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博 士 ( 工 学 ) 水 戸 部一 孝

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 水 戸 部一 孝

学 位 論 文 題 名

学習障害児の定量的評価を目的とした知覚運動協応の研究

学 位 論 文 内 容 の 要旨

   飛んできた ボールを 受け止め たり,転 がってい るポールを蹴ったりとい うように, 「視覚情 報に誘導 され協応 的に行わ れる運動」がある.このよ うな現象を知覚運動協応という.このような日常何気なく行える動作でも,

学習障害 (Learning Disability: 以下LD とよぶ)児と呼ばれる子供達にとっては 多大な苦労 を伴う, LD 児の出現 率は 2.5 〜 5 % と報告されており,換算する と小 学 校の 1 ク ラ ス に一 人 いる 計 算 にな る .現 在 の とこ ろ ,LD の機 序は 解明されて おらず, 通常の神 経学的検 査では発 見できない脳の微細な領域 での機能障害と想像されている.

   一 方, LD を早 期 に 発見 , 診断 し て適切 な指導や 治療を行え ば,他の 障 害児と同様 に障害の 発現が軽 度になっ たり,社 会適応がしやすくなること が知 ら れて い る ,現 在 , LD の 診断 には さまざま な診断基準 が提唱さ れて いるが,い ずれも診 断する医 師および 療法士に 豊富な経験が要求される.

特に,運動 機能の評 価は「動 作がぎこ ちない」 など主観的な評価を行うし か な く , 客 観 的 な 評 価 方 法 の 確 立 が 臨 床 の 場 か ら 望 ま れ て い る .    本 研究 の 最 終目 的 は, 以 上 の背 景を ふまえ, LD 児の運動機 能を客観 的 に評価しうる診断方法を構築することである.

   この基礎研究として,知覚運動協応の特性およびその因子を明らかにし,

こ れ に よ り LD 児 の 特 徴 を 定 量 的 に 評 価 で き る か 検 討 す る ,    本論文は全5 章で構成されている.

     第 1 章 では,本 研究の背 景,特に , LD 児の客観 的診断方 法の必要 性,

児童の 発達の過 程におけ る知覚運 動協応の 重要性を指摘した.そして本研 究の最 終目標と ,そのた めに知覚 運動協応 の機序の解明が必要であること を述べた.

     第 2 章 では , LD お よ び知 覚 運 動協 応 に関 す る 従来 の 研究 に つい て考 察 し , そ の 問 題 点 , お よ び 本 研 究 の 指 針 に つ い て 述 ぺ た .      第 3 章 では , LD 児 の 知覚 運 動 協応 を 診断 す る ため の 基礎 的 知見 を得 るため に,成人 健常者を 対象とし た知覚運 動協応の特性を計測した.まず 知覚運 動協応の ーつであ る「物音 や光った 方向を見る」という注視運動に 蔚鬥し,視聴覚刺激システムおよび注視運動計測システムを構成した.夕ー ゲ ット には視 覚刺激, 聴覚刺激 および視聴 覚刺激の 3 種類用い ,被験者 か ニっ`t 径 0 .5rn の作業空間内にある円周上に呈示した.夕ーゲットの呈示時間 は(】 2s であり,被験者には「できるだけ素早く知覚方向を向く」ように教 t した .その結 果,視覚刺激および視聴覚刺激において視界周辺部に呈示 さ ォ1 たターゲ ットに対 する注視 点が5 〜 9 ゜に わたり正 面方向に ズレるこ とがI リ I らかになった.以後この現象を「周辺部でのズレ」とよぶ.また,

砒覚刺激と聴覚刺激を加えた場合,標準偏差の平均が 8 . 3 °から 5 .3 ゜へ減

´レし ,急峻な 眼球運動 であるサ ッケード の潜時の標準偏差も減少した.

(2)

   ニの 効果 に関係して,近年サルの脳において「異なる感覚情報を用いて 矧 りの 環境 から感覚刺激に注意を向ける機能」に関与すると考えられてい る 多感 覚応 答細胞が見いだされている.この知見より,視覚と聴覚という 異 なる 感覚 情報を同時に呈示することで被験者の注意が喚起されたと推測 した.

   また ,「 ものに手を伸ばす」という指示運動を計測し,異なる運動出カ が 知覚 運動 協応の特性におよぽす影響を調べた.その結果,注視点と同様 に 指示 点に も7 ゜〜8 ゜の「周辺部でのズレ」を確認した.このことから,

「 周辺 部で のズレ」が注視運動に固有なものではないことが明らかになっ た.

