博 士 ( 理 学 ) 江 口 博 明
学 位 論 文 題 名
各種螢光プ口一ブによるH ゛,K ゛‑ATPase の 構造変化に関する研究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ば,K十‑ATPaseは胃粘膜壁細胞に存在し、胃酸分泌に直接関与するプ口トンポンプで あ る。 本酵 素 の調 節機 構の異常は、胃潰瘍等を 引き起こすことが知られている。従っ て 、胃 酸の 分 泌機 構を 分子レベルで解明するこ とは生体におけるエネルギー変換機構 の理解 のためのみならず医学的側面からも重要である。
本酵 素は、Na十,K十‑ATPaseとほぼ同様の反応機構でカチオンを輸送すると考えられ て いる が、 本 酵素 がATP加 水分 解中 いか な る構 造変 化を伴うかに関しては、ほとんど 不明で ある。
内因 性Tryptophan螢 光、螢光SH試薬N‑[p‑2‑ (benzimidazolyl) phenyl] maleimide (BIPM)や螢光アミノ試薬fluorescein5|‑isothiocyanate (FITC)は、Na十,K十‑ATPaseの 真時間 での構造変化の研究に用いられ、反応機構の解明に重要な役割を果たしている。
しかし 、ぼ,K十‑ATPaseに関するこの様な視点からの研究は、ほとんど行われていなか った。
本研 究では、ば,K十‑ATP aseの りン酸化および脱リン酸化に伴う真時間での構造変 化を、 各種の螢光プロープを用いて解析した。
まず、内因性tryptophan残基の螢光がりン酸化 によって変化するか否かを検討した。
酵 素のtryptophan螢 光は 、ATPによ るりン酸化で増加 、脱リン酸化で減少した。ATP より小分子のりン酸化基質Acetyl phosphate (AcP)によるりン酸化に伴う螢光の増加の 程 度 は 、ATPに よ る 変 化 に 比 ぺ 約50% 低 下 し た 。 こ の 理 由 を 確 かめ るた めにATPと AcPか ら 形成 され るり ン 酸化 酵素 量を 測定 した 。そ の結 果、ATPか らの りン 酸化 酵素 量は 、ATPの 結 合量 およ びAcPか らの りン 酸化酵素量の約半分であることが示された 。 これらの結果その他は、ばっK゛‑ATPaseが二量体 で機能していることを明白に示してい た。
AcPか ら形 成し たり ン酸 化酵 素の 性質 を調 べ るた め、ATPの結 合を 阻止 す るとされ るFITCを ぼ ,K゛‑ATPaseに 導入 した 酵 素標 品とAcPを用 いて 、リ ン 酸化 に伴 う酵 素 の 構造 変化 を調 べ た。
修飾 酵素 のFITC螢光 強度 は、AcPによ る酵 素 のり ン酸 化に 伴い 増加 し、K゛による 脱 リン 酸化 で減 少 した 。ま た、AcPに対 する 修 飾酵素の親和性 が、酸性で著しく増加 す る こ と がFITC螢 光 変 化か ら示 唆さ れ た。 酸性 にお けるAcPと修 飾 酵素 の親 和性 の 変 化を 確か める た め、 放射 性AcPを 用い てり ン 酸化 酵素 形成 反応 を行 った 。AcPによ っ て、 濃度 依存 的 にり ン酸 化酵 素が 形成 され 、AcPに対する修 飾酵素の親和性は、酸
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性で 増加 する こと が確 かめ られ た。 こ れら 酵素 とAcPの反応 性は、本来の基質である ATPと類 似 して おり 、従 来の 報告 に反 してAcPで もプ 口ト ンが 輸送 され るこ とが 予想 された。そこで、acridine orangeとぼ,K十‑ATPase小胞を用いて、本酵素によるプロト ン輸 送を 測定 した 。そ の結 果、中性ではK十依存phosphataseによる分解が生じ、ば輸 送 は 生 じ な い が 、pH 5.0に おい てAcPによ って ぼが 輸送 され る こと が初 めて 証明 さ れた。
以 上 の 結 果 か ら 、AcPはATPと 同 様 に 正 反 応 でE2P'を 形 成 し 、AcPに よ っ て プ ロトンが輸送されることが示唆された。
