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アメリカの連邦制

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Academic year: 2021

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アメリカの連邦制

著者 太田 裕之

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

巻 10

ページ 109‑112

発行年 2009‑03‑31

権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター

URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015951

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「安全保障」,「持続可能性」を主要理念に掲げ,幾つかの分野において具体的かつ野心的な数 値目標を立ててはいるものの,特にエネルギー安全保障の分野においては,ロシアとの関係悪 化,資源価格の乱高下など困難かつ不透明な問題が山積している。また再評価の議論が高まっ ている原子力エネルギーにしても,エネルギー構成の問題は基本的に各国の選択の問題となっ ており,統一的方向性を見出すのは容易ではない。いずれにしても,エネルギー新時代におけ るEUの共通エネルギー政策は動き出したばかりである。この分野の動向は,EU拡大の動き とも無縁ではなく,今後も注目を要するところであることは間違いない。

アメリカの連邦制

太田 裕之

(同志社大学法学部准教授)

1 はじめに

本報告は,アメリカの連邦制の成り立ち,特色について紹介することを主眼とする。憲法条 約頓挫後のリスボン条約(2007)が,なお将来的に連邦制を志向するものであることから,世 界で初めて18世紀末に連邦制を採用したアメリカ合衆国の統治制度は一つの方向性を示すも のとして,EUの今後を考える上で検討に値すると考えられる。

2 アメリカ連邦制成立の経緯

(1)1781年連合規約以前

周知のようにアメリカはイギリスの植民地であった。17世紀より入植が盛んになり,18世 紀半ばには英仏の対立の中イギリスは戦費調達のために植民地アメリカでの課税を強化しよう とした。たとえば1765年印紙税法である。これに対して植民地側は強く抗議し,イギリス製 品不買運動を行った結果翌年印紙税法は廃止された。しかし植民地統治に必要な費用を植民地 で賄うために1767年茶等への課税を行った。植民地側は不買運動を再開したが国王はイギリ ス軍をボストンに進軍させた。このようにイギリス本国と植民地の対立が激化する中でボスト ンティーパーティ事件がおこった。このような衝突の事実,反英感情がほかの植民地にも共有 され,1774年第1回大陸会議が開催され13ステイト中12のステイト(邦)の代表が集まり 対応を協議した。植民地側は「代表なくして課税なし」との姿勢で結束した。

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1775年イギリスは植民地にイギリス以外の国との貿易を禁止した。この年レキシントンで イギリス軍と植民地側が戦闘を開始し,独立戦争が始まった。第2回大陸会議が開かれ1776 年7月4日独立宣言を大陸会議で審議後採択した。1777年大陸会議で連合規約(Articles of Con-

federation)(全13カ条)を採択した。この連合規約は全ステイトが批准した1781年に発効し

た。

(2)1781年連合規約− a firm league of friendship 「堅固な友好の同盟」(3条)

連合規約の下でアメリカは連合政府を樹立し,各ステイト(邦)は1票ずつ投票権を持っ た。ステイトが主権,自由,独立を保持し,明文で連合政府に委譲された権限以外の権限はス テイトが持った。外交交渉,大陸軍の維持などは連合政府が担当するが,戦費,共通の防衛な どの連合の支出は,各ステイトの拠出金より賄われた。しかし各ステイトに課税権,通商規制 権限があり,その結果通商,貿易の問題が連合規約による結合の大問題の一つとなった。ステ イトからの拠出金がとどこおり,財政問題が発生した。またステイトは独自の利害に従って通 商を規制し,州間の敵対関係を招いた。連合規約の下では経済的な統合は存在しなかった。イ ギリスから独立したのは13のステイトで,連合は国家ではなかったのである。そこでこのよ うな欠陥をもつ連合規約の改正について検討するために1787年フィラデルフィアで憲法会議 が開催された。ところがそこで連合規約を改正するのではなく,全く新しい連邦制の憲法を制 定することとなったのである。

