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博 士 ( 水 産 学) 齊 藤干 鶴

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 学) 齊 藤干 鶴      学位論文題名

セジメント トラップによる 海水 中化学物質 の動態に関す る研究

学位論文 内容の要旨

  海 洋に運 ばれて きた 化学物 質は長 時間にわたって様々ナょ変化を受け最終的には堆積物になる。

そ の際海 洋表層 の物質 をと りこみ ,底層 ヘ運ん でいく 役割 をして いるの が沈降 粒子である。沈降 粒 子はセ ジメン トトラ ップ という 筒状あ るいは 漏斗状 の特 殊な装 置を海 水中に 係留して捕集し,

有 機物, 生物起 源のケ イ酸 塩(オ パール ),ア ルミノ ケイ 酸塩( 粘土粒 子),CaCOヨが主成分で あ る。生 物起源 物質の 粒子 束は時 間的・ 地域的 に大き く変 化し, 海洋表 層での 生物活動の活発さ を たいへ んよく 反映し てい る。陸 起源粒 子は粒 子が細 かく ,それ 自身だ けで沈 降する事は希であ り , 生 物 起源 粒 子 に 取 り込 ま れて 沈降 する事 が多い 。本研 究で はまず 陸起源 粒子に 注目し た。

  Alは 地 殻 を 構 成す る ア ル ミ ノケ イ 酸 塩 の 平 均8% を 占 め てお り(Taylor 1964), 海洋に おけ る 陸起源 粒子を 代表し てい る。こ れまで のセジ メント トラ ップ実 験によ って, 海水中を沈降する Alの 粒 子 束 が ほ と ん ど の 海 域 で 深 さと と も に 増 大す る 事 実 が 見い 出 さ れ て お り( 例 え ば , Brewer et al.,1980;Tsunogai et al.,1982),粒子 の水平 方向 からの 輸送が その原 因と され て い る 。 また 海 水 中 のAl, っ まり 土壌粒 子は主 に大気 圏を 経由し て運ば れたも ので あり( 例え ば ,Duce et al.,1980;Betzer et al.,1988), 北太 平洋洋上大気中の土壌粒子の供給源はアジ ア 大 陸 にあ るとさ れてい る。 さらに 大気中Al濃度 は大陸 東岸か らの距 離が500‑‑‑700km毎に半 減 す る こ と から , そ の 海 洋へ の 効 果 は 西部 北 太 平 洋 で 極め て 大 き い はず と の 報告が されて いる (Tsunogai et al.,1985,1988)。しか しこの ことを 海洋 中沈降 粒子か らの見 積も りと比 較検討 す るには 至って いない 。そ こでま ず,大 気由来 の陸起 源粒 子が多いと予想される西部北太平洋(W P−1,2,3,EM―1,JS,JT−01,SB―1), 及 び 比 較 と し て 北 部 北 太 平 洋(NP―B) を 実 験 海 域 と し て セ ジ メ ン ト ト ラ ッ プ 実 験 を 行 な い , そ の 結 果 を 解 析 し た 。   日 本 海 溝(JT−01) 底 層 近 く で ,6% 以上 と い う 最 も大 き な 粒 子 中Al濃 度 が 観測 さ れ た 。 外 洋 に お い てこ の よ う な 高いAl濃 度 はこ れ ま で 報 告さ れ て い な い (例 え ばBrewer et al.

1980;Noriki and Tsunogai,1986)。 日 本 海 溝 北 部 の 斜 面 , 水深5.2kmのEM―1で は 平 均

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12. 7mg/rrfdayと いう最 も大き なAl−fluxが観測 され た。こ れは南 極海, 水深3.13kmでの値 の 100倍 はあ っ た 。 ま た ,本 研 究 に お いて もAlの 粒子 束 は深 度とと もに 増加し ており ,Al濃 度も 鉛 直的に 増加 してい た。

  外 洋 に 運ば れ て い る 陸起 源 物 質は主 に大気 経由 である という 点を明 らか にする ために ,Al粒 子 束 の 表 層Omに お け る 値を 外 挿 (最小 自乗法 )し て求め 比較し た。四 国海 盆(SB―1) では3.2 mg/rrfday,西 部 北 太 平 洋域 (WP) ではO.5〜3. 8mg/m2dayであり ,中 央,東 部北太 平洋に 比 べ てより 大き な値で あった 。これ を鈴 木と角 皆.(1987)が 見積もった西部北太平洋域における土 壌 物 質 の 降 下量 と 比 較 す ると , 八 丈 島 で3.1, 父 島で は1.6mg/而dayであ り,両 者はほ ぼ一致 し ていた 。し たがっ て海洋 表層に おけ る陸起 源粒子 は,ア ジア大 陸か ら北太 平洋を風によって運 ば れたと 考え ても矛 盾はな い。