上 記 の 結 果 か らATPとAcPの 反 応 性 が 明 ら か と な っ たが 、FITCプ ロー ブで は、 本 来 の 基 質 で あ るATPを 用 いた 構造 解 析が でき ない 。ま た、 酵素 内在 性tryptophan螢 光は 、ATPによ る構 造変 化の 検出 が可 能だ が螢 光変 化量 が微 小で あ る。 そこ で、ATP によ って 生じ る構 造変 化を 検出 する 螢 光プ ロー ブの 導入 を目 的と して 、BIPMに よる ぼ,K+‑ATPaseの修 飾を 試み た。
BIPMが 約1分 子 導 入 さ れ た 酵 素 標 品 は 、ATPase活 性 お よ び り ン 酸 化 酵 素 形 成 能 を完 全に 保持 して いた 。ま た、BIPMプ 口ー プはATPによ るり ン酸 化 で螢 光減 少、K十 の有 無に よる 脱リ ン酸 化で 増加 を示 し た。 螢光 強度 変化 を示 すBIPMの 結合 部位 を同 定す るた め、TPCK‑trypsinによ って 修 飾酵 素を 分解 した 。単 離し たBIPMベ プチ ドの アミ ノ酸 シー クェ ンス 分析 から 、BIPMプロ ープ の結 合部 位は 、二 番目 の細 胞質 領域 中に あるCys 241と 同定 した 。
BIPMと は 異 な る 部 位 の 微 少 環 境 変 化 を 検 出 し 、BIPMの螢 光エ ネル ギー 移動 の受 容体と なり得る螢光プ口ープの導入を目的として、 N‑( l‑anilinonaphtyl‑4)maleimide (ANM)によるば,K十‑ATPaseの修飾 を試みた。
ANMが1分 子 導 入 さ れ た 酵 素 標 品 は 、ATPase活 性 お よ びり ン酸 化酵 素形 成能 を完 全 に 保 持 し て い た 。 ま た 、ANMプ ロ ー ブ はATPに よ る り ン 酸 化 で 螢 光 減 少 、K゛ の 有 無 に よ る 脱 リ ン 酸 化 で 増 加を 示し た。 螢光 強度 変化 を示 すANMの結 合部 位を 同定 す るた め、 各 種プ 口テ アー ゼに よっ て修 飾酵 素を 分解 したが、ANM結合ベプ チドは、
い ず れ の プ ロ テ ア ー ゼ を 用 い て も 可 溶 化 す る こ と が で き な か っ た 。ANM結 合a― subunitを0.1%SDS存 在 下Achromobactor proteaseIで処 理し 、 分解 物をSDSポリ ア クリ ルア ミ ドゲ ル電 気泳 動で 分析 した 結果 、ANM結合ベプチドの分子量は 、5.7‐ 14.3 KDaで あ っ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、ANMの 結 合 部 位 は 膜 貫 通 領 域 に 存 在 す る Cystein残基に結合していると思わ れる。.
以上 の結果は、ば,K十‑ATPaseが二量体で機能していること 、さらに、従来輸送基質 と は な ら な い と さ れ て い たAcPが 、 ば の 輸 送 を 行 う こ と 、 ま た 、ATPに 依 存 し た ば ,K゛‑ATPase反 応に 伴う 構造 変化 が、Cys 241に 導入したBIPMプ口ープその他によ って追 跡可能であることを初めて示したものである。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 谷 口 和 彌 副 査 教 授 盛 田 フ ミ 副 査 教 授 田 村 守
学 位 論 文 題 名
各 種 螢 光 プロ ーブ による H+ , K+ ― ATPase の 構 造 変 化 に 関 す る 研 究
H゛,K゛‑ATPaseは胃粘膜壁細胞に存在し、胃酸分泌に直接関与するプロトンポンプである。
本酵素の調節機構の異常は、胃漬瘍 等を引き起こすことが知られている。従って、胃酸の 分泌機構を分子レベルで解明するこ とは生体におけるエネルギー変換機構の理解のための みならず医学的側面からも重要である。
本研究では、H゛,K゛−ATPaseのりン酸化および脱リン酸化に伴う真時間での構造変化を、
各種の螢光プローブを用いて解析した。
