7 2 金 沢 大学 十全医学 会雑 誌 第8 5巻 帯1号 7 2 ‑9 2 (1 9 76)
ヒ ト骨 肉 腫由 来 培 養 細 胞 (O S T 細 胞) の
ク ロ ー ン 系 にお け る細 胞動 態 学 的研 究
金沢大 学 医 学 部 整 形 外 科 学 講 座 (主任 : 高 瀬 武 平教 授)
山 口
1 9 5 2年 Gey5 ) が初めて ヒ ト の子 宮 頸 部 癌 より HeLa細 胞の分 離に成 功して以来. ヒ ト組 織由来の細 胞 株が多 数 確 立さ れ, 更に1 9 5 5年 Pu ck ら1 8) に よる 単 離 細胞 培 養 法の開発は単 一細 胞 由 来の細 胞 集団 即 ち クロ ー ン系 細 胞の分離を可 能な ら し め た. そ の後 培 養 細 胞 株か らの ク ロ ー ン系 細 胞の分 離は∴細 胞 株の性 状 決 定に定 量 的なシ ス テ ムを導 入せ し め, 更に変異株の 分 離は病理学 的 遺 伝学 的 研 究に寄 与す る よ うになっ
た.
1 9 6 4年 高 瀬ら2 3)封)に よって抹 化に成 功し たヒ ト骨肉 腫 由 来培 養 細 胞 (O S T 細 胞) は現 在も継 代培養が続 け ら れてお り. 現 在まで本 細 胞に対する制 癌 剤= ), ホ
ル モン剤8)26), 非 制癌 性 抗 生 物 質8) 川). x線照射狛2)等の
影 響に関す る検 討が な さ れ, 更に又本 細胞の異種 移 植
に関す る研 究Z5)等が報 告さ れてき た. 著 者は 更に O S T 細 胞の特 性を追 求すべく, コ ロ ニ ー 性ク ロ ー ン分 離 法によって得ら れ た O S T 細 胞の ク ロ ー ン系 細 胞
につ い て , 形 態 学 的観 察. 細 胞 動 態 学 的 観 察, 更に染 色 休 構 成の面か ら検討し, いさ さ かの知 見 を 得 たの で
報 告す る.
実 験 材 料
Ⅰ. 使用細 胞
1 963年10 月に金 沢大 学 医 学 部 整 形 外 科で. 1 5才女 子 の左 大腿骨々肉 腫か ら分 離 培 養さ れ た 骨肉 腫 細 胞は ,
1 9 6 4年6月に抹 化 細胞と な りt Oste oge nic Sa r c o‑ m a Taka s e Str ain (O S T 細 胞) と名づ け ら れ た. 現 在な お継 代 培 養 続行 中で1 9 7 5年9月現在5 4 6代に達 し た. こ の継 代 培 養45 6代か ら4 7 7代まで の O S T 細 胞を本 実験に使 周し た.
ⅠⅠ. 培 養条 件
培 養 液は D ifc o 製の T C M ed iu m 1 9 9に仔牛血清 (5 60cで3 0分 間加 温 不活 化) 1 0 % を 加 え た ものを 用 いた. 継代 培養 法は1 96 4年 高 瀬らZ3) が報 告し た方法に
Cytok in etic stud ie s on clo ne s of O S T c ells
畠 夫
準じ, 培 養細 胞を E D T A 処理後, 10 0 0rpm で遠JL、沈 漉し た後, 培 養 液で1 〜 2 ×1 05/mlの濃 度になる様 細 胞 浮 遊液を作りt その1 0ml を角型大 培 養 瓶に注 入 し て370C に て静 置 培 養し た.