  し か し 鉛直 的 に 増 加 するAlの粒 子束 は直上 大気の みから 説明す るこ とはで きず, 粒子の 水平 移 動によ る付 加を考 えなく てはな らな い。そ こでト ラップ 設置水 深よ りも浅 い海域の表層堆積物 中 のFe/AlとMg7K比 に 着 目 し , 捕 促 さ れ た 粒 子 の 各 比 と 比 較し た 。 大 陸 地殻 の 主 成 分 であ るKは ア ル カリ 金 属 ,Mgは 海 洋 地 殻 の主 成 分 で ア ルカ リ 土類金 属であ り, 海洋に おける 滞留時 間 は 大 変 長 い ( 角 皆と 乗 木1984)。 し かしBrewer et al.(1980)やMasuzawa et al.(1989) はKがlithogenicな 元 素 で あ る と 指 摘 し てい る 。 事 実 沈降 粒 子 中 のAl含 量 とK含量 は ほ ぼ 直 線 の 関 係 に あ り , 沈 降 中 に 溶 解 す る 傾 向 は み ら れ な か っ た 。沈 降 粒 子 中 のFe/Al,Mg/K比 と 堆積物 中の 比を比 べると 両者は よく 一致し ていた 。

  Al含 量 の 大き な 測 点 で は,Fe/Al,Mg7K比 と も 鉛 直 的に 大 き な 変 動は ナ ょ か っ たが , 地 域 的 ナょ差 異が 見られ た。西 部北太 平洋 を日本の東岸から伊豆,小笠原海嶺で東西に分けたとき,東 側 で はFe/Al比 がO.55以 上 ,Mg7K比 が1以 上 で あ るの に 対 し て , 西側 で は そ れ ぞれ0.50と O. 70程 度 であ っ た 。 伊 豆, 小 笠 原 海 嶺東 側 の 西 部 北 太平 洋 域 に お けるFe/Al比 やMg7K比 は 海 洋地殻 を構 成する 玄武岩 のそれ らに 一致す るもの であり ,大陸 地殻 の物質 とは明らかに異なっ て い る 。 実 際 ,high dust season(2〜6月 ) に 奥 尻 島 で 測定 し た 大 気 降下 物 中 のFe/Al, Mg7K比 はO.54とO.79で あ り (鈴 木1986), 大 気 経由 で 海 洋 に 運ば れ る 黄 砂 の 発す る 地 域 で

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る。

  次 い で , 生 物 活 動 の 活 発 な 北 部 北 太 平洋 にお け る粒 子中 の金 属 成分 に注 目し た。

  Bruland (1980)は,海水中のNi,Cd,Cuの鉛直分布が栄養 塩に似ており,NiとCdは海水 柱内で再生,逆にCuは除去されている事を示した。そこでセジメントトラップを用いて,粒子 側からの直接測定を行ない,推定量が一致するか検証した。

  セ ジ メ ン ト 卜 ラ ッ プ 実 験 は 北 部(BS―1,ON−2,NP−B), 西 部(WP―4,EM―1, JT―01,SB―1)および東部北太平洋(AK―1)で行った。

  ON―2とAK―1は セ ジ メ ン ト 卜 ラ ッ プ を係 留し た 時期 が6〜8月 と6〜7月と ほば 同じ で, 同型のNH型セジメントトラッ プを使用しており,東西の違いが比較できる。この2地点 で の大 き な違 いは ,東 部 北太平洋のAK―1ではOpalとCaC03がほぼ同量40%ずつで あるの に対 して,西部北太平洋のON―2では圧倒的にOpalが多く,この時期は60%を越えていたこ とで ある。これにともないCu,Ni,Cdなど金属成分は,東部 が西部に比べて濃度が高く,

4000m層では濃度,粒子束ともに東部の方がほば一桁大きくなっていた。東部北太平洋での金属 成分の高濃度はNoriki and Tsunogai (1992)も述べている。

  Tsunogai et al.(1982)は,溶存態重金属の分布から,1〜4. 5kmの海洋深層水柱内で除去さ れ る重 金 属量 を見 積も り ,NiとCdはそれぞれO.6と0.4Ug/nfdayで溶出,Cuは2肛g/而 dayで 粒子 態と し て除 去さ れて いる こ とを 示し た。そ こでNP−BとON―2で得たCu,Ni, Cdのfluxを一次関数的に増加すると仮定して,最小自乗法で1kmと4.5kmでの粒子束を計算し,