   次に ,視 覚刺激のみのターゲットを作業空間外の半径1.5m に配置した場 合 の指 示点 を調べた.このとき被験者には,円周上の正面に位置する注視 点 を, 常に 注視続けるよう教示した.その結果,視界周辺部における指示 点 のズ レは 約8 ° 減少 し, 正面 付近 のズ レは 周辺 方向 に約 6 ゜増 加し た.

作 業空 間の 内外では全体的に指示点が周辺部にシフトする現象が明らかに な り, 以後 この現象を「指示点のシフト」とよぷ.また,この傾向が指示 運 動に 固有 の現象かどうかを調べるために,運動特性に依存しないチャー ト 板に より 知覚方向を調べた.チャート板とは,羅針盤の様に被験者が知 覚 した 方向 を針によって指し示すものである.その結果,危険率P>0.05 で 指 示点 とチ ャート板による応答に有意差はなかった.これより,「周辺部 で のズ レ」 および「指示点のシフト」が指示運動に固有の現象ではないこ とが明らかになった.

   一方 ,注 視点までの距離が変わると眼球の輻輳角および焦点が変わる.

そ の結 果, 網膜像および一次視覚野に投射される像も変わる.っまり,注 視 点ま での 距離の変化が「指示点のシフト」を引き起こす可能性が考えら れる.そこで,夕ーゲットを半径1 ,5m の円周上に配置し,注視点を被験者 の正面0 .5m の位置に呈示した条件下で実験を行った.その結果,危険率P>

0 .05 で注視点までの距離の変化による指示点の有意差は認められなかった.

し たが って ,作業空間内外の特性を変える要因は一次視覚野以降の過程に あるといえる.

   以上 の知 覚運動協応の知見と神経生理学上の知見を基に考察した結果,

「 周辺 部で のズレ」および「指示点のシフト」は,一次視覚野から空間の 認 識に 関与 していると報告されている頭頂連合野に至る過程において生じ ていると推測した.

     第 4 章 で は , 前 章 の 結 果 を 踏 ま え て , 5‑8 才 ま で の 4 人 の LD 児 お よ び 3 人 の 健 常 児 を 対象 と し , 指示 運動 によ るLD 児の 定量 的な 評価 を試 み た. 視覚 刺激および視聴覚刺激をターゲットに用いた指示運動を計測し た 結果 ,視 覚刺激を夕一ゲットとしたとき,危険率P>0.05 でLD 児と健常児 の 指示 点に 有意差は生じなかった.しかしながら,視覚刺激に聴覚刺激を 同時に呈示することで,LD 児と健常児の指示点に危険率P く0 .01 で有意差が 生 じた .こ れよ り, 視聴 覚刺 激を ター ゲット に用 いる こと で, LD 児 の感 覚 統合 能カ を定 量的 に評 価で きる と考 えてい る. また ,健 常児 に比 ベLD 児 の指 示動 作の軌道は複雑であった.さらに,左右の手の使い分けの能カ に も劣 るこ とを確認した.なお,計測では右半面には右手,左半面には左 手 を使 うよ うに教示したが,視聴覚刺激時の左右の手の使い分けの成功率 は,鮭常児で95 .3 %,LD 児で58 .3 %だった.この結果は,LD 児の「運動が ぎ こち ない 」,「協調運動がうまくいかない」という特徴を反映している と 考え てい る. 以上 から 知覚 運動 協応 の特性 を尺 度と して LD 児 の定 量的 診断が行える可能性を示すことができた.

     第5 章では,本研究の結論と,今後の課題および展望について述べた.

(3)

学 位論文審査の要旨

副 査    助 教 授    高 橋    誠

学 位 論 文 題 名

学習障害児の定量的評価を目的とした知覚運動協応の研究

  飛 んでき たボー ルを受 け止め たり, 静止し ているボ ールを 蹴ったりというように,「対 象 物に対 して身 体を協 応的に 動かす運 動」が ある. これを 知覚運動協応という.このよう な日常的な動作でも,学習障害(Learning Disability: LD)児と呼ばれる子供達には多大な苦 労 を 伴 う ,LD児 は ,IQおよ び感覚器 は正常 レベル である にも関 わらず ,義務 教育を 受け る 上 で の 様々 な 障 害 を示 す.LDを 早い時 期に発 見する ことが できれ ば,適切 な指導 や治 療 に よ り ,障 害 を 軽 くす ること ができ る.し かしな がら,本 邦ではLDのため の診断 方法 は 確立さ れてお らず, 特に空 間認識お よび運 動企画 などの 非言語性の能カの評価は「動作 がぎこちない」など主観的な評価を行うしかない,

  本 研 究は , 以 上 の背 景を ふまえ た上で ,LD児の 非言語 性能カ の評価 および 訓練方 法を 構 築する ことを 最終目 標と定 め,その ために 知覚運 動協応 の特性およびプロセスを調ペ,

こ れ に よ りLD児 の 特 徴 を 定 量 的 に 評 価 で き る か を 検 討 し た も の で あ る .   学位論文の主な結果を以下に要約する.

