平成16年度
大 型 精 密 機 器 シ ス テ ム 基 盤 技 術 の 開発振興に関する調査研究事業報告書
‑航空機等の機械工業動向調査事業‑
平成17年3月
社団法人 日 本 機 械 工 業 連 合 会 財団法人 航空機国際共同開発促進基金
日機連16高度化‑8‑1
序
戦 後 の 我 が 国 の 経 済 成 長 に 果 た し た 機 械 工 業 の 役 割 は 大 き く 、 ま た 機 械 工 業 の 発 展
を 支 え
た の は 技 術 開 発 で あ っ た と 云 っ て も 過 言 で は あ り ま せ ん 。ま た 、 そ の 後 の 公 害 問 題 、 石 油 危 機 な ど の 深 刻 な 課 題 の 克 服 に 対 し て も 、 機 械 工 業 に お け る 技 術 開 発 の 果 た し た 役 割 は 多 大 な も の で あ り ま し た 。 し か し 、 近 年 の 東 ア ジ ア の 諸 国 を 始 め と す る 新 興 工 業 国 の 発 展 は め ざ ま し く 、 一 方 、 我 が 国 の 機 械 産 業 は 、 国 内 需 要 の 停 滞 や 生 産 の 海 外 移 転 の 進 展 に 伴 い 、 勢 い を 失 っ て き つ つ あ り 、 将 来 に 対 す る 懸 念 が 台 頭 し て お り ま す 。こ れ ら の 国 内 外 の 動 向 に 起 因 す る 諸 課 題 に 加 え 、 環 境 問 題 、 少 子 高 齢 化 社 会 対 策 等 、 今 後 解 決 を 迫 ら れ る 課 題 が 山 積 し て い る の が 現 状 で あ り ま す 。 こ れ ら の 課 題 の 解 決 に 向 け て 従 来 に も ま し て ま す ま す 技 術 開 発 に 対 す る 期 待 は 高 ま っ て お り 、 機 械 業 界 を あ げ て 取 り 組 む 必 要 に 迫 ら れ て お り ま す 。 我 が 国 機 械 工 業 に お け る 技 術 開 発 は 、 戦 後 、 既 存 技 術 の 改 良 改 善 に 注 力 す る こ と か ら 始 ま り 、 や が て 独 自 の 技 術 ・ 製 品 開 発 へ と 進 化 し 、 近 年 で は 、 科 学 分 野 に も 多 大 な 実 績 を あ げ る ま で に な っ て き て お り ま す 。
こ れ か ら の グ ロ ー バ ル な 技 術 開 発 競 争 の 中 で 、 我 が 国 が 勝 ち 残 っ て ゆ く に は こ の 力 を さ ら に 発 展 さ せ て 、 新 し い コ ン セ プ ト の 提 唱 や ブ レ ー ク ス ル ー に つ な が る 独 創 的 な 成 果 を 挙 げ 、 世 界 を リ ー ド す る 技 術 大 国 を 目 指 し て ゆ く 必 要 が 高 ま っ て お り ま す 。 幸 い 機 械 工 業 の 各 企 業 に お け る 研 究 開 発 、 技 術 開 発 に か け る 意 気 込 み に か げ り は な く 、 方 向 を 見 極 め 、 ね ら い を 定 め た 開 発 に よ り 、 今 後 大 き な 成 果 に つ な が る も の と 確 信 い た し て お り ま す 。
こ う し た 背 景 に 鑑 み 、 当 会 で は 機 械 工 業 に 係 わ る 技 術 開 発 動 向 等 の 補 助 事 業 の テ ー マ の 一 つ と し て 財 団 法 人 航 空 機 国 際 共 同 開 発 促 進 基 金 に 「 大 型 精 密 機 器 シ ス テ ム 基 盤 技 術 の 開 発 振 興 に 関 す る 調 査 研 究 事 業 」 を 調 査 委 託 い た し ま し た 。 本 報 告 書 は 、 こ の 研 究 成 果 で あ り 、 関 係 各 位 の ご 参 考 に 寄 与 す れ ば 幸 甚 で あ り ま す 。
平 成 1 7 年 3 月
社 団 法 人 日 本 機 械 工 業 連 合 会 会 長 金 井 務
まえがき
財団法人航空機国際共同開発促進基金は、平成16年度の調査研究事業の一つとして、
日本自転車振興会の機械工業振興資金の補助を受け、社団法人日本機械工業連合会から受 託事業として「大型精密機器システム基盤技術の開発振興に関する調査研究事業」を実施 した。
本報告書は、その調査研究の一事業である「航空機等の機械工業動向調査事業」につい て取り纏めた調査報告書である。
航空機等の国際共同開発の促進に関しては、航空機産業及び機械工業をはじめとする関 連産業の市場、需要及び技術の動向等、幅広い情報の収集・整備が不可欠であるとともに、
新規プロジェクトの選定に際しては徹底した調査を行っておく必要がある。又、そのため の基礎として、円滑な情報、人材、技術の交流、相互理解等の体制を整備・確立しておく ことが必要である。
このため、航空機等を中心とした種々の情報に関し、収集の円滑、内容の充実、提供の 迅速化を図るとともに、わが国として新規プロジェクトの選定に必要な開発基盤の調査・
研究とそれに基づく体制の整備を行なう必要がある。又、わが国の航空機産業等が、積極 的に世界の航空機産業等との融合を促進するために、諸情報のネットワーク構築により、
一層強力な国際交流の促進に資する体制作りを行うことが肝要である。
これらにより、機械工業全体の基盤技術の開発振興に寄与することを目的として、平成 16年度は「大型精密機器システム基盤技術の開発振興に関する調査研究事業」を実施し た。
その一事業である「航空機等の機械工業動向調査事業」では、航空機等を中心として、
世界の機械工業に関する情報を、調査活動等を通じて収集・整理・分析・解説し、当該情 報を関係諸機関に提供した。
本報告書が、広く関係各方面の企画・政策立案にお役に立つとともに、航空業界のみな らず機械工業全体の基盤技術の開発振興に寄与できれば幸いである。
この調査にあたっては、事業の実現と推進にご尽力を賜った経済産業省および日本自転 車振興会ならびに社団法人日本機械工業連合会の関係各位に厚く御礼申し上げます。
平成17年3月
財団法人 航空機国際共同開発促進基金 会 長 佐 藤 文 夫
事業運営組織
財団法人航空機国際共同開発促進基金に「航空機等動向調査グループ」を設置し、ここ で事務局を中心に具体的活動計画を検討・立案し、これに基づき、作業においては企画調 査部を中心にして、特に機械工業と関係の深い航空機産業等に関して、各種外国専門誌お よび外国新聞等からの情報・報告等を収集するとともに、海外の航空機関係技術動向の調 査ならびに主要な国際航空展示会等に担当者を派遣して調査・情報収集を行ない、それら に基づく各種情報・データ等を整理・分析・解説して、その概要については当基金のホー ムページに掲載することによって広く関係方面への情報提供を行った。
尚、情報の取り纏めにあたっての詳細な解説については、次ページに示す外部の専門家 に調査・解説原稿の執筆をお願いした。
航空機等動向調査グループ
氏 名 所 属 及び 役 織 松崎 博樹 企画調査部長
杉本 俊 企画調査部部長代理 古屋 正宏 国際部長
佐藤 秀雄 国際部部長代理 稲垣 義嗣 総務部長(事務局)
