博士論文審査報告書

早稲田大学大学院 先進理工学研究科

博士論文審査報告書

論 文 題 目

医療機器の接続部に生じる血栓のリアルタイ ム可視化手法の確立に関する研究

Study on Establishment of a Real-time Visualization Method of Thrombus Formation at the Connectors in Medical

Devices

申 請 者

松橋 祐輝

Yuki MATSUHASHI

生命理工学専攻 医用機械工学研究

2017 年 12 月

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心 臓 手 術 中 に 循 環 補 助 や ガ ス 交 換 機 能 を 数 時 間 代 替 す る 目 的 で 用 い ら れ る 人 工 心 肺 装 置 、 肺 の ガ ス 交 換 機 能 を 数 日 か ら 数 週 間 代 替 す る 目 的 で 使 用 さ れ る 経 皮 的 心 肺 補 助 装 置 、 ま た 、 心 臓 手 術 後 に 血 液 中 の 炎 症 性 物 質 や 老 廃 物 を 除 去 す る た め に 用 い ら れ る 持 続 的 血 液 濾 過 器 は 現 代 の 医 療 に お い て 必 要 不 可 欠 な 医 療 機 器 で あ り 、 高 齢 化 と と も に 年 々 そ の 使 用 数 は 増 加 傾 向 に あ る 。 こ の よ う な 医 療 機 器 で は ， 機 器 と チ ュ ー ブ 、 機 器 と 生 体 組 織 の 接 続 部 が 必 ず 必 要 と な り 、 そ こ に 段 差 が 生 じ る 。 血 液 と 直 接 接 触 す る 医 療 機 器 で は 、 血 漿 タ ン パ ク 質 や 血 小 板 の 吸 着 を 抑 制 し て 抗 血 栓 性 を 高 め る 研 究 が 多 く 行 わ れ て い る 一 方 、 ど の よ う な 抗 血 栓 性 材 料 を 用 い て も 、 物 理 的 な 段 差 で 生 じ る 血 栓 形 成 に 関 し て は 解 決 さ れ て い な い 。 こ の 血 栓 は 、 医 療 機 器 の 機 能 不 全 や 、 形 成 さ れ た 血 栓 が 末 梢 側 に 血 流 に よ っ て 運 ば れ て 脳 血 管 等 を 閉 塞 さ せ る 血 栓 塞 栓 症 を 引 き 起 こ す 原 因 と な る 。 こ の 課 題 の 解 決 に 挑 戦 す る た め に は 、 接 続 部 で 血 栓 が 経 時 的 に 形 成 さ れ る 機 序 を 明 確 に す る こ と が 重 要 で あ る が 、 血 液 中 に は 光 を 吸 収 す る 赤 血 球 が 多 く 存 在 し 、 ま た 、 血 栓 の 要 素 と な る 血 小 板 や 赤 血 球 の 大 き さ は 3μm、8μm 程 度 と 小 さ く 、 血 栓 形 成 の 過 程 を 経 時 的 に 計 測 す る 手 法 が 存 在 し な か っ た 。 本 論 文 は 、 循 環 血 液 中 の 主 と し て 赤 血 球 の 光 学 特 性 に 着 眼 し 、 実 臨 床 で の 血 流 ・ 血 圧 環 境 下 で コ ネ ク タ と チ ュ ー ブ の 接 続 部 に お い て 血 栓 が 経 時 的 に 形 成 さ れ て い く 現 象 を 、 非 侵 襲 で 計 測 す る 手 法 を 開 発 し た 研 究 で あ る 。 具 体 的 に は 、 血 液 の 光 学 特 性 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ す 赤 血 球 の 吸 収 特 性 が 低 い 中 心 波 長 1 3 3 0 nm の 光 干 渉 断 層 装 置 を 用 い て 、赤 血 球 か ら の 散 乱 光 強 度 の 時 間 変 化 量 を 指 標 と し て 、 全 血 を 用 い て 血 栓 抽 出 方 法 を 開 発 し 、 ま た 、 血 栓 形 成 の 過 程 の 可 視 化 す る 手 法 を 提 示 し て い る 。 本 論 文 は 6 章 で 構 成 さ れ て い る 。

