博 士 ( 医 学 ) 葛 城 良 成
学位論文題名
The Effect of Nonphysiologically High Initial Tension on the lVIechanical Properties of In Situ Frozen Anterior Cruciate Ligament inaCanine Model
(成犬モ デルにおいて非生理的に高い初期張カが 凍結処理 前十字靱帯のカ学的特性に与える効果)
学 位論文内容の要旨
1.目的
自家腱移植による前十字靭帯(以下ACL)再建術において、移植時に腱に与える張力
(以下初期張力)がその後に起こる移植腱のりモデリングにどのような影響を与えるかと いう問題は基礎的にも臨床的にも極めて重要な課題である。しかし、これまでこの問題に 関する基礎的な研究は不十分であった。その理由のーっは、再建靭帯の張カを定量的に制 御でき、かつ初期張カの効果のみを他の因子の影響から分離できるような実験モデルが開 発 されていな いことにあ った。著者らはこれらの問題を解決するために、犬のACLを insituで凍結解凍処理することによって、自家腱移植による靭帯再建の本質である線維 芽細胞壊死をACLに選択的に作成できる方法、およびACL脛骨付着部を骨片ごと移動す ることによって初期張カを制御できる方法を開発した。
本研究の目的は、定量的に与えられた過度に高い初期張カが関節内再建ACLモデルで あ る凍結処理ACLのカ学 的特性および組織に与える効果を明らかにすることである。
2.方法
実験には32頭の雄のピーグル成犬を用いた。ネンブ夕一ルを用いた全身麻酔下に両側 の 膝関節を切 開し、特別 に開発したプ口一ブを使用してACLをinsituで凍結処理し、
次 に25℃の生理 食塩水を1分間関節内に流してACLを解凍する手順を3回繰り返した。
この液体窒素プローブはニつ折りにしたステンレス製の細いパイプを二重螺旋状に形成し たもので、一端のシ1」ンジからプ口一ブ内に液体窒素を流せるようになっている。プ口一 ブの外側は他の組織を凍結しないようにウレタン樹脂で塗装し、シリンジ側には発砲ウレ タンのテープを巻いて断熱効果を高めている。まず、このプ口一ブがACLの線維芽細胞 を 死 滅させ る効果を調 べるため、4頭8膝を用い 、凍結処理 後1週(n=4)お よび2週
(n=4)で安 楽死させてACLを採取し、HE染色で組織学的観察を行った。次に別の8頭 16膝を凍結処理をした群(n=8)としない群(n=8)の2群に分けた。ACLを採取し、全 体を大腿骨側1/3(n=4)、中央1/3(n=4)、脛骨側1/3(n=4)に分けて切り出し、各部位 毎 にcollagenase処 理して細胞 成分を分離 後trypanblueで染色し、 全線維芽細 胞中 に占める非染色細胞の存在する割合をviable cell resio(%)と定義し、これを求めた。
次に主実験を行った。ビーグル成犬20頭の両膝ACLを凍結処理後特製のハ口一リーマ
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一を用いてその脛骨付着部を円筒形の骨片を付けて脛骨から遊離させた。右膝では、骨片 を元の位 置に整復してACLに生理的な初期張カを与えて固定することにより生理的張力 群(P群 )と し た。 左 膝で はACLに20Nの初 期 張カ が かかるよう に骨片を遠 位に転移 させ、膝 屈曲60度で骨 片を固定し 過負荷群(H)群とした。動物は術後6週および12週 で 安 楽 死 さ せ 、 各 時 期 と も8頭 を カ 学 試 験 に 、2頭 を 組 織 学 的 解 析 に 供 し た 。 力学試験は、特性の把持具を付けたテンシ口ン万能試験機を用いて行い、靭帯実質部の 伸びの計 測にはvideo dimension analyzerを用いた。まず筋組織を除去した膝につい て90度屈曲 位で50Nの前方引き出しカを加え、脛骨前方移動距離を測定した。次に標本 を 大 腿 骨‑ACL一 脛 骨 複 合 体 に 形 成し 、ACLの 断面 積 をAreamicro met erを 用い て 0.1 2MPaの圧力下で 測定した, 次にACLの 後外方線維 束を鋭的に 切除し、残った前内 方線維束の断面積を同様に計測した。標本を万能試験機に取り付け、一定のカ学的前処置 を加 え た 後に 毎 分20mmのcloss head speedでACLの 破断試験を 行った。得 られた応 力 一 歪 み 曲 線 か ら 引 っ 張 り 強 度 、 modulus、 お よ び 破 断 伸 び を 求 め た 。 両 群 聞 及 び 各 時 期 間 の 比 較 に はpairdt―testお よ び 分 散 分 析 を 用 い た 。 3.結果
