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表 1 国際民間航空条約の付属書の番号と題名 No. 題名 No. 題名 1 航空従事者の免許 11 航空交通業務 2 航空規則 12 捜索救難 3 気象業務 13 航空機事故調査 4 航空図 14 飛行場 5 測定単位 15 航空情報業務 6 航空機の運航 16 環境保護 7 航空機国籍と登録記号

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解   説   論   文

100 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2

1.はじめに

20世紀初頭に始まった航空機と無線通信の技術は,一世紀 の間に目覚ましく発展し,物や情報の地球規模の移動を容易 にした.いまや,航空機による航空輸送は我々の生活に欠か せない社会基盤となっている.ここでは安全が最優先の要件 である.「安全」と言えば,単純に無事故を思い浮かべる人は 少なくあるまい.しかし,これを技術的に扱うには安全を測 る尺度を用いたシステム的なアプローチが欠かせない. 航空ではリスクを尺度として,これが許容し得る程度に 軽減された状態を「安全」とみなす手法が用いられている(1) リスクは予測された危険事象の発生確率と結果の過酷さで表 され,具体的には航空機事故やインシデントなどが軽減対象 となる.事故防止や安全向上のための方策として,まず航空 機をはじめとしたシステムの構成要素への安全規格の設定な どがある.この設定には,安全リスクが許容可能か否かを判 定するため,安全性評価が必要である.このため,運用規格 と関連した航空機の衝突リスクなど,多くのリスク評価方法 (2)~(4)が提案・応用されてきた(5),(6).近年では,こうした構 成要素の規格に加え,事故を未然に防止するため,システム 全体としての安全管理(1)が義務付けられている(7).本稿では, 航空輸送の分野,特に民間航空における安全向上のための方 法の変遷を概観し,そこでの安全性評価の方法,安全管理の 考え方などを解説する.

2.航空輸送システム

2.1 航空輸送 航空輸送は人や物を輸送するという一種の業務(サービス) でもある.軍用などの特殊の場合を除き,これは「安全」に遂 行されることが期待される.航空輸送の特色は,例を挙げれ ば, (1)高速移動 (2)中・長距離の移動 (3)国際基準への準拠 などであろう.現在の旅客機は約900 (km/h)の亜音速で飛行 し,乗客の移動距離は最大で地球を半周するほどである.国 際線の飛行機は多くの国の上空を通過するため,運航や飛行

航空輸送の安全向上の方法について

-安全規格から安全管理への変遷-

Approaches to Improve Safety of Air Transportation System :

Transition from Safety Specifications towards Safety Management

長岡 栄

Sakae NAGAOKA アブストラクト 航空輸送では安全を最優先の要件とし,リスクに基づく安全管理が行われている.安全向上策として, まず航空機などのシステムの構成要素への安全規格の設定などがある.これには安全リスクが許容可能か否かを判定 するため安全性評価が必要である.このため,運用規格と関連した航空機の衝突リスクなど,多くのリスク評価が行 われてきた.近年では,こうした構成要素の規格に加え,事故を未然に防止するため,システム全体としての安全管 理が義務付けられている.本稿では,航空輸送の分野における安全向上のための方法の変遷を概観し,そこでの安全 性評価の方法,安全管理の考え方などを解説する. キーワード 航空交通管制,安全性,安全管理,リスク,航空輸送

Abstract Safety is a paramount requirement and risk-based safety management has been carried out in civil air transportation. One approach to improve safety is to provide regulations and standards for subsystems such as aircraft systems. For their implementation, safety assessments are required to determine whether the estimated risk is acceptable or not. Many trials of risk assessment such as collision risk evaluation have been carried out. In addition to such standards for subsystems, as a proactive strategy, safety management is now required for the states and service providers associated with the safe operation of aircraft. This paper overviews the transition of approaches for improving aviation safety and briefly describes the methods of risk assessment and the concept of safety management.

