広 帯 域 移 動 通 信 シ ス テ ム に お け る フ ェ ー ジ ン グ 補 償 技 術 に 関 す る 研 究
A Study on Fading Compensation Techniques for Wireless Broadband Communications
2008 年 2 月
早稲田大学大学院 理工学研究科 情報・ネットワーク専攻
ワイヤレスコミュニケーション研究
平 明徳
Akinori Taira
目 次
第1章 序論 -3-
1.1 まえがき . . . . -3-
1.2 移動通信環境における問題点 . . . . -4-
第2章 時間と周波数の同期方式 -10- 2.1 タイミング同期方式 . . . .-10-
2.1.1 タイミング同期に関する概要 . . . .-11-
2.1.2 同期方式 . . . .-13-
2.1.3 同期位置分布 . . . .-16-
2.1.4 計算量削減手法 . . . .-20-
2.1.5 PER特性に与える影響 . . . .-21-
2.2 周波数同期方式 . . . .-30-
2.2.1 周波数オフセットの影響 . . . .-30-
2.2.2 周波数オフセット補償方式 . . . .-34-
2.2.3 計算機シミュレーション . . . .-38-
2.2.4 単一発振器を用いる場合の周波数オフセット補償方式 . . . .-44-
2.2.5 単一発振器を想定した場合の特性評価 . . . .-45-
2.3 同期方式のまとめ . . . .-50-
第3章 伝搬路推定方式 -52- 3.1 時間領域伝搬路推定法 . . . .-52-
3.1.1 信号モデル . . . .-53-
3.1.2 周波数領域における伝搬路推定法 . . . .-56-
3.1.3 時間領域における伝搬路推定法 . . . .-57-
3.1.4 計算量削減法 . . . .-60-
3.1.5 特性評価 . . . .-62-
3.2 周波数領域MMSE合成による伝搬路推定. . . .-70-
3.2.1 提案方式 . . . .-71-
3.2.2 計算機シミュレーション . . . .-75-
3.3 伝搬路推定方式のまとめ . . . .-81-
第4章 同一チャネル干渉抑圧方式 -83- 4.1 システムモデル . . . .-84-
4.1.1 同一チャネル干渉下のシステムモデル . . . .-84-
4.1.2 システムブロック構成 . . . .-87-
4.2 軟判定尤度生成法 . . . .-87-
4.2.1 MAP復号 . . . .-87-
4.2.2 干渉信号の振幅分布 . . . .-88-
4.2.3 同一チャネル干渉下における尤度情報 . . . .-89-
4.2.4 対数尤度の算出 . . . .-91-
4.3 計算機シミュレーション . . . .-94-
4.3.1 近似パラメータαの影響 . . . .-95-
4.3.2 AWGN環境における伝送特性 . . . .-95-
4.3.3 フェージング環境における伝送特性 . . . .-95-
4.3.4 伝搬路推定時の伝送特性 . . . .-95-
4.3.5 周波数オフセットの影響 . . . .-96-
4.4 同一チャネル干渉抑圧方式のまとめ . . . .-96-
第5章 結論 -101-
謝辞 -104-
参考文献 -105-
付録 -112-
研究業績 -114-
第 1 章 序論
本論文は送信機と受信機の間に多数の伝搬路が形成される環境下において,広帯域無線通 信システムを実現する際に問題となる諸課題について検討した結果をまとめたものである.
1.1 まえがき
近年,インターネットに代表される有線通信網の高速化にともなって,ネットワークサービ スの多様化,動画などリッチコンテンツの増加が進んでいる.高速な加入者回線(FTTH1お よびDSL2)を利用したインターネットへのトラヒック量は2004年11月の323.6 Gbpsから 2006年11月の636.6 Gbpsへと2年間でほぼ倍増しており,急激なネットワークの高速化が 進んでいることがうかがえる [1].
ネットワークの一翼を担いつつある無線通信システムにおいてもユーザあたりの伝送情報 量が増大しており,大量のデータ伝送が可能な広帯域無線通信システムに対する期待が高まっ ている.都市内部のように送信機と受信機の間に多数の伝搬路が形成される環境において高 速通信を実現する場合,シンボル時間幅を超える遅延波によってシンボル間干渉が発生する 周波数選択性フェージングが重要な問題となる.
シンボル間干渉に対処するためには,適応等化器による方法とマルチキャリアを用いる方 法が良く知られている.前者は受信機においてトランスバーサルフィルタを用いて伝搬路の 逆特性を構成することにより,周波数特性を補償する.予測される遅延波の遅延量が大きく なるほどフィルタのタップ数が大きくなり,実装が困難となる性質を有する.一方,マルチ キャリアは信号帯域を細かなサブキャリアに分割し,複数のサブキャリアを同時に伝送する 方式である.遅延波による周波数歪みを受けない程度までサブキャリア帯域幅を細くするこ とで,各サブキャリア上の信号を歪み無く伝送することが可能となる.この方式は等化器の ような特別な装置を用いること無く遅延波の抑圧が可能となり,広帯域通信に幅広く適用が 始まっている.
本論文は周波数選択性フェージング環境で良好な伝送特性を示すマルチキャリアの代表的 方式であるOFDM3通信方式に焦点をあて,移動通信環境においてOFDMによる高速通信シ
1Fiber To The Home
2Digital Subscriber Line
3Orthogonal Frequency Division Multiplexing
ステムを実現する際の問題点,およびその解決策について一連の研究成果を取りまとめたも のである.
1.2 移動通信環境における問題点
上述のようにOFDMは原理的に遅延波の影響を抑圧することが可能であり,直交するサ ブキャリアを利用して広帯域通信を実現することができる.しかしながら,実際の移動通信 環境においてOFDM通信システムを実現するためには,さらなる課題が存在する.本節で は実環境において生じる問題点を考察する.
図1.1にOFDM送受信機のブロック構成を示す.送信信号は始めに誤り訂正用の符号化処 理を受け,変調部によって各シンボル点にマッピングされる.生成された送信シンボルは各 サブキャリアに配置され,IFFTによって時間信号が算出される.時間信号に対して,遅延 波抑圧のためのガードインターバルが付加されて,OFDM信号が生成される.このOFDM 信号はディジタル信号であり,D/A変換器によってアナログ信号に変換される.D/Aは送信 機内部の発振器Aからのクロックにより駆動され,アナログベースバンド信号が生成される.
さらに,発振器Bからの高周波キャリアを用いて,RF周波数へのアップコンバートが行わ れ,増幅器による増幅を受けた後,アンテナから電波として放射される.
