アメリカの連邦教育補助金:
「集権化」傾向に内蔵される分権構造⑴
加 藤 美穂子
.問題意識と論理構造
..社会的要請と連邦政府の位置
本稿では,アメリカの州・地方財政における重要な政策分野である教育に対 する連邦補助金を取り上げて,近年強く指摘される連邦政府への集権化傾向に ついて検討し,集権化の中に本質的には分権構造が内蔵されていることを明ら かにする。特にブッシュ(子)共和党政権の
No Child Left Behind
法が集権化 の画期的な進展とされていることから,その立法及び全米的な定着のプロセス に焦点を当てて検討する。アメリカ型福祉国家の本質的論理は自立的な個人を基盤とする自由主義であ り,その中でも教育政策,特に貧困階層の児童に対する初等中等教育は極めて 重要な位置を占めている。個人の自立にとって重要な礎となるのが就労や事業 による経済基盤の獲得であるが,特にアメリカにおいては,自らの努力とその 成果によって社会的階段を上がることができるという「アメリカン・ドリーム」
への道が広く開かれていることが,その自由主義経済の重要な原動力となって きた。そのような社会的階段を上る能力の開発・向上にとって重要であるのが
「教育」であり,特に初等中等教育はその根幹を支えるものといえる。
ところで,合衆国憲法修正第 条では,州政府と連邦政府の権限について,
「この憲法によって合衆国に委ねられておらず,また憲法によって州に禁じら れていない権限は,それぞれの州または人民に留保されている」としており⑴, かつ,合衆国憲法では教育に関する連邦政府の権限は定められていない。その
ため,教育政策は州政府に留保された権限であり,そもそも連邦政府には関与 する権限はないとされてきた。さらに言えば,実際には,アメリカの初等中等 教育を担っているのは地方政府(学校区)であり,それぞれの地域の特性や価 値観を反映した多様な教育が実施されている。
しかし現在では,連邦政府も,教育政策に少なからず影響を与えるように なっている⑵。ただしその内容は主として,連邦補助金を通じた間接的な形での 関与・誘導であり,しかも貧困児童や障害児童等を対象とした教育政策のため の州・地方政府への資金の提供である。すなわち,合衆国憲法の規定にもかか わらず,教育分野への連邦政府の関与が容認されるようになったのは,マイノ リティーを対象とする貧困対策として公民権上の公正の問題と結びついて社会 的正当性が与えられたからである。その社会的正当性の故に,連邦補助金を通 した間接的関与が認められるのである。
逆に言えば,そのような社会的正当性が与えられないところにまで,連邦政 府が州・地方政府の教育政策に介入しようとする場合には,それは合衆国憲法 に表現される連邦システムの理念に反するものとなり,伝統的な分権構造を基 盤とする対抗的な諸作用を引き起こすことになる⑶。
このアメリカの自由で民主主義的な経済社会における教育の持つ意味と重要
( )
U. S. CONST. amend. X(邦訳は,松井(
), pp.
− による).
( ) アメリカの 年代以降の連邦教育政策に対する研究は日本でも蓄積されているが,
行政学的研究としては北野( ),小池( ),北野・吉良・大桃( )などがあ り,財政的側面からの研究としては州・地方財政の詳細な事例研究を行った塙( ) などがある。また, 年代を対象としているが,アメリカの教育財政の基本構造と連 邦教育補助金の特質を検討した研究として,本多( )がある。
( ) たとえば,Sunderman and Kim(
, pp.
− )は,以下のように述べている。「アメ リカの政治システムは,州と地方から選ばれた公職者によって支配されるシステムであ るために,連邦政府当局者があまりにも直接的な介入を行おうとするときには,通常,州・地方政府の権限が強く主張される。大統領と副大統領を除く全ての公職者は州・地 方の有権者によって選ばれるので,これらの公職者たちが地方の投票者とリーダーが連 邦政策に立腹していると考えている場合には,国政政党は上院や下院に対する影響力を ほとんど持たない。当時,きわめて強力な(政治基盤を持つ;引用者)大統領であった リンドン・ジョンソンの下ですら, 年代を通じて,学校に対する連邦政府の直接的 関与の拡大に対する非常に強い対抗的圧力が急速に連邦議会の中に台頭した。現行の連 邦政府の命令は,進行している論争の中心となるであろうことは完全に予見できる。」
性について, 年に公表され,その後のアメリカの教育政策に大きな影響 を及ぼした報告書,A Nation at Risk : The Imperative for Educational Reform
(『危機に立つ国家』)では以下のように明確に説明している⑷。
「危機に瀕しているものの一つに,この大陸で最初になされた誓約がある。(引用者:
その誓約とは,)全ての人は,人種や階級や経済的地位に関わらず,その個人の知性と 精神を最大限に成長させるための手段と公正な機会を与えられる権利がある(引用者:
というものである)。この誓約が意味することは,適切に導かれることで,全ての子供 は自らの努力という美徳によって,相応の雇用を確保するために必要な成熟した賢明 な判断力を手に入れて自らの人生を営むことを期待できるのであり,その結果,自己 の利益となるだけでなく,社会の発展にも貢献することが望めるのである。」
さらにいえば,教育の役割とは,経済的なものにとどまらず,アメリカの自 由主義に基づく民主主義社会を支える国民の健全な判断力の育成という,より 重要な理念も含むものである。この理念については,同報告書で引用された次 のトーマス・ジェファーソンの言葉の中に端的に言い表されている⑸。
「社会の最高権力を安全に信託できるのは,国民自身以外にはない。もしその権力を制御 する健全な判断力という点で国民に十分な啓発がなされていないと考えるならば,解 決の道は,国民から権力を奪うことではなく,彼らの判断力を育ててやることである。」
これらの教育に関する理念は,現在も党派を超えて全米的に共有されている ものであり, 年代以降の連邦政府の教育政策において,ブッシュ(父)共 和党政権,クリントン民主党政権,ブッシュ(子)共和党政権,そしてオバマ 民主党政権のいずれにおいても尊重されている。したがって,これらの政権間 の教育政策の違いは,この理念を実現するための手段についての違いと捉える ことができる。
( )
National Commission on Excellence in Education,(
), p.
