博 士 ( 歯 学 ) 長 谷 由 理
学 位 論 文 題 名
Mechanism for propofol inhibition of Na+, K+‑ATPase activity in rat brain
(Propofol によるラット脳Na+ ,K+‑ATPase 活性阻害機構)
学位論文内容の要旨
【緒言】
Propofolは 短 時 間 作 用 型 の 静 脈 麻 酔 薬 と し て 全 身 麻 酔 の 導 入 維 持 , 集 中 治 療 室 で の 鎮 静 及 び 歯 科 治 療 に お け る 静 脈 内 鎮 静 法 な ど , 臨 床 で 広 く 用 い ら れ て い る が , 麻 酔 作 用 に 関 し て は 未だ 不 明 な 点 が 多 い .Na゛ , ぽ ーATPaseは 生 体 内 に 普 遍 的 に 存 在 し , 神 経 細 胞 の 興 奮 性 の 維 持 な ど基 本的 な 細胞 の機 能 に関 与す る .そ こで 我 々は ,propofollこよ るNa゛ ,K゛ ―ATPase活 性の 阻害 が 脳の 機 能 変 化 に 関 係 し , 麻 酔 状 態 や 副 作 用 に 関 連 す る 可 能 性 が あ る と 仮 説 を 立 て た .Propofolに よ るNa゛ ,K゛ ーATPase活 性 阻 害 の 報 告 は1報 あ る が , そ の 機 構 に つ い て は 研 究 さ れ て い な い た め,
Na゛ ,K+ ―ATPaseの 反 応 機 構 に 基 づ ぃ たpropofolに よ る 活 性 阻 害 機 構 の解 明を 目 的と して 本 研究 を行った.
【材料と方法】
Jorgensenら の 方 法 に 従 っ て ラ ッ ト 全 脳 か ら 抽 出 し た ミ ク ロ ソ ― ム を 精 製 し て 得 た Na゛ ,K^ ―ATPaseを 材 料と した .Propofol(2,6―Diisopropylphenol)は水に不溶な ため,吸光度測定 分 析 が 可 能 と な る よ う に0.2%の 濃 度 でdimethyl sulfoxide (DMSO)に 溶 解後 水で 希 釈し 実験 に 用い た .ATP加 水 分 解 の 結 果 生 成 さ れ た 無 機 リ ン 量 をChifflet法 に 従 っ て 定 量 し た . 反 応 液 に 各 種 濃 度 のpropofolを 加 え た と き の 影 響 か ら ,Na゛ , ぽ −ATPase活 性阻 害のpropofol濃 度 依存 性を 調 べた また ,Na゛ ,K^ −ATPase活 性のNa゛, で,Mg2゛ お よびATP濃 度依 存 性に 対す るpropofolと溶媒として 用 い たDMSOの 影 響 を 調 べ た . さ ら に , 部 分 反 応 で あ るNa十‑ATPase活 性 のNa゛ 濃 度 依 存 性 お よ びK゛‑pNPPase活 性 の で 濃 度 依 存 性 に 対 す るprop。f。1の 作 用 を 調 べ た ,加 えて ,propofolに よる Na+ ,K゛ ―ATPase活 性 阻害 の可 逆 性を 検討 す るた め,pr。pof。| の希 釈 によ る活 性 回復 実験 を 行っ た.
【結果】
Na゛ ,K゛ 一ATPase活 性 お よびNa+ ―ATPase活 性 はpropof0|の 濃 度に 依存 し て低 下し ,1.03mMで ほぼ完全に抑制 された,50%活性 阻害濃度(IC5。)は約0.26mMであっ た.