Key words air traffic control, safety, safety management, risk, air transportation

長岡 栄 正員:フェロー 海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所  E-mail nagaoka@mpat.go.jp Sakae NAGAOKA, Fellow (Electronic Navigation Research Institute, National Institute of Maritime, Port and Aviation Technology, Chofu-shi, 182-0012 Japan) 電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review Vo.11 No.2 pp.100-107 2017年10月 ©電子情報通信学会 2017

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101 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2

の方式など国際的に共通の基準に準拠して運航されている. この基準が,国際民間機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)の標準勧告方式(SARPs: Standards and Recommended Practices)で,国際民間航空条約の付属書(Annexes)である.こ れには航空輸送に必要な分野が網羅されている.表1に付属書 の題名を示す.安全に関わる第19付属書(7)2013年11月に発 効した. 航空機運航には離・発着する飛行場や飛行する空域や航空 路,陸上との接点となる空港ターミナルなどの設備などがい る.また,機材の整備・維持・管理のための施設や要員など もいる.航空輸送のシステム(図1)はこれらを含めた大規模 で複雑なシステムである. 2.2 航空交通管制 通 常, 我 々 が 利 用 す る 旅 客 機 は 計 器 飛 行 方 式(IFR: Instrument Flight Rules)と呼ばれる飛行方式で飛行している. これは,出発から到着まで,四六時中,管制機関の指示に従っ て飛行する方式である.

航空機の数が少ない時代は空を自由に飛べたが,機数の増 大に伴い空中衝突のおそれがでてきた.このため交通整理が 必要となり航空交通管制(ATC: Air Traffic Control)が行われ るようになった.管制の目的は航空機の衝突防止と交通流の 円滑な流れの促進である.衝突防止のため,航空機の周りに は他機を分離する一定の間隔基準(図2)が設けられている. 図3に航空交通管制システムの概要を示す.航空機は地上 や宇宙のサブシステムの支援を受けて飛行している.機能的 には航法(VOR/DME. GPSなど),監視(レーダ,ADSなど), 通信(無線(HF/VHF),有線),航空交通管理(航空管制,交 通流や空域の管理など)のサブシステムで構成されている. これらの構成要素は,物,人,規則や方式などを含み,こ れを取り囲む環境から成る.「物」の部分は,航空機や乗客を 受け入れる空港施設,運航を支援する機関や航空機の保守・ 整備関係施設などがある.「人」には航空機の乗員,航空管制 官をはじめとした地上での様々な業務に携わる人々がいる. 「規則や方式」には運航,運用,保安,管制など様々な規定が 設けられている.通常我々が利用する民間航空では,安全が このサービスに求められる最優先の性能である. 他の交通モードでの安全確保には停止状態がより安全な状 態となる場合があるが,空中での動力停止は墜落に至る危険 を伴うことになる.

3.航空事故の歴史的推移

まず,安全の指標として着目されるのが事故件数である. 事故は定義により命名が異なるが,死者が出たり機体が損壊 表 1 国際民間航空条約の付属書の番号と題名 No. 題名 No. 題名 1 航空従事者の免許 11 航空交通業務 2 航空規則 12 捜索救難 3 気象業務 13 航空機事故調査 4 航空図 14 飛行場 5 測定単位 15 航空情報業務 6 航空機の運航 16 環境保護 7 航空機国籍と登録記号 17 保安 8 航空機の耐空性 18 危険物の安全輸送 9 出入国簡易化 19 安全管理 10 対空通信 図 2 管制間隔基準 Sx:横間隔 Sy:縦間隔 Sz:垂直間隔(1,000ft または 2,000ft) Sr:レーダ間隔(5 または 3NM(1NM=1852m)) 注)これらの寸法は監視・通信システムや運用方式などに依存 図 3 航空交通管制のシステム GPS: Global Positioning System

VOR: VHF Omni-directional Radio Range (全方向式超短波無線標識)

DME: Distance Measuring Equipment(距離測定装置) HF: High Frequency(短波)

VHF: Very High Frequency(超短波)

ADS: Automatic Dependent Surveillance(自動従属監視) ATC: Air Traffic Control(航空交通管制)

Radar: Radio Detection and Ranging (レーダ) 図 1 航空輸送システムの主な関係者 1

図1

• ・ ・航空管制 ・飛行情報 ・気象情報 ・航行援助 空港 (国/サービス提供会社) (航空会社) ・整備 ・運航管理 ・地上ハンドリング ・乗務員 (製造業者) ・航空機 ・エンジン ・部品 利用者

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102 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2 した事故などの発生件数や発生率などがよく使われる.ボー イング社の事故統計(1959~2015年)(8)によれば,最近10年 (2006~2015)の商用機(ロシア等を除く)ジェットの死亡事 故率(100万出発回数当りの死亡事故発生件数の割合)は0.29 である(8) ちなみに,歴史的推移では,1960 年頃には10のオーダー だった死亡事故率が,1970年中頃までに,1のオーダーへと 減少した(8),(9).表2に文献(8)から抽出したボーイング社の 代表的機種の事故件数と事故率を示す.第1世代~第5世代 の代表的な機種を選んだ.また,ジェット機の機種別では, おおむね新鋭機ほど事故率が小さい傾向が窺える.

