卒業生の近況報告 栃木県南児童相談所
著者 石間伏 佳恵
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 9
ページ 75‑77
発行年 2009
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010056/
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第9集
卒業生の近況報告
栃木県南児童相談所
石間伏 佳 恵
私は、栃木県南児童相談所に勤務を始めてから 3年目を迎える。県南児童相談所は県内3つ(中 央、北、南)ある児童相談所の中で南に位置する 栃木市にある。職員は現在29名であり、所長を 筆頭として児童福祉司(以下、ケースワーカーと 表現)、児童心理司(以下、セラピストと表現)、
相談員、里親推進委員、心理判定嘱託員、嘱託医 が働いている。その中でも職務によっていくつか のグループ構成がされ、庶務相談グループ、地区 担当グループ、虐待対応グル・…一・プ、心理判定グル
ープの4つとなっている。私は虐待ケースのみを 扱う虐待対応グループに所属している。
この虐待対応グループができたのは、平成12 年度の児童虐待法制定以降、社会の虐待に対する 認識が高まり、児童相談所への虐待通告も増加傾 向にあることから、栃木県でも児童虐待の初動調 査の充実を図るため、平成17年度に虐待対応チ ームが創設されたことと関連している。虐待対応 チームは虐待通告を受けた際に、①調査②介入③ 援助方針の決定、という初期対応を目的とし、児 童福祉司4名と非常勤職員1名で構成されており、
私は虐待対応チームの中で非常勤職員(こども相 談員)として勤務している。私が就いているこど も相談員という役職は栃木県独自のものであり、
社会福祉士、保育士、心理士等に該当する者であ れば就く事ができるが、私は心理職として、虐待 を受けた児童の心理判定および心理的ケアを行
栃木県南児童相談所
う事を主な業務としている。
私の具体的な業務としては、虐待の要因となる こどもの能力的特徴把握や虐待による心理的影 響の判定といったアセスメントの仕事と、継続的 面接を行う心理的ケアの仕事がある。その他、施 設巡回相談の参加、毎週1回所内で行われる援 助・方針会議の参加および議事録係りなどがある。
私の所属する虐待対応チームは虐待通告への初 動調査・初期対応が主となり、関係機関からの聞 き取り調査や家族との面接等を行い、ある程度援 助の方向性が決まった段階で地区担当ケースワ ーカーへ引き継ぐことになっている。私の職務の 場合にも、こどもの担当を心理判定グループの方 へ引き継ぐことになるが、必ずしもすべて引き継 ぐわけではなく、こどもとの関係性を考慮してお こなうことが大事である。家族分離が必要と判断 され、こどもが施設入所となった場合にのみ、心 理判定チームに引き継ぎ、その際、私は最初のア セスメントのみを行うことになっている。
児童相談所で行われるアセスメントや心理的 ケアには定められた基準があるわけではなく、検 査の種類も治療法もすべて担当セラピストの判 断に任されている。アセスメントに関しては、一 般的に知能検査、質問紙、投影法のバッテリーを 組む事が多く、分からない事は心理判定チームの 先輩方に助言を得ながら、何度もぶっつけ本番を 繰り返す事で訓練していっている。特に、児童相 談所のケースは家族やこども側が面接を望んで おらず、面接を継続させる事が難しいケースが大
一75一
栃木県南児童相談所
半である。私のこれまでのイメージでは困ってい るクライエントが自ら相談に来るものと考えて いたため、最初は戸惑いもあった。しかし、ここ での面接では、時として、こちらが積極的に家庭 へ出向き、相手に嫌がられながらも面接を進めな ければならず、治療枠のない状況に初めは抵抗を 感じ、また、面接を望まない相手との関係構築は
とても困難であることを感じた。特に、虐待を受 けたこどもは大人への不信感が強く、周囲の環境 の変化や大人の表情にも大変敏感である。そうい ったこども達との面接では、第一に、安心感を持 たせられるような環境作りが大切であり、面接室 が 守られた安全な場 であるということを感じ てもらうような工夫や配慮が必要であることを 実感しつつある。
私は児童相談所に勤め始め、虐待家庭に関わっ ていくことで、私の虐待への認識は大きく変わっ た。県南児童相談所で受けた虐待通告は年間で 170件前後あり、ケースの中には最低限の衣食住 さえまともに与えられていないこどもや、ひどい 身体的暴力や性的暴力を受けているこどもがお り、これまで私が経験してきた環境とは全く異な る非日常の出来事に遭遇する毎日だった。しかし、
こども自身にとってはこのような状況も日常の ことであり、何年もその環境を強いられてきたと いう事実に大きなショックを受けた。私は勤務以 前まで、 児童虐待 というキーワードをニュー スで聞くと、すべては養育者である親の責任であ り、こどもを親から引き離して安全な環境に移す べきであると考えていた。しかし、実際に家庭に 関わっていくと、裏の背景には、こどもの精神・
発達の遅れ、経済的困窮、家庭内暴力、虐待の世 代間連鎖など複雑な問題が絡み合っており、一概 にこどもを保護し、親を罰するだけでは済まされ ない問題である事が分かってきた。特に、経済困
窮によるネグレクトや心理的虐待などはこども 自体が家を離れる事を拒否する場合も多々ある。
拒否する理由は、友人やきょうだいと離れる事へ の抵抗であるが、こども自身が親を慕っていたり、
現在の家庭が自分の居場所だと考えている事も 多い。また、こどもを一時保護し、保護中にこど もの心理判定や家族の関係調整を行った後、もう 一度家庭へ戻すケー…hスもある。家庭へ戻すケース も、虐待再発の可能性が全くないわけではない。
私は勤務当初、そのような家庭にこどもを戻して 良いのだろうかと疑問を感じていた。しかし、こ どもにとっては親という存在は重要であり、可能 な限りは親への再教育やこどもの心理的ケアを 行い、家族を支援していく事が児童相談所の最大 の仕事であることを理解した。その為、私も援助 するに当たり、虐待を単に善悪で判断するのでは なく、虐待に至る原因を客観的に把握し、こども 自身の親に対する複雑な感情(慕う気持ちと憎し みなど、相反する感情)を受け止めてあげられる
ように現在では心がけている。
児童相談所に勤めることで、私は多くの驚きや 戸惑いを体験し、また悲しい社会の現状を知った。
私は県南児童相談所に勤める以前、職務経験や臨 床実習において、思春期以前のこどもを担当した 経験がなく、児童相談所の知識もほとんどなかっ た。その為、採用が決まった時点では就職に迷い、
があった。しかし大学院の先生方には「今まで経 験の少ない領域で学ぶことは自分の可能性を広 げる事になり、心理士として大きな学びとなる 事」や「新米心理士のうちは積極的に色んな経験
をすることが大事だ」と教えていただき、思い切 って飛び込んだことが今となっては良い選択で あったと考えている。児童福祉の現場に来るまで は決して知り得なかった児童虐待の実態を知り、
私自身の人生経験としてもとても大切なことを
一一