(邦訳は,アメリカ教育省 他著/西村・戸瀬編訳( ), pp.
− を一部参照).
( )
National Commission on Excellence in Education,(
), p.
(邦訳は,アメリカ教育省 他著/西村・戸瀬編訳( ), p.
を参照).
このようにアメリカでは社会的共通基盤として教育を重要視する一方で,そ の学校システムは連邦政府が統一的に構築するのではなく,むしろコミュニ ティー・レベルの判断を重視する極めて分権的な構造が築かれてきた⑹。また,
初等中等教育における政府間の伝統的な役割分担としては,本多( )が述 べるように⑺,「教員の採用や教育課程の細部の基準,公教育費の調達および予 算の編成・執行など」を担うのは地方政府であり,州政府は「高等教育全般と 義務教育法制など初等・中等教育の制度的枠組み」を決定し,連邦政府は「教 育の機会均等の保証や国家レベルの統計資料の整備」を担当してきた。
すなわち,アメリカの初等中等教育システムでは,地方及び州政府レベルで の分権的なシステムを基本として,それを補完・支援する役割を州・連邦政府 間の財政関係(連邦補助金)が担っている。この連邦政府の教育政策の中心と なるのが,連邦初等中等教育法(Elementary and Secondary Education Act:以 下,ESEAと略記)であり,特に,貧困階層の児童を支援するための州・地方 政府への連邦補助金である。ESEAは, 年にジョンソン民主党政権の「偉 大なる社会政策」の下で成立した法律であり,公民権運動の高まりを背景とし て,抜本的な構造的貧困対策を行うためのものであった⑻。
年
ESEA
以降,初等中等教育における連邦政府の役割は拡大してきた が,特に 年にブッシュ(子)政権の下で成立したNo Child Left Behind Act
(Pub. L. − ;ESEAの再授権法である。以下では
NCLB
と略記)について は,従来よりも連邦政府による詳細な義務付けがなされ,集権的と評されるこ とも多い。なお,NCLB
は 年度末までESEA
プログラムを授権するもので( ) 小池( )
, p.。なお,小池(
)はアメリカの教育システムの特徴として,次 の点を指摘する。第 に,「国家としての統一的な義務教育制度は存在せず,州ごとに 多様な公教育が行われている」ことであり,「義務教育の年限,小学校・中学校・高校 の修業年限,カリキュラム,公立学校の管理運営等についても州ごとに多様」なものと なっている。第 に,「『K− 』(幼稚園から小中高まで)と呼ばれる公教育については,『ローカル・コントロール』の理念に基づいて『学校区(school district)』という市やカ ウンティから独立した地方教育機関によって行われているのが一般的であ」り,「州の なかでも学校区ごとに多様な教育が行われて」いることである。
( ) 本多( )
, p.
。( ) ただし
ESEA
は,時限つきであるため,定期的に再授権される必要がある。あったのだが,次の再授権に際して
NCLB
の修正を巡る合意形成がなかなか進 まず,オバマ民主党政権の下で 年 月に成立したEvery Student Succeeds Act
まで新たな再授権法は成立しなかった⑼。その結果,NCLBが 年以上に わたり, 世紀初頭のアメリカの連邦教育政策を規定することとなった。後に詳しく検討するように,NCLBは, 年代から全米規模で進行して きた「スタンダード・ベース教育改革」の一つの到達点を示すものであり,特 に 年代に行われた様々な政策実験をベースとして構築されたものである。
また,この時代に全米的な教育改革を進行させた背景には,本節および次節で 検討するグローバル化と
IT
化が進行する 世紀的な社会経済環境があり,一 方では貧困階層や低所得階層に属する個人にとって,アメリカン・ドリームへ の社会的階段を上ってミドルクラスの生活を手に入れるには従来にも増して複 雑な仕事を処理できる能力とスキルが不可欠となり,他方では企業にとって も,国内の労働市場において求めるスキルを持つ労働者を確保するために,初 等中等教育における基礎学力の確保が必要となっていることがある。このような社会的要請に基づく連邦政府の関与の拡大が,アメリカ連邦シス テムにおける分権性の縮小と集権化の傾向を強めたという見方が強まってい る。たとえば
Sunderman(
)は,NCLBが教育分野におけるフェデラリズ ムの関係を,「州政府に対しては連邦政府の役割を拡大させ,一方では地方学 校区に対する州政府の役割を強化した」としている⑽。また,Datnow et al.( ) は,教育における連邦政府の役割は 世紀に拡大してきたが,その中でも「ブッシュ大統領の
NCLB
法は,米国の典型的な学校の活動への連邦の関与の( ) 再授権法が成立せぬまま
ESEA
に対する授権が失効した場合であっても,appropriations
が提供され続ける限り,ESEA
プログラムはその運用を継続される(Skinner( ), p.
)。( )
Sunderman
( ), p. .