実 験 方 法
Ⅰ. クロ ー ニ ン グ法
コ ロ ニ ー性クロ ー ン分 離 法に従った32). 継 代培 養 後 4 8時 間の培 養 瓶か ら培 養 液のみ を除 去し . 0.2 % T ry psin 溶 液と E D T A の等量 混 合 液5 mlで O S T
細胞の定 着 増 殖して いる培 養面を洗 浄し た後, あ らた に同液5 ml を注 入して3 70cで7分 間 放置 し た . 細胞
の剥離を確 認してか ら P ipet ting で細 胞を 分散させ た乱 更に1 0 % 仔 牛血 清加 培養 液5 ml を加え, Try‑ psin の作 用を阻 止し た.以上の処理に よっ て9 5 〜1 00
% の単 離 細 胞 率を もつ細 胞 浮 遊 液を得ること ができ,
細 胞 数の算 定を行った. 次に こ の細 胞 浮 遊 液を 培養液 で稀 釈し た後, 2 0 又 は4 0個の単 離 細 胞を 予 め 5 mlの 1 0 %仔 牛 血 清 加 培 養液を入れ た径6 0m m の Petri Di‑ Sh に植え 込 み , 3 7Oc . 5 % C O2‑in c ubato r で培 養し た. 1 4 日後に形成さ れ たコ ロ ニ ー の中か ら分 離す
べきコ ロ ニ ー を 選 び, D ish の裏 面より こ の コ ロ
ニ ー
を ガラ ス鉛 筆で囲み印をっ け た. 次に培 養 液 を 除 去し た後ス テン レス製シ リ ンダ ー ( 外径 1 0m m , 高さ 1 0m m , 壁 厚1 m m) の 一 端に シリコ ングリ ー ス を 塗 りt これ を D ish の底面に固 着させ て ガ ラス鉛筆 に て印をつ け た目 的の コ ロ ニ ー を 囲 み, そ の中に数 滴の Trypsin 溶 液を入れて細 胞を 剥 離分 散した ( 図 1). か く して得 ら れ た細 胞 浮遊 液 を再び Petri D ish に植え 込 み同様に培 養し た. こ の操作 を 図 2 の 如く 3 回線 返して クロ ー ン1 , 2 , 3 ,
… …1 4の計1 4
の クロ ー ン系細 胞を得た. こ のう ちクロ ー ン1 , 3 , 1 0 は分 離後長 時 間を経過 して いた た め,今回の 実験 か
ら省き, 残り1 1種の ク ロ ー ン系 細胞を 実 験に供 し た. derived fr o m hu m a n osteog enic sa rco m a in tis s u e culture M a s a o Ya m aguch i Depa rtm e nt of Ort hoped ic Su rg ery (D ir e cto r
: Pr of. B. Taka s e) Scho ol of M ed icine, K an a z aw a U nive r si ty.
O S T 細 胞 りク ロ ー ン系にお け る細 胞 動 態学的研 究
以下, これ らの ク ロ ー ン系細 胞を略して C L 2, C L 4 .
… …C L 1 4 と記す. 又 O S T 細 胞 母 集団 を非クロ ー ン 系O S T 細 胞と記す.
ⅠⅠ. 形 態 学 的 観察
非クロ ー ン系 O S T 細 胞及 び各クロ ー ン 系 細胞 の 形 態 学 的 観 察に は小型培 養 瓶の C O V e r Sli p 又 は Lab‑Tek T is s u e Cultu r e C ha mb e r S li de ( M ile s
Labo r ato rie s 図3 ) を用いた. 細 胞 定 着 面を燐 酸 緩
金力
ス
▼
」 細胞。 。 ニ ̲
シリコ ング リー
属シリンダ ー
コ ロ ニ ー 性 クロ ー ン分 離法 ( 山田)
図 1
O S T c e‖ S u SPe nSio n
¢OIony fo r m atio n
(l)
Single c olo ny isolatio n
COIony for matio n
(之)
Si 噌】e c olo ny iso】atio n
CO嘉ony for matio n
(3
ゐゐ
)あ
Clo n ed c e" c L I C 」 2 C L 3
図2 Pr ∝ ed ∬ e S Of O S T c ell clo ning
73
衝 液で数秒 間洗い, メタノ ー ルで5分 間 固定し た後乾 醸し, 1 5 〜20 分間ギム ザ染 色を施し た.
