては三叉神経 脊髄路・脊髄路核が障害されて起こる求心路遮断 症候群(C fiber pain)であると考えられる。これ らの疼痛に対しては薬物治療(NSAIDs やモルヒ ネは無効で抗うつ薬のイミプラミン、マプロチリ ンなどや抗痙攣薬のフェニトイン、カルママゼピ ン、ガバペンチンなどが用いられる)がある程度 奏功するので、患者の訴えをよく聞いて適切に対 処する必要がある。 ②顔面神経麻痺 筆者は以前 Wallenberg 症候群に伴う顔面神経 麻痺は病巣が橋に及んでいるために生じるのであ ろうと漠然と考えていた。CT では脳幹病変がよ

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く描出できなかったことも原因している。しか し、近年 MRI で病巣が明らかに延髄に限局され ている症例でも顔面神経麻痺を呈することが分か り、従来の解剖学になかった神経の走行が想定さ れるようになった。Wallenberg 症候群における 顔面神経麻痺の頻度は表 5 で見るとおり 10 − 20%であるが、Currier らの報告18)では 205 例中 の 95 例、46%の高率である。Cavazos ら36)、寺 尾ら37)、Urban ら38)によれば顔面神経の核上性 線維は中脳で交差するものと、延髄内側を下降し て交差してから外側を上行して顔面神経を支配す る線維があるとのことである。従って延髄内側症 候群39)では病巣と反対側の顔面神経麻痺が生じ、 Wallenberg 症候群(延髄外側症候群)では病巣側 の顔面神経麻痺が生じ得る。 ③複視 Wallenberg 症候群ではめまいが高頻度にみら れるが、複視についてもかなりの頻度でみられる と い う 報 告 が あ る。筆 者 は 医 師 に な っ た 頃、 Wallenberg 症候群の患者が複視を訴えてもやは り延髄以外の上部脳幹に病変があるのであろうく らいに考えていた。しかし中里ら40)の論文を読 んで延髄の病巣で眼球運動が生じることをはじめ て知った。浅学と観察の甘さを思い知った。この 論文によれば複視は otolith-ocular pathway の損 傷によるとされ、病巣側の眼球が下方に偏倚する skew deviation による眼球回旋が原因であるとい う。水平方向への複視は内側縦束(MLF)症候群 が合併しているため健側の眼球も下方に偏倚して いるとのことである。 ④開口障害 筆者は Wallenberg 症候群に開口障害を合併し た患者を経験しているが、文献的に調べ得た範囲 では Wallenberg 症候群で開口障害が起こるとす る報告は見当たらない。ただし、患者の斎藤和博 氏が体験記を「嚥下障害の臨床」に投稿されてい て41)、その中に開口障害が記載されている。一般 的に Wallenberg 症候群における開口障害の原因 としては顔面神経麻痺に伴う顎関節症を考える。 しかし、顎関節症がない場合でも三叉神経運動核 の障害が原因で咬筋の痙性亢進による開口障害が 起こり得る42)-47)。診断は筋電図、MRI(咬筋)な どで行い、下顎神経ブロックが有効である。ボツ リヌス治療も奏功すると思われる。図 4、図 5 に 図 4 顎関節の MRI

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筆者らが経験した症例の MRI と筋電図を示した。 咬筋の過緊張(開口時にも左咬筋が収縮:奇異性 収縮)がみられ、下顎神経ブロック後には過緊張 がとれた状態の筋電図を示した。下顎神経ブロッ クで臨床的に開口が得られている。 以上 Wallenberg 症候群における嚥下障害と付 随する興味ある症候について概説した。 本論文の要旨は、第 32 回日本嚥下医学会(於: 大阪市)にて教育講演として口演した。

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図 1 脳幹部の血管支配(文献 8)より引用改変)㪙㫃㫆㫆㪻㩷㪪㫌㫇㫇㫃㫐㩷㫆㪽㩷㪙㫉㪸㫀㫅㩷㪪㫋㪼㫄㪣㫋㪅㩷㪪㪚㪘㪙㪸㫊㫀㫃㪸㫉㪸㫉㫋㪼㫉㫐㩿㪙㪘㪀㪣㫋㪅㩷㪘㪠㪚㪘㪣㫋㪅㩷㪧㪠㪚㪘㪣㫋㪅㩷㪭㪘㪘㫌㫋㪼㫉㫀㫆㫉㫊㫇㫀㫅㪸㫃㩷㪸㫉㫋㪼㫉㫐㩿㪘㪪㪘㪀㪣㪸㫋㪼㫉㪸㫃㩷㫃㪼㫊㫀㫆㫅 㪤㪼㪻㫌㫃㫃㪸 㸏㸐㸏㸐㸒㪣㪅㩷㪭㪘㪘㪪㪘㪩䌴㪅㩷㪭㪘㸒 図 2 典型的な Wallenberg 症候群の病巣
図 3 年齢分布 ⒌䉌 ⡛㓮ਃᣇේ∛㒮⒌䉌⡛㓮ਃᣇේ∛㒮㪉㪇ᱦએਅ㪊㪇㪋㪇㪌㪇㪍㪇㪎㪇㪏㪇㪈㪈㪈㪈㪌㪊㪊㪈㪐㪎㪐㪉㪉㪊㪇㪋㪉㪊㪏㪍㪈 表 4 Wallenberg 症候群における臨床統計 1:1.24 / 1:1.1782 / 3466 / 292:1 / 4:145 / 13103 / 53秦ら/聖隷三方原病院右:左左延髄右延髄男:女女男性比、病巣側(人) 表 5 Wallenberg 症候群の症状・徴候 84%76%97%72%失調34 例38 例151 例Caplan15) (1996)金子ら14)(
表 10 Wallenberg 症候群­ 要素別に見た障害の程度と嚥下グレード 73 4121221有2021212披裂・声門の動きカーテン現象咽頭収縮声門閉鎖鼻咽腔閉鎖喉頭挙上喉頭蓋反転 嚥下 Gr 男853751 89 年齢 1221有22212122○男01011 評価時 最終性別病巣側1軟口蓋の動き咽頭の動きUES 開大○有201121○男6991110140右左右左右左右左右左有021○男6471112219男○00020112有120○男614411211有20122020212有1221116

参照

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