<論説>「公訴事実の同一性」概念について(1)
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(2) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. である O この訴因変更手続の限界が公訴事実の同一性の範囲に限定された 根拠について, I 一回的解決の相当性J(さらに必要性),すなわち, I その 手続で片づけてしまうべきか」又は「もう一度やり直してよいか」の利益 衡量に求める見解 ( 2 )や,犯罪単一の範囲における一体的処理と行為共通の 範囲における証拠共通の観点からの同時処理の要請と,同一訴訟課題の解 決に際して別訴を提起することは被告人への過剰な負担と矛盾判決等の不 正義を導くという点に求める見解(3)などがみられる. O. いずれにせよ,この. 訴 ような訴因変更手続の限界を画する公訴事実の同一性という概念は, I 訟行為の一回性の原則(目的達成による反復の禁止 ) J件)を具体化した基準 として,刑訴法に定められたものといえよう. O. さらに,通説的見解による. と,このような訴訟行為の一回性の原則という観点に基づいて,①逮捕や 勾留は事件単位に行われるという意味での「事件単位の原則」における事 件の範囲円②告訴の効力における客観的不可分の原則が妥当する範囲(円 ③訴訟係属の範囲(二重起訴が禁止される範囲)(7),④公訴に際し公訴時効 が停止する範囲 (8) ⑤一事不再理効の客観的範囲 (9) は,すべて公訴事実の 同一性と L、う基準で決せられるものとされている O このように,公訴事実の同一性という概念は,わが国の刑事訴訟のいわ ば外枠を定める基準として非常に重要かっ多様な機能を担っているのであ. ( 2 ) 田宮 裕『刑事訴訟法・新版Jl 2 0 7頁(19 9 6年,有斐閣)。 ( 3 ) 鈴木茂嗣『刑事訴訟法・改訂版Jl 1 2 2頁(19 9 0年,青林書院)。 ( 4 ) 田宮・前掲注( 2 ) ~刑事訴訟法Jl 9 4頁 。 ( 5 ) 田宮・前掲注 ( 2 ) ~刑事訴訟法Jl. 9 2頁,平野龍一『刑事訴訟法Jl 1 6 0頁(19 5 8. 年,有斐閣)。 ( 6 ) 平野・前掲注( 5 ) ~刑事訴訟法Jl. 9 0頁口. ( 7 ) 鈴木・前掲注( 3 ) ~刑事訴訟法Jl 1 2 2頁 。. ( 8 ) 平野・前掲注(日『刑事訴訟法Jl 1 4 5頁。 ( 9 ) 鈴木・前掲注( 3 )~刑事訴訟法Jl 2 4 1頁 。 ~. 1 7 4(3 3 1).
(3) 「公訴事実の同一性」概念について(1). るが,この概念に関して,従来様々な議論が積み重ねられてきた。さしあ たり,この概念を如何に理解するかをめぐり,①主に実体法との関係で理 解される「公訴事実の単一性」という概念の採否及び②狭義の同一性の内. r 学説は,さながら覇を競うがごとく多彩に. 容及びその判断基準について,. オンパレードをくりひろげているかの観Jを呈している 0 0 )。また,上述のよ うに,刑事手続の各場面で公訴事実の同一性が基準として用いられている 点についても,その理論的根拠,特に通説的見解( 1 1 ) によると審判対象であ るとされる「訴因」という概念との関係が,より明確に解明されなければ ならないと思われる O 本稿は,上述のような重要な機能を担う公訴事実の同一性概念につい て,それが本来担うべき機能について検討するための予備的考察として, まず,この概念の内容(及びその画定基準)を検討することを目的とする O その際,わが国でこれまで積み重ねられてきた議論を分析,検討するため の参考として,. ドイツの刑事手続法における「所為 J( T a t ) 及びその同一. 性 ( T a t i d e n t i t a t ) に閲する議論を概観する. O. 後述のとおり,. ドイツにお. ける議論は,わが国の公訴事実の同一性に関する議論と非常に近いものが あり,戦後間もなく発表された高田卓爾の研究02) を塙矢として,その後も 刑訴法研究者による研究が連綿と続いている制。また,近時は,実体法研. 制. r. 田宮・前掲注( 2 ) 刑事訴訟法J2 0 5頁。. ω 田口守一「刑事訴訟法・第 4版 J202頁. ( 2 0 0 5年,弘文堂),田宮・前掲注 ( 2 ) 「刑事訴訟法 J1 9 0頁,平野・前掲注( 5 )r 刑事訴訟法 J1 3 2頁,松尾浩也『刑事訴 訟法上・新版 J1 7 4頁 0999年,弘文堂),三井誠「刑事手続法 IJ1 7 8頁 ( 2 0 0 3. 年,有斐閣)など。. ω 高田卓爾『公訴事実の同一性に関する研究J0953年,有斐閣)。 ω 吉村弘 fT事実』の同一性の問題 西ドイツ刑事訴訟における現状」法政研究 4 4巻 3号 6 5頁 0978年),安富潔「西ドイツ刑事訴訟における一事不再理の効力 の客観的範囲について」法学研究 5 1巻 9号 7 5頁 0978年),山中俊夫「刑事訴ノ ー. 1 7 5(3 3 0).
(4) 近畿大学法学第 5 3巻第 2号 究者による罪数論との関係という観点からの研究も盛んである ω 。本稿 は,これらの先行研究も踏まえ,主に刑事手続法の観点から,. ドイツにお. けるこの問題に関する判例及び学説の動向を検討する O. ドイツにおける「所為」論 1.刑事手続における「所為 J( T a t ) の位置づけ 付. 「所為」の基本的機能. ドイツ刑事手続法において,. I 所 為 J( T a t ) という概念は,刑事手続全. 体にわたり,その客観的範囲を決定するうえで決定的な意味を持つキー ワードである O すなわち,所為は,刑事手続全体の基礎であり 0 5 ) 訴訟係属 及び審理の範囲 ( StP0155条 1項),判決の対象の範囲 (StP0264条以下), 実体的確定力の範囲 (GG103条 3項)が,すべてこの所為を基準にして決 定される(秩序違反に対する裁判上の過料手続も同様である (OWiG71条. 1項 , 8 4条 1項))。従って,公訴の提起を受けた裁判所は,所為の同一性 が認められる範囲において審判することができ,またこれと同じ範囲で他 の裁判所への起訴,或いは再訴が遮断されることになる(通説:詳細は後 述)。例えば,公判の途中で新たな事実が判明した場合,それが同ーの所為 に属するものであるならば,係属中の訴訟へ取り込むことが可能であるが (但し,一定の場合被告人への指摘が必要である ( StP0265条 1項)),他. 、訟における訴訟対象論の展開(1),--., ( 4 ) J 同志社法学 3 3巻 3号 l頁(19 8 1年 ) , 5号 1頁(同年), 3 4巻 2号 1頁(19 8 2年 ) , 3 6巻 5号 1頁(19 8 5年),松生光正「公 訴事実の同一性に関する一考察」姫路法学 2号 2 0 5頁(19 8 9年 ) 。 虫明満『包括ー罪の研究 J0 9 9 2年,成文堂),只木誠『罪数論の研究J( 2 0 0 4 年,成文堂 ) 0 Q 5 ) WernerB e u l k e,Derp r o z e s s u a l e rT a t b e g r i f f,FG-BGH 5 0 J a h .,S . 7 81 .2 0 0 0 .. ω. 1 7 6 ( 3 2 9 ).
(5) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 方,仮に前訴で一定の事実が究明されないままであった場合でも,前訴で 審判された所為との間で同一性が肯定されるならば,新たに公訴を提起す. 。. ることはできな L 。 、 その他の機能. 上述のとおり,所為は,審判対象及び実体的確定力の範囲を定める機能 を持つが,さらに以下のような観点について議論がある O 判例を中心に概 観する O ①公訴時効の中断. ( S t G B 7 8 c条). 公訴時効は,犯罪が終了した時点で進行を開始し の手続的行為が行われると中断する. ( S t G B 7 8 a条),所定. ( S t G B 7 8 c条)。この公訴時効の中断. に関する規定は,実体法上の行為ではなく,訴訟法上の所為を基準にする ものとされている O. eOLGバイエルン 1 9 6 4年 6月 2日判決 NJW1 9 6 4, 1 8 1 3は,道路交通規則 違反(交通妨害)を理由に公訴が提起されたが, 所為は,. r 時効中断の対象となる. S t P 0 2 6 4条と同じく,特定の歴史的出来事である」と判示し,公. 訴提起により運転免許証及び自動車登録証の不携帯の罪についても公訴時 効が中断すると結論つ守けた。. eBGH刑事第五部 1 9 6 8年 3月1 2日決定 BGHSt2 2, 1 0 5は,所為の一部が起 訴され,その他の部分が手続から除外されたが. ( S t P 0 1 5 4 a条),公訴提起. による時効中断の効果は訴訟上の所為全体に及ぶとして,除外された行為 を再度手続に取り込んで審判することも可能であると判示している O. eBGH刑事第一部 1 9 8 0年 8月1 2日判決 BGHSt2 9, 3 1 5は,連続犯の一部が 手続から除外された事例について,それを再び手続に取り込むことができ るという結論を導くにあたり,. r 裁判官の中断行為は,所為全体に関する刑. 事訴追に効果を持つ」と判示している。 もっとも,上述裁判例は,その判示事項にもかかわらず,いずれも実体. -1 7 7(3 2 8 ).
