博 士 ( 工 学 ) 浴 永 直 孝
学 位 論 文 題 名
人 造 黒 鉛 電 極 の 破 壊 挙 動 の 評 価 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近年、全粗鋼生産における電炉鋼の占める役割が高まって、電炉鋼の生産性を左右する 人造黒鉛電極の性能向上が求められている。本研究は、この電気製鋼炉における人造黒鉛 電極の性能に大きく影響している耐熱衝撃性と接続部の実効強度に関するものである。熱 応力破壊は、先端で発生するアーク弧の大きな熱発生が引き起こす急激な温度分布変化に 依るものであり、そのクラックによって電極が欠け落ちる事故となる。類似の熱応力破壊 の問題が、電極を製造するための黒鉛化炉においても発生している。電極の接続部はねじ 加工した継ぎ手とソケット部で構成されており、本質的に強度が低く、破壊しやすい傾向 にある。巨大なスクラップが先端に崩れ落ちて大きな曲げモーメン卜が加わると、ソケッ トもしくは継ぎ手が破損する事故となる。本研究では、これらの破壊事故を減少させるた めに、人造黒鉛電極の破壊挙動を基礎的に検討するとともに 、熱応力破壊を評価する方法、
ならびに 、接続部 の実効強 度を向上 させるた めの方策を 提案することを目的とした。
研究の成果は以下に要約される。
1)小試験片による破壊靭性試験を行った。初期弾性線から徐々にずれて、非線形破壊す ることを正確にとらえることができた。そして、亀裂の進展に対しては、破壊エネルギ―
J値で評価する必要があることを明らかにした。亀裂の進展に対する破壊エネルギ−J値 を定量的に求めることができ、両者の関係がーつの回帰式で整理できることを示した。
2)AE法を活 用し、破 壊靭性試 験における巨視亀裂発生点を判定できることを示した。
人造黒鉛電極材では、最高荷重のほぼ90%の荷重で巨視亀裂(破壊)が発生していることが 判明した。電極材の臨界破壊工ネルギーJIcは約0. Olkgf/mm、継ぎ手材は約0.014kgf/mmで あった。曲げ強度が高くなると、臨界破壊エネルギーJ【cは大きくなるが臨界開口変位COD fは小さくなる傾向を示した。また、弾性率から人造黒鉛電極材の臨界破壊エネルギーを推 定できることを示した。この臨界破壊工ネルギ一JIcや臨界開口変位CODfは、実用時の耐熱 衝撃性を論ずるに重要な情報である。
3)切り欠きを持った円板試験片の中心をアーク加熱するとともに切り欠きの閉口変位を 同時に測定することによって、耐熱衝撃性を評価した。開口変位がある時間でステップ状 に増加し、クラックがアークスポッ卜まで瞬時に進展する挙動をとらえることができた。
種々の電極試験片そして種々の切り欠き長さについての実験結果をもとに、電極材の耐熱 衝撃性を高精度、高再現性をもって評価できるパラメー夕臼(熱衝撃エネルギ一解放率)
を提案した。0の値が小さいほど、耐熱衝撃性が良い。電極材の実用成績は、この0値と よい対応を示した。
4)電気製鋼炉での熱衝撃破壊と本質的に同じである黒鉛化炉の夕一ミナルの熱応力破壊
―332 ‑
を解析した。電極材の製造工程の黒鉛化炉で使用されている夕―ミナルに発生する同心円 状の割れについて、有限要素法を用いて解析した。破壊は最高温度に達した後送電を終了 する直前に発生し、高温域で高い値を示す熱膨張率がその破壊を助長していることを明ら かにした。そして、このターミナルの熱応力破壊は、電気製鋼炉の電極におけるそれと本 質的に同一であることを示した。
5)継ぎ手の形状を変化させることで、継ぎ手の実効強度の向上を試みた。まず、種々の 形状の継ぎ手について、その応力分布を有限要素法で解析した。その結果、継ぎ手をJISで 規定するピッチラインより小さなテーパーでねじ山を削り落とすと、継ぎ手の実効強度が 上昇すると考えられた。この形状の継ぎ手を実用サイズで加工して実際に破壊させたとこ ろ、予測通り継ぎ手の実効強度(折損曲げモーメント)が上昇した。この成果は実用化さ れ、現在継ぎ手の折損事故防止に貢献している。
6)また、ソケットの実効強度に着目した。まず、種々の長さの継ぎ手を接続した接続部 の応力分布を、有限要素法で解析した。その結果、継ぎ手の長さが長いほどソケットの実 効強度が上昇すると考えられた。この結果は、実用サイズでの破壊実験によって実証でき た 。 こ の 接 続部 の 実 用化 に よ って 、 ソケ ッ ト 折損 事 故率 は 大 幅に 低 下し て い る。
以上、人造黒鉛電極の熱応力破壊の評価を行うとともに接続部の実効強度向上について 研究し、いくっかの研究成果を得ることが出来た。
―333―
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
人造 黒鉛電極 の破壊挙動の評価に関する研究
