はじめに
脂肪細胞は,飢餓時に備え中性脂肪 を蓄える臓器である.運動時や絶食時 には中性脂肪は加水分解され,遊離脂 肪酸(FFA;free fatty acid)とグリセロ ールが循環血中へ放出される.以前よ り脂肪細胞には効率良いグリセロール 放出機構の存在が想定されていたが, 分子機構は明らかにはされていなかっ た.1997年,私たちのグループと大阪 大学細胞工学センターとの共同研究 で,ヒト脂肪組織 cDNA libraryより 水 チ ャ ネ ル フ ァ ミ リ ー に 属 す る aquaporin adipose(AQPap)を同定し
た1).その後,AQPapは水のみならず グリセロール透過能をも有すること1, 2) ,3T3-L1脂肪細胞の分化過程に伴い AQPap遺伝子発現が増加していくこ と2) ,インスリンにより転写レベルで 厳密に制御されていること3)などを報 告 し て き た . こ れ ら の 結 果 は , AQPapが脂肪細胞において,グリセ ロール放出に関わる分子であることを 強く示唆していた. 最近私たちは実際にAQPapが生体内 で脂肪細胞特異的グリセロールチャネ ルとして作用しているか,またAQPap の破綻はどのような病態に繋がるの か,などを解析する目的でAQPap欠 損マウスの作製・解析を行った4, 5) .本 稿では,AQPap欠損(KO)マウスから 得られた知見を報告する.
1. 脂肪細胞特異的グリセロー
ルチャネル,AQPap
まず,AQPapが生体内において脂 肪細胞特異的グリセロールチャネルと して機能しているかどうか,7∼10週 齢のマウスを用いて解析を行った.脂 肪分解により生じる遊離脂肪酸(FFA), グリセロールの血中濃度を摂食,絶食 時 に 測 定 し た . 血 中 F F A は 野 生 型 (WT),KOマウスに差は見られなか ったが,血中グリセロールは摂食,絶 食時ともKOマウスで有意に低値を示 した(図1-A).また,これらマウスに 脂肪分解を強力に誘導するβ3-アドレ ナリン作動薬(BRL26830A)を投与す ると,血中FFA上昇は両群間で同程 度観察されたが,血中グリセロールの 上昇はKOマウスで有意に障害されて いた(図1-B).同様の結果が3T3-L1脂 肪細胞でも観察された.すなわち, RNAiによりAQPapをノックダウンし た細胞では,アドレナリンによるグリ セロール放出が障害されていた. これらの結果,AQPapは生体内に おいて脂肪細胞グリセロールチャネル として機能しており,グリセロールの 放出に関わっていると考えられた.さ らに,長期絶食にて,KOマウスは WTマウスに比して血中グリセロール の上昇が障害され,重篤な低血糖を呈 した(図1-C).脂肪細胞由来のグリセ ロールは肝臓における糖新生の基質の 1つであり,絶食時の血糖を規定する 重要な因子と考えられた4) .2. AQPap欠損による病態
次に,これらマウスの経時的な体重 を観察した.12週齢以降,KOマウス はWTマウスに比して有意に体重増加 を来すことがわかった(図2-A, B)5) . KOマウスの脂肪組織は,形態学的に 肥大化した脂肪細胞が見られ(図2-C), ヒストグラムではより肥大化した脂肪 細胞が多数見られた(図2-D).精巣周 囲脂肪,腎周囲脂肪,皮下脂肪と,各 脂肪組織の重量はKOマウスが有意に 高重量を示した(図2-E).さらに,肥 満を呈したKOマウスは全身性のイン スリン抵抗性を来した.体重差のない 8週齢から高脂肪・高蔗糖食を負荷す ると,負荷後2週目よりKOマウスは 有意に体重が増加し,より重篤なイン スリン抵抗性を呈した.3. AQPap欠損マウスの肥満発
症機序
私たちは,KOマウスが肥満を呈す る原因を調べるために体重差のない若 週齢マウスの解析をさらに進めた.体 重あたりの摂餌量,直腸温や酸素消費 量は両マウス間で差がなかった.また, 白色脂肪および褐色脂肪組織における 脂肪分化,脂肪合成・分解や熱産生に 関わる分子の遺伝子発現にも明らかな 違いは見出せなかった.しかし,KO マウスの脂肪細胞内グリセロール含量 がWTマウスと比較して有意に増加し ていた(図3-A).最近,グリセロール 「肥満研究」Vol. 12 No. 3 2006 <トピックス>火伏俊之,ほかトピックス
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アクアポリン・アディポースの
生体内における機能解析
火伏 俊之,前田 法一,船橋 徹,下村伊一郎
大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学「肥満研究」Vol. 12 No. 3 2006 <トピックス>火伏俊之,ほか
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(mM) (%) 血 中 遊 離 脂 肪 酸 摂食 絶食 (μM) ** ** * ** * * * * * 血 中 グ リ セ ロ ー ル 摂食 絶食 血 中 遊 離 脂 肪 酸 変 化 率 BRL26830A (%) 血 中 グ リ セ ロ ー ル 変 化 率 BRL26830A 0.9 1.0 1.1 1.2 0.8 WT 0.7 0.6 0.5 100 0 10 時間(min) 0.3 1.2 0.9 0.6 0 6 12 18 24 時間(hours) 20 250 KO WT KO 300 400 200 WT 100 KO WT KO WT KO 200 150 100 0 10 時間(min) 20 300 250 200 150 血中遊離脂肪酸(mM) C B A 絶食 摂食 150 350 300 250 200 0 6 12 18 24 時間(hours) 血中グリセロール(μM) 絶食 摂食 60 160 140 120 100 80 0 6 12 18 24 時間(hours) 血糖(mg/dl) 絶食 摂食 図1 脂肪細胞特異的グリセロールチャネル;AQPap A:摂食時,12時間絶食時における血中FFA,グリセロール濃度,B:β3アドレナリン作動薬による脂肪分解誘発試験,C:長期絶食試験 *p<0.05,**p<0.01アクアポリン・アディポースの機能解析