4.安全とリスク管理

ジェット機の登場以後の安全対策は「リスク」に基づいた 工学的アプローチと言ってよいと思われる(10).以下ではこの 「リスク」による安全の定義と管理について述べる. 4.1 安全の定義 「安全」とは一般には危険(危害が生ずるおそれ)がないこ とであろう.しかし,現実には危険が皆無の機械やシステム は存在しない.航空機は高度に制御された機械で,運航のシ ステムも複雑なシステムである.こうした複雑なシステムの 安全を工学的に扱うには,まず定義が要る. 表3に安全の定義の例を示す.これらの定義では,リスク (危険性)を安全の尺度としている.受容可能または許容可能 なレベルというしきい値で「安全」を分別している.航空での 安全も,IEC/ISOの定義(11),(12)に準じている. 4.2 リスクとその管理 リスク R は危害の生起確率 p とそれによる被害の重大さ d の組合せで,f(・)を関数として, R=f(p,d) (1) で表せる.安全は状態をState{・},受容可能リスク水準をRac とすれば 安全=State{R<Rac} (2) である. 図4にリスクの管理の考え方を示す.図中の安全性能基準 Rcはリスクレベルの目標値で式(2)の受容可能リスク水準に 対応する.ここでハザードは危険源と考えてよい.式(2)の 安全の状態を保つには,システムの現状を知り(リスク推定), 目標値 Rcと比較して判定(リスク評価)し,必要ならば軽減 処置をとる. 一般に装置やシステムは時間の経過に伴い変化する.この ため,長期間運用するシステムに適用する場合は,システム 性能の変化を考慮した後述する安全保証の過程を含めた安全 管理(1),(7)が必要となる. リスクを軽減するには,式(1)のpかdを小さくする何らか の方策を講じることになる.すなわち,下記の可能性を調整 すればよい(13) ・危険な状態にさらされる(暴露) ・危険事象の発生 ・危害を制限する 4.3 受容可能リスク水準の決め方 Racは対象とするシステムにより異なるが,航空の分野では, 大まかには,社会的に容認されそうな値を選ぶ.普通には, 現状の事故率の実績値やそれと同等か一桁程度小さな値が設 定される(14) 一般に,リスクの軽減にはコストがかかる.受容可能水準 の設定の考え方にALARP(As Low As Reasonably Practicable)

の原則がある.図5のように,コストも考慮し,受容不可能 事故件数 (10事故率 -6/出発) 機種 損壊事故 死亡・損壊事故 損壊事故 死亡・損壊事故 B707/720 153 74 8.84 4.28 B727 94 55 1.22 0.72 B747 37 19 2.85 1.46 B767 9 2 0.48 0.11 B777 3 1 0.32 0.11 表 2 代表的機種毎の事故率(1959 〜 2015 年)

(注1):2014年に定義が変わり、“unacceptable risk”が,“risk which is not tolerable”

に変わっている(12). 表 3 安全の定義の比較 規格文書 定義 ISO/IEC(11) Guide 51 受容できないリスクがないこと (注 1)

(freedom from unacceptable risk) JISZ8115(13) 人への危害または資(機)在の損傷の危険性 が,許容可能な水準に抑えられている状態 ICAO Annex19(7) 航空機の運航に関係するか,もしくは直接支援に おいて,航空活動に関連するリスクが受容可能 (acceptable)な水準に軽減され制御されてい る状態

ISO:International Organization for Standardization (国際標準化機構)

IEC:International Electrotechnical Commission (国際電気標準会議)

ICAO:International Civil Aviation Organization (国際民間航空機関) 図 4 リスク管理の手順 ハザード同定 被害の重大さ(

d

) と 生起確率(

)の推定 安全性能 規準:

R

c

R

<

R

c ? リスク軽減 措置 リスクを受容 NO YES リスク推定: R=f(p,d)

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103 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2

レベルと受容可能レベルを設定し,両者の間を許容可能なレ ベルとする考えである.ここで,三角形の横幅がリスクに相 当する. 4.4 システム的アプローチ 航空輸送は,システム的には,人や物をどこかに輸送する という関係者の意図を実現する業務とみなせよう.この業務 には目標があり,それがどの程度実現されているかの指標が 性能(performance)である.通常要求される性能には安全性, 容量,効率,定時性,環境への負荷などが考えられる(15).シ ステムの構成要素は,人,物(ハードウェア),規則や基準(ソ フトウェア),環境(気象や諸条件)である. 当初は個々のサブシステムでの安全性や効率などが考えら れ,個別に運用されてきた.しかし,性能を高めるにはシス テムを局所的に着目するだけでは不十分である.そこで,性 能を制限している部分(ボトルネック)を同定し,全システム 的視点から,これらを改善することが必要となってきた.