矢作 松雄 総務部部長(事務局)
平成16年度航空機等の機械工業動向調査事業
「航空機等を中心とした世界の機械工業の状況調査」に関する 外部専門家による 解説原稿 執筆者名簿
章区分 氏 名
(敬称略) 所 属・役 職 解 説 項 目
第3章 鈴木 久人
(財)日本航空機エンジン協会 企画部 市場調査課
課長
低コストエアラインの動向
渡辺 紀徳 東京大学 大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 助教授
航空機等に関する研究関係の動 向−NASA、大學等における動向等 第5章
石川 隆司
宇宙航空研究開発機構 総合技術研究本部
先進複合材評価技術開発センター センター長
〃
−宇宙航空研究開発機構総合 技術研究本部における航空 関連研究動向
廣瀬 康夫
川崎重工業(株)
航空宇宙カンパニー 技術本部 宇宙・民間航空機設計部 参事 第6章
近藤 哲二
川崎重工業(株)
航空宇宙カンパニー 生産本部 生産計画部 生産技術グループ
グループ長
新中型民間機を中心とする 設計技術及び生産技術
第7章 水谷 哲也
石川島播磨重工業(株)
航空宇宙事業本部
民間エンジン事業部 技術部 部長代理
近年の民間航空機用エンジン 開発、技術の動向
第8章 筒木 正明
住友精密工業(株)
航空宇宙機器第二営業部 部長
最近の降着装置システムに 関する技術動向
第9章 杉浦 重泰
全日空(株)
整備本部 部品計画部 部長 主席部員
ROLLS ROYCEの市場戦略
第1章:はじめに
財団法人航空機国際共同開発促進基金(以下 IADF)は、社団法人日本機械工業連合会の 委託を受けて、「大型精密機器システム基盤技術の開発振興に関する調査研究事業」の一環 として「航空機等の機械工業動向調査事業」を実施した。
以下に、本調査事業の背景、目的及び調査対象、並びに結果概要を示すとともに、これ らに基づき実施した調査結果を第2章以降に取り纏める。
1.1 調査事業の背景、目的及び調査対象
1.1.1 調査の背景
航空機産業等は、過酷な条件下での運用、かつ、100%の安全性が求められる技術の集積 から成り立っており、付加価値が高く、他産業への技術波及効果が大きく、典型的な知識 集約産業であり、わが国が技術立国を目指すうえで、欠くことができない産業と位置づけ られる。
航空機等の機体、エンジン、周辺補機器に関する設計、製造、材料、情報・通信等の先 端技術分野は、複合材料、耐熱合金、軽量・小型補機器、精密加工技術、精密鋳造技術、
CFD(数値流体力学)、板金・成型、FADEC(全ディジタル自動制御)、油圧システム、タイ ヤ・着陸システム、コーティング、環境負荷低減、燃料電池、内装等と多岐にわたってい る。これらの技術は、わが国の機械工業、化学工業、電気・電子工業、IT 産業等、他産業 において有効に活用されていると同時に、更なる新技術の開発誘因にもなっている。
わが国産業の「ものづくり」の空洞化が進んでいる現在、他国が追随できない先端技術 をもって現状を改善することが、わが国の航空機等工業並びに機械工業全体の発展につな がる。
このような状況の中で、わが国が国際舞台で主体的な役割を果たしていくためには、航 空機等を中心とした機械工業に関する情報を関係諸機関が共有することが必要である。
1.1.2 調査の目的
民間航空機等の開発・生産は、今や国際共同開発が趨勢であり、今後わが国が国際共同 開発において主体的立場を確保し、戦略的産業である航空機産業等を振興するには、国際 共同開発の幅広い要因である設計技術、機械設備を含めた生産技術、市場、販売、人材等 の動向を的確に把握し、産学官の関係諸機関が共通認識をもって対処することが肝要であ り、この共通認識の上に立って、政策・経営戦略を立案することが国際共同開発の成功の 大きな要素である。
このため、本「航空機等の機械工業動向調査事業」では、特に機械工業と関係の深い航 空機産業等を中心に、必要な情報を収集・整理・分析・解説し、関係諸機関に提供するこ ととし、世界の航空機産業等へのわが国の貢献、ひいては広範囲の先端技術を駆使した高 度の技術集積からなる航空機等の開発製造技術が、わが国の機械工業によって有効活用、
転用、移転され、更には新技術の開発誘因となり、その発展に貢献し得る情報を関係諸機
関が共有することにより、航空機等国際共同開発事業とこれに関連する機械工業の振興に 寄与することを目的とする。
具体的には、以下の各章に解説する事項について、当IADFのホームページに掲載する「概 要」を通して広く情報を提供するとともに、詳細の解説内容については、本成果報告書と して取り纏め、関係諸機関に提供する。
1.1.3 調査の対象
次の3項目についての調査を実施する。
(1)航空機等を中心とした世界の機械工業の状況調査の実施
(2)欧州の航空機等を中心とした機械工業界の動向及び技術動向調査の実施
(3)米国における航空機等関連分野の最新の研究開発動向並びに官民の対応動向に ついての米国の調査機関への委託調査の実施
1.2 調査の結果概要
1.2.1 航空機等を中心とした世界の機械工業の状況調査
わが国ならびに海外、とりわけ民間航空機等の開発の分野で先進国である米欧の動向と 関係業界並びに先進国の政策動向に焦点を当てて、それに係わる情報・資料等を国内外の 専門誌等並びに実地調査から収集・整理・分析すると共に、その中でわが国の関係諸機関 にとって有用と思われる情報を取り纏めた。
本年度については、情報・資料等の調査・収集等によって得られた各種の情報・資料等 の中から、米国エアライン業界/低コストエアライン業界/リジョナル・ジェット機/ビ ジネス・ジェット機の動向、内外研究機関における航空機等に関する研究動向、航空機/
航空機用エンジン/降着装置システム等に関する研究/設計技術/生産技術の動向、ロー ルス・ロイスの市場戦略、ボーイング B787 に対するエアバス A350 の位置付け、石油価格 の動向、航空機業界で大きな位置を占めるボーイング社の財務状況、等に関する内外の情 報を整理・分析して、詳細な解説については外部の専門家に解説を依頼し、取り纏めた。
解説する項目として次の通り選定し、第2章以降に取り纏めた。
・米国エアライン業界の現状と展望(第2章)
・低コストエアラインの動向(第3章)
・リジョナル・ジェット機及びビジネス・ジェット機の現状(第4章)
・航空機等に関する最近の研究関係の動向(第5章)
・新中型民間機を中心とする設計技術及び生産技術(第6章)
・近年の民間航空機用エンジン開発、技術の動向(第7章)
・最近の降着装置システムに関する技術動向(第8章)
・ROLLS ROYCE の市場戦略(第9章)
・エアバスA350 について(第10章)
・石油価格の現状と短期的見通し(第11章)
・ボーイング社財務状況−2004 年(第12章)
又、これら解説内容に関しては、各解説項目についての「概要」を当 IADF のホームペー
ジに掲載し、広く提供した。
1.2.2 欧州の航空機等を中心とした機械工業界の動向及び技術動向調査
情報収集の一環として、欧州における航空機等を中心とした機械工業界の動向及び関連 技術の動向についての調査を行うため、平成 16 年 7 月に英国で開催された「ファンボロー 2004」に担当者を派遣し、情報・資料等の収集を行った。