送信アンテナから受信アンテナの間の伝搬路では,ビルなどの反射によって多数の経路が 形成される.すなわち,受信アンテナには,直接波に加えて多数の反射波(遅延波)が入射 する.受信機において,受信波はLNA(低雑音増幅器)による増幅を受けた後,発振器Dか らの高周波キャリアを用いてアナログベースバンド信号へダウンコンバートされる.この信 号は発振器Cからのクロックで駆動されるA/D変換器によってディジタルベースバンド信 号へ変換され,時間・周波数同期部によって送受信機の同期がとられた後,FFTによってサ ブキャリア上の信号が復元される.伝搬路推定部では,パイロット信号などの既知シンボル を利用して各サブキャリアの伝搬路情報を算出し,検波部において誤り訂正用のメトリック 情報が生成される.この情報は誤り訂正部へ送られ,最終的な受信機出力が得られる.
OFDM通信システムを実環境において実現する場合,時間・周波数の同期および伝搬路推 定が大きな問題となる.無線通信システムの前提として送受信機は離れた場所に位置するた め,外部からの同期信号を得ることは困難である.したがって,受信側において無線信号に 含まれる情報要素のみを用いてこれらの機能を実現しなくてはならない.
OFDMの適用が予測される無線通信システムの形態には,現段階で「放送型システム」と
「双方向パケット通信型システム」の2種類が考えられる.前者は放送局から各受信機への片 方向通信,かつ連続的な情報伝送が行われる.したがって受信局は連続的な受信信号を解析 して十分な時間をかけて時間・周波数同期処理,あるいは伝搬路推定処理を行うことが可能
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図 1.1 OFDM送受信機のブロック構成
率よく品質を保った伝送を行うかという課題が生じる.一方,無線LANに代表される後者の 双方向パケット通信型システムでは,送信されるパケットを受信側は1度で受信・復調する 必要があり.パケット単位での同期および伝搬路推定処理が必要となる.このため,これら の機能は非常に複雑なものとなり,実現性を含めて詳細な検討が必要となる.本論文では後 者の双方向パケット通信型システムを前提として議論を進める.
時間/周波数同期( 2 章)
OFDMは複数のサブキャリアを直交する周波数に配置し,同時伝送する信号の合成/分離 をディジタル信号処理で実現することにより,高い周波数利用効率を達成できる.反面,サブ キャリア間の直交性が崩れた場合,キャリア間干渉が生じて伝送特性が急激に劣化する.実 際の移動通信環境においては,送受信機間の発振器周波数誤差,移動によるドップラーシフ ト,遅延波広がりによるタイミング誤差など,時間/周波数の両領域において直交崩れを引 き起こす要因が多数存在する.このような環境において,直交性を維持するための時間/周 波数同期機能が重要な要素技術となる.
OFDM通信方式のタイミング同期は受信側におけるFFT窓位置設定を意味する.タイミ ング同期のずれはガードインターバルの有効長を短くし,耐フェージング特性の劣化を引き
起こす.OFDMは連続送信が行われる地上波デジタル放送が先行したこともあり,受信信号 の自己相関処理により,ガードインターバルなど信号中の繰り返し部分を検出する同期方式 が提案されてきた [4–6, 11].しかしなから,この方式は雑音や大電力の遅延波によって同期 位置のばらつきが大きくなり,時間的な平均化処理が適用できないパケット通信システムで は伝送特性が大きく劣化する.その他にもバースト先頭にチャープ信号のような特殊な波形 を付加する方式 [12]や,サブキャリア間の位相回転量を測定する方式 [13, 14]など様々な方 式 [15]が報告されている.
本論文ではチャネルインパルスレスポンスの解析に基づくタイミング同期方式を提案す
る[16, 19].同方式は演算規模を抑えながら,遅延分散の大きな伝搬路においても優れた伝送
特性を実現できる.
送受信機間における発振器周波数誤差は無線通信において避け難い問題である.図1.1に おいてD/AおよびA/Dを駆動する発振器Aと発振器C,キャリア周波数を決定する発振器 Bと発振器Dの周波数に差がある場合,周波数オフセットが発生して伝送特性に大きな影響 を与える.本論文では前者をサンプリング周波数オフセット,後者をキャリア周波数オフセッ トと表記する.
周波数オフセット補償は,一般的に伝送信号中の繰り返し部分を用いて受信側で位相回転 量を算出し,逆回転をかけることによって実現されてきた[6, 9, 10].従来のシングルキャリア システムにはサンプルポイントであるナイキスト点が存在し,トラッキング処理によってサ ンプリング周波数オフセットの影響を抑圧できる.しかしながら,マルチキャリアシステム にはナイキスト点が存在せず,原理的にトラッキングを行う手法は適用できない.また,キャ リア周波数オフセットに比べて遥かに小さなサンプリング周波数オフセットを両者が混ざっ た受信信号から正確に測定することは困難である.
これまでにパケット通信システム向けに初期周波数補償とデータ部のパイロットを用いた トラッキングによる2段階の周波数オフセット補償方式が提案されている [27–29].しかし ながら,データ部のパイロットを用いた場合でも周波数選択性フェージング環境下ではオフ セット量の推定に誤差が生じ,特に高速応答が要求される無線LAN型通信システムではロン グパケットの伝送が困難であることが示されている [26].本論文では単一発振器によりディ ジタル部,RF部を駆動するOFDM送受信機構成を提案し,測定の容易なキャリア周波数オ フセットからサンプリング周波数オフセットを算出することにより,優れた伝送特性が実現 できることを明らかにする.
伝搬路推定( 3 章)
広帯域通信を行う場合,ユーザ当りの占有周波数幅が大きくなる.限られた資源である周
期検波を用いた多値変調は優れた周波数利用効率を有する.256QAMや1024QAMといった 超高密度なコンステレーションを有する変調方式も登場しており,信号点の復元には正確な 伝搬路情報が必要となる.OFDMにおいては,雑音および遅延波の重畳された受信信号から 各サブキャリアの伝搬路情報を正確に推定しなくてはならない.近年では,さらなる周波数 利用効率向上を目指してMIMO 4などの信号多重方式の検討も進められている [32].これら のシステムでは受信側において信号分離を行う必要があり,より正確な伝搬路情報を要求す る.限られたパイロット信号から正確な伝搬路推定を行う推定方式が求められる.
本論文では2種類の伝搬路推定法について述べる.1番目は時間領域における伝搬路推定 方式である.OFDMシステムの伝搬路推定は周波数領域で行う方式と時間領域で行う方式の 2種類が考えられる.両者の推定精度は一般的に等しく,時間領域における推定法は計算量 が非常に大きくなるため,これまであまり用いられてこなかった.しかしながら,OFDMシ ステム特有の性質を利用することで時間領域における伝搬路推定精度を向上し得ることを明 らかにする.また,時間領域伝搬路推定法の計算量削減法について提案を行い,その伝送特 性を評価する.
