頚部リンパ節腫脹
沖縄県立南部医療センター
中村 優理
耳鼻科から紹介された、
似たような頚部リンパ節腫脹の2例を経験しました。
別々の疾患ですが、どこに注目して診察をすすめ、
どのように鑑別をすすめ、どのような治療プランを
症例 17歳女性 55歳女性
症例①
• 17歳女性
• 主訴
左頚部リンパ節腫脹
現病歴) 来院の2ヶ月前頃から、左頚部の腫脹に気付いた。 1cm位で硬く、痛みはなかった。その頃、両側の耳漏が 見られたが、自然に軽快した。 1ヶ月前に1週間程度持続する微熱と寝汗がみられ、 その頃より徐々に左頚部リンパ節が腫大してきた。悪寒 戦慄はなく、体重減少は不明であった。家族に同様な症 状の方はいない。 この間、咳・鼻汁なし。旅行歴なし。猫やペット飼育 なし。虫歯なく、その治療歴もない。ピアスは2年前に いれたが、同部の感染等はなし。 既往歴)神経調節性失神、アレルギー・喘息なし、 内服薬)なし、サプリメントの摂取もなし 月経)LMP 受診日1月前より5日間 生活歴)専門学校の学生、喫煙・飲酒無し 家族歴)特記無し
身体所見) General : 健康そのもののコギャル BP110/70 HR60 RR16 T37.2℃ Eye:眼球結膜黄染無し、眼瞼結膜に貧血無し Oral:齲歯無し、咽頭発赤無し、衛生環境は良い Neck:左頚部リンパ節腫脹(左胸鎖乳突筋外側に接し、 サイズは4×3cm、表面は整、硬さは弾性硬、圧痛は 軽度、癒合なし、可動性なし) Lungs:呼吸音は清、左右差なし Heart:心音は整、雑音なし Abd:平坦・軟、肝脾腫無し、 Skin : 皮疹無し、腋窩を含め四肢・体幹に創傷無し 腋窩リンパ節、鼡径リンパ節腫脹なし
★耳下腺より外側下方に 腫大あり。4×3cm。 ★表面は整、弾性硬で 圧痛著明、自発痛は軽度 ★表面はやや発赤
血液検査所見)
Hb 12.9g/dl Ht 36.6% Plt 28.0万/µL WBC 9000/µL • Seg 85.7% • Lym 7.9% • Mono 4.7% • AT-Ly 0.2% • Baso 1.0% 赤沈 38Na 138 mEq/L K 4.0 mEq/L Cl 107 mEq/ L Ca 9.1 BUN 7 mg/dL Cr 0.6 mg/ dL GOT 20 IU/L GPT 13 IU/L LDH 157 IU/L T.Bil 0.7 mg/dL 血糖 74 mg/dL CRP 0.7
17歳女性
頚部造影
CT
★左頸部リンパ節腫大 (46mm×27mm) ★リンパ節はリング状に 造影されている ★内部には造影されない low density area症例②
• 55歳女性
• 主訴
左頚部リンパ節腫脹
現病歴) 2006年夏に、転落による多発骨折で当院に入院歴ある患者。 退院後はリハビリ病院に入院となっていた。 内科紹介の6ヶ月前より左側頚部の腫脹が出現し増大してきた。 同部の自発痛・皮膚の発赤あった。寝汗無し、発熱なし、体重減少無し。 3ヶ月前に当院耳鼻科を受診し、切開排膿を施行された。 病理検査の結果は「組織球やリンパ球が浸潤し、一部好中球の浸潤もあり、 抗酸菌や乾酪壊死は見られない。リンパ節炎:猫ひっかき病やその他細菌 感染 の除外」との診断であった。一般膿培養は陰性であった。 耳鼻科では猫ひっかき病を疑って、抗菌薬(ミノマイシン)を投与した。 創部は縮小したが、離開したままであった。このため内科紹介となった。 自宅には雑種の犬がいるが、触れることはあまりない。 既往歴) 糖尿病(10年前からHbA1c 6.0、FBS 100)うつ病 社会歴)喫煙・飲酒なし 夫(優秀な歯科医師)が45年前に結核といわれ、 治療されている。現在、特に問題なし。