(6) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 法の段階ですでに行為単一が肯定できる事例であるように思われる O ②議員訴追に関する承諾. GG46条 2項によると,国会議員の訴追に際し連邦議会の承諾が必要と されている. O. この議会による承諾は,訴訟法上の所為全体にその効果が及. ぶものとされている O. eBGH刑事第一部 1 9 6 0年 1 2月2 0日判決 BGHSt1 5 . 2 7 4は,連邦下院議員で ある被告人が裁判手続で宣誓に反して虚偽の供述を行った事実について, 原審は検察官が議会の承諾を求める際に示した供述点とは異なる供述点に ついて有罪判決(過失偽証罪)を下したという事例について, I 刑事訴追 の許可は,特定の歴史的事象について与えられるものであり,刑事訴追当 局に,許可の基礎となった歴史的事象全体を調査及び裁判の対象とする権 限を与える。」と判示している. O. ③逃亡犯罪人引渡法上の特定性原則 ( 8p e z i a l itat ) 諸国において,外国から逃亡犯罪者移送の請求があった場合,逃亡犯罪 人引渡法により, I 引渡犯罪」が移送を許可する場合に当たるか審査され, 請求の諾否が決定されることになっている. O. そして,各国聞の移送条約に. 基づき,移送を受けた国は,移送が許可された引渡犯罪以外の罪で審判し, 処罰することはできな l' 0 この法原則は,以下のように,手続法上の所為 を基準として運用されている. O. eBGH刑事第一部 1 9 6 8年 1 2月 2 0日判決 BGHSt2 2 . 3 0 7は,手形詐欺を実行 した被告人がスイスに逃亡し,. ドイツ政府からの請求に基づき移送が認め. られたが,原審が請求の際記載された事実(手形割引した銀行が被欺問者 及び被害者)とは異なる事実(偽造手形に裏書させられた Aが被欺問者及 び被害者)により詐欺罪で有罪判決を下したという事例で, I 移送条約の意 味での所為は,. 8 t P 0 2 6 4条でいう訴訟上の意味での所為,すなわち,単一. の歴史的事象であり,その範囲内で被告人が犯罪構成要件を実現したもの 1 7 8(3 2 7).
(7) 「公訴事実の同一性」概念について(1). である」と判示し,両事実の聞で所為の同一性を肯定したうえで,原審の 判断を支持した。. eBGH刑事第四部 1 9 9 9年 3月1 1日判決 NStZ1 9 9 9 . 3 6 3は,スペインから の移送に際し窃盗罪を引渡犯罪として許可されたという事例で,当該窃盗 で奪われた盗品に対する盗品罪との間で所為の同一性を否定したうえで, 引渡犯罪として示されたものとは異なる所為との間で選択的認定を行うこ とはできないと判示した。. eBGH刑事第一部 2 0 0 0年 1月1 1日判決 NStZ-RR2 0 0 0, 3 3 3は,スペイン 犯 からの移送に際し故殺罪を引渡犯罪として許可されたという事例で, I 人移送承諾は,制限が付されていないため, StP0264条 1項の意味での所 為全体を包摂する。」としたうえで,謀殺罪と共に(所為の同一性が肯定 される)強盗的恐喝未遂罪の観点で審理することも可能であると判示して l ¥るO. 他方,外国からドイツに請求が行われる場合も,同じく訴訟法上の所為 を基準に運用されている O. eBGH刑事第四部 1 9 7 7年 3月3 1日決定 BGHSt2 7. 16 8は,イタリアから売 春利益搾取罪(ドイツ法上不可罰)及び窃盗罪を引渡犯罪としてドイツ政 府が請求を受けたという事例で,両事実は訴訟法上別個の所為であるとし たうえで, IStP0264条の意味で複数の所為であり,その全てがドイツ法 上刑罰法規の構成要件を充足するというわけではない場合,移送は,この 条件[ドイツ国内での可罰性]が存在する所為を理由にしてのみ許容され る。」と判示している O ④秩序違反法上の抗告理由 (OWiG79条). OWiG79条 1項によると,抗告理由として,一個の所為に対して一定金 額(現行法上は 250@)を超える過料が科された場合が挙げられている O こ の規定は,訴訟法上の所為を基準にするものと理解されている O -1 7 9(326).
(8) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. eOLGハム 1 9 7 6年 1月 7日決定 VRS5 1, 6 3は,対象者が同一機会,同一区 間の運転に際し,速度違反を理由に 各々. 200DM, 2件 の 整 備 不 良 を 理 由 に. 10DM, 20DMの 過 料 を 科 さ れ た と い う 事 例 で ( 当 時 の 上 限 は. 200DM), OWiG 7 9条の意味での所為は訴訟上の意味で理解されなければ ならない,複数の個別過料の基礎となる違反行為がまとめて単一の生活事 実を構成する場合にはすべて合算されなければならないと判示し,原審の 過料手続を違法であるとした(同旨:OLGデュッセルドルフ 1 9 8 6年. 5月. 2 3日決定 VRS7 1 .3 7 5, OLGデュッセルドルフ 1 9 8 8年 7月 8日決定 VRS 7 5, 3 6 0,OLGケルン 1 9 8 9年 6月 9日決定 VRS7 7, 2 7 8, OLGバイエルン 1 9 9 4年 8月 1日決定 B ayObLGSt1 9 9 4, 1 3 5 )。 ⑤関連事件の管轄 他方,関連事件の管轄を定める. S t P 0 3条 の 「 複 数 の 人 が 一 個 の 行 為. ( T a t )について追及される場合」という規定について,この規定の意味で の「行為」は,訴訟法上の意味ではなく,実体法上の意味で理解されてい るO. eBGH刑事第五部 1 9 5 8年 1月1 0日判決 BGHSt1 1, 1 3 0は,土地管轄を持た ない. LGが実体法上行為複数の関係にある事件の審理にあたり関連事件と. して被告人に対する事件を併合したという事例について,. この規定は実体. 法上の意味で理解しなければならないと判示し,原審の手続を違法である と結論づけた。 ⑥択一的認定の範囲 二つの排他的関係にある事実について,被告人は L、ずれか一方を実行し たことは確かであるが,そのいずれを実行したものかを確定できない場 合,択一的(又は選択的)認定の可否が問題となる O ドイツでは,択一的 認定の実体法的要件として,事象相互の聞に心理的及び法倫理的な匹敵性 が存在することが要求されている。これに加えて,訴訟法的要件として,. 1 8 0(3 2 5).
(9) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 事象相互の間に所為の同一性が肯定されることまで要求されるかについ て,争いがある ω 。 この点について,. BGH刑事第三部 1 9 8 0年 7月 2日判決 NStZ1 9 8 1, 3 3. は,択一的認定に際して,. I S t P 0 2 6 4条が被告人の保護のため画する限界. を考慮しなければならな L、。これによると,犯罪構成要件を充足する択一 的選択肢が,場所的及び時間的に,公訴及び公判開始決定で言及された所 為との間で訴訟上の意味でもはや同一の所為とはいえないほど離隔してい る場合,そのような有罪判決の余地はない。」と判示し,所為の同一性を 要求している. O. もっとも,このような見解は,実体的に不当な結論となることを避けら れず,また,択一的に問題となる事象が双方とも当初から起訴されている か又は追起訴を要求することで右見解の主張する公訴主義の要請も満たさ れることから,現在では少数説にとどまる開。. 2 . 所為に関する諸原則 以上のように, I 所為」と L寸概念は,刑事手続の各場面で客観的範囲 を画するユニットとして,重要な機能を有する O この刑事訴訟法上の所為 について,以下の諸原則が認められている. O. け所為の特定性 まず,. S t P 0 2 0 0条によると,所為は,起訴状において,罪となるべき事. 実を,犯行の日時,場所等を具体的に示して記載されなければならず,単. a 6 ) 大津裕「刑事訴訟における『択一的認定Jl( 3 ) J法学協会雑誌 1 1 2巻 7号 8 3,1 2 5 頁 0995 年 ) 。 仰. この問題について, U l r i k e Dreyer,W a h l f e s t s t e l l u n gund p r o z e s s u a l e r. T a t b e g r i f f-Dies t r a f p r o z e s s u a l eBehandlunga l t e r n a t i v e rGeschehen 9 9 9 . s a b l a u f e,1 - 1 8 1(3 2 4 ).
