社団法人 日本航空宇宙工業会 革新航空機技術開発センター
2007 年 3 月
航空機工業の競争力強化に関する調査研究 成 果 報 告 書
No.1802
ISSN 1880-3660
Vectranスティッチ複合材料の研究
ま え が き
日本航空宇宙工業会は、平成 18 年度事業の一つとして、日本自転車振興会から補助金の交付 を得て、「航空機工業の競争力強化に関する調査研究」および「環境調和型航空機技術に関する 調査研究」を下表のように実施した。
研究の実施に対し、その実現と推進にご尽力賜った経済産業省ならびに日本自転車振興会の ご関係者に厚くお礼申し上げる。
平成 19 年 3 月
社団法人 日本航空宇宙工業会 革新航空機技術開発センター
平成 18 年度委託研究登録番号(報告書No.)一覧
川崎重工業㈱
富士重工業㈱
石川島播磨重工業㈱
住友精密工業㈱
川崎重工業㈱
富士重工業㈱
三菱重工業㈱
新明和工業㈱
石川島播磨重工業㈱
㈱神戸製鋼所
富士重工業㈱
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1809
1810
機体/空力
機体/空力
推 進
機体/空力
機体/空力
機体/空力
機体/空力
機体/空力
推 進
機体/空力
競争力強化
競争力強化
環境調和
環境調和
環境調和
競争力強化
競争力強化
競争力強化
競争力強化
環境調和
継続
継続
継続
継続
継続
新規
新規
新規
新規
新規
キャビテーション・ピーニングの 機体部材への適用技術の研究
Vectranスティッチ複合材料の研究
Blade Blended Endwallによる タービン性能改善の研究
メタル・マトリックス複合材(MMC)の 脚部品への適用研究
フォームコアサンドイッチパネル き裂(はく離)進展抑制手法の研究
複合材配管の研究
複合材構造の製造技術高度化に 関する研究
固体酸化物形燃料電池を使用した 航空機用発電システムの研究 航空エンジン用T iディスク素材の 品質保証技術向上の研究
先進高効率防除氷システムの研究 競争力強化
/環境調和 継続 /新規 報告書
No. 分 野 研 究 名 委 託 会 社
No.
Vectranスティッチ複合材料の研究
調査研究委託会社 富士重工業 (株)
目 次
第1章 研究の概要
1.1 研究目的 ... 1
1.2 実施期間等 ... 2
1.3 実施内容 ... 2
1.3.1 Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討 ... 2
1.3.2 Vectranスティッチ複合材料の材料データの取得 ... 3
1.3.3 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の最適設計 ... 3
1.3.4 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の試作 ... 3
1.4 成果概要 ... 4
1.4.1 Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討 ... 4
1.4.2 Vectranスティッチ複合材料の材料データの取得 ... 4
1.4.3 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の最適設計 ... 6
1.4.4 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の試作 ... 7
1.5 所見 ... 9
第2章 研究の内容 2.1 緒言 ... 11
2.2 目的 ... 13
2.3 Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討に関する研究 ... 18
2.3.1 研究概要 ... 18
2.3.2 供試体材料 ... 18
2.3.3 供試体パネル成形 ... 26
2.3.4 評価方法 ... 28
2.3.5 試験結果および考察 ... 40
2.4 Vectranスティッチ複合材料の材料データの取得 ... 56
2.4.1 研究概要 ... 56
2.4.2 供試体材料 ... 56
2.4.3 評価方法 ... 56
2.5.2 部分構造供試体設計 ... 81
2.5.3 重量評価 ... 86
2.5.4 検討結果 ... 87
2.6 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の試作 ... 88
2.6.1 研究概要 ... 88
2.6.2 供試体材料 ... 88
2.6.3 供試体成形 ... 88
2.6.4 検討結果および考察 ... 88
2.7 結言 ... 98
第3章 問題点と今後の課題 3.1 問題点 ... 99
3.2 今後の課題 ... 99
第4章 関連事項調査 4.1 関連特許 ... 101
4.2 参考文献 ... 101
物性
品質
プリプレグ材のレベル
現状のRTMのレベル 本研究で到達するRTMのレベル
RTM
材の主構造部材への適用ブレークスルー
コスト 物性
品質
プリプレグ材のレベル
現状のRTMのレベル 本研究で到達するRTMのレベル
RTM
材の主構造部材への適用ブレークスルー
コスト 第1章 研究の概要
1.1 研究目的
近年、航空機用構造部材への複合材料の適用が拡大しつつあり、それに伴い複合材部品の大型化 が進んでいる。現在、複合材部品の多くはオートクレーブ成形によって成形されているが、複雑な 形状や低コスト化には十分に対応できておらず、レジントランスファー成形(RTM; Resin Transfer Molding)法などの低コスト製造法への代替が望まれている。
今日までに、RTM成形法に留まらず、スティッチ複合材料のRTM成形技術に関しても多くの研究が なされ、その研究内容はRTMによる成形手法に始まり、大型構造物の一体成形技術、部品点数の削減 等の様々な技術について確立されてきた。しかしながら、RTM成形部材は強度・剛性不足や内部品質 などの問題を抱えており、未だに実機への適用例は数少なく、国内においては実機への適用例は確 認されていない。この状況は弊社でも同様であり、長年のRTM成形技術の蓄積により複雑な形状や大 型構造物の一体成形に対して充分に対応できるレベルに有るが、未だに強度不足が足枷となってい る。
この強度低下の一因としては、RTM成形の優位性の一つである部材形状織物を製作する際に用いら れるスティッチ糸(縫合糸)による弊害が挙げられる。具体的には、スティッチ糸として用いられ ている炭素繊維(CF; Carbon Fiber)は、弾性率が高く、繊維束も太いため、縫合による面内糸の 歪み等により強度低下などを引き起こす点である。この欠点がスティッチ複合材料のRTM成形が実用 化に至らない点であり、RTM部材の実用化に向け、この事象の解決が急務である。
本研究の目的は、図1-1で示され るように、RTM成形部材の実機の主 構造部材への適用を最終目標に掲 げ、RTM成形部材の実用化を妨げて いるスティッチ複合材料の強度低 下問題を解決するために、スティ ッチ糸として弾性率が低く、繊維 束の細いVectran糸(高強度ポリア リレート繊維、クラレ製)に着目 した。このスティッチ糸の太さ・
強度およびコストに優れたVectranスティッチ複合材料を開発し、NHC強度の20%向上(対従来材(CF スティッチ複合材料)、目標値:480MPa)を目指す。さらに、開発したVectranスティッチ複合材料 を実機に適用すべく、次のステップとして、軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の設 計・試作を行い、10%の重量軽減を目指す。これらを総合的に評価することにより、本開発材料の実 機適用への第一歩とすべく課題を抽出し、提言を行う。
1.2 実施期間等
1.2.1 実施期間
平成18年4月~平成19年3月
1.2.2 実施場所
富士重工業株式会社 航空宇宙カンパニー 住所 :〒320-8564
栃木県宇都宮市陽南1-1-11 電話番号 :028-684-7777
FAX.番号 :028-684-7778
1.2.3 研究主務者
富士重工業株式会社 航空宇宙カンパニー
嶋貫 雅一: 研究部 材料研究課 課長 山口 栄勝: 研究部 材料研究課 担当 丸山 誠次: 研究部 材料研究課 主事 亀井 克美: 研究部 材料研究課 課員 関根 尚之: 研究部 材料研究課 課員 小林 貴 : 航空機設計部 主査
矢野 克彦: 航空機設計部 固定翼機設計課 担当 中島 之夫: 生産技術部 部品生産技術課 課長 関口 雅幸: 生産技術部 部品生産技術課 主事 高橋 友章: 生産技術部 部品生産技術課 課員