3. 5kmの水柱内での再生あるいは除去量を見積もった。その結果,粒子態の方からもCuの除去 が 明らかとなり,大きさも3〜4〃g/rrfdayとほぼ同じ であった。一方,NiとCdは 再生し てお り,粒子から溶け出していた。Cdの再生量は溶存態から見積もった量の1/4であるが,

両測点ではほぼ同じO. 111g/nfdayであった。このように溶存態と粒子態からの推定量はほぼ 一 致 し , 海 洋 に お け る Cu, Ni, Cdの 基 本 的 な 挙 動 が 明 ら か と な っ た 。   以上のようにセジメントトラップを用いて,沈降粒子が海洋での物質循環に果たす役割を明ら かにした。

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学位論文審査の要旨

    海洋は全ての物質の最終到着場所である。その主な輸送経路は河川とされてきたが,最近では   大気からの流入も注目されている。海洋に輸送された物質の多くは,生物活動によって粒子化さ

.れ,急速に沈降する粒子によって運ばれている。この粒子がどのような情報を携えて沈降してい   くのか,セジメントトラップ実験は,その粒子を捕促し,その分析から直接的な情報が得られる   ので,近年盛んになっている。

    本研究では西部および北部北太平洋で得られた沈降粒子試料から,これまで限られた情報しか   得 ら れ て い な か っ た 化 学 物 質 の 動 態 に っ い て 重 要 な 情 報 を 得 て い る 。     本研究の第1部では,大気からの土壌粒子降下量が大きいと予想される西部北太平洋を中心に   8点で,セジメントトラップ実験を行なった。捕集した沈降粒子中の土壌粒子(アルミノケイ酸   塩)の指標となるAlと,ほぼそれに似た傾向を示すFe,大陸地殻組成の代表としてのK,海   洋地殻代表のMgなどの化学成分を測定し,以下の成果が得られた。

  1)日本周辺の西部北 太平洋では,他海域に比べてl〜2桁大きいAl(っまり土壌粒子の)粒     子束が観測された。

  2)鉛直 的 に増 加す るAl粒子束を最小自乗法で表 層Omに外挿し,大気からのAl降下量と比     較したところ,両者はほぼ一致した。これは海洋表層水中の土壌粒子は大気由来ということを     示 し て い る が , そ れ 以 外 に も 土 壌 粒 子 の 供 給 源 が あ る こ と を 示 し て い る 。   3)KとMgは海 水中 の主 要成 分 であ るが ,粒 子中 のK7Al,Mg/Al比 は鉛直的 にも季節的

静 清

昌 義

皆 谷

原 田

角 大

梶 米

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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  を越えており,主に海洋地殻組成の物質であった。このことから,少なくとも日本海溝より東   部 の 深 海 で 捕 ら え ら れ た 陸 起 源 粒 子の 大部 分は ,大 気 圏由 来で はな い とい える 。     第2部では,生物生産の大きな北部北太平洋に時間分画式セジメント卜ラップを設置し,試   料 を得た。そして溶存態の鉛直分布が栄養塩と似ているCu,Ni,Cdにっいて解析し,次の   ような成果を得た。

5) 粒子中Cu,Ni濃度の時間変動 は,主成分のSi0エ濃度よりCaCOヨ濃度の変動に比較的よ   く対応していた。

6)粒 子中Cd濃度は,溶存態Cdと は異なり,P04濃度と時間的 ,鉛直的ともによい相関がみ   られず,Cdの再生は急速に起こっていることがわかった。

7)沈 降粒子中Cu,Ni,Cdの鉛直 的な濃度変化から,1〜4.5kmの水柱内での再生あるいは除   去量を見積もった。その結果,正味の変化は,Cuは海水柱内から除去,NiとCdは再生であっ   た 。こ の量 はTsunogai et al.(1982)がBruland(1980)の報告した海 水中Cu,Ni,Cd   濃度をもとに計算した値とほぼ一致した。

    第3部では,水平輸送される粒子の寄与が大きいと予想される沖縄トラフでセジメントト   ラ ップ実験を行った。海域の酸化還元環境の指標となるMnをはじめ化学成分を測定し,以   下の結果を得た。

8)これまでで最も大きなMn/Al比およびMn−fluxが観測された。

9)1層目と2,3層目のメタル/Al比が異なっており,海底近 くを堆積物になりきらない粒   子が海溝底に集まっていくことを明らかにした。

  以上,本研究は,沈降粒子を通じて海洋でめ化学物質の挙動に関する新しい知見を与え,海洋 が果たす物質循環のサイクルの解明に大きく貢献した。よって博士(水産学)を受けるにふさわ しいものと審査員一同は認めた。

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参照

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