(10) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. 2号. なる「法定された犯罪構成要件の記述では足りな Lリω 。このようにして示 される所為は,. r 公判の基礎となり,そこから,裁判所及びその他の関係. S t P 0 1 5 5条 , 者,とりわけ被告人が,防御の目的のため,公判及び判決 ( 2 6 4条)がどの事実を対象とするのかをはっきり認識できるのでなければな らな L、。……[また,この所為が]実体判決の確定力の範囲も決定する O ……それゆえ,可罰的行態は,起訴状及び公判開始決定において,どの所 為を対象としているのかを認識できるほどに特定して示され,……他の同 種の可罰的行為から十分に識別されていなければならな ~ìJω。例えば,. lngeborgPupp 仰は,. r 一般的論理則及び経験則から,複数の行為が存在. する可能性が実践的に排斥される」というほどの特定性が必要であると主 張する O もっとも,所為の特定性は,公訴事実に加えて,起訴状における捜査の. S t P 0 2 0 0条 2項)をも加味して考慮したうえで,具体 本質的結果の記載 ( 的事例において他行為との取り違えの可能性の有無という観点から検討さ. ・. れている O 例えば,. BGH刑事第五部 1 9 5 9年 6月 1 6日判決 GA1 9 6 0 . 2 4 5は ,. r 被告人は,. 1 9 5 8. 年 6月 A地区で, 3件にわたり,それぞれ別の日に,各々少女を車で誘い, その面前で性器を露出した J という記載によっても,. r 被告人が同月内,. 同地区でこれ以外の行為(児童に対するわいせつ行為)を実行し, しかも それが警察に認知されていないままであるという可能性はおよそ考えられ な ~ìJ という理由で,特定性は満たされていると判示している O. Q 8 ) BGHGA1 9 6 7, 1 8 4 . 側 B GHSt1 0, 13 7 . ~O). Ingeborg Puppe,Die I n d i v i d u a l i s i e r u n gd e r Tat i nA n k l a g e s c h r i f t und Busgeldbescheid und i h r en a c h t r a g l i c h eK o r r i g i e r b a r k e i t,NStZ. 1 9 8 2, 2 3 0, 2 3 5 . -1 8 2(3 2 3 ).
(11) 「公訴事実の同一性」概念について(1). eBGH刑事第四部 1 9 7 0年 1 0月 8日決定 BGHSt2 3 . 3 3 6は,過料事件におけ る過料通知において, I 対象者は, 1 9 6 9年 6月2 3日1 7時 1 5分,甲通りで, 自動車の運転者兼所有者として交通規則違反を実行した J(注釈欄には, 「対象者は,交通事故に有責的に関与した。他者の損害は 300DM ,自身の 損害はな L 。 、J ) と記載されていた事例について,行為事象が詳細に特定さ れていないという不服に対し, I 本件のような事故を惹起した交通違反の 場合,時間,場所,車両番号と共に,当該事故が指摘されていることで足 りる。確かに,論理的には他行為との取り違えの危険は存在するが,同一 対象者が同一車両で同一時間に同一路上で別の事故にも有責的に関与し, その事実が警察に認知されないという可能性は,およそ無視して差し支え ないほどの可能性にとどまる。」という理由で,特定性は満たされていると 判示した。 なお,所為が不特定であるとされる場合に際して,所為が訴訟対象であ るという理解を前提に, I 公訴事実を人的,物的,法的観点において他の想 定可能な被疑事実から識別するという任務を本質とする」ため,他行為か らの識別を不能にさせる程度の暇庇は,それだけで公訴を無効にさせる が,他方, I 所為の識別を疑わしめるのではなく,単に被告人の防御の準備 を困難にさせる程度の暇庇」は,公判において治癒可能なものであり,公 訴を無効にさせるものではないと理解されている (BGHSt2 3, 3 3 6 )。 (つ所為の不可分性 刑事訴訟法上の所為は,そのユニットにおいて不可分である白u。従って, 原則として,一個の所為は,一回の手続でその全体が審判に付され,分割 して他の裁判所に訴訟係属することや,一部を後の裁判に留保するという ことは許されな L 、。この点について,例えば RG刑事第三部 1 9 2 7年 2月2 4. 。 1 ) L u t zMeyer-Gossner,S t r a f p r o z e s s o r u d n u n g48Auf , . l2 0 0 5,S .9 7 7 .. 1 8 3(3 2 2)一.
(12) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 日判決ωは ,. I 公判裁判所は,一個の所為について,問題となる全ての事実. 点及び法律点を汲みつくして審判しなければならず,……一部の事実点又 は法律点だけを裁判し,その他の点を後の裁判に留保することは,法的に 許されない。」と判示している O 具体的には,例えば BGH刑事第五部 2 0 0 4. 年 3月1 7日判決 NStZ2 0 0 4, 5 8 2で判示されているように,被告人が破産手 続遅延教唆罪を理由に起訴された場合,公判裁判所は,右構成要件につい ては無罪であるとの心証に至ったとしても,所為の同一性が認められる範 囲でさらに同罪の正犯や帯助罪の成否を検討しなければならな L 。 、 また,検察官の訴追意思(所為の一部を訴追しないという)は,基本的 に,所為の不可分性に影響を与えないものと理解されている ω 。この点に. 9 5 9年 1月 1 6日判決 NJW1 9 5 9, 8 9 8( 判 ついて,確かに, BGH刑事第四部 1 決要旨のみ公表)は,. I ある所為が公訴の対象であったかという問題に関し. て,それが起訴状に言及されていたというだけでは足りな L、。むしろ,検 察官の訴追意思がその所為に及んでいたか,という点が決定的である。」と 判 示 し て い る O しかし, OLGバ イ エ ル ン 1 9 6 0年 6月2 1日 判 決 MDR. 1 9 6 0, 9 4 7及 び BGH刑 事 第 二 部 1 9 6 1年 6月2 8日判決 BGHSt1 6, 2 0 0の説示 によると,この事件は,起訴された所為とは異なる所為について,当該所 為が起訴状に付随的に記載されていたに過ぎないにもかかわらず,原審が 追起訴の手続を経ることなく有罪判決を下したという事例であり,訴訟法 上同ーの所為について判示されたものではな L、。むしろ,. I 一個かつ同ー. の所為である場合,判決に際して,検察官が公判の結果明らかとなった所 為を訴追しようとしていたか否か,……という点は重要ではな L、。むし. ( 2 2 ) RGSt 6 1, 2 2 5 . ( 2 1 3 BGHSt 2 , 3 7 1;4 6, 1 3 0;NStZ-RR 1 9 9 6, 9 8 ;BayObLGSt 1 9 9 1, 3;OLG ケ. ルン NJW 1 9 6 8. 18 9 3 .. 1 8 4(3 2 1).
(13) 「公訴事実の同一性」概念について(1). ろ,裁判所は,公判で判明した事象経過を基礎としなければならない,な ぜなら,公判開始決定の対象を構成する所為を変更する権限及び義務は, 必然的かっ無制約に,判決により刑罰権が消耗される範囲に及ぶからであ るJ(上述. 但し,. MDR1 9 6 0, 9 4 7 )。. ドイツでも一定の範囲で法定されている起訴便宜主義に基づき,. 一個の所為の一部だけが起訴され,又は審判されるということはある. O. ま. た,一個の所為の一部が親告罪であるなど,法律上の理由から訴追及び審 判が限定される場合もある O さらに,所為の不可分性に関して,以下のよ うな議論がみられる O ( 1 ) 裁判所の事物管轄による限定. eRG刑事第五部 1 9 1 4年 7月 6日判決 RGSt4 9 . 3 5 4は,一個の所為が裁判 所の事物管轄という観点から分割されることを肯定した。この事件は,被 告人が一通の手紙で軍人である A (被告人のかつての上官)を侮辱(軍人 侮辱罪)しかっ恐喝したというものであるが,. RGは , f 軍刑法に列挙され. た犯罪と,軍関係者によるその他の通常犯罪との間で行為単一の関係が存 する場合,……双方の犯罪は,各々の裁判所[軍裁判所と通常裁判所]で 別個に審判されなければならな~ ' o J と判示した。. ・. これに対し,. BGH刑事第一部 1 9 5 2年 1 2月1 9日判決 NJW1 9 5 33 9 3は,裁判所の事物管. 轄という観点からの所為の分割を否定した。この事件は,被告人が森林の 立木を盗伐していたところ,偶然通りがかった A夫妻に答められたが,逆 に,持っていた斧を振りかざし,邪魔をすると殺すぞと述べて脅迫したと いうものであるが,まず被告人に対し山林を管轄する AGより盗伐行為に ついて有罪判決が下され,これが確定した後,さらに加重強盗罪を理由に 公訴が提起されたという状況において,. BGHは,確定力の範囲について,. f [前訴手続で]問題となる法的観点について裁判所が事物管轄を有してい. -1 8 5(3 2 0)一.