1.3 実施内容
1.3.1 Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討
維織物材)のスティッチ糸(Z糸)であるVectran糸の太さおよび打込み間隔(ピッチ)について 種々検討し、現状では太さが従来のCFスティッチ糸の0.2倍、打込み間隔(針間 x 送り)が3 x 3mm の仕様の材料が、品質にも優れ、かつ従来材(CF(炭素繊維)スティッチ複合材料)と比較して 強度特性が10%以上向上することを明らかにしたが、NHC強度の向上目標値である20%に対しては未 達成であった。
今年度は、三次元プリフォームの製織手法の見直しにより、昨年度に設定した仕様(打込み間 隔(ピッチ)およびVectran糸の太さ)よりも打込み間隔(ピッチ)が密で、細いVectran糸を使 用した種々のVectranスティッチ複合材料について強度評価することにより、強度特性に優れた Vectranスティッチ複合材料を開発し、その最適仕様を決定する。さらに、従来材であるCFスティ ッチ複合材料に対する開発したVectranスティッチ複合材料の優位性について検討・評価する。
1.3.2 Vectranスティッチ複合材料の材料データの取得
前述の1.3.1項で決定したVectranスティッチ複合材料の基礎的な物性であるNHT(Non-Hole Tension;無孔引張)、NHC(Non-Hole Compression;無孔圧縮)、OHC(Open Hole Compression;
有孔圧縮)、CAI(Compression After Impact;衝撃付与後圧縮)、ILS(Inter-Laminar Shear;
層間せん断)特性を室温(RTD)および82℃(HTW)の温度環境下にて取得し、本研究にて開発し たVectranスティッチ複合材料を総合的に評価する。なお、82℃試験用の供試体は試験前に71℃の 温水中で14日間の吸湿を実施した。
1.3.3 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の最適設計
Vectranスティッチ複合材料を主構造向け複合材料部品へ適用する場合に確認すべき構造要素 を抽出し、その構造要素を織り込んだ、部分構造要素部材の検討を行う。さらに、前述の1.3.2 項で取得した材料データをもとに、従来の低コストRTM手法を踏襲し、かつ量産時の製造性を見据 えた上で、部分構造要素部材の最適設計を行うとともに、従来材(CFスティッチ複合材料)に対 する開発したVectranスティッチ複合材料の重量軽減効果について試算・評価する。
1.3.4 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の試作
前述の0項で最適設計された部分構造要素部材の試作を実施し、基材であるVectranスティッチ 織物材の品質について確認するとともに、これを用いて成形した部分構造要素部材の成形性、外 観、寸法および内部品質について評価する。さらには、本研究において開発したVectranスティ
1.4 成果概要
1.4.1 Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討
Vectranスティッチ複合材料の更なる強度向上を図り、NHC強度の向上目標値(20%向上、480MPa)
を達成するため、昨年度に設定したVectranスティッチ複合材料の基材である三次元プリフォーム
(三次元炭素繊維織物)の材料仕様(Vectran糸の太さ:CFスティッチ糸の0.2倍、打込み間隔(ピ ッチ):3 x 3mm)よりもスティッチ糸の太さを細くし、打込み間隔を細かくしたVectranスティ ッチ複合材料をRTM(Resin Transfer Molding)法により成形した。この材料の強度評価を無孔引 張(NHT; Non-Hole Tension)、無孔圧縮(NHC; Non-Hole Compression)および衝撃付与後圧縮
(CAI; Compression After Impact)試験により行い、Vectranスティッチ複合材料のスティッチ 糸の太さおよび打込み間隔の最適化を行った。
試験結果を図1-2に示す。これより、NHT、NHCおよびCAIのいずれの強度についても、スティッ チ糸の太さを細くし、打込み間隔を密にすることにより昨年度に設定した材料仕様に対して大幅 に向上した。
90 100 110 120 130
太さ:200Dr 太さ:150Dr 太さ:150Dr
強度向上率 [%]
NHT NHC CAI
太さ:0.2 太さ:0.15 太さ:0.15 間隔:3x3mm 間隔:3x3mm 間隔:1.5x3mm
昨年度の仕様図1-2 Vectranスティッチ糸の最適化の検討結果
1.4.2 Vectranスティッチ複合材料の材料データの取得
前述の1.4.1項で決定されたVectranスティッチ複合材料をRTM法ににより成形した後、基礎的な 力学特性を取得するために無孔引張(NHT)、無孔圧縮(NHC)、有孔圧縮(OHC; Open Hole Compression)、衝撃付与後圧縮(CAI)および層間せん断(ILS; Inter-Laminar Shear)特性を
を行った。なお、82℃試験用の供試体は試験前に71℃の温水中で14日間の吸湿を実施した。
試験結果を図1-3に示す。これより、いずれの強度も非常に高い値を示し、NHC強度の20%向上(対 従来材(CFスティッチ複合材料)、目標値:480MPa)を達成した。
80 100 120 140 160 180
NHT NHC OHC CAI
強度向上率 [%]
CFスティッチ複合材 Vectranスティッチ複合材
図1-3 Vectranスティッチ糸複合材料の材料データ(対 CFスティッチ複合材料)
1.4.3 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の最適設計
優れた材料を開発し、優れた設計を行い机上で軽量化・低コスト化を唱えてもあまり意味はな く、材料の特性を充分に生かした部分構造要素部材の試作を行い、評価しなければ意味をなさな い。
Vectranスティッチ複合材料を主構造向け複合材料部品へ適用する場合に確認すべき要素を取 り上げ、前述の1.4.2項で取得した材料データをもとに、従来の低コストRTM手法を踏襲し、かつ 量産時の製造性を見据えた上で、図1-4に示す部分構造要素部材の最適設計を行った。さらに、従 来材(CFスティッチ複合材料)に対する開発したVectranスティッチ複合材料の重量軽減効果につ いて試算・評価し、図1-5に示すように約26%(目標値:10%)の重量軽減効果があることを算出 した。
540
0°(X) +45°(B) 90°(Y)
-45°(B)
A A
A-A
42 7 EQL SP25821 7 EQL SP
400
20 TYP
100° TYP
8 ply 16 ply
(1.38) (2.75)
540
0°(X) +45°(B) 90°(Y)
-45°(B)
A A
A-A
42 7 EQL SP25821 7 EQL SP
400
20 TYP
100° TYP
8 ply 16 ply
(1.38) (2.75)
図1-4 部分構造要素供試体形状概要図
74% 73%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
前桁 100% 74%
後桁 100% 73%
従来RTM材 新RTM材
図1-5 部分構造要素供試体の重量評価結果
1.4.4 軽量化・低コスト化を見据えた部分構造要素部材の試作
前述の1.4.1項で設計された部分構造要素部材をRTM法により成形し、部分構造要素部材の成形 性、外観、寸法および内部品質について評価した。図1-6に示すように供試体の板厚寸法は図面一 般公差内に納まっており、図1-7に示すように気泡等による欠陥も無く内部品質も優れている。こ れより、試作した部分構造要素部材の寸法精度および内部品質には問題の無いことを確認し、本 研究で開発したVectranスティッチ複合材料を用いた複合材部品の優位性を確認するとともに、
1.4.2項で設定した材料仕様により、これまで開発されているRTM技術に対し、新たな技術課題を生 ずることなく、強度向上が可能であることが確認された。
Vectranスティッチ複合材料
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
T1 T4 T7 T10 T13 T16 T19 T22 T25 T28 T31 T34 T37 T40
板厚測定箇所板厚 [mm]
一般公差Max.