酵素 のtryptophan蛍 光は 、ATPに よる りン酸化で増加、 脱リン酸化で減少した。ATPより 小分子のりン酸化基質Acetyl phosphate (AcP)によるりン酸化に伴う蛍光の増加の程度は、
ATPに よ る 変 化 に 比 べ 約50% 低 下 した 。ATPとAcPから 形成 され るり ン酸 化酵 素量 を測 定し た、ATPか らの りン 酸化 酵素 量は 、ATPの結 合量 およ びAcPからのりン酸化酵素 量の 約半分であることが示された。これらの結果その他は、H゛,K+一ATPaseが二量体で機能してい ることを明白に示していた。
FITCをH゛,K゛一ATPaseに導入した酵素標品のFITC螢 光強度は、AcPによる酵素の りン 酸化に伴い増加し、K゛による脱リン酸化で減少した。また、AcPに対する修飾酵素の親和 性が 、酸 性で 著 しく 増加 する こと がFITC螢 光変 化か ら示 唆さ れた 。酸性におけるAcPと 修飾 酵素 の親 和性の変化を確かめるため、放射性AcPを用いてりン酸化酵素形成反応 を行 った。AcPによって、濃度依存的にりン酸化酵素が形成され、AcPに対する修飾酵素の親和 性は、酸性で増加することが確かめられた。そこで、acridine orangeとH゛,K゛−ATPase小 胞 を 用 い て 、 本 酵 素 に よ る プ ロ ト ン 輸 送 を 測 定 し た 。 そ の 結 果 、 中 性 で はK゛ 依 存 phosphataseに よる 分解 が生 じ、H゛輸 送は生じないが、pH 5.0においてAcPによってH゛ が輸送されることが初めて証明された。
以 上 の 結 果 か ら 、AcPはATPと 同 様 に 正 反 応 でE2Pを 形 成 し 、AcPによ って プロ トン が輸送されることが示唆された。
上 記の 結果 か らATPとAcPの 反応 性が 明らからとなったが、FITCプローブでは、本 来の 基質 であ るATPを用 いた 構造 解析 がで きない。そこで、ATPによって生じる構造変化 を検 出する螢光プローブの導入を目的と して、BIPMによるH゛,K゛−ATPaseの修飾を試みた。
BIPMが約1分子 導入 され た酵 素標 品は 、ATPase活 性お よび りン 酸化酵素形成能を完 全に 保持 して いた 。 また 、BIPMプ ロー ブはATPによるりン酸 化で螢光減少、K゛の有無に よる 脱 リ ン 酸 化 で 増 加 を 示 し た 。 螢 光 強 度 変 化 を 示 すBIPMの 結 合 部位 を同 定す るた め、
TPCK―trypsinによって修飾 酵素を分解した。単離したBIPMペプチドのアミノ酸シー クエ ンス 分析 から 、BIPMプローブの結合部位は、二番目の細 胞質領域中にあるCys 241と 同定 した。 BIPMとは異なる部位の微少環境変 化を検出し、BIPMの螢光エネルギー移動の受容体とな り得る蛍光プローブの導入を目的として、N−(l‑anilinonaphtyl―4)maleimide (ANM)による H゛,K゛一ATPaseの修飾を試みた。
ANMが1分子導入された酵素標品は、ATPase活性韜よびりン酸化酵素形成能を完全に保持し てい た。 また 、ANMプロープ はATPによるりン酸化で螢光 減少、K゛の有無による脱リ ン酸 化で増加を示した。螢光強度変化を 示すANMの結合部位を同定するため、各種プロテアーゼ
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によって修飾酵素を分解したが、ANM結合ペプチドは、いずれのプロテアーゼを用いても可 溶化することができなかった。
本論文は、H゛,K+‑ATPaseが二量体で機能していること、さらに、従来輸送基質とはなら ないと されてい たAcPが、H゛の輸送を行うこと、また、ATPに依存したH゛,K゛一ATPase 反応に 伴う構造 変化が、Cys 241に導入したBIPMプロープその他によって追跡可能である こと を 初 めて示 したもの であり 、この分 野に対し て貢献 すること 大なる ものがあ る。
よっ て 、 著者は 北海道大 学博士 (理学) の学位を 授与さ れる資格 あるも のと認め る。
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