2番目の方式は周波数領域においてMMSE5フィルタを適用するものである.伝搬路相関の 高い近傍サブキャリアを平均化して雑音を抑圧し,伝搬路推定値の精度を向上させる手法は これまでにも多数提案が行われている.文献[47, 48, 51, 53]では適応的なウエイト合成を行う ことにより,高精度なMMSE伝搬路推定が可能となることが示されているが,遅延広がりな どの伝搬パラメータを事前に把握する必要がある上,時間方向への平均化処理による遅延が 生じる.一方,計算量削減を目的として固定,あるいは選択的な合成パラメータを用いる方 法も提案されている[46, 48, 49, 54, 55].しかしながら,固定パラメータを用いる手法では種々 の伝搬路条件下で優れた推定特性を維持することは困難であり,推定誤差の増大が避けられ ない.本論文では優れた特性を有するMMSE合成法をベースとし,パケット通信型システム への適用を想定して,計算量,演算遅延を抑圧するアルゴリズムを提案する[56, 57].MMSE 合成フィルタのタップ数を小さく設定して演算量を抑えるとともに,周波数方向への平均化 処理によってサブキャリア間の相関行列を算出することで単一OFDMシンボルでの合成を 可能とする.計算機シミュレーションにより本方式の伝送特性を明らかにするとともに,信 号多重方式であるMIMO–OFDMにおいても優れた特性改善が実現できることを示す.
同一チャネル干渉抑圧( 4 章)
1対1の通信に加えて,大規模なセルラーシステムへのOFDM適用を考える場合には図1.2 に示すように同一チャネル干渉を考慮する必要がある.先にも述べたように,広帯域通信シ
4Multiple Input Multiple Output複数アンテナを用いて複数の信号系列を空間多重で同時伝送する方式
5Minimum Mean Squared Error
ステムではチャネル当りの周波数帯域が広くなるため,必然的に利用可能なチャネル数が少 なくなる.このため,近距離での周波数再利用を行わざるを得ず,セル端などにおいて複数 局からの信号が干渉する.安定した面的通信サービスを行うためには,低SINR(信号対干 渉雑音電力比)環境において優れた伝送特性を実現する通信方式が必要となる.
同一チャネル干渉に対してはアダプティブアレーアンテナによる手法が古くから用いられ てきた.これは受信アンテナに指向性を持たせることにより,特定方向からの干渉信号を抑 圧するものである.大規模なセルラーシステムでは基地局間で時間同期が行われているため,
特にシンボル時間の長いマルチキャリア方式では,希望信号と干渉信号が同一タイミングで 受信されると見なすことができる.この条件下において,MIMOによる複数系列受信を利用 した,最尤系列推定による干渉抑圧方式が提案されている [58].これらの手法は優れた干渉 抑圧性能を有するが,複数アンテナを必要とし,計算量が非常に大きくなる問題を有する.
本論文では,強力な誤り訂正(FEC6)を利用した同一チャネル干渉抑圧方式を示す.誤り 訂正に用いられる受信信号の軟判定尤度情報生成にあたり,従来は干渉信号をガウス雑音と 近似した処理を行っていた.本論文では干渉信号を正確にモデル化し,干渉信号と雑音を重 畳した振幅確率分布を用いた尤度情報生成法 [65, 66]を提案する.理論的な干渉雑音信号の 振幅分布を示すとともに,計算機シミュレーションにより提案手法の有効性を明らかにする.
Base Station A Base Station B
Base Station C
Mobile Terminal
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図 1.2 セルラーシステムの同一チャネル干渉
その他
本論文では扱わないが,OFDM実用化に際して非常に大きな問題となる信号対雑音電力比
(PAPR7)について簡単に示す.OFDM信号は複数の正弦波を加算したものと考えられるた め,時間波形は雑音のように変化の激しいものとなる.従来のシングルキャリアシステムで はQPSKなどの定包絡線変調方式を使用した場合,ナイキスト点における振幅は一定となり,
増幅器に対する線形性の要求は軽いものであった.しかしながら,OFDM信号では平均電力 に対する最大電力の比が非常に大きくなる.この値は各サブキャリアの一次変調方式によら ず,増幅器に対して7∼10dBのバックオフを要求する.このため,OFDM信号を歪み無く 送信するためには平均送信電力に対して10倍近い出力の増幅器を装備する必要があり,なお かつ厳しい線形性を維持した増幅特性を実現しなくてはならない.軽量,低消費電力が求め られる端末側においてこの条件を実現することは非常に難しく,アップリンクへのOFDM適 用を考慮する場合,優れたPAPR抑圧方式を検討する必要がある.
本論文では,前述した問題点のうち 1j時間・周波数同期方式, 2j伝搬路推定方式,3j同 一チャネル干渉抑圧方式,の3点に関して,次章以下に検討した結果を示す.
7Peak to Average Power Ratio
第 2 章 時間と周波数の同期方式
OFDMは複数のサブキャリアを直交する周波数に配置し,同時伝送する信号の合成/分離 をディジタル信号処理で実現することにより,高い周波数利用効率を達成できる.反面,サブ キャリア間の直交性が崩れた場合,キャリア間干渉が生じて伝送特性が急激に劣化する.実 際の移動通信環境においては,送受信機間の発振器周波数誤差,移動によるドップラーシフ ト,遅延波広がりによるタイミング誤差など,時間/周波数の両領域において直交崩れを引 き起こす要因が多数存在する.このような環境において,直交性を維持するための時間/周 波数同期機能が重要な要素技術となる.本章では双方向パケット通信を実現するOFDM通 信システムの時間および周波数同期方式について述べる.
2.1 タイミング同期方式
都市部における移動体通信需要の高まりから,周波数選択性フェージング環境下において 優れた特性を示すOFDM通信方式が注目を集めており,各国で標準化作業も進められてい る.OFDMではFFTウインドウの設定位置にずれが生じると,シンボル間干渉によりサブ キャリア間の直交性が崩れて特性劣化が生じるため,高精度なタイミング同期が必要となる.
本節では受信信号と参照信号の相互相関に基づいた同期方式を提案し,これまでに提案され ている受信信号の自己相関に基づく方式とともに計算機シミュレーションによりPER特性 に与える影響を検討する.また,参照信号を硬判定データとして表現することにより,相関 処理で必要とする計算量を効果的に削減する手法を示し,遅延波広がりの大きな伝搬路にお いても本提案方式により適切なタイミング同期が実現できることを明らかにする.
OFDM通信方式はガードインターバルによって遅延波を吸収し,周波数選択性フェージン グの影響を回避する構成上,FFTウインドウ設定位置のずれ,すなわちタイミング同期のず れはガードインターバルの有効長を短くし,耐フェージング特性の劣化を引き起こす.OFDM 信号のタイミング同期方式としては地上波デジタル放送においてガードインターバルの繰り 返し部分を利用した方式がよく知られている [4, 5].一方,高速無線LANなど双方向通信形 態のシステムとしても種々の検討が行われており,バーストの先頭に配置されるプリアンブ ル内の繰り返し信号を利用し,受信信号の自己相関を用いて同期位置を検出する方式が検討 されている [6, 11].その他にもバースト先頭にチャープ信号のような特殊な波形を付加する
Guard
interval Information copy
FFT size OFDM symbol length
Tp GI
図 2.1 OFDMシンボル構成
方式[12]や,サブキャリア間の位相回転量を測定する方式 [13, 14]など様々な方式 [15]が報 告されている.