内服薬) ムコスタ(100)3T/3 ボルマゲン(25)3T/3 ベサコリン30mg/3 酸化マグネシウム1.5g/3 ウルデストン(100)6T/3 ボグリボース(0.3)3T/3 リン酸コデイン(10mg)眠前 牛車腎気丸3P/3 パキシル(20)1T/夕 セニラン(2)3T/3 トフラニール(25)3T/3 エチセダン(1) 1T/夕 クアゼパム(15)1T/眠前 フルニトラゼパム(2)1T/眠前 リスパダール(1)1T/眠前 カームダイン(0.4)1T 屯用
身体所見) General : 比較的落ち着いた淑女 BP110/70 HR72 RR14 T36.2度 Eye:眼球結膜に黄染なし、眼瞼結膜に貧血無し Oral:左下第1臼歯の齲歯あり Neck:元々の左頚部リンパ節腫脹は切開排膿により縮小し ているが、創部離開あり。その後方に2x1cmの弾性硬の リンパ節を触知する(表面は整、圧痛は軽度、癒合なし、 可動性なし)。 Lungs:呼吸音は清、左右差なし Heart:心音は整、雑音なし Abd:平坦軟、肝脾腫を認めず、 腹部正中に手術痕あり Skin:皮疹無し、四肢に創傷無し 腋窩リンパ節、鼡径リンパ節腫脹はなし
血液検査所見)
Hb 12.5g/dl Ht 37.6% Plt 20.9万/µL WBC 5100/µL • Neut 59.1% • Ly 31.8% • Mono 5.6% • Eos 1.5% • Baso 0.4% 赤沈 15Na 139 mEq/L K 4.7 mEq/ L Cl 103 mEq/ L Ca 9.3 BUN 17 mg/dL Cr 0.7 mg/dL GOT 19 IU/L GPT 14 IU/L LDH 171 IU/L ALP 383 IU/L T.Bil 0.3 mg/dL 血糖 101 mg/dL
55歳女性
頚部造影
CT
55歳
★左耳下腺下方に リンパ節腫大。 ★不均一に濃染する 2×2.5cm程度の腫瘤。 ★中心部は低吸収。 境界は比較的明瞭。胸部レントゲン
17歳女性 55歳女性
★左頸部リンパ節腫大 (46mm×27mm)
★リンパ節はリング状に造影 ★内部には造影されない low density area
★左耳下腺下方にリンパ節腫大。
★不均一に濃染する2×2.5cm程度の腫瘤 ★中心部は低吸収。境界は比較的明瞭。
★鑑別に至るために
聞きたいこと・やりたい検査はあ
りますか?
★そして鑑別は?
病歴の違い
17歳女性 55歳女性 主訴 左頚部リンパ節腫脹 左頚部リンパ節腫脹 出現時期(病院受診まで) 2ヶ月前 3ヶ月前 最初のリンパ節の性状と分 布 左後頚部、1cm、固い、圧痛 あり(自発痛は軽度) 左側頚部、自発痛、皮膚発赤 原因として思い当たるもの なし 齲歯 全身症状の有無 1ヶ月前微熱あり、寝汗あり。 体重減少不明。 食欲不振・全身 怠感・皮疹・ 関節痛なし。 発熱・体重減少・寝汗なし。 食欲不振・全身 怠感・皮 疹・ 関節痛なし。 その後の変化 増大傾向。 その他のリンパ節腫脹なし。 増大傾向。切開後は縮小? その他のリンパ節腫脹なし。 既往歴 なし 多発骨折、うつ病、腹膜炎 職業 学生 主婦・リハビリ入院中 海外渡航歴 なし なし 性行動 あり なし身体所見の違い
症例 17歳女性 55歳女性 主訴 左頚部リンパ節腫脹 左頚部リンパ節腫脹 腫脹リンパ節の性状 大きさ1cm、圧痛有り。 硬い、可動性は乏しい 直径2cmの腫瘤が2ヶ 所。自発痛あり。 生検後の創が治らない。 腫脹リンパ節の範囲 後頚部に限局 側頚部に限局 腫脹リンパ節の所見 皮膚発赤軽度、潰瘍なし、 熱感軽度 皮膚発赤あり、潰瘍なし、 脾腫の有無 なし なし 発疹・創・感染巣・腫瘤 なし なし診断に近づくために役立つ検査
は?