Propof01非存 在 下のNa゛ ,K十 一IATPase活 性はNa+,K゛,Mf゛ 及 びATPの濃 度に 依 存し て増 加 し,
HilIpI。tの結果,Na゛,K^,およびMf゛に対する50%活性化濃度([S]。.5)はそれぞれ12、6.1.5およ び0.43mMで あ っ た .PropofoIは , 濃 度 依 存 的 にNa^ ,K゛ ,Mf゛ お よ びATP濃度 を 変化 させ た 際の
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最大活性(Vmax)を減少させた.ー方,[S]。.5に対する影響は―様ではなく,0.35 mMのpropofol 存在下でのNa゛に対する[S]0.5を約2倍に増加させ,K゛に対しては3分の2に減少させ,Mg2'に対 しては顕著な影響を与えなかった,
ATP濃 度依 存性 の結果 をLineweaverBurkの 二重逆 数プロ ットに より解 析する と,propofolや DMSOの 有 無 に 関 わ ら ず 直 線 は 折れ 曲 が り ,そ れ ぞ れ のx切片 とy切 片 の 値 からATPに 対 する 高 ・ 低 二 つのKmとVmaxが計 算 さ れ た,Propofolは 濃 度 依 存的 にVmaxを 減 少 させ る 一 方,両 親和性部位のKmを減少させたことからATPに対する親和性は増加した,
部 分反応 のNa+−ATPase活性およぴK゛‑pNPPase活性はNa゛,ぽーATPase活性と同様にpropofol に よ り 阻 害さ れ,Na十‑ATPase活性 およぴK+‑pNPPase活性 ともにVmaxが減少 し,親 和性の 変化 が認められた,
完 全に活 性が抑制される1.03mMpropofb|で処理したのちにpropofo|濃度を希釈したところ,
最終pr。p。fb|濃度に依存して活性は回復し,20倍希釈で60%の回復が認められた.この過程は温 度の影響を受けなかった.
【考察】
Propofolは濃度依存的にNa゛,ぽ−ATPase活性を阻害し,完全な阻害濃度は1.03mMであった.
Propofolによる イヌ腎 髄質のNa゛,K゛IATPase活性阻害濃度を73−800ロMとする報告があるが,
作 用機序 につい ては検 討され ていなかったため,Na+,KLATPaseの反応機構に基づき解析を行っ た.
PostlAIbersの反応機構では,Na+,K+―ATPaseはNa゛およびMf^存在下でATPを加水分解し,
ATPの ァ 位 のり ン 酸 を 結合 し た り ン酸 化 酵 素EPを 形 成 する ,ADPと反 応してATPを合成 しうる E1PがNaを細 胞 外 に 遊離 す る と ぽに 感 受 性 の高 いE2Pと なる .K゛ の 非 存在 下 でE2Pの 自然加 水 分解に より無 機リン を遊離 するのが ,部分 反応のNaLATPase活性 である .K゛の存在下では,
ぽ がE2Pに 結 合 し て 脱 リ ン 酸 化 す る とKE2と な り ,pNPPを 加 水 分 解 す る 部 分 反 応 で あ る K゛一 州PPase活 性 を 示 す.Pos卜Albersの反 応 機 構 から ,Na+,で,Mヂおよ ぴATPに よって Na.,K+一ATPase活性は調節されている.PropofbIがどの段階でNa゛,K゛ーATPase活性を阻害する の かを調 べるた め,Na゛ ,K+ーATPase活性 のNa゛,K゛,Mf゛およびATPの濃度依存性に対する propofo|の作用について調べた.Propof。l|ま濃度依存的にNa゛,K゛,MヂおよびATP全てに対す る 活性のVmaxを低下 させた ことか ら,反応の特定の過程ではなく,全体に影響を与えることが示 唆 された ,また ,prop。folはATPの高低両親和性部位およびぽに対する親和性を増加させ,Na゛ に 対して は低下 させ,Mf゛に対 しては変化を与えなかった,Vmaxを低下させる一方でりガンドに 対 する親 和性に 影響を 与える ことから ,その 様式は 拮抗型 や非拮 抗型で はなく 混合型の酵素阻
酔に 必 要と され るpropofol濃度 に関しては議論 があるが,麻酔維持中の血 漿を採取してHPLC法 によりpropofol濃 度を測定すると,皮膚切開 ,腹膜切開,腹壁牽引に必要 な血漿propofol濃度は それ ぞ れ72,96,109ロMで ある と報告されてい る,同じ濃度域でNa+,K'‑ATPase活性の約30%
が阻害されることから,この阻害が麻酔作用に関係する可能性があると考えられた. 100liM相当 の濃 度 のpropofolが10―20%の過 分極作動性Hチ ヤネルを抑制するという報 告も.我々の見解を 支持する.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Mechanism for propofol inhibition of Na+, K+‑ATPase activity in rat brain