凍 結 処理 後1週 で採 取したACLのHE染色では 大腿骨付着 部付近のみ に少数の細 胞を 認めるが、実質部および脛骨側には細胞を全く認めなかった。処理後2週では大腿骨脛骨 付着部付近と実質部表層に少数の細胞を認めた。凍結処理群におけるviable cell resio は大腿骨側2.3%、中央0.0%、脛骨側0.O%、非凍結群はそれぞれ93.7%、94.5%、
94.1%であった。
大腿骨‑ACL一脛 骨複合体の 脛骨前方移 動距離は、術後6週でH群が有意に小さかった が、12週で は有意差を 認めなかっ た。ACL全体の断面積は、いずれの群においても6週 に比べて12週で有意の増加が認められた。しかしいずれの時期においても各群間に有意 差は認めなかった。
引っ張り 強度は、6週では両群間に有意差を認めなかったが、12週ではH群がP群より 有意に低 かった。tangentmodulusも6週では両 群間に有意 差を認めな カゝったが、12 週ではH群がP群より有意に低かった。破断伸びは、いずれの時期においても有意差を認 めなかった。
組織学的 観察では、6週でP群H群とも靭帯表層に楕円形の核を持った細胞の浸潤を認 めたが靭 帯中心部ではほとんど認めなかった。12週ではP群は靭帯中心部まで細胞の進 入を認め、紡錘形の核を持った線維芽細胞様細胞が均一に分布してた。これに対しH群で は細胞はP群と同様に靭帯中心部まで進入していたが楕円形の核を持った細胞が散在して おり、星ぽう状の細胞と多数の空包を伴った変性像が所々に見られた。H群のコラーゲン 線維の配列はP群よりも波打っており不均一だった。
4.考察
本研究は20Nの初期 張カが生理 的初期張カ を与えた場 合と比べて 、12週で凍結処理 ACLの 引 っ 張 り 強 度 お よ びmodulusを 有 意 に 低 下 さ せ る こ と を 明 ら か に し た 。 本研究は 初期張カが凍結処理ACLに与える効果を他の影響因子から分離して明らかに し得た最初の報告であり、貴重な情報を提供できたと考える。
本研究で 負荷した20Nという値は犬の膝の屈伸運動が制限されない範囲での初期張カ の最大値として決定した値であり、この値は生理的範囲を越えて高い負荷と考えられる。
屠殺時における肉眼的観察では移動した骨片は手術時と同じ位置で骨癒合しており、また、
前方動揺 性は6週 でH群 がP群に 比べて有意に小さかった。この事実はACLに与えた高い 張 カ が 少 な く と も6週 間 以 上 有 意 に 高 く 維 持 さ れ て い る こ と を 示 唆 し て る 。
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著者らは除負荷が凍結処理した腱・靭帯組織の引っ張り強度を低下させる、ことを報告し て いるが、本研究の結果は過剰に大きい負荷もまたそれらの組織の強度を低下させる事を 示 した 。こ の2つ のカ 学的 環境 の変化の作用機序は、両者の組織学的所見に差があること か ら異なるものであることが推定される。今後はこの機序の解明が必要であると考える。
本研究結果からの臨床への提言として、ヒトの靭帯再建術における高すぎる初期張カは 有害であることが推定された。
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学 位論文審査の要旨
学位論文題名
The Effect of Nonphysiologically High Initial Tension on the Mechanical Properties of In Situ Frozen Anterior Cruciate LigamentlnaCanineMOdel
(成犬モデルにおいて非生理的に高い初期張カが 凍結処理前十字靱帯のカ学的特性に与える効果)
自 家 腱 移 植 に よ る 前 十 字 靭 帯 ( 以 下ACL) 再 建 術 に おい て、 移植 時に 腱 に与 える 張力 (以 下初 期張 力 )が 移植 腱の り モデ リン グに どの よ うな 影響 を与 える か という問題は極めて 重要な 課題 であ る 。し かし 、こ れ まで この 問題 に関 す る基 礎的 な研 究は 不 十分であった。それ は再建 靭帯 の張 カ を定 量的 に制 御 でき 、か つ初 期張 カ の効 果の みを 他の 因 子の影響から分離で きるよ う な 実 験 モ デ ル が 開 発 さ れ て い な い こ と に あ っ た 。 著 者 ら は 犬 のACLをjロsituで 凍結 解凍 処理 して 線 維芽 細胞 壊死 を 作成 する 方法 およ びACL脛 骨 付着 部を 骨片 ごと 移 動す るこ とに よっ て初期張カを制御で きる方法を開発した。