(14) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. たか否かで差異はない。審理の結果裁判所の事物管轄に属さないことが判 明した場合,裁判所は,. S t P 0 2 7 0条に基づき決定で事件を管轄上級裁判所. に移送することを義務付けられる O 裁判所がそのような移送決定を下さ ず,事件を自ら裁判した場合,判決の確定により直ちに[所為全体につい て]刑罰権が消耗される。」と判示した。. ( 2 ) 確定力の限定 ( i ) 略式命令の限定的確定力 ω 実体判決は,所為全体について実体的確定力を生じ,刑罰権を消耗させ るO 略式命令に際しても, I 確定判決と同一の効力」が認められている. ( S t P 0 4 1 0条 3項)。もっとも,略式命令について,法律上は何ら定めがな いにもかかわらず,判例上,以下のようにその確定力は限定的な効果しか 持たないとされている O すなわち, I 問題の所為が略式命令で評価された よりも重い刑罰法規に違反するものであったことが判明した場合,新たな 有罪判決が許される。」というのである ω 。従って,一定の場合,前訴手続 ですでに審判されたものと同一の所為が,その一部についてさらに後訴手 続で審判の対象とされることがある. O. eRG刑事第二部 1 8 8 3年 1 2月2 1日判決 RGSt9 . 3 2 1は,以下のように,略式 命令の確定力は限定的であることを判示した。この事件は,被告人が農作 業中の事故により被害者に負傷させた事実について,まず,被告人が操縦 していた農機具の整備不良を理由に略式命令が下され,その後,過失致傷 罪を理由に公訴が提起されたというものであるが,. RGは , I 略式命令は,. 公判が聞かれず,裁判所による事実解明が行われることなく下されるもの. ω この問題について,. Henning Radtke,Zur Systematik d e sS t r a f k l a g e , verbrauchs v e r f a h r e n s e r l e d i g e n d e r Entscheidungen im S t r a f p r o z e s 1 9 9 4 . ( z @ RGSt 4 , 2 4 3;5 2, 2 4 1;6 5, 2 9 1;BGHSt 3 , 21 . ~. 1 8 6(3 1 9)一.
(15) 「公訴事実の同一性」概念について(1). である」ため,後の公訴を妨げないと判示した。. eRG刑事第四部 1 8 8 6年 1 2月1 4日判決 RGSt1 5. 11 2は , I 一事不再理原則は 公訴変更の機会を前提とするが,略式命令手続では裁判官はそのような権 限を持たない」と判示し,やはり略式命令の確定力が限定的なものである ことを認めている O このような見解は,. BGHの時代になっても継承されている. O. eBGH刑事第一部 1 9 5 2年 6月1 0日判決 BGHSt3 . 1 3は,被告人が交通事故 により被害者を死亡させてしまったが,当初は過失致傷罪(被害者の死亡 は事故とは別の原因によるものと判断されたため)を理由に略式命令が下 され,確定した後に,過失致死罪を理由に公訴が提起されたという事例に おいて, I 略式命令手続では,裁判官は追及された所為を公訴の範囲を越え て評価する機会を持たな L、。従って,何人も同一の所為を理由に一般刑罰 法規に基づいて再度処罰されないという原則は,上述した理由から導出さ れる制限を伴って妥当するルールである。」と判示した。. eBGH刑事第一部 1 9 5 6年 1月1 0日判決 BGHSt9 , 1 0は,詐欺罪について有 罪判決が下された後,これと実体法上行為複数であるが,訴訟法上所為単 一の関係にある外国国家との背信的交際罪が基礎された事例について, 「略式命令で審判された軽罪に別の実体法上独立した行為が付け加えられ る場合,常に,可罰性は高まる。 J(つまり,併合罪関係にある行為は,お よそ改めて訴追することが可能である)と判示している ω。. RG及び BGHにおけるこのような見解は, BVerfGからも追認されて l" ¥ るO. eBVerfG第 一 部 1 9 5 3年 1 2月1 8日判決 BVerfGE3 , 2 4 8は , I 通常の略式命. 。 。. 同旨 OLG シュツットガルト NJW 1 9 7 5, 4 2; OLG ツヴァイブリュッケン. NJW 1 9 7 5, 12 8 .. 1 8 7( 3 1 8)一.
(16) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 令手続では,裁判官は審判のため提示された所為を StP0264条 , 2 6 5条に 基っーいてその真の不法及び責任内容について十分に調査する権限を持た ず,その結果,適切な裁判という公的利益は,制限されざるを得な~ ' 0そ. れゆえ,確定略式命令の効果について,主に被告人に有利に作用する法的 安定性の原則は,犯罪者の適切な処罰という公的利益に劣後せざるを得な L、。この理由から,略式命令の確定力は,その内容を超えて及ぼされるこ とはな~ ' 0つまり,確定するのは,略式命令で行われた認定だけである。. …それゆえ,確定略式命令は,略式命令で評価されず,より重い可罰性 を基礎付ける法的観点で処罰が行われる場合,略式命令によりその一部し か把握されなかった所為が後に再び通常刑事手続の対象とされることを妨 げない。」と判示している O もっとも,このような見解を限定しようとする見解も見られる。. eBGH刑事第一部 1 9 5 4年 5月 5日判決 BGHSt6 . 12 2は,連続犯の一部に ついて略式命令が下され,確定した後に,さらにその残りの行為が起訴さ れたという事例について,. r 略式命令により処罰された行為者の再度の訴. 追は,新たな法律点においてのみ許され,事実点における確定力の破綻は 許され[な L、。なぜなら, ]略式命令ではなく,公判が聞かれていたとし ても,およそ,残余の個別行為が判明しなかった可能性があるから。」と. b .SchmidtC'bは,本判決が連続犯を肯定した点は包括故 判示している o E 意の存在について疑問を留保しつつ,確定力の限定を否定した結論は支持 している O ( i i ) より重い可罰性を基礎付ける事情が略式命令確定後に発生した場合. 略式命令では評価されなかった「より重い可罰性を基礎付ける事情」が 略式命令の確定後に発生したという事例については,次のように争いがあ. 的. E b . Schmidt,Anm.,JZ 1 9 5 4, 7 0 6 .. 1 8 8(3 1 7).
(17) 「公訴事実の同一性J概念について(1). ・ るO まず,. OLGコープレンツ 1 9 5 8年 5月 8日決定 J Z1 9 6 0, 6 0 7は,被告人が交通事. 故により被害者に負傷させたとして,過失致傷罪を理由に略式命令が下さ れ,これが確定した後に,被害者が右事故を原因として死亡したという事 例について, I 略式命令に際しての一事不再理原則の例外は,新たな法的評 価を導く事実が略式命令発付の時点ですでに存在していたということを条 件とする。すなわち,……略式命令手続の代わりに通常手続で審判されて いたとしても結論は異ならなかったという場合,確定略式命令に確定判決 と同じ効果を与えない理由はな l' o J と判示し,刑罰権消耗を肯定(すな わち,略式命令の確定力は限定されないと)した。この見解は, ルスルーエ 1 9 6 0年. OLGカー. 8月2 0日決定 NJW1 9 61 .8 8によっても支持されている. O. ・ しかし,. OLGシュツットガルト 1 9 5 9年 1 0月2 3日判決 JZ1 9 6 0, 6 0 8は , I 略式命令. 手続は,簡略的手続である O その特色は,事件の処理が比較的単純である というだけではなく,同時に,迅速化にも資するという点にもある O つま り,当該事情が考慮されなかったのは,裁判官は所為を包括的に評価する ことができないというだけでなく,略式命令は公判が実施された場合より も本質的に早く終結するということも理由にある O ……. OLGコープレン. ツは,……確定力の限定は一事不再理原則からの例外であり, I 原則からの 例外は狭く画するべきである」と判示しているが,……そもそも一事不再 理原則が実体的正義に対する例外であることを看過している。」と判示し,. OLGコープレンツの右見解をはっきりと否定した。 このように,. OLGの間で見解が分かれていたが,. eBGH刑事第一部 1 9 6 2年 1 1月2 0日判決 BGHSt1 8. 14 1は,次のように,略 式命令の確定力はこの事例でも限定されると判示した。すなわち,. I 略式. 命令は,あまり重大ではない事件において簡素化及び迅速化に奉仕する簡 189(316).