人造 黒鉛 電極 の実 用過 程に 於け る破 壊事 故 は, 大き な温 度分 布に 起因 する 熱応 力破 壊と 本 質的 に強 度の 低い 接続 部で の曲 げモ ーメ ン トに よる 破壊 に大SUさ れる .こ れら の事 故を 減 少さ せる ため には ,複 雑な 組織 を持つ人造黒鉛電極 材の破壊挙動の基礎的検討とともに,
熟 応力 破壊 を評 価す るた めの 新し い方 法を 開 発す るこ と, さら に実 効的 に接 続部 の強 度を 向 上さ せる こと が望 まれ てい る・
本論 文は まず ,人 造黒 鉛電 極の 破壊 挙動 が 非線 形的 であ り, その 破壊 靱性 は破 壊エ ネル ギ ーJで 評 価 す る こ と が 必 要で ある こと を 示し た. そし て, 亀裂 の進 展に 対す る破 壊エ ネ ル ギ ーJ値 がJ =Ji十S( △a)mな る 回 帰 式 で 整 理 で き る こ と を 示 し た . 巨 視 亀 裂 発 生 点の 電位 差法 ,Acoustic Emission(AE) 法お よび クラ ック ゲージ法による判定を試み,
AE法 が 最 も 適 し て い る こ と を 実 験 的 に 示 す と 共 に ,7種 の 人 造 黒 鉛 電 極 試 料 の 破 壊靱 性 値J; 。を 評価 し た. さら に, 破壊 エネ ルギ ーや 臨界 開口 変位 と弾性率および曲げ破壊強度 と の関 係を 明ら かに し, 弾性 率を 測定 すれ ば ,非 破壊 検査 的に 人造 黒鉛 電極 材の 破壊 エネ ル ギー を推 定で きる こと を示 した .ま た, 人 造黒 鉛電 極材 での 非線 形破 壊挙 動の 原因 をそ の 組織 から 諭じ た.
耐熱 衝撃 性試 験と して ,切 り欠 きを 持つ 円 板試 片の 中心 をア ーク 加熱 し, 切り 欠き の閉 口 変位 の時 間変 化を 測定 した .開 口変 位は あ る経 過時 間で ステ ップ 状に 増加 し, クラ ック が ァー クス ボッ トま で瞬 時に 進展 する ,い わ ゆる 熱衝 撃破 壊す る. この 破壊 にと もな って 急 増し た切 り欠 きの 開口 変位 が原 点を 通る 直 線上 にほ ぼ存 在す るこ とを 見出 し, その 直線 の 傾 き8を 耐 熱 衝 撃 性 を 評 価す るパ ラメ ー タと して 提案 し, 熱衝 撃エ ネル ギー 解放 率と 名 付 け た . そ し て , こ の8値 が 電 極 の 実 用 成 績 と よ く 合 致 す る こ と を 見 出 し た . 電気 製鋼 炉で の熱 衝撃 破壊 と本 質的 に同 じ であ る, 人造 黒鉛 電極 製造 のた めの 黒鉛 化炉 に 於け るタ ーミ ナル 黒鉛 電極 での 熱応 力破 壊 挙動 を有 限要 素法 によ って 解明 した .実 用時 の 同心 円状 のク ラッ クの 発生 が, ジュ ール 発 熱に よっ て最 高温 度に 達し た送 電終 了直 前に 起 こり ,電 極材 の高 温で の高 い熱 膨張 率に よ って 破壊 が助 長ぎ れて いる こと が明 かと なっ た .そ して ,電 気製 鋼炉 での 人造 黒鉛 電極 の 熱応 力破 壊と の共 通点 につ いて も議 論し た,
人造 黒鉛 電極 本体 (ボ ール )を 継ぎ 手材 ( ニッ プル )を 介し て接 続し てい る部 分が 最も 破 壊の 確率 が高 い. しか も, この 接続 部は ネ ジ加 工さ れて おり ,そ の破 壊は 電極 素材 の強 度 のみ でな く, 接続 の状 態に も強 く依 存し て いる .そ こで ,こ の接 続部 での 応力 分布 を有
夫 夫
三
平
道 朝
雄
紘
垣 木
田
平
稲 鈴
真 小
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
隈要素法によって解析し,接続部の実効強度向上のため継ぎ手およびボールのソッケト部 の形状をいかに改良すべきかを検討した.その結果,継ぎ手のネジ山をJIS規格よりも小さ いテーパ丶一Iで切り落とすことによって実効強度が上昇させ得ること,ソケット部の実効強 度が継ぎ手を長くすることによって向上し得ることを明らかにした.そして,この結果に 従 っ て 形 状 を 改 良 し た 電 極 が 高 い 実 効 強 度 を 持 つ こ と を 実 証 し た . 以上のように,本諭文は電気製鋼炉などに使われている人造黒鉛電極の破壊挙動の解明 を通して,その耐熱衝撃性の評価のための新レいパラメータを提案するとともに,電極接 続部の強度を向上するための実効的な方法を提案したものである.本研究の成果は人造黒 鉛電極の破壊挙動の理解と製造工程の改良に寄与すると共に,接続部の改良に関してはす でに実用化され,人造黒鉛電極の折損事故防止に貢献している.このように,本研究な炭 素材料の科学と工学に寄与するところ大である.よって,著者は北海道大学博士(工学)
の学位を授与される資格あるものと認める.