3 1787 年アメリカ合衆国憲法──連邦共和制

(1)基本的発想 「堅固な友好の同盟」から「より完全な結合体」へ

人民が憲法を制定し,政府を作り,自ら統治することがアメリカ合衆国憲法の基本的発想で ある。憲法は全部で本文は7ヶ条よりなる。前文において「より完全な結合体(a more perfect Union)」を形成するために,「我々合衆国人民(We, the People of the United States)」が憲法を 制定し,かつこれを確立することを宣言する。人民はステイトの人民として一定の権限をステ イトに付託していた。それを憲法採択により,ステイトからその権限を取り戻し,改めて連邦 および州に権限を付託した。人民が憲法を制定し,連邦政府を樹立し,権限を委任した。人民 はまた州憲法を制定し,州政府を樹立し,一定の権限を委任した。連邦に委任されず,また州 に委任されなかった権限は人民に留保されている(修正10条)。

(2)統治構造の特色 1)連邦制

連邦は,ステイトが以前持っていた国家権力の一部を委任され,その委任された権限のみを

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行使する。ステイトより連邦に委任されなかった権限は,従来通りステイトまたは人民に留保 されている。人民が連邦に委ねた権限を,人民は州に委任することはできない。憲法は権限を 可能な限り列挙して,連邦に委任された事項と州に委任された事項を明らかにする。そしてこ のことは,州政府が権限行使を禁止される事項を明確にすることに仕える。

2)憲法構造

1条で立法権(連邦議会:上・下院の2院制))の権限,2条は大統領の権限,3条は司法権 につき規定している。3権分立と連邦制の採用により,国家権力は垂直的(権力分立)および 水平的(連邦制:州権力と連邦権力)に分離されている。

3)3権分立・抑制と均衡

立法権・執行権・司法権の三権を分立させ,相互に抑制・均衡の関係を持ち込む。議会は大 統領,裁判官の弾劾権限を有し,大統領は議会が可決した法案の拒否権を持ち,裁判官の任命 権(上院の助言と承認が必要)を持つ,また裁判所は議会制定法および大統領の執行権の行使 に対し違憲審査権(1803年の最高裁判決で確立)を行使する。

4)連邦と州の関係

連邦の権限は憲法典中に列挙され,列挙された権限以外の権限行使はできない。列挙されな かった権限は,州あるいは人民に留保されている(修正10条)。1条8節は連邦議会の権限を 列挙し,また1条10節は特定の行為を州に対して禁止している。

1条8節では連邦議会の課税,貨幣鋳造,郵便局設立,下級裁判所設置,戦争宣言,民兵の 召集など17項目の権限を列挙する。この中で最も重要なのが3項の外国,対インディアンお よび州際通商規制権限である。1州内にとどまらない通商に関しては連邦議会が規制権限を持 つ。これにより通商規制においては合衆国が一体であり,経済的に統合されたものであること が明らかとなる。州際通商条項の下で,連邦議会の権限がどこまで及び,また州が州際通商に どこまで規制権限を行使できるか,という二つの側面について最高裁判所において争われてき た。

連邦議会の権限は列挙された特定的なものではあるが,1条8節18項は「上述の諸権限…

を実施するのに必要かつ適切であるようなすべての法律」の制定権限を議会に付与している。

この「必要かつ適切」条項は最高裁により緩やかに解釈され,1819年のマカロック判決で

「目的が正当で,憲法の範囲内にあり,手段が適切で,目的に適していて,憲法により禁止さ れていなければ」連邦議会による権限行使は合憲であるとされた。そして合衆国銀行の創設

(憲法上明文規定なし)は議会の権限の範囲内であるとされたのである。この判決をきっかけ に連邦議会の権限行使が広く認められるようになり,憲法解釈を通じて連邦政治部門の権力が 今日まで拡大してきているといえる。

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4 むすびにかえて

以上,アメリカの連邦制について,その歴史および1787年憲法によって世界史上初めて採 用された連邦共和制の統治の仕組みについて概観してきた。改めてアメリカの連邦制について 強調しておきたい特徴として,それが人民主権に基礎づけられたものであるということがあ る。主権者である人民が憲法(連邦・州)を制定し,主権の一部の行使を州と連邦に委ねた。

州・連邦は,人民から委任された権限しか行使しえず,委任されなかった権限は人民の手に留 保されているということである。リスボン条約に基づいて生まれる新しいEU型の連邦制がど のような主権的契機に基づくものか,興味を持ってみていきたいと思う。

またリスボン条約に基づくEUの新しい統治構造と対をなしうるものは,アメリカ合衆国憲 法下の連邦制というよりは,その前の連合規約の下での統治構造ではないか,という印象を持 ったことを付言しておきたい。

参照

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