なお,NCLBが初等中等教育における州=地方関係に対して従来よりも州政府への集権化を進めたという点について,例えば篠原(
, p. )で
は,NCLBによって,「各州は,学区に対し州のスタンダードとテスト政策のなかで成 績不振の学校を明らかにすることを求めるとともに,各学区においてNCLB
法の実施(学校選択や補習教育サービス,学校改善への介入など)が適切に行われるよう,州政 府は多大なる労力を注いで」おり,「州による学区への目標管理を浸透させ」るものと している。
劇的な『段階的増大』の始まりを画した」と評している⑾。Sunderman and Kim
( )も同様に,NCLBについて教育政策における伝統的な州・地方の自治 を縮小させるものであるとし,さらに,ブッシュ(子)共和党政権の同法の運 用は統制的であり,協調的フェデラリズムから乖離するものとしている⑿。
NCLB
については,その成立当初,連邦政府が運用面においても厳格な姿勢 をとり,柔軟性を求める州政府の要請を拒否したことがあり,それによって集 権的という批判がより一層高まることとなった。そして,NCLB成立の数年後 には多くの州が同法に反対する法的措置をとるまでに至っており,それらに対 応する形で連邦政府が州・地方政府にNCLB
の運営の柔軟性を拡大する方策 を講じていくこととなった。しかし注意すべきは,NCLBは確かに初等中等教育における連邦政府の役割 を拡大させ,従来よりも詳細な連邦補助金の交付要件を課したのだが,全米的 に統一した初等中等教育システムを構築するものでは決してない。NCLBにお いて交付要件を厳格化したのはアカウンタビリティ・システムや教員の質など に関してであり,教育カリキュラムやスタンダードの内容,教育成果の評価基 準といった初等中等教育の核心部分については従来通り州・地方政府に決定権 がある。加えて,教育改革を具体的に進めるにあたって,連邦資金の使用につ いて州・地方政府の裁量を高めるための規制緩和も
NCLB
の中に規定されて いた。NCLB
が集権的側面と分権的側面の二面性を持つことについては,多くの論 者によって認識されている。たとえば篠原( )は⒀,NCLBがアカウンタビ リティ政策の実施規定によって州政府の教育政策を制御する側面を持つ一方 で,教育内容の州スタンダードや教育成果の評価基準(AYP)の設計について は従来どおり州政府が権限をもつことから,「各州はそれほど連邦に支配され ていないとする見方も可能」としている。そしてさらに,州政府は教育成果の( )
Datnow et al.
( ), pp.
− (邦訳pp.
− ).
( )
Sunderman and Kim
( ), pp.
−, , ,
−.
( ) 篠原( )
, p.
。評価基準を自ら決定できるために,その基準を低く設定することで
NCLB(が
求める目標:引用者)の達成状況を表面的には向上させることができ,同法が 定める改善措置(を実施するため:引用者)の州の財政支出を回避しうるとし ている。またManna
( )も⒁,州・地方の教育当局はNCLB
から手続き上 の指示を受けるものの,「教育上の公平性やエクセレンスやアカウンタビリ ティといった同法の核となる概念に対する具体的な意味は,州・地方自身の政 策選択に帰属」し,大きな裁量の余地があるとしている。ただし,このような分権化と集権化の 面性は
NCLB
に限られたものでは なく, 年代以降のアメリカの教育改革に一貫して見られる特徴でもある。たとえば本多( )は, 年代以降の教育改革において,連邦=州,州
=地方,地方政府(学区)内部で「統制をともなう集権化」と「規制緩和をと もなう分権化」が同時進行したとしている
⒂
。
以上の検討をまとめると,次のように考えることができよう。
第 に, 年代以降,連邦政府による初等中等教育への介入が国民に受 け入れられたのは構造的貧困への対策という公民権上の社会的正当性があるか らであり,さらにグローバル化の進行によるアメリカの経済社会の構造変化の 中で必要性が高まった全米的な国民の教育水準の底上げについても,この問題 が貧困や人種問題と深くかかわるがゆえに,連邦政府の役割の拡大が許容され たといえる。
第 に,社会的要請として連邦政府による初等中等教育への支援の拡大が求 められ,連邦教育補助金をより一層増加させようとする際に,連邦資金が支出
( )
Manna
( ), p. .
( ) 本多( )
, p.
。この本多( )が指摘する 年代以降の集権化と分権化の 同時進行については,長嶺(, p.
)が,アカウンタビリティに関する政策枠組み の面から説明している。すなわち, 年代に,連邦教育補助金に対するアカウンタビ リティの内容が,硬直的な制度運用の一因となっていた「財政上のアカウンタビリティ」を改めて,本質的な教育成果(アウトプット)を問うアカウンタビリティへと転換され たことによって,一方では「(連邦資金の使用に対する:引用者)大幅な規制緩和」が 可能になり,他方では「どのプログラムとどの学校に配分した予算が効果的に使われて いるかを判断する基準を与え,集権的な調整も可能にした」のである。
される内容と成果について最低限度の透明性と説明責任を州・地方政府に求め る必要性も高まることになる。それを確実に遂行するために,
NCLB
ではアカ ウンタビリティについての要件を厳格化した,とみることができる。第 に,ただし,その厳格化された要件も,それぞれの地域の多様性を当然 の前提として織り込んだものであり,かなりの程度の裁量性を州・地方政府に 認めたものといえる。この連邦政府の役割拡大というのは,決して連邦政府に よる教育統制ではなく,不利な条件下にある生徒に,まさに基礎的な学力を修 得させるための必要最低限の縛りであり,それぞれの州政府や地方政府の裁量 性をかなり認めるものである⒃。
逆からみると,もし連邦政府による要件や規制の強化が,その多様で分権的 な社会構造が許容できる限度を超える場合には,全米的なシステムとして定着 することはできないのであり,本稿の第 節でみるように,その行き過ぎた
「集権化」を修正して分権構造に定着させるための諸力が働くことになる。教 育政策ではまさに,強く根付いた分権構造と全米的枠組みの必要性との間で,
集権的な取り組みとそれを緩和させる修正とが繰り返されており,長期的には
「集権化」とされるトレンドの上で,全米的な枠組みが伝統的な分権構造の中 に定着していくプロセスを見ることができる。
このような問題意識の下,本稿では,アメリカにおいて最も分権的な政策分 野の一つである初等中等教育,特に,NCLBを対象に,グローバル化を背景と した全米的な教育システムの向上への社会的要請と,伝統的な教育政策の分権 構造との葛藤の中に特徴的に現れるアメリカの政府間関係の本質を明らかにす る。
( )
Manna
( )は,NCLBについて,「実際には,多くの人が合衆国に現在存在すると不当に信じている単一の一貫した連邦システムというよりも」むしろ,「各州に一つず つ,地域に適応した の異なった教育アカウンタビリティ・システムの創設を導いた」
としており,教育政策における分権構造の存在を強調している(Manna( )
, pp.