一般公差Min.
16P ly
一般公差Max.
一般公差Min.
8Pl y
図1-6 部分構造供試体の板厚寸法測定結果
図1-7 部分構造要素供試体の断面写真(コーナーR部)
1.5 所見
本研究ではVectranスティッチ複合材料を主に力学的特性および内部品質の観点から評価し、材料 仕様を決定するとともに、部分構造要素部材の設計および試作を行うことにより、様々な知見を得 ることができた。
昨年度、複合材料の基材である三次元プリフォーム(三次元炭素繊維織物材)のスティッチ糸(Z 糸・耳糸)を炭素繊維(CF糸)から有機繊維であるVectran糸に置き換え、面内糸の歪みを改善させ ることにより強度が向上し、このVectran糸の太さはCFスティッチ糸の0.2倍、打込み間隔(ピッチ)
は3 x 3mmが最適であることを明らかにした。
今年度は、Vectran糸の太さおよび打込み間隔の更なる最適化を行い、NHT、NHCおよびCAI強度に より評価し、Vectran糸の太さを更に細く、打込み間隔を細かくへ最適化することにより、いずれの 強度についても大きく向上することを明らかにした。この最適化した材料を室温(RTD)および82℃
(HTW(吸湿後に試験))環境下でNHT、NHC、OHC、CAIおよびILS強度を取得し、いずれの強度につ いても、従来材であるCFスティッチ複合材料(T700G/TR-A31、スティッチ糸:CF糸(TR40-1kの2本 撚り)、打込み間隔:6 x 6mm)よりも大幅に向上することを明らかにした。
次に、本開発材料を実際の航空機に適用することを想定した部分構造要素供試体の設計および試 作を行い、主に、
・ 重量
・ 供試体寸法
・ 内部品質
・ コーナーR部の品質
・ 板厚変化部の品質
等の要素について確認し、それぞれ良好な結果であることを明らかにした。
また、目標値に対しては、NHC強度が20%向上(目標値:20%向上)、重量が26%軽減(目標値:10%
軽減)と大幅に上回る事が出来た。
長年研究されていながら機体の主要部位への適用が進んでいないRTM成形部材であるが、
Vectranスティッチ複合材料の材料仕様を決定し、この材料の基礎的なデータを収得し、部分構 造要素供試体の試作を成功させることにより、適用に向けての技術的レベルが一段向上したと 確信している。また、本研究の成果は特殊な技術ではなく、Vectran糸も比較的安価で既に上市
挙げられ、
・ 疲労強度特性の把握
・ 低温環境下での強度特性の取得
・ 金属製金具との接着性、一体成形技術
・ 大型(大面積)の構造物の成形性、製造性確認
・ 材料認定の取得
等の確認や課題解決を行うことにより、実機適用に向けた次の一歩となる。
第2章 研究の内容
2.1 緒言
航空機が発明され100年余り経過したが、1903年の有人動力飛行成功からこれまで、航空機の長大 化、軽量化、高性能化への要求は、常に航空機開発のメインテーマであり、昨今では、「運用コス ト」、「LCC(Life Cycle Cost)」「環境適合性」等を含めた総合的な価格競争力(affordability)
の向上による低コスト化要求を加え、航空機への期待と要求は、ますます強くなっている。
そのような背景の中、木材から始まった航空機材料について言えば、現在運航されている航空機 の 主 流 材 料 で あ る ア ルミ 合 金 か ら 、 最 近 で は 、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics) や、
GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics) と呼ばれる炭素繊維やガラス繊維による繊維強化複合材 料(FRP)に置き換えられている。この流れは、フェアリングなどの2次構造部品から始まり、動翼な どに適用され、新規開発機体では、主構造材料への適用が試みられている。
前述するように、航空機部品の複合材料への置換が行われるようになり、およそ40年が経過した 現在、航空機への複合材適用化比率は、増加傾向にはあるものの、当初の予測を下回っている。
航空機の複合材部品は、プリプレグ材料とオートクレーブ成形法ともに成長を続け、現在の航空機 複合材料部品の90%以上が、このシステムにより供給されている。 しかし、ここ数年は、適用部位 の拡大にともなう、長大化、複雑形状化の要求から、これまでの従来成形方法では、対応が困難にな っている現状(図2-1を参照)が適用拡大を妨げている要因の一つとして挙げられる。
製造難度 コスト 高い
部品サイズ <7mクラス>⇒
従来オートクレーブ成形法大きい
部品精度 <2D> <3D>
高い
RTM成形法
部品形状 ●I型
●複合コンタ
●補強外板等 ●ブッシュ、フィッティング作りこみ
●平板 ⇒<一体成形レベル>
複雑
将来複合材料部品
これらの諸問題を予測して、これまで10年余り、脱プリプレグ材料、脱オートクレーブ成形を狙っ た、様々な成形システムの研究開発が行われおり、中でもRTM(Resin Transfer Molding:図2-2を参 照)成形法は、低コスト化のポテンシャル、製品の寸法精度の良さから、従来成形法の代替手法と して期待され、広く研究開発されてきた。
しかし、航空機部品においては、後述するRTM成形法特有の問題(=本研究の課題)から、従来 成形法を完全に代替するまでに至っていない。言い換えれば、この課題を解決することが、RTM部品の 大幅な適用化を実現し、航空機の複合材化を一層拡大させ、次世代航空機構造への転換の掛け橋とな るといっても過言ではない。
図2-2 RTM(Resin Transfer Molding)技術概念
プリフォーム マッチドダイ
バルブClose バルブ
Open 真空 予備加熱
バルブ
Open バルブ
Open 真空 加圧
バルブ
Open バルブ
Close 加圧
加圧
樹 脂 1.強化繊維のセット
及び金型の締め合わせ
2.樹脂の含浸
3.硬化
2.2 目的
複合材料の歴史は古く、紀元前20世紀以前に古代エジプトで作られたナイル川の粘度に藁や麻を 入れた日干し煉瓦が最古の複合材料の例として知られている。その後、1942年に米国にてガラス繊 維に不飽和ポリエステル樹脂を含浸・硬化させて作られたガラス繊維強化プラスチック(GFRP:
Glass Fiber Reinforced Plastics)が高分子系複合材料すなわち繊維強化プラスチック(FRP: Fiber Reinforced Plastics)の始まりである。その後、1959年に炭素繊維が開発され、炭素繊維強化プラ スチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)が開発されると、軽量かつ高強度・高剛性 という特徴を生かし、FRPはスポーツ・レジャー製品から航空・宇宙分野に至るまで幅広い分野で使 用されている。