  第1章 で は, 本 研 究 の背 景 , 特 に,LD児 の非 言 語性能 カの定 量的評 価基準 の必要 性に ついて触れている.

  第2章 で は ,LDお よ び 知 覚運 動 協 応 に関 す る 従 来の 研 究 に っい て 考 察 し, そ の 問 題 点,および本研究の指針について述べている,

  第3章 で は.LD児 の知 覚 運 動 協応 を 評 価 する た めの基 礎的知 見を得 るため に,成 人健 常 者を対 象とし た計測 を行っ た,知覚 運動脇 応の巾 でも注 祝迎動および指示迎動のニつの 動 作に蔚 日し, 視聴覚 刺激シ ステム, 注祝迎 動計測 システ ムおよび指示運動計測システム を構成した.被験者から半径0.5niの作業空I矧勺にあるI・J川上にターゲットを呈示レた結 果 , 視 界J問 辺部 に 呈 示 され た タ ー ゲッ ト に 対 して ,注観点 で5〜9°,指示 点で7〜8゜ に わたり 正而方 向にズ レると いう「川 辺部で のズレ 」を見 いだした,次に.正而に位職す る 注観点 を常に 注祝統けるよう被験黹に教示し,作業空間外の半径1.5niに配織したターゲ ツ 卜に対 する指 示点を舌I.測した.その鮎果,祝界周辺部における指示点のズレは約8゜減 少 し,正 而付近 のズレ は周辺 方向に約6゜坩加した.f1!業空川の内外では全体的に指示点 が 川辺部 にシフ トする という 「指示点 のシフ 卜Jを兄 いだし た,こ れらの 傾向が 指示迎 勁 に 岡杓. の現象 かどうかを調ぺるために,迎動特性に依存しないチャー卜板により知覚方向 を 計測し た.チ ャ一卜 板とは ,縦針盤 の様に 被験者 が知覚 した方向を針によって指し示す も のであ る.そ の結果 ,危険lCP>O.05で指示点とチャート板による応答に有意差が生じな い ことを 示し, 「周辺 部での ズレ」お よび「 指示点 のシフ ト」が指示運動に固有の現象で は ないこ とを導 いている.ー→方,注視点までの距離の変化により「指示点のシフト」が生

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達 夫

也 惇

   

   

部 澤

城 達

(4)

じる可能性が考えられ,夕ーゲットを半径1.5mの円周上に,注視点を被験者の正面0.5mの 位置に配置した条件下で実験を行った.その結果,注視点までの距離が変化しても指示点 は変化しないこと(P>O.05)を確認し,作業空間内外の特性を変える要因は一次視覚野以 降の処理過程にあると結諭している,

  以上の知覚運動協応の特性と神経生理学上の知見を基に考察した結果,「周辺部でのズ レ」および「指示点のシフト」は,ー次視覚野から空間の認識に関与していると報告され てい る 頭 頂連 合 野 に至 る プ 口セ ス に お いて 生 じ てい る と仮説を 導出し ている.

  第4章 では, 前章の結 果を踏 まえて,5〜8才ま での4人のLD児および3人の健常児 を対象とし,指示運動によるLD児の非言語性能カの定量的な評価を試みた.その結果,

視覚刺激に聴覚刺激を同時に呈示した場合,LD児と健常児の指示点に危険率P<O.Olで有 意差が生じることが明らかになった.この傾向はLD児の感覚統合能カの発達遅滞を反映 していると考えた.また,健常児に比ベLD児の指示動作の軌道は複雑であった.なお,

計測では右半面には右手,左半面には左手を使うように教示したが,視聴覚刺激時の左右 の手の使い分けの成功率は,健常児で95.3%,LD児で58.3%だった.この結果は,LD児の

「運動がぎこちない」,「協調運動がうまくいかない」という特徴を反映していると考察 し,知覚運動協応の特性を尺度とした非言語性能カの定量的評価の可能性を示している.

  第5章 で は ,本 研 究 の結 諭 と ,今 後 の 課 題お よ び 展望 に つ いて 述 べ てい る .   以上のように著者は,新たに開発した運動計測装置により知覚運動協応の特性を明らか にし,更にその装置により学習障害児の非言語性の能カを定量的に評価しうる可能性を見 いだしたことから,生体工学とくにりハビリテーション工学の進歩に寄与するところ大で ある,

  よって,著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める.

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参照

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