5.リスク軽減のための方策

第13付属書では航空機事故調査について規定しており,こ れまで事故が起こるたび,事故原因を調査し,システムの問 題点を明らかにし,安全性向上の努力が重ねられてきた.こ れらの安全性向上の取り組みを概観してみる. ICAOの「安全管理マニュアル」(1)は,歴史的な安全性の遷 移を,事故要因により次の三つの時代に分けて説明している (図6). (1)技術的要因(初期~ 1960年代後半) (2)人的要因(1970年代初期~ 1990年代中頃) (3)組織的要因(1990年代中頃~現在) (1)の時代では安全上の欠陥が主に故障などの技術的要因 に関係していた.当初は装置やシステムの信頼性の向上など 技術的側面に重点が置かれた.このため,安全確保のための 信頼性の要件などで記述された. (2)では,更に事故率を減らすべく,1970年代からシステ ム内の人的要因が問題となり人的過誤への対策に力が注がれ た.人間・機械インタフェースの改善などを含め,人的要因 による過誤の減少を図ったが,さほど事故率は軽減しなかっ た.1990年代に入り,個人を取り囲む複雑な環境が行動に影 響を及ぼすことが認識された.人的要因の背後にある組織的 要因が問題視された. (3)では,安全性向上のため,技術及び人的要因に加え, 環境を形成する組織的要因をも考慮するようになった. 図7は,J. Reasonのスイスチーズモデルに基づく事故原因 の概念図(1)を参考にして作成したものである.危険源が様々 な防護の穴を全て突き抜けたときのみ,事故になる.事故を 減らすには,こうした組織的要因をも含めたリスクの管理が 必要とされている.そこで出てきたのが,後述する安全管理 である.

6.安全性向上の方法

6.1 装置やシステムの安全規格 航空輸送システムの中でまず注目されるのは航空機であ る.1950から1960年代は,Comet,B707,DC-8などのジェッ ト旅客機の時代である. 旅客機にはリスクに基づく安全設計基準が設けられている. 詳細はICAOの第8付属書(耐空性)ではなく,欧米の耐空性規 則(米国のFAR(注2)-25/欧州のJAR(注3)-25)などにある(10),(16) 図 5 受容可能水準の考え方 図 7 事故原因の概念図

(注2):FAR (Federal Aviation Requirements)

(注3):JAR (Joint Aviation Requirements)