−)。
..グローバル化による労働編成の変化と教育改革
...アメリカの労働編成の変化
アメリカでは 年代以降,後述のように「スタンダード・ベース教育改 革」が進められてきた。その背景にあるのは,グローバル化と
IT
化が進行す る中で,アメリカ国内の雇用の多くにおいて従来よりも高いスキルと教育水準 を要するようになっており,アメリカが経済力を維持・向上させるためには,国民全般に対する初等中等教育の立て直しが不可欠となっている状況がある。
世紀的なグローバル化の一層の進行による「産業の空洞化」(製造業の流 出と経済サービス化による労働編成の変化)について,ここでは,加藤( ) で行った − 年における労働編成の構造変化の検討結果から,その要点を 確認しておこう⒄。
第 に,アメリカ全体の就業者数は 年の . 億人から 年には
. 億人へと 万人増加しており,その増加分のうち,民間部門が 万 人,政府部門が 万人であった。
第 に,しかしその民間部門の中では,構造変化も生じている。相対的に比 重の大きかった製造業における就業者数が 万人減少したことから,この減 少分を補った上でさらに民間部門全体を増加させるだけの雇用が他分野で生じ たことになる。増加分野の中心はサービス業であり,主に,専門・技術サービ ス( 万人),経営管理・庶務的サービス( 万人),教育サービス( 万 人),病院( 万人),保健産業( 万人),宿泊・飲食業( 万人)にお いて雇用が増加した。
第 に,分野別の賃金格差について,民間部門全体の週給( 年は ドル)を としたときの各分野の週給の相対的な水準をみると,その値が
を下回る分野は小売業(同 ),庶務的サービス(同 ),芸術・娯楽産 業(同 ),宿泊・飲食業(同 )となっており, − 年の期間において 就業者が大きく増加している分野が多い。
( ) 加藤( )
, pp.
−.
第 に,雇用増加の最大分野である医療・保健産業では,賃金の相対的指数 が であり民間部門全体の賃金水準を上回るものの,同産業内をさらに細分 化してみると,通院医療サービスや病院では相対的に賃金水準が高い一方で,
ナーシングホーム・居宅施設や社会サービスでは全産業平均よりもかなり低い 水準となっている⒅。また,医療・保健分野における就業者の増加の多くを占め るのが低技能の低賃金職種であるという調査結果もある⒆。
以上の検討からは,グローバル化の進展によってアメリカ経済における「空 洞化」とサービス化が進行する中で,一部では情報関連等のサービス業で知識 集約的な職種も増加しているが,他方ではサービス業を中心として低賃金層の 就業者の増加が,この時期の構造変化の最大の特徴であったといえよう。この ような構造変化は 年代にも既に存在しており⒇,その構造変化の中で,加 藤( )でみたように底辺部分に対する医療保障の改革が要請されたのであ り,また本稿で検討するように,底辺部分に対する本質的な就労支援となる技 能取得の機会を求める社会的圧力が強まったといえる。さらに一部で増加する 知識集約的な職種に必要な高等教育に進むためにも,底辺部分の貧困児童に対 する十分な教育が一層重要となり,初等中等教育改革の必要性と重要性が高 まったのである。
... 年連邦議会上院公聴会記録
上述のような初等中等教育改革への社会的要請を詳しく検討するために,
次 に, 年 に 連 邦 議 会 上 院 の
Committee on Health, Education, Labor, and
( ) 年以降については
U. S. Bureau of Labor Statistics
の雇用統計で詳細な産業分類別 の週給データが公表されているので,そこから医療・社会サービス産業内の平均週給の 格差をみると( 年 月時点,季節調整なし),民間産業全体の平均値 . ドル に対して,通院医療サービスと病院は . ドルと , . ドルであり,ナーシング ホーム・居宅施設と社会サービスではそれぞれ . ドルと . ドルである。U. S.Bureau of Labor Statistics, Table B− b. Average hourly and weekly earnings of all employees on private nonfarm payrolls by industry sector, not seasonally adjusted, Current Employment Statistics ( National ) , Oct.
(http://www.bls.gov/opub/ee//ces/ces.htm,
/ / 閲覧)
( )
Ross, Svajlenka and Williams
( ).
Pensions
で開催された,The Key to America’s Global Competitiveness : A QualityEducation
と題された公聴会を取り上げたい。この公聴会は,今日のグローバル経済の中でアメリカが国際競争力を持ち,個人が勤労によってミドルクラス
( ) 年代から 年代半ばにかけてのアメリカの労働編成と産業構造のシフトにつ いては,渋谷(
, pp.