(18) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 略的手続であるが,それは,公判のように,事実の完全な探求及び所為の 法的評価にとって重要なあらゆる観点の考慮、が保障されているものではな L、。裁判官は,略式命令を下す場合,略式命令請求における法的評価に拘. 束される O 裁判官は,公判では公訴内容を変更する権限を有するが,略式 命令ではそのような権限はな l' 0 ……判例上このような原則が導かれた考 察は,また,一般的に,本件のように,より重い可罰性を基礎付ける死亡 結果が略式命令発付後初めて生じたという事例にも適合する J oBGHの. 9 6 8年 1 1月初日判決 この見解は,その後, OLGザ ー ル ブ リ ュ ッ ケ ン 1. JR. 1 9 6 9, 4 3 0にも引き継がれている倒。 しかし,. BGHの示した見解は, BVerfGによって否定された。. eBVerfG第二部 1 9 8 3年 1 2月 7日決定 BVerfGE6 5 . 3 7 7は , I 略式命令の 限定的確定力に関する判例は,略式命令の簡略的性質を基礎とする。略式 命令では,裁判官は,通常手続とは違い,所為の不法内容を自由かっ包括 的に探求し,適切な裁判に向けた公的利益を擁護するという機会を持たな l' 0 この点に,主に被告人に有利に作用する法的安定性原則は犯罪者の適. 切な処罰という公的利益に劣後される,ということを正当化する根拠が認 められる O ……しかし,本件では,……審判に際し考慮、されなかった加重 結果は,略式命令の確定後に初めて発生した。裁判官は,その結果を,記 録のみに基づく略式命令ではなく,公判に基づく判決により裁判していた 場合でも,同じく考慮、できなかったであろう。」と判示し,後訴は遮断さ れると結論付けた。 以上から,この問題は,. BVerfG判例によって決着をみたといえよう. O. もっとも,加重結果が後に発生した場合(つまり,そもそも前訴で加重結. a 8 ) E . Koffka (JR 1 9 6 9, 4 31)は,この判決の評釈において,結論はともかく, 本件のように被害者の死亡が容易に予測されうる場合にまで略式命令が安易に 利用されすぎていると述べ,実務の運用を批判する O. -1 9 0(3 1 5)一.
(19) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 果について審判可能性が全くなかった場合)には後訴が遮断され,前訴の 段階ですでに発生していた場合(つまり,審判可能性があった場合)には 後訴が遮断されないというのは,一見してバランスを欠く結論であるよう にも思われる O. ω その他の刑事手続上の裁定 eOLGシュツットガルト 1 9 5 9年 4月 1 7日判決 NJW1 9 5 9, 1 3 8 0は,道交法 上の警察の戒告処分. ( S t V G 2 2条)について,略式命令と同じくその確定. 力は限定的であると判示した。すなわち,. 1 この結論は,まず,本条 2項. ( 1軽犯罪」を理由とする新たな訴追は排斥される)から導かれる。その他 の場合, AG裁判官の刑事処分及び略式命令と同じ原則が妥当する」。 ( 3 ) 上訴の限定. 上訴審裁判所も,訴訟法上の所為について,原審の評価に拘束されず, その全体にわたって審判する権限及び義務を有する ω。例えば,. eBGH刑事第五部 2 0 0 3年 5月2 2日判決 NJW2 0 0 3 . 2 9 2 4は,脱税罪及び背 任罪で公訴が提起され,原審が脱税罪について無罪判決,背任罪について 有罪判決を下したが,検察官のみが無罪判決部分に対し上訴したという事 例で,脱税罪と背任罪は不可分の関係にあり,上訴審裁判所は背任罪につ いても審判する権限を有するとして,背任罪の有罪判決部分を破棄した。 もっとも,法律上. ・. ( S t P 0 3 1 6条 , 3 1 8条 , 3 2 7条 , 3 4 3条 , 3 4 4条 , 3 5 2条),. 原判決の一部について上訴することが予定されている O この点について,. BGH刑事第四部 1 9 7 1年 7月2 2日決定 BGHSt2 4. 18 5は,実体法上独立し. た複数の行為であるが手続法上一個の所為である場合(本件は,有責的な 交通事故の惹起と事故現場不法逃走罪), 1 上訴裁判所において,不服が申 し立てられた行為部分が残りの行為部分から切り離して審査し,法的に評. 仰. 控訴裁判所について RGSt6 2, 13 0,差戻審裁判所について BGHSt9, 3 2 40. 191(314).
(20) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 価可能なものである場合,上訴の制限も許容される J ,手続法上一個の所為 は,異なる手続で分割して審判されることを禁止されるものであるが,こ こでいう「異なる手続Jとは,一審段階で別々の裁判所に係属する状態を 指し,異なる審級間で審判される状態を指すものではないと判示してい. 9 7 2年 1 1月 9日 るO この見解は,同様の事例において, BGH刑事第四部 1 決定 BGHSt2 5, 7 2でも継承されている O しかし,後述するとおり,訴訟法上の所為の同一性を基礎付ける要素と して,すでに独立した評価の不可能性という観点が取り込まれているた め,一個の所為の一部を上訴することは基本的に排斥されるといえるので はないだろうか。 ( 4 ) 手続の一部打切処分. ドイツ刑訴法上,起訴便宜主義の観点から,検察官及び受訴裁判所は, 一定の場合,訴追を見合わせ,又は途中で打ち切ることができる. (StP0153条以下)。この訴追限定に関する規定上の所為は,訴訟法上の所 為と同一であると理解されている倒。それゆえ,賦課又は遵守事項を条件 とする手続打切 ( StP0153a条)における確定力(但し,法律上限定的で ある)は,訴訟法上の所為全体に及ぶ。 このように,検察官には,いわゆる一部起訴が認められているのである が,他方で,除外された行為が起訴された行為との問で訴訟法上一個の所 為を構成する場合,裁判所は,検察官の訴追限定判断に拘束されることな. く 自) l,除外された行為をいつでも手続に取り込むことができる ( S t P 0 1 5 4 a. 0 0 ) BGHSt 2 5, 3 8 8;OLG ニュルンベルク NJW 1 9 7 7, 1 7 8 7 .. 。 1 ) 例えば,検察官が訴訟上別個の所為であると判断し, 1 5 4条に基づいて手続を 打ち切った場合,裁判所は,これを同一の所為であると判断するならば,検察 官の処分は 1 5 4 a条によるものであると評価し,除外された行為を独自の判断 で取り込むことができる (BGHSt 2 5, 3 8 8;BGH NStZ 1 9 9 5, 5 4 0 )。 192(313).
(21) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 条 3項)。つまり,所為全体を起訴するか否かについては,一定の条件の下 で検察官の訴追裁量が認められているが,一旦所為の一部でも起訴された ならば,検察官の訴追限定は暫定的なものでしかなし基本的に所為全体 が裁判所の審判権限に服することになる O そして,この裁判所の権限は, さらに実体的真実解明に向けた包括的義務として作用する O 例えば,起訴 された行為が証明されずそのままでは無罪判決となるような場合,除外さ れた行為を再び手続に取り込むことは,裁判所の義務でもあるとされる O この問題について,例えば,. eBGH刑事第五部 1 9 6 8年 3月1 2日決定 BGHSt2 2. 10 5は,交通事故事件に ついて検察官が道路交通規則違反については訴追を見合わせ,道路交通危 殆化罪のみを理由に起訴したが,審理の結果,公訴事実について証明が得 られず,ただ除外された行為は確かであることが判明したという事例につ いて, I 裁判所は, StP0264条による自身の義務を果たすために,原則に帰 り,所為を問題となるあらゆる法的観点で評価しなければならな L、。つま り,除外された法違反を再び手続に取り込まなければならない」と判示し f こO. eBGH刑事第四部 1 9 8 3年 9月1 5日判決 BGHSt3 2 . 8 4は,武器所持罪と故 殺未遂罪について後者だけが起訴された事例で, I さもなければ無罪判決 に至るという場合,検察官の申立がなくても,除外された所為部分を再び 取り込まなければならな t ¥ J と判示した。. eBGH刑事第四部 1 9 8 5年 7月 1 1日判決 NStZ1 9 8 5 . 5 1 5は,右 1 9 8 3年判決 と同様の事例で, I 除外された法違反[も]……裁判所の探知義務に服し, 所為の不可分性の原則に従い,起訴された所為全体が,公判の結果明らか となった事実点及び法律点について,公訴の法的評価に拘束されることな く,完全に審判されなければならな Lリと判示した。. eBGH刑事第三部 2 0 0 0年 1 1月 2 3日決定 NStZ-RR2 0 0 1, 2 6 3は,被告人が -1 9 3(3 1 2).