CT? レントゲン? MRI? エコー? PET? 採血?実際にやった検査:17歳女性
画像)
• レントゲン
• 胸頸部CT
血液検査)
•
ツベルクリン反応、クオンティフェロン
•
梅毒反応
•
HIV
スクリーニング
•
抗核抗体、リウマチ因子など自己抗体
•
赤沈
•
蛋白分画
実際にやった検査:55歳女性
画像)
• レントゲン
• 胸頸部CT
• 喉頭ファイバー
血液検査)
• クオンティフェロン
•
梅毒
•
抗核抗体
•
CEA、SCC、HTLV-
1
•
赤沈
•
蛋白分画
診断・治療プランは変わりました
か?
両症例とも、
生検で提出したもの
17歳女性 55歳女性 膿培養 膿培養(1回目の生検で提出 済) 組織培養 組織抗酸菌培養 *組織抗酸菌培養 膿抗酸菌培養 組織結核菌PCR *組織結核菌PCR 病理 病理生検の結果
17歳女性 55歳女性 膿培養 →Fusobacterium necrophorum 膿培養 組織培養 →Fusobacterium necrophorum 組織抗酸菌培養 組織抗酸菌培養 膿抗酸菌培養 組織結核菌PCR 組織結核菌PCR 病理 病理17歳病理
★提出された組織ではabcessの 形成が見られます。 ★結核を示唆する類上皮肉芽種 の形成は認めません。 組織はリンパ節ではなく、 横紋筋と膿瘍。55歳1回目
病理
組織像では明るい・広い胞 体を有する組織球が多数浸 潤しており、加えて好中球 浸潤も伴います。 壊死あり。2回目
乾落壊死
周囲に類肉芽腫の形成を 認めますがLanghans巨細 胞は見られません。
17歳女性、その後
生検時に得た浸出物をグラム染色した所
グラム陰性桿菌が見られた。
抗菌薬(
CTX+CLDM)の投与を開始。
17歳女性、その後
生検時に得た浸出物をグラム染色した所
グラム陰性桿菌が見られた。
抗菌薬(
CTX+CLDM)の投与を開始。
培養より Fusobacterium necrophorum検出。 口腔はきれいだったが、 いったいどこが感染源だった か・・・ 中耳炎からか??55歳女性、その後
2回目の生検で提出した
組織の結核菌
PCRと結核菌培養陽性。
結核の診断で治療を開始した。
リンパ節生検の適応
• 結核疑い
• 腫瘍性疾患疑い
• 膠原病(特にSjSや免疫不全状態の患者)
• 炎症性リンパ節炎疑い
(2週間以上軽快しない)
リンパ節腫脹の定義・・・・
『直径
1cm以上(鼡径は1.5cm以上)』
問診で聞くこと
出現時期 最初に気付いた時のリンパ節の性状と分布 原因として思い当たるもの:外傷・齲歯・皮膚疾患・動物との接触(猫・ 犬)・内服薬 全身症状の有無:発熱・体重減少・寝汗・食欲不振・全身 怠感・皮疹・関節 痛 その後の変化:分布と性状・大きくなったか・数は増えたか 既往歴:結核、梅毒、膠原病、甲状腺疾患、悪性腫瘍 職業 海外渡航歴 性行動身体所見
腫脹しているのはリンパ節? 腫脹リンパ節の性状 • 大きさ、圧痛の有無、硬さ、癒着・可動性の有無 腫脹リンパ節の範囲 • 限局性?全身性? 腫脹リンパ節の所見 • 皮膚発赤、潰瘍、熱感 脾腫の有無 発疹・創・感染巣・腫瘤はないか?鼠径リンパ節の流れ