− )で詳しく検討されている。渋谷( )では, − 年の 年間におけるアメリカの労働編成の変化を検討し,以下の点を指摘している。第 に,非農業部門の雇用総数は 年の . 億人から 年の . 億人へと
, . 万人増加したが,その内訳を産業別にみると,製造業では , . 万人から
, . 万 人 へ と . 万 人 減 少 し た の に 対 し,サ ー ビ ス 業 で は , . 万 人 か ら
, . 万人へと , . 万人も増加し,小売業でも , . 万人から , . 万人へ と . 万人増加した。同期間における非農業部門の雇用総数の増加に対する増加寄与 率をみると,製造業のマイナス .%に対し,サービス業が .%と際立って高いプ ラスの寄与率を示している。すなわち,主な就業先の一つであった製造業での雇用が減 少する一方で,それを大きく上回る雇用の増加がサービス業で生じており,雇用構造の 大きな変化がみられる。
第 に,サービス業の内訳をみると,最も大きく増加したのは医療関係であり(増加 数 . 万人,増加寄与率 .%),それに続いて総務的管理サービス業( . 万人,
.%),ホテル飲食業( . 万人, .%),専門サービス業( . 万人, .%)
となっている。それぞれの賃金指数をみると, 年の民間合計 に対し( 年 時点の民間部門全体の平均を とする),医療関係サービス業は ,総務的管理サー ビス業は ,ホテル飲食業は ,専門サービス業は となっている。すなわち,グ ローバル化の中でアメリカ経済のサービス化が進展しており,その中で賃金水準の格差 が拡大する形でサービス業の雇用の比重が増えている。
第 に,この経済的二極化は,人種や教育歴の違いと深い関連性を持っている。
年の人種的マイノリティーの職業の傾向をみると,黒人の占める割合が大きいのは,サ ービス業務(自宅介護,護衛,飲食関連,ビル清掃・メンテナンスなど)や,運輸業,
地域・社会サービス,栄養士,看護師(正看護師でない)であり,ヒスパニックについ ては,サービス業務(飲食関連サービス,ビル清掃・メンテナンス,自宅介護サービス など)のほかに,農林水産業や建設業・鉱業,製造業,運輸業において割合が高い。い ずれにおいても,賃金水準が低く労働条件の悪い業務といえよう。対して,アジア系で は,コンピューター関係や研究職,歯科医,内科医・外科医,臨床検査技師などの賃金 水準の高い専門業務における割合が高い。
第 に,このような職業構成の原因として,教育の機会と教育到達度の差が指摘され ている。 年時点の 歳以上人口に占める高卒以上の割合をみると,アメリカ人全 体で %,白人 %,黒人 %,アジア系 %,ヒスパニック %であった。また大 卒以上の割合は,アメリカ人全体で %,白人 %,黒人 %,アジア系 %,ヒス パニック %であった。
第 に,教育到達度と所得の関係をみると, 年の世帯主が 歳以上の世帯では 所得の中央値が . 万ドルであるのに対し,そのうち世帯主の教育年数が 年以下で は中央値は . 万ドル,高卒の場合には . 万ドル,大卒以上の場合には . 万ド ルであった。したがって,人種間に存在する教育格差が,職業構成の違いにつながり,
経済格差につながっているといえよう。
の生活を手にいれるための重要な基盤である教育システムを再構築するための 意見聴取のために開催されたものである。
T. Harkin(Iowa,民主党)委員長の開会演説では,「子供や孫が今日学ぶこ
とが将来のアメリカの生産性を決定する」としたうえで,アメリカ国内の雇用 と国民の教育水準の状況について,次のように説明されている。第 に,「グローバル化とテクノロジーが今日成功するために必要なスキル と技能を劇的に増やし」ており,「この 年間にアメリカの勤労者の平均所得 が実際に低下」する中で,「ミドルクラスへの道は,労働者の教育到達度とこ れまで以上に関連」するようになり,「Bureau of Labor Statisticsによると,今 年( 年:引用者)の 月時点で,高校を卒業していない個人の失業率は,
少なくとも学士号を持っている個人よりも 倍以上高」かった。
第 に,一方で国民の教育到達度をみると,「 年代から 年代半ば にかけて,所得分布の上位 / に位置する家庭のアメリカの若者の大学卒業 率は %ポイント増加した」が,「同期間で,下位 / に位置する家庭の子 供における大学卒業率は, %から %と,たった %ポイントしか増えて」
いない。
第 に,「アメリカで生み出される新たな仕事の / が何らかの大学教育を 求め」るにもかかわらず,貧困階層の若者で大学を卒業する者は %に過ぎ ず,「彼らがミドルクラスのライフスタイルのアメリカン・ドリームを達成す ることを,まさしく見込みのないものとしている」のであり,この状況を打開 するために次世代への投資が必要と強調している。
委員長に続いて演説を行った少数派代表の
M. B. Enzi
上院議員(Wyoming,共和党)は,最初に多くの生徒がドロップ・アウトをしたり,置き去りにされ
( ) 年代以降のグローバル化によるアメリカ経済社会の構造変化の急進展が教育改革 の必要性を画期的に高めたことをアメリカ社会全体が認識していたことを実証するため に 年時点の議会公聴会を取 り 上 げ る の は,NCLBに 至 る 年 代 の 改 革 や,
NCLB
の実際の全米的な定着のプロセスにおいて,本稿でみるような実施のための仕組 みに関わる対立はあるにしても,NCLBの必要性の認識と問題意識が 年代以降,広く共有されたことをみるためである。
( )
U. S. Senate, Committee on Health, Education, Labor, and Pensions
( ), pp.
−.