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40 (g) A B WT KO WT C D (g) WT KO ** KO 精巣周囲脂肪 WT KO ** 腎周囲脂肪 WT KO ** 皮下脂肪 E 35 30 25 20 15 0 0 細胞面積 (μm2) 5 10 15 1 2 6 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 8 10 12 ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** 14 週齢 16 18 20 WT KO 22 24 体 重 脂 肪 組 織 重 量 頻 度 WT 0 細胞面積 (μm2 ) 5 10 15 (%) (%) 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 頻 度 KO 100μm 100μm 図2 AQPap欠損マウスは肥満を来す A:成長曲線,B:20週齢時の外観,C:20週齢時の脂肪組織像(H&E染色),D:脂肪細胞面積のヒストグラム,E:各脂肪組織重量 **p<0.01 3 WT (μmole/mg) A KO * 2 1 0 脂 肪 組 織 内 グ リ セ ロ ー ル 含 量 6.5 (nmol/well) C ** 6.0 5.5 5.0 グ リ セ ロ ー ル 含 量 200 WT (nmol/mg protein/h) B KO ** 150 50 100 0 グ リ セ ロ ー ル キ ナ ー ゼ 活 性 6 5 Cont. (relative ratio) D AQPap RNAi * 4 3 2 1 0 グ リ セ ロ ー ル キ ナ ー ゼ 活 性 2.0 (relative ratio) F ** 1.5 1.0 0.5 中 性 脂 肪 含 量 10.0 Cont. (pmol/μg protein) E AQPap * 7.0 8.0 9.0 オ レ イ ン 酸 取 込 み RNAi Cont. AQPap RNAi Cont. AQPap RNAi 図3 AQPap欠損マウスの肥満発症機序の解析A, B:in vivoにおける解析 C, D, E, F, in vitro 3T3-L1における解析
キナーゼ(Gyk)は基質であるグリセロ ールそのものにより立体構造が変化し, 基質誘導性の酵素活性が上昇しグリセ ロールをグリセロール3リン酸へ変換 することが報告された6) .そこで,肥 満を呈する前のKOマウス白色脂肪 Gyk活性を測定したところ,WTマウ スに比して明らかに上昇していた(図 3-B).また,脂肪細胞にGykを過剰発 現すると,グリセロールの再エステル 化が亢進し中性脂肪含量が増加するこ とも示されている7) .実際,3T3-L1脂 肪細胞にRNAiを用いてAQPapをノッ クダウンすると細胞内グリセロール含 量が増加(図3-C),Gyk活性が上昇し (図3-D),オレイン酸取り込みが増加 し(図3-E),最終的には中性脂肪含量 がコントロール-RNAi群に比して有意 に増加した(図3-F)5) . 以上,AQPap欠損マウスの解析に より,1)AQPapは脂肪細胞特異的グ リセロールチャネルとして実際に生体 内において機能していること ,2) AQPap欠損により脂肪細胞肥大,肥 満が生じること,が明らかになった. KOマウスの肥満発症機序のシェーマ を図4に示す.
おわりに
脂肪細胞を中心としたグリセロール 代謝研究はAQPapの発見により飛躍 的に向上している.最近,肥満症例で は脂肪組織AQPapの発現が低下して いるという報告がなされており8) ,新 たな肥満発症の原因の1つとして注目 される. 文 献1)Kuriyama H, Kawamoto S, Ishida N, et al.:Molecular cloning and expres-sion of a novel human aquaporin from adipose tissue with glycerol permeability. Biochem Biophys Res
Commun 1997, 241:53-58.
2)Kishida K, Kuriyama H, Funahashi T, et al.:Aquaporin adipose, a puta-tive glycerol channel in adipocytes. J Biol Chem 2000, 275:20896-20902. 3)Kishida K, Shimomura I, Kondo H, et
al.:Genomic structure and insulin-mediated repression of the aquapor-in adipose(AQPap), adipose-specific glycerol channel. J Biol Chem 2001, 276:36251-36260.
4)Maeda N, Funahashi T, Hibuse T, et al.:Adaptation to fasting by glycerol transport through aquaporin 7 in adipose tissue. Proc Natl Acad Sci USA 2004, 101:17801-17806. 5)Hibuse T, Maeda N, Funahashi T, et
al.:Aquaporin 7 deficiency is associ-ated with development of obesity through activation of adipose glyc-erol kinase. Proc Natl Acad Sci USA 2005, 102:10993-10998.
6)Yeh JI, Charrier V, Paulo J, et al.: Structures of enterococcal glycerol kinase in the absence and presence of glycerol:correlation of conformation to substrate binding and a mecha-nism of activation by phosphoryla-tion. Biochemistry 2004, 43:362-373. 7)Guan HP, Li Y, Jensen MV, et al.:A
futile metabolic cycle activated in adipocytes by antidiabetic agents. Nat Med 2002, 8:1122-1128.
8)Marrades MP, Milagro FI, Martinez JA, et al.:Differential expression of aquaporin 7 in adipose tissue of lean and obese high fat consumers. Biochem Biophys Res Commun 2006, 339:785-789. 「肥満研究」Vol. 12 No. 3 2006 <トピックス>火伏俊之,ほか