本章では,よりパケット伝送に適した方式として,バースト先頭のプリアンブル(OFDM 信号時間波形)と受信信号との相互相関処理を用いたタイミング推定方式 [16, 19]を提案し,
計算機シミュレーションにより遅延分散の大きな伝搬路において有効であることを示す.ま た,処理量削減のため,参照信号を硬判定することを提案し,その場合でも特性劣化がほと んど生じず実用化に適することを示す.本提案方式によって,タイミング推定をパケット毎 に独立して処理した場合でも劣化のないOFDM伝送が可能となる.
2.1.1 タイミング同期に関する概要
OFDM通信方式は復調にFFTを用いることから受信波は基本周期およびその 1n(nは整 数)周期波形の組み合わせ,すなわちFFTウインドウ内において各サブキャリアが直交して いる必要がある.遅延波による直交性の崩れを避けるため,OFDMでは図2.1に示すように ガードインターバルと呼ばれる冗長部分を付加して情報を伝送する.このガードインターバ ル部は,情報部分最後尾の波形がコピーされ,復調時のFFTウインドウ設定に際して多少の 同期位置の誤差を許容している[20].本章では図2.1におけるGuard Interval + Information 部分の時間波形をOFDMシンボルと表記する.
図2.2は受信波の到来状況とFFTウインドウの設定位置の関係を示したものである.受信 時のFFTウインドウが前後のシンボルを含むように設定された場合にシンボル間干渉が発生 することから,ウインドウは直接波の最後部と,最も遅延量の大きい遅延波の最前部との間 に設定すれば良いことがわかる[21].直接波の情報部分先頭位置にFFTウインドウを設定し た場合に遅延波の許容範囲が最も広くなるため,この位置を理想同期位置とする.同期位置 が理想同期位置から後方にずれた場合には,後続のOFDMシンボルとの間でシンボル間干 渉が発生し,大きな特性劣化を引き起こすため,後方への同期位置のずれは確実に抑制する 必要がある.
Information Guard
interval
Information Guard
interval
FFT size Preceding
wave
Delayed wave 1
Delayed
wave 2 Guard Information
interval
Next symbol
FFT window
Ideal FFT window possible range to set window
Ideal sync position Region to
receive delayed wave Previous
symbol
図 2.2 伝搬路特性とFFTウインドウの関係
図2.3に検討を行ったOFDMバースト1のプリアンブル部分を示す.バーストの先頭には AGC2動作用のプリアンブルに続いてA1〜A5の5つの16シンボルパターン,さらにその
後にC1,C2,C3と名付けられたパターンが配置される.これらは現在検討が進められている
MMAC3 HiSWANa4システムのアップリンクバースト用プリアンブル[22]と同様の構成であ る.A1〜A4はA1=A3, A2=A4, A2=−A1を満たし,図2.4に示す64シンボルの周波数信 号をIFFTすることによって得られる.A5はA1の時間反転波形である.また,C2,C3は同 一の64シンボルパターンで,同様に図2.4に示す64シンボルの周波数信号から生成される.
C1はC2およびC3のガードインターバルにあたる部分でC2の後半32シンボルと同一のパ ターンである.これらのプリアンブルの後に通常の「ガードインターバル+情報部分」の構 成をもつデータ部分のOFDMシンボルが続くものとする.
1プリアンブルと6 OFDMシンボルのデータ部分からなるバースト信号とする
2Automatic Gain Control自動利得制御
3Multimedia Mobile Access Communication systems
A1 A2 A3 A4 A5 C1 C2 C3 AGC
Preamble
16 16 16 16 16 32 64 64
Data
図 2.3 プリアンブルフォーマット
A1,A2,A3,A4⏕ᡂࣃࢱ࣮ࣥ
C2⏕ᡂࣃࢱ࣮ࣥ
0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, -1+j, 0, 0, 0, 1+j, 0, 0, 0, 1-j, 0, 0, 0, -1-j, 0, 0, 0, -1+j, 0, 0, 0, -1-j, 0, 0, 0, -1+j, 0, 0, 0, -1-j, 0, 0, 0, -1+j, 0, 0, 0, -1-j, 0, 0, 0, 1-j, 0, 0, 0, 1+j, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0
(-32) (-16)
(-16) (0)
(0) (16)
(16)
(-17)
0, 0, 0, 0, 0, 0, 1, 1, -1, -1, 1, 1, -1, 1, -1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, -1, -1, 1, 1, -1, 1, -1, 1, 1, 1, 1, 0, 1, -1, -1, 1, 1, -1, 1, -1, 1, -1, -1, -1, -1, -1, 1, 1, -1, -1, 1, -1, 1, -1, 1, 1, 1, 1, 0, 0, 0, 0, 0
(-32) (-17)
(-1)
(-1) (15)
(15) (31)
(31)
図 2.4 プリアンブル生成パターン
2.1.2 同期方式
繰り返しパターンを利用した自己相関出力は後述するように変化が緩く,S/Nの低い条件 では最大相関を示す位置(同期位置)が大きくばらつく問題がある.また,先行波よりも遅 延波が大きな伝搬路では同期位置が後方へずれ,シンボル間干渉を引き起こす.ここでは相 互相関出力が鋭いピークを持つため,S/Nの低い条件でも到来パス位置の識別が可能であり,
大きな電力を持つ遅延波が存在する場合でも先行波位置を安定して検出できることに着目し,
相互相関を用いた同期方式を提案する.
2.1.2.1 自己相関による同期方式
本項では従来から報告されている,受信信号の自己相関を用いた同期方式を述べる.自己 相関を用いる方式には繰り返しパターンの配置などに依存して様々な実現法が考えられる.
ここでは図2.5に示すように,16シンボルの繰り返し部分であるA1,A2,A3,A4相互の相関を 計算することにより同期位置を求める方式を検討する.自己相関値ac(k)は受信信号をr(k)と
A1 A2 A3 A4
AGCPreamble
16 16 16 16
Auto correlation
symbol correlation
value
図 2.5 自己相関によるタイミング同期
すると
as(k) = 1 16
∑15 i=0
{r(k+i)∗ ·r(k+i+16)}
(2.1)
at(k) = 1 16
∑15 i=0
|r(k+i)|2 (2.2)
ac(k) = as(k)
√at(k)·at(k+16) (2.3)
で与えられる.一例として評価関数w(k)を
w(k) =|ac(k)|+|ac(k+16)|+|ac(k+32)| (2.4) とすれば,AGC用のプリアンブルおよびA4の後に配置されるパターンがランダムなものと 仮定すると,図2.5のような評価関数の分布が得られるので,最大値を示す部分を検出する ことでタイミング同期が可能となる.この方式は計算量も少なく単純な回路により実現でき る特徴がある.ただし,この評価関数出力は変化が緩やかなため,雑音や遅延波によって同 期位置がばらつく欠点がある.