(22) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 実娘に対する長期にわたる性的濫用罪及び性的強要罪で起訴され,原審が 前者を手続から除外したうえで、性的強要罪について有罪判決を下したが, この性的濫用罪はすでに公訴時効が完成していたという事例について,手 続打切ではなく,除外された(未だ公訴事実が完成していない)性的強要 罪を再び取り込んで審判されなければならないと判示した。 また,除外された行為の再取込が行われなかった場合について,. eBGH刑 事 第 二 部 1 9 8 9年 1月2 0日判決 NStZ1 9 8 9 . 3 8 1は,麻薬取引罪の 連続犯として起訴されたが,裁判所がその一部の行為に限定したという事 例について,確定判決の効力は除外された部分にも及ぶと判示した。 以上のように,起訴便宜主義に基づく所為の一部打切は,あくまで暫定 的なものでしかなく,そのような処分が行われた場合でも,除外された部 分も含めて所為全体が裁判所に訴訟係属するものと理解されている ω 。 (日実践的帰結. r oによると,訴訟法上の所為の不可分性から,刑事実務上以 K a r lKr句 i l 下のような帰結も導かれる O. S t P 0 1 7 0条 2項 1号によると,捜査の結果犯罪嫌疑が不十分である場 合,手続が打ち切られることになるが,この際,打ち切られるのは訴訟上 の所為であって,個別の行為ではな t,。例えば,行為者が飲酒運転中に事 故を起こし,被害者に負傷させたが,事故の原因は被害者の飛び出しによ るものであり,結果回避の可能性がなかったという判断から過失致傷罪に ついて起訴されず,飲酒運転のみについて起訴される場合,過失致傷罪に ついて手続打切処分は行われな t ' 0. a a O . . ( 3 3 ) K arl Kr 句i l,D i ep r o z e s s u a l e Tat a l sZ e n t r a l b e g r i f fi nd e rs t r a f 9 8 6, 2 11 . r e c h t l i c h e n Ausbildung und Prufung,Jus 1 (3~. 一. 194(311).
(23) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 検察官がある訴訟法上の所為について公訴を提起した場合,同ーの所為. ' 0例えば上 を理由に起訴強制手続 (StP0172条)を求めることはできな t 述事例で,検察官が飲酒運転罪を理由に公訴を提起した場合,これにより 裁判所は右所為についてあらゆる法的観点(過失致傷罪も含む)から審査 する権限及び義務を有することになるため,起訴強制手続の目的はすでに 達せられているからである O. 3 . 所為に関する判例の展開 ドイツ刑事訴訟法において, I 判決発見の対象は,公訴において示され, 審理の結果明らかとなった所為である J(StP0264条 1項)。すなわち,刑 事訴訟法上の所為は,まず公訴を提起する段階で,検察官が,その法的評 価を付して起訴状に記載し (StP0200条 1項),続いて,裁判所が,当該 公訴について被疑者・被告人に十分な嫌疑があると判断した場合に公判を 開始する旨の決定を行う (StP0203条)が,さらに,公判裁判所は,この 「公判開始決定で基礎とされた所為の評価には拘束されず J(StP0264条. 2項),公判における証拠調の結果を受けて,独自の判断と権限において所 為の内容を決定する O この所為という概念は,近時の BGH判例によると,以下のように理解 されている O すなわち, I 訴訟法上の所為は,公訴及び公判開始決定で示さ れた被告人の個別の行為だけでなく, 日常的観察において単ーを構成する 歴史的事象全体であり,その範囲内で被告人が正犯又は共犯として犯罪構 成要件を実現したとされるものを含む。さしあたり調査の範囲を構成する のは,公訴で記述された事象である. O. しかし, これには,公訴で示された. 歴史的出来事との間で日常的観察において単ーを構成する限りで,被告人 の全ての行態が含まれる(この事情が起訴状で明示されていなかった場合. J(BGH刑事第五部 2 0 0 3年 6月 1 8日判決 NJW2 0 0 3, 2 9 9 6 ),また「判 でも ). -1 9 5(3 1 0)一.
(24) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 決発見の対象である所為は,歴史的事象であり,公判開始決定で指摘され, その範囲内で被告人が犯罪構成要件を実現したとされるものである O これ は,独自の概念であって,実体法上の行為概念よりも広く及ぶ。訴訟上の 意味での所為には,実体法上行為単一であるか行為複数であるかにかかわ らず, 日常的観察において単一の事象である限りで,被告人の全ての行態 が含まれる。これにより,許可された公訴がそこから刑法上の非難を導い た生活事象は,当該事実が起訴状で言及されていなかった場合でも,右生. BGH刑事第五部 2 0 0 4年 活事象と関連する全ての出来事を包摂する J(. 3月. 1 7日判決 NStZ2 0 0 4, 5 8 2 )。 このような「所為」の内容について,以下のように様々な観点で議論が 積み重ねられてきた。この問題は,公訴内容の変更の限界,つまり新たに 判明した事実を同一手続でどこまで審理に取り込むことができるかという 場面では,所為を広く理解すると被疑者・被告人に不利(逆に訴追側に有 利)となるのに対し,裁判が確定した後の段階,つまり新たに判明した事 実について公訴提起できるかという場面では,所為を広く理解すると被疑 者・被告人に有利(逆に訴追側に不利)となるという関係にあり,実体的 正義や法的安定性といった刑事手続を支える諸原則のいずれかに重きを置 くということで容易に結論を導くことができないものである点に,難しさ が認められる O そして,判例上,上述のような一応の基準は示されている が,具体的事例における検討に際しては, I 個別の事情が重要である。決定 的であるのは,問題となる行態の間で,それらの刑法上の意義を考慮した うえで,実質的に密接な連関が存在するかという点である。 J(前掲. BGH. NStZ2 0 0 4, 5 8 2 ) とも判示されており,混沌としたものとなっている倒。. ω すでに. RG の時代に,全ての事例において機械的に結論を導く基準を確立 , 1 3 5 )。 することはできないと判示されていた(例えば RGSt8 196(309).
(25) 「公訴事実の同一性」概念について(1). そこで,所為概念の理論的整序を試みる前に,問題点を整理し,抽出す るという目的から,所為概念に関する判例の展開を概観し,特に議論のあ る類型については,個別に項目を設けて検討を加える。議論の状況を詳細 にトレースするために,問題となる類型ごとにできるだけ多くの判例を包 括的・網羅的に整理することを試みるが,その際,わが国との比較の便宜. 1 所為の単一性」と I (狭義の)所為の同一性」の観点から分類してお. 上 ,. くことが有益であると思われる ω 。 け所為の単一性 わが国では,公訴事実の単一性とは,. 1 両立する犯罪事実の一体性」を. 問題とする観点であり ω,1 訴訟のある時点で公訴事実が一個であるかの問 題,すなわちどこまで広がるか ( 1どこまで同じか J ) というはばの問題」 である仰と説明されている O まず,この観点から, てみよう. ドイツの判例を概観し. O. ( 1 ) 実体法的アプローチ ドイツでは,従来から,判例上,実体法(罪数論)上の行為概念 (StGB52 条以下)と訴訟法上の所為概念 ( StP0155条 , 2 6 4条 , GG103条 3項)と は独立した関係にあるとされながらも,後者は前者を包摂する関係にあ る,つまり実体法上一個の行為である場合,常に,訴訟法上も所為は一個 であるとされてきた ω 。従って,. 1 認識上のー罪J(当罰的な行為が一定の犯. 罪類型に一回該当すればー罪であるとされるもの)はいうまでもなく,さ. ω. ドイツの判例及び諸文献でも, i E i n h e i t Jと I I d e nt it at Jの表現が用いられ,. 前者を「単一性J ,後者を「狭義の同一性」として分類することも考えられる が,その内容をみると,明確に使い分けられているわけでもないようである。 働 鈴 木 ・ 前 掲 注( 3 )~刑事訴訟法 j 1 1 6頁 。 的. 田宮・前掲注( 2 )~刑事訴訟法 j 2 0 2頁0. ( 3 8 ) BGHSt8 , 9 2;GA1 9 7 0, 8 4 .. 1 9 7(3 0 8).