Ill. オ ー ト ラ ジオ グラフ ィ 一 によ る検 討
非クロ ー ン系 O S T 細胞と各クロ ー ン系 細胞 に対 して,
3HJr hymi din e ( 以 下 3H l 、d R と略す ) を 用 い, Cu mulativ e labeling m ethod と Puls e
labeling m ethode を施 行して細 胞 動 態の分 析を行っ た. 即ち上 記 各細 胞 系の細 胞を細 胞 数1 0×1 0 ソml と な る よ うに1 0 % 仔年 血 清 加 培 養液に再 浮 遊さ せ. その1
ml を T is s u e Cultu r e C ha mbe r S lide ( 図 3 ) の各 C ha mbe r に分 注して, 3 7Oc. 5 % C O2‑in c・ ubato r で培 養し た. 培 養 後6 0時 間 目の これ らの細 胞
に. Cu m ulativ e labeling m ethod に従い , 3H ‑ T d R を0.1〟C i/ mlの濃 度にな る■様 培 養 液に添加し持 続 的に作 用さ せ. 48時 間まで6 時 間 毎に標 本を取り出 し た. Puls e labeling m ethod では同濃 度の 3H
‑T d R を3 0分 間作用 さ せ た後 更に培 養を続け , 4 8時 間又は6 0時 間まで3時 間毎に標 本を取り出し た. これ ら 里‑T d R で ラベ ルさ れ た模 本を燐 酸 緩衝液で数 秒 間洗 浄し, メタノ ー ル固定, 乾燥 後, D ip ping 法に よ る オ ー ト ラジ オ グラ フィ ー操作を行っ た. 即 ち 4 0 0 Cに加 温し た感 光 乳剤 (さ く ら N R ‑M2) に標本を浸 し, 室 温 乾燥 後 防 湿剤 塙 入の暗 箱に密 封し, 4 0c 2 週 間の露 出後2 00c の レン ドー ル で4分 間現 像, フ ジ フィクス で1 0分間 定着, 3 0分 間 水洗し. ギム ザ染色 を施し た. オー ト ラ ジ オグラムで の細 胞の算 定に当っ
ては, 細 胞 核1 個につき 5 個以上の感 光 粒子を有す る 細胞を Labeled Cell (L.C. と略す) と し, 同 様に 分 裂細 胞を Labeled mito sis (L M と略す ) と し た.
Ⅳ. 染 色 体 染色
非クロ ー ン系 O S T 細胞 及び クロ ー ン系 細胞 を 型
図3 Lab‑Tek, T is s u e Cultu r e C ha mt麗 r
S lide. 2 C ha m be r S li de ( 各C h a m be r の
底 面 積は 2 01n mX2 0m mである。)
7 4
通 りにコル ヒ チ ン処理後, 水又 は低調 液で処理 し た後 カル ノ ア液で固定し. 2 〜 3 回新 鮮なカルノ ア固定液 にか えて後 細胞 浮 遊 液を作り, 空 気 乾燥 法に より 染色 体 染 色を行った. クロ ー ン系 細 胞では C L 2 の 5 代 , 1 0代. 1 6代, C L 13 の4 代, C L 1 4 の2代の細 胞 に対
して染色 体の観 察を行っ た.
実 験 結 果
1 . コ ロ ニ ー 形成につ い て
単 離細 胞の櫨え 込 み後5 日冒には, 10数個の細胞を もつ コ ロ ニ ーが倒立 顕 微 鏡 下で容 易に観察できる よう にな り ( 写 真1) , 1 1 日冒には 辺縁は や ゝ不整であ る が ほゞ円形のコロ ニ ー が見ら れ. こ の コ ロ ニ ー 内で は 細 胞は相互に連 結して敷 石状の配列を示し た (写真 2). か か るコ ロ ニ ー は肉眼的にも観 察 可能と なっ た.
単 離 細 胞の植え込み後 約1 4 日目では, ギム ザ染色 を施 して観 察 する と, 全て の コ ロ ニ ー ほ上 述の如く細 胞が 敷 石 状の配列を示し, 上 皮 細 胞 性 細 胞 株のコ ロ ニ ー に
類 似し た形態を示し た( 写 真3). 従っ て こ れ らコ ロ
ニ ー は線維 芽 細 胞株でみ ら れ るコ ロ ニ ー と は 全 く 異っ て いた. 植え 込 み後1 4 日 以上 経過 す る と, コ ロ ニ ー は 大 きく な る と ともにその中心部で細 胞が密と な り数層 に盛り上がっ てきて , 肉眼的にも中心部の濃い部 分と 周辺 部の淡い部 分が判別さ れ る よ うになっ た. 即 ちコ
ロ ニ ー の状態でもO S T 細 胞は Co nta ct inh i b itio n
を起さ ない こと が観察さ れ た( 写 真4 ).
単 離 細 胞40個を植え込ん だ場 合, 平 均2 4偶の コ ロ ニ ーが形 成さ れ, コ ロ ニ ー 形 成 率は約6 0 % で あっ た ( 写真5 ).