(1)調査目的
英国ファンボローにおいて開催される航空宇宙ショーを視察し、欧州航空機産業 の最新技術動向等について情報収集等の調査を行う。
(2)訪問先:ファンボロー2004(英国、ロンドン)
(3)期 間:平成 16 年 7 月 17 日(土)〜25 日(日)
(4)出張者:IADF 国際部長 古屋 正宏
尚、詳細な調査結果報告については APPENDIX‑1に掲載した。
1.2.3 米国航空機等関連分野の最新の研究開発動向並びに官民の対応動向調査 本「米国研究開発動向委託調査」については、米国のコンサルタント会社である Charles L.Fishman,P.C.及びオライオンネットワークに委託、実施した。
詳細な調査報告については、第2章、第4章、第10章、第11章、第12章、及び APPENDIX‑2〜APPENDIX‑9に取り纏め、掲載した。
尚、本調査結果については、解説を依頼した外部専門家各位に送付、又は当 IADF のホー ムページへ掲載し、原稿執筆に当たってこれらの情報・記事を活用いただき、解説原稿に 反映した。
1.2.4 調査作業日程
平成 16 年度の各調査は、下表の通り実施した。
半期別・月別
項目
上半期 H16 年
4 5 6 7 8 9
下半期
H17 年
10 11 12 1 2 3 航空機等を中心とした世
界の機械工業の状況調査
欧州の航空機等を中心と した機械工業界の動向及 び技術動向調査
米国航空機等関連分野の 最新の研究開発動向並び に官民の対応動向調査
報告書作成・公表
以上
第2章:米国エアライン業界の現状と展望
2.1 背景
2001 年 9 月 11 日の米国同時多発テロ事件(以下 911 テロ事件)以後、2 年間に亘り深刻 な不況に直面した米国エアラインは、ようやく 2003 年後半になって回復の兆しを見せてい る。しかし、その構造的な問題が解決されているわけではなく、米国航空輸送業界の基本 的な改革にはまだ多くの時間が必要だ、と考えられている。
本章は、米国エアラインの現状を分析し、当面の見通しについての検討を行なったもの である。
2.2 米国エアラインの現状
米国エアラインは、911 テロ事件の影響を受けた 2001 年に 83 億ドル、2002 年に 113 億 ドルの損失を出し、Air Transport Association (以下 ATA) は、イラク戦争開戦直前の 2003 年 3 月に The Perfect Economic Storm(*) と題する報告書を公表して、2003 年には 70 億〜107 億ドルの赤字を出すと言う見通しを発表した。
(*:平成 15 年度報告書の APPENDIX‑3 参照)
しかし、この報告書の主たる目的が、国家に専決権のある戦争のエアライン業界に対す る影響を強調し、その救済を国に求めることにあったため、イラク戦争の影響を過大に評 価しており、又、実際の戦争が比較的短期間で終了したこともあって、2003 年の米国エア ラインの損失はその半分の 50 億ドル程度に留まった、と推定されている。
Net Income - US Airlines
-12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
$ Billion
Source : ATA
これを四半期毎の Operating Profit で見ると、明らかに 2003 年は、第 2 四半期を中心 に、大きな収支の改善が見られる。第 4 四半期は最も収支の落ち込む四半期であり、この 第 4 四半期にデルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空の 3 社だけで 7 億ドル近い 損失を出したことを考え合わせると、全体としては決して悪い第 4 四半期ではなく、米国 エアラインは回復基調にあると判断できる。
2001 年には一時的に停滞した米国経済は、雇用なき経済成長と言われながら、2002 年、
2003 年と確実な回復を示している。
Operating Profit - US System
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 Million $
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 Source : DOT
US Real GDP Growth
-1%
0%
1%
2%
3%
4%
5%
6%
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 Source : US Bureau of Econom ics
911 テロ事件で大きく落ち込んだ米国国内線旅客需要も、2002 年以降の米国経済の復調 に伴い、徐々に回復している。
2000 年の同一期と比較した四半期毎の旅客需要の変化を見ると、米国国内線の需要が、
911 テロ事件などの影響からようやく回復し、2003 年末には、2000 年のレベルにまで戻っ てきていることが分かる。
US Domestic Passenger Traffic
80 90 100 110 120 130 140 Billion RPM
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 Source : DOT
US Domestic Traffic Growth over 2000
-20%
-15%
-10%
-5%
0%
5%
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
2001 2002 2003
Source : DOT
このような旅客需要の回復にもかかわらず、米国エアライン業界が利益を上げられない 最大の理由は、旅客イールドの低下である。RPM(Revenue Passenger Mile(有償旅客マ イル))当り 14 セント台で推移してきた旅客イールドは、911 テロ事件後の旅客需要の激 減下での競争激化に加え、低コストエアラインの台頭に伴う低価格運賃との直接競合機会 の増大、インターネットによる航空運賃の透明性の増大、ビジネス客の低運賃への移行な どの構造的変化に伴う理由により、2001 年以降、大幅に低下している。このイールド低下 の原因が、911 テロ事件を引き金にして顕著になった上述の構造的な理由によるものと考 えられているため、今後も米国での旅客イールドが過去のレベルに復帰することはない、
と予想されている。
このイールドの低下によって大きな損失を計上し、財務的危機に直面した米国主要エア ライン(Major Airline)は、その運航コストの大幅削減の必要性を強く認識し、会社更生 法適用の可能性をちらつかせながら、労働組合との人件費削減交渉を強硬に進め、それな りの成果を収めてきた。しかし、米国主要エアラインの高コスト体質は、人件費だけでは なく、ハブ・スポークシステムと言う巨大な高コスト構造にもあることから、人件費の大 幅削減だけではその最終目的を達成できないことは明白である。