図 6 安全向上のための取組みの遷移(2)と事故率

図6

人的要因(HF) 組織的要因 技術的要因 事 故 率 1950s 1970s 1990s 2010s 事故率の傾向 年 代

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104 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2 航空機の各システムには個別に適用される基準があるが,こ れに付加して適用される一般基準となっている(16).死亡や 機体損壊をもたらす重大な故障の発生確率を極微(extremely improbable)にすることとしている.これは10-9 (1/h)未満に対 応する(10),(16).ここで,hは時間を表す.この基準の考え方 の基本は,表4に示すような許容発生確率と被害の程度の逆 進関係である.被害の程度の小さい故障の発生確率は比較的 大きな許容値となっている. 図8に,10-9 (1/h)の導出の考え方(10)を示す.いま,設計基 準の目標値とする定期便の死亡事故率を10-6 (1/h)に設定した とする.このとき,死亡事故のうち航空機システムの故障に よる割合が10 %とすると,目標値(許容発生確率)は10-7 (1/h) となる.死亡事故につながる重大な故障が100あるとすると, 目標値を満たすには各故障の発生確率は10-9 (1/h)以下に抑え ねばならない. こうした高信頼性化のため多重化や損傷許容設計が行われ(17) 整備方式なども信頼性管理に基づくものとなっている(18),(19) 航空機以外では航空機の航行を支援する航法援助システム (20),(21)などがある.代表的なものには航空路を構成する航法 援助装置(VOR/DME),着陸時に使う計器着陸装置(ILS)(22) 人工衛星を利用した全世界航法衛星システム(GNSS)を利用 したシステム(23),(24)などがある.これらにも信頼性や安全性 に関わる様々な基準がある.従来は,多くの場合,装置ごと の精度や故障率が主な要件であった.近年では,GNSSによ るシステムなどでは,これに加え可用性(Availability),完全 性(Integrity)などの要件が用いられている(20),(24) ICAOの国際基準は,従来,装置や方式を指定して定めら れていた.しかし,製造業者との関連でICAO加盟国間の利 害の対立などがあると,合意形成に時間がかかり過ぎ,最新 技術の速やかな導入や,ユーザの装置選択の柔軟性を妨げて いた.そこで,国際標準は装置ではなく性能要件で規定しよ うということになった.現在では,航法システムなど性能ベー スの要件が導入されている(25),(26).システムの性能要件が明 記されれば安全設計に好都合であることは無論であろう. 6.2 空域と管制間隔基準 表1の航空交通業務のうち航空交通管制の分野では,1970 年代から空中衝突のリスク(衝突危険度)を安全性の指標とし て用いるようになった.数学モデルにより衝突リスク評価(3), (4),(27)を行い,新しい管制間隔基準や空域の運用方式の適用 可能性などが検討されてきた(28).この衝突リスクは図9に示 すような多くの要因に依存する.場合によっては,衝突リス ク Rcollは,X(i=1,2, ...,n)を管制間隔基準などの要因 i のパラi メータとして,次のような定式化ができる. Rcoll=F(X1, X2, …, Xn) (3) ここで,F(・)は関数である. この評価では,対象空域内での空中衝突に対する受容可能 リスクのしきい値を設定し,これに対して安全性を評価する. このしきい値は目標安全度(TLS: Target Level of Safety)と呼 ばれる.Rcoll<TLSとなるように他のパラメータを調整する場 合にも用いられてきた. ここでの主なハザードは予定飛行経路からの逸脱で,この モデルの良し悪しで評価の妥当性が左右される.このため, 実測データの収集・解析(28),(29)が必要である.また,この逸 脱は航空機や管制システムのハードウェアによるものと運用 上の過誤などによるものがあり,モデル化(30)や解析は必ずし も容易ではない. 目標安全度の設定の考え方(14),(28)は航空機システムの場合 と同様である.まず,ジェット機の死亡事故率の歴史的デー タに基づいて設計対象空域の運用時点で社会的に容認されう る値を設定する.次に,全死亡事故中の空中衝突事故の割合 を見積もる.そして,その中で対象空域での管制間隔喪失に よる衝突の割合を推定し,これをTLSとする.ちなみに,現 在よく航空路で使われているTLSは5×10-9(事故件数/飛行 時間)である.ここで1衝突=2事故である. 1960年代後半から衝突リスクに基づく安全性評価(4),(28),(31) が行われている.この評価に基づき新しい管制間隔基準や方 式が導入された例としては 図 9 航空機の衝突リスクに影響する要因 表 4 航空機システムの故障の影響との許容確率(10) 6 影響の範疇 被害の程度 許容確率 軽微 (Minor) ・耐空性や乗員の作業負荷に少しだけ影響 >10-5 (1/h) 重大(Major)/ 危険(Hazardous) ・乗員が悪条件に対処 するのが困難 ・少数の重症者が出る 10-5 ~10-9 (1/h) 破壊的 (Catastrophe) ・複数の死者・機体の損壊 <10-9 (1/h)

表4

図 8 航空機システムの故障率の配分の例 4

図8

定期便の 死亡事故率 10-6/h 10% 10-7/h=100×10-9/h 10-9/h 原因別分類 重大故障の数 =102 システム 故障 10-7/h 故障1 故障2 故障99 故障100

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105 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2