FRPは航空機分野において第二次世界大戦中のB29爆撃機にGFRPが初めて使用され、その後ボーイ ング社の777や自衛隊の最新戦闘機など民需・官需を問わず様々な航空機に適用されている。近年で は、原油の高騰による燃費や環境等の問題よりエアバス社のA380やボーイング社の787などの航空機 用構造部材への複合材料の適用が急速に拡大しつつあり、それに伴い複合材部品の大型化が進んで いる。
現在、航空機用複合材部品の多くはオートクレーブ成形によって成形されているが、大型化・複 雑形状化や低コスト化には十分に対応できておらず、レジントランスファー成形(RTM: Resin Transfer Molding)法などの低コスト製造法への代替が望まれている。しかしながら、RTM成形によ る複合材部品が、従来成形法に代替されない要因の一つは、RTM成形の大きな低コスト要素である部 品形状織物(三次元プリフォーム:図2-3を参照)の利用による強度特性への影響把握が不十分であ ることにより、十分な軽量化が図れていないことである。
今日までに、スティッチ織物複合材料のRTM成形に関して多くの研究がなされ、大型構造物の一体 成形技術、部品点数の削減等については確立され、この中でもNEDO委託「革新的軽量構造設計製造 基盤技術」のプロジェクトにおいては下記の成果を挙げている(図2-4を参照)。
・従来の金属主翼に比べ 27%の軽量化を達成
・先進複合材製造技術を複数適用し、部品を一体化
・金属構造に比べ部品点数54%減を達成し
・組立工数を劇的に削減
しかしながら、配向比が異なるために一概には評価できないが、表2-1に示すように強化繊維(面 内糸)が同一であってもプリプレグ材に対してRTM材の強度は見劣りする。この要因の一つとして、
有するためにスティッチ複合材料のRTM成形が実用化に至っている例は極めて少ない。
本研究では、部品形状織物(三次元プリフォーム)の強度特性を左右していると推測されるステ ィッチ糸(縫合糸)、つまり積層される面内繊維層の層間を縫い合わせる糸について、その影響を 把握し、最適なスティッチ条件を見極め、航空機主構造部材として、従来成形材料に代替可能なRTM 材料の三次元プリフォームを用いたVectranスティッチ複合材料を開発することを目的とする。
具体的には、図2-5に示す手法によりRTM成形法の実用化を妨げているスティッチ複合材料の強度 低下問題を解決するために、スティッチ糸に表2-2に示すようにCFやアラミド繊維と比較して弾性率 が低く、繊維束の細いVectran(高強度ポリアリレート繊維、クラレ製)糸を適用する。このVectran スティッチ糸を使用した複合材料を、無孔引張(NHT)強度および無孔圧縮(NHC)強度により、こ のスティッチ糸の太さの最適化を行う。次に、無孔引張(NHT)強度および衝撃付与後圧縮(CAI)
強度により、スティッチ糸の打込み間隔の最適化を行う。これらの知見をもとに、面内糸の歪みを 改善させ、かつ効率的に層間を強化し、強度およびコストに優れたVectranスティッチ複合材料部品 を開発することにある。さらに、図2-6の流れに従って航空機主構造部材への適用を想定した部分構 造要素供試体の設計および試作を行う。
本年度は、昨年度開発したVectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討を行い、更なる強度向 上を目指すとともに、決定したVectranスティッチ複合材料の力学特性データを取得した上で、部分 構造要素供試体の設計・試作を行い、その重量軽減率および内部品質を確認する。
耳糸 面内糸
スティッチ糸( Z 糸)
耳糸 面内糸
スティッチ糸( Z 糸)
図2-3 三次元プリフォーム(一例)の概略図
組立
下部ボックス(コボンド成形) 上面パネル(コボンド成形)
リブポスト一体
RTM 桁
VaRTMストリンガー
リブ組立
(ファスニング)
プリプレグ積層外板(上面)
プリプレグ積層外板(下面)
組立
下部ボックス(コボンド成形) 上面パネル(コボンド成形)
リブポスト一体
RTM 桁
VaRTMストリンガー
リブ組立
(ファスニング)
プリプレグ積層外板(上面)
プリプレグ積層外板(下面)
図2-4 RTM成形部品の一体成形技術
出典: H15 成果報告書 民間航空機基盤技術開発事業 革新的軽量構造設計製造基盤技術開発プロジェクト、NEDO
表2-1 プリプレグ材とRTM材との強度比較
RTM材(T700/TR-A31)
試験項目 試験温度 プリプレグ材
(T700/3680) スティッチ糸無し 3x3 mm* 6x6 mm* -54℃ 659 MPa 499 MPa - 416 MPa 無孔引張
RT 758 MPa 629 MPa 482 MPa 428 MPa -54℃ 373 MPa 347 MPa - 286 MPa 有孔引張
RT 385 MPa 373 MPa 342 MPa 322 MPa RT 558 MPa 578 MPa 407 MPa 401 MPa 無孔圧縮
82℃*** 372 MPa 419 MPa - 285 MPa RT 280 MPa 290 MPa 297 MPa 269 MPa 有孔圧縮
82℃*** 210 MPa 227 MPa - 215 MPa RT 253 MPa 199 MPa 291 MPa 215 MPa CAI**
82℃*** 236 MPa 155 MPa - 181 MPa
* スティッチ糸は CF(TR40-1k の 2 本撚り)糸
** 衝撃付与後圧縮強度、衝撃エネルギー:1500in-lb/in
*** 71℃の温水中で 2 週間吸水後に試験実施
出典: 平成 11 年度 材料関連知的基盤整備委託 複合材料耐久性・耐環境性データベースの整備 成果報告書、JADC
表2-2 各種スティッチ糸繊維候補の比較
項目 Vectran
(HT)
カーボン
(TR40)
アラミド
(KEVLAR 49)
密度(g/cm3) 1.41 1.80 1.44
吸湿率 0 0 3.5
引張強度 [MPa] 3,200 4,700 3,000
引張弾性率 [GPa] 75 235 112
ヤーン
最小フィラメント数 28 dtex 1K (680 dtex) 1270 dtex
特徴
弾性率が低く、
フィラメント数が少ない
(細い)
弾性率が高く、
フィラメント数が多い
(太い)
吸水・吸湿し、
フィラメント数が多い
(太い)
出典: http://www.kuraray.co.jp/vectran/top/
http://www.mrc.co.jp/
ベクトラン繊維 の 繊維束
太さ: 太い ⇔ 細い 強度: 低い?⇔高い?
太さ
ベクトラン繊維 の
打ち込み間隔
(ピッチ)間隔: 密 ⇔ 粗 強度: 低い? ⇔高い?
間隔(ピッチ)
繊維 の 直進性
RTM成形材料の強度向上
直進性最適化(材料FIX)
ベクトラン繊維 の 繊維束
太さ: 太い ⇔ 細い 強度: 低い?⇔高い?
太さ
ベクトラン繊維 の 繊維束
太さ: 太い ⇔ 細い 強度: 低い?⇔高い?
ベクトラン繊維 の 繊維束
太さ: 太い ⇔ 細い 強度: 低い?⇔高い?
太さ 太さ
ベクトラン繊維 の
打ち込み間隔
(ピッチ)間隔: 密 ⇔ 粗 強度: 低い? ⇔高い?