業界の中でも、人件費の削減に関しては優等生と評価されているアメリカン航空のイー ルドとコストの推移を見ても、過去 2 年間のコスト削減は極めて顕著であるが、それが、
現在のイールドレベルで過去の収益性を確保するには不十分であることは明白である。
US Domestic Passenger Yield
10 12 14 16 18
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 Cent/RPM
Source : DOT
高コスト・低イールドの下で収益性を向上する手段は、ロードファクターの上昇である。
高コスト・低イールドという構造的な問題を認識した主要エアラインは、2003 年にはそ の提供座席数を旅客需要の減少の度合いを超えて減じて、高いロードファクターの達成に 努めた。
この結果、2003 年の米国国内線の平均ロードファクターは 70%を超え、満席の便が頻繁 に見られると言う現象を引き起こした。
Revenue and Cost - American
8 9 10 11 12 13 14 15
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 Ce nt/RPM or
ASM Cost Yield
Source : Am erican Alines
US Domestic RPM & ASM Change Over 2000
-20%
-15%
-10%
-5%
0%
5%
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
2001 2002 2003
Source : DOT
このような異常に高いロードファクターを達成しても、米国主要エアラインは、2003 年 に 60 億ドル近い損失を計上せざるを得なかった。このことが、米国主要エアラインの構造 的な問題の深刻さを明確に示唆していると言えよう。
2.3 短期見通し
米国エアライン業界が 3 年に亘る不況から回復の基調にあることは間違いない。更に、
2004 年は米国の大統領選挙年であり、米国経済も好況を維持していくと予想される。しか し、次に述べる 3 つの理由により、米国エアラインが直ちに好況に転じることは期待出来 ない。
2.3.1 燃料価格
原油価格の高騰により、航空燃料価格の高騰が顕著になっている。1990 年代に 1 バーレ ル当り 20 ドル弱と比較的低水準に留まっていた原油価格は、2000 年代に入り上昇し始め、
2003 年半ばに一度 25 ドルを下回ったものの、その後も徐々に高騰を続けている。この影 響を受けて米国では、4 月初めにガソリン価格が史上最高値を記録したと報じられている。
航空燃料の価格も徐々に上昇し、最近の OPEC の減産決定を受けて、原油価格が 1 バーレル 当り 35 ドルになるとの予測を反映し、近い将来には 1 ガロン当り1ドル 10 セントに達す るであろうと危惧されている。
Load Factor - US Domestic
60%
65%
70%
75%
80%
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
2001 2002 2003
Source : DOT
燃料費はエアラインの運航コストの 15%弱を占め、米国エアラインにおける年間燃料消 費量は 180 億ガロンと推定されるので、燃料価格の 10 セント高騰は 18 億ドルの利益圧縮 につながる、と考えられる。運賃値下げ競争の激しい現時点で、燃料価格の高騰を航空料 金に転嫁することは極めて難しく、この燃料価格の高騰がエアライン収支改善の足を大き く引っ張ることは間違いない。
この燃料問題は、米国の有識者やメディアで極めて深刻な問題として捉えられている。
(APPENDIX‑3及び APPENDIX‑4参照)
2.3.2 提供座席の増加傾向
米国主要エアラインのコストは、現在のイールドレベルで十分な収益を上げられるレベ ルにない。これ以上の大幅なコストダウンが不可能な状況の下で、主要エアラインが何ら かの収支改善を計るとするならば、ロードファクターを高く維持すること以外にはない。
このため、この 2 年間、各エアラインは保有機材を砂漠に保管する等の手段を取って、提 供座席(ASM:Available Seat‑Mile)を制限することで、高いロードファクターを保って きた。
しかし、最近の各エアラインの路線計画、運航計画によると、エアラインのこの戦術に 転換が見られる。米国の航空関係コンサルタント会社 Walsh Aviation の分析によれば、
2004 年に業界全体として 5.8%の提供座席増加の計画がある、とされている。
US Jet Fuel and Crude Oil Price
0 20 40 60 80 100 120
78 81 84 87 90 93 96 99 02 Mar Jun Sep Dec Mar Jun Sep Jet Fuel
(Cent/Gallon)
5 10 15 20 25 30 35 Crude Oil ($/Barrel) Jet Fuel (Refiner Price) Crude Oil (Spot Price)
2003 2004
Year
Souce : EIA
Capacity Growth (% ASM Change)
Airline 2002 2003 2204E
Alaska 8.0% 7.5% 5.7%
America West 1.8% 3.3% 8.0%
American ‑6.7% ‑4.2% 6.3%
Continental ‑5.2% ‑2.2% 6.6%
Delta ‑6.8% ‑8.0% 8.3%
Northwest ‑5.0% ‑5.2% 2.4%
Southwest 5.5% 4.2% 7.6%
United ‑9.8% ‑8.6% 5.0%
US Airways ‑15.5% ‑8.6% 0.1%
Industry ‑10.0% ‑4.6% 5.8%
Source : Walsh Aviation Presentation
現有機材で容易に提供座席を増加できること、路線競合上の配慮等、エアラインのこの 戦術転換にはいくつかの理由が考えられるが、雇用なき経済成長といわれる景気状況、燃 料価格高騰により、これ以上の運賃引き下げが難しい現状を考えると、提供座席の増加が、
旅客の増加、増収とつながらない、と予想され、この提供座席増加の戦術転換がエアライ ンの収支にプラスに働くとは考えにくい。
2.3.3 構造問題
米国主要エアラインは、新しいビジネスモデル構築の一環として、ユナイテッド航空の Ted、デルタ航空の Song のように、社内に低コストエアラインを設立し、既存の低コスト エアラインと直接競合しようとしている。
Song のように、女性の旅客に焦点を当てて、ユニークな商品の機内販売など、斬新なア イデアと独自性で新しい市場進出を計るものもあり、その将来についてはまだ不明なとこ ろも多いが、これが主要エアラインの構造改革につながると考える人は少ない。
最も強力に人件費などの削減を進めてきたアメリカン航空でも、現状のコストレベルは、