たままであるアメリカの教育の現状を「生徒達自身の将来にとって良くないだ けでなく,我々の国の将来にとっても良くない」と述べた上で,グローバル市 場でアメリカが競争力を持つために,教育とスキルを身に着けた労働力の重要 性を強調した。そして「高校以上の教育水準を要する仕事の数が増加」する一 方で,「過去 年間で,高校卒業以上の労働力の割合において,他国がアメリ カを越え」るようになっており,グローバル経済の中でアメリカ国民の教育水 準が相対的に低下している状況を強調した。
具体的には,第 に,「アメリカでは毎日,約 千人の生徒が高校をドロッ プ・アウトして」おり,第 に,「高校を卒業した生徒でさえも,高等教育や 労働で成功するために必要な基礎を身につけている保障は」なく,「全大学生 のほぼ半分が,高校卒業後,大学レベルの講義を受講できるようになる前にリ メディアル・コースをとらなければなら」ない状況にある。とりわけ「マイノ リティーの生徒の間では,リメディアル・コースの参加率はより高く,しかも 終了率は低い」という事実が指摘されている。
第 に,「準学士あるいは学士号を持つアメリカ人は %未満であり,人種 と所得間の大きな格差は存在し続けている」と述べている。
このように
Enzi
議員は,アメリカ国内の教育の状況が,国際的にはアメリ カの労働者の教育水準の相対的な低下をもたらしており,アメリカがグローバ ル経済において競争力を持ち続けるためには,高等教育を受けた労働力を増や すことが不可欠であり,個人にとっても,高校や大学や労働市場において成功 するための基礎的要素として「初期の学年で生徒が学ぶスキル」が重要と強調 するのである。すなわち,民主党も共和党も共に,第 に, 世紀のグローバル化と
IT
化 の中で,アメリカの労働市場で増加しているのは高いスキルと教育水準を要す る仕事であるにもかかわらず,第 に,アメリカ国内の初等中等教育と高等教 育をみると,国民の教育到達度は好ましい状況にあるとはいえず,第 に,人( )
U. S. Senate, Committee on Health, Education, Labor, and Pensions
( ), pp.
−.
( )
U. S. Senate, Committee on Health, Education, Labor, and Pensions
( ), pp.
−.
種間・所得間で教育水準の格差が拡大している,ということを共通認識として 共有している。この共通認識の上で,民主党の委員長は,貧しい個人を引き上 げるという観点から議論し,共和党のリーダーは,企業や経済界の視点から質 の高い労働力に重点を置いた主張をしているといえよう。
以上の本節で述べた問題意識から,次節では,主たる分析素材である
NCLB
の基本構造について詳しく検討することにしたい。.No Child Left Behind Act of
: NCLB
の基本構造NCLB
は,ブッシュ(子)共和党政権の下で超党派的な合意によって成立し たESEA
の再授権法であり, 年 月 日に大統領が署名して成立した。同法の内容は,ESEAの
Title I
を中心軸として,アカウンタビリティ,学校改 善,親の選択などを重視した教育改革を促進するものである。これらは,クリ ントン民主党政権期の 年のImproving America’s Schools Act(以下,IASA
と略記)において既に導入されていたが,州政府による実施が進捗していな かったため,それらの教育改革を州政府に確実に実行させるために,NCLBで は連邦補助金の交付要件が厳格化された。IASA
とNCLB
の比較は第 節で行うとして,ここではNCLB
の基本構造を みておきたい。まずは,NCLB
の基本構造を理解するための鍵となる,ブッシュ(子)共和党政権の教育改革の疑似市場的競争の理念から検討を始めよう。
..ブッシュ(子)共和党政権の教育改革の疑似市場的競争の理念
ブッシュ(子)共和党政権は, 年大統領経済報告の第 章
Redesigning Federalism for the st Century
の中で,各地域の多様な住民ニーズに最適なサ ービスを供給する自由を州・地方政府に与える「アメリカの連邦システムは,アメリカ経済の大いなる強みの一つであ」り,その中での連邦政府の重要な役 割は,「州・地方政府の競争の利益を損なう厄介なルールと規制を回避し,競
( )
Council of Economic Advisers
( ), pp.
−.
当段落の以下の内容は,同報告のp.
に基づく。争とアカウンタビリティ(の促進:引用者)に向けた枠組みを探求すること」
としている。その上で,同政権の重要な目的の一つは,公共財・サービスの効 率的な供給を可能とする柔軟な制度的枠組みを構築することであり,(政策実 施による:引用者)成果とイノベーションに焦点をあて,柔軟性を重視するア プローチを取るというのである。
第 に,プロセス(どのように資金を支出したか)ではなく,成果に焦点を当てる場 合,州・地方政府や民間組織は,目標達成に向けて,それぞれの地域において最も効 果的な方法をより幅広いメニューから選ぶ権限が与えられる。第 に,柔軟性は,よ り多くの団体がサービス供給に携わることを許すのであり,成果に基づいて評価され る限り,政府部門か非営利組織か宗教奉仕活動かなどに関わらず,イコール・フッ ティングで競争できるようになる。
そして連邦補助金の交付要件については,連邦資金を交付される団体には
「連邦政府の基準や政策目的を満たす形で事業を遂行する義務がある」が,「(連 邦政府による:引用者)介入は最小限であることが望ましい」と述べている。
その上で,それらの連邦基準や政策目的を満たしているか否かを評価するため には,事業成果に関する適切なデータが必要であり,そのようなデータを得る ために適切な評価指標を用いたアカウンタビリティ・システムを構築すること の重要性を説くのであり,同政権は,全ての公共サービスの提供主体がアカウ ンタビリティを果たすための制度的枠組みの構築を目指すとしている。そし て,このような成果評価に基づくアカウンタビリティを重視する根拠として,
それらがすでに州政府レベルの予算システムに導入されていることをとりあげ ている。
(テキサス州やペンシルバニア州をはじめとして,:引用者) 年時点には, 州で 何らかの形の成果評価に基づいた予算編成を法制化しており, 州では予算編成のガ
( )
Council of Economic Advisers
( ), p. .
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Council of Economic Advisers
( ), p. .
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Council of Economic Advisers
( ), p. .