2.1.2.2 相互相関による同期方式
本項では提案する相互相関を用いた同期方式を示す.本方式はあらかじめ用意された参照 信号(C2部分の送信時間波形)と受信信号との相互相関を計算することによりタイミング同 期を実現するものである.図2.6は提案する方式の概要を示したもので,具体的には以下の 処理を行う.
1. 用意された参照信号と受信したバースト信号との間で相関計算を行い,各位置kにお
received burst
peak position
Symbol maxmum
correlation value search
sync position
threshold reference
pattern
cross correlation
result of correlation A4 A5 C1 C2 C3
C2
Data
図 2.6 相互相関によるタイミング同期
で表現される.
s(k)=
¯¯¯¯
¯
∑63 i=0
ref(i)·r∗(k+i)
¯¯¯¯
¯
2
(2.5) なお,タイミング同期の評価に位相情報は必要ないため,相関値は振幅情報のみを用い ている.
2. 得られた相関値列の中から最大相関値を示す位置を検出し,最大相関値の 1aに相当す る値を閾値として設定する.(最大値検出)
3. この位置から前方へ相関値列をサーチし,閾値を越える相関値のうち最も前方にある 相関値の位置をC2部の先頭位置とする.すなわち
s(n) >= 1
as(max) (2.6)
を満たす最小のnを同期位置とする.ここでs(max)は最大相関値である.閾値aの最 適値はプリアンブルフォーマットや伝搬路モデル,動作時のS/N に依存する.ここで は計算機シミュレーションにより最も優れたPER5特性を得られる値を求めた.(先行波 探索)
スペクトル拡散技術などで知られているように,一般的に自己相関特性に優れた既知時間 系列と受信信号との相関計算を行うことは伝搬路推定を行うことと等価である.従って,相 関計算によって得られる相関値列は各受信波の強度を示しているが,移動体通信の場合,見
5パケット誤り率.バースト中のデータに1ビットでも誤りがあればエラーとする.
通し内通信が保証されないことから,先行波の電力が最大になる保証はない.先にも述べた ように,OFDMの性質から同期位置が後方へずれると,サブキャリア間の直交性が崩れて特 性が大きく劣化する.このため,単に相関値が最大になる位置を同期位置とすることは好ま しくない.また,伝搬路応答が動的に変動する移動体通信においては,相関最大位置からの 固定量オフセットによって同期位置を決定することも困難である.閾値の設定は雑音による 誤検出,および参照信号のパターンに依存して生じる相関値のサイドローブによる誤検出を 抑制することが主目的である.
本方式で使用する参照信号として,図2.3中のA1〜A4のパターンを用いることもできる.
本来,処理遅延の問題などからタイミング同期処理はなるべく先頭部で行うことが好ましい が,この部分は16シンボルの繰り返しパターンであり,相関処理により1つの受信波に対し て16シンボル周期で4本のピークが現れる.特性評価で使用する伝搬路モデル(2.1.5参照)
のように相関パルスが重なる状況では閾値aの設定が困難となること,またS/Nの低い条件 で相関値検出を行う場合,より長いランダム性を持つパターンが適することからここではC2 部分を用いた同期方式の検討を行う.
C2部分は前後にC1, C3という繰り返しパターンが挿入されているため,相互相関を計算 する際に相関特性が保証されるという利点がある.例えば,C3の場合には後ろにデータ部分 が続くことから相関値列の計算時に予期しないサイドローブが現れる可能性があり,同期特 性を劣化させる危険がある.一般的に相互相関の計算を行う場合,図2.3中C2のように前後 にずれた場合の相関特性が保証される部分を使うことが望ましい.
2.1.3 同期位置分布
本項では先に示した2つの同期方式について,計算機シミュレーションを用いて周波数選 択性フェージング環境における同期位置分布の評価を行う.表2.1はシミュレーションにお ける条件を示したものである.
図2.3のプリアンブルフォーマットを用いた場合の同期位置分布を図2.7,図2.8に示す.図 2.7は,自己相関を用いた場合,図2.8は相互相関を用いた場合の結果で,20000回の試行回 数のうち各位置で同期した回数を表している.(使用した伝搬路モデルについては2.1.5を参 照のこと.)
これらの結果より,相互相関によるタイミング同期に比べて自己相関を用いる方式では同 期位置のばらつきが大きくなるとともに,ピークが後方へシフトしていることがわかる.参 照信号に相関特性に優れたパターンを選んだ場合,相互相関の計算結果は同一パターンが完 全に重なったときのみ大きな値を示し,1シンボル以上ずれた場合には非常に小さな値とな る.これに対して繰り返し波形の自己相関値は先にも述べたように,図2.5のような緩やかな
表 2.1 シミュレーション条件
試行回数 20000回
サンプリングレート 100MHz 閾値1/a 1/5
伝送速度 25M symbol/s
ドップラー周波数 50Hz
Eb/N0 15dB
18波独立レイリーモデル 伝搬路モデル
RMSディレイスプレッド 150ns
Sync position [symbol]
Number of Sync
-10 -5 0 +5 +10 +15 +20 +25
0 1 101 102 103 104
図 2.7 自己相関使用時のタイミング同期位置分布
Number of Sync
0 1 101 102 103 104
Sync position [symbol]
-10 -5 0 +5 +10 +15 +20 +25
図 2.8 相互相関使用時のタイミング同期位置分布
Number of Sync
0 1 101 102 103 104
Sync position [symbol]
-5 0 +5 +10
-5 0 +5
foTc=0.2 foTc=0.1
図 2.9 周波数オフセット存在時のタイミング同期位置分布(相互相関)
の場合には遅延波が入射した位置に電力に応じた相関値が出力されるが,図2.6に示した閾 値a1を適切に設定することでその後の相関値列検索により先行波位置を推定可能であり,周 波数選択性フェージング環境においても安定した位置検出が実現される.
図2.9は周波数オフセットを付加した場合の,相互相関による同期位置分布を示したもので ある.線形の位相回転は自己相関の計算に影響を与えないため,自己相関による同期位置分布 は周波数オフセットによって変化することはない.相互相関の場合は相関計算範囲内に位相回 転が生じると相関値が小さくなり,耐雑音特性が劣化する.図2.9はC2の長さTc = 64シン ボルで正規化した周波数オフセットfoTc = 0.1および0.2の結果を示した.同図より周波数オ フセットの増加とともに同期位置のばらつきが大きくなることがわかる.しかし,foTc = 0.1 程度では同期位置分布の概形はほとんど変わらないこと,またA1〜A4の繰り返しパターン 部分で位相回転量を検出するなどAFC6処理によりfoTc <0.1の範囲にオフセットを抑圧で きる[10]ことから,以降の検討においては周波数オフセットが存在しない条件を仮定する.