低コストエアラインと対抗できるものではない。JetBlue や AirTran など、米国大陸横断 のような長距離路線のサービスを提供する低コストエアラインも出てきて、今まで主要エ アラインが優位を保ってきたこれらの長距離路線での直接対決も現実となりつつある。
抜本的なコスト対策の出来ていない主要エアラインの現状を考えると、近い将来に米国 エアラインの財務状況が急速に改善されるとは考えられない。
このような状況を解析し、2004 年、2005 年の米国エアラインの収支状況について、米国 証券会社 Blaylock & Partners 社が行った短期見通しを次に紹介する。
これによれば、2004 年は、業界全体としては収支均衡、2005 年になって、主要エアライ ンでも若干の利益が期待でき、この結果、業界全体としてはかなりの利益を計上できると
考えられている。
2004 年の米国エアライン業界の収支については、最近の燃料価格高騰の影響を受けて、
さまざまな予測が行われており、2004 年もその損失が 20 億ドルに達するであろうとの極 めて悲観的な見方をするアナリストもいる。
ATA の May 会長も、3 月 25 日に行われた連邦航空局(FAA)の会議の冒頭演説で、燃料 価格高騰、旅行者に対する心理的・物理的影響とコストの両面で深刻な空港保安問題など の影響で、業界が極めて困難な状況にある、と業界の窮状を訴えている。(APPENDIX‑5参 照)
2.4 今後の展望
航空輸送が米国にとって必須の交通手段であり、それを支える米国エアラインも、世界 全体の業界をリードし、民間機市場の重要な地位に留まることは間違いない。
いずれ、多くの紆余曲折を経ながらも、過去の収益性を取り戻し、世界の民間機需要を リードする立場に復帰することになろう。
将来の米国エアライン業界動向や航空機需要にかなりの影響を及ぼすと考えられる事項 のいくつかについて、検討を行った。
2.4.1 航空旅客輸送需要の変化
ここ数年間の航空旅客需要の動向を見ると、911 テロ事件後の旅客需要は、明らかにそ れ以前の傾向線と異なる線上を推移している。
Net Income - US Airlines (Forecast by Blaylock & Partners)
-6 -4 -2 0 2 4
2003 2004 Forecast 2005 Forecast
$ Billion
Major Low Cost Regional Total
911 テロ事件を契機に起きた航空旅客需要の激減を一過性の現象と捉えるか、あるいは、
この事件を契機として引き起こされた構造的な変化に伴う永続性のある現象と捉えるか、
によって、長期的な航空需要の展望が異なることとなる。
過去のいくつかの不況で発生した航空需要の落ち込みは、いずれも一時的な現象に留ま り、ある程度の期間(少なくとも 3 年以内)で、航空輸送は元来の傾向線に戻っている。
しかし今回は、3 年程経過した 2003 年でも、ようやく 3 年前のレベルに復帰したに留ま り、過去の傾向線に戻るという兆候は見えない。このことが、今回の落ち込みが構造的な 変化を伴ったものではないかと言う懸念を引き起こしている。
米国エアラインの旅客収入を GDP で割ったものを見ると、2001 年を境に、その関係が大 きく変化していることが明確にわかる。
1984 年以来、不況の時も含めて、その比率は 0.9%〜1%の間で安定していたが、2001 年 以降 0.7%程度に低下し、その状態が 3 年間程継続している。これが、911 テロ事件で喚起 された航空機搭乗に対する恐怖、厳重な空港保安検査に対するネガティブな反応、ビジネ ス客の低運賃への移行などによって引き起こされていることに間違いないが、これを一過 性の現象と片付けることは難しい。むしろ、米国航空旅客の意識が変化し、景気動向・運 賃(イールド)・航空旅客需要の関係が新しいものとなったと考える方が正しいかもしれな い。
いずれにしても、この需要動向の変化を見極めるためには、さらに、時間が掛かろう。
US Domestic Passenger Traffic
80 90 100 110 120 130 140 Billion RPM
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 Source : DOT
2.4.2 エアライン業界の構造改革と主要エアラインの将来
米国主要エアラインが、新しいビジネスモデルを構築して、その構造的変革を遂げ、競 争力のあるコストレベルを達成することが、米国主要エアライン再生のカギであることに は変化がない。(平成 15 年度報告書の第2章 米国エアライン業界の現状と将来 参照)
しかし、構造的変革は一朝一夕に達成できるものではなく、米国主要エアラインの運航 コストの削減は期待される成果を挙げていない。
2003 年第 4 四半期の米国エアライン各社の運航コストを比較すると、主要エアラインの コストは、低コストエアラインのそれに比べて、平均で 34%高く、人件費を中心とするコ スト削減に成功したと言われているコンチネンタル航空やアメリカン航空でも、低コスト エアラインを 25%上回っている。
このように、運航コストで見る限り、米国主要エアライン改革の道は険しいといわざる を得ない。
US Airline Revenue*/GDP
0.50%
0.60%
0.70%
0.80%
0.90%
1.00%
1.10%
1984 1988 1992 1996 1999 2000 2001 2002 2003 Source : US Bureau of Econom ics /DOT/ATA
* Pas se nger Reve nue, Schedule Se rvice
Quaterly
US Airlines Operating Cost - 2003 4Q
0 2 4 6 8 10 12 14
JetBlue America West Southwest AirTran Frontier Average Low Cost Airlines Continental American United Delta Alaska Northwest US Airways Average Major Airlines
Cent/ASM Source : Blaylock & Partners Data
米国の低コストエアライン(最近は単に LCC と呼ばれている)は、運航コストでの優位さ を武器に、その路線網を積極的に拡大し、主要エアラインの独占市場であった大陸横断な どの長距離路線にも進出してきている。主要エアラインも、Ted や Song のような自前の低 コスト運航部門で低コストエアラインに対抗しようとしているが、その成果を疑問視する 見方も強く、低コストエアラインによるサービスの拡大は、今後も続くものと考えられる。
一方、主要エアラインは、そのハブ・スポークシステムへの旅客フィードのために、リ ジョナルエアラインと、需要密度の低い末端路線の運航を委託すると言う形で連携を計り、
フィーダー路線の運航をリジョナルエアラインに委譲している。リジョナルエアラインは、