第 1 章 で は 、 血 栓 の 可 視 化 手 法 に 関 す る 先 行 研 究 を 調 査 し 、 空 間 分 解 能 、 リ ア ル タ イ ム 計 測 、 非 侵 襲 計 測 の 点 か ら 、 各 計 測 機 器 の 特 徴 を 整 理 し 、 本 研 究 で 光 干 渉 断 層 装 置 を 選 定 し た 根 拠 を ま と め て い る 。 ま た 、 血 液 の 中 で 最 も 多 く を 占 め る 血 球 成 分 で あ る 赤 血 球 の 光 学 特 性 に つ い て ま と め 、 血 球 成 分 以 外 の 水 の 光 学 特 性 を 踏 ま え て 、 光 干 渉 断 層 装 置 に お い て 1 3 3 0 nm の 中 心 波 長 を 選 定 し た 根 拠 を ま と め て い る 。 さ ら に 、 医 療 機 器 の 血 栓 に 関 す る 課 題 を 市 販 後 の 不 具 合 報 告 件 数 と 文 献 報 告 を 基 に ま と め 、 本 研 究 で 開 発 す る 血 栓 形 成 過 程 の 可 視 化 手 法 の 必 要 性 を 示 し て い る 。

第 2 章 で は 、 血 液 中 の 赤 血 球 の 割 合 で あ る ヘ マ ト ク リ ッ ト 値 と 平 均 血 流 量 が 、 血 液 の 光 学 特 性 に 及 ぼ す 影 響 を 光 干 渉 断 層 装 置 を 用 い て 調 べ て い る 。 ヘ マ ト ク リ ッ ト 値 を 1 0%毎 に 4 0 %ま で 変 化 さ せ て 実 験 を 行 い 、ヘ マ ク ト リ ッ ト 値 は 、 散 乱 光 強 度 に 影 響 を 及 ぼ し 、 壁 面 か ら の チ ュ ー ブ 内 腔 側 へ の 距 離 に よ っ て 極 大 を 示 す ヘ マ ト ク リ ッ ト 値 が 変 わ る 傾 向 が あ る こ と を 示 し て い る 。 こ の 要 因 は 、 赤 血 球 数 が 多 く な る と 赤 血 球 中 の ヘ モ グ ロ ビ ン に よ り 光 の 吸 収 が 多 く な る た め で あ る と 文 献 調 査 も 踏 ま え て 考 察 し て い る 。 一 方 、 平 均 血 流 量 に 関 し て は 、 静 止 状 態 と 5 0 m L / m i n か ら 5 0 m L/ m i n 毎 に 2 0 0m L / m i n ま で 平

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均 血 流 量 を 変 化 さ せ た 血 流 存 在 下 で は 、 散 乱 光 強 度 が 異 な る こ と を 示 し 、 ま た 、 流 れ の あ る 5 0 m L / m i n か ら 2 0 0 m L/ m i n の 状 況 で は 、 散 乱 光 強 度 に 変 化 は な い こ と を 示 し て い る 。 こ れ ら の 結 果 は 、 血 流 存 在 下 に お い て 、 赤 血 球 が 血 栓 に 補 足 さ れ て 静 止 し て い る 状 態 と 血 流 状 態 を 光 干 渉 断 層 装 置 を 用 い て 非 侵 襲 で 抽 出 で き る 可 能 性 を 示 し て い る 。 ま た 、 血 液 接 触 面 の 内 面 か ら 1 2 0μ