鼠径リンパ節腫脹を 見た時は、
外陰部・殿部も
画像検査
リンパ節そのものを見る 検査 *エコー *CT 原因を見つける検査 *胸部レントゲン *CT *内視鏡検査
ツベルクリン反応 抗体価(ウイルス・クラミジア・リケッチア) 梅毒反応 HIVスクリーニング 可溶性IL−2受容体 抗核抗体、リウマチ因子など自己抗体 ACEその他 腫瘍
感染
免疫反応
全身性
vs 局所性
全身性 局所性
感染
全身性
vs 局所性
全身性 局所性 感染 非感染 脾腫がある場合は 全身性と考えますリンパ節生検の適応
• 結核疑い
• 腫瘍性疾患疑い
• 膠原病(特にSjSや免疫不全状態の患者)
• 炎症性リンパ節炎疑い
(2週間以上軽快しない)
生検について
生検の疾患診断率は60%
生検について
生検の疾患診断率は60%
今回のように、こちらが疑っていないと、
診断がつかないことも・・・。
生検も万能ではない!!
診断
• Open biopsy
• Fine needle aspiration
結核の場合は・・・
術後に創が縫合不全を起こすことがあるので
Open biopsy Fine needle aspira6on 組織診 細胞診 偽陰性 ほとんどない 27%しか正確な確定診断が できなかったとする報告あり。 麻酔 局所麻酔 or 全身麻酔 局所麻酔 できたらこっちを 施行したい。 生検が困難な場合に。
リンパ節生検の流れ
①リンパ節の選択
②採取
③採取した検体を病理室へ
④検体の処理
⑤検査のオーダー
①リンパ節の選択
• 複数ある場合
• できるだけ、頚部>腋窩・鼠径部
※腋窩リンパ節:脂肪化が目立つ
※鼠径部:下肢や陰部の炎症の結果の繊維化
が多い。
若い女性の場合は 美容的なことも考慮する。誰に生検を依頼するか
耳鼻科
②採取
• 無菌的に採取する。
• 可能な限り皮膜を傷つけずに
「丸」のまま摘出してもらうのが望ましい。
•
当然、目的をはっきり伝えておく
③採取した検体を病理室へ
• 生食を含んだガーゼなどにくるめて、
それをシャーレに入れる。
• 深夜などで病理が対応できない場合は、
ビニールテープなどで密閉し冷蔵庫に保管。
※リンパ節の表面が乾燥すると、皮膜が収縮して
内部の細胞変性をきたす。
※ただし、そのまま生食に浸しても、組織の膨化の
ため組織形態が保たれない。
④検体の処理
検体を輪切り(厚さ2~3mm)にする ・中央に近いスライス →10%ホルマリン固定 →病理検体 →HE染色、特殊染色、免疫染色 ・他のスライス① →断面をスライドグラスに押しつける →捺印標本 → May-‐Giemsa染色やPapanicolaou染色で鏡検 ・他のスライス② →メスで細切、 →細胞浮遊液 →フローサイトメトリーなど ・他のスライス③ →スメア、培養などに使用 ※原則、無菌的に行う(スタンプ時以外) ※「丸」のまま固定液に入れると皮膜が固定されて収縮するため内部の変性をきたす。リンパマッサージ
∼私もやってます∼
目指せ