主要エアラインの指示するスケジュールで運航を行い、その運航に対し支払を受け、その 運航に関わる運賃収入については全て主要エアラインの権利・義務という契約が大半であ り、米国リジョナルエアラインは、フィーダー路線における主要エアラインの運航部門の 役割を果たしている。これは、主要エアラインの業務の一部を外部に委託する構造改革の 一部と言えるが、この連携関係がリジョナルエアラインの市場シェアを急速に高めている。
1995 年に RPM ベースで 85%あった主要エアラインの市場シェアは、2003 年には 70%まで 低下したといわれており、エンブラエル社は 10 年後には 52%まで低下すると予測している。
エンブラエル社の予測は、リジョナルエアラインの成長を過大に評価していると考えら れるが、主要エアラインのシェアがさらに大きく低下することは間違いない。
2.4.3 保管機材(Parked Fleet)
911 テロ事件後の航空旅客の激減に対応して行われた大幅な提供座席削減の結果、アリ ゾナの砂漠などに保管されている機材の数は 2000 機に達した。
この機材が、将来の航空需要の拡大に伴う提供座席数の増大に際し、エアラインの運航 機材として復帰するか否かは、将来の生産機数を予測する上で重要である。
この 2000 機の内約 60%は、B727 等の既に生産が終了した古い機体であり、これらは燃費 US Airline Industry Evolution
(Embraer's View)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
1995 2000 2003E 2013F
Share of US
Dom es tic RPM Major Low Cos t Re gional
Source : Em brae r Pres e ntation
も悪く、整備コストも高いため、実際のエアライン運航に復帰する可能性はないと考えら れている。
MD‑10、MD‑80/90 を含む現在生産中の機材は、750 機程度が保管されているが、保管の状 況、保管の期限、中古機価値などを考慮して、この内約 500 機が、将来エアライン運航に 復帰されると考えられている。これは現在のボーイングとエアバスの生産機数の約 1 年分 に相当し、これらの復帰が将来の新製機生産拡大に対してマイナス要因として働くことは 間違いない。
PWA社が予想した現役復帰可能機材数
米国エアライン業界が、911 テロ事件によって引き起こされた大不況から回復の途にあ ることは間違いないが、2004 年も収益的には大きな改善は期待できない。
その背景のひとつが最近の燃料価格高騰であり、これが、エアラインの収益改善の大き な障害になっている。
米国では、自動車用ガソリンが史上最高値になったと報じられており、この夏にはさら Parke d Flee t
(at the end of year)
0 500 1000 1500 2000 2500
1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003
Post-Production Models In-Production Models
Source : Boeing Presentation
717 4 A300/310 51
737 37 A320 76
747 28 A330 2
757 31 A340 12
767 67 F100 68
777 8 MD80/90 113
に高騰すると予想されている。又、OPEC の減産決定で、原油価格の更なる高値が予測され、
航空燃料価格も高値安定する見通しが強い。
燃料価格の高騰を運賃値上げでカバーすることが極めて困難な現状では、燃料価格の高 騰はエアラインの減益に直接つながる。
このような燃料価格の状況がどの程度の期間続くかは不明だが、少なくとも 2004 年の米 国エアラインの収益に大きな悪影響を与えることは間違いない。
石油価格の現状とエアライン業界への影響については、次の第5項に述べる。
米国エアラインがかなりの収益を計上できるのは 2005 年まで待たざるを得まい、とする のが大方の見方である。
長期的な視点から、米国主要エアラインが抱える構造的な問題の解決に大きな進展があ ったとは考えられない。
低コストを武器に攻勢を強める低コストエアラインと、これに対等に対抗できる新しい ビジネスモデルの構築を模索する主要エアラインとの関係は、基本的に変わっていない。
主要エアラインは、人件費などの削減に大鉈を振るい、大幅なコスト削減に努めてきた。
しかし、これら人件費などの削減にある程度の成果を収めた現時点においても、そのコス トは低コストエアラインとの競争に対等に対応できるものではない。
さらに、米国における航空旅客需要の基本的な変質を示唆する現象も見られ、これら 911 テロ事件により顕在化した構造的な変化は、米国エアライン業界の将来に大きな影響を与 えようとしている。
いずれにしても、米国のエアラインが、本来の財務的健全性を取り戻し、世界の民間機 市場でリーダーシップを発揮するには、かなりの時間が掛かるといえる。
2.5 石油価格の現状とエアラインへの影響
2003 年末から高騰を始めた原油価格は、2004 年 5 月には 1 バーレル当り 40 ドルを超え るレベルに達し、これに伴って航空燃料価格も 1 ガロン当り 1 ドルを超えている。
本項では、主として、原油価格、航空燃料価格の現状を把握し、そのエアラインへの影 響、今後の見通しについての検討を行なう。
2.5.1 原油価格の現状
2000 年代に入って、1 バーレル当り 25〜30 ドル程度で比較的に安定していた原油価格は、
2003 年末から高騰を始め、この 5 月第 2 週には、1 バーレル当り 41 ドルを超える価格を記 録した。この原油価格高騰の原因は、米国経済の好調を受けての堅調な米国石油需要、中 国での需要の急増(経済の急成長、自転車から自動車への急速な移行などにより、中国の 原油輸入量は 2003 年に 30%増加したと伝えられている。)、不安定な中東情勢、OPEC の減産 合意等にあるが、原油の輸入・生産量と在庫量のサイクルによる人為的なものも大きな要 因になっている、といわれている。
事実、米国の原油在庫量は、価格の高騰が続いた今年 2 月末以降も、2330 万バーレル増 加し、5 月半ばには 3 億バーレルの在庫原油を抱えている。過剰な需要が価格を押し上げ ているという単純な価格傾向でないことは明確である。
この原油価格高騰の原因は、米国におけるガソリンバブル(米国内での UV 車の急速な普 及に伴って、ガソリンの消費が急激に伸びている。)だ、と指摘する専門家もいる。
これらの専門家は、ガソリンの値段が 1 ガロン当り 2 ドルを超えれば、消費者は早急に 消費量を抑えようとし、これによってガソリンの値段は急速に低下し、これを契機に原油 の価格も 1 バーレル当り 20 ドル台まで下がる、と予想している。
現在、原油価格の高騰を投機の対象として投資されている資金が 300 億〜400 億ドルあ り、この投機により原油価格が人為的に 5〜6 ドル押し上げられている、といわれている。
一旦、ガソリン価格低下の兆候が見えると、これらの資金は利益確保のために原油売り Crude Oil Price
(Cushing, OK WTI Spot Price FOB)