一 方 同じ敷 石 状の細 胞配列を有す るコ ロ ニ ー の 申
に, 約1 0 % の割 合で辺嫁が明 瞭で小さい コロ ニ ー が散 見さ れ, 成長が遅い割に中心部に細 胞の盛り 上 が り が 早く か ら観察さ れ た. か か るコ ロ ニ ー は肉眼的にも鮮 明で濃く/トさいコ ロ ニ ー と して観 察さ れ, ギム ザ染色 を施して観察 する と細 胞 密 度が高く, コ ロ ニ ー 周 辺へ の細胞の伸展が少くて運動 性が低い傾 向を示し た(写 真 6 ) . か か るコ ロ ニ ー か ら分 離さ れ た クロ ー ン系 細 胞は C L 1 4 であっ た.
又多 核 巨細 胞を多く含むコ ロ ニ ー も観 察さ れ た が . か か るコ ロ ニ ー は 一般に発 育が悪く, クロ ー ニ ン グの
操 作の途 中で消 遺し分 離す ること ができ な かった(写 真7) .
ⅠⅠ. 形 態 学 的観 察
1 . 非クロ ー ン系 O S T 細 胞
継代 培 養 後4 8時 間までは線 推 芽 細 胞 様の形 態を 示 す 細 胞が散 見さ れ た が( 写真8a), 継 代 培 養 後4 日凱こ
は殆んど上 皮 細 胞 様の形 態を示し た(写真8 b ) . 核 は類 円 形又 は碑円形を呈し, や ゝ大 小不 同 を 認 め た .
多 核 巨細 胞は算 定 細胞 数1 0 0 0個 申1 個 を数える程度で あっ た.
2 .各クロ ー ン系細 胞
C L 2 の分 離 後5代目の細 胞におい て,継 代培 養 後 4 8 時 間以 内では線 維 芽細 胞 様の細 胞が締に観察さ れた が (写真 9 a)∴継 代培 養 後4 8時 間を 過 ぎると 上皮 細胞 様の形 態を示す細 胞で占め ら れ る よ うになっ た. 核 は 類 円 形又は楕円形を呈し軽 度の大 小不 同性を 示 し, 細 胞 質に軽 度の空 胞 形 成を 認 め た(写真9 b) . こ の所 見は C L 4, C L 5. C L 7, C L 8,C L 9, C L l l , C L 1 2, C L 13 の各クロ ー ン系 細 胞におい ても同 様に観 察さ れ, 多 核 巨細 胞 ( 写 真1 0) の出 現 頻度の違いを除け ば,非
ク ロ ー ン・系O S T 細 胞の形 態 学 的特 徴と規似 して い た. C L6, C L 1 4 につ い て は興 味あ る所見 を 呈 し たの で後に別 記す る. 2核 以 上の多 核 巨 細胞は各クロ ー ン
系の細 胞に多く観 察さ れ, 非クロ ー ン系 O S T 細 胞 よ り高い頻 度で出現し た( 表1). 特に非クロ ー ン系 O S T 細 胞の培 養の場 合 多 核 巨細 胞が算定 細胞致1 0 0 0 個 中1 個であっ たの に対し, C L 6 で は2 8 9 個. C L 8 で は2 4個. C L9 では3 4個. C L l l で は2 9個と多核 巨細 胞 が高 頻 度に出 現して いた.
C L 6 に関しては, クロ ー ン分 離 後2 〜 3 代 目 か ら 多 核 巨細 胞の増 加が目 立ち. 5 代 目では算 定細胞 数 1000個 申2 89 個を数え. 著し く高い頻度を示し た ( 写真 1 1).C L 6 の多 核 巨細胞の核 数によ る分 布 状 態は哀2
の如くで, 算 定 多 核 巨 細胞 数2 0 0個 中2核 細胞 は 8 8 個 (4 4 %), 3 核 細 胞は43個 (2 1.5 %), 4 核細胞は27 個 (13 .5 %), 5 核 細胞は1 8個 ( 9 %) と 核数が 多 く な るに従って出現 率は減 少す る傾 向を示し た. 9核以 上 の多核 巨細 胞 も存 在し た が 一般に核 数が多く なると 一 個 一個の核の確認 が国 難と な る場合が多く. 正 確に核 数を算 定す ること ができ な かっ た (写真1 2 ) . 核数の
表1 多核巨細 胞の出現 頻 度
( 算 定 細 胞 数1 ,0 0 0個 中の多 核巨細 胞 数)
O S T c ell 口 CL 8 2 4
C L 2 ロ C 」 9 3 4
CL 4 4 C L l l 四
CL 5 ロ C L 1 2 ロ
C L 6 2 8 g l C L 1 3 田
C L 7 = C L 1 4 ヰ