(26) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. らに「認識上の数罪」であっても,一定の観点からある罰条で一回的に評 価されるべき場合 ( 1評価上ー罪 J ),或いは複数の罰条に該当する場合でも なお科刑上一体的に扱われるべき場合 ( 1科刑上一罪J ),訴訟法上一個の所 為として,一回の手続で処理されるべきことになる O このような,訴訟法 上の所為の単一性の問題に関して実体法上行為単一の観点から検討するア プローチは,例えば. BGH刑事第一部 1 9 9 7年 5月 7日決定 NStZ1 9 9 7, 5 0 8. が , 1 当裁判所は,事象が実体法上行為単一の関係にある場合,訴訟上も一 個の所為だけが存在するという見解を維持する O なぜなら,一個の法律効 果をもたらす事実は,その全体が一個の手続の対象でもなければならない からである。」と判示していることをみると,現在においても重要な見解で ある O もっとも,. BGH刑 事 第 三 部 1 9 9 5年 1月2 0日決定 NJW1 9 9 5, 2 5 0 0. は,実体法上の行為単一の検討は訴訟法上の所為の同一性の問題に関して そもそも検討の必要がないと判示しており,訴訟法上の所為概念の独立性 を強調する見解もみられる(後述 ( 2 ) )。. ( i ) 自然的行為単一・観念的競合. S t G B 5 2条 1項によると, 1同ーの行為が複数の刑罰法規に違反し,又は 同一の刑罰法規に複数違反する場合,その行為に対して,刑罰は一個だけ 科される」。この規定は,いわゆる観念的競合の規定であり,科刑上一罪を 規律するものである O この規定が適用されるためには,. 1 実行行為が双方. の法定構成要件要素を同時に充足する Jことが必要であり,単に実行行為 が時間的,場所的に重なっているというだけでは足りな L訓。もっとも, その重なり合いは部分的なもので足り,完全な一致を要求するものではな L' 0 従って,わが国の通説的見解とは異なり,継続犯(又は連続犯)と状. 態犯や促成犯との間でも行為単一の関係が肯定される O 実体法の観点から. C 3 9 ). BGH G A 1 9 6 1, 3 4 6 .. 0 7) - 1 9 8(3.
(27) 「公訴事実の同一性」概念について(1). は,この科刑上一罪の類型は,後述の評価上一罪の類型よりも後に検討さ れるのが一般的であるが側,訴訟法の観点からは,問題となる事象の時間 的,場所的接着性を考えると,自然的行為単一(観念的競合)の観点から 検討することが有益であると思われる O 自然的行為単ーを前提に(自動的に)訴訟法上の所為単ーが肯定された ものとして,以下の裁判例がある O. eBGH刑事第二部 1 9 5 3年 1月3 0日判決 NJW1 9 5 3 . 5 5 3は,被告人は無許 可で卑金属の取引を営業的に行っていたが,取引の一部は盗品と知りなが ら譲り受けていたものであったという事例について, I 被告人は,盗品罪と 一個かっ同一の行為により,卑金属類を営業的転売目的で入手するという 意思を実現した」と判示し,行為単ーを肯定している O. eBGH刑事第五部 1 9 6 9年 1月2 1日判決 GA1 9 7 0 . 8 4は,被告人が銀行との 取引に際し虚偽の事実を申告して不正に担保を取り戻し,また不正に手形 自然的行為単一は,同種の,時間的及 割引をさせたという事例について, I び場所的に密接な関係にあり,かっ統一的意思決定に基づ、く活動の間で, 行為者の全ての行為が客観的に第三者から予断なく観察した場合でも単一 に統合された活動であるとみられるほどの直接的連闘が存在する場合,肯 定される。」と判示し,行為単ーを肯定している O. eBGH刑事第四部 1 9 9 1年 8月 1日決定 NStZ1 9 91 .5 4 9は,被告人が詐欺 罪を理由に付加刑として職業禁止を命じられたにもかかわらず,他人を介 在させて同種の詐欺的取引を行ったという事例について,職業禁止命令違. H a n d l u n g s i d e n t i t a t ) が存 反と新たな詐欺罪との聞には「行為の同一性 ( 在する」と判示し,行為単ーを肯定した。. eBGH刑事第一部 1 9 9 5年 7月1 8日判決 NStZ1 9 9 5, 5 4 0は,被告人が未成 側 鈴 木 茂 嗣 『 刑 法 総 論 [ 犯 罪 論J l J2 4 3頁以下 ( 2 0 0 1年,成文堂)。. 1 9 9(3 0 6).
(28) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. 年者に偽造旅券を交付してドイツに渡航させ,. ドイツ国内で売春させたと. 旅券偽造罪と人身売買罪は,単一の歴史的事象であ いう事例について, I り,これにより訴訟上の意味で一個の所為と理解されるべきほどに,時間. ・. 的,場所的,事物的に密接な連関がある。」と判示し,行為単ーを肯定した 0. BGH刑事第一部 1 9 9 5年 1 1月 2日判決 NStZ-RR1 9 9 6 . 9 8は,被告人が武. 器を用いて被害者に車に乗るよう強要し,相当時間連れ回した後に故殺未 遂罪を実行したという事件で,原審が誘拐罪 (StGB239b条 l項)を審判 しなかったという事例について,誘拐罪は故殺未遂罪及び武器所持罪と行 為単一の関係にあると判示した。 他方,自然的行為単一(及び訴訟法上所為単一)を否定したものとして, 以下の裁判例がある O. eRG刑事第一部 1 9 2 2年 3月3 0日判決 RGSt5 7, 5 1は,被告人が窃盗目的で. Aの家に侵入し,財物を物色していたところ,不意に Aの姿を認めたため 驚いて発砲したという事例について,窃盗罪と故殺未遂罪との聞には実行 行為の重なり合いが認められず,行為単一の関係が認められないと判示し f こ. O. eBGH刑事第一部 1 9 8 4年 9月 1 1日判決 MDR1 9 8 5 . 9 2は,被告人が出資詐 欺の目的で新聞広告を出したところ, A及び Bの 2名がこれに応募し,被 告人が個別に面接交渉したうえで,各々から出資金名目で金員を詐取した という事例について, I 確かに双方の詐欺行為は,同一の広告に起因する O しかし,……行為単一の関係が認められるのは,一個かっ同一の行為が, 複数の刑罰法規に,複数の犯罪の実行行為が少なくとも部分的に重なる形 で違反する場合に限られる。」と判示して,行為単一否定した。 (麻薬不法所持罪と麻薬酪町状態での自動車運転の罪) 麻薬使用による酪町状態での自動車運転の罪 (StVG24a条)と麻薬不法 所持罪との関係について,以下のような対立がある o OLGオルデンブル -2 0 0(305)一.
(29) 「公訴事実の同一性J概念について(1). ク2 0 0 1年 8月1 4日決定. StV2 0 0 2 . 2 4 0は , I 車の運転によりトランク内の麻. 薬に関する支配が維持されることになるため,運転は,継続犯への構成要 件的行為寄与を意味する。」と判示し,行為単ーを肯定した。これに対し て , OLGシュツットガルトは,反対の見解を妥当とし,法律判断を求めて 事件を. BGHに回付した。 BGH刑 事 第 一 部 2 0 0 4年 4月2 7日 決 定 NStZ. 6 9 4は , I 双方の犯罪の客観的実行行為は,全く重なり合わな L、。両者 2 0 0 4, は ,. 自然的考察において,実行行為の時間的重なり合いは認められるとし. 個の独立した,個別の犯行決意に基づく身体的意思活動である。行 ても, 2 。 」 為者は,公道を走行していない場合も,麻薬の事実的支配を失わな L、 と判示し,実体法上行為単一(及び訴訟法上所為単一)を否定した。もっ とも, OLGオルデンブルク自身,麻薬不法所持罪は,麻薬の取引,入手, 輪 入 等 の 行 為 が 証 明 さ れ な い 場 合 の い わ ば 捕 集 構 成 要 件 (A u f f angta t -. b e s t a n d )であり,麻薬入手罪が証明される場合には酪町運転罪との間で行 為複数の関係にあると判示していた。しかし,訴訟における証明の状況に より行為の個数が決まるという見解には,疑問がある O. ( i i ) 評価上単一 【構成要件上評価単一】 犯罪類型の中には,予め多くの行為を包括的に把握し,一個の犯罪とし て評価しているものがある O (麻薬不法取引罪) 麻薬不法「取ヲ I J の罪について,. BGH刑事第二部 1 9 8 1年 1月 7日決定. BGHSt3 0, 2 8は , I 麻薬取引の概念には,営利目的の販売に向けられたあら ゆる活動が含まれ,その際,入手,密輸,販売は,右法的要素を示す限り で,法的に独立しない取引の部分行為である。」と判示している O これによ ると,例えば,麻薬を外国で入手し,これをドイツへ輸入し,そこで他者 に販売した場合,各々の行為は,麻薬不法取引罪一罪で評価されることに. -2 0 1(3 0 4 ).