m 毎 に 8 4 0μm ま で の 7 領 域 で 散 乱 光 値 を 評 価 し 、 散 乱 光 強 度 の 減 衰 特 性 を

評 価 し 、 本 手 法 の 適 用 範 囲 に つ い て 評 価 し て い る 。

第 3 章 で は 、 循 環 血 液 中 に 存 在 す る 血 栓 に 捕 捉 さ れ た 赤 血 球 と 血 流 中 の 赤 血 球 か ら の 散 乱 光 を 識 別 で き る か を 検 討 し て い る 。 具 体 的 に は 、 ま ず 、 透 明 狭 窄 血 管 モ デ ル に 金 属 製 治 療 機 器 で あ る ス テ ン ト を 意 図 的 に 不 完 全 圧 着 部 が 形 成 す る よ う に 留 置 し 、 血 液 を 循 環 さ せ て 血 栓 を 作 製 し 、 そ の 後 生 理 食 塩 水 で 循 環 溶 液 を 置 換 し た 後 に 光 干 渉 断 層 装 置 で 血 栓 形 成 部 位 を 特 定 し て い る 。 こ の 結 果 と 血 液 循 環 下 で の 光 干 渉 断 層 装 置 で 測 定 す る 散 乱 光 強 度 を 比 較 し 、 7 f r am e / s e c で 撮 像 し た 連 続 す る 2 フ レ ー ム 間 の 差 分 画 像 か ら 得 た 散 乱 光 強 度 の 時 間 変 化 量 が 、 血 栓 形 成 部 位 で は 血 液 循 環 部 位 と 比 較 し て 有 意 に 小 さ い こ と を 示 し て い る 。 こ れ ら の 結 果 を も と に 、 光 干 渉 断 層 画 像 の 連 続 す る フ レ ー ム 間 で の 差 分 画 像 か ら 得 ら れ る 散 乱 光 強 度 の 時 間 変 化 量 を 指 標 と す る こ と で 血 液 循 環 中 に 形 成 さ れ る 血 栓 を 検 出 す る 可 能 性 を 見 出 し て い る 。

第 4 章 で は 、 コ ネ ク タ と チ ュ ー ブ の 接 続 部 で 形 成 さ れ る 血 栓 を 、 光 干 渉 断 層 装 置 を 用 い て 経 時 的 に 評 価 す る 手 法 を 提 案 し て い る 。 血 液 循 環 中 の コ ネ ク タ と チ ュ ー ブ と の 接 続 部 を 7 f r am e / s e c で 連 続 撮 影 し 、 連 続 す る 7 枚 の 画 像 間 に お け る 散 乱 光 強 度 の 時 間 変 化 量 を 積 算 し 、 大 津 の 閾 値 を 用 い て 静 止 部 で あ る コ ネ ク タ 及 び チ ュ ー ブ 、 動 き が 拘 束 さ れ て い る 血 栓 と 血 流 領 域 を 分 け る 手 法 を 提 案 し て い る 。提 案 手 法 に よ る 血 流 存 在 下 で の 血 栓 形 成 部 位 の 面 積 は 、 生 理 食 塩 水 で 血 液 を 置 換 し た 環 境 で 計 測 し た 面 積 と 1 . 4%の 差 で あ る こ と を 示 し 、 開 発 し た 手 法 が 高 精 度 に 血 液 循 環 環 境 下 で 血 栓 形 成 の 過 程 を 非 侵 襲 か つ 経 時 的 に 評 価 で き る こ と を 示 し て い る 。 本 研 究 は 、 こ れ ま で の 技 術 で は 困 難 で あ っ た 血 栓 形 成 過 程 を 非 侵 襲 か つ 連 続 的 に 可 視 化 し た 初 め て の 研 究 で あ り 、 血 栓 形 成 機 序 を 詳 細 に 解 明 す る 研 究 に お い て 新 た な 知 見 を も た ら し 得 る 優 れ た 成 果 で あ る と 評 価 で き る 。