間隔(ピッチ)
繊維 の 直進性
直進性
繊維 の 直進性
直進性
RTM成形材料の強度向上
直進性最適化(材料FIX)
RTM成形材料の強度向上 最適化(材料FIX)
RTM成形材料の強度向上 最適化(材料FIX)
図2-5 RTM成形材の強度向上手法
材料FIX
圧盤 トッププレート
試験片
CAI試験治具 締付ボルト
圧盤
損傷付与 圧縮試験
CAI(損傷後圧縮)試験方法
クーポン(基礎物性)構造要素
詳細構造 実物大部分構造
実物大構造
将来の課題
最適設計による 軽量化および低コスト化
設計データ取得
【圧縮、CAI、引張、層間せん断 】
構造要素部材の最適設計 材料FIX
圧盤 トッププレート
試験片
CAI試験治具 締付ボルト
圧盤
損傷付与 圧縮試験
CAI(損傷後圧縮)試験方法
クーポン(基礎物性)構造要素
詳細構造 実物大部分構造
実物大構造
将来の課題
クーポン(基礎物性)
構造要素
詳細構造 実物大部分構造
実物大構造
クーポン(基礎物性)
構造要素
詳細構造 実物大部分構造
実物大構造
将来の課題
最適設計による 軽量化および低コスト化
設計データ取得
【圧縮、CAI、引張、層間せん断 】
設計データ取得
【圧縮、CAI、引張、層間せん断 】
構造要素部材の最適設計
構造要素部材の最適設計
2.3 Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討に関する研究
2.3.1 研究概要
Vectranスティッチ複合材料の基材である三次元プリフォームのスティッチ糸は層間補強効果 を示し、衝撃付与後圧縮(CAI; Compression After Impact)強度特性等を向上させる反面、ステ ィッチ糸の挿入により面内糸を歪め、引張・圧縮強度を低下させる要因となる。しかしながら、
CF(Carbon Fiber)糸については1k(1000本)よりも細い糸は上市されておらず、スティッチ糸 として品質保証できるレベルで現状よりも細いCF糸を用いることは困難である。
昨年度、CF糸よりも繊維束の断面積が小さく、かつ強度特性に優れるVectran糸に着目し、ステ ィッチ糸の太さや打込み間隔が強度に与える影響について把握するため、種々の太さおよび打込 み間隔のVectranスティッチ複合材料についてNHT、NHC、CAI強度により評価し、スティッチ糸の 最適化を行った。最適化により従来材であるCFスティッチ複合材料よりも、いずれの強度につい ても向上したものの、目標であるNHC強度の20%向上(対従来材、現状は470MPa(目標値:480MPa))
が未達成であった。また、Vectran糸のCFスティッチ糸0.1倍については製織時に切断箇所が確認 され、スティッチ糸の打込み間隔は3 x 3mmよりも密に出来ないという課題があった。
本研究では、製織手法の見直しにより、昨年度に設定した仕様よりも打込み間隔が密で、細い Vectran糸の適用可否を検討することにより、Vectranスティッチ複合材料の最適仕様を決定する。
さらに、従来材(CFスティッチ複合材料)に対する優位性について検討する。
2.3.2 供試体材料
評価に用いるRTM(Resin Transfer Molding)成形供試体は、炭素繊維(強化材)とエポキシ系 RTM用樹脂(マトリックス樹脂)からなる複合材料である。強化材には図2-7および図2-8に示すよ うな三次元プリフォームを用いた。三次元プリフォームは強化繊維である炭素繊維に一方向の長 繊維を用い、これを図2-9(a)に示すように[45o/0 o /-45 o /90 o]3sに積層配列し、種々の太さのス ティッチ糸(縫合糸)で縫合(スティッチング)することにより製作されたものである。縫合は 予め穿孔針にてガイド孔を開けた後、図2-9(b)に示すように一定の間隔に縫い針を配列し、配列 した炭素繊維の0o方向に送りながら製織した。なお、配列した縫い針の間隔を針間、針の送り間 隔を送り間隔とし、現状の針の太さを考慮すると3 x 1.5mmよりも打込み間隔(密度)を密するこ とは困難である。
供試体材料構成を表2-3に示す。本研究ではスティッチ糸(Z糸)および耳糸に種々の太さの Vectran(HT)糸(CFスティッチ糸0.15、0.2倍)および種々の打込み間隔(針間 x 送り;3 x 3mm、
3 x 1.5mm)の三次元プリフォームを適用した。面内糸には炭素繊維(T700G-12K、東レ(株)製)、
スティッチ糸および耳糸にはVectran糸(ポリアリレート繊維、マルチフィラメントヤーンHT、(株)
用いた。
なお、本研究で用いたVectran糸は表2-4、図2-10~図2-12に示すように、高強度・高弾性、低 吸湿性、耐熱性、寸法安定性等に優れた材料であり、ロープ、スポーツ用品、飛行船など幅広い 分野で使用されつつある。特にVectran糸は有機繊維でありながら吸湿特性に優れており、Kevlar のように吸湿性が問題になって複合材料としてのマーケットが縮小するようなことは無いと考え られる。
図2-7 三次元プリフォーム全体図
図2-8 三次元プリフォーム拡大図 スティッチ
糸(Vectran糸)
送り間隔
針間隔
0
o90
o打込みピッチ:6x6mm
(a) 面内糸配列
(b) スティッチ糸による縫合
出典:43th 飛行機シンポジウム講演集、in CDROM、(社)日本航空宇宙学会
図2-9 三次元プリフォーム製織方法 スティッチ糸(Z糸)
縫い針(Z針)
とめ糸(耳糸)
表2-3 供試体材料構成
(a) (b) (c)
炭素繊維 T700GC-12K
面内糸 積層構成 [45o/ 0o / -45o / 90o]3s
Vectran糸
CFスティッチ糸の0.2倍 CFスティッチ糸の0.15倍三次元プリフォーム(織物) スティッチ糸 (Z糸)
打込み間隔
(針間x送り)
3 mm x 3 mm 3 mm x 1.5 mm※ (a)は昨年度決定したVectranスティッチ複合材料の仕様
表2-4 Vectran糸の基本物性
出典:http://www.kuraray.co.jp/vectran/index.html
図2-10 Vectran糸と他材との強度と伸度の比較
(a) 吸湿率
(b) 吸湿時強度保持率
(c) 乾湿繰り返しによる寸法変化
出典:http://www.kuraray.co.jp/vectran/index.html
図2-11 Vectran糸の吸湿特性
出典:http://www.kuraray.co.jp/vectran/index.html
図2-12 Vectran糸の寸法安定特性
2.3.3供試体パネル成形
強度評価試験に用いる供試体パネルはRTM(Resin Transfer Molding)法により成形した。
供試体パネルは前述の2.3.2項で述べた通り、3種類の三次元プリフォームを用意した。この三 次元プリフォームを図2-13に示すように面内糸が歪まないように金型にセットし、RTM含浸システ ムを用いて三次元プリフォームに樹脂を含浸して成形した。硬化後の供試体パネルを図2-14に示 す。成形後の供試体パネルはいずれも目視にて確認できるレベルの気泡(ボイド)や樹脂未含浸 部等の不良部は見られず、パネル品質は良好であった。
なお、成形パネルの一部には図2-15に示すように目開きが確認された。これは、三次元プリフ ォーム製織時に発生するものであり、現状の面内糸配列時にピンを介して折り返す製織手法では 完全に無くすことは困難である。面内糸の目明きが改善され直進性が向上することにより各種強 度は向上し、ばらつきも向上することが予想され、三次元プリフォーム製織機および製織技術の 今後の改良が望まれる。
図2-13 金型内への三次元プリフォームセット状況
プリフォーム
金型
図2-14 成形後の供試体パネル
0
o90
o打込みピッチ:6x6mm
目開き(樹脂リッチ部)
45°層
目開き(樹脂リッチ部)
2.3.4 評価方法