20 25 30 35 40 45
4/1 5/1 6/2 7/1 8/1 9/1 10/1 11/3 12/1 1/2 2/2 3/1 4/1 5/3
$/Barrel
2003 2004
US Crude Oil Stocks
( Weekly Crude Oil Ending Stocks Excluding SPR)
240 260 280 300 320
4/4 5/2 6/6 7/4 8/1 9/5 10/3 11/7 12/5 1/2 2/6 3/5 4/2 5/7 Million Barrel
2003 2004
に走り、これが原油価格の急激な低下の理由になる、とみられている。
また、今年は大統領選挙年であり、夏の旅行シーズンを控えて高いガソリン価格が国民 の非難の的となることは間違いなく、米国政府(大統領)が何らかの政策的な手段を講じ て原油価格を適正なレベルに誘導するであろう、との意見もある。
いずれにしても、原油価格が 1 バーレル当り 40 ドル程度で高値安定することはなく、近 いうちに正常なレベルに落ち着くであろう、という考えが大多数の見方である。
2.5.2 エアラインへの影響
原油価格の高騰に伴って、航空燃料の価格も急騰している。特に、4 月以降の価格上昇 は極めて急激であり、1 ガロン当り 1 ドル 20 セントのレベルに到達する勢いである。
燃料費は、エアラインの運航コストの 15%弱を占めている。米国エアラインだけで年間 燃料消費量は 180 億ガロン程度であり、燃料価格が 10 セント高騰すれば、米国エアライン では 18 億ドルの利益圧縮につながる、と考えられる。この燃料価格の高騰がエアラインの 収支改善の足を大きく引っ張っていることは間違いない。と同時に、この燃料価格高騰が、
収益を上げている優良エアラインと赤字に苦しんでいるエアラインとの差をさらに拡大す ると言う現象を引き起こしている。
燃料価格高騰の影響は、エアラインのタイプにより大きく相違する。
最も影響が少ないのは Ryanair や EasyJet のようなヨーロッパの低コストエアラインで ある。路線距離が短いため、元々燃料費が全体の運航コストに占める割合が少なく、燃料 価格の影響が少ない上に、運賃収入がユーロやポンドであり、これらの通貨のドルに対す る為替レートが良くなっているので、燃料価格高騰の影響をある程度相殺できている。更 に、これらのエアラインは、燃料価格の高騰に備えて、安い価格で燃料の先物買いをする 十分な資金を保有しているため、最近の極端な燃料価格高騰から十分にヘッジされている。
ヨーロッパの主要エアラインも、その燃料価格高騰に対するリスクの 60%ないし 90%をヘ ッジしていると言われており、運賃収入のかなりの部分がユーロであることもあり、比較
Jet Fuel Price
(Gulf Coast Jet Fuel Kero Spot Price FOB)
0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40
4/1 5/1 6/2 7/1 8/1 9/1 10/1 11/3 12/1 1/2 2/2 3/1 4/1 5/3
$/Gal
2003 2004
的に優位な状況にあると考えられる。
最も厳しい影響を受けているのが、米国の主要エアラインである。元々、路線距離が比 較的に長いため、燃料価格の影響が大きく、運賃収入がドルであるため、収入面での相殺 が考えられない。さらに、現在の財政状況では、燃料価格高騰に対するヘッジ手段に当て る資金はなく、価格の高騰の影響を 100%受ける事態となっている。
現在の競争の状況下で、燃料価格の高騰を、航空運賃引き上げと言う形で乗客に転嫁す ることは困難であると考えられていたが、他に選択肢がないことから、コンチネンタル航 空が、15〜20%の燃料コスト上昇をオフセットするためとして、片道 10〜20 ドルの運賃値 上げを断行した。
今の所、他のエアラインもこれにマッチしていることから、米国エアラインが運賃値上 げでこの危機を乗り切る可能性は出てきたが、この燃料価格高騰は 金持ちをより金持ち に、貧乏人をより貧乏に していくことに間違いないようである。
2.5.3 ガソリン価格
ガソリン価格は、史上最高値を更新している。米国でも、西海岸は特にガソリン価格が 高く、シアトル地区では 1 ガロン当り 2 ドル 40 セントを超えており、新聞では、如何に安 いガソリンを探すか、又、安いガソリンを求めて遠いスタンドに行くことが得か等の記事 を多く見かけるようになった。特に 5 月に入ってからの高騰は顕著である。
しかし、前述のように、ガソリン価格も近い将来急速に適正化される、との見方が多い。
以上
《参考資料》
・ Jet fuel Prices Pinch Airlines by Russell Grantham
(APPENDIX‑3)
・ Soaring Jet Fuel Prices Threaten Airlines Bottom Lines by Seattle Times
(APPENDIX‑4)
・ State of the Industry by James C. May
(APPENDIX‑5)
U.S. Regular Conventional Retail Gasoline Prices
1.20 1.40 1.60 1.80 2.00 2.20
4/7 5/5 6/2 6/30 7/28 8/25 9/22 10/20 11/17 12/15 1/12 2/9 3/8 4/5 5/3
$/Gal
2003 2004
第3章:低コストエアラインの動向
3.1 背景
最近の低コストエアラインの成長振りには目を見張るものがあり、この成長が大手エア ラインを脅かし、今日のエアライン業界のビジネスモデルを変革させる原動力になってい る。(財)日本航空機エンジン協会(以下 JAEC)が参画している 150 席クラス民間航空機 用エンジンの V2500 プロジェクトに関しても、1999 年 5 月に低コストエアラインのジェッ トブルー・エアウエィズ(以下 JetBlue)からエアバス A320 に搭載する V2500 エンジンを 受注したことを機会に、最近低コストエアラインとの商談が頻繁に登場するようになって いる。これは、150 席クラス機が運航コスト・パフォーマンスの面で他のリジョナル機や ワイドボディ機よりも優れており、これに V2500 エンジンの優れた経済性が加わり、市場 からより大きな支持を受けている現れである、と考えられる。
そこで本資料では、JAEC の対象市場の主役となっている低コストエアラインの動向にス ポットを当ててみる。
尚、本資料で低コストエアラインと称する航空会社の英語表記は「Low Cost Carrier」
であり、低コストで運航するエアラインを本資料の対象とする。参考として、主要な低コ ストエアラインを表1に示す。
北米 ヨーロッパ アジア