実 験に は32頭 のビ ーグ ル 成犬 を用 いた 。特 別 に開 発し たプ 口ー ブ を使 用し てACLをin si tu で凍 結処 理 した 。こ の液 体 窒素 プ口 ーブ はス テ ンレ ス製 の細 いバ イ プを二重螺旋状に形 成した も の で 、 シ リ ン ジ か ら 液 体 窒 素 を 流 せ る よ う に な って いる 。こ の プロ ーブ がACLの 線維 芽細 胞 を 死 滅 さ せ る 効 果 を 調 べ る た め4頭8膝 を 用 い 凍 結 処 理 後1週 お よ び2週 でACLを 採 取 し 、 HE染 色 で 組 織 学 的 観 察 を 行 った 。次 に8頭16膝 を凍 結処 理を した 群 とし ない 群の2群 に分 けて ACLを 採 取 し 、 大 腿 骨 側 、 中 央 、 脛 骨 側 に 分 け てcollagenase処 理 し て 細 胞 成 分 を 分 離 後 trypan blueで染 色 し、 非染 色細 胞の 存 在す る割 合(viable cell ratio)を求めた。次に20頭の 両膝ACLを凍 結処 理 後特 製の ハロ ←リ ー マー を用 いて そ の脛 骨付 着部 を骨 片 を付 けて 遊離 させ た。 右膝 で は、 骨片 を元 の 位置 に整 復し て固 定 する こと によ り生 理 的張 力群 (P群) とし 、左 膝 で はACLに20Nの 初 期 張 カ が か か る よ う に 骨 片 を 遠 位 に 転 移 さ せ て 固 定 し 過 負 荷 群 (H) 群と した 。 動物 は術 後6週お よび12週 で 安楽 死させ、各時期 とも8頭をカ学試験に、2頭を 組織学 的解 析に 供 した 。力 学試 験 はテ ンシ 口ン 万能 試 験機 を用 いて 行い 、 靭帯実質部の伸びの 計測に はvideo dimension analyzerを 用い た。 まず 膝90度 屈曲 位50Nの 前方 引き 出 しカ での 脛骨 前方 移動 距離 を 測定 した 。次 にACLの 断面 積 をArea一micrometerを用 いて 測定 し た後 後外 方線 維束 を 鋭 的 に 切 除 し 残 っ た 前 内 方 線 維 束 の 断 面 積 を 計 測し た。ACLの破 断試 験 を行 い、 得ら れた 応カ ー歪 み 曲線 から 引っ 張 り強 度、modulus、および破断伸 びを求めた。両群聞及び各時 期間の 比較には分散分析を 用いた。
凍 結 処 理 後1週 のHE染 色 で は 実 質 部 に は 細 胞 を 全 く 認 め な か っ た 。 処 理 後2週で は実 質部 表層に少数の細胞を認めた。凍結処理群におけるviable cell ratioは大腿骨側2.3%、中央O.0%、
脛骨 側O.0%で あっ た。脛骨前方 移動距離は、術後6週でH群 が有意に小さかったが、12週 では有
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平 明
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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意差を認めなかった。ACLの断面積は、いずれの群においても6週に比べて12週で有意の増加 が認められた。しかしいずれの時期においても各群間に有意差は認めなかった。引っ張り強度 は、6週では両群間に有意差を認めなかったが、12週 ではH群がP群より有意に低かった。
tangent modulusも6週では両群間に有意差を認めなかったが、12週ではH群がP群より有意に 低かった。破断伸びは、いずれの時期においても有意差を認めなかった。組織学的観察では、6 週でP群およびH群とも靭 帯中心部に細胞をほとんど認めなかった。12週ではP群は靭帯中心 部まで線維芽細胞様細胞が均一に分布していた。これに対しH群では楕円形の核を持った細胞 が散在しており、多数の空胞を伴った変性像が所々に見られた,本研究は20Nの初期張カが生 理的初期張カを与えた場 合と比ぺて12週で凍結処理ACLの引っ張り強度およびmodulusを有 意 に低 下さ せる こと を明 らか にし た。 今後 はこ の 機序 の解 明が 必要 であると考える。
口頭発表において副査の三浪教授よりカ学的特性低下の機序および靭帯停止部の変化につい て、安田教授より生体軟組織のカ学試験における困難性と本研究におけるその解決方法につい て、さらに主査の杉原教授より実験環境の詳細および臨床的靱帯再建術における初期張力設定 の意義について質問があり、これらに対して申請者は自己の研究結果と文献的知識に基づいて 概ね妥当な回答を行った。
この研究は初期張カが自家移植腱モデルに与える効果を他の影響因子から分離して精密に明 らかにし得た最初の報告であり,この結果および研究方法は腱・靭帯組織のルモデリングに関 する今後の研究を進展させることが期待される。審査員一同はこれらの成果を高く評価し、申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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