6Automatic Frequency Control自動周波数制御
1 -1 1 -1 -1 -1 1 -1 1 -1 1 -1 1 -1 1 -1 1 1 1 -1 transmit pattern
received burst reference
pattern
cross correlation
A4 A5 C1 C2 C3
C2h
Data
time (Ich)
hard decision data
図 2.10 硬判定データを用いた相互相関
2.1.4 計算量削減手法
前項で示したように,相互相関に基づく同期方式は雑音や遅延波の影響を受けにくく優れ た同期特性を実現できるが,参照信号と受信バーストとの間で多くの複素乗算処理を行うた め,ハードウェアが複雑になる欠点がある.ここでは,参照信号を硬判定データで表現する ことにより計算量を削減する手法を示す.
図2.10は硬判定データを用いた相互相関処理の概要を示したものである.OFDM信号は 多数のサブキャリアの和として表現されるため,規定された帯域制限(サブキャリア数)の 条件下においても変化の激しいガウス雑音のような相関特性に優れる時間波形を構成するこ とができる.このような信号を時間軸においてIch, Qchそれぞれ硬判定(1,−1)を行い,参 照信号を生成する.参照信号と受信バーストの間で相関計算を行って同期処理を実現するが,
硬判定された参照信号のIch, Qchの時系列が相関特性に優れたパターンであれば,硬判定に よる誤差を考慮しても優れた同期特性が得られると考えられる.本方式によれば相関計算は 全て複素加減算により実現でき,複素乗算器が必要なくなることから大幅な計算量削減が可 能となる.
先の方法は参照信号のみを硬判定データで表現したが,さらに受信バーストも硬判定デー タとして表現し,相関計算を行う方法が考えられる.この場合相関処理における誤差は大き
くなるが,整数加減算のみで実現できることから,必要とする計算量は非常に小さいものと なる.これらの手法を用いた場合のPER特性に与える影響については次項以降で述べる.
2.1.5 PER 特性に与える影響
本項では先に述べたバースト単位で完結するタイミング同期処理を適用した場合のPER に関する評価結果を示す.表2.2はPER特性を取得する際に用いた計算機シミュレーション の条件を示したものである.信号系列は送信時に1 OFDMシンボル(48キャリア×4ビット
=192ビット)を単位として,図2.11に示すようなインタリーブを適用し,4ビット単位で
16QAM変調を行う.また,ビタビ復号に使用する軟判定メトリックの生成法については,硬
判定データを求め,最寄りの信号点と該当するビットを反転させた信号点からのユークリッ ド距離をもとに計算する方式 [23]を用いた.ビタビ復号時には前述のメトリック値を,各サ ブキャリアの伝搬路応答の2乗値により重み付けして計算を行った.シミュレーションで用 いた3種類の伝搬路モデルを表2.3に示す.Model AはRMSディレイスプレッド7 [24]50 ns,
Model Bは150 ns,Model Cは250 nsの伝搬路モデルを表す.これらは欧州および日本の 5GHz帯高速無線LANの方式検討に一般的に使われているモデルであり,独立したレイリー 分布を示す18波のマルチパスから構成される.シミュレーション結果については,相関方 式によるPER特性への影響,硬判定による特性劣化,ダイバーシチ使用時のPER特性の3 つに分けて検討を行う.MMACでは変調方式としてBPSK,QPSK,16QAMが定義されて いる.ここではタイミング同期誤差の影響が最も大きい16QAMを用いて評価を行う.また,
MMACでは歩行程度の移動を考慮しているため,最大ドップラー周波数50Hz(約10km/h)
を仮定した.
2.1.5.1 自己相関と相互相関
図2.12から図2.14は2.1.2で述べた自己相関および相互相関による同期方式を適用した場 合のPER特性を示したものである.変調方式は16QAM R=1/2,RMSディレイスプレッド はそれぞれ50, 150, 250 nsとした.図中のType Aは自己相関による同期方式,Type Bは相 互相関による同期方式,Type Cは相互相関+先行波探索による同期方式を適用した場合の 結果を表す.
これらの結果より,自己相関を用いる同期方式は伝搬路の遅延波が広がるとともに急激に 特性が劣化することがわかる.これについては自己相関の性質上,大きな電力を持つ遅延波 が入射した場合に同期位置が後方へずれること,また遅延広がりの大きな伝搬路では前後の
7Root Mean Square delay spread遅延波遅延時間の標準偏差
表 2.2 計算機シミュレーション条件
変調方式 16QAM–OFDM
インタリーブ バースト内 ビット単位
FFTサイズ 64 (2.56 [µs])
48(情報キャリア)
キャリア数
4(パイロットキャリア)
Guard Interval 16 (0.64 µs) Tp(図2.1参照) 4 (0.16 µs)
畳み込み符号化,ビタビ復号
内符号 R=1/2,拘束長7
バースト内データ
OFDMシンボル数 6
1/5(軟判定時)
閾値1/a
1/3(硬判定時)
基準位相・振幅再生 理想
周波数オフセット なし
ダイバーシチ 最大比合成
伝送速度 25M symbol/s
最大ドップラー周波数 50Hz
18波独立レイリーモデル 伝搬路モデル RMSディレイスプレッド
50, 150, 250 ns
試行回数 20000∼80000バースト
シンボルから干渉が生じるため自己相関特性が大きく劣化することなどが理由として挙げら れる.
相互相関を用いた場合には鋭い相関ピークが得られるために,遅延波が広がる環境におい ても受信される各パス位置の検出は可能である.しかし,先行波が最大電力を持たない条件 下では同期位置が後方へずれ,遅延波広がりがガードインターバル以下の場合でも先行波が 干渉成分となるために特性劣化が生じる.図2.14は遅延波が比較的大きな電力を持つモデル における結果であるが,図2.13の結果に比べてPER特性が干渉により大きく劣化している ことがわかる.
相互相関による伝搬路推定と先行波探索を組み合わせた場合には,先行波の位置を同期位
表 2.3 伝搬路モデル
Model A Model B Model C
wave Delay Relative Delay Relative Delay Relative number [ns] Power [dB] [ns] Power [dB] [ns] Power [dB]
1 0 0.0 0 -3.3 0 -4.9
2 10 -0.9 10 -3.6 10 -5.1
3 20 -1.7 20 -3.9 20 -5.2
4 30 -2.6 30 -4.2 40 -0.8
5 40 -3.5 50 0.0 70 -1.3
6 50 -4.3 80 -0.9 100 -1.9
7 60 -5.2 110 -1.7 140 -0.3
8 70 -6.1 140 -2.6 190 -1.2
9 80 -6.9 180 -1.5 240 -2.1
10 90 -7.8 230 -3.0 320 0.0
11 110 -4.7 280 -4.4 430 -1.9
12 140 -7.3 330 -5.9 560 -2.8
13 170 -9.9 400 -5.3 710 -5.4
14 200 -12.5 490 -7.9 880 -7.3
15 240 -13.7 600 -9.4 1070 -10.6
16 290 -18.0 730 -13.2 1280 -13.4
17 340 -22.4 880 -16.3 1510 -17.4
18 390 -26.7 1050 -21.2 1760 -20.9
れることは少ない.図2.12から図2.14の結果より,様々なタイプの伝搬路において特性劣化 はほとんど観測されず,提案方式により安定したタイミング同期が実現できることを示して いる.