Vectranスティッチ複合材料の材料仕様の再検討を行う上で、スティッチ糸であるVectran糸の 太さおよび打込み間隔が強度特性に及ぼす影響について以下の無孔引張(NHC: Non-Hole Tension)、
無孔圧縮(NHC: Non-Hole Compression)および衝撃付与後圧縮(CAI: Compressive After Impact)
試験により評価した。
(1) 無孔引張試験
無孔引張(NHC: Non-Hole Tension)試験はASTM D 3039/D 3039M Standard Test Method for Tensile Properties of Polymer Matrix Composite Laminatesに準拠して行った。NHC供試体 は図2-16に示す通りの寸法に加工し、供試体の中央両面に二軸のひずみゲージを貼付した。
供試体は0o方向が荷重方向に一致するように供試体をセットし、荷重負荷時にグリップフェ ースと供試体の間が滑らないように間にエメリーペーパーを挟み適当な圧力を加えて固定し た。試験は供試体を図2-17に示すように試験機にセットアップした後に万能試験機(INSTRON 4482、インストロン製)を用いて実施した。試験温度は室温とし、負荷は1.0mm/minの一定負 荷速度において引張による負荷を加え、破断に至るまでの荷重とひずみの関係を求めた。ひ ずみは供試体0o方向を縦ひずみ、90o方向を横ひずみとする。
取得データ項目は以下の通りとし、供試体板厚は公称板厚値を適用した。
・ NHT破壊強度
・ 引張弾性率
・ ポアソン比
・ 破断ひずみ
なお、NHT強度σTは式2.1により、
t b P
T
=
max⋅
σ
式 2. 1σ
T: NHT強度 [Pa]P
max: 最大荷重 [N]b
: 供試体幅 [mm]t
: 供試体板厚 [mm]引張弾性率
E
Tは式2.2により、ε σ Δ
= Δ E
T式 2. 2
E
T: 引張弾性率 [Pa]Δ
σ
: ある2点間の応力の差。ここでは縦ひずみ1000μεおよび3000μ εの点における2点間の応力差 [Pa]Δ
ε
: Δσ
を求めた2点間のひずみの差。ここでは2000[με]ポアソン比は式2.3により求めた。
L T
ε υ = − ε
式 2. 3
ν
: ポアソン比ε
T: ある2点間の横ひずみの差。ここでは縦ひずみ1000μεおよび3000 μεの点における横ひずみの2点間の差 [Pa]ε
L: ある2点間の縦ひずみの差。ここでは2000[με](2)無孔圧縮試験
無孔圧縮(NHC: Non-Hole Compression)試験はASTM D 6641/D 6641M Standard Test Method for Determining the Compressive Properties of Polymer Matrix Composite Laminates Using a Combined Loading Compression (CLC) Test Fixtureに準拠して行った。NHC供試体は図2-18 に示す通りの寸法に加工し、供試体の中央両面に二軸のひずみゲージを貼付した。供試体は 0o方向が荷重方向に一致するようにサポート治具に供試体をセットし、ボルトに7N-mのトル クを加えて固定した。試験は供試体を図2-19に示すように試験機にセットアップした後に万 能試験機(INSTRON 1128、インストロン製)を用いて実施した。試験温度は室温とし、負荷 は1.0mm/minの一定負荷速度において圧縮による負荷を加え、破断に至るまでの荷重とひずみ の関係を求めた。ひずみは供試体0o方向を縦ひずみ、90o方向を横ひずみとする。
・ 圧縮弾性率
・ ポアソン比
・ 破断ひずみ
なお、NHC強度σCは式2.4により求めた。
t b P
C
=
max⋅
σ
式 2. 4σ
C: NHC強度 [Pa]P
max: 最大荷重 [N]b
: 供試体幅 [mm]t
: 供試体板厚 [mm]圧縮弾性率
E
Cは式2.5により、ε σ Δ
= Δ E
C式 2. 5
E
C: 圧縮弾性率 [Pa]Δ
σ
: ある2点間の応力の差。ここでは縦ひずみ1000μεおよび3000μ εの点における2点間の応力差 [Pa]Δ
ε
: Δσ
を求めた2点間のひずみの差。ここでは2000[με]ポアソン比は式2.6により求めた。
L T
ε υ = − ε
式 2. 6
ν
: ポアソン比ε
T: ある2点間の横ひずみの差。ここでは縦ひずみ1000μεおよび3000 μεの点における横ひずみの2点間の差 [Pa]ε
L: ある2点間の縦ひずみの差。ここでは2000[με](3) 衝撃付与後圧縮試験
衝撃付与後圧縮(CAI: Compressive After Impact)試験はSACMA SRM 2R-94 Compression After Impact Properties of Oriented Fiber-Resin Compositesに準拠して行った。
CAI供試体は図2-20に示す通りの寸法に加工した。
衝 撃 付 与 は図 2-21に 示 す 落 錘 衝 撃 試 験 機 を 用 い て 実 測 板 厚 の 平 均 値 に 対 し て 1500 in-lb/in(6.7 J/mm)の衝撃エネルギーを供試体中央部に加えた。このときの供試体セット アップの状況を図2-22に示す。衝撃付与に際して、落錘の重量は4.536 kg(10 lb)、落錘の 先端部の直径は15.9 mm(0.625 in)とし、衝撃はスティッチ糸の打込み側より付与した。
供試体へ付与した衝撃エネルギーは式2.7により算出した。
t h U
CAIw
weight⋅
height=
式 2. 7U
CAI: 衝撃エネルギー [J/mm]w
weight: 落錘重量 [g]h
height: 落錘高さ [mm]t
: 供試体の厚さ [mm]衝撃付与後、超音波探傷装置により非破壊検査(NDI; Nondestructive Inspection)を行 った。
圧縮試験に先立ち衝撃付与後の供試体の両面に一軸のひずみゲージを2枚ずつ貼付した。供 試体は0o方向が荷重方向に一致するようにサポート治具に供試体をセットした。試験は図 2-23に示すようにセットアップした後に万能試験機(INSTRON 4482、インストロン製)を用 いて実施した。試験温度は室温とし、負荷は1.0 mm/minの一定負荷速度において圧縮による 負荷を加え、破断に至るまでの荷重とひずみの関係を求めた。
取得データ項目は以下の通りとし、供試体板厚は公称板厚値を適用した。
・ CAI破壊強度
・ 破断ひずみ
なお、CAI強度σCAIは式2.8により求めた。
t b P
CAI
=
max⋅
σ
式 2. 8σ
CAI: CAI強度 [Pa]P
max: 最大荷重 [N]b
: 供試体の幅 [mm]t
: 供試体の厚さ [mm]圧縮弾性率
E
CAIは式2.9により、ε σ Δ
= Δ E
CAI式 2. 9
E
CAI: 引張弾性率 [Pa]Δ
σ
: ある2点間の応力の差。ここでは縦ひずみ1000μεおよび3000μ εの点における2点間の応力差 [Pa]Δ
ε
: Δσ
を求めた2点間のひずみの差。ここでは2000[με]25
250
Unit: mm 4.13 REF
0°
90°
Strain gage Strain gageStrain gage
図2-16 NHT試験供試体形状
図2-17 NHT試験時の供試体セットアップ
12
140
Unit: mm 4.13 REF
0°
90°
Strain gage Strain gageStrain gage
図2-18 NHC試験供試体形状
図2-19 NHC試験時の供試体セットアップ
101.6
152.4
Unit: mm 4.13 REF
0°
90°
Strain gage Strain gageStrain gage
図2-20 CAI試験供試体形状
図2-21 落錘衝撃試験概要
10lb (4.536kg)