America West 米国 Ryanair アイルランド Virgin Blue オーストラリア Southwest 米国 EasyJet 英国 JetStar① オーストラリア JetBlue 米国 Bmibaby 英国 Air Asia マレーシア Air Tran 米国 Virgin Express ベルギー ValueAir シンガポール ATA 米国 Hapag‑Lloyd ドイツ Lion Air インドネシア Frontier 米国 German Wings ドイツ JetStar Asia① シンガポール Spirit 米国 Sky Europe ハンガリースロバキア Tiger Air② シンガポール WestJet 米国 Wizz Air ポーランド Nok Air③ タイ
Air Berlin ドイツ Orient Thai 航空 タイ
Volare イタリア
〔注〕①カンタス航空の子会社、②シンガポール航空の子会社、③タイ航空の子会社
3.2 エアラインの概況
3.2.1 エアラインを取り巻く環境
2004 年は、エアラインにとって 2001 年 9 月 11 日の 米国同時多発テロ 以降落ち込ん でいた航空需要にようやく回復の兆しが見えてきた年であったが、又、思いがけない原油 価格の高騰に見舞われた年でもあった。エアラインのコスト構造では、通常 運航費用の
表1 主要な低コストエアライン
約 14%が燃料費であり、人件費に次ぐ運航費用である といわれているが、急速に 1 バレ ル 40 ドルを超え、2003 年比で 40%以上もアップした原油価格の高騰は、エアラインの経営 を直撃した。特に欧米のエアラインは、低コストエアラインと大手エアラインの激しい運 賃引き下げ競争の最中にあり、燃料費の高騰分をそのまま運賃に反映させることができる 環境にはなかった。この結果、多くのエアラインが赤字決算を余儀なくされており、米国 の四大エアラインでは、2004 年の決算値で、United Airlines(以下 United)が 16 億 4000 万ドル、American Airlines(以下 American)が 7 億 6100 万ドル、Delta Air Lines(以 下 Delta)が 52 億 2000 万ドル、Northwest Airlines(以下 Northwest)が 8 億 4800 万ド ル、と莫大な経常損失を計上している。
United は、連邦破産法第 11 条(いわゆる会社更生法)の経営再建策を着実に実施する 必要があり、国内線から国際線へ軸足を移動させたフリートプランの見直しに加え、年金 プランの停止、更なる賃金カット等、厳しいリストラを実施しようとしている。
Delta も、2004 年 10 月末にパイロットの賃金カットで 10 億ドルの削減に成功し、連邦 破産法第 11 条への申請を寸前で回避したものの、未だ 200 億ドルの負債を抱えており、予 断を許さない状況にある。
2003 年に連邦破産法第 11 条を脱出したばかりの US Airways は、50 億ドルのコスト削減
(労務費で 8 億ドル)の達成に行き詰まり、2004 年 9 月 12 日に二度目の連邦破産法第 11 条を申請し、またまた再建を目指すことになったが、極めて厳しい状況といわざるを得な い。
尚、低コストエアラインも例外ではなく、Southwest Airlines(以下 Southwest)も、
創業以来初めて利益重視のために短距離路線から長距離路線への全便数の 3%に当たる路 線変更を行い、又、機内娯楽装置の有料化による売り上げアップを検討する等、必死の状 況にある。これは、同社が JetBlue との運賃引き下げ競争に加え、燃料価格高騰分を価格 に転嫁できない厳しい環境にあることを示している。更に、同社のビジネスモデルである 20 分以内の発着時間をキープしながらも、初めて座席指定制の導入(従来は、搭乗ゲート に並んだ順番)を検討する等、サービス面の強化をも目指している。
3.2.2 燃料の価格ヘッジ 燃料高騰の経営への影響は、エアラ イン各社の燃料価格ヘッジのレベルに より大きく異なっている。表2に示す 通り、Southwest は年間使用量の 80%
を低価格でヘッジし、今年の燃料高騰 の影響は少なくて済んだ。しかし、大 手エアラインの中でも American はわ ずか 9%のヘッジしか実施しておらず、
原油高の影響をもろに受ける形となっ た。
尚、当面の資金繰りのために価格ヘ ッジを売却し、現金化したスイス航空
エアライン名
2004年航空燃料 使用量に対する
カバー率
ヘッジ価格
Southwest 80% 24 ドル以下 JetBlue 45% 25 ドル以下 American 9% 32 ドル US Airways 33% 26 ドル以下
Northwest 25% 34−41 ドル Continental 45% 32−40 ドル
英国航空 45% 28.5 ドル
Lufthansa 89% 不明 表2 エアラインの原油価格ヘッジ
では今後大きな損失が発生することが予想される。
上述のヘッジの結果を見ると、充分な資金を持つエアライン(利益を出しているエアラ イン)は、過去に適切な価格ヘッジを実施し、今回の燃料価格高騰でも影響を軽微にとど めている。一方、経営悪化により 与信枠 が少ないエアラインにとっては、手元流動資 金が減少しているために積極的なヘッジができず、原油価格高騰の影響をもろに受けると いう結果を招いている。
3.3 低コストエアライン
このような環境下でも、低コストエアラインが持っている競争力は、そのビジネスモデ ルによるところが大きい。その特徴を次の3つに分けて紹介する。
3.3.1 Southwest ビジネスモデル
Southwest は、他のエアラインが 1990 年初頭に第一次湾岸戦争の影響を受けてことごと く赤字を強いられていたのを尻目に、唯一黒字を出し続けていた低コストエアラインの先 駆者的存在である。
このビジネスモデルは、その後に続く Ryanair や EasyJet 等の多くの新興低コストエア ラインの手本とされており、次の 6 つに大きく特徴付けられる。
• 中規模都市を結ぶ短距離便・直行便に路線を集中
• 機体及びエンジンの統一(現在も、保有する 513 機の機体を B737 に統一)
• インターネットを使用した航空券の直接販売
• 機内無料サービスの廃止
• 他航空会社との乗り継ぎ廃止
• 発着作業の短縮化で機材の高稼動率化
このビジネスモデルでは、一般的なエアラインの運航コストの燃料費(約 14%)に続く 以下の費用の削減に大きく貢献している。
• 発券・販売費用 (約 12%)
• 整備・改修費用 (約 11%)
• 旅客サービス費 (約 10%)
(その他、人件費等(約 53%))
この他にも、機体やエンジンの統一によって、航空機メーカーやエンジンメーカーから 大幅な値引きを引き出すとともに、乗務員訓練費等の低減をも可能にしている。
3.3.2 JetBlue ビジネスモデル
一方、低コストエアラインでありながらサービスを充実させるビジネスモデルとして、
JetBlue が挙げられる。
2000 年に設立し、急成長を続ける JetBlue は、低運賃を確保しながらも、その拠点空港 を、利便性も高いが着陸料も高いニューヨークの JFK 空港に置き、機材も革張りシートに 全席衛星テレビを設置する等、質の高いサービスを提供している。
前述の顧客へのサービス・カットによるコスト削減を指向する Southwest ビジネスモデ