(30) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. なる O また,一回の入手(又は密輸)行為により取得された麻薬の量が複 数回にわけで他者に販売された場合も,一個の取引として評価される O こ の麻薬不法取引罪について訴訟上の所為の単一性が問題となったものとし て,以下の裁判例がみられる。. eBGH刑事第五部 1 9 8 1年 1 0月1 3日決定 8tV1 9 8 2 . 6 0は,被告人が 9月2 7日 に転売目的で他者から麻薬を譲り受け,. 1 0月 4日にその代金が支払われた. という事件で,右代金支払行為が麻薬不法取引罪にあたるとして起訴され たが,右支払が麻薬取引のためのものであることが証明されなかったた め,原審は 9月2 7日の譲受行為について麻薬不法取引罪で有罪判決を下し たという事例について,実体法の観点から特に検討することなく訴訟法上 の所為の同一性を肯定した。この判断は,両事実は各々取引行為との関係 で実体法上単一の関係にあることを前提としたものといえよう O. eBGH刑事第二部 1 9 8 2年 2月1 7日判決 8tV1 9 8 2 . 2 5 6は,被告人が共犯者 と共同して. 3 3 0 gのヘロインを入手し,共犯者が 3 0 0 gを A及び Bに販売. し,被告人は Cに. 1 0 gを販売したが,そのうち 19は性交の見返りに譲渡. したものであったという事件で,最後の 1g の譲渡行為について起訴され たという事例について,. cに対する 10gの販売行為は起訴された行為との. 間で訴訟法上所為単一の関係にあるが,その他の行為は別の所為であると 判断した。これは,当初の. 19の譲渡行為は営利目的ではなく,それゆえ. 取引行為の一部ではないと判断された結果であるといえよう O. eBGH刑事第一部 1 9 8 4年 3月 8日判決 8 tV1 9 8 4 . 3 6 6は,被告人は,麻薬 を密輸入し,受渡現場付近(麻薬を特定の場所に隠して受渡されていた) で逮捕されたが,即日釈放され,その直後に隠し場所で麻薬を受け取った という事例について,逮捕によっても一連の取引行為が中断されたわけで はないと判示し,所為単ーを肯定した。. eBGH刑事第一部 1 9 9 0年 6月1 2日決定 8tV1 9 91 .8 は,被告人が 1 9 8 8年 2 2 0 2(3 0 3).
(31) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 月の麻薬入手について麻薬不法取引罪で起訴されたが,実際には彼が 1 9 8 7 年1 2月に右麻薬を密輸入したものであったことが判明したという事例につ いて,営利目的の密輸と入手はいずれも取引のー態様にすぎず,両事実は 実体法上単一の関係にあると判示している。 (その他の犯罪) その他,構成要件上評価単一の観点から所為単ーを検討したものとし て,以下のような裁判例がみられる。. eRG刑事第四部 1 9 1 8年 2月 8日判決 RGSt51 .3 7 1は,物価統制令違反(不 法商取引罪)について,不当な買占め行為(同令 5条 1項 l号)とその転 売行為(同 3号)とは,いずれも不法商取引の部分行為であると判示し, 所為単ーを肯定した。. eBGH刑事第五部 1 9 5 5年 6月 2 8日判決 BGHSt8 . 9 2は,監護養育義務違反 (StGB171条)について,被告人が自分の娘 03歳と 1 2歳)を酒場につれ て行き, 自分が酔って喧嘩や博打をする場面を見せる,自宅で,娘の面前 で放尿をする,妻に暴言を吐くなどの行為を行ったという事例について, 「本罪は,行為者が自身の監護養育義務を無責任な方法で、かっ著しい程度 にわたり慨怠すること,及び,これにより行為者が子供の身体的及び道徳 的状態を危殆化させることを要件とする O この犯罪は,. しばしば,行為者. が一個ではなく,複数の時間的に離隔した行為を行い,これによって行為 者が自身の監護・養育義務を悌怠するという方法で実行される。」と判示 し,各々の行為は一個の罪として評価されると判断した。. eBGH刑事第三部 1 9 9 1年 8月 1 4日決定 BGHSt3 8, 5 4は,被告人は, 1 9 5 7 年から 1 9 8 9年まで旧東ドイツの国家保安局長官としてスパイ組織を設立 し,指揮してきたが,その間に実行した職権濫用罪(市民の電話通信を傍 受した)は継続犯であるスパイ活動の罪の一行為であり,評価単一のもの として処理されるべきであると判示した。. 2 0 3(3 0 2).
(32) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 2号. eBGH刑 事 第 五 部 1 9 9 3年 2月1 0日決定 w i s t r a1 9 9 3. 19 3は,通貨偽造罪 (StGB146条 1項 l号)と同行使罪(同 3号)との関係について,各々の 行為は「実体法上単一で StGB146条 1項の構成要件を満たす非独立的」 なものであると判示している O. eBGH刑事第五部 2 0 0 3年 6月1 8日判決 NJW2 0 0 3 . 2 9 9 6は,被告人が取引 先企業の役員である A及び Bに対し賄賂を供与した ( StGB299条)として 起訴されたが,公判において,法律上の理由で財産権譲渡が無効であるこ とが判明したため,原審が賄賂供与の約束の時点について贈賄罪を認定し たという事例について,. r 通常,利益の供与は,本件のように,相応する. 約束を前提とし,それは,供与という特別の実行形態が充足された場合に は背後に退く. O. ……両事実の時間的離隔は,その刑法上の関係を考える. と , StP0264条の意味での所為の同一性を否定させるものではない。 Jと 判示し,訴訟法上の所為の同一性を肯定した。この事件は,複数の行為を 含みうる贈賄罪の性質を考えると,構成要件上評価単一の観点から理解す ることが可能な事例であろう O ・他方, BGH刑事第三部 1 9 9 7年 1 1月1 9日決定 BGHSt4 3, 3 1 2は,被告人が 結社法 2 0条 1項 4号に基づく活動禁止規定に反して,禁止された結社に複 数回にわたり寄付を行ったという事例について,. r 結社法 2 0条 1項 4号は,. 行為の記述及び規定の趣旨から,そもそも個別事例を超えて,同種の行為 反復に向けられた行態及び全ての行為複合が構成要件的行為単一へ法的に 結合させられるような犯罪類型にはあたらな L、。……禁止に対する違反行 為は,禁止の対象となった組織の維持,強化,組織関係の援助といった意 味での組織化の成功を要件としておらず,その構造上,同条項 l号乃至 3 号等の組織化犯罪とは区別される。」と判示し,構成要件上の単一性を否定 した。. 2 0 4(3 0 1).
(33) 「公訴事実の同一性」概念について(1). 【接続犯】 認識上数罪である場合でも,. I 時間的,場所的に接近し,必ずしも同一法. 益とはいえないまでも,一体性のある法益の侵害を指向しているために, 各行為を包括的に一つの罰条で評価するのを妥当とする場合 J ,いわゆる 「接続犯」として,実体法上単一のものとして評価される制。. ドイツにはこ. の接続犯という概念はなく,法的行為の単一性乃至構成要件的行為の単一 性の一場合とされているのであるがω ,わが国との比較上,. この類型を別. 途分類しておくことは有益であると思われる O この類型について,以下の 裁判例がみられる O. eRG刑事第二部 1 8 9 3年 1 1月 1日判決 RGSt2 4, 3 7 0は,被告人が夜間工場 の事務所に侵入し,財物を物色中に革靴を発見し,手にとって履いてみた が,サイズ違いのためすぐに手放し,最終的に,机上にあったタバコとタ バコ入れを持ち帰ったという事件で,革靴についての窃盗罪で起訴された が,原審はタバコ等の窃取についても確信を抱いたという事例について, 「行為の時間及び場所の関係から,行為単一の関係が認められる」と判示し. T こO eOLGツェレ 1 9 6 5年 1 1月 1 1日判決 DAR1 9 6 6, 1 3 7は,被告人は,飲酒状態 で甲地から乙地まで車を運転(第一行為)し,そこで約 1時間 3 0分滞在し た後自宅に向けて再び運転した(第二行為)という事件で,第二行為で起 訴された場合第一行為も審判に取り込むことができるかという点が問題と なった事例について,. I 確かに,被告人は,乙地で約 1時間 3 0分の間運転を. 中断しており,このことから,帰路の運転に際し新たな所為を開始したと いうことも考えられる O ……しかし,本件において,運転の目標は当初か. ω 鈴木・前掲注ω『刑法総論[犯罪論JJ254頁。 ω 虫明・前掲注Q 4 )~包括ー罪の研究 J. 2 3 6頁 。. 2 0 5(3 0 0).
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