2.1.5.2 硬判定による影響
図2.15から図2.17は相関計算に硬判定値を用いた場合のPER特性を示したものである.
変調方式は16QAM R=1/2,RMSディレイスプレッドはそれぞれ50, 150, 250 nsとした.図
中Type Cは相関計算を全て軟判定値で行った場合,Type Dは参照信号を硬判定値,受信信
号を軟判定値として計算した場合,Type Eは参照信号に加えて受信信号も硬判定値として 相関処理を行った場合の結果を表している.タイミング同期は相互相関+先行波探索の方式
を用いた.
これらの結果から,遅延分散の少ない伝搬路においては硬判定情報を用いてもほとんど劣 化が生じないが,遅延波の広がりとともに大きな特性劣化が生じることがわかる.ただし,
受信信号を軟判定値として処理した場合には最大でも0.3dB(PER=10−2)程度の劣化に抑 えられており,参照信号および受信信号双方を硬判定値として処理した場合と大きな差が生 じる.
参照信号を硬判定値として計算する場合,送信波形を近似的に処理するために相関特性が 劣化する.これによって推定される同期位置に誤差が生じPER特性の劣化が生じる.一方,
受信信号はアンテナに入射する多数のパスが加算された信号である.この信号を硬判定する とパスの重ね合わせに関わる情報に大きな欠落が生じる.このため,相関処理によるパスの 分離が困難となり,同期位置推定が適切に動作しなくなると考えられる.
なお,図2.17においてType Cの特性がIdealの特性よりも優れた結果となっている.こ れは,遅延波がガードインターバルを超えて広がるような条件下において先行波が極端に小 さくなった場合,小さな先行波を切り捨ててFFTウインドウを設定した方がよい状況が存在 するためである.
2.1.5.3 ダイバーシチ
図2.18から図2.20はダイバーシチ適用時のPER特性を示したものである.適用するダイ バーシチは2ブランチのアンテナ合成ダイバーシチとし,各ブランチ独立にタイミング同期 させた後,検波・最大比合成(各サブキャリアの伝搬路応答の2乗値で重み付け合成)を行っ て軟判定メトリックを生成する.タイミング同期法として先に述べたType A,C,Dを用いて評 価を行った.これらの結果から,ダイバーシチ適用時においてもシングルブランチの場合と ほぼ同様の傾向が得られることがわかる.特に,遅延波広がりの大きな伝搬路ではダイバー シチ利得に加えて,硬判定参照信号を用いた特性が向上しており,提案した同期方式の有効 性を示す結果が得られた.
1 2 3 4 16
17 18 19 20 32
177 178 179 180 192
Write
Read
図 2.11 インタリーブ方式
Eb/N0 dB
P E R
11 13 15 17 19
10
-410
-310
-210
-1Ideal Type A
Type A
Type B
Ideal Type B Type C Type C
図 2.12 同期方式によるPER特性比較
(16QAM, RMSディレイスプレッド50ns)
Eb/N0 dB
P E R
11 13 15 17
10
-410
-310
-210
-1Ideal
Ideal Type A
Type A
Type B
Type B
Type C
Type C
図 2.13 同期方式によるPER特性比較
(16QAM, RMSディレイスプレッド150ns)
Eb/N0 dB
P E R
11 13 15 17 19
10
-410
-310
-210
-1Ideal Ideal Type A
Type A
Type B
Type B
Type C
Type C
図 2.14 同期方式によるPER特性比較
(16QAM, RMSディレイスプレッド250ns)
Eb/N0 dB
P E R
11 13 15 17 19
10
-410
-310
-210
-1Ideal Type C Type D Type E
Type C Type D Type E
Ideal
図 2.15 硬判定方式によるPER特性比較
(16QAM, RMSディレイスプレッド50ns)
Eb/N0 dB
P E R
11 13 15 17
10
-410
-310
-210
-1Ideal Type C Type D Type E
Type E
Ideal Type C Type D
図 2.16 硬判定方式によるPER特性比較
(16QAM, RMSディレイスプレッド150ns)
Eb/N0 dB
P E R
11 13 15 17 19
10
-410
-310
-210
-1Ideal Type C Type D Type E
Type D
Type C
Ideal Type E
図 2.17 硬判定方式によるPER特性比較
(16QAM, RMSディレイスプレッド250ns)
Eb/N0 dB
P E R
5 6 7 8 9 10 11
10
-310
-210
-1Ideal Type A Type C Type D
Type A
Ideal Type C Type D
図 2.18 ダイバーシチ適用時のPER特性
(16QAM, RMSディレイスプレッド50ns)
Eb/N0 dB
P E R
5 6 7 8 9 10 11
10
-410
-310
-210
-1Ideal Type A Type C Type D
Type A
Ideal Type C Type D
図 2.19 ダイバーシチ適用時のPER特性
(16QAM, RMSディレイスプレッド150ns)
Eb/N0 dB
PER
3 4 5 6 7 8 9 10 11 10
-410
-310
-210
-11
Ideal Type A Type C Type D
Type A
Type D Ideal
Type C
図 2.20 ダイバーシチ適用時のPER特性
(16QAM, RMSディレイスプレッド250ns)
2.2 周波数同期方式
1.2で示したように,送受信機間の基準発信器誤差に起因する周波数オフセットはOFDM 通信システムの伝送特性に大きな影響を与える.本節では周波数オフセットがOFDM信号 に与える影響を考察し,周波数オフセットを抑圧する受信方式を示す.
2.2.1 周波数オフセットの影響
図2.21に送受信機の簡略化したブロック図を示す.送受信機間のサンプリング周波数,キャ リア周波数の2種類について周波数オフセットが発生する.