(Propofol0 こよるラット脳Na+ ,K+ 一ATPase 活性阻害機構)
審査は,審査担当者全員の出席の下に行われた.主査,副査の前で申請者が提出論文の 内容をスライド形式で発表し,っいでその内容および関連分野にっいて主査,副査が口頭 により諮問を行った.審査論文の概 要は以下の通りである,
Propofolは短時間作用型の静脈 麻酔薬として臨床で広く用いられているが,麻酔作用に 関しては未だ不明な点が多い.Na+,K+‑ATPaseは生体内に普遍的に存在し,神経細胞の興 奮性の維持など基本的な細胞の機 能に関与する,そこで,propofolによるNa+,K+‑ATPase 活性の阻害が脳の機能変化に関係 し,麻酔状態や副作用に関連する可能性があると仮説を 立てた.PropofolによるNa+,K+‑ATPase活性阻害の報告は1報 あるが,その機構にっいて は研究されていないため,Na+,K+‑ATPaseの反応機構に基づいたpropofolによる活性阻害 機構の解明を目的として本研究を行った,
得られた結果と考察は以下の通りである・
ぐD Propofolは濃度依存的にNa+,K+‑ATPase活性を阻害し,完全な阻害濃度は1.03 mMで あった,
◎Propofolは 濃 度 依 存 的 にNa+,K+,Mg2+お よぴATP全 てに 対す る活 性のVmaxを低 下 させたことから,反応の特定の過程ではなく,全体に影響を与えることが示唆された.
昭
明
誠
和
邦
島
木
橋
福
鈴
舩
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
@ 臨 床 的 に 麻 酔 に 必 要 と き れ るpropofol濃 度 に 関 し て は 議 論 が あ る が ,65 uMで Na+,K+‑ATPase活性の約30%が阻害される.ことから,この阻害が麻酔作用に関係する 可能性があると考えられた,
Na+,K+.ATPaseは生 体内 で基 本的 な細 胞の機能に関与し ,神経細胞においてはATPの 約 70%が消費されている ,Na+,K+‑ATPaseは細胞内外のイオン濃度勾配を形成するため,ATP 加水分解エネルギーを 用いて3分子のNa+を細胞外にくみ出し,2分子のK+を細胞内に取り 入れる.心筋において 強心配糖体ジギタリスが,Na,Kt.ATPa8e活性の抑制の結果として Nが.Ca2+交換体によるCa2+排出遅延から心筋収縮カを増大させ,強心作用を呈するのは既 知の事実であるが,同様に脳においても,Nが,K+.ATPaseがpropofolにより阻害されると,
細胞内Na+が増加し,Na十℃a2+交換系が働くことでCa2+が細胞内情報伝達系の変化に関与す ると考えられる,Na十,Ip.ATPaseはNがとK+の能動輸送を担っているだけでなく,それに より維持されるNが濃度勾配を駆動カとする活動電 流の発生やイオン交換系を介してCa2+ やH+の細胞内濃度の調節などにも重要な働きを果たしている.申請者は研究の立案と実行 に基づいた明晰なデータとともに,propofolによるNa+,K+.ATPase活性阻害機構を明らかに した.研究遂行および 結果評価について十分な能カがあることが認められた.また,本研 究はこの分野での新し い知見を提供しており,生体に作用する薬物の作用機構を理解する うえでも極めて有用だと考えられた.
口頭試問では,本論 文の内容とそれに関連した学問分野にっいて質疑応答がなされた.
主な質問内容は,
1.麻酔作用に関連して,Na十,K+.ATPa8eの阻害を調べた理由 2.麻酔の定義に関して
3.Na十,I【+‐觚IPaseと全身麻酔薬,局所麻酔薬との関連性 4,酵素阻害様式に関する知識
5.Na+,K十.A.TPa8eと反応機構
6.Propof01の臨床濃度と本実験の濃度の比較 7.今後の研究の展開と将来の展望
こ れ ら の 質 問 に 対 し て , 積 極 的 な 議 論 が 行 わ れ , 申 請 者 は 適 切 に 回 答 し た . 審査担当者との質疑 応答をとおして,申請者が本研究ならびに関連分野に対する理解が 十分になされており, 幅広い知識を有していることが明らかになり,本研究のさらなる発 展,今後の研究が期待 された.審査担当者全員が,本研究が学位論文に十分に値し,申請 者 は 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 を 授 与 す る 十分 な学 識・ 資 質を 有し てい るも のと 認め た.
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