(a) 北大西洋の最低航法基準(MNPS)空域(28) (b) 短縮垂直間隔(1000ft)(29),(31)の導入(5) (c) 太平洋での管制間隔基準の短縮 (d) 広域航法(RNAV)の平行経路の経路間間隔 (e) 自動従属監視(ADS)使用時の縦間隔基準 などがある.これらはリスク管理的観点から航法,監視,通 信や管制の方式など図9の諸要因についての何らかの条件を 付けてTLSを満たすようにしている.特に,後述する安全確 保のため,逸脱データの収集・分析により安全を確保する仕 組みも含まれている. 6.3 人間工学的改善 人的要因の部分では機械と人間の接点部の改善が図られ た.事故の教訓を生かして,エラーが発生しにくくするよう, 操縦系統の警報装置や防護システムの追加,直感に訴える計 器表示,操作・入力系の改善などが行われた(32).航空機の世 代とともに人間工学的な成果を取り入れ,航空機の操縦室は, 計器数も少なく,見やすく,操作しやすいものになってきた. 6.4 系統的安全管理 安全向上には顕在化した事故原因の調査のみでは不十分 で,潜在的な原因の除去が重要である.このため系統的な リスク管理が必要とされている.この一例が安全管理体制 (SMS: Safety Management System)(32)~(36)である.これは次

の四つの部分からなる. (1)安全方針と目標 (2)リスク管理 (3)安全保証 (4)安全推進 ここで,(1)は,組織の安全に対する取組みの方針と目標 を明確に定め,幹部の関与の下で組織的取組みを行う枠組み の構築である.(2)は,システム導入前のリスク管理(図10 の左側)である.(3)の安全保証は図10の右側の過程である. 運用中のシステムの安全性能を監視・測定し,目標値との差 異が大きい場合はこれを是正し,設計時の性能を維持する(1) (4)は,安全情報を組織内で共有することで安全を推進する. 具体的な行動としては,教育,訓練,組織内での意思疎通(コ ミュニケーション)などがある. 6.5 第 19 付属書の発行  2006年になり,ICAOの第6付属書(航空機運航),第11付 属書(航空交通業務),第14付属書(飛行場)が改訂され,国

の安全管理プログラム(SSP: State Safety Program)設立が義務

化された(32),(36).これに伴い,国は航空交通業務関係者だけ でなく,運航者(航空会社),メンテナンス機関,飛行場運 用者などの業務提供者に対して,国が承認した安全管理体制 (SMS)を実施させること義務化した.これ以後の安全管理は 次の二つからなる. (1)国家安全プログラム(SSP) (2)安全管理体制(SMS) (1)の国家安全プログラムは国が策定するもので,国は確 保すべき安全性の水準を定め,これを満たすように各業務提 供者(事業者)の安全管理体制を監督する. (2)は各事業者が行うものである.表5にSSPとSMSの要 件の内容(7)を示す. ICAOでは,2013年には第19付属書(安全管理)(7)を発行し, これまで付属書毎に別個に規定されていた安全管理を一つに まとめた.また,発効前は適用対象が, ・免許認定訓練組織, ・航空機運航者, ・航空交通業務提供者(管制機関), ・飛行場業務提供者 に限られていたが,航空機設計・製造業者や航空機の安全運 航に関係するか,それを支援する部署の安全管理機能にも適 用されることになった. 表 5 国家安全プログラムと安全管理体制

表5

国家安全プログラム (SSP) 安全管理体制 (SMS) 実施主体と 目的と義務 国 ・監督下の業務提供者にSMSを 実施させる ・安全上の監督 業務提供者 ・SMSに関し国の許可を得る 方針と目的 ・国の安全上の法的枠組 ・国の安全上の責任と説明責 任 ・事故・インシデント調査 ・執行方針 ・経営者の参画と責任 ・安全上の説明責任 ・安全責任者の指定 ・緊急時対処計画の調整 ・SMSの文書化 リスク管理 ・事業者のSMSの安全要件 ・事業者の安全性能に関する 合意 ・ハザード同定 ・リスク評価と軽減措置 安全保証 ・安全監督 ・安全データ収集・解析・交換 ・安全データに基づく監督対象 の絞り込み ・安全性能の監視・測定 ・変化の管理 ・SMSの継続的改善 安全推進 ・内部訓練・安全コミュニケー ション・安全情報の普及 ・訓練・教育 ・安全コミュニケーション 図 10 リスク管理と安全保証の関係 システム記述/ ギャップ分析 リスク評価:R ハザード同定 リスク 軽減措置 システム稼動 継続的改善 安全性能 監視・測定 是正措置 R<Rac? 変化(逸脱) リスク管理 安全保証 No Yes 小 大 運用開始時 運用時 Rac Rd 図10 Rac: リスクの判定基準 Rd: 時間的変化(運用開始時からの逸脱)の判定基準