キャリア周波数オフセット
DFTによるOFDM信号の生成,サブキャリア分離を想定する.NポイントDFTによる変 換対は次式で示される.
f(n) = 1 N
N∑−1 k=0
F(k)W−nk (2.7)
F(k) =
N∑−1 n=0
f(n)Wnk (2.8)
ただし,f(n)は時間系列,F(k)は周波数系列,W = exp(−j2π/N)は回転子である.伝搬路 による歪みが無いものと仮定し,送信系列を F(m)とすると,単一OFDMシンボルの受信 系列R(k) は式(2.7)を式(2.8)に代入して
R(k) = 1 N
N∑−1 n=0
{N−1
∑
m=0
F(m)W−nm }
Wnk
= 1 N
N∑−1 n=0
N∑−1 m=0
F(m)Wn(k−m)
= 1 N
N∑−1 m=0
F(m)
N−1
∑
n=0
e−j·2πn(kN−m)
= F(k) + 1 N
N∑−1
m=0 m6=k
F(m)sinπ(k−m)
sinπ(kN−m) ej(N−1)π(kN−m) (2.9) と表現される.ここで,式(2.9)の右辺第2項はm, kが整数で,m6=kの条件から,sinπ(k− m) = 0より0となる.
キャリア周波数オフセットが存在する場合,オフセット量aをサブキャリア帯域幅正規化 周波数とすれば,受信系列は
R1(k) = 1 N
N∑−1 n=0
{N−1
∑
m=0
F(m)W−nm }
W−anWnk
= 1 N
N∑−1 m=0
F(m)sinπ(k−m−a)
sinπ(k−Nm−a) ej(N−1)π(k−Nm−a) (2.10) で示される.上式は各サブキャリアに畳み込まれるsinc関数がサブキャリア幅のa倍だけ周波 数方向へシフトすることを表している.図2.22に周波数オフセットが存在する場合のOFDM 信号スペクトルを示す.sinc関数の中央位置がDFTサンプル点からずれるため,隣接サブ キャリアからの干渉が発生することがわかる.この現象はサブキャリア間干渉(ICI8)と呼 ばれ,伝送特性の大幅な劣化要因となる.さらに,式(2.10)は全サブキャリア周波数が同 一量ずれることを意味しているため,OFDMシンボル毎に全サブキャリア共通の位相回転が 生じる.
ᄌ⺞ེ ᓳ⺞ེ
ㅍା࠺࠲ ฃା࠺࠲
D/A A/D
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図 2.21 周波数オフセット評価モデル
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߳ߩᐓᷤߪߥ
ࠨࡉࠠࡖࠕ㑆ߦ ᐓᷤ߇↢ߓࠆ UKPE㑐ᢙ
図 2.22 キャリア周波数オフセット存在時のOFDM信号スペクトラム
8Inter Carrier Interference
サンプリング周波数オフセット
サンプリング周波数オフセットはディジタル回路を駆動する送受信機間のクロック周波数 誤差である.サンプリング周波数オフセットは送受信機間のOFDM有効シンボル長の差と なって現れる.直接的には図2.23に示すようにOFDM信号の基本周期に送受信機間で差が 生じるため,サブキャリア間の直交性が崩れる.この現象はキャリア周波数オフセットと同 様であるが,一般的にキャリア周波数に比べてサンプリング周波数は十分に低いため,無視 できる誤差となる.
もう一つの影響がFFT窓位置のずれであり,伝送特性に大きな影響を与える.図2.24は 同期検波を行うOFDMシステムの一般的なフレーム構成を示したものである.受信機は既 知パターンであるプリアンブル部においてタイミング検出,および同期検波のための基準情 報再生を行い,後続するデータ部分の復調を行う.サンプリング周波数誤差が存在する場合,
送受信器間でFFT窓サイズに差が生じることから,図2.24に示すようにデータシンボル開 始位置とFFT窓開始位置に誤差が発生する.この誤差は非常に小さく数シンボル程度では問 題にならないが,バースト長が長い場合は誤差が累積し,バースト後方において問題を引き 起こす.
無線LAN規格 [25]を用いて具体的な数値を示す.フーリエ変換の公式から,巡回時間シ フトは周波数軸における位相回転となることが知られている.すなわち周期信号f(n)の離散 フーリエ変換をF(k)とした場合
f(n+m) =⇒WN−kmF(k) (2.11)
が成立する.言い換えると,OFDMシステムにおいてFFT窓位置にずれが生じた場合,各サ ブキャリアにはサブキャリア番号に比例した位相回転が発生することを意味する.したがっ て,サンプリング周波数オフセットによってバースト後方でFFTウインドウ位置にずれが生 じると,バースト先頭で再生される基準情報との間に不整合が発生し,特性劣化を引き起こ す.例として送受信機間の周波数オフセット25ppm,OFDMシンボル長80シンボル(実効 長64,GI 16)とした場合,25 OFDMシンボル後には最も外側のサブキャリア(−26,26番 キャリア)において約7.3度の位相回転が生じる.
ㅍା((6࠙ࠗࡦ࠼࠙
ฃା((6࠙ࠗࡦ࠼࠙
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ᤨ㑆 ㅍା
ฃା
図 2.23 サンプリング周波数オフセットによる直交性の崩れ
ࡊࠕࡦࡉ࡞
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ฃାᤨߩࠪࡦࡏ࡞⟎
㧔((6࠙ࠗࡦ࠼࠙㐿ᆎ⟎㧕
GI Data 1 GI Data 2 GI Data 3 GI Data 4 GI Data 5
หᦼಣℂߦࠃࠅหᦼ
ㅍାᤨߩࠪࡦࡏ࡞㑆㓒
ฃାᤨߩࠪࡦࡏ࡞㑆㓒
⺋Ꮕ߇⫾Ⓧ
図 2.24 サンプリング周波数オフセットによるFFT窓のずれ
2.2.2 周波数オフセット補償方式
前項の結果より,周波数オフセットによって時間方向への2種類の位相回転が生じること がわかる.図2.25に各サブキャリアの位相回転を示す.キャリア周波数オフセットに起因す る位相回転量は全サブキャリアで同一,サンプリング周波数オフセットに起因する位相回転 量はサブキャリア番号に比例する値となる.受信機のデータ部FFT出力では両位相回転の 和が観測される.ここではOFDMを採用した高速無線LANシステムの一つであるMMAC
HiSWANa [25]のフレームフォーマットを例にとり,これらの周波数オフセットに対する補
償方式を述べる.
2.2.2.1 キャリア周波数オフセット補償
先に述べたように,キャリア周波数オフセットはFFT時にサブキャリア間干渉を引き起こ し,特性劣化の要因となる.このため,キャリア周波数オフセットは一般的に,FFTの前段 階において時間軸上で補償される.周波数同期を考慮したフレームフォーマットの提案がこ れまでにもなされている [6, 9, 10].本項で採用する時間軸上のキャリア周波数オフセット補 償方式を図2.26に示す [26].
時間軸上における補償は2段階に分けて行われる.はじめに16シンボル繰り返し部分であ るB–Fieldを用いて位相回転量を算出する.ここでは(B1,B2)(B2,B3)(B3,B4)の3個所の自
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図 2.25 周波数オフセットによる各サブキャリアの位相回転
B1 B2 B3 B4 B5 C1 C2 C3 AGC
Preamble
16 16 16 16 16 32 64 64
Data
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図 2.26 キャリア周波数オフセット補償方式1