15.9mm(0.625in)
供試体
図2-22 衝撃付与試験時の供試体セットアップ
2.3.5 試験結果および考察
(1)衝撃付与試験結果
CAI供試体への衝撃付与後の超音波探傷検査結果を図2-24~図2-26に、に示す。これより衝 撃付与に対する損傷面積はスティッチ糸の太さよりも、スティッチ糸の打込み間隔に大きく 依存し、損傷面積は打込み間隔が3 x 1.5 mmになると小さくなる。
なお、損傷面積は超音波探傷検査によるC-スキャン画像である2次元イメージを白黒の2値 化にすることにより算出したもので、板厚方向の累積損傷面積については評価に含まれてい ないことを付記しておく。
(2)荷重-ひずみ線図
NHT試験時の荷重-ひずみ線図の代表例を図2-27~図2-29に、NHC試験時の荷重-ひずみ線 図の代表例を図2-30~図2-32に、CAI試験時の荷重-ひずみ線図の代表例を図2-33~図2-35 に示す。
NHT試験時の荷重-ひずみ線図の荷重は縦ひずみおよび横ひずみの増加に対してほぼ直線 的に増加し、その後非線形挙動を示し、最大荷重点に達すると瞬時に破断に至る。
NHC、CAI試験時についてもNHT試験同様に荷重はひずみの増加に対してほぼ直線的に増加し、
その後非線形挙動を示し、最大荷重点に達すると瞬時に破断に至る。
なお、いずれの試験における荷重-ひずみ線図もVectran糸の太さや打込み間隔によらず同 様の傾向を示した。
(3) 試験後の供試体の破壊様式
NHT試験後の供試体の破面写真を図2-36~図2-38に、NHC試験後の供試体の破面写真を図 2-39~図2-41に、CAI試験後の供試体の破面写真を図2-42~図2-44に示す。NHT、NHCおよびCAI のいずれの供試体も全て評定部で破壊し、試験後の供試体の破壊様式は、Vectran糸の太さや 打込み間隔によらずマクロ観察においては同一であった。なお、CAI試験後の供試体のみ、破 壊後の供試体がスティッチ糸の打込み側に屈曲しており、破壊の起点はスティッチ糸打込み 側のスチィッチ糸周囲にあると推測される。
(4) NHT、NHCおよびCAI強度特性評価
NHT強度を図2-45に、NHC強度を図2-46に、CAI強度を図2-47に示す。各図の左端のデータは 昨年度取得したTR-A31樹脂を用いたVectranスティッチ複合材料のデータであり、本年度新規
なお、試験結果を比較・検討する上での従来材(CFスティッチ糸(TR40-1kの2本撚り)、
打込み間隔:6 x 6mm)のデータとして表2-5に「平成11年度 材料関連知的基盤整備委託 複 合材料耐久性・耐環境性データベースの整備 成果報告書、(財)日本航空機開発協会、平成 13年3月」から引用したデータを示す。このデータを図2-45~図2-47の図中に破線で示す。
これより得られた結果を下記に示す。
i) Vectranスティッチ複合材料のマトリックス樹脂をTR-A31からエポキシ系RTM用樹脂に変 更することにより、NHC強度は14%低下したが、NHTおよびCAI強度はそれぞれ22%および21%
向上した。(NHC強度のみスティッチ間隔が異なるため、同等の評価ではない。)
ii) スティッチであるVectran糸の太さをCFスティッチ糸の0.2倍からさらに細くすることに より、CAI強度は同等であるが、NHTおよびNHC強度はそれぞれ10%および6%向上した。
iii) スティッチであるVectran糸の打込み間隔を3 x 3mmから3 x 1.5mmへと密にすることによ り、NHT、NHCおよびCAIのいずれの強度も向上し、それぞれ4%、13%および4%強度が向上 した。
iv) NHT、NHCおよびCAIのいずれの強度も、スティッチ糸にVectran糸を用いることにより、CF
(TR40-1kの2本撚り)スティッチ糸よりも20%以上強度が向上した。
(5) 考察
i) 2.3.5項の(4)のii)およびiii)の結果より、NHT強度はスティッチ糸の太さを細くすること により大幅に強度が向上し、NHCおよびCAI強度はスティッチ糸の太さを細くするよりも打 込み間隔を密にすることにより強度が向上する。また、昨年度の試験結果を踏まえて推測 すると、
・ NHT強度については、Vectranスティッチ糸の太さはCFスティッチ糸の0.1倍でピーク に達し、これよりも太くても、細くても強度は低下し、スティッチ糸の打込み間隔 は密になるほど強度は向上する。
・ NHC強度については、Vectranスティッチ糸の太さはCFスティッチ糸の0.15倍でピー クに達し、これよりも太くても、細くても強度は低下する。
・ CAI強度については、スティッチ糸の打込み間隔は3 x 3mmよりも3 x 1.5mmの方が高 い値を示すが、3 x 3mm付近でほぼ飽和に達している。
と言える。
図2-24 衝撃付与後の超音波探傷検査結果(a)
図2-25 衝撃付与後の超音波探傷検査結果(b)
図2-26 衝撃付与後の超音波探傷検査結果(c)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 AXIS 90°
CH.3 CH.4
-20000 -16000 -12000 -8000 -4000 0 4000 8000 12000 16000 20000
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-27 NHT試験 荷重-ひずみ線図(a)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 AXIS 90°
CH.3 CH.4
-20000 -16000 -12000 -8000 -4000 0 4000 8000 12000 16000 20000
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-28 NHT試験 荷重-ひずみ線図(b)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 AXIS 90°
CH.3 CH.4
-20000 -16000 -12000 -8000 -4000 0 4000 8000 12000 16000 20000
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-29 NHT試験 荷重-ひずみ線図(c)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 AXIS 90°
CH.3 CH.4
-20000 -16000 -12000 -8000 -4000 0 4000 8000 12000 16000 20000
30
25
20
15
10
5
0
LOAD(kN)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 AXIS 90°
CH.3 CH.4
-20000 -16000 -12000 -8000 -4000 0 4000 8000 12000 16000 20000
30
25
20
15
10
5
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-31 NHC試験 荷重-ひずみ線図(b)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 AXIS 90°
CH.3 CH.4
-20000 -16000 -12000 -8000 -4000 0 4000 8000 12000 16000 20000
30
25
20
15
10
5
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-32 NHC試験 荷重-ひずみ線図(c)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 CH.3 CH.4