イドライン等の形で運用されている。
このような取り組みは,ゴミ処理等の市営サービスの業務契約では既に一般的である が,最近では社会サービス分野にも登場している。
すなわち,ブッシュ(子)共和党政権は,連邦政府の介入を極力排除して州 政府の政策選択を重視する分権システムを前提とした上で,連邦政府の政策目 的を実現するために,教育や福祉サービスの供給においても競争メカニズムを 積極的に導入し,州・地方政府に対して連邦資金を用いた成果に対するアカウ ンタビリティをより厳格に求めるという方向性を提示している。ただし,この ようなアカウンタビリティ・システムの構築についても,連邦政府が先導して 州政府に仕組みを作らせるわけではなく,州政府側で既に主体的に取り組まれ てきた実績があり,それらをベースとして,その実効性をより高めるための支 援ないしは基本的枠組みの整備を連邦政府が行うものといえよう。
このような連邦補助金政策に対するブッシュ(子)共和党政権の基本スタン スを示した上で,同経済報告では,重要な内政分野である初等中等教育につい て論を進めている。
古くから初等中等教育は地方政府が担当しており,(財源も地方レベルの財産税で あったので:引用者)地域の納税者に対する説明責任を負っている。…(中略)…納税 者は「足による投票」によって教育の量や質や価格をコントロールできるのであり,
もしその学校区の教育に不満があれば,他の地域に引越しもできる。行政区(学校区 や郡政府の地方政府レベル:引用者)によっては,納税者が直接に財産税や学校予算 について投票できるところもある。 また, 公立学校から私立学校に移ることもできる。
しかしながら,学校の質的評価が可能であれば,このメカニズムはより有効になる が,評価が不可能な場合や,評価の低い学校からの移動が困難である場合には,移動 に伴うコストは極めて高くなり,効果的な競争メカニズムが機能しない。
さらに同政権は,「十分な教育を受けた労働力は社会全体にとって広く有用
( ) 社会サービス分野における市場化については,木下( )で詳細に検討されている。
( )
Council of Economic Advisers
( ), pp.
−.
であるので( 年代からのグローバル化の進展の中で国際競争力に寄与す るので:引用者)」,「すべての子どもが十分な教育を受けることができるよう に経済資源の再配分(連邦補助金を指す:引用者)が必要であろう」と提言す る。ただし,「子どもの教育についての主たる責任は州・地方政府」にあり,「連 邦政府の役割は(上記の教育分野における:引用者)地方政府レベルの競争的 環境における障壁を引き下げる」ことであるという位置づけを示している。
そして, 以上みてきた政策目的と制度設計に基づく
NCLB
の特徴について,以下の点を説明している。
第 は,成果評価の指標として「適切に作成された試験」を用いることであ る。適切な成果指標の開発は,アカウンタビリティ・システムの実効性を左右 する要である。本来的には,教育成果の本質的な尺度は,その児童が成人と なった時の幸福度や自立性や生産性といえるが,実際には,そのような尺度に 基づいて学校の評価を行うことは困難であるため,NCLBでは,「適切に作成 された試験」が,学校の成果を評価し,教育プログラムや教育改革,教師や生 徒についての有用な情報を与えるのであり,同法に基づいて行われる各学校の 成果に関する情報公開が保護者の選択を可能にする。
第 は,教育改革の主体としての州政府の重視である。州・地方政府が初等 中等教育の主たる責任を負い,財政的にも 割以上を負担しているため,州政 府がそれぞれに試験を作成し,地方レベルの教育システムを評価する仕組みを 構築する権限を有しているとする。
第 は,成果評価システムの設計に関する,連邦政府からの要請(連邦補助金 の交付要件)である。連邦政府の教育政策は,各州政府が教育システムを設計 することを前提とするが,連邦補助金の投入が効果的な教育改革へとつながる よう,州政府が設計する試験や成果評価に対して,比較可能性(comparability)
を備えることなどを求めている。具体的には,以下の条件を満たすことを求め ている。
( )
Council of Economic Advisers
( ), p. .
( )
Council of Economic Advisers
( ), pp.
−.
① 学校区内の学校の比較,さらには州内の学校区の比較が可能であるこ と。
② 保護者にとって,子どもの受ける教育を評価し,選択を行うために十 分な情報となり得ること。
③
National Assessment of Educational Progress(全米規模の教育関係者が
設計した試験;以下,NAEPと省略。)に参加すること。NAEPは,全米レベルや州間の比較において有用であるとし,州の第 学年と第 学年の一部の生徒が
NAEP
試験を受けるための連邦補助金を提供 する。④ 成績不良の学校を特定し,保護者に対して成績良好の学校に子どもを 転校させる選択を可能とすること。また,成績不良の学校を改善する ために,段階的な方策を実施すること。
ここで注目すべきは,これらの交付要件の厳格化は,教育分野における競争 的環境の促進を目的とすることである。
第 は,上記の交付要件の④にある成果評価に基づく学校改善の規定につい てである。NCLBでは,ESEAの
Title I
の連邦教育補助金を受ける学校区内の 親に対し,各州の設定する年次進捗目標(AYP,後に詳しく説明する)を 年 連続で未達成の学校から同学校区内の別の公立学校に転校することを選択でき るようにした(その選択を州法で禁止していない場合)。 年連続して未達成 の学校では,生徒は放課後授業や夏期講習などを受けるための資金を提供され る。そして 年連続して未達成の学校に対しては,州政府あるいは地方政府に よるリストラ(チャーター・スクールへの転換,EMO方式の導入,全面的な 組織再編等)の実施が,連邦教育補助金の交付要件に組み込まれている。それ 以外にもバウチャー方式や租税優遇措置の政策手段も競争促進的であると評価 している。( )
Council of Economic Advisers
( ), pp.
−.