第 5 章 で は 、 コ ネ ク タ と チ ュ ー ブ の 接 続 部 に お け る 血 栓 形 成 と 流 れ 場 の 関 係 を 検 証 し て い る 。 先 端 形 状 の 異 な る 2 つ の コ ネ ク タ と チ ュ ー ブ 接 続 部 の 段 差 に 形 成 さ れ る 血 栓 を 経 時 的 に 可 視 化 し 、 コ ネ ク タ と チ ュ ー ブ 接 続 部 の 形 状 の 違 い が 血 栓 形 成 及 び 血 栓 の 成 長 に 及 ぼ す 影 響 を 明 ら か に し て い る 。 粒 子 画 像 流 速 計 測 法 を 用 い て 流 れ 場 を 分 析 し 、 脈 動 環 境 下 で の 最 小 流 量 時 の 流 速 が

0. 0 1m / s e c 以 下 の 低 流 速 領 域 で 血 栓 が 形 成 さ れ 、 さ ら に 、 流 れ の 再 付 着 点 が

血 栓 形 成 の 成 長 を 抑 制 す る と い う こ と を 見 出 し て い る 。 本 研 究 成 果 は 、 血 栓 形 成 と そ の 成 長 を 局 所 流 れ と 比 較 し な が ら 分 析 し た 点 で 評 価 で き る 。

第 6 章 で は 本 論 文 の 成 果 と 意 義 を ま と め 、今 後 の 展 望 に つ い て 述 べ て い る 。

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な お 、3 章 と 4 章 の 成 果 が P L o S O n e、5 章 の 成 果 は J o u r na l o f A r t i f i c i a l O r g a ns に 受 理 さ れ て い る 。

以 上 、 本 論 文 は 1 3 3 0 nm の 波 長 を 利 用 し た 光 干 渉 断 層 装 置 を 用 い 、 赤 血 球 の 散 乱 光 の 特 性 を 用 い て 医 療 機 器 と チ ュ ー ブ の 接 続 部 に 形 成 さ れ る 血 栓 を 、 高 分 解 能 、 非 侵 襲 、 か つ 経 時 的 に 観 察 す る 手 法 を 開 発 し た 初 め て の 研 究 で あ る 。 本 研 究 は 、 接 続 部 に お け る 血 栓 形 成 機 序 の 詳 細 な 分 析 、 そ し て 、 接 続 部 で 形 成 さ れ る 血 栓 の 剥 離 を 抑 制 す る 接 続 部 の 設 計 指 針 を 得 る 研 究 を 行 う た め の 先 駆 的 研 究 と 評 価 で き 、 意 義 は 大 き い 。 循 環 器 系 の 医 療 機 器 の 開 発 研 究 に お い て 、 血 栓 に 起 因 す る 合 併 症 は 依 然 と し て 多 く 、 本 研 究 で 開 発 し た 血 栓 形 成 の 過 程 を 経 時 的 に 可 視 化 で き る 非 臨 床 評 価 法 は 、 医 工 学 研 究 分 野 の 発 展 に 寄 与 す る 独 創 的 研 究 で あ る と 言 え る 。

以 上 に よ り 、本 論 文 を 博 士(工 学)の 学 位 論 文 と し て 価 値 あ る も の と 認 め る 。

2 0 17 年 1 2 月

（ 主 査 ） 早 稲 田 大 学 教 授 岩 﨑 清 隆 博 士 （ 工 学 ）（ 早 稲 田 大 学 ）

早 稲 田 大 学 教 授 梅 津 光 生 工 学 博 士(早 稲 田 大 学)

医 学 博 士(東 京 女 子 医 科 大 学)

早 稲 田 大 学 教 授 高 西 淳 夫 工 学 博 士 （ 早 稲 田 大 学 ）

早 稲 田 大 学 教 授 大 谷 淳 工 学 博 士 （ 東 京 大 学 ）

早 稲 田 大 学 教 授 伊 関 洋 医 学 博 士(東 京 女 子 医 科 大 学)