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106 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2 6.6 日本での安全管理の適用 日本の航空界にSMS が導入されたのは 2006 年である(19) この年には,ICAOの安全管理の手引書(1)の初版が発行され た.SSPは第19付属書の発行後に開始されている(19).日本の 航空局は2013年10月に航空(国家)安全プログラム(SSP)(37) を発表している.これは,従来行ってきた規則遵守の安全対 策に加え,規制当局と業務提供者各々が事前予防的な取組み を実施し,安全性の向上を図るためのものである.具体的に は, ① 業務提供者に対し,個々の安全指標及び安全目標値の設 定を求め,安全達成度の監視を行う, ② 安全情報の収集範囲を拡大し,安全情報の共有を図るこ とで事前予防対策を充実させる, としている.このSSPは,2014年度から年度ごとに示した計 画に基づき実施されている(19)

7.まとめ

本稿では,民間航空輸送の分野における安全向上のための 方法の変遷を概観し,そこでの安全性評価の方法,安全管理 の考え方などを解説した. 航空では事故を軽減するため,まず,航空機システムをは じめとするハードウェアの信頼性向上を図った.次には,運 用時の人的要因,エラー発生の仕組みに着目した.そして, エラー発生の背後にある組織についても対策を講じるように なった. 要約すれば,リスクに基づき安全を考え,目標水準を設定 し,運用状況をモニタし目標の達成度である性能を管理する 手法をとっている.対象システムは個々のサブシステムから, 人・物・ソフト・環境を含むシステム全体でのリスクを管理 対象とする方向へシフトしてきたと言えよう.この方法は, 航空システム全体の安全性をリスクという性能指標で表し, これを管理する品質管理の手法とも考えられる. 文  献

(1) ICAO Doc 9859 AN/454, “Safety management manual (SMM),” 2nd Ed., 2009.

(2) ICAO Circ 319, “A unified framework for collision risk modeling in support of manual on airspace planning methodology for separation minima,” 2008.

(3) ICAO Doc 9689, “Manual on airspace planning methodology for the determination of separation minima,” 1998.

(4) 長岡 栄, “航空システムのための安全性評価の動向-飛行運 用安全性評価(FOSA)とその背景-,” 信学技報, SSS2010-4, pp.13-16, May 2010. (5) 天井 治, “短縮垂直間隔運用における空域の安全性評価に ついて,” 日本信頼性学会誌「信頼性」, vol.35, no.5, pp.287-294, Aug. 2013. (6) 又吉直樹, “気象情報を利用した航空機間隔(後方乱気流管制 間隔)の動的設定,” 日本信頼性学会誌「信頼性」, vol.35, no.5, pp.295-302, Aug. 2013.

(7) ICAO, “Safety management,” Annex 19 to the Convention on int’l civil aviation, Nov. 2013.

(8) Boeing, “Statistical summary of commercial jet airplane accidents

worldwide operations 1959-2015,” http://www.boeing.com/ resources/boeingdotcom/company/about_bca/pdf/statsum.pdf

(9) 十亀 洋, “飛行機はなぜ墜ちるか-航空安全のシステム,” 日

本流体力学会誌「ながれ」, vol.21, pp.274-279, 2002.

(10) E. Lloyd and W. Tye, “Systematic safety,” Civil Aviation Authority, Cheltenham, England, 1982.

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(8)

107 IEICE Fundamentals Review Vol.11 No.2

長岡 栄(正員:フェロー)  1974電通大大学院修士了.1974運輸省電子航法研 究所入所.1986工博(東大).1979-1980仏国CENA(航 空航法研究センタ)にて在外研究.2008-2009 電子航 法研究所 研究企画統括, 2009同所定年退職.2006-2009東大大学院客員教授,2006-2012東京海洋大大学 院客員教授.現在,(国研)海上・港湾・航空技術研 究所契約研究員,日大大学院非常勤講師.Royal Inst. of Navigation, Fellow.日本航空宇宙学会フェロー.

図 1 航空輸送システムの主な関係者 1 図1• ・ ・航空管制 ・飛行情報 ・気象情報 ・航行援助 空港 (国/サービス提供会社) (航空会社) ・整備 ・運航管理  ・地上ハンドリング ・乗務員 (製造業者) ・航空機 ・エンジン ・部品 利用者
表 3 安全の定義の比較
図 6 安全向上のための取組みの遷移 (2) と事故率図6人的要因(HF) 組織的要因技術的要因 事故率1950s 1970s 1990s  2010s 事故率の傾向年    代

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