第 は,貧困対策としての的確かつ柔軟な運用である。同報告書では,教育 政策を抜本的な貧困対策と位置づけて,次のように述べている。連邦政府の
ESEA
のTitle I
資金は,各学校区内の貧困児童に焦点を当てており,貧困対策として,州レベルの教育補助金より効果的に機能している。州・地方政府の施 策よりも連邦補助金の方が貧困学校区に対象を絞っており,たとえば − 年度においては,全米の学校区を経済的基準で四分位に分けた場合,最貧困の 四分位階級の学校区に対しては, 連邦教育補助金の %が交付される一方で,
州・地方資金についてはその %のみとなっている。
しかも
Title I
の連邦資金では,僅かの制約を除いて,(教育現場の:引用者)学校の側に大きな柔軟性が与えられており,各学校における重点項目に使うこ とができる。(第 節で検討するクリントン民主党政権による 年の教育改 革の二法以来:引用者)教育の質の向上のために連邦政府は,学校区が成果重 視の改革を遂行するためのインフラ形成に
Title I
資金を活用することを奨励 している。第 に,競争による質的向上とのかかわりで,政府間関係について以下のよ うに述べている。
( )
NCLB
は,学校の質の向上や保護者にとっての選択肢拡大のために,チャーター・ス クールの開設等による学校間競争を支援した。同経済報告によると, 年当時,州とコロンビア特別区において約 , 校のチャーター・スクールが存在し,急速に増 加していたが,チャーター・スクールの存在が成果重視の競争を強め,その結果,従来 からの公立校の改善への圧力になっていた。また多くの学校区における実験的な教育業 務請負事業(EMO)からも同様の競争と改善の効果がみられるとしている(Council of
Economic Advisers
( ), p. .)。
( )
Council of Economic Advisers
( ), pp.
−.
( ) 多くの州で過去 年間に低所得階層児童への教育支援として,低所得学校区への教 育財政平衡(School Finance Equalization : SFE)プログラムが試みられてきた。同プロ グラムは,豊かな学校区から貧困な学校区への財源の再配分であるが,多くの
SFE
プロ グラムが各学校区における生徒一人当たり教育支出を算定根拠とするために,(豊かな 学校区の方が貧困学校区よりも一人当たり教育支出が大きいので:引用者)再配分の効 果が小さく,場合によっては貧困な学校区に不利な配分となることもある(Council ofEconomic Advisers
( ), pp.
− )。( )
Council of Economic Advisers
( ), p. .
教育政策は,伝統的に地方政府間の競争や,公立学校と私立学校の競争の影響下にある 分野である。連邦政府や州政府の役割は再分配政策と社会保険であるが,他方で,こ の(地方レベルの教育政策における:引用者)競争は生徒の学力到達度の向上に役立っ ている。連邦政府と州政府が,地方政府レベルの柔軟性を最大限に維持しながら関与 するには,政府部門や教育関係者や保護者や生徒に対するインセンティブの影響を考 慮することは不可避である。成果報酬的なメカニズムによって,それぞれの主体のイ ンセンティブが社会全体の公的目的に合致して,効率性と成果につながるのである。
以上の検討から,ブッシュ(子)共和党政権の
NCLB
における教育改革の 理念は,市場経済の競争原理に近い原理を活用することで,分権的な地方自治 の初等中等教育分野における効率性と成果を向上させようとするものと言えよ う。NCLBについては,連邦政府による規制強化による集権化に焦点が当てら れることが多いが,本来的には成果ベースの評価情報をツールとするアカウン タビリティを基盤として競争環境を整備することで, 年代からのグロー バル化に対応するアメリカ経済の再編成に有用な労働力の育成を目指すものと 考えることができる。そして同時に,アメリカ社会にとって至上の価値である「個人の自由」の基盤を広く確保しようとするものともいえよう。次に本節の 後半では,このような理念に基づく
NCLB
の基本構造を考察する。..NCLB 法の概要
NCLB
は,全米の生徒の基礎学力を底上げし,「不利な条件下にある生徒(Disadvantaged Students)」と そ れ 以 外 の 生 徒 の 間 の 学 力 の 到 達 度 格 差
(Achievement Gap)を縮小することを目的とし,以下のように教育改革を具体 化している。
第 に,教育成果についてのアカウンタビリティの強化であり,教育内容に 関する州スタンダードの設定と,生徒の学力到達度に対する評価システムの構 築,情報開示,改善・是正措置について,連邦補助金の交付要件が厳格化された。
( )
U. S. Department of Education, Office of Elementary and Secondary Education
( ), pp.
−
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第 に,州政府や学校区や学校に対して連邦資金の使用に関する柔軟性を拡 大することであり,(連邦政府に比べて:引用者)生徒のニーズに近い州政府 や地方政府や教育現場により大きな意思決定権を与えることを目指した。
第 に,不利な条件下にある生徒の親に対する選択肢の拡大であり,低パ フォーマンスの学校に通う生徒の親に対して,学校選択や補習授業の利用を可 能にした。
第 に,科学的検証の下で効果が実証されている教育手法を重視した。
NCLB
では,第 点のアカウンタビリティに関しては連邦補助金の交付要件 を厳格化したのだが,他方で第 点にあるように,連邦補助金の使用について は州・地方政府や学校がより柔軟にプログラムを運営できるようにした。それ にもかかわらず,NCLBの施行から数年のうちに,第 節にみるような州・地 方政府からの同法に対する集権的かつ強制的という批判が高まることになった のは,アカウンタビリティに関するルールについて,当初,連邦政府が実際の 運用において厳格な執行を固守し,柔軟性を求める州政府側からの州計画の修 正案やウェイバー申請等を拒否したためである。ただし,見方を変えれば,第 点の補助金の使用の柔軟性の拡大は,第 点のアカウンタビリティ・システム による厳格な成果評価を前提とすることで正当化されるという関係にもある。第 点の親の選択肢を拡大させるための方策は,子供を劣悪な教育環境から 救い出すとともに,教育現場に競争原理を導入することで学校と学校区に対し て改善に向けた圧力やインセンティブを与えることを意図している。また,パ フォーマンスの悪い学校や学校区に,学校選択や補習授業の提供の義務付けと いう対策を実施するにあたっては,第 のアカウンタビリティ・システムによ る的確な評価と情報公開が不可欠な条件となる。
繰り返しになるが,これらの
NCLB
の基本構造において,極めて重要なポ イントは,州政府が州スタンダードを決定する権限を有することである。すな わち,州スタンダードの設定に対して連邦政府側は意欲的(challenging)な基( )