-10000 -8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000 10000
140
120
100
80
60
40
20
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-33 CAI試験 荷重-ひずみ線図(a)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 CH.3 CH.4
-10000 -8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000 10000
140
120
100
80
60
40
20
0
LOAD(kN)
AXIS 0°
CH.1 CH.2 CH.3 CH.4
-10000 -8000 -6000 -4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000 10000
140
120
100
80
60
40
20
0
STRAIN(μmm/mm)
LOAD(kN)
図2-35 CAI試験 荷重-ひずみ線図(c)
図2-36 NHT試験後の破壊写真(a)
図2-37 NHT試験後の破壊写真(b)
図2-38 NHT試験後の破壊写真(c)
図2-39 NHC試験後の破壊写真(a)
図2-40 NHC試験後の破壊写真(b)
図2-41 NHC試験後の破壊写真(c)
図2-42 CAI試験後の破壊写真(a)
図2-43 CAI試験後の破壊写真(b)
図2-44 CAI試験後の破壊写真(c)
表2-5 スティッチ糸が炭素繊維糸の各種物性(データベース引用データ)
試験項目 スティッチ糸
*破壊強度
σ[MPa]
NHT試験 TR40-1k,2本撚り 428
NHC試験 TR40-1k,2本撚り 401
CAI試験 TR40-1k,2本撚り 215
*スティッチ糸(CF糸)打込み間隔:6x6mm
出典: 平成 11 年度 材料関連知的基盤整備委託 複合材料耐久性・耐環境性データベースの整備 成果報告書、JADC
400 500 600 700
1 2 3 4
NHT強度 [MPa]
14%Up
TR-A31← →エポキシ系RTM用樹脂
太さ:0.2 太さ:0.2 太さ:0.15 太さ:0.15 間隔:3x3mm 間隔:3x3mm 間隔:3x3mm 間隔:3x1.5mm
22%Up
CFスティッチ糸:428MPa
図2-45 NHT試験結果
300 400 500
1 2 3 4
NHC 強度 [MPa]
20%Up
TR-A31← →エポキシ系RTM用樹脂
太さ:0.2 太さ:0.2 太さ:0.15 太さ:0.15 間隔:6x6mm 間隔:3x3mm 間隔:3x3mm 間隔:3x1.5mm
CFスティッチ糸:401MPa
図2-46 NHC試験結果
200 250 300
1 2 3 4
CAI 強度 [MPa]
4%Up
TR-A31← →エポキシ系RTM用樹脂
太さ:0.2 太さ:0.2 太さ:0.15 太さ:0.15 間隔:3x3mm 間隔:3x3mm 間隔:3x3mm 間隔:3x1.5mm
21%Up
CFスティッチ糸:215MPa
図2-47
CAI試験結果
2.4 Vectranスティッチ複合材料の材料データの取得
2.4.1 研究概要
本研究では、前述の2.3節で決定したVectranスティッチ複合材料の基礎的な力学特性および温 度特性(供試体吸湿後に82℃環境下)について把握するため、NHT(Non-Hole Tension;無孔引張)、
NHC(Non-Hole Compression;無孔圧縮)、OHC(Open Hole Compression;有孔圧縮)、CAI
(Compression After Impact;衝撃付与後圧縮)、ILS(Inter-Laminar Shear;層間せん断)を 室温(RTD)および82℃(HTW)環境下において実施し、評価した。なお、82℃試験は試験前に71℃
の温水中で14日間の吸湿を行った。
2.4.2 供試体材料
本研究では前述の2.3節で決定したスティッチ糸の太さがCFスティッチ糸の0.15倍、打込み間隔 が3 x 1.5mmの三次元プリフォームを基材としたVectranスティッチ複合材料であり、供試体パネ ルの成形方法は2.3.3項で説明したものと同様の成形手法である。
2.4.3 評価方法
Vectranスティッチ複合材料について、複合材料の基礎的な力学特性である無孔引張(NHT)、
無孔圧縮(NHC)、有孔圧縮(OHC)、衝撃付与後圧縮(CAI)および層間せん断(ILS)特性を室 温(RTD)および82℃(HTW)環境下において評価した。
いずれの供試体も室温試験用供試体は試験前にデシケーター中に48時間以上の状態調節を行い、
82℃試験用の供試体は試験前に71℃の温水中に14日間の吸湿を行った。なお、吸湿した試験片の 脱湿を最小限に抑えるため、試験片は試験開始直前まで密閉袋中に多湿状態にて保管した。
(1)無孔引張(NHT)試験
2.3.3項の(1)と同様にNHT試験はASTM D 3039/D 3039Mに準拠して行った。NHT供試体は図 2-16に示す寸法通りに加工し、供試体の中央両面に二軸のひずみゲージを貼付した。供試体 は0o方向が荷重方向に一致するように供試体をセットし、荷重負荷時にグリップフェースと 供試体の間が滑らないように間にエメリーペーパーを挟み適当な圧力を加えて固定する。試 験は図2-17に示すようにセットアップした後に万能試験機(INSTRON 4482、インストロン製)
を用いて実施した。試験温度は室温および82℃とし、負荷は1.0mm/minの一定負荷速度におい て引張による負荷を加え、破断に至るまでの荷重とひずみの関係を求めた。
取得データ項目は以下の通りとし、供試体板厚は公称板厚値を適用した。
・ 引張弾性率
・ ポアソン比
・ 破断ひずみ
これらの特性は、2.3.4項の(1)の試験と同様に式2.1~式2.3により算出した。
(2) 無孔圧縮(NHC)試験
2.3.4項の(2)と同様に無孔圧縮(NHC: Non-Hole Compression)試験はASTM D 6641/D 6641M に準拠して行った。NHC供試体は図2-18に示す通りの寸法に加工し、供試体の中央両面に二軸 のひずみゲージを貼付した。供試体は0o方向が荷重方向に一致するようにサポート治具に供 試体をセットし、ボルトに7N-mのトルクを加えて固定した。試験は供試体を図2-19に示すよ うに試験機にセットアップした後に万能試験機(INSTRON 1128、インストロン製)を用いて 実施した。試験温度は室温および82℃とし、負荷は1.0mm/minの一定負荷速度において圧縮に よる負荷を加え、破断に至るまでの荷重とひずみの関係を求めた。ひずみは供試体0o方向を 縦ひずみ、90o方向を横ひずみとする。
取得データ項目は以下の通りとし、供試体板厚は公称板厚値を適用した。
・ NHC破壊強度
・ 圧縮弾性率
・ ポアソン比
・ 破断ひずみ
これらの特性は、2.3.4項の(2)の試験と同様に式2.4~式2.6により算出した。
(3) 有孔圧縮(OHC)試験
有孔圧縮(OHC: Open Hole Compression)試験はASTM D 6484/D 6484M Standard Test Method for Open-Hole Compressive Strength of Polymer Matrix Composite Laminatesに準拠して 行った。OHC供試体は図2-48に示す通りの寸法に加工し、供試体の円孔近傍に単軸のひずみゲ ージを貼付した。供試体は0o方向が荷重方向に一致するようにサポート治具に供試体をセッ トし、ボルトに7N-mのトルクを加えて固定した。試験は供試体を図2-49に示すように試験機 にセットアップした後に万能試験機(INSTRON 1128、インストロン製)を用いて実施した。